【解決手段】不活性雰囲気中、45〜55℃、pH値を11〜12及びアンモニウムイオン濃度を8〜12g/Lに制御した反応水溶液に、Ni、Co及びAlを含有する原料水溶液を供給して、連続晶析法により、複合水酸化物粒子を晶析させた後、この複合水酸化物粒子を含むスラリーとMgを含む被覆溶液とを混合し、混合溶液を形成し、Mg被覆複合水酸化物粒子を得て、このMg被覆複合水酸化物粒子を前駆体として、一般式:Li
(1.00≦u≦1.04、0.05≦x≦0.20、0.01≦y≦0.06、0.01≦z≦0.03)で表される、層状構造のリチウムニッケルコバルト複合酸化物粒子からなる非水系電解質二次電池用正極活物質を合成する方法。
前記一次粒子は、直方体状であり、平均粒径が0.01μm〜0.1μmの範囲にある、請求項1または2に記載のアルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子。
前記被覆工程前に、前記晶析工程で得られたニッケルコバルト複合水酸化物粒子を洗浄する洗浄工程をさらに備える、請求項4または5に記載のマグネシウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の製造方法。
前記アルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を100℃〜150℃に加熱して乾燥する、乾燥工程をさらに備える、請求項4〜6のいずれかに記載のアルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の製造方法。
前記混合工程の前に、前記マグネシウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を酸化性雰囲気中、600℃〜800℃で加熱する、熱処理工程をさらに備える、請求項9または10に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備え、前記正極の正極材料として、請求項8に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質が用いられている、非水系電解質二次電池。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギ密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、モータ駆動用電源、特に、電気自動車などの輸送機器用電源の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。これらの要求を満たす二次電池として、非水系電解質二次電池であるリチウムイオン二次電池がある。非水系電解質二次電池は、負極、正極、電解液などにより構成され、負極および正極の材料として、リチウムを脱離および挿入することが可能な活物質が用いられる。
【0003】
非水系電解質二次電池については、現在、研究開発が盛んに行われており、特に、層状またはスピネル型のリチウム遷移金属複合酸化物粒子を正極活物質として用いた非水系電解質二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギ密度を有する二次電池として実用化が進んでいる。
【0004】
このような非水系電解質二次電池の正極材料として、現在、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO
2)粒子、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO
2)粒子、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)粒子、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn
2O
4)粒子、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi
0.5Mn
0.5O
2)粒子などのリチウム遷移金属複合酸化物粒子が提案されている。
【0005】
これらの中でも、リチウムニッケル複合酸化物粒子は、リチウムコバルト複合酸化物粒子よりも大きな充放電容量を示し、比較的安価で高いエネルギ密度を有する二次電池を製造可能とする正極活物質として注目を集めている。一方、リチウムニッケル複合酸化物粒子は、リチウムコバルト複合酸化物粒子と比べて、結晶構造の安定性が低く、サイクル特性や高温安定性に劣るといった問題がある。
【0006】
この問題に対して、リチウムニッケル複合酸化物粒子を構成するニッケルの一部を、コバルト、マンガン、鉄などの遷移金属元素や、アルミニウム、マグネシウム、バナジウム、スズなどの異種金属元素で置換し、これによって、結晶構造の安定性を改善することが一般的に行われている。これらの金属元素の中で、コバルトは相転移の防止に、アルミニウムは結晶構造の安定化に有効であることが知られている。しかしながら、アルミニウムを含むリチウムニッケル複合酸化物粒子の前駆体を共沈反応で得ようとする場合、アルミニウムがニッケル複合水酸化物粒子の高密度化を阻害することが知られている。また、前駆体が複数の異種元素(ニッケル、コバルトおよびマンガン以外の金属元素)を含む場合には、元素ごとの塩形成挙動が異なることに起因して、その添加量が過剰になると、粒子形状が変化する。したがって、このようなリチウムニッケル複合酸化物粒子を正極活物質として用いた場合には、その充填性が著しく低下し、二次電池の充放電容量の低下を免れない。このため、充放電容量を損なうことなく、結晶構造の安定性を改善したリチウムニッケル複合酸化物粒子の開発が望まれている。
【0007】
たとえば、特開2010−24083号公報には、反応槽を2段カスケードに接続し、まず、1段目の反応槽に、ニッケル化合物とコバルト化合物を含む水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、およびアンモニウムイオン供給体を含む水溶液からなる原料溶液を、それぞれ個別にかつ同時に供給して反応させ、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を生成し、次いで、2段目の反応槽に、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を供給しながら、アルミン酸ナトリウム水溶液と硫酸水溶液とを供給して反応させることにより、連続的に、一般式(1):Ni
1-xCo
x(OH)
2(式中、xは、0.01〜0.3である)で表され、アルミニウムからなる被覆層を有し、かつ、全量に対してアルミニウムを0.1質量%〜5質量%含有する、水酸化アルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を製造する方法が記載されている。
【0008】
このような製造方法によれば、共沈反応中にアルミニムの影響を受けることなく、かつ、粒子形状を容易に制御することができ、高密度で略球状のニッケルコバルト複合水酸化物粒子を得ることができる。しかも、この水酸化アルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を焼成した場合には、アルミニウムを粒子中に均一に拡散させることができるため、その添加量をごく少量とした場合であっても、結晶構造の安定性を改善することが可能となる。しかしながら、この製造方法では、粗大粒子の割合が多くなるため、リチウムニッケル複合酸化物粒子の比表面積を十分に確保することが難しく、二次電池を構成した場合に、出力特性が著しく低下するおそれがある。
【0009】
一方、WO2011/122448号公報には、Ni溶解度を25質量ppm〜100質量ppmに調整した晶析反応でニッケルコバルト複合水酸化物粒子を生成した後、これを水酸化アルミニウムで被覆することにより得られる、一般式:(Ni
1-x-yCo
xAl
y)
1-zM
z(OH)
2(0.05≦x≦0.3、0.01≦y≦0.1、0≦z≦0.05、ただし、Mは、Mg、Fe、Cu、Zn、Gaから選ばれた少なくとも1種の金属元素)で表され、X線回折による(101)面半価幅が0.45°〜0.8°である、水酸化アルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子が記載されている。
【0010】
この水酸化アルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を前駆体とすることにより、一般式:Li
w(Ni
1-x-yCo
xAl
y)
1-zM
zO
2(0.98≦w≦1.10、0.05≦x≦0.3、0.01≦y≦0.1、0≦z≦0.05、ただし、Mは、Mg、Fe、Cu、Zn、Gaから選ばれた少なくとも1種の金属元素)で表される一次粒子が凝集した二次粒子により構成され、X線回折およびScherrer式により求められる(003)面結晶子径が1200Å〜1600Åであるリチウムニッケル複合酸化物粒子からなる正極活物質が得られる。この正極活物質では、一次粒子が適度に大きく、一次粒子間の細孔を大きくすることができるため、電解液の侵入経路を十分に確保することが可能である。したがって、この正極活物質を用いて二次電池を構成することで、出力特性を改善することができると考えられる。しかしながら、この技術は、主として低温環境下における出力特性の改善を図ったものであり、サイクル特性や高温安定性の改善までを図ったものではない。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明者らは、上述の問題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、リチウムニッケルコバルト複合酸化物粒子からなる正極活物質にアルミニウムおよびマグネシウムを添加するとともに、その結晶子径を1200Å〜1600Åの範囲に制御し、かつ、平均粒径、タップ密度および比表面積を特定の範囲に調整することにより、この正極活物質を用いた二次電池において、出力特性の低下を抑制しつつ、充放電容量、サイクル特性および高温安定性を改善可能であるとの知見を得た。また、このような正極活物質は、特定条件の晶析反応により、ニッケル、コバルトおよびアルミニウムが一様に分布し、平均粒径、タップ密度および比表面積が所定範囲にあるニッケルコバルト複合水酸化物粒子を生成した後、このニッケルコバルト複合水酸化物粒子をマグネシウムまたはマグネシウム化合物によって被覆したマグネシウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を前駆体とすることで得られるとの知見を得た。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0028】
1.マグネシウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子
1−1.マグネシウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子
(1)組成比
本発明のマグネシウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子(以下、「Mg被覆複合水酸化物粒子」という)は、一般式:Ni
1-x-y-zCo
xAl
yMg
z(OH)
2(ただし、0.05≦x≦0.20、0.01≦y≦0.06、0.01≦z≦0.03)で表される。なお、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)およびマグネシウム(Mg)の含有量、ならびに、その臨界的意義については、後述する正極活物質の場合と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0029】
(2)粒子構造
本発明のMg被覆複合水酸化物粒子は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子により構成される。この二次粒子は、略球状であることが好ましい。ここで、略球状には、二次粒子が球状であるばかりでなく、表面に微細な凹凸を有する球状や楕円球状なども含まれる。
【0030】
また、本発明のMg被覆複合水酸化物粒子は、ニッケル、コバルトおよびアルミニウムが均一に分散した中実構造の二次粒子が、マグネシウムまたはマグネシウム化合物からなる被膜によって被覆された構造を有する。これにより、アルミニウムおよびマグネシウムの添加量を抑制しつつ、このMg被覆複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質の粒子構造や結晶構造を安定化させることができるため、得られる二次電池において、出力特性の低下を抑制しつつ、充放電容量、サイクル特性および高温安定性を同時に改善することが可能となる。
【0031】
このようなMg被覆複合水酸化物粒子において、被膜の厚さは、好ましくは0.001μm〜0.01μm、より好ましくは0.002μm〜0.007μmの範囲に制御される。被膜の厚さが0.001μm未満では、マグネシウムまたはマグネシウム化合物の被覆量が少なすぎるため、焼成工程において、マグネシウムが二次粒子中に均一に拡散しないおそれがある。一方、被覆膜の厚さが0.01μmを超えると、このMg被覆複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質の表面およびその近傍に、マグネシウムが高濃度で存在する領域が形成され、リチウムの挿入反応および脱離反応が阻害されるため、電池性能が低下するおそれがある。
【0032】
なお、Mg被覆複合水酸化物粒子の粒子形状は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により確認することができる。また、粒子構造は、Mg被覆複合水酸化物粒子を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工などによって断面観察が可能な状態とした上で、SEM観察することにより確認することができる。さらに、被腹膜の厚さは、特性エックス線分光分析(エネルギー分散型X線分析:EDX)により測定することができる。
【0033】
(3)一次粒子の形状および平均粒径
二次粒子を構成する一次粒子は、その形状が直方体状であることが好ましい。また、平均粒径が0.01μm〜0.1μmの範囲にあることが好ましく、0.04μm〜0.07μmの範囲にあることがより好ましい。一次粒子の形状および平均粒径がこのような条件を満たすことにより、二次粒子をより高密度にすることができる。なお、本発明において、直方体状には、断面形状が長方形に形成されたものだけではなく、断面形状が長方形以外の四角形に形成されたものや、直方体の一面が曲面で構成されたものなども含まれるものとする。
【0034】
一次粒子の形状は、上述した粒子構造の場合と同様に、二次粒子を断面観察が可能な状態とした上で、SEM観察することにより確認することができる。また、一次粒子の平均粒径は、粒子断面をSEM観察し、20個以上の一次粒子の最大径を測定し、その平均値を算出することにより求めることができる。
【0035】
(4)二次粒子の平均粒径
二次粒子の平均粒径は、10.0μm〜14.5μm、好ましくは10.5μm〜13.5μmの範囲にあることが必要となる。平均粒径をこのような範囲に制御することにより、このMg被覆複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質の平均粒径を適切な範囲に制御することが可能となる。これに対して、平均粒径が10.0μm未満では、このMg被覆複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質のタップ密度が小さくなり、これを用いた二次電池の充放電容量が低下してしまう。また、後述する晶析工程において、晶析したMg被覆複合水酸化物粒子を固液分離するのに長時間を要するばかりでなく、乾燥後のMg被覆複合水酸化物粒子が飛散しやすくなる。一方、平均粒径が14.5μmを超えると、正極活物質の粗大化を招き、比表面積が小さくなるため、出力特性などの電池性能が低下することとなる。なお、本発明において、平均粒径とは、体積基準平均粒径(MV)を意味し、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0036】
(5)タップ密度
二次粒子のタップ密度は、1.4g/ml以上、好ましくは1.5g/ml以上であることが必要とされる。タップ密度が1.4g/ml未満では、このMg被覆複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質の充填性が低くなってしまう。一方、タップ密度の上限値は、特に制限されることはないが、通常の製造条件では3g/ml以下、好ましくは2.8g/ml以下となる。なお、本発明において、タップ密度とは、JIS Z−2504に基づき、容器に採取した試料粉末を、500回タッピングした後のかさ密度を意味し、振とう比重測定器を用いて測定することができる。
【0037】
(6)比表面積
二次粒子の比表面積は、10m
2/g〜25m
2/gであることが好ましく、10m
2/g〜15m
2/gであることがより好ましい。比表面積をこのような範囲に制御することにより、このMg被覆複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質の比表面積を適切な範囲(0.2m
2/g〜0.5m
2/g)に制御することができる。なお、本発明において、比表面積は、窒素ガス吸着によるBET法により測定することができる。
【0038】
1−2.マグネシウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の製造方法
本発明のMg被覆複合水酸化物粒子の製造方法は、上述したMg被覆複合水酸化物粒子の製造方法であって、
不活性雰囲気中、温度を45℃〜55℃、液温25℃基準におけるpH値を11〜12およびアンモニウムイオン濃度を8g/L〜12g/Lに制御した反応水溶液に、少なくともニッケル、コバルトおよびアルミニウムを含有する原料水溶液を供給して、連続晶析法により、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を得る、晶析工程と、
このニッケルコバルト複合水酸化物粒子を含むスラリーとマグネシウムを含む被覆溶液を混合し、混合溶液を形成することにより、マグネシウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を得る、被覆工程と、
を備えることを特徴とする。なお、必要に応じて、以下で説明する洗浄工程や乾燥工程などを追加してもよい。
【0039】
(1)晶析工程
晶析工程は、不活性雰囲気中、温度を45℃〜55℃、液温25℃基準におけるpH値を11〜12に、アンモニウムイオン濃度を8g/L〜12g/Lに制御した反応水溶液に、少なくともニッケル、コバルトおよびアルミニウムを含有する原料水溶液を供給して、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子(以下、「複合水酸化物粒子」という)を得る工程である。
【0040】
なお、上述したように、通常、アルミニウムが過大に存在する場合の晶析反応では、複合水酸化物粒子の高密度化が阻害される。これに対して、本発明では、晶析法として、連続晶析法を採用するとともに、アルミニウムの添加量と晶析条件を適切に制御することによって、高密度の複合水酸化物粒子の晶析を可能としている。
【0041】
a)供給水溶液
[原料水溶液]
原料水溶液としては、ニッケル、コバルトおよびアルミニウムを含有するものを使用することが必要となる。なお、これらの金属元素の比率は、通常、目的とする正極活物質におけるニッケル、コバルト、アルミニウムの組成比となるように調整される。
【0042】
金属元素の供給原としては、水溶性の金属化合物、具体的には、硝酸塩、硫酸塩および塩化物などを用いることができる。これらの中でも、コストやハロゲンの混入を防止する観点から、ニッケル、コバルトの供給源としては、これらの硫酸塩を好適に用いることができ、アルミニウムの供給源としては、アルミン酸ナトリウムを好適に用いることができる。
【0043】
また、原料水溶液の濃度は、金属化合物の合計で、好ましくは1.0mol/L〜2.6mol/L、より好ましくは1.5mol/L〜2.2mol/Lに調整する。原料水溶液の濃度が1.0mol/L未満では、反応槽当たりの晶析物量が少なくなるため、生産性が低下する。一方、原料水溶液の濃度が2.6mol/Lを超えると、常温での飽和濃度を超えるため、各金属化合物の結晶が再析出して、配管などを詰まらせるおそれがある。
【0044】
なお、金属化合物は、必ずしも原料水溶液として反応槽に供給しなくてもよい。たとえば、混合すると反応して目的とする化合物以外の化合物が生成されてしまう金属化合物を用いて晶析反応を行う場合には、全金属化合物水溶液の合計の濃度が上記範囲となるように、個別に金属化合物水溶液を調製して、個々の金属化合物の水溶液として、所定の割合で反応槽内に供給してもよい。
【0045】
[アルカリ水溶液]
反応水溶液中のpH値を調整するアルカリ水溶液は、特に制限されることはなく、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの一般的なアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。なお、アルカリ金属水酸化物を、直接、反応水溶液に添加することもできるが、pH制御の容易さから、水溶液として添加することが好ましい。この場合、アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度を、20質量%〜50質量%程度することが好ましい。
【0046】
なお、アルカリ水溶液の供給方法は、反応水溶液のpH値が局所的に高くならず、かつ、所定の範囲に維持される限り、特に制限されることはない。たとえば、反応水溶液を十分に撹拌しながら、定量ポンプなどの流量制御が可能なポンプを用いて供給すればよい。
【0047】
[アンモニウムイオン供給体を含む水溶液]
アンモニウムイオン供給体を含む水溶液は、反応水溶液中の金属イオンの溶解度を調整するために添加されるものである。このようなアンモニウムイオン供給体を含む水溶液についても、特に制限されることはなく、たとえば、アンモニア水、または、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウムもしくはフッ化アンモニウムなどの水溶液を使用することができる。
【0048】
なお、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液の供給も、アルカリ水溶液と同様に、流量制御が可能なポンプを利用することができる。
【0049】
b)反応条件
[反応温度]
反応水溶液の温度(反応温度)は、45℃〜55℃、好ましくは47℃〜53℃の範囲に制御することが必要となる。上述のように、本発明の複合水酸化物粒子を構成する一次粒子は、その形状が直方体状であることが好ましいが、反応温度が45℃未満では、頂点、稜および面の数が増加し、一次粒子が7面以上の平面から構成される多面体状となるため、タップ密度が低下してしまう。一方、反応温度が55℃を超えると、一次粒子が薄片状となり、所望の結晶構造および形状を有する二次粒子が得られなくなる。
【0050】
[pH値]
反応水溶液のpH値は、液温25℃基準で、11〜12、好ましくは11.3〜11.8の範囲に制御することが必要となる。pH値が11未満では、晶析した複合水酸化物粒子の一部が溶解してしまい、所望の組成比を有する複合水酸化物粒子を得ることができない。一方、pH値が12を超えると、複合水酸化物粒子が微細化してしまう。
【0051】
[アンモニウムイオン濃度]
反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度は、8g/L〜12g/L、好ましくは9g/L〜11g/Lの範囲内に制御することが必要となる。反応水溶液中においてアンモニウムイオンは錯化剤として機能するため、アンモニウムイオン濃度が8g/L未満では、金属イオンの溶解度を一定に保持することができず、また、反応水溶液がゲル化しやすくなり、形状や粒径の整った複合水酸化物粒子を得ることが困難となる。一方、アンモニウムイオン濃度が12g/Lを超えると、金属イオンの溶解度が大きくなりすぎるため、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増加し、組成ずれなどの原因となる。
【0052】
[反応雰囲気]
晶析工程中の雰囲気(反応雰囲気)は、不活性雰囲気、好ましくは酸素濃度が2容量%以下、より好ましくは1容量%以下の不活性雰囲気とすることが必要となる。すなわち、酸素をほとんど含まない、窒素やアルゴンなどの不活性ガスからなる雰囲気とすることが好ましく、反応水溶液の表面に、これらの不活性ガスを吹き付けて、反応水溶液と酸素との接触を完全に遮断することがより好ましい。晶析工程中の反応雰囲気を、このような不活性雰囲気に制御することにより、高密度で適度な粒径を有する二次粒子を得ることができる。これに対して、酸化性雰囲気、特に、酸素濃度が2容量%を超えるような雰囲気では、複合水酸化物の一次粒子が酸化によって微細化し、得られる二次電池の充放電容量を改善することができなくなる。
【0053】
c)撹拌速度
反応水溶液は、晶析工程中、好ましくは100rpm〜130rpm、より好ましくは110rpm〜120rpmで撹拌することが必要となる。これにより、略球状の二次粒子が得られる。これに対して、撹拌速度が100rpm未満では、一次粒子が過剰に凝集することによって、略球状の二次粒子を得ることができないおそれがある。一方、撹拌速度が130rpmを超えると、一次粒子の凝集が抑制され、複合水酸化物粒子(二次粒子)が微細化するおそれがある。
【0054】
d)晶析方法
本発明では、充填性に優れる正極活物質を得る観点から、晶析方法として、連続晶析法を採用することが必要となる。すなわち、連続晶析方法によれば、粒径の大きな複合水酸化物粒子(二次粒子)を効率的に得ることができるため、これを前駆体とする正極活物質の充填性を向上させることが可能となる。これに対して、バッチ式晶析法を採用した場合には、複合水酸化物粒子の大粒径化が難しく、正極活物質の充填性を向上させることができない。
【0055】
e)回収方法
晶析工程で得られた複合水酸化物粒子の回収は、公知の方法で行うことができる。たとえば、晶析工程で得られた複合水酸化物粒子を含む反応水溶液を、フィルタープレスなどに投入し、ろ過することにより回収することができる。
【0056】
(2)洗浄工程
洗浄工程は、晶析工程で得られた複合水酸化物粒子を洗浄し、残留する不純物を除去する工程である。これにより、正極活物質の結晶構造をより安定化させることができる。
【0057】
洗浄方法は、特に制限されることなく、公知の方法を利用することができる。たとえば、晶析工程で得られた複合水酸化物粒子に洗浄液を加えて撹拌した後、フィルタープレスなどでろ過することにより、洗浄することができる。この際、洗浄液としては、精製水などの洗浄水や水酸化ナトリウム水溶液を用いることができる。水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合には、その濃度を5質量%〜10質量%とすることが好ましい。また、洗浄液の使用量は、複合水酸化物粒子の質量の5倍〜15倍程度が好ましく、8倍〜12倍程度がより好ましい。さらに、洗浄は、1回の操作で行うよりも、複数回に分けて行うことが好ましく、2回〜5回程度に分けて行うことがより好ましい。
【0058】
(3)被覆工程
被覆工程は、晶析工程で得られた複合水酸物粒子を含むスラリーとマグネシウムを含む被覆溶液を混合し、混合溶液を形成することにより、Mg被覆複合水酸化物粒子を得る工程である。
【0059】
はじめに、晶析工程で得られた複合水酸化物粒子に適量の溶媒を加えて撹拌し、複合水酸化物粒子をスラリー化する。溶媒としては、不純物の混入がない精製水などの純水を用いることが好ましい。
【0060】
次に、このスラリーを撹拌しながら、必要に応じて、水酸化ナトリウムなどのpH調整剤を滴下し、25℃におけるpH値が、好ましくは10〜11、より好ましくは10.3〜10.7の範囲の一定値となるように調整する。pH値がこの範囲から外れると、複合水酸化物粒子を構成する、ニッケル、コバルトおよびアルミニウムの一部が溶出したり、または、マグネシウムまたはマグネシウム化合物による被覆が十分に行われず、所望の組成を有するMg被覆複合水酸化物粒子が得られなくなったりする場合がある。
【0061】
続いて、スラリーを撹拌しつつ、被覆材料となるマグネシウムを含む溶液(被覆溶液)を供給して混合する。この際、被覆溶液の供給量は、被覆工程後に得られるMg被覆複合水酸化物粒子の組成が、目的とするMg被覆複合水酸化物粒子の組成となるよう適宜調整することが必要となる。なお、被覆溶液としては、硫酸マグネシウムなどの水溶性のマグネシウム塩を精製水に溶解したものを使用することが好ましく、マグネシウムイオン濃度が0.1mоl/L〜1.0mоl/Lの範囲にあるものを使用することがより好ましい。また、被覆溶液の供給は、スラリー中の複合水酸化物粒子の量などの条件に応じて適宜調整する必要があるが、概ね、5分間〜15分間、好ましくは10分間程度かけて行うことが好ましい。
【0062】
以上の被覆工程によって、複合水酸化物粒子の表面に、マグネシウムまたはマグネシウム化合物を析出させることで、Mg被覆複合水酸化物粒子を得ることができる。このMg複合水酸化物粒子は、フィルタープレスなどでろ過することにより回収する。回収したMg複合水酸化物粒子は、乾燥後、正極活物質の前駆体として用いることができる。なお、余剰のマグネシウムなどの不純物を除去する観点から、上述した洗浄工程と同様の方法で洗浄し、乾燥した後、正極活物質の前駆体として用いることが好ましい。
【0063】
(4)乾燥工程
乾燥工程は、被覆工程で得られたMg被覆複合水酸化物粒子を加熱し、残留水分を除去する工程である。これにより、後述する熱処理工程や混合工程における各操作容易に行うことができる。
【0064】
乾燥工程における加熱温度(乾燥温度)は、100℃〜150℃の範囲とすることが好ましい。乾燥温度が100℃未満では、残留水分を除去するのに長時間を要し、生産性が悪化する。一方、乾燥温度が150℃を超えても、それ以上の効果を得ることができないばかりか、エネルギコストの増大を招く。
【0065】
2.非水系電解質二次電池用正極活物質
2−1.非水系電解質二次電池用正極活物質
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質は、一般式:Li
uNi
1-x-y-zCo
xAl
yMg
zO
2(ただし、1.00≦u≦1.04、0.05≦x≦0.20、0.01≦y≦0.06、0.01≦z≦0.03)で表され、層状構造のリチウムニッケルコバルト複合酸化物粒子からなる。この正極活物質は、複数の一次粒子が凝集して形成された中実構造の二次粒子からなり、XRD測定によるリートフェルト解析から求められる(003)面結晶子径が1200Å〜1600Åであることを特徴とする。また、二次粒子の平均粒径が11.5μm〜14.5μmであり、タップ密度が2.6g/ml以上あり、かつ、比表面積が0.2m
2/g〜0.5m
2/gであることを特徴とする。
【0066】
(1)組成
本発明の正極活物質は、一般式:Li
uNi
1-x-y-zCo
xAl
yMg
zO
2(ただし、1.00≦u≦1.04、0.05≦x≦0.20、0.01≦y≦0.06、0.01≦z≦0.03)で表される。なお、正極活物質の組成は、ICP発光分光分析法などによって求めることができる。
【0067】
リチウム(Li)の含有量を示すuの値は、1.00〜1.04、好ましくは1.01〜1.03、より好ましくは1.015〜1.025の範囲とする。uの値が1.00未満では、リチウム量が不足し、所望の組成を有する正極活物質以外の金属酸化物粒子が生成するため、得られる二次電池の充放電容量が低下する。一方、uの値が1.04を超えると、正極活物質同士が焼結し、比表面積が低下するため、同様に充放電容量が低下する。
【0068】
ニッケル(Ni)は、二次電池の高電位化および高容量化に寄与する元素である。ニッケルの含有量を示す(1−x−y−z)の値は、0.75〜0.93、好ましくは0.81〜0.84の範囲とする。(1−x−y−z)の値が0.75未満では、この正極活物質を用いた二次電池の充放電容量を向上させることができない。一方、(1−x−y−z)の値が0.93を超えると、コバルト、アルミニウムおよびマグネシウムの含有量が減少し、その添加効果を十分に得ることができなくなる。
【0069】
コバルト(Co)は、充放電サイクル特性の向上に寄与する元素である。コバルトの含有量を示すxの値は、0.05〜0.20、好ましくは0.1〜0.15の範囲とする。xの値が0.05未満では、この正極活物質の結晶構造が不安定になる。一方、xの値が0.20を超えると、二次電池の充放電容量が低下してしまう。
【0070】
アルミニウム(Al)は、結晶構造の安定化に寄与する元素である。アルミニウムの含有量を示すyの値は、0.01〜0.06、好ましくは0.02〜0.04の範囲とする。yの値が0.01未満では、結晶構造を安定化する効果を十分に得ることができない。一方、yの値が0.06を超えると、正極活物質の高密度化が阻害され、二次電池の充放電容量が低下してしまう。
【0071】
マグネシウム(Mg)も同じく結晶構造安定化、特に温度耐性に寄与する元素である。マグネシウムの含有量を示すzの値は、0.01〜0.03、好ましくは0.015〜0.025の範囲とする。zの値が0.01未満では、上記効果を十分に得ることができない。一方、zの値が0.03を超えると、二次電池の充放電容量が低下してしまう。
【0072】
(2)(003)面結晶子径
本発明の正極活物質は、XRD測定によるリートフェルト解析から求められる(003)面結晶子径が1200Å〜1600Å、好ましくは1300Å〜1600Å、より好ましくは1400Å〜1600Åの範囲にある。(003)面結晶子径がこのような範囲にある正極活物質は、結晶性が高く、充放電容量やサイクル特性に優れた二次電池を実現することができる。これに対して、(003)面結晶子径が1200Å未満では、正極活物質の結晶性が低く、これを用いた二次電池の充放電容量が低下してしまう。一方、(003)面結晶子径が1600Åを超えると、比表面積が低下するため、二次電池の出力特性などの電池性能が低下する。
【0073】
(3)粒子構造
本発明の正極活物質は、複数の一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子により構成される。また、この正極活物質は、層状構造のリチウムニッケルコバルト複合酸化物粒子から構成され、XRD測定では、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)と同様の回折パターンを示す。すなわち、本発明の正極活物質は、LiNiO
2によって構成されたマトリックス中に、コバルト、アルミニウムおよびマグネシウムが一様に固溶した結晶構造を有する。このため、本発明の正極活物質では、マグネシウムおよびアルミニウムの添加をごく微量とした場合であっても、結晶構造の安定性を改善することができ、二次電池を構成した場合に、充放電容量、サイクル特性および高温安定性を同時に改善することが可能となる。
【0074】
なお、正極活物質の粒子形状は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により確認することができる。また、粒子構造は、正極活物質を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工などによって断面観察が可能な状態とした上で、SEM観察することにより確認することができる。
【0075】
(4)平均粒径
正極活物質(二次粒子)の平均粒径は、11.5μm〜14.5μm、好ましくは12μm〜13.5μmであることが必要とされる。正極活物質の平均粒径がこのような範囲にあれば、タップ密度も大きくなり、得られる二次電池の充放電容量を増加させることができる。これに対して、平均粒径が11.5μm未満では正極活物質のタップ密度が低下するため、充放電容量を増加させることができない。一方、平均粒径が14.5μmを超えると、正極活物質の比表面積が大幅に低下してしまう。なお、本発明において、平均粒径とは、体積基準平均粒径(MV)を意味し、レーザ光散乱式粒径分布測定機により求めることができる。
【0076】
(5)タップ密度
正極活物質のタップ密度は、2.5g/ml以上、好ましくは2.6g/ml以上であることが必要とされる。タップ密度が2.5g/ml未満では、充填性が低く、二次電池全体の充放電容量を改善することができない。一方、タップ密度の上限値は、特に制限されることはないが、通常の製造条件では4g/ml以下、好ましくは3.8g/ml以下となる。なお、本発明において、タップ密度とは、JIS Z−2504に基づき、容器に採取した試料粉末を、100回タッピングした後のかさ密度を意味し、振とう比重測定器を用いて測定することができる。
【0077】
(6)比表面積
正極活物質の比表面積は、0.2m
2/g〜0.5m
2/gであることが好ましく、0.30m
2/g〜0.40m
2/gであることがより好ましい。比表面積をこのような範囲に制御することにより、この正極活物質を用いた二次電池の出力特性を確保しつつ、サイクル特性を改善することが可能となる。これに対して、正極活物質の比表面積が0.2m
2/g未満では、二次電池を構成した場合に、電解液との反応面積を確保することができず、出力特性が大幅に低下する。一方、正極活物質の比表面積が0.5m
2/gを超えると、電解液との反応性が高くなりすぎるため、サイクル特性を十分に改善することができない。なお、本発明において、比表面積は、窒素ガス吸着によるBET法により測定することができる。
【0078】
2−2.非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、上述したMg被覆複合水酸化物粒子とリチウム化合物を混合して、リチウム混合物を得る、混合工程と、このリチウム混合物を、酸化性雰囲気下、600℃〜800℃で焼成する、焼成工程とを備えることを特徴とする。なお、必要に応じて、以下で説明する熱処理工程、第2洗浄工程および分級工程などを追加してもよい。
【0079】
(1)熱処理工程
熱処理工程は、被覆工程または乾燥工程後のMg被覆複合水酸化物粒子をコージェライト製の匣鉢などに入れて、酸化性雰囲気中で加熱することにより酸化し、熱処理粒子を得る工程である。熱処理工程を行うことで、焼成工程において、正極活物質の合成反応を円滑に進行させることが可能となるため、結晶性がより優れた正極活物質を得ることができる。なお、熱処理粒子には、熱処理工程において余剰水分を除去されたMg被覆複合水酸化物粒子のみならず、熱処理工程により、酸化物に転換されたMg被覆複合酸化物粒子、または、これらの混合物も含まれる。
【0080】
熱処理工程における雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%以上の雰囲気とすることがより好ましく、大気ないしは酸素気流中で行うことがさらに好ましい。酸素濃度が18容量%未満では、Mg被覆複合水酸化物粒子を十分に酸化することができない場合がある。
【0081】
熱処理工程における加熱温度(熱処理温度)は、焼成温度以下で、かつ、600℃〜800℃とすることが好ましく、680℃〜720℃とすることがより好ましい。熱処理温度が600℃未満では、Mg被覆複合水酸化物粒子を十分に酸化することができない場合がある。一方、熱処理温度が800℃を超えても、それ以上の効果を得ることができないばかりか、エネルギコストの増大を招く。
【0082】
熱処理温度における保持時間(熱処理時間)は、特に制限されることはないが1時間〜10時間とすることが好ましい。
【0083】
なお、このような熱処理工程に用いる炉は、酸化性雰囲気中で加熱できるものであれば制限されることはないが、ガス発生のない電気炉などを好適に用いることができる。
【0084】
(2)混合工程
混合工程は、Mg被覆複合水酸化物粒子または熱処理粒子に、リチウム化合物を混合して、リチウム混合物を得る工程である。
【0085】
混合工程では、リチウム混合物中のリチウム以外の金属原子、具体的には、ニッケル、コバルト、アルミニウムおよびマグネシウムの原子数の総和(Me)に対する、リチウムの原子数(Li)の比率(Li/Me)が、1.00〜1.04、好ましくは1.01〜1.03の範囲となるように、Mg被覆複合水酸化物粒子または熱処理粒子とリチウム化合物を混合することが必要となる。すなわち、焼成工程の前後ではLi/Meはほとんど変化しないので、混合工程におけるLi/Meが、概ね、目的とする正極活物質のLi/Meとなるように、Mg被覆複合水酸化物粒子または熱処理粒子とリチウム化合物を混合することが必要となる。
【0086】
混合工程で使用するリチウム化合物は、特に制限されることはないが、入手の容易性から、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウムまたはこれらの混合物を用いることが好ましい。特に、取り扱いの容易さや品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを用いることが好ましい。
【0087】
また、Mg被覆複合水酸化物粒子または熱処理粒子とリチウム化合物は、微粉が生じない程度に十分に混合することが好ましい。混合が不十分であると、個々の粒子間でLi/Meにばらつきが生じ、十分な電池特性を得ることができない場合がある。なお、混合には、一般的な混合機を使用することができる。たとえば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができる。
【0088】
(3)焼成工程
焼成工程は、混合工程で得られたリチウム混合物を、酸化性雰囲気下、600℃〜800℃で焼成し、正極活物質を合成する工程である。なお、焼成工程で用いる炉は、酸化性雰囲気下でリチウム混合物を焼成することができる限り、特に制限されることはなく、バッチ式または連続式の炉のいずれも用いることができる。
【0089】
焼成雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%以上の雰囲気とすることがより好ましく、大気ないしは酸素気流中で行うことがさらに好ましい。焼成雰囲気が非酸化性雰囲気では、正極活物質の合成反応を十分に進行させることができず、正極活物質の結晶性が低下することとなる。
【0090】
焼成温度は、600℃〜800℃、好ましくは700℃〜770℃とすることが必要となる。焼成温度が600℃未満では、リチウムが十分に拡散せず、余剰のリチウムや未反応のMg被覆複合水酸化物粒子または熱処理粒子が残存したり、得られる正極活物質の(003)面結晶子径を1200Å以上としたりすることができない。一方、焼成温度が800℃を超えると、正極活物質同士が激しく焼結し、異常粒成長が引き起こされ、(003)面結晶子径が1600Åを超えてしまう。
【0091】
焼成温度での保持時間(焼成時間)は、8時間〜15時間とすることが好ましく、10時間〜12時間とすることがより好ましい。焼成時間が8時間未満では、正極活物質の合成が十分に進行しないおそれがある。一方、焼成時間が15時間を超えると、生産性が著しく悪化するおそれがある。
【0092】
なお、焼成工程後の正極活物質は、凝集または軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合には、正極活物質の凝集体または焼結体を解砕することが好ましい。これによって、正極活物質の平均粒径や粒度分布を好適な範囲に調整することができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作を意味する。
【0093】
解砕の方法としては、公知の手段を用いることができ、たとえば、ピンミルやハンマーミルなどを使用することができる。この際、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整することが好ましい。
【0094】
(4)分級工程
本発明の正極活物質の製造方法では、焼成工程後に、得られた正極活物質を分級してもよい。これにより、粒度分布の狭い正極活物質を得ることができ、二次電池のサイクル特性をさらに改善することが可能となる。なお、分級方法は、特に制限されることなく、公知技術を利用することができる。たとえば、目的とする平均粒径に対応する目開きの篩いを用いて分級する方法を利用することができる。
【0095】
3.非水系電解質二次電池
本発明の非水系電解質二次電池は、正極、負極、セパレータ、非水系電解液などの、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素を備える。なお、以下に説明する実施形態は例示にすぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基づいて、種々の変更、改良を施した形態に適用することも可能である。
【0096】
(1)構成部材
a)正極
本発明により得られた非水系電解質二次電池用正極活物質を用いて、たとえば、以下のようにして非水系電解質二次電池の正極を作製する。
【0097】
まず、本発明により得られた粉末状の正極活物質に、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの溶剤を添加し、これらを混練して正極合材ペーストを作製する。その際、正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水系電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。たとえば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60質量部〜95質量部とし、導電材の含有量を1質量部〜20質量部とし、結着剤の含有量を1質量部〜20質量部とすることができる。
【0098】
得られた正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じて、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧してもよい。このようにして、シート状の正極を作製することができる。この正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断して、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、上述した例示のものに限られることはなく、他の方法を利用してもよい。
【0099】
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。導電材としては、たとえば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0100】
結着剤は、正極活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
【0101】
また、必要に応じて、正極活物質、導電材および活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することができる。溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0102】
b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金など、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0103】
負極活物質としては、たとえば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体ならびにコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0104】
c)セパレータ
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解質を保持する機能を有する。このようなセパレータとしては、たとえば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に制限されることはない。
【0105】
d)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0106】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0107】
支持塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiN(CF
3SO
2)
2、およびこれらの複合塩などを用いることができる。
【0108】
さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0109】
(2)非水系電解質二次電池
以上の正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明の非水系電解質二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。
【0110】
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層することにより電極体とし、これを非水系電解液に含浸し、正極集電体と外部に通じる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通じる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続した後、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【0111】
(3)非水系電解質二次電池の特性
本発明の非水系電解質二次電池は、上述したように、本発明の正極活物質を正極材料として用いているため、充放電容量、サイクル特性および高温安定性に優れていると評価することができる。
【0112】
たとえば、本発明の正極活物質を用いて、
図1に示すような2032型コイン電池を構成した場合には、初期放電容量を187mAh/g以上、好ましくは188mAh/g以上、より好ましくは190mAh/g以上することができる。また、この2032型コイン電池を60℃の環境下で3週間保管した場合において、初期放電容量C
0に対する3週間保管後の放電容量C
3の割合C
3/C
0を84.0%以上、好ましくは85.0%以上、より好ましくは88.0%以上とすることができる。さらに、200サイクル容量維持率を93%以上、好ましくは94%以上、より好ましくは95%以上とすることができる。
【0113】
(4)用途
本発明の非水系電解質二次電池は、上述のように、充放電容量およびサイクル特性に優れるため、小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適である。また、このような本発明の非水系電解質二次電池は、小型化が可能であり、かつ、高価な保護回路を簡略化することもできるため、搭載スペースに制約を受ける輸送用機器、特に電気自動車の電源としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0114】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。
【0115】
(実施例1)
a)Mg被覆複合水酸化物粒子の作製
複合水酸化物粒子を連続晶析法により晶析させた後、この複合水酸化物粒子をマグネシウムで被覆することにより、Mg被覆複合水酸化物粒子を製造した。
【0116】
はじめに、反応槽内に精製水を供給し、撹拌速度120rpmで撹拌しつつ、その温度を50℃に調整するとともに、窒素ガスを導入し、酸素濃度が0.7容量%以下の不活性雰囲気とした。この状態で、反応槽内に、硫酸ニッケルおよび硫酸コバルトを含む水溶液ならびにアルミン酸ナトリウム水溶液をポンプにより一定流量で供給した。この際、反応槽内の水溶液(反応水溶液)の液温25℃基準におけるpH値が11.6に、アンモニウムイオン濃度が10g/Lに維持されるように、水酸化ナトリウム水溶液とアンモニア水を適時供給し、複合水酸化物粒子を晶析させた。その後、反応槽からオーバーフローした複合水酸化物粒子を含む反応水溶液をフィルタープレスに投入し、加圧ろ過することにより、複合水酸化物粒子を回収した(晶析工程)。
【0117】
この複合水酸化物粒子に、その質量の10倍の6質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて撹拌し、再度フィルタープレスに投入した後、複合水酸化物粒子の質量の10倍の精製水を送り込み、加圧ろ過することにより、この複合水酸化物粒子を洗浄した(洗浄工程)。
【0118】
洗浄後の複合水酸化物粒子を精製水に分散させてスラリー化し、このスラリーのpH値が10.5となるように、6質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加した。この状態で、スラリーを撹拌しながら、0.2mol/Lの硫酸マグネシウム水溶液を、100mL/分で10分間かけて供給することにより、複合水酸化物粒子の表面にマグネシウムを析出させて、Mg被覆複合水酸化物粒子を得た。その後、このMg被覆複合水酸化物粒子を、スラリーごとフィルタープレスに投入し、精製水を送り込んで洗浄およびろ過した(被覆工程)。続いて、このMg被覆複合水酸化物粒子を乾燥機に入れて、120℃で加熱することにより、粉末状のMg被覆複合水酸化物粒子を得た(乾燥工程)。
【0119】
b)Mg被覆複合水酸化物粒子の評価
[組成]
ICP発光分光分析の結果、このMg被覆複合水酸化物粒子は、一般式:Ni
0.80Co
0.15Al
0.04Mg
0.01(OH)
2で表されるものであることが確認された。
【0120】
[粒子構造]
SEM(株式会社日立製作所製、S−4700)を用いた観察の結果、このMg被覆複合水酸化物粒子は、直方体状一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子からなることが確認された。続いて、このMg被覆複合水酸化物粒子を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリシャ加工により断面観察可能な状態とした上で、同様にSEM観察した結果、中実構造を備えていることが確認された。また、このMg被覆複合水酸化物粒子を構成する一次粒子の平均粒径は0.08μmであることが確認された。
【0121】
さらに、粒子断面を特性X線分光分析した結果、このMg被覆複合水酸化物粒子は、ニッケル、コバルトおよびアルミニウムからなる中心部が、厚さ0.002μmの水酸化マグネシウムからなる被膜によって被覆されたものであることが確認された。
【0122】
[二次粒子の平均粒径、タップ密度および比表面積]
レーザ光回折散乱式粒度分析計(日機装株式会社製、マイクロトラック)、振とう比重測定器(蔵持科学器械製作所製、KRS−409)および窒素吸着式BET法測定機(マウンテック製、マックソーブ)を用いた測定の結果、このMg被覆複合水酸化物粒子は、平均粒径が11μm、タップ密度が1.6g/ml、比表面積が12m
2/gであることが確認された。
【0123】
c)正極活物質の作製
粉末状のMg被覆複合水酸化物粒子をコージェライト製の匣鉢に入れ、700℃で10時間加熱することにより熱処理粒子とした(熱処理工程)。室温まで放冷した後、この熱処理粒子と水酸化リチウムを、Li/Me=1.02となるように混合し、リチウム混合物を得た(混合工程)。このリチウム混合物をコージェライト製の匣鉢に入れ、酸素雰囲気下、730℃で12時間加熱することにより、正極活物質を合成した(焼成工程)。最後に、この正極活物質を目開き38μmの篩で分級した(分級工程)。
【0124】
c)正極活物質の評価
[組成]
ICP発光分光分析の結果、この正極活物質は、一般式:Li
1.02Ni
0.80Co
0.15Al
0.04Mg
0.01O
2で表されるものであることが確認された。
【0125】
[粒子構造]
SEM観察の結果、この正極活物質は、直方体状一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子からなることが確認された。続いて、この正極活物質を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリシャ加工により断面観察可能な状態とした上で、同様にSEM観察した結果、中実構造を備えていることが確認された。
【0126】
また、粉末X線回折測定の結果、この正極活物質は、LiNiO
2と同様の結晶構造のみから構成されており、この結晶構造中に、コバルト、アルミニウムおよびマグネシウムが一様に固溶していることが確認された。
【0127】
[結晶子径]
X線回折装置(パナリティカル製、X’Pert3 powder)を用いたXRD測定によるリーフェルト解析の結果、この正極活物質の(003)面結晶子径は1439Åであることが確認された。
【0128】
[平均粒径、タップ密度および比表面積]
レーザ光回折散乱式粒度分析計、振とう比重測定器および窒素吸着式BET法測定機による測定の結果、この正極活物質の平均粒径は12.8μmであり、タップ密度は2.63g/ml、比表面積は0.31m
2/gであることが確認された。
【0129】
d)二次電池の作製および評価
[初期放電容量の評価]
この正極活物質を用いて、
図1に示すような2032型コイン電池1を作製した。はじめに、上述の正極活物質を85質量%、アセチレンブラックを10質量%、PVDFを5質量%ずつ秤量し、これらを混合した後、これにNMP(n−メチルピロリドン)を適量加えてペースト状にした。この正極合材ペーストを、アルミニウム箔上に、乾燥後の正極活物質の面密度が7mg/cm
2となるように塗布し、120℃で真空乾燥した後、直径が13mmの円板状に打ち抜くことで、正極3aを作製した。なお、負極3bにはカーボンを、電解液には、1MのLiClO
4を支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液を使用し、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で、2032型コイン電池1を組み立てた。
【0130】
2032型コイン電池1の作製後、24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2として、カットオフ電圧が4.3Vとなるまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧が3.0Vになるまで放電したときの放電容量を測定する充放電試験を行い、初期放電容量を求めた。この際、初期放電容量の測定には、マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。この結果、初期放電容量は190.0mAh/gであることが確認された。また、初期充電容量に対する初期放電容量(初期効率)は、88.2%であることが確認された。
【0131】
[サイクル特性の評価]
負極にリチウム金属を用いたこと以外は同様にして、2032型コイン電池1を組み立てた。作製後、同様にして初期放電容量を測定した。続いて、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2として、カットオフ電圧が4.3Vとなるまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧が3.0Vになるまで放電するサイクルを200回繰り返した後の放電容量を測定した。この結果、初期放電容量に対する200サイクル目の放電容量(200サイクル容量維持率)は、95%であることが確認された。
【0132】
[高温安定性の評価]
ラミネート型の電池を組み立て後、同様にして、初期放電容量C
0を測定した。また、を60℃に維持した保温器内に3週間保管した後、同様にして、放電容量C
3を測定した。この結果、C
3/C
0が89.3%であることが確認された。
【0133】
(実施例2)
晶析工程において、反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を11.9に調整し、維持したこと以外は実施例1と同様にして、Mg被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0134】
(実施例3)
晶析工程において、反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を11.3に調整し、維持したこと以外は実施例1と同様にして、Mg被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0135】
(実施例4)
晶析工程において、反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を11.9とし、撹拌速度を114rpm(実施例1の95%)としたこと以外は実施例1と同様にして、Mg被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0136】
(実施例5)
被覆工程において、スラリーに、0.6mol/Lの硫酸マグネシウム水溶液を、100ml/分で10分間かけて供給したこと、すなわち、マグネシウムの添加量を3倍としたこと以外は実施例1と同様にして、Mg被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0137】
(実施例6)
焼成工程において、焼成温度を700℃としたこと以外は実施例1と同様にして、Mg被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4示す。
【0138】
(実施例7)
焼成工程において、焼成温度を710℃としたこと以外は実施例1と同様にして、Mg被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0139】
(実施例8)
焼成工程において、焼成温度を760℃としたこと以外は実施例1と同様にして、Mg被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0140】
(実施例9)
焼成工程において、焼成温度を770℃としたこと以外は実施例1と同様にして、Mg被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0141】
(比較例1)
被覆工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を作製し、その評価を行った。これらの結果を表2〜4に示す。
【0142】
(比較例2)
被覆工程において、スラリーに、1mol/Lの硫酸マグネシウム水溶液を、100ml/分で10分間かけて供給したこと、すなわち、マグネシウムの添加量を5倍としたこと以外は実施例1と同様にして、Mg被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0143】
【表1】
【0144】
【表2】
【0145】
【表3】
【0146】
【表4】