【実施例】
【0067】
以下に具体的な実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
以下の手順によりCZ法によりタンタル酸リチウム単結晶(LT)の製造を行った。
【0068】
坩堝としてはイリジウム製の坩堝であって、繰り返し単結晶の育成を行うことで変形した坩堝を使用した。なお、坩堝は単結晶の育成に供する前、
図2(a)に示した坩堝21と同様に円筒形状を有しており、外径160mm、外高160mm、肉厚3mmの寸法であった。しかし、本実施例の単結晶育成を行う際には、坩堝の側面が底面側から上端部側に向かって拡がった形状を有し、さらに底面から全高の1/3の高さにおいて膨らみが生じていた。なお、該膨らみ部分において坩堝は最大径をとっており、最大径は175mmまで変形していた。また、坩堝の底面についても坩堝底の中心部が外周部よりも低く、外周部から中心部にかけて勾配が生じていた。
【0069】
係る変形したイリジウム製の坩堝内に、タンタル酸リチウム単結晶の原料粉を充填し、
図1に示した単結晶育成炉10にセットして直胴部直径が115mm、育成方位が36゜RY(Rotated Y Axis)のタンタル酸リチウム単結晶の育成を実施した。
【0070】
なお、単結晶育成炉10には、内径150mm、高さ80mm、肉厚1mmのイリジウム製アフターヒーター18が設置されている。また、坩堝11内の原料を加熱する加熱手段として、高周波誘導加熱方式を用いた。
【0071】
上述の様に、用いたイリジウム製の坩堝は底面の形状が変形していることから、平板状の耐火物上に坩堝を設置した際に不安定な状態となっている。そして、坩堝を平板状の耐火物上に載置した場合、
図2(b)に示した場合と同様に坩堝は傾いており、坩堝の上端部における直径方向を示す点線223の、水平面Bからの傾きaは2°であることが確認できた。
【0072】
そこで、単結晶育成炉の平板状の耐火物14上に坩堝を配置する際、
図4(c)に示した場合と同様に、平板状の耐火物43と、坩堝41の底面412との間に、坩堝41と対向する面が水平面に対して角度を有するブロック状の耐火物423A、423Bを2個重ねて配置した。
【0073】
なお、用いたブロック状の耐火物は共に、底面と垂直な面での断面が、
図3(a)に示したように台形形状を有しており、坩堝の底面と対向する面32と水平面との間の角度321が1°のものを用いた。そして、係るブロック状の耐火物を
図4(c)に示した場合と同様に2枚重ねて、坩堝の傾きを解消するように配置することで、坩堝を平板状の耐火物上に設置した場合の傾き2°を打消し、坩堝の上端部における直径方向(最大径方向)の、水平面からの傾きを0とした。
【0074】
なお、坩堝の上端部での傾きとは、
図4(c)に示した坩堝41の上端面に平行に水準器を置いた場合に、水平面からの傾きが0になっていることを意味する。
【0075】
以上のようにして、単結晶育成炉10に、タンタル酸リチウム単結晶の原料粉を充填した坩堝を設置した後、高周波誘導加熱方式により加熱を行い、タンタル酸リチウム単結晶の原料粉を融解し、原料融液を形成する原料融液形成工程を実施した。
【0076】
原料融液を形成後に、引上げ軸15の先端に予め配置しておいた種結晶16を原料融液111に接触させるシーディング工程を実施した後、種結晶16を回転させながら引き上げ、単結晶の育成を行う単結晶育成工程を実施した。
【0077】
なお、単結晶育成工程において、種結晶の引上速度は育成開始から終了まで1.8mm/hrで一定とした。それに対して、種結晶の回転速度は、育成開始時は20rpmとし、育成している単結晶の結晶径が115mmに到達した時に5rpmとなるように育成している単結晶の結晶径の増大に伴って徐々に降下させた。
【0078】
単結晶育成工程終了後、育成結晶と原料融液とを切り離す液切り工程を実施した後、室温まで単結晶育成炉内を冷却する冷却工程を実施した。そして、単結晶育成炉内の温度が室温になった後に単結晶育成炉から育成結晶を取出した。
【0079】
取り出した結晶は、残留歪み除去のためアニール処理、単一分極とするためポーリング処理に供した。そして、所望の結晶方位を得るため結晶の上下端部を切断し、ウェハ加工時に同一の外径を得るため結晶外周部を円筒研削した後に、スライスし、単結晶基板(ウェハ)とした。
【0080】
ここまで説明したのと同一条件でタンタル酸リチウムの単結晶育成を10回繰り返したところ、9本の単結晶を得ることができた。なお、1本については割れが生じていた。
【0081】
また、得られた結晶は種結晶の引上げ方位からの傾きが2°程度と小さく、結晶のねじれ等の無い良好な形状であった。
【0082】
得られた結晶は傾きが小さく、かつ、ねじれが無いことから、育成された結晶のうち、外径が115mm以上の直胴部分のうち、90%をウェハ加工に用いることができた。
【0083】
結果を表1にもあわせて示す。
[実施例2]
坩堝と、アフターヒーターと、育成した単結晶のサイズと、ブロック状の耐火物の構成とが異なる点以外は実施例1と同様にしてCZ法によりタンタル酸リチウム単結晶の製造を行った。
【0084】
坩堝としてはイリジウム製の坩堝であって、繰り返し単結晶の育成を行うことで変形した坩堝を使用した。なお、坩堝は単結晶の育成に供する前、
図2(a)に示した坩堝21と同様に円筒形状を有しており、外径220mm、外高220mm、肉厚3mmの寸法であった。しかし、本実施例の単結晶育成を行う際には、坩堝の側面が底面側から上端部側に向かって拡がった形状を有し、さらに底面から全高の1/3の高さにおいて膨らみが生じていた。なお、該膨らみ部分において坩堝は最大径をとっており、最大径は240mmまで変形していた。また、坩堝の底面についても坩堝底の中心部が外周部よりも低く、外周部から中心部にかけて勾配が生じていた。
【0085】
係る変形したイリジウム製の坩堝内に、タンタル酸リチウム単結晶の原料粉を充填し、
図1に示した単結晶育成炉10にセットして直胴部直径が165mm、育成方位が36゜RY(Rotated Y Axis)のタンタル酸リチウム単結晶の育成を実施した。
【0086】
なお、単結晶育成炉10には、内径190mm、高さ90mm、肉厚1mmのイリジウム製アフターヒーター18が設置されている。また、坩堝11内の原料を加熱する加熱手段として、高周波誘導加熱方式を用いた。
【0087】
上述の様に、用いたイリジウム製の坩堝は底面の形状が変形していることから、平板状の耐火物上に坩堝を設置した際に不安定な状態となっている。そして、坩堝を平板状の耐火物上に載置した場合、
図2(b)に示した場合と同様に坩堝は傾いており、坩堝の上端部における直径方向を示す点線223の、水平面Bからの傾きaは0.5°であることが確認できた。
【0088】
そこで、単結晶育成炉の平板状の耐火物14上に坩堝を配置する際、
図4(a)に示した場合と同様に、坩堝41の底面412と、平板状の耐火物43との間に、坩堝41と対向する面が水平面に対して角度を有するブロック状の耐火物421を配置した。
【0089】
なお、用いたブロック状の耐火物は、底面と垂直な面での断面が、
図3(a)に示したように台形形状を有しており、坩堝41と対向する面32と水平面との間の角度321が0.5°のものを1個用いた。そして、係るブロック状の耐火物を
図4(a)に示した場合と同様に坩堝の傾きを解消するように配置することで、坩堝を平板状の耐火物上に載置した場合の傾き0.5°を打消し、坩堝の上端部における直径方向(最大径方向)の、水平面からの傾きを0とした。
【0090】
以上のようにして、単結晶育成炉10に、タンタル酸リチウム単結晶の原料粉を充填した坩堝を配置した後、高周波誘導加熱方式により加熱を行い、タンタル酸リチウム単結晶の原料粉を融解し、原料融液を形成する原料融液形成工程を実施した。
【0091】
原料融液を形成後に、引上げ軸15の先端に予め配置しておいた種結晶16を原料融液111に接触させるシーディング工程を実施した後、種結晶16を回転させながら引き上げ、単結晶の育成を行う単結晶育成工程を実施した。
【0092】
なお、単結晶育成工程において、種結晶の引上速度は育成時は1.8mm/hrとし、育成している単結晶の結晶径が165mmに到達したときに0.7mm/hrとなるように、育成している単結晶の結晶径の増大に伴って徐々に低下させた。また、結晶の回転速度は、育成開始時は20rpmとし、育成している単結晶の結晶径が165mmに到達した時に5rpmとなるように育成している結晶径の増大に伴って徐々に降下させた。
【0093】
単結晶育成工程終了、育成結晶と原料融液とを切り離す液切り工程を実施した後、室温、まで単結晶育成炉内を冷却する冷却工程を実施した。そして、単結晶育成炉内の温度が室温になった後に単結晶育成炉から育成結晶を取出した。
【0094】
取り出した結晶は、残留歪み除去のためアニール処理、単一分極とするためポーリング処理に供した。そして、所望の結晶方位を得るため結晶の上下端部を切断し、ウェハ加工時に同一の外径を得るため結晶外周部を円筒研削した後に、スライスし、単結晶基板とした。
【0095】
ここまで説明したのと同一条件でタンタル酸リチウムの単結晶育成を10回繰り返したところ、8本の単結晶を得ることができた。なお、2本については割れが生じていた。
【0096】
また、得られた結晶は種結晶の引上げ方位からの傾きが2°程度と小さく、結晶のねじれ等の無い良好な形状であった。
【0097】
得られた結晶は傾きが小さく、かつ、ねじれが無いことから、育成された結晶のうち、外径が165mm以上の直胴部分のうち、90%をウェハ加工に用いることができた。
【0098】
結果を表1にもあわせて示す。
[実施例3]
坩堝と、アフターヒーターと、育成した単結晶の種類と、ブロック状の耐火物の構成とが異なる点以外は実施例1と同様にしてCZ法によりニオブ酸リチウム単結晶(LN)の製造を行った。
【0099】
坩堝としては白金製の坩堝であって、繰り返し単結晶の育成を行うことで変形した坩堝を使用した。なお、坩堝は単結晶の育成に供する前、
図2(a)に示した坩堝21と同様に円筒形状を有しており、外径160mm、外高160mm、肉厚3mmの寸法であった。しかし、本実施例の単結晶育成を行う際には、坩堝の側面が底面側から上端部側に向かって拡がった形状を有し、さらに底面から全高の1/3の高さにおいて膨らみが生じていた。なお、該膨らみ部分において坩堝は最大径をとっており、最大径は175mmまで変形していた。また、坩堝の底面についても坩堝底の中心部が外周部よりも低く、外周部から中心部にかけて勾配が生じていた。
【0100】
係る変形した白金製の坩堝内に、ニオブ酸リチウム単結晶の原料粉を充填し、
図1に示した単結晶育成炉10にセットして直胴部直径が115mm、育成方位が36゜RY(Rotated Y Axis)のニオブ酸リチウム単結晶の育成を実施した。
【0101】
なお、単結晶育成炉10には、内径150mm、高さ80mm、肉厚1mmの白金製アフターヒーター18が設置されている。また、坩堝11内の原料を加熱する加熱手段として、高周波誘導加熱方式を用いた。
【0102】
上述の様に、用いた白金製の坩堝は底面の形状が変形していることから、平板状の耐火物上に坩堝を設置した際に不安定な状態となっている。そして、坩堝を平板状の耐火物上に載置した場合、
図2(b)に示した場合と同様に坩堝は傾いており、坩堝の上端部における直径方向を示す点線223の、水平面Bからの傾きaは1°であることが確認できた。
【0103】
そこで、単結晶育成炉の平板状の耐火物14上に坩堝を配置する際、
図4(a)に示した場合と同様に、坩堝41の底面412と、平板状の耐火物43との間に、坩堝41と対向する面が水平面に対して角度を有するブロック状の耐火物421を配置した。
【0104】
なお、用いたブロック状の耐火物は、底面と垂直な面での断面が、
図3(a)に示したように台形形状を有しており、坩堝41と対向する面32と水平面との間の角度321が1°のものを1個用いた。そして、係るブロック状の耐火物を
図4(a)に示した場合と同様に坩堝の傾きを解消するように配置することで、坩堝を平板状の耐火物上に載置した場合の傾き1°を打消し、坩堝の上端部における直径方向(最大径方向)の、水平面からの傾きを0とした。
【0105】
以上のようにして、単結晶育成炉10に、ニオブ酸リチウム単結晶の原料粉を充填した坩堝を配置した後、実施例1と同様の手順により単結晶の育成を行った。また、得られた結晶は、残留歪み除去のためアニール処理、単一分極とするためポーリング処理に供した。そして、所望の結晶方位を得るため結晶の上下端部を切断し、ウェハ加工時に同一の外径を得るため結晶外周部を円筒研削した後に、スライスし、単結晶基板とした。
【0106】
ここまで説明したのと同一条件でニオブ酸リチウムの単結晶育成を10回繰り返したところ、9本の単結晶を得ることができた。なお、1本については割れが生じていた。
【0107】
また、得られた結晶は種結晶の引上げ方位からの傾きが2°程度と小さく、結晶のねじれ等の無い良好な形状であった。
【0108】
得られた結晶は傾きが小さく、かつ、ねじれが無いことから、育成された結晶のうち、外径が115mm以上の直胴部分のうち、90%をウェハ加工に用いることができた。
【0109】
結果を表1にもあわせて示す。
[比較例1]
単結晶育成炉に坩堝を設置する際に、ブロック状の耐火物を用いずに、平板状の耐火物上に坩堝を直接設置した点以外は実施例1と同様にしてタンタル酸リチウム単結晶の育成を行った。また、得られた単結晶はスライスして、単結晶基板とした。
【0110】
単結晶の育成を同一条件で10回繰り返したところ、7本の単結晶を得ることができた。なお、3本については割れが生じていた。
【0111】
得られた単結晶は、種結晶の引上げ方位からの傾きが5°と大きく、結晶の下部にねじれが見られた。また、ねじれ部分には転位が集合したリネージが形成されたおり、結晶性の悪化が確認された。
【0112】
得られた単結晶は傾きが大きく、かつ、ねじれが有ることから、育成された結晶のうち、外径が115mm以上の直胴部分のうち、76%のみしかウェハ加工に用いることができなかった。
【0113】
結果を表1にもあわせて示す。
[比較例2]
単結晶育成炉に坩堝を設置する際に、ブロック状の耐火物を用いずに、平板状の耐火物上に坩堝を直接設置した点以外は実施例2と同様にしてタンタル酸リチウム単結晶の育成を行った。また、得られた単結晶はスライスして、単結晶基板とした。
【0114】
単結晶の育成を同一条件で10回繰り返したところ、7本の単結晶を得ることができた。なお、3本については割れが生じていた。
【0115】
得られた単結晶は、種結晶の引上げ方位からの傾きが4°と大きく、結晶の下部に比較例1と同様のねじれが見られた。
【0116】
得られた結晶は傾きが大きく、かつ、ねじれが有ることから、育成された結晶のうち、外径が165mm以上の直胴部分のうち、77%のみしかウェハ加工に用いることができなかった。
【0117】
結果を表1にもあわせて示す。
[比較例3]
単結晶育成炉に坩堝を設置する際に、ブロック状の耐火物を用いずに、平板状の耐火物上に坩堝を直接設置した点以外は実施例3と同様にしてニオブ酸リチウム単結晶の育成を行った。また、得られた単結晶はスライスして、単結晶基板とした。
【0118】
単結晶の育成を同一条件で10回繰り返したところ、8本の単結晶を得ることができた。なお、2本については割れが生じていた。
【0119】
得られた単結晶は、種結晶の引上げ方位からの傾きが5°と大きく、結晶の下部にねじれが見られた。
【0120】
得られた結晶は傾きが大きく、かつ、ねじれが有ることから、育成された結晶のうち、外径が115mm以上の直胴部分のうち、80%のみしかウェハ加工に用いることができなかった。
【0121】
結果を表1にもあわせて示す。
【0122】
【表1】
以上の結果から、実施例1〜実施例3では変形した坩堝を用いたにも関わらず、坩堝を設置する台と坩堝の底面との間に、ブロック状の耐火物を配置するのみで、得られた単結晶の種結晶の引上げ方位からの傾きを抑制できることが確認できた。また、実施例1〜実施例3においては、種結晶の引上げ方位からの傾きを抑制し、ねじれを含まない高品質な単結晶を高い確率で、すなわち再現性良く、低コストで製造できることも確認できた。
【0123】
これに対して、比較例1〜比較例3においては、種結晶の引上げ方位からの傾きが大きく、ねじれを含んでおり、実施例1〜実施例3と比較して品質の低い単結晶が育成された。また、単結晶の育成の成功確率も実施例1〜実施例3と比較して低くなることが確認された。