特開2016-222978(P2016-222978A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-222978(P2016-222978A)
(43)【公開日】2016年12月28日
(54)【発明の名称】金の溶媒抽出方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20161205BHJP
   C22B 3/26 20060101ALI20161205BHJP
【FI】
   C22B11/00 101
   C22B3/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-110938(P2015-110938)
(22)【出願日】2015年5月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
(72)【発明者】
【氏名】児玉 竜二
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅仁
(72)【発明者】
【氏名】谷嵜 和典
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA04
4K001BA19
4K001DB26
4K001HA10
4K001HA12
(57)【要約】
【課題】抽出溶剤を繰り返し使用する循環プロセスを用いた場合でも金の抽出率の低下を抑制することができる金の溶媒抽出方法を提供する。
【解決手段】有機抽出剤を繰り返し使用する循環プロセスを用いて金を回収する方法であって、金を含有する酸性水溶液に対して、有機抽出剤を接触させる抽出工程と、抽出工程後の抽出後有機抽出剤に対して、還元性を有する物質を含有する還元物質含有水溶液を接触させる還元工程と、還元工程後の還元後有機抽出剤を抽出工程の有機抽出剤として循環供給する抽出剤循環工程と、を含み、抽出剤循環工程において、抽出工程の有機抽出剤として繰り返し循環して使用するときの還元後有機抽出剤中の還元性を有する物質の濃度を、還元剤として作用しにくい濃度となるように調製する抽出剤管理工程を含む。循環プロセスによる金の回収率の減少を抑制することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機抽出剤を繰り返し使用する循環プロセスを用いて金を回収する方法であって、
金を含有する酸性水溶液に対して、前記有機抽出剤を接触させる抽出工程と、
該抽出工程後の抽出後有機抽出剤に対して、還元性を有する物質を含有する還元物質含有水溶液を接触させる還元工程と、
該還元工程後の還元後有機抽出剤を前記抽出工程の前記有機抽出剤として循環供給する抽出剤循環工程と、を含み、
該抽出剤循環工程において、
前記抽出工程の前記有機抽出剤として繰り返し循環して使用するときの前記還元後有機抽出剤中の前記還元性を有する物質の濃度を、還元剤として作用しにくい濃度となるように調製する抽出剤管理工程を含む
ことを特徴とする金の溶媒抽出方法。
【請求項2】
前記抽出剤管理工程において、
前記還元性を有する物質の濃度を、0.01mol/l以下となるように調製する
ことを特徴とする請求項1記載の金の溶媒抽出方法。
【請求項3】
前記還元性を有する物質が
シュウ酸またはシュウ酸塩である
ことを特徴とする請求項1または2記載の金の溶媒抽出方法。
【請求項4】
前記抽出剤循環工程において、
前記還元後有機抽出溶剤を前記抽出工程の前記有機抽出剤として循環供給する前に、該還元後有機抽出溶剤に対して、水を接触させる洗浄工程を含む
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の金の溶媒抽出方法。
【請求項5】
前記還元工程において、
還元工程後の還元物質含有水溶液中の塩化物イオンを、所定の濃度以下となるように調製する還元物質含有水溶液管理工程を含む
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載金の溶媒抽出方法。
【請求項6】
前記有機抽出剤が、ビス(2−ブトキシエチル)エーテルである
ことを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載金の溶媒抽出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金の溶媒抽出方法に関する。さらに詳しくは、湿式精錬において、貴金属を溶媒に抽出し、かかる溶媒から金を還元して回収する金の溶媒抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉱石等からの金を回収する場合、以下の方法が採用されている。
まず、鉱石や市場から回収したスクラップなど金を含有する原料を、塩素または塩化物などを含む酸性水溶液に浸漬等して金を溶解する。ついで、この金を含有する水溶液から有機溶媒を用いて金を抽出する。そして、この金を含む有機溶媒に対して還元剤を含む水溶液を接触させることにより、金を回収する。
【0003】
上述した方法において、金の抽出に使用される有機溶媒としては、金を選択的に抽出することができるビス(2−ブトキシエチル)エーテルが知られている。このビス(2−ブトキシエチル)エーテルは、金が3価の形態の場合に金と良好に反応するという性質を有する。このため、金が3価の形態(例えば、AuCl、または、HAuClの形態)として含有する酸性水溶液に対してビス(2−ブトキシエチル)エーテルを混合すれば、かかる酸性水溶液から金を選択的に溶媒抽出することができる。例えば、特許文献1には、このビス(2−ブトキシエチル)エーテルを用いて、金を含有する酸性水溶液から金を選択的に抽出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−140549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、工業的には、通常、有機溶媒は、高価かつ多量に使用するので、金を回収した後、繰り返し使用されることが多い。上述した金の回収プロセスでも、酸性水溶液から金を抽出するための有機溶媒は、金を回収した後、金を抽出する工程に供給される。つまり、金の回収プロセスでは、有機溶媒を循環させて、繰り返し有機溶媒を金の回収に使用している。
【0006】
しかるに、この循環プロセスにより金を抽出する場合、有機溶媒を循環しないプロセスに比べて、金の回収率が減少するという現象が発生している。金は非常に高価で希少価値が高い金属であるので、数パーセントの回収率の低下でも経済的損失は甚大なものとなる。
このため、循環プロセスでは、金の回収率の減少によって、工業的に安定した操業が行えないという問題が生じている。また、高い回収率を維持するために過大な設備投資を行ったり、煩雑な工程を採用する結果、手間がかかったり、コスト上昇に伴う効率の低下といった問題も生じている。
【0007】
上記現象の原因を特定することは、工業的に金の回収率を管理する上で非常に重要であり、これまで様々研究されている。
しかしながら、現在、上記現象を引き起こす原因は、いまだ特定されておらず、かかる現象の解明が長い間求められているというのが実情である。
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、抽出溶剤を繰り返し使用する循環プロセスを用いた場合でも金の抽出率の低下を抑制することができる金の溶媒抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の金の溶媒抽出方法は、有機抽出剤を繰り返し使用する循環プロセスを用いて金を回収する方法であって、金を含有する酸性水溶液に対して、前記有機抽出剤を接触させる抽出工程と、該抽出工程後の抽出後有機抽出剤に対して、還元性を有する物質を含有する還元物質含有水溶液を接触させる還元工程と、該還元工程後の還元後有機抽出剤を前記抽出工程の前記有機抽出剤として循環供給する抽出剤循環工程と、を含み、該抽出剤循環工程において、前記抽出工程の前記有機抽出剤として繰り返し循環して使用するときの前記還元後有機抽出剤中の前記還元性を有する物質の濃度を、還元剤として作用しにくい濃度となるように調製する抽出剤管理工程を含むことを特徴とする。
第2発明の金の溶媒抽出方法は、第1発明において、前記抽出剤管理工程において、
前記還元性を有する物質の濃度を、0.01mol/l以下となるように調製することを特徴とする。
第3発明の金の溶媒抽出方法は、第1または第2発明において、前記還元性を有する物質がシュウ酸またはシュウ酸塩であることを特徴とする。
第4発明の金の溶媒抽出方法は、第1、第2または第3発明において、前記抽出剤循環工程において、前記還元後有機抽出溶剤を前記抽出工程の前記有機抽出剤として循環供給する前に、該還元後有機抽出溶剤に対して、水を接触させる洗浄工程を含むことを特徴とする。
第5発明の金の溶媒抽出方法は、第1、第2、第3または第4発明において、前記還元工程において、還元工程後の還元物質含有水溶液中の塩化物イオンを、所定の濃度以下となるように調製する還元物質含有水溶液管理工程を含むことを特徴とする。
第6発明の金の溶媒抽出方法は、第1、第2、第3、第4または第5発明において、前記有機抽出剤が、ビス(2−ブトキシエチル)エーテルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、繰り返し循環して使用する有機抽出剤による金の抽出率の低下を抑制することができるから、循環プロセスにおける金の回収率の減少を抑制することができる。すると、工業的に循環プロセスにより金を回収する場合、安定した操業を行うことができる。また、金の回収率を維持するための過大な設備投資を行わなくてもよくなったり、回収率を維持するための煩雑な工程を採用しなくてもよくなるので、手間やコスト上昇に伴う効率の低下を解消することができる。
第2発明によれば、繰り返し循環して使用する有機抽出剤中に存在または残留する還元性を有する物質を所定の濃度以下となるように維持するので、繰り返し循環して使用する有機抽出剤による金の抽出率を高い状態で維持することができる。
第3発明によれば、還元工程において、繰り返し循環して使用する有機抽出剤中にシュウ酸および/またはシュウ酸塩が抽出されるのを抑制することができる。
第4発明によれば、繰り返し循環して使用する有機抽出剤中に存在または残留する還元性を有する物質の濃度を確実に所定の濃度以下となるようにすることができる。
第5発明によれば、還元性を有する物質が還元物質含有水溶液中に過剰に存在するのを抑制できる。このため、還元工程において、還元性を有する物質が還元後有機抽出剤中に抽出されるのを抑制することができる。
第6発明によれば、ビス(2−ブトキシエチル)エーテルを使用する循環プロセスを用いて金を回収する際の金の回収率の減少を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の金の溶媒抽出方法のフローチャートである。
図2】実施例の結果を示した図である(マススペクトル)。
図3】実施例の結果を示した図であり(13C NMRスペクトル)、(A)はサンプルの13C NMRスペクトルであり、(B)は標準試料の13C NMRスペクトルである。
図4】実施例の結果を示した図である(HPLCのクロマトグラム)。
図5】実施例の結果を示した図である(ICのクロマトグラム)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の金の溶媒抽出方法は、有機抽出剤を使用して酸性水溶液中から金を回収する方法において、有機抽出剤を繰り返し循環して使用した場合でも、有機抽出剤による金の抽出率の低下を抑制できるようにしたことに特徴を有している。
【0013】
図1に示すように、本発明の金属の溶媒抽出方法(以下、単に本溶媒抽出法という)は、金を含有する酸性水溶液から有機抽出剤を用いて金を抽出する抽出工程と、抽出した有機抽出剤中の金を還元する還元工程と、還元工程後の有機抽出剤を繰り返し循環して使用する抽出剤循環工程と、を有している。そして、本溶媒抽出法は、抽出剤循環工程の抽出剤管理工程において、循環する有機抽出剤中に存在または残留する還元性を有する物質の濃度を調製することにより、金の抽出率の低下を抑制できるようにしている。
【0014】
なお、本明細書では、本溶媒抽出法において、抽出工程、還元工程、の順に処理した有機抽出剤を、再度、抽出工程における抽出剤として使用するために繰り返し循環して使用することを、循環プロセスという。
【0015】
また、本溶媒抽出法において、抽出工程において金が抽出される酸性水溶液は、金を含有する酸性水溶液であれば、どのようなものでも使用することができる。例えば、鉱石や市場から回収したスクラップなどの金を含有する原料を、塩素または塩化物などを含む酸性水溶液中に浸漬等して溶解することにより得られる酸性水溶液を使用することができる。
【0016】
(抽出工程について)
本溶媒抽出法の抽出工程は、金を含有する酸性水溶液に対して有機抽出剤を接触させる工程であり、この酸性水溶液中に存在する金イオンを、かかる水溶液中から有機抽出剤に移動させる工程である。つまり、有機抽出剤により酸性水溶液中に存在する金を抽出する工程である。なお、抽出工程後の有機抽出剤が、特許請求の範囲の抽出後有機抽出剤に相当する。
【0017】
この抽出工程に使用される有機抽出剤は、酸性水溶液中に存在している金イオンを抽出する機能を有する有機抽出剤であれば、とくに限定されない。
例えば、ビス(2−ブトキシエチル)エーテルや、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル系有機溶媒、エステル系の有機溶媒として、例えば、酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピルなどを挙げることができる。ケトン系有機溶媒としては、例えば、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトンを挙げることができる。アミン系の有機溶媒として、例えば、ジオクチルアミン、トリオクチルアミンなどを挙げることができる。
とくに、金を選択的に抽出し回収する上では、ビス(2−ブトキシエチル)エーテルを用いるのが好ましい。このビス(2−ブトキシエチル)エーテルは、3価の金イオンと選択的に結合する一方、1価の金イオンとは結合しにくい性質を有する。このため、酸性水溶液中に存在する金を3価の状態にすれば、金イオンをビス(2−ブトキシエチル)エーテルにより選択的に抽出することができる。そして、ビス(2−ブトキシエチル)エーテル中に取り込まれた3価の金イオンを、後述する還元工程において1価の状態に還元すれば、簡単にビス(2−ブトキシエチル)エーテル中から金を取り出すことができる。このため、ビス(2−ブトキシエチル)エーテルは、金の回収プロセスにおいて、非常に有用な有機抽出剤として使用されている。
なお、ビス(2−ブトキシエチル)エーテルは、ジブチルカルビトールとも呼ばれるため、以下、ビス(2−ブトキシエチル)エーテルを単にDBCという。
【0018】
以下では、本溶媒抽出法の抽出工程に用いられる有機抽出剤として、ビス(2−ブトキシエチル)エーテルを用いる場合を代表として説明する。
【0019】
(還元工程について)
本溶媒抽出法の還元工程は、上述した抽出工程後のDBCに対して還元性を有する物質を含有する還元物質含有水溶液を接触させる工程である。
具体的には、抽出後のDBCに対して還元物質含有水溶液を接触させることにより、かかるDBC中の3価の金イオンを還元物質含有水溶液中の還元性を有する物質(以下、単に還元物質という)で1価の金イオンに還元し金を金属単体として析出させる工程である。還元物質として、例えば、シュウ酸や、シュウ酸ナトリウムやシュウ酸カリウム、シュウ酸アンモニウム等のシュウ酸アルカリ塩、鉄(II)化合物、過酸化水素、二酸化硫黄、亜硫酸塩などを採用することができる。
【0020】
例えば、シュウ酸を使用した場合の還元工程における反応は、下記の化学式1のような反応として表すことができる。つまり、下記の化学式1の反応が右辺側に進行すれば、金イオンが還元されて金が析出するので、かかる金を回収するのである。

(化学式1)
2HAuCl+3(COOH) → 2Au+6CO+8HCl
【0021】
なお、本溶媒抽出法の還元工程には、上述したような還元物質を使用することができるが、シュウ酸を使用すれば、分解後に二酸化炭素と塩酸しか副性せず、析出した金粉中に不純物が混入しないという利点が得られる。そこで、以下では、代表として、還元物質としてシュウ酸を使用する場合を説明する。
【0022】
(抽出剤循環工程について)
本溶媒抽出法の抽出剤循環工程は、上述した還元工程後のDBCを繰り返し使用するための工程である。
具体的には、還元工程後のDBCを抽出工程における有機抽出剤として繰り返し循環して使用するために、上述した抽出工程に還元工程後のDBCを循環供給する工程である。この繰り返し循環して使用するDBCを以下、リサイクルDBCという。
【0023】
このリサイクルDBCを、抽出工程に循環供給する方法は、とくに限定されない。例えば、還元工程後のリサイクルDBCが入っている容器内と、抽出工程の酸性水溶液が入っている容器とを連結する配管を設けていれば、かかる配管内を通して、還元工程後のリサイクルDBCを抽出工程の有機抽出剤として供給することできる。
【0024】
このリサイクルDBCは、抽出工程に供給する前に、以下の抽出剤管理工程によって抽出工程に循環供給するか否かの判断がなされる。
【0025】
なお、抽出剤循環工程で循環させるリサイクルDBCは、特許請求の範囲の還元工程後の還元後有機抽出剤に相当する。
【0026】
(抽出剤管理工程について)
本溶媒抽出法の抽出剤管理工程は、リサイクルDBCに、シュウ酸がどの程度存在または残留しているかを分析する工程である。そして、抽出剤管理工程では、かかる分析結果に基づいて、リサイクルDBCを抽出工程に循環供給するか否かを判断する。具体的には、シュウ酸の濃度が所定の値以下であれば、リサイクルDBCを抽出工程に循環供給する。一方、シュウ酸の濃度が所定の値よりも高い場合には、後述する処理を行って、抽出工程に供給されるリサイクルDBCのシュウ酸濃度が所定の値以下となるように調製する。例えば、リサイクルDBC中のシュウ酸濃度が、0.01mol/l(1g/l)以下となるように調製するが、詳細は後述する。
【0027】
本溶媒抽出法は、以上のごとき工程で実施されるので、循環プロセスにおいて、繰り返し循環使用する有機抽出剤(上述したリサイクルDBC)中の還元物質(上述したシュウ酸)の濃度が所定の値以下となるように調製することができる。すると、抽出工程における有機抽出剤による金の抽出率の低下を抑制することができるから、金の回収率が減少するのを抑制することができる。
したがって、本溶媒抽出法を採用すれば、有機抽出剤を再利用して工業的に循環プロセスにより金を回収する場合、安定した操業を行うことができる。また、金の回収率を維持するための過大な設備投資を行わなくてもよくなったり、回収率を維持するための煩雑な工程を採用しなくてもよくなるので、手間やコスト上昇に伴う効率の低下を解消することができる。
【0028】
つぎに、本溶媒抽出法の特徴である抽出剤管理工程について、詳細に説明する。
【0029】
(抽出剤管理工程の説明)
本溶媒抽出法の抽出剤管理工程は、上述したようにリサイクルDBC中のシュウ酸濃度が所定の値以下となるように調製する工程である。
まず、抽出剤管理工程の詳細を説明する前に、リサイクルDBC中のシュウ酸濃度を所定の値以下にする理由を説明する。
【0030】
(シュウ酸濃度を低下させる理由)
リサイクルDBC中のシュウ酸濃度が所定の値よりも大きい場合、下記化学式2のような反応により、抽出工程において、リサイクルDBCによって抽出された3価の金イオンがリサイクルDBC中に存在または残留するシュウ酸により還元されてしまう。還元された金イオンは、リサイクルDBC中では保持されない形態の1価の状態となる。このため、リサイクルDBCによる金の抽出率が低下してしまう。

(化学式2)
Au3++(COOH) → Au+2CO+2H
【0031】
一方、リサイクルDBC中のシュウ酸濃度が所定の値よりも小さければ、化学式2のような反応が起こりにくくなる。
したがって、リサイクルDBC中のシュウ酸濃度を、リサイクルDBCに抽出した金に対して還元剤として作用しにくい濃度となるように調製することによって、リサイクルDBCにより抽出した金イオンが、リサイクルDBC中で保持される状態を維持するのである。言い換えれば、リサイクルDBC中に存在または残留するシュウ酸によって、リサイクルDBCによる金の抽出率が抑制されるのを防止するのである。
【0032】
以上の理由から、抽出剤管理工程では、リサイクルDBC中のシュウ酸濃度を、上記化学式2の反応が進行しない程度の濃度以下となる0.01mol/l(1.0g/l)以下となるように調製する。リサイクルDBC中のシュウ酸濃度を0.01mol/l(1.0g/l)以下となるように調製すれば、抽出工程において、リサイクルDBCを用いて金を抽出する際の金の抽出効率を高い状態で維持することができる。言い換えれば、上述した循環プロセスにおいて、リサイクルDBCによる金の抽出率の低下を抑制することができるのである。
なお、リサイクルDBCのシュウ酸 濃度は、0.01mol/l(1.0g/l)以下となるように調整されていればよいが、金の抽出時における金の価数を安定的に3価に維持できるという点では、0.009mol/l(0.8g/l)以下、より好ましくは、0.005mol/l(0.45g/l)以下、さらに好ましくは、0.001mol/l(0.1g/l)以下に維持されるように調整される。
なお、シュウ酸の濃度は、シュウ酸1molあたり90gとして算出する。
【0033】
(リサイクルDBC中のシュウ酸濃度の調製について)
抽出剤管理工程では、リサイクルDBC中のシュウ酸濃度に基づいて、リサイクルDBCを抽出工程に循環供給するか否かを判断する。そして、リサイクルDBC中のシュウ酸濃度が所定の濃度以下であれば、リサイクルDBCを抽出工程に循環供給する。
【0034】
一方、シュウ酸の濃度が所定の値よりも高い場合には、以下の処理を行うことにより、抽出工程に循環供給する際のリサイクルDBC中のシュウ酸濃度が所定の値以下となるように調製する。
【0035】
例えば、かかるリサイクルDBCを廃棄処分して、新しいDBCを新規に追加して抽出工程に循環供給することができる。また、かかるリサイクルDBCに新しいDBCを添加してシュウ酸濃度を所定の値以下に調製したものを抽出工程に循環供給することができる。
【0036】
また、新しいDBCを使用せずに、リサイクルDBCを処理してシュウ酸の濃度を低下させるようにしてもよい。例えば、リサイクルDBCを水で洗浄することにより、シュウ酸濃度が所定の値以下となるように調製したものを抽出工程に循環供給する処理を採用することができる(後述する洗浄工程)。この場合、DBCを有効に再処理することができる。しかも、水で洗浄することにより、シュウ酸はもちろん、それ以外の不純物も洗浄することができるので、リサイクルDBCをよりきれいな状態にすることができる。
【0037】
(洗浄工程の説明)
シュウ酸の濃度が所定の値よりも高い場合、かかるリサイクルDBCを水で洗浄することによって、シュウ酸濃度が所定の値以下となるように再処理する洗浄工程について説明する。
【0038】
洗浄工程では、まず、シュウ酸の濃度が所定の値よりも高いリサイクルDBCを抽出剤循環工程から一時的に洗浄工程に移動させる。そして、移動させたリサイクルDBCに対して、水を接触させてリサイクルDBC中に存在または残留しているシュウ酸を水を用いて抽出する。つまり、シュウ酸の溶解度差を利用して、リサイクルDBCから水にシュウ酸を移動させるのである。
かかる工程により、シュウ酸が除去されたリサイクルDBCは、洗浄工程から抽出剤循環工程に移動すれば、再度、抽出工程の有機抽出剤として繰り返し循環供給することができる。
【0039】
なお、洗浄工程に用いられる水は、リサイクルDBC中に存在または残留する水を、洗浄水に移動させることができるレベルの水質を有する水であれば、とくに限定されない。例えば、上述したシュウ酸の分析方法で使用するレベルの水を採用することができる。
また、この水を接触させる方法は、とくに限定されず、上述した、両者を機械的に撹拌したり、バブリングにより液体を混合したりする方法を採用することができるが、このように強制的にDBCと水とを機械的に混合することにより、効率よくDBC中の還元性物質を分離することができる。
【0040】
また、洗浄工程後のリサイクルDBC中のシュウ酸濃度を分析すれば、かかるリサイクルDBC中のシュウ酸濃度が所定の値以下に調製されていることをより確実に把握することができる。
【0041】
さらになお、洗浄工程後の洗浄水には、リサイクルDBCから移動(つまり溶解)してくるDBCが含まれる。一般的に、DBCは、水1Lに対して約3g程度溶解することが知られている。このため、大量のリサイクルDBCを洗浄工程を用いて再処理する場合には、かかる洗浄水からDBCを回収することができれば、より経済的に好ましい。
洗浄水中からDBCを回収する方法は、とくに限定されない。例えば、かかる洗浄水を加熱蒸留すれば、不純物が少ないDBCを回収することができるので好ましい。
【0042】
(シュウ酸の分析方法について)
上述したように、抽出剤管理工程では、リサイクルDBC中のシュウ酸濃度を分析して、その分析結果に基づいて、リサイクルDBCを抽出工程に循環供給するか否かを判断している。
リサイクルDBC中のシュウ酸濃度を測定する方法は、とくに限定されない。しかし、シュウ酸は、通常、有機溶媒などには溶解しないと考えられていたため、精度よく分析することが難しい。しかし、以下の分析方法を採用すれば、有機溶媒に含まれるシュウ酸を精度よく分析することができる。とくに、洗浄工程後のリサイクルDBCでは、シュウ酸濃度がさらに低下しているので、以下の分析方法で分析することが望ましい。以下、リサイクルDBC中のシュウ酸濃度の分析方法を説明する。
【0043】
リサイクルDBC中のシュウ酸の分析方法は、リサイクルDBCを一部分取した後、この分取リサイクルDBCに対して水を加え撹拌静置する。所定時間静置した後、分離した2液のうち、水相の一部を分取して機器分析に供する分析試料を調製する。そして、分析試料を機器分析を用いてリサイクルDBC中のシュウ酸濃度を算出する。
【0044】
以下、詳細に説明する。
このシュウ酸の分析方法は、抽出剤循環工程において繰り返し循環使用される有機抽出剤に対して水を接触させて、分析試料を調製する前処理工程と、前処理工程で調製された分析試料を分析する分析工程と、を順に行う方法である。
【0045】
なお、以下では、抽出剤循環工程において繰り返し循環使用される有機抽出剤として、上述した場合と同様にDBCを代表として説明する。また、この繰り返し循環使用されるDBCを上述した場合と同様に、以下、リサイクルDBCという。
【0046】
(前処理工程について)
前処理工程では、まず、リサイクルDBCに対して水を接触させる。かかるリサイクルDBCは水に対して不溶性を示すので、両者を接触させた後、簡単に分離することができる。そして、この分離した2溶液のうち、水相に相当する水溶液を分取すれば、次工程に供する分析試料として用いることができる。
【0047】
なお、リサイクルDBCに対して水を接触させる方法は、とくに限定されない。例えば、両者を機械的に撹拌して混合する方法や、バブリングにより液体を混合する方法、両者を並流で流す方法、両者を向流で流す方法、などを挙げることができる。なお、以下では、両者を接触させる場合を、単に2液を混合するという。
【0048】
シュウ酸は、分子内に極性を有する物質であるため、水に対して非常に溶解し易い一方、疎水性の有機溶媒に対する溶解性が非常に低い。
そこで、本シュウ酸の分析方法では、かかる溶解度の差を利用することによって、リサイクルDBC中に存在または残留するシュウ酸を選択的に抽出し分析するのである。
【0049】
前処理工程に用いられる水は、上述したシュウ酸のリサイクルDBCと水との溶解度を利用した選択的抽出が行えるものであれば、とくに限定されない。
例えば、一般的な分析方法の前処理で用いられる水を使用することができる。とくに、リサイクルDBC中のシュウ酸濃度が低いと場合または低いと想定される場合には、シュウ酸の抽出率の低下を抑制する上で、有機物が可能な限り含有されていない水が好ましい。
また、分析機器として液体クロマトグラフ質量分析計や高速液体クロマトグラフなどを用いる場合、水に含まれる有機物が妨害成分となる可能性があるので、かかる場合にも、可能な限り有機物を含んでいない水を用いるのが好ましい。
【0050】
上述した水としては、例えば、有機物濃度(TOCなど)が<0.001g/l程度の超純水や純水などを挙げることができる。
【0051】
なお、この分析試料は、次工程において使用する分析機器に応じて適宜希釈等の処理を行ってもよいのは言うまでもない。例えば、インフュージョン法を用いる場合には、10〜100倍程度に希釈したものを分析試料とすることができる。
【0052】
(分析工程について)
分析工程では、上述した前処理工程で調製された分析試料を所定の分析機器を用いて測定する工程である。
【0053】
分析機器は、上記分析試料をそのまま、または希釈するだけで、シュウ酸の測定が可能な機器が好ましい。また、上記分析試料をそのまま、または希釈することでは測定できない場合には、シュウ酸をメチルエステル化などとすることによって測定できる機器を用いてもよい。
【0054】
分析工程に用いることが可能な分析機器として、例えば、クロマトグラフィー、核磁気共鳴法(NMR法)、赤外分光法を挙げることができる。
【0055】
これらの分析機器のうち、クロマトグラフィーに用いられる液体クロマトグラフが好ましく、定量性を求める上では高速液体クロマトグラフ、イオンクロマトグラフが好ましい。
例えば、液体クロマトグラフ質量分析計を用いてリサイクルDBC中のシュウ酸濃度を分析する場合、分析試料は水溶液であるので、ほぼそのままの状態で測定することができる。そして、液体クロマトグラフ質量分析計により得られるクロマトグラムからシュウ酸のピークを検索し、かかるピーク面積に基づいてリサイクルDBC中に存在または残存するシュウ酸の濃度を算出する。
【0056】
また、質量分析計を検出器とした液体クロマトグラフ質量分析計や高速液体クロマトグラフ質量分析計を用いれば、得られた値をシュウ酸の質量の理論値と比較することができるので、シュウ酸の検出精度を向上させることができる。
なお、質量分析計として飛行時間型(TOF)質量分析計や、二重収束型質量分析計を用いれば、精密質量の値を得ることができるので、シュウ酸の精密質量との理論値と比較することができるので、検出精度をより向上させることができる。
【0057】
一方、ガスクロマトグラフィーに用いられるガスクロマトグラフやガスクロマトグラフ質量分析計などを用いる場合には、シュウ酸をジアゾメタンまたはBF3/メタノールによるメチルエステル化すれば、かかる分析機器を用いてシュウ酸を測定することができる。
【0058】
以上のごとく上述したシュウ酸の分析方法を用いれば、リサイクルDBCと水を加えて混合し分離して調製した分析試料を測定するだけの簡単な工程であるので、リサイクルDBC中に存在または残存しているシュウ酸の濃度を迅速に把握することができる。このため、かかる値が所定の濃度以下か否かをほぼリアルタイムで把握することができる。
【0059】
なお、本明細書中の2液体(例えば、抽出工程における金を含有する酸性溶液とDBCや、還元工程における抽出工程後のDBCと還元剤含有水溶液など)を接触させるとは、両者を機械的に撹拌することや、バブリングにより液体を混合すること、両者を並流や向流により接触させることを含む概念である。
【0060】
(還元物質含有水溶液管理工程について)
とくに、還元工程において、リサイクルDBCに対して還元物質含有水溶液を接触させた後の還元工程後の還元物質含有水溶液中の塩化物イオンが、所定の濃度以下となるように調製する還元物質含有水溶液管理工程を設けるのが好ましい。具体的には、還元物質含有水溶液管理工程において、還元工程後の還元物質含有水溶液中の塩化物イオンの濃度が、2mol/l(70g/l)以下となるように調製する。
【0061】
還元工程後の還元物質含有水溶液中の塩化物イオンの濃度が、上記値よりも高い場合、リサイクルDBC中に抽出された金イオンに対して、還元物質含有水溶液中に過剰に還元物質が存在する。この過剰の還元物質は、金と未反応のまま還元物質含有水溶液中に残留してしまう。すると、この過剰の還元物質は、還元物質含有水溶液中からリサイクルDBC中に移動してしまう場合がある。この場合、リサイクルDBC中の還元物質の濃度が所定の値よりも高くなると、かかるリサイクルDBCによる金の抽出率の低下してしまう。そこで、還元物質含有水溶液管理工程では、還元工程後の還元物質含有水溶液中の塩化物イオンが、所定の濃度以下となるように調製することによって、過剰の還元物質が還元物質含有水溶液中に存在しないように調製するのである。
【0062】
過剰の還元物質が還元物質含有水溶液中に存在しないように調製する方法は、とくに限定されない。例えば、還元反応中の還元物質含有水溶液中の塩化物イオンの濃度を適宜モニタリングしながら、モニタリング値が上記値よりも高くなりそうな場合には水を添加することによって、還元工程後の還元物質含有水溶液中の塩化物イオンの濃度が所定の濃度以下となるように調製してもよい。また、還元反応中の還元物質含有水溶液中の塩化物イオンの濃度を適宜モニタリングしながら、還元物質を添加することによって、還元工程後の還元物質含有水溶液中の塩化物イオンの濃度が所定の濃度以下となるように調製してもよい。
【0063】
(還元物質含有水溶液管理工程の詳細な説明)
なお、以下では、還元物質含有水溶液中の還元物質としてシュウ酸を代表として詳細に説明する。
【0064】
還元物質含有水溶液管理工程において、還元工程後の還元物質含有水溶液中の塩化物イオンが、所定の値以下となるように管理することによって、還元物質含有水溶液中に未反応の状態で残存するシュウ酸の発生を抑制できる。
仮に、還元工程後の還元物質含有水溶液中にシュウ酸が残留した場合、還元工程において、リサイクルDBCに対して還元物質含有水溶液を接触させたときに、未反応のシュウ酸がリサイクルDBC中に抽出され易くなる。
しかし、還元工程後の還元物質含有水溶液中の塩化物イオンが、所定の値以下となるように管理することによって、還元工程後の還元物質含有水溶液中にシュウ酸が残留しにくい状態とすることができる。すると、還元工程において、リサイクルDBCに対して還元物質含有水溶液を接触させたときに、リサイクルDBCに抽出されるシュウ酸を抑制することができる。かかる場合、リサイクルDBC中に存在または残留するシュウ酸濃度を、所定の値よりも低い状態に維持し易くなる。すると、リサイクルDBCによる金の抽出率の低下を抑制し易くなる。
【0065】
以下、理由を説明する。
【0066】
上述した化学式1で示すように、還元工程において、リサイクルDBCに対して還元物質含有水溶液を接触させると、金イオンがシュウ酸と反応して、金と二酸化炭素と塩酸が生成される。
この化学式1の反応状況は、生成する塩化物イオンを分析することによって、簡単に把握することができる。つまり、還元物質含有水溶液中の塩化物イオンの濃度を分析することによって、還元工程後の還元物質含有水溶液中に存在するシュウ酸の濃度をある程度把握することができる。
【0067】
具体的には、この反応が進行(化学式1の右辺側に向かって進行)すれば、塩化物イオンが生成される。この塩化物イオンの濃度が上昇すれば、化学式1の反応は右辺側に進行しにくくなる。つまり、塩化物イオンの濃度の上昇にともない、化学式1の反応速度が低下する。すると、還元物質含有水溶液中に未反応のシュウ酸が残存する場合がある。したがって、還元物質含有水溶液中の塩化物イオンの濃度を所定の値以下となるように調製することによって、化学式1の反応を適切に右辺側に進行させることができる。
【0068】
還元物質含有水溶液中の塩化物イオンの濃度は、化学式1の反応が右辺側に適切に進行する程度の濃度となるように調製する。
具体的には、還元工程後の還元物質含有水溶液中の塩化物イオンの濃度が、70g/l(2.0mol/l)以下が好ましく、より好ましくは、30g/l(0.8mol/l)〜70g/l(2.0mol/l)の範囲内であり、さらに好ましくは、35g/l(1.0mol/l)〜65g/l(1.8mol/l)の範囲内となるように調製する。還元物質含有水溶液中の塩化物イオンが上記範囲の値よりも高くなると、上述したように還元物質含有水溶液中に未反応のシュウ酸が残存する場合がある。一方、還元物質含有水溶液中の塩化物イオンが上記範囲の値よりも低くなれば、不純物が析出しやすくなる。
したがって、還元工程後の還元物質含有水溶液中の塩化物イオンの濃度は、70g/l(2.0mol/l)以下が好ましく、より好ましくは、30g/l(0.8mol/l)〜70g/l(2.0mol/l)の範囲内であり、さらに好ましくは、135g/l(1.0mol/l)〜65g/l(1.8mol/l)の範囲内となるように調製する。
なお、塩化物イオンの濃度は、塩素1molあたり35gとして算出する。
【0069】
(塩化物イオンの濃度の分析方法について)
還元物質含有水溶液中の塩化物イオンの濃度の分析は、一般的な分析方法を用いて行うことができる。例えば、電位差滴定法や、液体クロマトグラム法、塩酸の蒸留法、塩化銀の重量法、蛍光X線分析法などを用いて分析することができる。電位差滴定法を用いた場合、小型の装置で簡便かつ迅速に測定できるため、現場で直ちに濃度を把握し、操業管理にフィードバックできる点で好ましい。また、液体クロマトグラム法を用いた場合は絶対値を正確に把握できる点で好ましいため、電位差滴定法の絶対値の信頼性を確認するための校正用分析として適している。
【0070】
一般的に、工業的に循環プロセスを用いて金を回収する場合、酸性水溶液中に存在する金イオンの濃度は、酸性水溶液を製造する際の原料品位や、原料処理時のスラリー濃度などによって変動する。当然、リサイクルDBCにより酸性水溶液から抽出した金イオンの濃度も同様に変動する。このため、通常、還元物質含有水溶液は、リサイクルDBC中に存在する金イオン濃度が変動した場合でも確実に金を還元できるように、多めの量のシュウ酸を添加して調製される。しかし、リサイクルDBC中の金イオンの濃度が低い場合、還元工程における還元物質含有水溶液中に過剰のシュウ酸が未反応として存在してしまう。この場合、未反応のシュウ酸の一部がリサイクルDBC中に抽出されてしまう。
【0071】
また、還元物質含有水溶液は、リサイクルDBCと同様に繰り返し使用される場合がある。この場合、還元物質含有水溶液を繰り返し使用する毎に、一定量のシュウ酸が添加される。この場合、かかる繰り返し使用する還元物質含有水溶液(以下、単にリサイクル水溶液という)中には、未反応のシュウ酸の濃度が上昇することとなる。この未反応のシュウ酸を多く含む還元物質含有水溶液とリサイクル水溶液を混合すれば、未反応のシュウ酸がリサイクルDBCに抽出され易くなる。すると、リサイクルDBC中のシュウ酸濃度が所定の値以下となるのを維持しにくくなる。
【0072】
しかるに、還元工程後の還元物質含有水溶液中の塩化物イオンの濃度を、上述した値以下となるように調製することによって、還元物質含有水溶液中に未反応に残存するシュウ酸を抑制することができるので、リサイクルDBC中のシュウ酸濃度が所定の値以下となるように管理し易くなる。
【実施例】
【0073】
本発明の金の溶媒抽出方法の有効性を確認した。
実験では、(I)リサイクルDBC中に存在または残留するシュウ酸を検出および定量できるか否かを確認し、(II)リサイクルDBC中のシュウ酸濃度と、抽出工程における金の水相への残存濃度との関係を確認し、(III)還元工程後の還元物質含有水溶液中の塩化物イオン濃度と、抽出工程における金の水相への残存濃度との関係を確認した。
【0074】
(I)本本発明の金の溶媒抽出方法のシュウ酸の分析方法(以下、単にシュウ酸の分析方法という)を用いて、リサイクルDBC中に存在または残留するシュウ酸を検出および定量できるか否かを確認した。
【0075】
まず、リサイクルDBC中に存在または残留するシュウ酸を検出できるか否かを確認した。
【0076】
(分析試料の調製)
実験では、精錬工程における金の回収プロセスにおいて、抽出剤として繰り返し使用されているDBC(リサイクルDBC)を分析の対象溶液とした。
【0077】
金の回収プロセスでは、アノードスライムの酸性の塩素浸出溶液にDBCを接触させて塩素浸出溶液からDBC中に金を抽出する(抽出工程)。抽出工程で得られた金を含有するDBCをシュウ酸水溶液と混合することにより、DBC中の金をシュウ酸で還元して金粉を回収する(還元工程)。そして、還元工程後のDBCは、再度、抽出工程に使用される(抽出剤循環工程)。つまり、DBCは上述した循環プロセスの系内を循環しているので、上記循環プロセスにおける還元工程後のリサイクルDBCを、本実験の分析の対象溶液とした。
【0078】
分析の対象溶液であるDBCから100ml容量用の分液漏斗に30ml分取した。この分液漏斗に超純水30mlを入れて1分間振とうした。振とう後、10分間静置した後、下相に位置する水相を分取して分析試料を調製した。
分析試料の分析は、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)および核磁気共鳴装置(NMR)を用いて行った。
【0079】
LC/MS分析では、注入方法としてインフュージョン法を採用した。かかる注入方法を用いて分析する場合、分析試料から希釈用の分析試料を全量100ml容量用のメスフラスコに1ml分取した。その後、かかるメスフラスコに超純水を入れて定容しインフュージョン用の分析試料とした。
【0080】
実験に使用した機器および分析条件は、以下の通りである。
【0081】
(LC/MS)
LC/MS:QSTAR XL(ABサイエックス社製)
注入方法:インフュージョン法
注入量:1ml
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法(ESI)
測定モード:ネガティブ
【0082】
(NMR)
NMR:AVANCE400型(Buruker Biospin社製)
観測核:13C核
積算回数:5000回
【0083】
(結果)
図2には、LC/MSを用いて分析した実験結果を示す。
図3には、NMRを用いて分析した実験結果を示す。
なお、図3(B)には、シュウ酸の標準試料(和光純薬株式会社製、試薬特級)を用いて分析したNMRの結果を示す。
【0084】
図2に示すように、マススペクトルにおいて、m/z=88.9876に強いピークが検出された。
本測定モードは、ネガティブモードである。このため、シュウ酸は、プロトン(水素)が1個外れたピークとして検出される。
シュウ酸(分子式C)からプロトンが1個外れた場合、つまりCHOの理論上の精密質量は、88.9880である。この値は、図2に示した実測値(88.9876)とよく一致していた。
したがって、図2に示すm/z=88.9876のピークは、シュウ酸由来のピークであると推定された。
【0085】
また、元液のNMRの分析結果(図3(A)の13C核 NMRスペクトル)と、シュウ酸の標準試料のNMRの分析結果(図3(B)の13C核 NMRスペクトル)を比較すると、図3(A)には、図3(B)のシュウ酸の標準試料由来の165ppm付近のピーク(図3の矢印で示したピーク)に一致するピークを検出した。
【0086】
なお、図3(A)および図3(B)に検出された80ppm付近のピークは、NMR測定に使用される基準物質のクロロホルム由来のピークである。
また、図3(A)に検出された100ppm以下のクロロホルム由来以外の複数のピークは、DBC由来のピークであった。
したがって、図3(A)に示す165ppm付近に検出されたピークは、シュウ酸由来のピークであると推定された。
【0087】
以上の結果から、シュウ酸の分析方法を用いることにより、リサイクルDBC中からシュウ酸を検出することができることが確認された。
【0088】
つぎに、シュウ酸の分析方法を用いることにより、リサイクルDBC中に存在または残留するシュウ酸を定量できるか否かを確認した。
【0089】
実験では、上述した分析試料を、高速液体クロマトグラフ(HPLC)およびイオンクロマトグラフ(IC)を用いて分析した。
【0090】
実験に使用した機器および分析条件は、以下の通りである。
【0091】
HPLC:Agilent 1100型(アジレント・テクノロジー社製)
検出器:UV検出器(アジレント・テクノロジー社製;1100シリーズダイオードアレイ検出器)
検出波長:210nm
カラム:Supelcogel C-610H(Supelco社製)
移動相:0.1%−りん酸水溶液
【0092】
IC:ICS-1000(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
検出器:電気伝導度検出器(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製;ICS-1000型)
カラム:Dionex IonPac AS22(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
移動相:4.5mmol/LNaCO+1.4mmol/LNaHCO
【0093】
(結果)
図4には、HPLCを用いて分析した実験結果を示す。
図5には、ICを用いて分析した実験結果を示す。
【0094】
図4のHPLCを用いて得られたクロマトグラムから、9.5分付近にピーク(図4の矢印で示したピーク)が検出された。かかるピークは、シュウ酸に由来するものであると推定した。
一方、上述した分析試料にシュウ酸の標準溶液を添加した後、同条件下、HPLCを用いて分析した。その結果、図4に示した9.5分付近に検出されたピークと全く同じ場所のピーク強度が向上した。この結果から、かかるピークがシュウ酸であることが確認できた。
【0095】
この9.5分付近に検出されたピークに基づいて、リサイクルDBC中のシュウ酸の濃度を算出した。その結果、リサイクルDBC中のシュウ酸の濃度は、1.1mmol/l(0.1g/l)であった。
【0096】
なお、シュウ酸の濃度は以下の方法で算出した。
HPLCから得られたクロマトグラムからシュウ酸のピークを検索し、かかるピークのピーク面積を算出した。そして、算出したピーク面積を、検量線(既知濃度のシュウ酸をHPLCで測定した際のピーク面積と絶対量との関係に基づく検量線)から算出した関係式に代入して分析の対象溶液30ml中のシュウ酸の絶対量を算出した。そして、算出した値を分析の対象溶液の溶液量(30ml)で除して、(I)の分析の対象溶液中に存在するシュウ酸の濃度を算出した。
【0097】
図5のICを用いて得られたクロマトグラムから、15.7分付近に検出されたピーク(図5の矢印で示したピーク)が、シュウ酸に由来するものであることが確認できた。
【0098】
この15.7分付近に検出されたピークに基づいて、リサイクルDBC中のシュウ酸の濃度を算出した。その結果、リサイクルDBC中のシュウ酸の濃度は、1.1mmol/l(0.1g/l)であった。
なお、シュウ酸の濃度は、上述したHPLCを用いた場合と同様の方法で算出した。
【0099】
以上の結果から、リサイクルDBC中のシュウ酸の濃度を適切に算出することができることが確認できた。
【0100】
以上のように、シュウ酸の分析方法を用いれば、リサイクルDBC中のシュウ酸の有無を把握することができ、しかも、かかるシュウ酸の濃度を適切に算出することができることが確認できた。
【0101】
(II)リサイクルDBC中のシュウ酸濃度と、抽出工程における金の水相への残存濃度との関係を確認した。
【0102】
実験では、リサイクルDBC中を抽出工程の有機抽出剤として循環供給する前に、かかるDBC中のシュウ酸濃度を測定した。その後、かかるリサイクルDBCを用いて金が含有する酸性水溶液中から金を抽出した。そして、金が抽出された後の酸性水溶液中に存在する金の濃度を分析した。
【0103】
リサイクルDBC中のシュウ酸濃度は、(I)のシュウ酸の定量方法と同様の方法を用いて分析したので、本実験では割愛する。
また、酸性溶液中の金の分析は、以下の方法により分析した。
【0104】
金を含む水溶液試料は、金イオンとして10〜100mg/lに希釈し、ICP−AES(SIIナノテクノロジー社製SPS−3000、選定波長267.595nm)を用いて分析した。
【0105】
実験結果を表1に示す。
【表1】
【0106】
表1に示すように、リサイクルDBC中のシュウ酸の濃度の低下に伴い、抽出工程後の酸性水溶液中に残存する金の濃度を低下させることが確認できた。つまり、リサイクルDBC中のシュウ酸の濃度を低い状態に維持することによって、リサイクルDBCによる酸性水溶液中からの金の抽出率を向上させることができることが確認できた。
また、リサイクルDBC中のシュウ酸の濃度を0.01mol/l(0.87g/l)以下とすれば、リサイクルDBCによる酸性水溶液中からの金の抽出率が大幅に改善することが確認できた。
【0107】
(III)還元工程後の還元物質含有水溶液中の塩化物イオン濃度と、抽出工程における金の水相への残存濃度との関係を確認した。
【0108】
実験では、還元工程後の還元物質含有水溶液中の塩化物イオン濃度を分析した。その後、かかるリサイクルDBCを用いて金が含有する酸性水溶液中から金を抽出した。そして、金が抽出された後の酸性水溶液中に存在する金の濃度を分析した。
【0109】
還元工程後の還元物質含有水溶液中の塩化物イオン濃度は、以下の方法により分析した。
分析試料から塩化物として5〜50mg相当の測定用試料を採取し、硝酸銀による沈殿反応を利用した電位差滴定装置(平沼産業COM−1750、Ag電極AG−311)を用いて分析した。
また、酸性水溶液中の金の分析は、上述した金の分析と同様の方法を用いて分析したので、本実験では割愛する。
【0110】
実験結果を表2に示す。
【表2】
【0111】
表2に示すように、還元工程後の還元物質含有水溶液中の塩化物イオン濃度が低下するのに伴い、抽出工程後の酸性水溶液中に残存する金の濃度を低下させることが確認できた。つまり、還元工程後の還元物質含有水溶液中の塩化物イオン濃度を低い状態に調製することによって、リサイクルDBCによる酸性水溶液中からの金の抽出率を向上させることができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の金の溶媒抽出方法は、湿式精錬や、リサイクル、廃液処理などの金属イオンを含む水溶液から所望の金属を回収する方法に適している。
図1
図2
図3
図4
図5