【解決手段】配管により接続された送液ポンプ2、試料注入部3及び分離カラム6と、試料注入部3と分離カラム6の間の配管を加熱する加熱部4と、加熱部4と分離カラム6の間に設けられ、加熱部4により加熱される配管の内部圧力を調節する圧力調節部5と、を有する。
前記冷却部は、溶出用溶媒により前記分離カラムに吸着した試料を溶出する際に、前記加熱部により加熱された配管を前記溶出用溶媒の沸点以下の温度に冷却する、請求項3記載の試料断片化装置。
前記圧力調節部は流路切替バルブとコンダクタンス調節部を備え、前記流路切替バルブは前記加熱部に接続される流路を前記分離カラムと前記コンダクタンス調節部との間で切り替える、請求項1記載の試料断片化装置。
前記加熱部を備える配管を複数有し、前記流路切替バルブは前記複数の加熱部に接続される流路を前記分離カラムと前記コンダクタンス調節部に順次切り替える、請求項5記載の試料断片化装置。
前記圧力調節部は流路切替バルブとコンダクタンス調節部を備え、前記流路切替バルブは前記分離カラムに接続される流路を前記加熱部を通る流路と前記加熱部を通らない流路との間で切り替える、請求項1記載の試料断片化装置。
前記圧力調節部は、溶出用溶媒により前記分離カラムに吸着した試料を溶出する際に、前記加熱部により加熱された配管の内部圧力を増加させて前記溶出用溶媒の沸騰を防止する、請求項1記載の試料断片化装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
[実施例1]
図1は、実施例1の試料断片化装置の構成例を示す模式図である。本実施例では、試料断片化装置の流路系内で、加熱配管と分離カラムの間に圧力調節部を有する構成について説明する。ここでは、検出器に質量分析計を用いた例を示す。
【0014】
試料断片化装置1は、送液ポンプ2、試料注入部3、加熱部4、圧力調節部5、分離カラム6、検出器52を有し、これらは配管により接続されている。試料注入部3から導入された試料は送液ポンプ2によって分離カラム6の内部に通され、分離カラム6で分離された試料は検出器52で分析される。本実施例の検出器52はイオン源7と質量分析計8で構成され、イオン源7によって試料をイオン化し、生成したイオン11を質量分析計8で検出し、イオンの質量を分析する。分離カラム6に充填された充填剤による液体クロマトグラフィーにより試料が時間的に分離され、その後、イオン11を質量分析することで、夾雑物の除去や高精度かつ高S/N分析が可能となる。液体クロマトグラフィーでは、分離カラム6の充填剤を固定相と呼び、分離カラム6の中に流す溶液を移動相と呼ぶのが一般的である。移動相に含まれた試料と固定相の疎水性相互作用の違いにより、試料を分離することができる。
【0015】
液体クロマトグラフィーの方式の中から、逆相クロマトグラフィーという方式を例に、試料分離の原理について説明する。逆相クロマトグラフィーでは、移動相の方が固定相より極性が高いことが特徴である。例を挙げると、移動相には水、メタノール、アセトニトリルなどの高極性溶媒が用いられ、固定相にはシリカにオクタデシル基を化学結合した疎水性の充填剤(ODS又はC18と呼ぶ)などが使用される。ODSなどの疎水性固定相への試料の吸着は主に水など溶出力が弱い溶液から成る移動相を送液することで行い、固定相からの試料の溶出は主に有機溶媒など溶出力が強い溶液から成る移動相を送液することで行う。また、溶出時に溶出力の高い有機溶媒の濃度を徐々に変化させることで、高極性の試料成分から先に溶出させるグラジエント分析という手法もある。これら吸着や溶出の工程における試料内成分の疎水性相互作用により、成分ごとに分離カラムでの保持時間が異なるため、試料を時間的に分離することが可能になる。
【0016】
図1に示した試料断片化装置1は、試料注入部3と分離カラム6の間に加熱部4で加熱される加熱配管10を有し、さらに、加熱部4と分離カラム6の間に圧力調節部5を有することが特徴である。
【0017】
また、試料断片化装置1は制御部9を有しており、制御部9では質量分析計8で得られた結果の分析や解析が行われる。実際には、検出したイオンの質量を元に、試料構造の同定や試料内の成分量の定量などを行う。また制御部9は、送液ポンプ2、試料注入部3、加熱部4、圧力調節部5、イオン源7、質量分析計8の動作制御や条件設定なども行っている。また制御部9は、分析に使用した分離カラム6の特性データを保存する機能などを有することも可能である。分離カラム6の特性データを有することで、分離カラム6の保持時間や送液圧力の条件を次回分析やデータ解析に反映することができる。
【0018】
図2は、加熱部4の構造例を示す断面模式図である。加熱配管10の周りに加熱ブロック54が配置されている。加熱ブロック54はヒータ55で加熱され、熱電対56で温度測定される。制御部9で、熱電対56の測定温度を元にヒータ55の出力を制御することで、加熱ブロック54の温度制御が可能となる。なお、加熱ブロック54以外にも、温度調節した液体の中に加熱配管10を通したウォータージャケットのような構成や、加熱配管10の周囲に直接電熱線を巻き付ける構成など、加熱配管10に温度を伝えられる手段であれば、同様の効果を得ることが可能である。ヒータ55には、カートリッジヒータやプレート状ヒータなど、様々なヒータを用いることが可能である。また、温度測定には、熱電対以外に測温抵抗体などを用いることも可能である。
【0019】
イオン源7には、エレクトロスプレーイオン化方式(ESI)、大気圧化学イオン化方式(APCI)など、様々な方式のイオン源を用いることが可能である。
【0020】
質量分析計8には、三連四重極質量分析計(QqQ)、飛行時間型質量分析計(TOF)など、様々な方式の質量分析計を用いることができる。
【0021】
図1に示した試料断片化装置1においては、送液ポンプ2により、高密度な充填剤が充填された分離カラム6の中に移動相を通過させるため、分離カラム6の上流側は高圧となる。高圧下では液体の沸点が上昇するので、大気圧下での沸点温度(水の場合100℃)でも沸騰しない。つまり、分離カラム6の上流側の移動相の沸点が上昇する。溶液の蒸気圧は式1で示される。
【0023】
式1はアントワンの式といい、Pは蒸気圧(mmHg)、Tは温度(℃)、A,B,Cはアントワン定数である。ここで、液体クロマトグラフ質量分析計で一般的に使用されることが多い移動相として、0.1%酢酸水と0.1%酢酸入りメタノールを例に説明する。アントワン定数A,B,Cは物質に依存し、水ではA=8.028、B=1706、C=231.4であり、メタノールではA=8.079、B=1581、C=239.7であり、酢酸ではA=7.560、B=1644、C=233.5である。混合溶液の蒸気圧は式2で示される。
【0025】
式2はラウールの法則により成り立ち、P
Totalは混合溶液の蒸気圧、P
iは各成分の純液体での蒸気圧、x
iはモル分率である。
図3は、式1と式2から得られた、0.1%酢酸水と0.1%酢酸入りメタノールの、圧力と沸点の関係を示す図である。0.1%酢酸水の理論値を実線で示し、0.1%酢酸入りメタノールの理論値を破線で示している。
図3から、溶液の圧力を高くすることで沸点が上昇することが理解できる。
【0026】
従って、本実施例では加熱配管10を大気圧下での移動相の沸点以上の温度に加熱しても沸騰しない。つまり、沸騰による気化が起きず水分がなくならないため、大気圧下での移動相の沸点以上の高温下でも、タンパク質などの試料の加水分解が可能な条件になりうる。加水分解が可能になることで、再現性の高い試料の断片化が実現できる。また、
図1に示した装置構成では分離カラム6の下流側は大気圧下になるので、質量分析計8のイオン導入口を小さくしなくても質量分析計8の内部圧力を最適値に維持でき、イオン導入量の低下がない。
【0027】
図4は、2種類の分離カラムに、水100%を流したときの流量と分離カラムの上流側の圧力の関係の実験結果を示した図である。カラムAの実験値を四角マーカーで示し、カラムBの実験値をバツ印マーカーで示している。カラムAとカラムBは、各々、長さや充填剤の粒径などの違いでコンダクタンスが異なる。従って、同じ流量の水を流しても、
図4のように上流側の圧力が大幅に異なる。例えば、加熱配管10の内径を0.5mmとし、長さを0.85mとした場合、分解に十分な加熱時間が30秒程度と仮定すると、0.4mL/min程度の流量にする必要がある。0.4mL/minの流量条件ではカラムAとカラムBの上流側圧力は、各々、30MPaと2.5MPa程度になる。試料により温度条件を250℃程度まで上げることがあると想定すると、
図4の結果に対して余裕を見て5MPa以上に設定した場合、
図3と
図4からカラムBでは0.8mL/minの流量が必要となり、加熱配管10の通過時間が10秒程度になってしまい加熱が不十分になる。加熱配管10の内径を太くしたり加熱配管10を長くしたりすることで、溶液の滞在時間を長くすることも可能であるが、吸着などの問題が生じてくる。
【0028】
従って、
図1に示すようなバルブなどの圧力調節部5を流路に設置し、カラムBのような分離カラム6を使用したときでも、加熱配管10の内部の圧力を十分に高くすることが必須となる。使用する分離カラム6に応じて流路のコンダクタンスを可変に調節することで、加熱配管10の内部の圧力を最適(加水分解可能条件)に保つことができる。なお、圧力調節部5にはニードルバルブなどのバルブ類や分離カラムやキャピラリーなど流路抵抗の高い配管上の部材などを用いることができる。
【0029】
[実施例2]
図5は、実施例2による試料断片化装置の構成例を示す模式図である。本実施例では、試料断片化装置の流路系内で、加熱部4と分離カラム6の間に冷却部18を有する構成について説明する。
【0030】
図1に示した装置構成で、加熱配管10で加熱された移動相をそのまま分離カラム6に導入するのは、分離カラム内の充填剤に悪影響を与えるだけでなく、分離カラム6の出口で大気圧に開放された瞬間に一気に沸騰してしまい、その後のイオン化の安定化に悪影響を与える恐れもある。従って、
図5のように加熱部4で加熱される加熱配管10の下流側の配管57を冷却する冷却部18があることが望ましい。
【0031】
図6は、冷却部18の構造例を示す断面模式図である。冷却部18は、配管57の周りに水などの液体58を満たすことが可能な容器59を有している。容器59の中に冷却用の液体58を循環させるための入口60と出口61を有することで、ウォータージャケットのように配管57を冷却する。液体58の温度は熱電対62で測定される。また、液体58の温度が下がりすぎるのを防ぐために、ヒータ63を配置しても良い。制御部9で、熱電対62による測定温度を元にヒータ63の出力を制御することで、液体58の温度制御が可能となる。なお、図示した構造以外にも、冷却ブロック、ペルチェ素子、ファンなど配管57を冷却できる手段であれば、他の手段を用いても同様の効果を得ることが可能である。ヒータ63には、カートリッジヒータやプレート状ヒータなど、様々なヒータを用いることが可能である。また、温度測定には、熱電対以外に測温抵抗体などを用いることも可能である。
【0032】
液体クロマトグラフィーでは、分離カラムを室温から数十度の温度範囲で使用するのが一般的であるので、冷却部18の設定温度も、室温から数十度に設定することが望ましい。但し、分離カラムの設定温度は、分析用途や測定対象により異なることがあるので、各種分析に応じて冷却部18の設定温度を変更することも可能である。
【0033】
次に、
図5に示した試料断片化装置を用いて実際にタンパク質を分解により断片化した結果について説明する。
【0034】
図7は、サブスタンスP(分子量1347)の分析結果を示す図である。
図7(A)はサブスタンスPの分解前のマススペクトルを示し、
図7(B)はサブスタンスPの分解後のマススペクトルを示している。
図7(A)は加熱配管10を80℃に温度調節したときの分析結果であり、
図7(B)は220℃に温度調節したときの分析結果である。実験条件は、分離カラム6の上流側圧力が3.5MPa、加熱配管10の移動相通過時間が30秒である。また、分離カラム6への試料吸着時は移動相に0.1%酢酸水を用い、試料溶出時には0.1%酢酸入りメタノールを用いた。本実施例の試料断片化装置を用いることにより、サブスタンスP由来のy6とy7のフラグメントイオンが検出できた。加熱による分解部位はサブスタンスPのアミノ酸配列21に示した。
【0035】
図8は、ユビキチン(分子量8560)の分析結果を示す図である。
図8(A)はユビキチンの分解前のマススペクトルを示し、
図8(B)はユビキチンの分解後のマススペクトルを示している。
図8(A)は加熱配管10を80℃に温度調節したときの分析結果であり、
図8(B)は180℃に温度調節したときの分析結果である。実験条件は、分離カラム6の上流側圧力が1.6MPa、加熱配管10の移動相通過時間が30秒である。また、分離カラム6への試料吸着時は移動相に0.1%酢酸水を用い、試料溶出時には0.1%酢酸入りメタノールを用いた。本実施例の試料断片化装置を用いることにより、ユビキチン由来のy18とy24とy37のフラグメントイオンが検出できた。加熱による分解部位はユビキチンのアミノ酸配列24に示した。
【0036】
図9は、構造式を用いてタンパク質の加水分解を説明した図である。加水分解前のタンパク質64は、水(H
2O)を取り込むことで、ペプチド結合部が切れて、加水分解後のタンパク質65のように分解される。ペプチド結合部が切れて生成する断片由来のy系列イオンが、サブスタンスPとユビキチンの何れの分析結果でも検出されているので、本実施例により、短時間での加水分解が可能であることが分かった。
【0037】
これらの結果から、本実施例により再現性の高い加水分解が起こり、特定のアミノ酸配列を切断できることがわかった。また、加熱部4により加熱される加熱配管10の下流側に冷却部18を有することで、安定した分析が可能となった。
【0038】
[実施例3]
図10は、実施例3の試料断片化装置1の構成例を示す模式図である。本実施例では、試料断片化装置の流路系内で、加熱部4と分離カラム6の間の流路を分岐し、圧力調節を行う構成について説明する。
【0039】
図10に示した装置構成は
図1や
図5とほぼ同様であるので、相違点のみについて説明する。
図10の構成は、圧力調節部5に流路切替バルブ25と流路コンダクタンス調節部26を有することが特徴である。分離カラム6の手前に流路切替バルブ25を設置することで、加熱部4の後段に接続される流路を分離カラム6側あるいはコンダクタンス調節部26側に切替えることができる。
図4に示したコンダクタンスの異なるカラムを使用する時のように、加熱配管10の内部圧力を変更する必要がある場合、
図11に示したタイムシーケンスのように制御することが可能になる。領域A(加熱配管10の内部)を試料が通過するタイミングでは、流路切替バルブ25はコンダクタンス調節部26側のポートを開状態にし、矢印31の方向に移動相を流す。このとき、コンダクタンス調節部26により加熱配管10の内部圧力を調節することで、タンパク質などの加水分解に最適な条件に設定できる。矢印31方向に流れた移動相は、コンダクタンス調節部26を通過し、廃棄部27へ廃棄される。
【0040】
その後、試料が領域B(加熱配管10と圧力調節部5の間の流路)を通過するタイミングでは、流路切替バルブ25は分離カラム6側のポートを開状態にし、矢印30の方向に移動相を流す。矢印30の方向に流れる移動相の中には、加水分解で断片化されたタンパク質などの試料成分が含まれており、これら試料成分は分離カラム6の固定相に吸着される。吸着した試料成分は、その後の溶出工程で溶出され、イオン源7でイオン化され、生成したイオン11は質量分析計8で検出される。
【0041】
このように送液ポンプ2で試料を送り始めてからの経過時間に依存して加熱部4に接続される流路、すなわち流路切替バルブ25の開ポートを分離カラム6とコンダクタンス調整部26との間に切り替えることにより、領域A(加熱配管10の内部)を試料が通過するタイミングのみ、加水分解に最適な圧力条件に制御することが可能となる。この方式により、加熱配管10で加水分解を行う時の圧力は分離カラム6にはかからないため、分離カラム6に対して試料分離に必要な圧力以外の不要な圧力がかからない。そのため、分離カラム6の寿命が長くなる。
【0042】
[実施例4]
実施例4では、試料断片化装置の流路系内で、加熱配管と分離カラムの間の流路を切替えて、吸着と溶出の工程で異なる流路から移動相を供給する構成について説明する。
【0043】
図12は、液体クロマトグラフィーで用いられる実験条件の一例を示す図である。
図12に示した実験条件は、吸着工程では移動相A(0.1%酢酸水)を100%流し、溶出工程では移動相B(0.1%酢酸入りメタノール)を100%流し、洗浄工程では移動相Aを100%流す。分析対象となる試料や分離カラムの種類により、移動相Aと移動相Bの比率は適宜変更されるのが一般的である。また、使用する溶媒も同様に、用途によりアセトニトリルなどの別の溶媒を使用したり、酢酸の他、蟻酸など別の物質を添加したりすることもある。
【0044】
次に、
図12に示した実験条件の例のように、0.1%酢酸入りメタノールで分離カラム6から試料を溶出する際の問題について説明する。
図3に示した通り、0.1%酢酸水と0.1%酢酸入りメタノールでは、同一圧力条件において大幅に沸点が異なる。例えば、0.8MPaでは各々の沸点は170℃と130℃程度であることが
図3から分かる。これは、同一の圧力と温度条件で、吸着工程と溶出工程を行った場合、
図12の実験条件では、移動相Bを使用する溶出工程の方が沸騰しやすいということになる。本実施例による加水分解は分離カラム6への吸着工程の前に起こるので、吸着工程までの移動相の沸騰防止は必須である。一方、溶出工程についての必要性について、以下説明する。
【0045】
図5に示した装置構成で、メタノール溶媒で溶解したレセルピン(濃度1ppb)の試料を、連続送液(インフュージョン)で分離カラム6に100μL/minで送液し、イオン源7(ESI方式)でイオン化し、生成したイオン11を質量分析計8で分析した。分析結果を
図13に示す。使用した質量分析計8は三連四重極質量分析計(QqQ)であり、マルチリアクションモニタリング(MRM)モードを使用した。
図13は、MRMの設定をm/z609→m/z195とした時の実験結果であり、
図13(A)は加熱配管10の温度が室温のときの実験結果、
図13(B)は90℃のときの実験結果、
図13(C)は100℃のときの実験結果を示している。
【0046】
図13(A)(室温)、
図13(B)(90℃)では時間経過に対し安定したイオン強度(変動係数CV=数%以下)を示すが、
図13(C)(100℃)ではイオン強度の変動が非常に大きい。これはメタノール溶液が沸騰しているのが原因であり、
図5の構成で同一の圧力と温度条件で吸着工程と溶出工程を行うことは、測定の安定性を損なう可能性がある。
【0047】
この問題は、試料断片化装置を例えば
図14に示すような構成とすることで解決できる。
図14に示した試料断片化装置1の構成は
図1や
図5とほぼ同様であるので、相違点のみについて説明する。
図14の構成は、圧力調節部5に流路切替バルブ25とコンダクタンス調節部26を有することが特徴であり、流路切替バルブ25により、吸着と溶出の工程で異なる流路から移動相を供給する。すなわち、流路切替バルブ25は、分離カラム6の流入側に接続される流路を加熱部4を通る流路と加熱部4を通らない流路との間で切り替える。
【0048】
図15のタイムシーケンスに示すように、吸着工程では移動相Aが矢印37の方向から加熱部4を経て分離カラム6側へ流れるように流路切替バルブ25を制御し、溶出工程では移動相Bが矢印38の方向から加熱部4を通らずに分離カラム6側へ流れるように流路切替バルブ25を制御する。このように送液ポンプ2で試料を送り始めてからの経過時間に依存して流路切替バルブ25を切り替え制御することにより、沸点の低い移動相Bを加熱されていない流路から導入できるので、溶出時の動作不安定を防止できる。
【0049】
なお、
図14には流路切替バルブ25がコンダクタンス調節部26の前段にある構成を示したが、流路切替バルブ25はコンダクタンス調節部26の後段にあっても同様の効果が得られる。
【0050】
[実施例5]
図16は、実施例5の試料断片化装置1の構成例を示す模式図である。本実施例では、試料断片化装置の流路系内で、加熱配管を冷却する冷却部を有する構成について説明する。
【0051】
図16の装置構成は
図1や
図5とほぼ同様であるので、相違点のみについて説明する。
図16に示した構成は、加熱部4に加熱配管10を冷却する冷却部40を併設したことが特徴である。
【0052】
図17は、加熱部4に冷却部40を併設した構造例を示す断面模式図である。加熱部4の加熱機構に関しては
図2とほぼ同様なので説明を省略する。加熱ブロック54を急冷し、加熱ブロック54によって加熱された加熱配管10を冷却するために、ペルチェ素子67を配置した。ペルチェ素子67を放熱するためにヒートシンク68とファン69を設けるのが好ましい。なお、ペルチェ素子67以外にも、ウォータージャケットのような構成や、冷却ファンで直接冷却する構成など、加熱配管10を冷却できる構成であれば、他の構成を用いても同様の効果を得ることが可能である。
【0053】
本実施例によっても実施例4と同様の効果を得ることができる。
図18のタイムシーケンスに示すように、分離カラムに試料を吸着させる吸着工程と分離カラムに吸着した試料を溶出用溶媒により溶出させる溶出工程の間に、加熱部4によって加熱された加熱配管10の温度を冷却部40により溶出用溶媒の沸点以下の温度に急冷することで、溶出工程で移動相(溶出用溶媒)が沸騰することを防止できる。
【0054】
[実施例6]
実施例6では、試料断片化装置の流路系内で、吸着と溶出の工程の間に、圧力調節部により加熱配管圧力を制御する構成について説明する。装置構成については、これまで述べてきた実施例の全てにおいて適用可能であるので、本実施例の特徴のみを説明する。
【0055】
図19は、本実施例のタイムシーケンスを示す図である。移動相Aによる分離カラムへの試料の吸着工程が終了し、移動相Aよりも沸点が低い溶出用溶媒、すなわち移動相Bによって分離カラムに吸着した試料を溶出させる溶出工程を開始する前に、制御部9により圧力調節部5を制御して加熱配管10の内部圧力を上昇させる。
【0056】
本実施例によっても実施例4や実施例5と同様の効果を得ることができる。
図19のタイムシーケンスに示すように、吸着工程と溶出工程の間に加熱配管10の内部圧力を圧力調節部5により増加することで、溶出工程での移動相の沸点を上昇させ、移動相が沸騰することを防止できる。
【0057】
[実施例7]
図20、
図21は、実施例7の試料断片化装置1の構成例を示す模式図である。本実施例では、試料断片化装置の流路系内に複数の加熱配管を設け、加水分解による試料の断片化を並列で行う構成例について説明する。
【0058】
本実施例の動作原理は
図10に示した動作原理とほぼ同様であるので、相違点のみについて説明する。本実施例の構成は、圧力調節部5に六方バルブ45とコンダクタンス調節部26を有することが特徴である。
図20と
図21は、六方バルブ45を切替えたときの各々の流路の接続状態を表している。六方バルブ45は、流路を切替えるという機能面では
図10の流路切替バルブ25と同様であるが、六方バルブ45を使用することで、複数の加熱配管(加熱配管A43と加熱配管B44)に対応可能になる。
【0059】
図20と
図21及び
図22のタイムシーケンスを用いて、本実施例の動作について説明する。
【0060】
2系列の加熱配管Aと加熱配管Bには、各々、送液ポンプ2と試料注入部3により試料が導入される。
図20は、六方バルブ45によって加熱配管Aが分離カラム6側に接続され、加熱配管A側の移動相が矢印Aのように流れる状態を示している。一方、加熱配管Bは六方バルブ45によってコンダクタンス調節部26側に接続され、加熱配管B側の移動相は矢印Bのように流れる。この時、コンダクタンス調節部26によって加熱配管Bは最適な圧力条件に制御され、圧力制御された加熱部の加熱配管Bで試料の加水分解が行われる。
【0061】
試料が加熱配管Bを過ぎた後に、六方バルブ45を切替える。六方バルブ45の切替えにより、
図21のように加熱配管Bは分離カラム6側に接続され、加熱配管B側の移動相は矢印Aのように分離カラム6に流れる。一方、今度は加熱配管Aがコンダクタンス調節部26側に接続され、加熱配管A側の移動相は矢印Bのように流れる。この時、コンダクタンス調節部26によって加熱配管Aは最適な圧力条件に制御され、圧力制御された加熱部の加熱配管Aで試料の加水分解が行われる。
【0062】
つまり、試料が加熱配管Aを通過しているときは加熱配管Aからの移動相は矢印Bのようにコンダクタンス調節部26へ流れ、加熱配管Bからの移動相は矢印Aのように分離カラム6へ流れる。一方、試料が加熱配管Bを通過しているときは加熱配管Bからの移動相矢印Bのようにコンダクタンス調節部26へ流れ、加熱配管Aからの移動相は矢印Aのように分離カラム6へ流れる(
図22)。この六方バルブ45によって複数の加熱部4に接続される流路を分離カラム6とコンダクタンス調節部26に順次切り替える操作により、試料の断片化処理を複数の加熱配管によって並列的に行うことが可能となる。
【0063】
なお、本実施例では複数の送液ポンプ2と複数の試料注入部3を用いる例で説明したが、1つの送液ポンプ2と1つの試料注入部3を複数の流路系統で共用し、試料注入部から流路を分岐して、加熱配管Aと加熱配管Bに試料を導入するようにしても良い。
【0064】
[実施例8]
図23は、実施例8の試料断片化装置1の構成例を示す模式図である。本実施例では、試料断片化装置の流路系内で、分離カラムの前にフィルタを有する構成について説明する。
【0065】
図23の装置構成は
図1とほぼ同様であるので、相違点のみについて説明する。
図23の構成は、分離カラム6の前にフィルタ51を設けたことが特徴である。
【0066】
タンパク質やペプチドの断片化においては、変性により不溶性物質が生成される場合がある。不溶性物質は移動相に溶解されにくいため、分離カラム6の充填剤を通過できずに目詰まりを起こす恐れがある。分離カラム6の目詰まりは流路圧力を異常に上昇させるだけでなく、分離カラム6の寿命を早めてしまう恐れもある。
【0067】
本実施例では、フィルタ51を分離カラム6の前段に配置することで、加熱配管10で生成する可能性がある不溶性物質が分離カラム6に導入されるのを抑止できる。フィルタ51には、ガードカラムやプレカラムフィルタなどを用いることができる。また、フィルタ51は、圧力調節部5やコンダクタンス調節部26と兼用することも可能である。
【0068】
[実施例9]
図24は、実施例9の試料断片化装置1の構成例を示す模式図である。本実施例では、試料断片化装置において、検出器に紫外可視光検出器を用いた構成について説明する。
【0069】
図24の構成は
図1とほぼ同様であるので、相違点のみについて説明する。
図24の構成は、検出器に紫外可視光検出器53を用いていることが特徴である。
【0070】
紫外可視光検出器53を使用することで、質量分析方式での分析においてイオンサプレッションが大きい試料やイオン化効率が低い試料などにも対応可能である。
【0071】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、検出器には、質量分析方式や紫外可視光検出方式の他、フォトダイオードアレイ検出器、蛍光検出器など、様々な検出方式を用いることが可能である。