【解決手段】気体分離フィルタは、多孔質支持層と、多孔質支持層の上に形成された前記多孔質支持層よりも細孔径が小さい中間層と、中間層の上に形成された中間層よりも細孔径が小さい分離層とを備え、混合ガスから所定のガスを分離する気体分離膜であり、中間層が疎水性基を有する多孔体である。
多孔質支持層と、前記多孔質支持層の上に形成された前記多孔質支持層よりも細孔径が小さい中間層と、前記中間層の上に形成された前記中間層よりも細孔径が小さい分離層とを備え、混合ガスから所定のガスを分離する気体分離フィルタであって、
前記中間層が疎水性基を有する多孔体である、
ことを特徴とする気体分離フィルタ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態に係る気体分離フィルタは、
図1に示すように、支持層(support layer)と、中間層(medium layer)と、分離層(top layer)を備える。支持層、中間層、分離層の順に配置されており、分離層が分子径の異なる気体が混合する混合気体から、分子径の小さい気体を透過させるとともに、分子径の大きい気体の透過を阻害して分離する機能を有する。
【0017】
この気体分離フィルタは、以下のようにして製造される。
【0018】
支持層は、多孔質の無機多孔体、有機多孔体のいずれでもよい。支持層の細孔径及び空隙率は、気体の透過性を損なわないよう大きいことが好ましく、例えば、平均細孔径が0.05μm〜10μm程度、より好ましくは、0.1μm〜5μmである。
【0019】
支持層として、例えば、アルミナ(α−Al
2O
3(α−アルミナ)、γ−Al
2O
3(γ−アルミナ))、ムライト、ジルコニア、チタニア、或いはこれらの複合物からなるセラミックスが挙げられる。
【0020】
これらの支持層の表面を均質化して、中間層を形成することが好ましい。均質化に用いる素材には、支持層と同素材の微粒子を用いるとよく、例えば、支持層としてアルミナを用いる場合、これと同素材のアルミナ微粒子を支持層表面に担持させて均質化を行えばよい。支持層上へのアルミナ微粒子の担持は、バインダーにアルミナ微粒子を分散させ、これを支持層表面に塗布、乾燥、焼成することにより行える。バインダーとしては、後述する中間層形成用のゾルなどを用いればよい。
【0021】
この支持層の上に、中間層を形成する。疎水性基を有する多孔体(細孔径2−50nm)からなる中間層が形成できればよい。疎水性基として、アルキル基、フェニル基、フッ素官能基などが挙げられる。例えば、中間層の形成は、疎水性ゾルの塗布、焼成により形成することができる。疎水性ゾルとして、例えば、テトラエトキシシラン(Tetraethoxysilane:TEOS)とメチルトリメトキシシラン(Methyltrimethoxysilane:MTMS)を溶媒中で縮合させたポリマーゾルが挙げられる。なお、TEOSとMTMSの配合比率は任意でよく、好ましくは1:1である。
【0022】
疎水性ゾルを支持層の上に塗布した後、焼成することにより、中間層を形成することができる。支持層上への疎水性ゾルの塗布は、スピンコート法や、ホットコーティング法など、種々の方法により行えばよい。ホットコーティング法で行う場合、具体的には、支持層を予め高温(170〜180℃)に加熱しておき、これに疎水性ゾルを不織布等で塗布する。なお、上記の疎水性ゾルの塗布、焼成は複数回(例えば、2−5回)行ってもよい。
【0023】
また、親水性ゾルを用いて中間層を形成した後、この中間層を疎水化処理し、疎水性多孔体にしてもよい。
【0024】
疎水化処理として、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法による処理が挙げられる。親水性ゾルとして、例えば、SiO
2−ZrO
2ゾルを用い、上記と同様にして中間層を形成する。その後、改質剤としてトリメチルクロロシラン(TMCS)等を用い、CVD処理を行う。SiO
2−ZrO
2のシラノール基(−SiOH)とTMCSをシランカップリングさせることにより、中間層の疎水化処理を行うことができる。
【0025】
中間層を形成した後、中間層の上に分離層を形成する。分離層は、中間層の細孔径よりも小さい細孔径(例えば、0.1〜1nm)を有する多孔体である。分離層は、分子径の異なる気体が混合する混合気体から、分子径の小さい気体を透過させるとともに、分子径の大きい気体の透過を阻害して分離する機能を有する層である。この分離機能を果たし得るかぎり、どのような多孔体が形成されていてもよい。
【0026】
分離層の形成の例として、例えば、(RO)
3SiXSi(OR)
3で表される化合物の加水分解、脱水縮合により得られるポリマーゾルを中間層上に塗布し、焼成(例えば、100℃〜400℃)する例が挙げられる。なお、上記化合物のRは、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、Xは、1つ以上の水素が置換されていてもよい直鎖状飽和炭化水素鎖または直鎖状不飽和炭化水素鎖を表す。上記化合物の具体例として、ビストリエトキシシリルエタン、ビストリエトキシリルブタン、ビストリエトキシリルオクタン、ビストリエトキシリルエチレン、ビストリエトキシリルアセチレン等が挙げられる。
【0027】
以上のようにして、支持層、中間層、分離層の3層構造である気体分離フィルタが得られる。
【0028】
また、分離層を形成する前に、中間層の表面のプラズマ処理(水プラズマ処理:反応空間に水蒸気を導入し、プラズマを生成させて行う表面処理)を行うことが好ましい。中間層をプラズマ処理することで、表面改質され、化学的結合力の高い表面状態にすることができる。具体的には、水プラズマ処理することにより、中間層の表面の疎水性基(例えば、メチル基)を親水性基(例えば、水酸基)にする。これにより、中間層上に形成される分離層との結合を強固にすることができる。具体的には、中間層と分離層における水酸基同士の結合(脱水縮合)により、中間層と分離層との結合が強固になる。
【0029】
これにより、中間層上に分離層形成用のポリマーゾルの塗布、焼成が行いやすくなるとともに、得られる気体分離フィルタの耐久性等の向上が実現できる。なお、プラズマ処理は、中間層の表面の疎水性基(メチル基)を親水性基(水酸基)にできる程度であればよい。
【0030】
このようにして製造される気体分離フィルタは、中間層が疎水性基を有し、疎水性であるため、水蒸気が存在してもその細孔に水分子の付着、凝縮が生じにくい。すなわち、中間層の細孔が水分子で閉塞され難いため、気体分離フィルタは、水蒸気を含有する混合ガスの分離において好適に利用可能である。例えば、燃焼ガスからN
2とCO
2へ分離する際、CO
2の透過率が低下し難いため、特に有効である。
【実施例1】
【0031】
実施例1では、気体分離フィルタにおける疎水性の中間層について、その特性を検証した。
【0032】
まず、以下のように、メチルシリカゾル、シリカ−ジルコニアゾル、BTESEゾル、BTESOゾルをそれぞれ調製した。
【0033】
(メチルシリカゾル(Me−SiO
2ゾル)の調製)
TEOS(Tetraethoxysilane)及びMTMS(Methyltrimethoxysilane)をエタノールに溶解し、これを水に加えた。そして、これにアルカリ性触媒としてアンモニアを加え、メチルシリカゾルを調製した。なお、TEOS:MTMSの配合比率は1:1で行った。
【0034】
(SiO
2−ZrO
2ゾルの調製)
TEOS及びZrTB(Zirconium tetra-n-butoxide)を水に加え、触媒としてHClを加えた。100℃、10時間加熱してSiO
2−ZrO
2ゾルを調製した。
【0035】
(BTESEゾル、BTESOゾルの調製)
エタノールにBTESE(bis(triethoxysilyl)ethane)を溶解させ、25℃、攪拌条件下で、水及び触媒としてHClを加え、BTESEゾルを調製した。また、BTESEに代わりにBTESO(bis(triethoxysilyl)octane)を用いたほか、上記と同様にしてBTESOゾルを調製した。
【0036】
(各膜の製膜及び接触角の測定)
Me−SiO
2ゾル、SiO
2−ZrO
2ゾル、BTESEゾル、BTESOゾルを用い、以下のようにして、製膜を行い、その接触角を測定した。
【0037】
シリコンウエハを1時間、550℃で加熱し、表面に薄いSiO
2膜を形成させた。このシリコンウエハにMe−SiO
2ゾル(1wt%)を室温でスピンコート法(スピン条件:5秒間で5000rpmまで回転速度を高め、その回転数で25秒間維持)により塗布した。そして、窒素雰囲気下、400℃で15分間の焼成を行い、シリコンウエハ上にMe−SiO
2層を形成した。以下、これをMe−SiO
2/Siと記す。
【0038】
また、Me−SiO
2ゾルの代わりにSiO
2−ZrO
2ゾル(1wt%)を用い、上記と同様にシリコンウエハ上に塗布した。そして、空気雰囲気下、550℃で15分間の焼成を行い、シリコンウエハ上にSiO
2−ZrO
2層を形成した。以下、これをSiO
2−ZrO
2/Siと記す。
【0039】
また、Me−SiO
2ゾルの代わりにBTESEゾル(1wt%)、又は、BTESOゾル(1wt%)を用い、上記と同様にシリコンウエハ上に塗布した。そして、窒素雰囲気下、300℃で30分間の焼成を行い、シリコンウエハ上にBTESE層、及び、BTESO層を形成した。以下、これをBTESE/Si、BTESO/Siとそれぞれ記す。
【0040】
更に、Me−SiO
2/Si及びSiO
2−ZrO
2/Siの上に、BTESEゾル、BTESOゾルを塗布、焼成した。それぞれBTESE/Me−SiO
2/Si、BTESE/SiO
2−ZrO
2/Si、BTESO/Me−SiO
2/Si、BTESO/SiO
2−ZrO
2/Siと記す。
【0041】
作成した8つの膜(Me−SiO
2/Si、SiO
2−ZrO
2/Si、BTESE/Si、BTESO/Si、BTESE/Me−SiO
2/Si、BTESE/SiO
2−ZrO
2/Si、BTESO/Me−SiO
2/Si、BTESO/SiO
2−ZrO
2/Si)について、接触角を測定した。接触角の測定は、接触角計(DropMaster DM300, KYOWA INTERFACE SCIENCE, Co., Ltd.)を用いて行った。また、表面形態は、電界放射型の走査型電子顕微鏡(FE−SEM,S−4800,株式会社日立ハイテクノロジーズ)により評価した。その結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
Me−SiO
2/Siでは、接触角が120°と最も大きく、疎水性が最も高いことが示された。一方、SiO
2−ZrO
2/Siでは、接触角は0°であり、親水性であることがわかる。
【0044】
また、BTESE/SiとBTESO/Siを比べると、アルキル鎖が長いことからBTESO/Siの方がBTESE/Siよりも高い疎水性を示しており、BTESE/Me−SiO
2/Si、BTESE/SiO
2−ZrO
2/Si、BTESO/Me−SiO
2/Si、BTESO/SiO
2−ZrO
2/Siにおいても同様の傾向が見られた。
【0045】
なお、BTESE/Me−SiO
2/Siにおいて、BTESO/Me−SiO
2/Siよりも接触角が大きくなっているが、Me−SiO
2/Si上にBTESEゾルのコーティングを行う際、ゾルの飛散が見られ、BTESE膜が断続的に形成されて表面が不均質になってしまったため、Me−SiO
2/Siと同様の接触角になったものと考えられる。
【0046】
続いて、Me−SiO
2ゾル、SiO
2−ZrO
2ゾル、BTESEゾル、BTESOゾルを用い、以下のようにして気体分離フィルタを作製し、その特性を評価した。
【0047】
(支持層の均質化)
まず、α−アルミナ管(空隙率50%、外形10mm、平均細孔径1〜2μm)を支持層とし、支持層の表面を均質化した。均質化は、支持層の表面に粒径2μmのα−アルミナ微粒子を支持層の表面にコーティング、550℃で焼成し、更に、粒径0.2μmのα−アルミナ微粒子を支持層の表面にコーティング、550℃で焼成することにより行った。
【0048】
(Me−SiO
2フィルタの作製)
均質化した支持層表面に、Me−SiO
2ゾル(1wt%)を塗布した。そして、窒素雰囲気下、400℃で15分間の焼成を行い、支持層上にMe−SiO
2の中間層を形成した。この状態のものをMe−SiO
2フィルタと記す。
【0049】
(BTESE/Me−SiO
2フィルタ、BTESO/Me−SiO
2フィルタの作製)
Me−SiO
2フィルタの中間層の上にBTESEゾル(1wt%)、又は、BTESOゾル(1wt%)を塗布し、窒素雰囲気下、300℃で30分間の焼成を行い、中間層上にBTESE層、及び、BTESO層を形成し、気体分離フィルタを得た。この気体分離フィルタをBTESE/Me−SiO
2フィルタ、BTESO/Me−SiO
2フィルタとそれぞれ記す。
【0050】
(SiO
2−ZrO
2フィルタの作製)
また、Me−SiO
2ゾルの代わりにSiO
2−ZrO
2ゾル(1wt%)を支持層上に塗布して、空気雰囲気下、550℃で15分間の焼成を行い、支持層上にSiO
2−ZrO
2層を形成した。この状態のものをSiO
2−ZrO
2フィルタと記す。
【0051】
(BTESE/SiO
2−ZrO
2フィルタ、BTESO/SiO
2−ZrO
2フィルタの作製)
そして、上記と同様にして、SiO
2−ZrO
2フィルタの中間層上にBTESE層、及び、BTESO層を形成し、気体分離フィルタを得た。この気体分離フィルタをBTESE/SiO
2−ZrO
2フィルタ、BTESO/SiO
2−ZrO
2フィルタとそれぞれ記す。
【0052】
(細孔径分布の測定)
作製したMe−SiO
2フィルタ及びSiO
2−ZrO
2フィルタについて、細孔径分布をナノパームポロメトリー法によって測定した。測定にはナノパームポロメーター(西華産業株式会社製)を用いた。ナノパームポロメトリー法では、凝縮性ガス(ヘキサン蒸気、水蒸気)と非凝縮性ガス(窒素)を気体分離フィルタに供給し、凝縮性ガスの毛管凝縮によって非凝縮ガスのフィルタ透過がブロッキングされる現象から細孔系分布を推定する手法である。細孔径分布は、蒸気混合における窒素透過率を純窒素透過率で除した無次元透過率(dimensionless permeance)をy軸とし、供給蒸気成分の分圧から求めたKelvin径(下式1)をx軸としてプロットすることで得られる。なお、式1中、d
kはKelvin径、γは表面張力、V
mは凝縮性ガスのモル体積、θは接触角、Rは気体定数、Tは温度、pは蒸気圧、p
sは温度Tにおける飽和蒸気圧である。
【0053】
【数1】
【0054】
SiO
2−ZrO
2フィルタ及びMe−SiO
2フィルタの無次元透過率とKelvin径の関係を
図2(A)、
図2(B)にそれぞれ示す。SiO
2−ZrO
2フィルタでは、凝縮性ガスとしてヘキサン、水を用いた場合、いずれにおいても同様に、Kelvin径が大きくなるにつれ無次元透過率が低下している。
【0055】
一方、Me−SiO
2フィルタでは、凝縮性ガスとしてヘキサンを用いた場合では、SiO
2−ZrO
2フィルタと同様にKelvin径が大きくなるにつれ無次元透過率が低下した。しかしながら、凝縮性ガスとして水蒸気を用いた場合には、Kelvin径が大きくなっても、無次元透過率の低下はあまり変化がなかった。即ち、Me−SiO
2フィルタでは、透過する水蒸気によって、細孔に水分子の付着、凝縮等が生じにくく、細孔が塞がれないため、透過特性が保たれている。したがって、Me−SiO
2フィルタのMe−SiO
2層は高い疎水性を示し、水蒸気が含有する場合においても目的のガスを透過させることが可能であることを示している。
【0056】
(純ガス透過実験:ドライ条件)
作製した4種の気体分離フィルタ並びに分離層を形成しなかったMe−SiO
2フィルタ、SiO
2−ZrO
2フィルタについて、各気体(He、H
2、CO
2、N
2、CF
4、SF
6)の気体透過率を、
図3に示す装置を用い、ドライ条件にて測定した。即ち、
図3に示す装置の水に通じるバルブを閉鎖して行った。測定ガスはHe、H
2、CO
2、N
2、CF
4、SF
6の6種類(市販の高純度ガス)を用いた。なお、スイープガスとしてN
2を用いた。
【0057】
図4(A)に、SiO
2−ZrO
2フィルタ、BTESE/SiO
2−ZrO
2フィルタ及びBTESE/Me−SiO
2フィルタにおける各気体の透過率の結果を示す。また、
図4(B)にMe−SiO
2フィルタ、BTESO/SiO
2−ZrO
2フィルタ及びBTESO/Me−SiO
2フィルタにおける各気体の透過率の結果を示す。また、気体選択性(H
2/N
2、H
2/SF
6、CO
2/N
2)の結果を表2に示す。表2の選択性をみると、BTESE/SiO
2−ZrO
2フィルタの方がBTESE/Me−SiO
2フィルタよりも良好であったが、これは、疎水性のMe−SiO
2層へ親水性のBTESE層をコーティングしていることからBTESE層の形成が不均質になっているためと考えられる。なお、BTESO/SiO
2−ZrO
2フィルタとBTESO/Me−SiO
2フィルタにおいては選択性において同程度であり有意な差は見られなかった。
【0058】
【表2】
【0059】
(純ガス(CO
2)透過実験:ウエット条件)
続いて、上記と同様に
図3に示す装置を用い、CO
2についてウエット条件における気体透過率を測定した。すなわち、
図3に示す装置の水に通じるバルブを開放し、フィルタに水蒸気を含むCO
2が通じるように、水蒸気量を変化させつつ行った。
【0060】
図5(A)に、BTESE/Me−SiO
2フィルタ、BTESE/SiO
2−ZrO
2フィルタにおけるウエット条件でのCO
2透過率の結果を示す。また、
図5(B)にBTESO/Me−SiO
2フィルタ、BTESO/SiO
2−ZrO
2フィルタにおけるウエット条件でのCO
2透過率の結果を示す。なお、
図5(A)、(B)において、Activity p
H2O/p
H2O,sは水分活量を示し、湿度に相当する指標(Activity p
H2O/p
H2O,s:1.0=湿度:100%)である。
【0061】
図5(A)を見ると、BTESE/Me−SiO
2フィルタでは、水分活量が高くなっても、CO
2透過率はさほど変化は見られない。一方、BTESE/SiO
2−ZrO
2フィルタでは、水分活量が高くなるとCO
2透過率が低下している。BTESE/Me−SiO
2フィルタでは、中間層が疎水性のMe−SiO
2であるので、中間層に水分子が付着して細孔が塞がれなかったためといえる。
【0062】
また、
図5(B)においても、BTESO/Me−SiO
2フィルタでは、水分活量が高くなっても、CO
2透過率はさほど変化は見られない。一方、BTESO/SiO
2−ZrO
2フィルタでは、水分活量が高くなるとCO
2透過率が低下している。
【0063】
この結果から、水蒸気の存在下においても、中間層が疎水性の多孔体であるBTESE/Me−SiO
2フィルタ、BTESO/Me−SiO
2フィルタでは、中間層に水分子の付着、凝縮が生じにくく、中間層の細孔が塞がれにくいことから、水蒸気を含んだ混合気体の分離に対しても有効であることを立証した。
【実施例2】
【0064】
実施例2では、実施例1における中間層(Me−SiO
2層)の表面へのプラズマ処理(水プラズマ処理)の影響について検証した。
【0065】
まず、実施例1と同様の手法で、シリコンウエハ上に、Me−SiO
2層を形成した。塗布、焼成回数は、1回、2回、3回、4回とし、各回において形成されたMe−SiO
2層についてFT−IR測定(FT−IR−400,JASCO)、接触角測定(DropMaster DM300, KYOWA INTERFACE SCIENCE, Co., Ltd.)を行った。
【0066】
また、実施例1と同様の手法で、シリコンウエハ上に、BTESE層を形成した。塗布、焼成回数は、1回、2回、3回、4回とし、各回においてBTESE層について、同様にFT−IR測定、接触角測定を行った。
【0067】
また、実施例1と同様の手法で、シリコンウエハ上に、BTESO層を形成した。塗布、焼成回数は、1回、2回、3回、4回とし、各回においてBTESO層について、同様にFT−IR測定、接触角測定を行った。
【0068】
シリコンウエハ上のMe−SiO
2層のFT−IRスペクトルを
図6(A)、FT−IRスペクトルにおけるピークエリア(979−1300cm
−1)の吸光度の総和及び接触角(CA:Contact Angle)の変化を
図6(B)に示す。
【0069】
また、シリコンウエハ上のBTESE層についても同様にFT−IRスペクトルを
図7(A)、FT−IRスペクトルにおけるピークエリア(959−1180cm
−1)の吸光度の総和及び接触角の変化を
図7(B)に示す。
【0070】
また、シリコンウエハ上のBTESO層についても同様にFT−IRスペクトルを
図8(A)、FT−IRスペクトルにおけるピークエリア(959−1180cm
−1)の吸光度の総和及び接触角の変化を
図8(B)に示す。
【0071】
なお、いずれの層についても、接触角については、4回の塗布、焼成後、不織布でぬぐった後についても測定した(
図6(B)、
図7(B)、
図8(B)中のwipe)。
【0072】
Me−SiO
2層について、接触角は1回の塗布、焼成した後、いずれも約120°であり、Me−SiO
2ゾルの塗布、焼成回数を増やしても変化はなかった。一方、ピークエリアの吸光度の総和は、Me−SiO
2ゾルの塗布、焼成回数の増加につれ、比例的に増加しており、Me−SiO
2層が厚く形成されていることがわかる。
【0073】
BTESE層及びBTESO層についても、接触角は1回の塗布、焼成した後、それぞれ約60°、約80°で一定していた。また、ピークエリアの吸光度の総和についても、ゾルの塗布、焼成回数が増えるにつれ、比例的に増加しており、BTESE層及びBTESO層が厚く形成されていっている。
【0074】
しかし、不織布でぬぐった後では、Me−SiO
2層、BTESO層においてピークエリアの吸光度の総和が大きく減少した。これは、Me−SiO
2層、BTESO層の疎水性の高さから、シリコンウエハおよびコーティング層間との結合が弱く、Me−SiO
2層、BTESO層が剥離したものと考えられ、耐久性が低いことが伺える。
【0075】
(プラズマ処理の検証)
つづいて、上記のシリコンウエハ上に形成したMe−SiO
2層の表面をプラズマ処理した後、Me−SiO
2層の上にそれぞれBTESEゾル、BTESOゾルを塗布、焼成して、Me−SiO
2層の上にBTESE層、BTESO層を形成した。各ゾルの塗布、焼成は、1回、2回、3回、4回行い、そして、各回において形成されたBTESE層(Me−SiO
2層+BTESE層)、BTESO層(Me−SiO
2層+BTESO層)のFT−IR測定、接触角測定を上記と同様に行った。
【0076】
なお、プラズマ処理は、プラズマチャンバー(BPD-1H, SAMCO, Inc.)に入れ、まず2Paまで減圧した。その後、窒素を加えた水蒸気を導入し、プラズマチャンバーの出力10W、20秒間、室温で、行うことにより処理した。水蒸気、窒素の流速は15ml/min、10ml/minにそれぞれ制御し、圧力は20Paとして行った。
【0077】
また、シリコンウエハ上のMe−SiO
2層の表面をプラズマ処理しなかった以外、上記と同様にしてMe−SiO
2層の上にBTESE層、BTESO層を形成し、上記と同様にFT−IR測定、接触角測定を行った。
【0078】
プラズマ処理を行わずに形成したBTESE層(Me−SiO
2層+BTESE層)のFT−IRスペクトルを
図9(A)、FT−IRスペクトルにおけるピークエリア(979−1300cm
−1)の吸光度の総和及び接触角の変化を
図9(B)に示す。また、プラズマ処理を行ったBTESE層(プラズマ処理Me−SiO
2層+BTESE層)のFT−IRスペクトルを
図10(A)、FT−IRスペクトルにおけるピークエリア(979−1300cm
−1)の吸光度の総和及び接触角の変化を
図10(B)に示す。
【0079】
また、プラズマ処理を行わずに形成したBTESO層(Me−SiO
2層+BTESO層)のFT−IRスペクトルを
図11(A)、FT−IRスペクトルにおけるピークエリア(959−1180cm
−1)の吸光度の総和及び接触角の変化を
図11(B)に示す。また、プラズマ処理を行って形成したBTESO層(プラズマ処理Me−SiO
2層+BTESO層)のFT−IRスペクトルを
図12(A)、FT−IRスペクトルにおけるピークエリア(959−1180cm
−1)の吸光度の総和及び接触角の変化を
図12(B)に示す。
【0080】
いずれについても、ゾルの塗布、焼成回数の増加につれ、ピークエリアの吸光度の総和が比例的に増加しており、BTESE層、BTESO層が形成されていっている。
そして、
図10(B)、
図12(B)を見ると、Me−SiO
2層をプラズマ処理した場合、いずれについても、不織布でぬぐった後においても、ピークエリアの吸光度の総和が減少しておらず、BTESE層、BTESO層の剥離がなかった。すなわち、中間層であるMe−SiO
2層の表面をプラズマ処理することにより、分離層の形成が容易になるとともに、作製される気体分離フィルタの耐久性の向上が実現される。
【0081】
(細孔径分布の測定)
実施例1と同様の手法で、Me−SiO
2フィルタ(均質化したα−アルミナ管の表面にMe−SiO
2の中間層を形成したもの)を作製した。
【0082】
そして、Me−SiO
2層の表面をプラズマ処理した。これを、Me−SiO
2−Plasmaと記す。なお、プラズマ処理の条件は上記と同様である。
【0083】
また、プラズマ処理を行わないものも準備した。これをMe−SiO
2−Freshと記す。
【0084】
Me−SiO
2−Plasma、Me−SiO
2−Freshについて、実施例1と同様にして、ナノパームポロメトリー法により細孔径分布を測定した。凝縮性ガスとしてヘキサン蒸気を用いて測定した結果を
図13(A)に、水を用いて測定した結果を
図13(B)にそれぞれ示す。
【0085】
図13(B)をみると、Me−SiO
2−Plasma、Me−SiO
2−Freshのいずれについても、水分活量が高くなっても無次元透過率の減少はあまり見られず、中間層の表面をプラズマ処理しても、中間層の疎水性は保たれており、水蒸気を含んだ混合気体の分離に対しても、分離特性(気体の透過特性)の低下が生じにくいことがわかる。
【0086】
(純ガス透過実験:ドライ条件)
Me−SiO
2−Plasma、Me−SiO
2−Freshの中間層上に、分離層としてBTESE層を形成した。これらをそれぞれBETSE/Me−SiO
2−Pフィルタ、BETSE/Me−SiO
2フィルタと記す。
【0087】
また、Me−SiO
2−Plasma、Me−SiO
2−Freshの中間層上に、分離層としてBTESO層を形成した。これらをそれぞれBETSO/Me−SiO
2−Pフィルタ、BETSO/Me−SiO
2フィルタと記す。なお、BTESE層、BTESO層の形成は、実施例1と同様の手法で行った。
【0088】
そして、実施例1と同様の手法で、各気体(He、H
2、CO
2、N
2、CF
4、SF
6)のドライ条件下における気体透過率を測定した。
図14(A)にBETSE/Me−SiO
2−Pフィルタ、BETSE/Me−SiO
2フィルタの気体透過率の結果を示すとともに、気体選択性の結果を表3に示す。また、
図14(B)にBETSO/Me−SiO
2−Pフィルタ、BETSO/Me−SiO
2フィルタの気体透過率の結果を示す。
【0089】
【表3】
【0090】
これらの結果から、特にBETSE/Me−SiO
2−Pフィルタにおいて、疎水的な中間層の表面をプラズマ処理することにより、気体選択性の向上がみられた。したがって、中間層の表面のプラズマ処理は、気体分離フィルタの耐久性の向上だけでなく、気体分離特性の向上にも資することがわかった。
【0091】
(純ガス(CO
2)透過実験:ウエット条件)
【0092】
続いて、実施例1と同様の手法にて、CO
2についてウエット条件における気体透過率を測定した。その結果を
図15に示す。
【0093】
図15を見ると、中間層の表面をプラズマ処理しなかった場合(
図5(A)、(B))に比べると、CO
2透過率が減少しているものの、その減少率は小さい。したがって、水蒸気を含む混合気体からの特定ガスの分離を行うに際し、疎水的な中間層を形成し、その表面をプラズマ処理することは、実用上非常に有効であることがわかる。