【実施例】
【0084】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0085】
実施例及び比較例において使用した試験方法は、以下のとおりである。
【0086】
[撥水撥油性の評価方法]
接触角計(協和界面科学社製DropMaster)を用いて、硬化被膜の水接触角及びオレイン酸に対する接触角を25℃、湿度40%で測定した。なお、水接触角は、2μlの液滴をサンプル表面に着滴させた後、1秒後に測定した。オレイン酸接触角は、4μlの液滴をサンプル表面に着滴させた後、1秒後に測定した。
【0087】
[動摩擦係数]
ベンコット(旭化成社製)に対する動摩擦係数を、表面性試験機(新東科学社製 HEIDON 14FW)を用いて下記条件で測定した。
接触面積:10mm×30mm
荷重:100g
【0088】
[マジックインク拭取り性]
上記にて作製したフィルムを用い、処理表面に油性マジック(ゼブラ株式会社製『ハイマッキー』)を塗り、ラビングテスター(新東科学社製)により下記条件で拭いた後のマジックインクの拭取り性を、下記指標を用い、目視により評価した。
試験環境条件:25℃、湿度40%
拭取り材:試料と接触するテスターの先端部にティッシュペーパー(カミ商事株式会社製エルモア)を固定したもの。
移動距離(片道)20mm
移動速度1800mm/min
接触面積:10mm×30mm
荷重:500g
◎:1往復の拭取り操作で簡単に完全に拭取れる。
○:1往復の拭取り操作では少しインクが残る。
△:1往復の拭取り操作では半分ほど残る。
×:全く拭きとれない。
【0089】
[耐摩耗試験]
往復摩耗試験機(新東科学社製HEIDON 30S)を用いて、下記条件で硬化被膜の耐摩耗試験を実施した。
評価環境条件:25℃、湿度40%
擦り材:試料と接触するテスターの先端部(10mm×30mm)に不織布を8枚重ねて固定した。
荷重:500g
擦り距離(片道):40mm
擦り速度:4,800mm/min
往復回数:500往復
【0090】
実施例1
以下に示す式(1a)60%、式(1b)38%、及び式(1c)2%より成る混合物を使用した。当該混合物は、両末端にカルボン酸基を有するパーフルオロオキシ化合物(ソルベイソレクシス社製FOMBLIN ZDIAC4000)を、フッ素ガスを用いて部分フッ素化することにより製造されたものである。各ポリマーの含有比率(モル%、以下同様)は、カルボン酸を有するポリマーを酸吸着剤に吸着させることで分取し、
19F−NMRにより決定されたものである。
【0091】
【化22】
【0092】
工程(1i)
反応容器に、上記式(1a)60%、上記式(1b)38%、及び上記式(1c)2%より成る混合物600gをフッ素系溶剤(PF5060 3M社製)5.4kgに溶解させる。次いで、陰イオン交換樹脂B20−HG(オルガノ社製)1.2kgを加え、20℃で3時間攪拌し、式(1a)及び(1b)を陰イオン交換樹脂に吸着させた。その後、PF5060で、陰イオン交換樹脂を洗浄後、PF5060 6kgと樹脂とを混合し、0.1N塩酸を適量加え、20℃で2時間攪拌した。攪拌後、30分間静置したところ、2層に分かれ、下層はフッ素層、上層は塩酸と樹脂との混合層となった。フッ素層を取り出し、PF5060を留去し、生成物87gを得た。得られた混合物を
19F−NMRにより測定したところ、上記式(1a)を得た。
【0093】
工程(1ii)
前記反応で得られた化合物(式(1a))50gを、1,3−トリフルオロメチルベンゼン40gとテトラヒドロフラン10gの混合溶媒に溶解し、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの40%トルエン溶液30gを滴下した。室温で3時間撹拌後、適量の塩酸を加え、十分に攪拌し水洗した。さらに、下層を取り出し、溶剤を留去したところ、液状の生成物42gを得た。得られた混合物を
19F−NMR、
1H−NMRにより測定し、下記式(1d)であることを確認した。
【0094】
【化23】
【0095】
工程(1iii)
反応容器に、上記工程(1ii)で得られた化合物(式(1d))40g、臭化アリル3.5g、硫酸水素テトラブチルアンモニウム0.4g、30%水酸化ナトリウム水溶液5.2gを滴下した後、60℃で3時間攪拌した。その後、PF5060(3M社製フッ素系溶剤)と塩酸を適量加え攪拌した後、十分に水洗した。さらに、下層を取り出し、溶剤を留去したところ、液状の生成物35gを得た。得られた化合物を
1H−NMRにより測定し、下記式(1e)であることを確認した。
【0096】
【化24】
【0097】
工程(1iv)
次に、上記工程(1iii)で得られた化合物(式(1e))20g、1,3−トリフルオロメチルベンゼン30g、1,2−ビス(ジメチルシリル)エタン3.8g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.005g(Pt単体として1.25×10
-9モルを含有)を混合し、80℃で3時間熟成させた。その後、溶剤及び未反応物を減圧溜去したところ液状の生成物19gを得た。得られた化合物を
1H−NMRにより測定し、下記式(1f)であることを確認した。
【0098】
【化25】
【0099】
工程(1v)
次に、上記工程(1iv)で得られた化合物(式(1f))19g、1,3−トリフルオロメチルベンゼン30g、アリルホスホン酸ジエチル1.7g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.005g(Pt単体として1.25×10
-9モルを含有)を混合し、90℃で48時間熟成させた。その後、溶剤及び未反応物を減圧溜去したところ液状の生成物20gを得た。得られた混合物を
1H−NMRにより測定し、下記式(1g)であることを確認した。
【0100】
【化26】
【0101】
工程(1vi)
次に、上記工程(1v)で得られた化合物(式(1g))20g、1,3−トリフルオロメチルベンゼン30g、ジエチルエーテル10g、ブロモトリメチルシラン1.45gを混合し、70℃で24時間熟成させた。その後、溶剤及び未反応物を減圧溜去したところ液状の生成物21gを得た。得られた混合物を
1H−NMRにより測定し、下記式(1h)であることを確認した。
【0102】
【化27】
【0103】
上記式(1h)の化合物(以下、「化合物1」という)の
1H−NMR(TMS基準、ppm)データを以下に示す。
【0104】
【化28】
【0105】
工程(1vii)
次に、上記工程(1vi)で得られた化合物1 20gを水100gとアセトン50gを混合した溶液に適化し、20℃で3時間撹拌し1時間静置した。その後、下層を取り出し、溶剤を減圧溜去したところ液状の生成物18gを得た。得られた混合物を
1H−NMRにより、下記式(1i)であることを確認した。
【0106】
【化29】
【0107】
上記式(1i)の化合物(以下、「化合物2」という)の
1H−NMR(TMS基準、ppm)データを以下に示す。
【0108】
【化30】
【0109】
実施例2
実施例1で得られた化合物(式(1g))20g、1,3−トリフルオロメチルベンゼン30g、ジエチルエーテル10g、ブロモトリメチルシラン1.725gを混合し、70℃で24時間熟成させた。その後、溶剤及び未反応物を減圧溜去したところ液状の生成物20gを得た。得られた混合物を
1H−NMRにより測定し、下記式(2h)であることを確認した。
【0110】
【化31】
【0111】
式(2h)中、XはCH
2CH
3又はSi(CH
3)
3である。
CH
2CH
3:Si(CH
3)
3=61:39
(p/q=0.9、p+q≒45)
【0112】
上記式(2h)の化合物(以下、「化合物3」という)の
1H−NMR(TMS基準、ppm)データを以下に示す。
【0113】
【化32】
【0114】
実施例3
工程(3i)
実施例1で得られた化合物(式(1e))20g、1,3−トリフルオロメチルベンゼン30g、1,4−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン15g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.005g(Pt単体として1.25×10
-9モルを含有)を混合し、80℃で5時間熟成させた。その後、溶剤及び未反応物を減圧溜去したところ液状の生成物21gを得た。得られた化合物を
1H−NMRにより測定し、下記式(3f)であることを確認した。
【0115】
【化33】
【0116】
工程(3ii)
次に、上記工程(3i)で得られた化合物(式(3f))20g、1,3−トリフルオロメチルベンゼン30g、アリルホスホン酸ジエチル2.0g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.005g(Pt単体として1.25×10
-9モルを含有)を混合し、90℃で48時間熟成させた。その後、溶剤及び未反応物を減圧溜去したところ液状の生成物20gを得た。得られた混合物を
1H−NMRにより測定し、下記式(3g)であることを確認した。
【0117】
【化34】
【0118】
工程(3iii)
次に、上記工程(3ii)で得られた化合物(式(3g))20g、1,3−トリフルオロメチルベンゼン30g、ジエチルエーテル10g、ブロモトリメチルシラン1.45gを混合し、70℃で24時間熟成させた。その後、溶剤及び未反応物を減圧溜去したところ液状の生成物21gを得た。得られた混合物を
1H−NMRにより測定し、下記式(3h)であることを確認した。
【0119】
【化35】
【0120】
上記式(3h)の化合物(以下、「化合物4」という)の
1H−NMR(TMS基準、ppm)データを以下に示す。
【0121】
【化36】
【0122】
さらに、上記化合物4を超臨界精製することにより、主鎖の数平均分子量が異なるサンプルを調製した。なお、19F−NMRにより、化合物4の数平均分子量は4,520であった。
【0123】
化合物4 20gを、25mLの高圧容器に入れ、70℃に昇温した。その後、液化炭酸ガスを導入することにより、高圧容器の圧力を15MPaまで上げ、30分間超臨界状態を保った。二酸化炭素を2ml/minで2分間流し、流出したサンプルを回収した。この操作を10MPaから22MPaまで実施したところ、表1に示すサンプル(化合物5〜13)を分取することができた。
【0124】
【表1】
【0125】
工程(3iv)
次に、上記工程(3iii)で得られた化合物4 20gを水100gとアセトン50gを混合した溶液に適化し、20℃で3時間撹拌し1時間静置した。その後、下層を取り出し、溶剤を減圧溜去したところ液状の生成物18gを得た。得られた混合物を
1H−NMRにより、下記式(3i)であることを確認した。
【0126】
【化37】
【0127】
上記式(3i)の化合物(以下、「化合物14」という)の
1H−NMR(TMS基準、ppm)データを以下に示す。
【0128】
【化38】
【0129】
さらに、上記化合物14を超臨界精製することにより、数平均分子量が異なるサンプルを調製した。なお、19F−NMRにより、化合物14の数平均分子量は4,130であった。
【0130】
化合物14 20gを、25mLの高圧容器に入れ、70℃に昇温した。その後、液化炭酸ガスを導入することにより、高圧容器の圧力を15MPaまで上げ、30分間超臨界状態を保った。二酸化炭素を2ml/minで2分間流し、流出したサンプルを回収した。この操作を10MPaから22MPaまで実施したところ、表2に示すサンプル(化合物15〜22)を分取することができた。
【0131】
【表2】
【0132】
実施例4
工程(4i)
反応容器に、両末端にカルボン酸基を有するパーフルオロオキシ化合物(ソルベイソレクシス社製FOMBLIN ZDIAC4000)を、1,3−トリフルオロメチルベンゼン40gとテトラヒドロフラン10gの混合溶媒に溶解し、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの40%トルエン溶液60gを滴下した。室温で3時間撹拌後、適量の塩酸を加え、十分に攪拌し水洗した。さらに、下層を取り出し、溶剤を留去したところ、液状の生成物41gを得た。得られた混合物を
19F−NMR、
1H−NMRにより測定し、下記式(4d)であることを確認した。
【0133】
【化39】
【0134】
工程(4ii)
反応容器に、上記工程(4i)で得られた化合物(式(4d))40g、臭化アリル7.0g、硫酸水素テトラブチルアンモニウム0.6g、30%水酸化ナトリウム水溶液10.0gを滴下した後、60℃で3時間攪拌した。その後、PF5060(3M社製フッ素系溶剤)と塩酸を適量加え攪拌した後、十分に水洗した。さらに、下層を取り出し、溶剤を留去したところ、液状の生成物35gを得た。得られた化合物を
1H−NMRにより測定し、下記式(4e)であることを確認した。
【0135】
【化40】
【0136】
工程(4iii)
次に、上記工程(4ii)で得られた化合物(式(4e))20g、1,3−トリフルオロメチルベンゼン30g、1,2−ビス(ジメチルシリル)エタン7.0g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.010g(Pt単体として2.5×10
-9モルを含有)を混合し、80℃で3時間熟成させた。その後、溶剤及び未反応物を減圧溜去したところ液状の生成物18gを得た。得られた化合物を
1H−NMRにより測定し、下記式(4f)であることを確認した。
【0137】
【化41】
【0138】
工程(4iv)
次に、上記工程(4iii)で得られた化合物(式(4f))18g、1,3−トリフルオロメチルベンゼン30g、アリルホスホン酸ジエチル3.5g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.005g(Pt単体として1.25×10
-9モルを含有)を混合し、90℃で48時間熟成させた。その後、溶剤及び未反応物を減圧溜去したところ液状の生成物21gを得た。得られた混合物を
1H−NMRにより測定し、下記式(4g)であることを確認した。
【0139】
【化42】
【0140】
工程(4v)
次に、上記工程(4iv)で得られた化合物(式(4g))20g、1,3−トリフルオロメチルベンゼン30g、ジエチルエーテル10g、ブロモトリメチルシラン2.9gを混合し、70℃で24時間熟成させた。その後、溶剤及び未反応物を減圧溜去したところ液状の生成物21gを得た。得られた混合物を
1H−NMRにより測定し、下記式(4h)であることを確認した。
【0141】
【化43】
【0142】
上記式(4h)の化合物(以下、「化合物23」という)の
1H−NMR(TMS基準、ppm)データを以下に示す。
【0143】
【化44】
【0144】
工程(4vi)
次に、上記工程(4v)で得られた化合物(式(4h))20gを水100gとアセトン50gを混合した溶液に適化し、20℃で3時間撹拌し1時間静置した。その後、下層を取り出し、溶剤を減圧溜去したところ液状の生成物18gを得た。得られた混合物を
1H−NMRにより、下記式(4i)であることを確認した。
【0145】
【化45】
【0146】
上記式(4i)の化合物(以下、「化合物24」という)の
1H−NMR(TMS基準、ppm)データを以下に示す。
【0147】
【化46】
【0148】
表面処理剤及び硬化被膜の調製
実施例1〜4で得たパーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性ホスホン酸誘導体を、濃度10質量%になるように、フッ素系溶剤Novec7200(3M社製)に溶解させて、処理剤を得た。サファイヤガラスの表面をプラズマ処理後に、上記各表面処理剤を下記条件及び装置で真空蒸着塗工した。80℃、湿度80%の雰囲気下で1時間硬化させた後、150℃で3時間硬化させ、被膜を形成した。
【0149】
[プラズマ処理の条件]
・装置:プラズマドライ洗浄装置PDC210
・ガス:O
2ガス80cc、Arガス10cc
・出力:250W
・時間:30秒
【0150】
[真空蒸着による塗工条件及び装置]
・測定装置:小型真空蒸着装置VPC−250F
・圧力:2.0×10
-3Pa〜3.0×10
-2Pa
・蒸着温度(ボートの到達温度):500℃
・蒸着距離:20mm
・処理剤の仕込量:50mg
・蒸着量:50mg
【0151】
比較例
比較例1〜3の表面処理剤及び硬化被膜は、化合物1及び2に代えて下記の化合物25〜27を用いた他は実施例と同様の方法で調製し、評価試験を実施した。
【0152】
(比較例1)化合物25
【0153】
【化47】
【0154】
(比較例2)化合物26
【0155】
【化48】
【0156】
(比較例3)化合物27
【0157】
【化49】
【0158】
得られた硬化被膜を下記の方法により評価した。評価結果を表3(初期性能)及び表4(耐摩耗性)に示す。
【0159】
【表3】
【0160】
【表4】
【0161】
表3及び4より、実施例のパーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性ホスホン酸誘導体から形成された被膜によって、撥水撥油性が高く、動摩擦係数が低く、かつ、マジックインクの拭き取り性が優れていることが分かった。一方、ホスホン酸基又はホスホン酸エステル基を有さない比較例では、撥水撥油性、動摩擦係数は許容範囲内であったが、マジックインクの拭き取り性が悪かった。さらに、実施例のパーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性ホスホン酸誘導体から形成された被膜は、布で摩擦後においても水接触角100度以上、オレイン酸接触角60度以上という高い撥水撥油性を示した。一方、ホスホン酸基又はホスホン酸エステル基を有さない比較例では、撥水撥油性が大きく低下した。即ち、本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性ホスホン酸誘導体は、撥水撥油性、低動摩擦性、汚れの拭き取り性、耐摩耗性、及び、基材への密着性に優れた硬化被膜を提供できる。
【0162】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に含有される。