【解決手段】 フッ化バリウムが0.1〜1モル%添加されたフッ化セリウム単結晶を800℃以上、融点未満の温度で熱処理することで、340nmにおける初期内部透過率が99%/cm以上であって、1000kGyのγ線を照射し100日経過した後の340nmにおける内部透過率が、前述の初期内部透過率の99%以上であるγ線耐性の高いフッ化セリウム単結晶が得られる。
溶融成長法で製造され、フッ化バリウムが0.1〜1モル%添加されたフッ化セリウム単結晶を800℃以上、融点未満の温度で熱処理することを特徴とするγ線耐性が向上したフッ化セリウム単結晶の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
第一の本発明はフッ化セリウムの製造方法である。当該製造方法は、結晶引上げ法等の融液成長法によってフッ化セリウム単結晶を得る工程、および該フッ化セリウム単結晶に熱処理を施す工程の少なくとも二つの工程を有する。
【0014】
融液成長法によってフッ化セリウム単結晶を得る方法は特に限定されず、公知の融液成長法を採用でき、結晶引上げ法(チョクラルスキー法)、坩堝降下法(ブリッジマン法)、帯溶融法(ゾーンメルティング法)、浮遊帯溶融法(フローティングゾーン法)等、公知の如何なる製造方法で得られた単結晶でもよい。
【0015】
代表的な結晶引上げ法を例に簡単に説明する。γ線耐性は原料の品質に大きく影響されるため、使用するフッ化セリウム及びフッ化バリウム原料は、純度の高い原料を用いることが重要である。具体的には純度99.9%以上、好ましくは99.99%以上の純度の原料を用いる。
【0016】
使用するフッ化セリウム、フッ化バリウム原料を所定の割合で良く混合する。フッ化バリウムの濃度が低い場合、γ線耐性が低下する傾向がみられ、フッ化バリウムの濃度が高い場合、シンチレーション発光の発光強度が低下する傾向がみられるため、フッ化バリウムの添加量が0.1〜1モル%であり、0.3〜0.7モル%であることが好ましい。添加されたフッ化バリウムは通常、全量がフッ化セリウム単結晶中に取り込まれる。
【0017】
混合した原料をまず、フッ化亜鉛、フッ化鉛、四フッ化炭素等のスカベンジャー存在下に加熱溶融して酸化物や水分等の不純物の大部分を除去した溶融原料を作成する。
【0018】
続いて、溶融原料を単結晶引上げ炉内の坩堝に投入する。該坩堝内に投入した溶融原料は、単結晶引き上げ炉内で溶融させるに先立って減圧下で加熱処理を施してさらに吸着水分を除去することが好ましい。十分に加熱を行って吸着水分を除去した後、溶融原料を溶融させ、該融液から単結晶を引上げる。
【0019】
上記加熱による水分の除去及び引上げの実施は、残留する水分の影響をなくすため、スカベンジャーの存在下で実施することが好ましい。スカベンジャーとしては、溶融原料と共に仕込まれるフッ化亜鉛、フッ化鉛、ポリ四フッ化エチレンなどの固体スカベンジャーや、チャンバー内に雰囲気として導入される四フッ化炭素、三フッ化炭素、六フッ化エタンなどの気体スカベンジャーが使用される。固体スカベンジャーの使用量は、溶融原料に対して0.005〜5重量%が好適である。
【0020】
引上げ法に用いる種結晶は、フッ化セリウム若しくは、フッ化バリウムを添加したフッ化セリウムの単結晶であり、種結晶体の育成面は、製造する単結晶の、結晶の主成長面に応じて、〔100〕面、〔001〕面等から適宜に採択すればよい。単結晶の育成中において、これら種結晶は、引き上げ軸を中心として回転させることが好ましく、回転速度は1〜20回/分であることが好ましい。また、上記種結晶の回転に併せて坩堝も、上記種結晶の回転方向と反対方向に同様の回転速度で回転させてもよい。一定の引上げ速度で引き上げ軸を連続的に引上げることにより、目的のフッ化セリウム単結晶を得ることができる。該引上げ速度は、特に限定されないが、0.5〜10mm/hrの範囲とすることが好ましい。
【0021】
このようにして所望の大きさの単結晶を引上げた後、炉内から取り出せる程度の温度まで降温する。降温速度は、割れや欠けの発生し難いアズグロウン単結晶とするために、0.6〜180℃/時間が好ましく、6〜30℃/時間とすることがより好ましい。
【0022】
本発明の製造方法は、高いγ線耐性を有するフッ化セリウム単結晶を製造するため、上記のようにして得た、あるいは坩堝降下法など他の方法で得たフッ化セリウム単結晶を、800℃以上、融点未満の温度で熱処理することを最大の特徴とする。当該熱処理において、熱処理の対象である単結晶内部における温度分布ができるだけ平坦化されているほど、その後の加工工程において割れにくい単結晶が得られる。具体的には、熱処理中の単結晶設置部における温度勾配が、好ましくは10℃/cm以下、さらに好ましくは5℃/cm以下である。
【0023】
本発明で使用する熱処理炉は、特に限定されないが、フッ化セリウム単結晶の側部全周および上下を覆う収容容器と、該収容容器の外部に配置された断熱容器と、該断熱容器の外部に配置されたヒーターと、該ヒーターの外部に配置された断熱材を備えている。
図1は本発明で好適に使用される熱処理炉の縦断面模式図である。収容容器、ヒーター、断熱性材料を構成する材料としては、熱処理温度下で使用可能な材料であれば、公知の如何なる材料を用いてもよいが、フッ化セリウム単結晶の熱処理は800℃以上で行われるため、高温耐熱性、強度、フッ化物単結晶の汚染防止等の観点から炭素系の材料の使用が好ましい。
【0024】
上記のように引上げ法で得た、あるいは坩堝降下法など他の方法で得たフッ化セリウム単結晶を収容容器内に設置する。該坩堝内に投入したアズグロウン単結晶は、高温での熱処理を施すに先立って減圧下で加熱処理を施して吸着水分を除去することが好ましい。熱処理工程においても残留する水分の影響をなくすため、スカベンジャーの存在下で実施することが好ましい。スカベンジャーとしては、単結晶引き上げ工程に記載した固体スカベンジャーや気体スカベンジャーが使用される。
【0025】
減圧下で加熱処理を行った後、熱処理炉内の圧力が大気圧になるまでアルゴンなどの不活性ガスを導入する。不活性ガスに加え、四フッ化炭素、三フッ化炭素、六フッ化エタンなどの気体スカベンジャーを混合・希釈したガスを導入してもよい。大気圧までガスを導入した後は、熱処理炉を密閉してしまってもよいし、ガスを流し続けてもよい。
【0026】
その後、所定の熱処理温度まで昇温する。熱処理温度とは、熱処理の対象物であるフッ化セリウム単結晶に付与する最高温度のことである。昇温の速度は特に規定されるものではなく、熱処理炉のヒーター容量、熱処理工程に要する時間から決定すればよく、10〜100℃/時間が好ましい。
【0027】
熱処理は800℃以上、フッ化セリウムの融点未満の温度で行う。熱処理温度が800℃未満の場合、酸素による汚染と思われる単結晶の透過率の悪化が見られ、高品位のフッ化セリウム単結晶を得ることができない。収容容器内に設置した固体スカベンジャーの効果が十分に発揮されていないためと推定している。なお、熱処理温度が800℃〜1100℃の範囲では、後述する加工工程において、単結晶の割れによって製品収率が低下するおそれがある。また、熱処理の温度はフッ化セリウムの融点である1440℃まで上げることが可能であるが、不慮の過昇温による単結晶の溶融や、単結晶の昇華を防止するために1350℃以下とすることが好ましい。以上のことから熱処理温度は1100℃〜1350℃の範囲が好ましい。
【0028】
熱処理温度に到達した後は、該温度で1〜48時間保持し、フッ化セリウム単結晶の温度を安定化させる。その後ゆっくりと室温まで冷却する。冷却の温度プロファイルは公知のプロファイルを採用することができるが、熱処理中及び、後述する加工工程において、単結晶の割れを防止するため、好ましくは100℃/時間以下、特に好ましくは10℃/時間以下の速度で冷却する。室温付近まで冷却させて熱処理が終了した後には、熱処理炉を開放してフッ化セリウム単結晶を取り出す。
【0029】
なおここまではアズグロウン単結晶で熱処理を行う方法を記したが、本発明におけるフッ化セリウム単結晶の熱処理は、後述する加工工程を経て形状を整えた単結晶で行ってもよい。
【0030】
熱処理炉から取り出したフッ化セリウム単結晶は、ダイヤモンドワイヤーソー、バンドソーなど公知の切断方法で目的の形状へ切断する。切断後のフッ化セリウム単結晶は、研削盤、ラップ盤など公知の研削、研磨方法を用いて、目的の形状、表面状態に仕上げる。
【0031】
上記熱処理を施すことにより、本発明のフッ化セリウム単結晶は、340nmにおける初期内部透過率が99%/cm以上であって、Co−60から発せられるγ線を1000kGy照射し100日経過した後の340nmにおける内部透過率が、前述の初期内部透過率の99%以上であるフッ化セリウム単結晶となるかかるフッ化セリウム単結晶は、優れた放射線耐性を有している。。
【0032】
本発明において、初期内部透過率とは、前述のγ線を照射する前に異なる厚みにおける透過率の測定から算出したフッ化セリウム単結晶の内部透過率をいう。初期内部透過率をかかる範囲とすることによって、γ線等の放射線によって発せられるシンチレーション光が、フッ化セリウム単結晶内部において吸収されることなく、効率良く外部に取出すことができる。
【0033】
高エネルギーカロリメーターや放射線医療機器等での使用においては、前述の初期内部透過率のみならず、高線量のγ線照射下での特性の安定性、すなわち放射線耐性が特に求められる。
【0034】
本発明者らの検討によれば、所定のエネルギーのγ線を所定の線量照射し、照射後の340nmにおける内部透過率を初期内部透過率の99%以上とすることによって、放射線耐性に優れたフッ化セリウム単結晶を得ることができる。最近の高エネルギー物理学実験で用いられるカロリメーターで使用しようとした場合、100〜1000kGyもの放射線を受けることとなる。このためCo−60を用い1000kGyのγ線を照射することにより、フッ化セリウム単結晶の放射線耐性を評価することができる。放射線耐性の高いフッ化セリウムにおいても、高エネルギーγ線を照射した直後は、透過率の低下をはじめとする性能の低下、ダメージがみられる。γ線照射により低下した透過率も時間の経過とともに回復し、100日程度経過すると透過率の回復がみられなくなる。γ線を照射し100日経過した後の透過率を測定することにより、回復できないダメージ、言い換えると蓄積するダメージを評価することができる。つまり、γ線を照射し100日経過した後の透過率を測定することにより、フッ化セリウム単結晶のγ線耐性を評価する指標となる。
【0035】
γ線耐性をγ線照射前の初期内部透過率及び、γ線照射後の内部透過率から判断する際には、単結晶の表面状態は平滑に研磨しておく必要がある。具体的には表面粗さがRMSで10.0nm以下で、各面のばらつきが少ないことが重要である。
【0036】
上記説明から理解されるように、本発明のフッ化セリウム単結晶は、γ線耐性が高く、高エネルギー物理学実験や放射線医療機器等などのシンチレーター材料として好適に使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0038】
実施例1
(単結晶育成)
純度99.99%以上のフッ化セリウム原料粉末に、純度99.99%以上のフッ化バリウム原料粉末を0.5モル%の割合で、純度99.99%以上のフッ化亜鉛を0.5重量%の割合で良く混合し、溶融原料作成用のカーボン製のルツボに投入した。溶融原料作成用ルツボを加熱炉に収納し、炉内を5×10
−3Paまで真空排気し酸化物や水分等の不純物を除去した後、四フッ化炭素のスカベンジャー存在下に加熱溶融して溶融原料を作成した。
【0039】
作成した溶融原料5kgとフッ化亜鉛25gを単結晶引上げ炉内の坩堝に投入した。種結晶を取り付けた後、単結晶引き上げ炉内を5×10
−3Paまで真空排気した。真空排気しながら300℃で12時間、600℃で12時間保持し、吸着水分を除去した。アルゴンガスを大気圧まで導入した後、溶融温度まで昇温し溶融原料を溶融させた。
【0040】
原料の溶融後、種結晶を5回/分で回転させながら融液に接触させ、1mm/時間の速度でゆっくりと引上げ軸を上昇させ、φ50×100mm長の直胴部を有するフッ化セリウム単結晶を引き上げた。引き上げた単結晶を融液から切り離した後、15℃/時間の速度で室温まで降温した。単結晶引上げ炉を開放し約1300gのフッ化セリウム単結晶を取出した。
【0041】
(単結晶の熱処理)
図1に示す熱処理炉を用いて熱処理を行った。熱処理に先立ち測定した収容容器内の温度分布は2℃/cmであった。単結晶引き上げ炉で育成したフッ化セリウムアズグロウン単結晶(1)を収容容器(2)内にフッ化亜鉛6gと共に設置した。収容容器を断熱容器(3)と共に熱処理炉に収め、熱処理炉内を油回転ポンプ(7)及び油拡散ポンプ(8)を用いて、5×10
−3Paまで真空排気した。真空排気しながら300℃で12時間、600℃で12時間保持し、吸着水分を除去した。
【0042】
減圧下で加熱処理を行った後、熱処理炉内の圧力が大気圧になるまでアルゴン95体積%−四フッ化炭素5体積%の混合ガスを、ガス導入孔(9)から炉内に導入した。その後、50℃/時間の昇温速度で熱処理温度である1300℃まで昇温した。1300℃に到達した後、12時間保持し、フッ化セリウム単結晶の温度を安定化させた。
【0043】
12時間経過後、10℃/時間の降温速度でゆっくりと室温まで冷却した。室温まで冷却させた後、熱処理炉を開放して熱処理が完了したフッ化セリウム単結晶を取り出した。
【0044】
(単結晶の加工)
熱処理炉から取り出したフッ化セリウム単結晶を、ダイヤモンドワイヤーソーを用いて約11×11×21mmの小片を切り出した。取得した小片を平面研削盤、ラップ盤を用いて、対向する10×10mmの2面及び、対向する10×20mmの2面が研磨された10×10×20mmの試験片に加工した。研磨面の表面粗さは何れの面もRMSで2nmであった。
【0045】
(初期内部透過率の測定)
試験片の透過率を、紫外可視分光光度計(島津製作所製 UV−1800)を用いて測定した。試験片を紫外可視分光光度計の試料室に設置し、厚み10mmと厚み20mmの透過率を測定した。厚み10mmと厚み20mmの透過率の測定結果よりフッ化セリウム単結晶の内部透過率を算出した。
図2に算出された内部透過率のスペクトルを示す。γ線照射前の波長340nmにおける初期内部透過率は99.5%/cmであった。
【0046】
(γ線耐性の評価)
光によるγ線照射ダメージの回復を防ぐため、試験片はアルミホイルに包み遮光した。γ線源としてCo−60を用い、アルミホイルで遮光した試験片を、Co−60から発せられるγ線の線量率が15kGy/時間となる位置に設置し、67時間γ線を照射した。トータルの線量は1000kGyであった。
【0047】
γ線照射し100日経過した後の試験片を暗室にて、γ線照射前の透過率測定と同様に透過率測定した。γ線照射後の波長340nmにおける内部透過率は98.6%/cmであり、前述の初期内部透過率の99.1%であった。
図2にγ線を照射し100日経過した後の内部透過率のスペクトルを示す。当該スペクトルは、γ線照射前の初期内部透過率のスペクトルと一致しており、本発明のフッ化セリウム単結晶では高線量のγ線照射によっても透過率の低下が生じないことが分かる。
【0048】
Cs−137を線源に波高分布測定を行い、フッ化セリウムの発光量を測定した結果、γ線照射前後の発光量に変化はなかった。この結果より、本発明のフッ化セリウム単結晶が優れた放射線耐性を有しており、高エネルギーカロリメーターや放射線医療機器等での使用に有用であることが分かる。
【0049】
比較例1
単結晶の熱処理の工程を行わなかった以外は実施例と同様にして試験片を取得した。厚み10mmと厚み20mmの透過率から算出した初期内部透過率は99.5%であった。実施例と同様に1000kGyのγ線を照射し100日経過した後測定した照射後の内部透過率は97.6%/cm%で、初期内部透過率の98.1%であった。
【0050】
実施例と同様にγ線照射前後の発光量を測定したところ、γ線照射後の発光量は、照射前の81%に低下していた。本比較例のフッ化セリウム単結晶は、放射線耐性に乏しく、高線量下での使用に耐えないことが分かる。
【0051】
比較例2
単結晶育成の工程において、フッ化セリウム原料粉末に、フッ化バリウム原料粉末を混合しない、つまりフッ化バリウム濃度が0モル%である以外実施例と同様にして試験片を取得した。厚み10mmと厚み20mmの透過率から算出した初期内部透過率は99.6%/cmであった。実施例と同様に1000kGyのγ線を照射し100日経過した後測定した照射後の内部透過率は84.2%/cmで、初期内部透過率の84.5%であった。
【0052】
実施例と同様にγ線照射前後の発光量を測定したところ、γ線照射後の発光量は、照射前の75%に低下していた。本比較例のフッ化セリウム単結晶は、放射線耐性に乏しく、高線量下での使用に耐えないことが分かる。