特開2016-222976(P2016-222976A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-222976(P2016-222976A)
(43)【公開日】2016年12月28日
(54)【発明の名称】塩化コバルト水溶液の浄液方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20161205BHJP
   C02F 1/70 20060101ALI20161205BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20161205BHJP
   C01G 51/08 20060101ALI20161205BHJP
【FI】
   C22B23/00 102
   C02F1/70 A
   H01M4/525
   C01G51/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-110666(P2015-110666)
(22)【出願日】2015年5月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】丹 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】高野 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
【テーマコード(参考)】
4D050
4G048
4K001
5H050
【Fターム(参考)】
4D050AA13
4D050AB57
4D050BA01
4D050CA01
4D050CA13
4G048AA06
4G048AB03
4G048AC06
4G048AE01
4K001AA07
4K001BA16
4K001BA19
4K001BA21
4K001BA22
4K001CA07
4K001DB18
5H050AA19
5H050BA15
5H050CA08
5H050GA12
5H050GA15
5H050HA10
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】効率よくコバルト塩溶液から不純物を除去できる塩化コバルト水溶液の浄液方法を提供する。
【解決手段】塩化コバルトを含有する水溶液に金属ニッケルを接触させて置換反応によって不純物を除去する方法であって、塩化コバルトを含有する水溶液のpHを1.5以上2.5以下に調整する。塩化コバルトを含有する水溶液のpHを1.5以上2.5以下に調整しているので、金属ニッケル表面の不動態膜を効果的に除去することができる。不動態膜が除去されれば、金属ニッケルが塩化コバルトを含有する水溶液と接触すれば、置換反応によって金属ニッケルよりも貴な不純物を析出させることができる。しかも、金属ニッケルを塩化コバルトを含有する水溶液に接触させるだけであるから、簡便に塩化コバルトを含有する水溶液から不純物を除去することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化コバルトを含有する水溶液に金属ニッケルを接触させて置換反応によって不純物を除去する方法であって、
前記塩化コバルトを含有する水溶液のpHを1.5以上2.5以下に調整する
ことを特徴とする塩化コバルト水溶液の浄液方法
【請求項2】
前記塩化コバルトを含有する水溶液の温度を、50℃よりも高く80℃以下に維持する
ことを特徴とする請求項1記載の塩化コバルト水溶液の浄液方法
【請求項3】
前記不純物が銅である
ことを特徴とする請求項1または2記載の塩化コバルト水溶液の浄液方法。
【請求項4】
前記不純物を除去した塩化コバルトを含有する水溶液を、
非水系電解質二次電池におけるニッケルとコバルトを組成に含む正極材の原料として使用する
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の塩化コバルト水溶液の浄液方法。
【請求項5】
前記塩化コバルトを含有する水溶液が、ニッケル製錬工程の工程液である
ことを特徴とする請求項4記載の塩化コバルト水溶液の浄液方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化コバルト水溶液の浄液方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルトは、希少金属であり合金の材料として使用される貴重な金属である。また、合金以外の用途として、コバルトは電池の電極材料としても使用されている。例えば、近年開発が進んでいる車載用の非水系電解質二次電池であるリチウムイオン電池の正極材にも、コバルトは使用されている。
【0003】
かかる非水系電解質二次電池であるリチウムイオン電池の正極材を製造する際には、一般的に、所定の比率で混合された金属塩の水溶液を中和して作成されたプリカーサと称される金属水酸化物を形成する。このプリカーサを脱水した後とリチウム化合物と混合して焼成すれば、正極材が製造される。そして、コバルトを含む正極材を製造する際には、上述した金属塩の水溶液を製造する際に、コバルトを含む塩(例えば、硫酸コバルトや塩化コバルトなどのコバルト塩)が使用される。
【0004】
上述したコバルト塩は、ニッケル鉱石等を製錬する工程の副産物として得ることができる。具体的には、不純物の精製に湿式処理を採用しており、その際に生成されるコバルト塩溶液からコバルト塩が生成される。しかし、ニッケル鉱石等には、ニッケルやコバルト以外にも、マンガンや鉄、銅、クロムなど多種多様な不純物が含まれている。コバルト塩溶液にも不純物が含まれていれば、コバルト塩に不純物が混入する可能性がある。そして、不純物を含有するコバルト塩を正極材の製造に使用すれば、不純物が正極材に混入する可能性がある。
【0005】
正極材中における不純物の存在は、正極材の性能、つまり、電池特性に大きく影響する。とくに、上述したようなリチウムイオン電池は、高容量かつ高電圧であるため、微量の不純物の存在が電池特性に大きく影響するので、コバルト塩などの原料の不純物のスペックが極めて厳しく管理されている。その中でも、銅は電池の性能に大きく影響を及ぼす重要な不純物であるので、コバルト塩などの原料に含まれる銅の量を厳密に管理することが求められる。
【0006】
コバルト塩に含まれる銅などの不純物を減少させる方法として、溶媒抽出法や電解法などの方法が知られている。つまり、コバルト塩溶液から溶媒抽出法や電解法によって銅を除去すれば、コバルト塩溶液中の銅濃度、つまり、コバルト塩に含まれる銅の量を減少させることができる。しかしながらこれらの方法は、分離できる銅の下限濃度をそれほど低くできない、また、これらの方法は、ミキサセトラなどの溶媒抽出装置、電解槽や電源といった大規模な装置が必要となることから、設備投資が増加し処理コストが高くなる、などの問題がある。
【0007】
溶媒抽出法や電解法に比べて簡便な方法としては、沈殿法がある。沈殿法は中和剤や硫化剤などを添加して沈殿物を生じさせて不純物を分離するもので、銅などの重金属の排水処理等に広く用いられている。
【0008】
硫化剤を用いて銅を硫化物として沈殿除去する硫化法は、銅の硫化物の溶解度が非常に小さく(水溶解度:18℃、3.4×10-4g/L)、溶液中の銅の濃度を非常に低減できるという利点がある。しかし、硫化剤として有害な硫化水素ガスを用いるため、作業者の安全確保や環境対策が必要となる。硫化水素を制御するために様々な工夫がされているが(例えば特許文献1)、装置構成が複雑となるため、付帯設備に対するコストが高くなるといった問題がある。
【0009】
また、水酸化ナトリウムのようなアルカリを添加して、重金属の水酸化物沈殿を生成して除去する中和沈殿法を採用することも考えられる。銅を中和沈殿法で除去する場合、溶解度の観点から、溶液のpHを通常pH8から12の範囲に調整する(例えば非特許文献1)。しかし、コバルトも同じpH領域で沈殿するので、コバルト塩溶液に使用した場合、銅とともにコバルトも一緒に沈殿してしまい、コバルトをロスしてしまう。コバルトのロスを低減する上では、上記範囲よりも低いpH領域で銅を除去することが考えられる。水酸化銅はpH8よりも低いpHでも沈殿させることは可能であるものの、pH8よりも低いpHでは水酸化銅の溶解度が増加する。このため、コバルト塩溶液中の銅の濃度をそれほど低くすることはできない。具体的には、コバルトロスを防ぐためにはコバルトの溶解度を100g-Co/L以上にする必要があり、コバルトの溶解度積が2.2×10-16であるのでpH6以下でなければならない。一方で銅の溶解度積は2.2×10-20であり、pH6では銅の溶解度は14mg-Cu/Lとなるので、銅の分離性が悪くなる。
【0010】
その他にも、セメンテーション法(置換法)により銅を除去することが考えられる。セメンテーション法は、除去したい金属イオンを電気的に卑な金属によって還元し除去する方法である。このため、銅よりも卑な金属を使用すれば、銅を溶液から除去することができる。例えば、コバルトは銅より卑な金属であるため、コバルト金属を使用すれば、塩化コバルト溶液中の銅を沈澱除去することができる。
【0011】
セメンテーション法では、使用した卑な金属はイオン化して溶液中に溶解するので、溶解しても問題がない金属を使用しなければならないが、上述したコバルト金属は正極材の材料となるので、コバルト塩溶液中に残留しても電極性能には影響を与えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2003/20647号
【0013】
【非特許文献1】吉村二三隆著、「これでわかる水処理技術」、技術評論社、2011年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、コバルト金属は、通常、コバルト板として流通しており、反応性の良い粉末やブリケット状では入手することが困難である。つまり、コバルト金属を使用してコバルト塩溶液からセメンテーションによって銅を分離する場合には、反応性の低いコバルト板を用いるしかないので、銅を除去する効率が悪くなるという問題があり、コバルト塩溶液から効率よく銅を除去する方法が求められている。
【0015】
本発明は上記事情に鑑み、効率よくコバルト塩溶液から不純物を除去できる塩化コバルト水溶液の浄液方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1発明の塩化コバルト水溶液の浄液方法は、塩化コバルトを含有する水溶液に金属ニッケルを接触させて置換反応によって不純物を除去する方法であって、前記塩化コバルトを含有する水溶液のpHを1.5以上2.5以下に調整することを特徴とする。
第2発明の塩化コバルト水溶液の浄液方法は、第1発明において、前記塩化コバルトを含有する水溶液の温度を、50℃よりも高く80℃以下に維持することを特徴とする
第3発明の塩化コバルト水溶液の浄液方法は、第1または第2発明において、前記不純物が銅であることを特徴とする
第4発明の塩化コバルト水溶液の浄液方法は、第1、第2または第3発明において、前記不純物を除去した塩化コバルトを含有する水溶液が、非水系電解質二次電池におけるニッケルとコバルトを組成に含む正極材の原料として使用される溶液であることを特徴とする。
第5発明の塩化コバルト水溶液の浄液方法は、第4発明において、前記塩化コバルトを含有する水溶液が、ニッケル製錬工程の工程液であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1発明によれば、塩化コバルトを含有する水溶液のpHを1.5以上2.5以下に調整しているので、金属ニッケル表面の不動態膜を効果的に除去することができる。不動態膜が除去されれば、金属ニッケルが塩化コバルトを含有する水溶液と接触するので、置換反応によって金属ニッケルよりも貴な不純物を析出させることができる。しかも、金属ニッケルを塩化コバルトを含有する水溶液に接触させるだけであるから、簡便に塩化コバルトを含有する水溶液から不純物を除去することができる。
第2発明によれば、不動態膜を除去する速度が速くなるので、迅速に置換反応を開始させることができる。したがって、不純物の除去を効果的に行うことができる。
第3発明によれば、銅が低濃度まで除去されるので、塩化コバルトの水溶液から製造されるコバルト塩に含まれる銅濃度を低下させることができる。したがって、精製された塩化コバルトの水溶液は、非水系電解質二次電池の材料のように、銅の存在が悪影響を与える物質を製造する原料に適したコバルト塩の製造に使用することできる。
第4発明によれば、塩化コバルトの水溶液中の不純物濃度を大幅に低下できる一方、塩化コバルトの水溶液にはニッケルが含まれる状態となる。したがって、精製された塩化コバルトの水溶液は、非水系電解質二次電池におけるニッケルとコバルトを組成に含む正極材の原料として使用することができる。
第5発明によれば、銅などの不純物を処理すれば、精製された塩化コバルトの水溶液を、そのまま、ニッケルとコバルトを組成に含む非水系電解質二次電池の正極材を製造する原料として使用することができる。したがって、ニッケル製錬工程の工程液からコバルト塩を製造する必要がなくなるので、非水系電解質二次電池の正極材の製造が効率化できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の塩化コバルト水溶液の浄液方法の概略フロー図である。
図2】実験結果を示したグラフである。
図3】実験結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の塩化コバルト水溶液の浄液方法は、塩化コバルトを含有する水溶液に含まれる不純物を除去する方法であり、効率よく安定して不純物濃度を低下させることができるようにしたことに特徴を有している。
【0020】
本発明の塩化コバルト水溶液の浄液方法によって不純物が除去される水溶液(対象水溶液)は、塩化コバルトを含有する水溶液(以下、単に塩化コバルト水溶液という)であればよい。例えば、ニッケル鉱石等を製錬する工程において湿式処理によって不純物を精製した際に生成される水溶液(ニッケル製錬の中間工程液)や、使用済み電池等の二次原料、ニッケル製錬工程の排水処理から発生するスラッジ等からコバルトを回収するために湿式処理した際に発生する水溶液等を、対象水溶液とすることができる。
【0021】
本発明の塩化コバルト水溶液の浄液方法によって生成された水溶液(生成水溶液)の用途もとくに限定されない。例えば、電気コバルトやコバルト塩を製造する原料として生成水溶液を使用することができる。また、非水系電解質二次電池においてコバルトを組成に含む正極材の原料として生成水溶液を使用することもできる。後述するように、生成水溶液はニッケルを含んだ水溶液となるので、非水系電解質二次電池におけるニッケルとコバルトを組成に含む正極材の原料として使用することができる。例えば、生成水溶液は、三元系(NCM)やニッケル系(NCA)のリチウムイオン電池の正極材の原料として使用することができる。
【0022】
とくに、対象水溶液としてニッケル製錬の中間工程液を採用し、生成水溶液を非水系電解質二次電池におけるコバルト(またはニッケルとコバルト)を組成に含む正極材の原料として使用すれば、非水系電解質二次電池の正極材の製造が効率化できるという利点も得られる。
【0023】
つまり、非水系電解質二次電池の正極材は、所定の比率で混合された金属塩の水溶液を中和して作成されたプリカーサと称される金属水酸化物の前駆体を焼成して製造される。この際、金属塩の水溶液は、固形物(ニッケル塩やコバルト塩等)を溶解して、水溶液を調整している。一方、固形物は、ニッケル塩やコバルト塩等を含むニッケル製錬の中間工程液から製造されている。すると、ニッケル塩やコバルト塩等が水溶液になっている状態から、一旦固形物とした後、再度、溶解してニッケル塩やコバルト塩の水溶液(原料水溶液)を調整している。原料水溶液はニッケル製錬の中間工程液に対して不純物が少なくなっていると考えられるが、固形物の生成と固形物を溶解するという余分な手間とコストがかかっていると考えることができる。
【0024】
しかし、ニッケル製錬の中間工程液を対象水溶液として、本発明の塩化コバルト水溶液の浄液方法によって不純物を除去した生成水溶液を形成すれば、この生成水溶液をそのまま正極材の原料として使用できる。すると、固形物の生成と固形物の溶解という工程を省くことができるから、非水系電解質二次電池の正極材の製造を効率化できる。
【0025】
さらに、本発明の塩化コバルト水溶液の浄液方法では、ニッケルやコバルトよりも貴な金属であれば不純物として除去することができる。例えば、銅や銀等を不純物として水溶液から除去することが可能である。とくに、塩化コバルト水溶液から銅を除去するために本発明の塩化コバルト水溶液の浄液方法を採用すれば、銅を低濃度(例えば0.5〜1.0mg/L程度)まで除去することが可能である。すると、塩化コバルト水溶液から製造されるコバルト塩の銅濃度を低下させることができるので、非水系電解質二次電池の材料のように、銅の存在が悪影響を与える物質を製造する原料に適したコバルト塩を製造することできる。また、上述したように、生成水溶液をそのまま正極材の原料として使用する場合には、電池の性能に大きく影響を及ぼす重要な不純物である銅を低濃度まで除去できるので、製造される正極材の品質が向上する。
【0026】
以下では、塩化コバルト水溶液から、不純物として銅を除去する場合を代表として説明する。もちろん、同様の方法で、他の不純物も除去できる。
【0027】
(本発明の塩化コバルト水溶液の浄液方法)
本発明の塩化コバルト水溶液の浄液方法は、塩化コバルトを含有する水溶液(塩化コバルト水溶液)に含まれる不純物を置換反応によって除去する方法である。
【0028】
図1に本発明の塩化コバルト水溶液の浄液方法の概略フロー図を示している。図1に示すように、本発明の塩化コバルト水溶液の浄液方法では、対象水溶液となる銅を含む塩化コバルト水溶液に対して、金属ニッケルを接触させて、置換反応によって銅を除去する。この置換反応の化学式を式(1)に示す。式(1)から分かるように、置換反応によって、金属ニッケルが溶解してニッケルイオンとなり、銅イオンが金属銅として析出する。

Ni+Cu2+ → Ni2+ + Cu (式1)
【0029】
一方、金属ニッケルは、通常、その表面に酸化物である不動態膜を有しており、この不動態膜の存在により、金属ニッケルの溶解が阻害される。このため、本発明の塩化コバルト水溶液の浄液方法では、塩化コバルト水溶液のpHを、不動態膜を効果的に除去できる値に調整している。具体的には、塩化コバルト水溶液のpHを、1.5以上2.5以下に調整している。塩化コバルト水溶液のpHを上記のごときpHに調整すれば、式(2)に示す反応によって、金属ニッケル表面の不動態膜が除去されて、金属ニッケル表面にニッケル原子が露出する。

NiO+2H+ → Ni + HO (式2)
【0030】
上記のように、不動態膜が除去されてニッケル原子が露出すれば、この金属ニッケルに塩化コバルト水溶液が接触するようになるので、上述した置換反応が生じる。つまり、塩化コバルト水溶液にニッケルが溶解する代わりに、銅を析出させることができるので、塩化コバルト水溶液中の銅濃度(銅イオン濃度)を低下させることができる。
【0031】
(塩化コバルト水溶液のpH)
塩化コバルト水溶液のpHは、塩化コバルト水溶液と金属ニッケルが接触すると、不動態膜の除去と置換反応が生じるように調整される。つまり、上述したように、塩化コバルト水溶液は、pH1.5以上2.5以下に調整される。pHが2.5よりも大きいと、不動態膜を除去する効果が十分ではなく、銅の濃度を十分に低下させることができない。一方、pHが1.5よりも低いと、金属ニッケルが置換反応に関係なく溶解してしまうので、銅を析出させる効率が悪くなる。また、単位時間あたりに発生する水素の量が多くなるので、安全装置が別途必要となり、設備コストが増加してしまう。したがって、塩化コバルト水溶液のpHは、pH1.5以上2.5以下が好ましく、1.7以上2.3以下がより好ましい。
【0032】
なお、塩化コバルト水溶液のpHを調整する方法はとくに限定されない。例えば、ニッケル製錬の中間工程液の場合であれば、pHは1.5よりも低いので、水酸化ナトリウム等を添加して、pHを高くすることで調整できる。また、使用済み電池等の二次原料、ニッケル製錬工程の排水処理から発生するスラッジ等からコバルトを回収するために湿式処理した際に発生する水溶液の場合には、pHが2.5より高い場合がある。この場合には、塩酸を添加することによって、pHを上記範囲に調整することができる。
【0033】
(塩化コバルト水溶液の温度について)
本発明の塩化コバルト水溶液の浄液方法では、塩化コバルト水溶液の液温を高くすることが望ましい。塩化コバルト水溶液の液温を高くすると、不動態膜の除去速度が速くなり、置換反応の速度が速くなるので、不純物の除去を効果的に行うことができる。
【0034】
塩化コバルト水溶液の液温は、50℃よりも高く維持することが望ましい。液温が50℃以下では、不動態膜の除去が遅くなり、置換反応による銅の除去に時間がかかる。また、塩化コバルト水溶液の液温を過度に上げても加熱コストの増加に比べて銅除去効果は向上しない。そして、塩化コバルト水溶液の液温が上昇すれば、反応設備の耐食性がさらに必要となり設備コストの増加につながる。したがって、塩化コバルト水溶液の液温は、50℃よりも高く維持することが望ましく、設備コストの増加を防ぎつつ銅除去効果を得る上では、50℃よりも高く80℃以下が好ましい。銅除去効果をより高くする上では、55℃以上80℃以下が好ましく、60℃以上80℃以下がより好ましい。
【0035】
なお、塩化コバルトの水溶液を加温する方法はとくに限定されず、公知の方法や設備を採用することができる。例えば、蒸気加熱、電気加熱等を採用することができる。
【0036】
(金属ニッケルについて)
塩化コバルト水溶液と接触させる金属ニッケルは、どのような形状のものを使用してもよい。例えば、板状や粉末、ブリケットの粉砕物等の金属ニッケルを使用することができる。とくに、置換反応の効率を高くする上では、比表面積が大きい粉末やブリケットの粉砕物が好ましい。
【0037】
(塩化コバルト水溶液と金属ニッケルの接触について)
塩化コバルト水溶液と金属ニッケルを接触させる方法はとくに限定されず、両者が接触している界面で不導体膜の除去と置換反応が同時に生じるように、両者が接触するようになっていればよい。つまり、塩化コバルト水溶液と金属ニッケルとの接触時間をある程度確保できるようになっていればよい。例えば、塩化コバルト水溶液中に金属ニッケルを浸漬させてもよいし、金属ニッケル中(粉末やブリケットの粉砕物の場合)に塩化コバルト水溶液を通してもよい。また、金属ニッケルの表面(板状の場合)に沿って塩化コバルト水溶液を流してもよい。なお、置換反応を効率よく生じさせる上では、塩化コバルト水溶液に金属ニッケルを浸漬させることが望ましい。
【実施例】
【0038】
本発明の塩化コバルト水溶液の精製方法による不純物の除去効果を確認した。
実験では、金属ニッケルを塩化コバルト水溶液に浸漬して、塩化コバルト水溶液中の銅濃度がどのように変化するかを確認した。
【0039】
(塩化コバルト水溶液のpHの影響)
塩化コバルト水溶液のpHが、銅の除去効果に与える影響を確認した。
【0040】
(実施例1)
pHが0.3、銅濃度45mg/L、コバルト濃度67g/Lの塩化コバルト水溶液200mLに、濃度2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを1.5に調整した。この塩化コバルト水溶液に、金属ニッケルの粉末1gを添加して、液温を80℃に保ちながら、90分間撹拌し混合した。
その後、固液分離して、濾液中の銅濃度をICP発光分析法を用いて分析した。
また、ニッケル粉末は回収して、乾燥後、重量を秤量して溶解量を確認した。
【0041】
(実施例2)
濃度2mol/Lの水酸化ナトリウムを添加して、pHを2.0に調整した以外は実施例1と同じ操作を行った。
【0042】
(実施例3)
濃度2mol/Lの水酸化ナトリウムを添加して、pHを2.5に調整した以外は実施例1と同じ操作を行った。
【0043】
(比較例1)
濃度2mol/Lの水酸化ナトリウムを添加して、pHを1.0に調整した以外は実施例1と同じ操作を行った。
【0044】
(比較例2)
濃度2mol/Lの水酸化ナトリウムを添加して、pHを3.0に調整した以外は実施例1と同じ操作を行った。
【0045】
(比較例3)
濃度2mol/Lの水酸化ナトリウムを添加して、pHを3.5に調整した以外は実施例5と同じ操作を行った。
【0046】
結果を表5と図2に示す。
表1と図2には、銅濃度及び金属ニッケル粉末の溶解量を示している。
【表1】
【0047】
表1および図2に示すように、銅濃度はpHが2.5より高くなると急激に増加している。すなわち、このpHが2.5より高い領域では不働態膜を溶解できず、置換反応が進行していないことがわかる。
一方で金属ニッケル粉末の溶解量はpHが1.5より低くなると急激に増加している。これは、置換反応に関係なく、ニッケルが溶解しているためである。
【0048】
以上の結果より、pHを1.5以上2.5以下とすれば、銅を効果的に除去できることが確認された。
【0049】
(塩化コバルト水溶液の液温の影響)
pHを1.5以上2.5以下とすれば、銅を効果的に除去できることが確認された。そこで、pHを上記範囲内に保持した場合における塩化コバルト水溶液の液温が銅の除去効果に与える影響を確認した。
【0050】
(実施例4)
pHが0.3、銅濃度45mg/L、コバルト濃度67g/Lの塩化コバルト水溶液400mLに、濃度2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを2.0に調整した。この塩化コバルト水溶液に、金属ニッケルとして、ニッケルブリケットの粉砕物40gを添加して、70℃に保持しながら3時間撹拌混合した。
【0051】
(実施例5)
塩化コバルト水溶液の温度を60℃に保持した以外は、実施例4と同じ操作を行った。
【0052】
(実施例6)
塩化コバルト水溶液の温度を50℃に保持した以外は、実施例4と同じ操作を行った。
【0053】
(実施例7)
塩化コバルト水溶液を加温せず、16〜18℃の常温で反応させた以外は、実施例4と同じ操作を行った。
【0054】
なお、上記実施例4〜7の各実験における撹拌混合中において、30分毎に上澄み液をサンプリングをして、ICP発光分析法(測定装置セイコーインスツル株式会社製:型番SPS3000)を用いて塩化コバルト水溶液中の銅濃度を確認した。
【0055】
結果を表2〜5と図3に示す。
なお、表中の撹拌時間0分は始液中の銅濃度を示す。

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】
【0056】
実施例4〜7のいずれも、時間が経過すると銅濃度が1mg/L程度まで低減していることが確認できる。そして、塩化コバルト水溶液の液温が高い実施例4、5では、実施例6、7に比べて、銅の分離が速いことが確認できる。そして、液温が50℃から60℃になると、反応速度が急激に増加することが確認できる。
【0057】
以上の結果より、pHを2.0とした場合には、十分に銅の濃度を低下させることができることが確認できる。そして、塩化コバルト水溶液の液温を高くして、50℃よりも高くなると、反応速度が急激に増加することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の塩化コバルト水溶液の浄液方法は、非水系電解質二次電池の原料として使用される塩化コバルト水溶液から不純物を除去する方法に適している。
図1
図2
図3