【課題】ニッケル酸化鉱石に対する湿式製錬プロセスで生じる浸出スラリーに対する予備中和処理において、その浸出スラリーに含まれる鉄の沈殿を促進させ、且つ、浸出スラリーに対する固液分離処理で得られるオーバーフロー液の濁度上昇を抑えることができる方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る遊離酸除去方法は、ニッケル酸化鉱石を高圧酸浸出して得られる浸出スラリーに対して中和剤を添加することによって中和処理を施し、浸出スラリーに含まれる遊離酸を除去する方法であって、2槽以上の反応槽を使用し、中和剤を2槽以上の反応槽に分けて多段階で添加して、浸出スラリー対する中和処理を連続的に行う。
ニッケル酸化鉱石を高圧酸浸出して得られる浸出スラリーに対して中和剤を添加することによって中和処理を施し、該浸出スラリーに含まれる遊離酸を除去する設備であって、
前記浸出スラリーを連続的に処理するための2槽以上の反応槽と、
前記反応槽に中和剤を添加する薬剤添加部と、
前記中和剤の添加量を制御する制御部と、を備え、
前記中和剤が、前記2槽以上の反応槽に分けて多段階で添加される
ことを特徴とする遊離酸除去設備。
ニッケル酸化鉱石を高圧酸浸出して得られる浸出スラリーに対して中和剤を添加することによって中和処理を施し、該浸出スラリーに含まれる遊離酸を除去する方法であって、
2槽以上の反応槽を使用し、
前記中和剤を前記2槽以上の反応槽に分けて多段階で添加して、前記浸出スラリー対する中和処理を連続的に行う
ことを特徴とする遊離酸除去方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、ニッケル酸化鉱石に対する湿式製錬プロセスで生じる浸出スラリーに対する予備中和処理において、その浸出スラリーのpHのバラつきを抑えて所望とする範囲に調整することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、2槽以上の反応槽を備えた設備を用いて、中和剤をその2槽以上の反応槽に分けて多段階で添加して中和処理を施すことによって、浸出スラリーのpHのバラつきを安定化させ、固液分離して得られるオーバーフロー液の濁度上昇を抑えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわり、本発明は、以下のものを提供する。
【0011】
(1)本発明の第1の発明は、ニッケル酸化鉱石を高圧酸浸出して得られる浸出スラリーに対して中和剤を添加することによって中和処理を施し、該浸出スラリーに含まれる遊離酸を除去する設備であって、前記浸出スラリーを連続的に処理するための2槽以上の反応槽と、前記反応槽に中和剤を添加する薬剤添加部と、前記中和剤の添加量を制御する制御部と、を備え、前記中和剤が、前記2槽以上の反応槽に分けて多段階で添加される遊離酸除去設備である。
【0012】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記制御部は、最初に処理される反応槽である第1の反応槽に対する前記中和剤の添加量を、全ての反応槽に添加する該中和剤の総添加量の70%以上95%未満の割合に制御し、2番目以降の反応槽に対する前記中和剤の添加量の合計を、前記総添加量の5%以上30%未満の割合に制御する遊離酸除去設備である。
【0013】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記中和剤は石灰石スラリーである遊離酸除去設備である。
【0014】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記浸出スラリーに含まれる遊離酸の濃度は30〜60g/Lである遊離酸除去設備である。
【0015】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記浸出スラリーに含まれるニッケルの濃度は5〜10g/Lであり、鉄の濃度は3〜10g/Lである遊離酸除去設備である。
【0016】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記浸出スラリーの濃度は30〜50質量%である遊離酸除去設備である。
【0017】
(7)本発明の第7の発明は、ニッケル酸化鉱石を高圧酸浸出して得られる浸出スラリーに対して中和剤を添加することによって中和処理を施し、該浸出スラリーに含まれる遊離酸を除去する方法であって、2槽以上の反応槽を使用し、前記中和剤を前記2槽以上の反応槽に分けて多段階で添加して、前記浸出スラリー対する中和処理を連続的に行う遊離酸除去方法である。
【0018】
(8)本発明の第8の発明は、第7の発明において、最初に処理される反応槽である第1の反応槽に対する前記中和剤の添加量を、全ての反応槽に添加する該中和剤の総添加量の70%以上95%未満の割合とし、2番目以降の反応槽に対する前記中和剤の添加量の合計を、前記総添加量の5%以上30%未満の割合とする遊離酸除去方法である。
【0019】
(9)本発明の第9の発明は、ニッケル酸化鉱石を高圧酸浸出して得られる浸出スラリーから、ニッケル及びコバルトの混合硫化物の製造方法であって、前記浸出スラリーに対して中和剤を添加することによって中和処理を施し、該浸出スラリーに含まれる遊離酸を除去する予備中和工程を含み、前記予備中和工程では、2槽以上の反応槽を使用し、前記中和剤を前記2槽以上の反応槽に分けて多段階で添加して、前記浸出スラリー対する中和処理を連続的に行うニッケル及びコバルト混合硫化物の製造方法である。
【0020】
(10)本発明の第10の発明は、第9の発明において、最初に処理される反応槽である第1の反応槽に対する前記中和剤の添加量を、全ての反応槽に添加する該中和剤の総添加量の70%以上95%未満の割合とし、2番目以降の反応槽に対する前記中和剤の添加量の合計を、前記総添加量の5%以上30%未満の割合とするニッケル及びコバルト混合硫化物の製造方法である。
【0021】
(11)本発明の第11の発明は、第9又は第10の発明において、前記予備中和工程を経て得られた浸出スラリーを、浸出液と浸出残渣とに固液分離する固液分離工程を有し、前記固液分離工程で得られる前記浸出残渣の鉄品位が40〜55質量%であるニッケル及びコバルト混合硫化物の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、浸出スラリーのpHのバラつきを抑えて所望とする範囲に適切に調整することができる。これにより、例えば、浸出スラリーに含まれる鉄の沈殿化を促進させることができ、また浸出スラリーを固液分離して得られる、シックナー等のオーバーフロー液の濁度上昇を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について、以下の順序で詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける予備中和工程
2.予備中和工程における浸出スラリー中の遊離酸の除去
2−1.遊離酸除去設備
2−2.遊離酸除去方法
3.湿式製錬プロセスによるニッケル及びコバルト混合硫化物の製造方法
【0025】
≪1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける予備中和工程≫
原料であるニッケル酸化鉱石を高温高圧下で浸出して得られる浸出液から、ニッケル及びコバルトを回収するニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスは、例えば、高圧酸浸出法による浸出工程S1と、予備中和工程S2と、固液分離工程S3と、中和工程S4と、硫化工程S5と、最終中和工程(無害化工程)S6とを有する。なお、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの各工程について詳細は、後で説明する。
【0026】
予備中和工程S2では、浸出工程S1にて得られた浸出スラリーのpHを所定範囲に調整する。上述した高圧酸浸出法による浸出処理を行う浸出工程S1では、浸出率を向上させる観点から過剰の硫酸を加えるようにしている。そのため、得られた浸出スラリーには遊離の硫酸(以下、「遊離酸」ともいう)、すなわち浸出工程S1での浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸が含まれており、そのpHは非常に低い。このことから、予備中和工程S2では、次工程以降での処理が効率よく行われるように、浸出スラリーのpHを所定の範囲に調整する。
【0027】
具体的に、予備中和工程S2では、得られた浸出スラリーのpHを極力高めに維持するように調整することが好ましい。浸出スラリーのpHが低すぎると、次工程以降で使用する処理設備を耐酸性とする必要が生じてコストがかかる。また、浸出スラリーに含まれる不純物である鉄の沈殿を促進させるためには、pHを高めに調整する必要がある。例えば、予備中和工程S2にて浸出スラリーに対する中和処理を行ったのち、その浸出スラリーを固液分離して得られる浸出残渣の鉄品位が40〜55質量%となるように、鉄の沈殿を促進させることが好ましい。
【0028】
なお、浸出スラリーのpHが高すぎると、浸出スラリー中に浸出したニッケルが次工程の固液分離処理において沈殿化して残渣として残り、ニッケルの回収率が低下する可能性がある。実操業においては、浸出工程S1における浸出処理の操業状況や、固液分離工程S3における処理に用いる洗浄水のpH条件等に応じて適切な設定値を選択する。
【0029】
ここで、浸出スラリーのpHによっては、その予備中和工程S2の続く固液分離工程S3でのシックナー等の固液分離装置のオーバーフロー液の濁度の上昇を引き起こすことが知られている。オーバーフロー液の濁度の上昇は、次工程以降の処理効率を低下させ、延いては、ニッケルやコバルトの回収率を低下させる。本発明者は、固液分離工程S3で得られるオーバーフロー液の濁度の上昇は、予備中和工程S2での遊離酸除去処理のための設備から得られる浸出スラリーのpHが高めに振れた際に発生することを見出した。
【0030】
上述したように、浸出工程S1を経て得られた浸出スラリーに含まれる鉄の沈殿を促進させるためには、浸出スラリーのpHを高めに調整する必要がある。ところが一方で、次工程の固液分離工程S3の処理で得られるオーバーフロー液の濁度の上昇を防ぐためには、その浸出スラリーのpHが過度に高めに振れることを抑える必要があり、pHのバラつきを抑制して、所望とするpH範囲に安定的に調整できることが望ましい。本発明者による検討の結果、浸出スラリーに含まれる鉄の沈殿を促進させる一方で、固液分離工程S3の処理で得られるオーバーフロー液の濁度の上昇を防ぐ観点からすると、予備中和工程S2における中和処理では、遊離酸除去設備から得られる浸出スラリーのpHが2.8〜3.2となるように調整することが望ましいことが分かった。
【0031】
そこで、本実施の形態では、予備中和工程S2において使用する、浸出スラリー中の遊離酸を除去するため遊離酸除去設備において、2槽以上の反応槽を使用して、その浸出スラリーに対して中和処理を施すための中和剤を、2槽以上に分けて多段階で添加するようにする。このような遊離酸除去設備を用いて予備中和工程S2における中和処理を行うことによって、浸出スラリーのpHのバラつきを抑制して、pHが過度に高めに振れることを抑えることができる。
【0032】
また、より好ましくは、最初に処理される反応槽である第1の反応槽に対する中和剤の添加量を、全ての反応槽に添加する中和剤の総添加量に対して特定の割合とする。このことにより、より効果的に浸出スラリーのpHを安定化させて、例えば浸出スラリーのpHを2.8〜3.2程度の範囲に適切に調整することが可能となる。
【0033】
≪2.予備中和工程における浸出スラリー中の遊離酸の除去≫
以下、より具体的に、浸出スラリー中の遊離酸を除去するための遊離酸除去設備、及びその遊離酸除去設備を用いた遊離酸の除去方法について説明する。
【0034】
<2−1.遊離酸除去設備>
本実施の形態に係る遊離酸除去設備は、上述したように、ニッケル酸化鉱石を高圧酸浸出して得られる浸出スラリー中の遊離酸を除去する設備である。
図1は、遊離酸除去設備の構成の一例を示す図である。
【0035】
図1に示すように、遊離酸除去設備1は、浸出スラリーに対して連続的に処理するための2槽以上の反応槽11と、処理対象である浸出スラリーに中和剤を添加する薬剤添加部12と、薬剤添加部を介した中和剤の添加量を制御する制御部13とを備える。
【0036】
[反応槽]
反応槽11では、浸出工程S1における浸出処理により得られた浸出スラリー、すなわち浸出液と浸出残渣との混合スラリーが収容され、pH調整に基づく中和処理が行われる。遊離酸除去設備1においては、この反応槽11が2槽以上設けられており、浸出スラリーに対する中和処理が連続的に行われる。
【0037】
具体的には、最初に処理される反応槽である第1の反応槽11
(1)に浸出スラリーが収容されて中和剤の添加により中和処理が行われると、次に、処理後の浸出スラリーが続けて設けられている第2の反応槽11
(2)に移送され、その第2の反応槽11
(2)にて中和剤の添加による中和処理が行われる。なお、本明細書では、第nの反応槽を「反応槽11
(n)」と符号表記し、
図1に一例を示す構成図では第1の反応槽11
(1)と、第2の反応槽11
(2)との2槽からなる設備の構成を示す。
【0038】
[薬剤添加部]
薬剤添加部12は、浸出スラリーを収容した反応槽に対して所定量の中和剤を添加する。この薬剤添加部12を介した浸出スラリーに対する中和剤の添加により、反応槽11に収容された浸出スラリーに対する中和処理が生じる。
【0039】
薬剤添加部12は、2槽以上の反応槽11のそれぞれに個別に設けられるようにすることができ、それぞれの薬剤添加部12を介して、対応する反応槽11に所定量の中和剤を添加することができる。なお、遊離酸除去設備1において単一で薬剤添加部12を設けてもよく、その1つの薬剤添加部12を介して2槽以上の反応槽11のそれぞれに中和剤を添加するようにしてもよい。
【0040】
薬剤添加部12が添加する中和剤としては、特に限定されないが、石灰石スラリーであることが好ましい。石灰石スラリーは、取り扱いが容易であり、また安価であり、例えば浸出スラリーをpH2.8〜3.2程度の範囲に調整するのに特に適している。中和剤として石灰石スラリーを用いた場合、その濃度としては特に限定されないが、20〜35質量%であることが好ましく、25〜30質量%であることがより好ましい。石灰石スラリーの濃度が20質量%未満であると、石灰石スラリーの量が増えるため、石灰石スラリーを添加した後の浸出スラリーの量が増加する、すなわち、処理する工程液の量が増加するため好ましくない。一方で、石灰石スラリーの濃度が35質量%を超えると、その石灰石スラリーと浸出スラリーとの反応性が低下するため好ましくない。
【0041】
なお、薬剤添加部12を介した中和剤の添加は、上述した反応槽11に対して直接添加してもよく、その反応槽11に浸出スラリーを導入する配管や樋等に添加してもよい。いずれの添加態様であっても、「反応槽に添加する」との意味に含まれる。
【0042】
[制御部]
制御部13は、薬剤添加部12からの中和剤の添加及びその添加量を制御する。この制御部13は、例えば、薬剤添加部12が2槽以上の反応槽11のそれぞれに対応するように2つ以上設けられている場合には、それぞれの薬剤添加部12に電気的な信号を送信できるように接続される。この制御部13からの制御信号に基づいて、薬剤添加部12から反応槽11に対して添加する中和剤の添加量が制御される。
【0043】
<2−2.遊離酸除去方法>
ここで、本実施の形態に係る遊離酸除去設備1においては、同一種類の中和剤が、2槽以上の反応槽11に分けて多段階で添加されることを特徴としている。つまり、処理対象とする浸出スラリーに対する中和処理に必要な量の中和剤が、単一の反応槽にのみに添加されるのではなく、2槽以上の反応槽11に分けて多段階で添加される。
【0044】
このように、2槽以上の反応槽11が設けられた遊離酸除去設備1を用いて、浸出スラリーに対して中和処理を施すための中和剤を、2槽以上の反応槽11に分けて多段階で添加して連続的に処理することで、処理する浸出スラリーの流量変動やpH変動への対応が容易となり、そのpHのバラつきを抑えて安定化させることができる。これにより、浸出スラリー中の鉄の沈殿を促進させることができる。具体的には、浸出スラリーを固液分離して得られる浸出残渣の鉄品位として40〜55質量%程度とすることができる。また、このような中和処理によって、次工程の固液分離工程S3で得られるオーバーフロー液の濁度上昇を効果的に抑えることができる。
【0045】
また、より好ましくは、最初に処理される反応槽である第1の反応槽11
(1)に対する中和剤の添加量を、全ての反応槽11
(1)〜(n)に添加する中和剤の総添加量に対して特定の割合に制御して添加する。具体的には、第1の反応槽11
(1)に対する中和剤の添加量を、全ての反応槽11
(1)〜(n)に添加する中和剤の総添加量の70%以上95%未満の割合の制御し、また、2番目以降の反応槽11
(2)〜(n)に対する中和剤の添加量の合計を、その総添加量の5%以上30%未満の割合に制御して添加することが好ましい。
【0046】
このように、中和剤を2槽以上の反応槽11に分けて多段階で添加して連続的に処理するに際して、第1の反応槽11
(1)に対する中和剤の添加量を、浸出スラリーの中和処理に要する中和剤の総添加量に対して特定の割合とすることによって、より効果的に浸出スラリーのpHを安定化させることができ、例えばpH2.8〜3.2程度の範囲に、より適切に調整することができる。
【0047】
なお、遊離酸除去設備1においては、制御部13が、上述した中和剤の添加量の制御を行う。そして、その制御部13から添加量に関する制御信号に基づいて、薬剤添加部12が、その特定量の中和剤を特定の反応槽11に添加する。
【0048】
また、
図1に示すように、それぞれの反応槽11においては、pH計14を設けるようにし、反応槽11内の浸出スラリーのpHを経時的に測定して、その測定結果に関する信号を制御部13に送信するようにしてもよい。制御部13では、そのpHの測定結果に基づいて、薬剤添加部12を介してそれぞれの反応槽11に添加される中和剤の添加量をフィードバック制御する。また、制御部13では、pHの測定結果に基づいて等分散検定を行うようにし、pHのバラつきを測定することによって、中和剤の添加量をフィードバック制御するようにしてもよい。
【0049】
ここで、遊離酸除去設備1を用いて中和処理する浸出スラリーに関して、その浸出スラリーに含まれる遊離酸の濃度としては、特に限定されないが、30〜60g/Lであることが好ましい。遊離酸の濃度が30g/L以上であることにより、中和剤を2槽以上の反応槽11に分けて段階的に添加することによる効果が特に有意となる。なお、遊離酸濃度が60g/Lを超えると、反応槽の設置数を多くする必要が生じて、設備コストの上昇を招く可能性がある。
【0050】
また、浸出スラリーに含まれるニッケルの濃度としては、特に限定されないが、5〜10g/Lであることが好ましい。また、鉄の濃度についても、特に限定されないが、3〜10g/Lであることが好ましい。
【0051】
また、浸出液スラリーの濃度についても、特に限定されないが、30〜50質量%であることが好ましい。
【0052】
≪3.湿式製錬プロセスによるニッケル及びコバルト混合硫化物の製造方法≫
次に、上述した予備中和工程S2を含むHPAL法に基づくニッケル酸化鉱石の湿式試練プロセスについて説明する。このニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスは、原料であるニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを浸出させ、その浸出液からニッケル及びコバルトの混合硫化物(以下、「ニッケル及びコバルト混合硫化物」ともいう)を製造する方法である。
【0053】
図2は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れの一例を示す工程図である。
図2に示すように、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスは、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施す浸出工程S1と、得られた浸出スラリーのpHを所定範囲に調整して予備中和を行う予備中和工程S2と、pH調整された浸出スラリーを多段洗浄しながら残渣を分離して、ニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程S3と、浸出液のpHを調整して不純物元素を含む中和澱物を分離し、ニッケル及びコバルトを含む中和終液を得る中和工程S4と、中和終液に硫化剤を添加することでニッケル及びコバルト混合硫化物を生成させる硫化工程S5とを有する。さらに、この湿式製錬プロセスでは、固液分離工程S3にて分離された浸出残渣や硫化工程S5にて排出された貧液を回収して無害化する最終中和工程S6を有する。
【0054】
(1)浸出工程
浸出工程S1では、オートクレーブ等の高温加圧反応槽を用い、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して、温度230〜270℃程度、圧力3〜5MPa程度の条件下で攪拌し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成する。
【0055】
ニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ酸マグネシウム鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10〜50重量%であり、主として3価の水酸化物の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。
【0056】
浸出工程S1における浸出処理では、例えば下記式(a)〜(e)で表される浸出反応と高温熱加水分解反応が生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。ただし、鉄イオンの固定化は完全には進行しないため、通常、得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等の他に2価と3価の鉄イオンが含まれる。
【0057】
・浸出反応
MO+H
2SO
4⇒MSO
4+H
2O ・・(a)
(なお、式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す)
2Fe(OH)
3+3H
2SO
4⇒Fe
2(SO
4)
3+6H
2O ・・(b)
FeO+H
2SO
4⇒FeSO
4+H
2O ・・(c)
・高温熱加水分解反応
2FeSO
4+H
2SO
4+1/2O
2⇒Fe
2(SO
4)
3+H
2O ・・(d)
Fe
2(SO
4)
3+3H
2O⇒Fe
2O
3+3H
2SO
4 ・・(e)
【0058】
浸出工程S1における硫酸の添加量としては、特に限定されないが、鉱石中の鉄が浸出されるような過剰量が用いられる。例えば、鉱石1トン当り300〜400kgとする。そして、浸出工程S1では、後工程の固液分離工程S3で生成されるヘマタイトを含む浸出残渣の濾過性の観点から、得られる浸出液のpHが0.1〜1.0となるように調整することが好ましい。
【0059】
(2)予備中和工程
予備中和工程S2では、浸出工程S1にて得られた浸出スラリーのpHを所定範囲に調整する。上述したように、浸出工程S1では、浸出率を向上させる観点から過剰の硫酸を添加しているため、浸出スラリーには浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸、すなわち遊離酸が含まれており、そのpHは低い。予備中和工程S2では、浸出スラリーに中和剤を添加してpHを所定範囲に調整することによって遊離酸を除去し、また次工程の固液分離工程S3における多段洗浄が効率的に行われるようにする。
【0060】
ここで、本実施の形態においては、
図1に構成図に示すような遊離酸除去設備1を使用して、同一種類の中和剤を、2槽以上の反応槽11に分けて多段階で添加することによって連続的な中和処理を行う。つまり、浸出スラリーに対する中和処理に必要な量の中和剤を、単一の反応槽にのみに添加するのではなく、2槽以上の反応槽11に分けて多段階となるように添加する。
【0061】
このように、中和剤を2槽以上の反応槽11に分けて多段階で添加して連続的に処理することで、浸出スラリーの流量変動やpH変動への対応が容易となり、そのpHのバラつきを抑えることができる。具体的には、浸出スラリーのpHを、所望とする範囲である、pH2.8〜3.2程度の範囲に安定的に調整することができる。
【0062】
これにより、浸出スラリー中の鉄の沈殿を促進させるとともに、次工程の固液分離工程S3で得られる、シックナー等の固液分離装置からのオーバーフロー液の濁度上昇を効果的に抑えることができる。そして、オーバーフロー液の濁度上昇を抑制できることにより、次工程以降での処理を効率的に行うことができ、延いては、ニッケル及びコバルト混合硫化物の回収率の低下も防ぐことができる。
【0063】
(3)固液分離工程
固液分離工程S3では、予備中和工程S2にてpH調整を行った浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケルやコバルト等の有価金属を含む浸出液と浸出残渣とを得る。
【0064】
固液分離工程S3では、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、シックナー等の固液分離装置を用いて固液分離処理を施す。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、浸出スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、浸出残渣に付着するニッケル分をその希釈度合に応じて減少させることができる。実操業では、このような機能を持つシックナーを多段に連結して用いることにより、ニッケルやコバルトの回収率の向上を図ることができる。なお、洗浄液としては、工程に影響を及ぼさないものであって、pHが1〜3の水溶液を用いることが好ましく、例えば硫化工程S5で得られる低pHの貧液を繰り返して利用することができる。
【0065】
シックナー等の固液分離装置から得られるオーバーフロー液は、浸出液として浸出残渣と分離して回収され、次工程に移送される。本実施の形態においては、上述した予備中和工程S2において中和剤を多段階で添加して中和処理を行っているため、そのオーバーフロー液の濁度の上昇を抑えることができる。
【0066】
(4)中和工程
中和工程S4では、固液分離工程S3で分離回収された浸出液の酸化を抑制しながら、酸化マグネシウムや炭酸カルシウム等の中和剤を添加して中和処理を施し、3価の鉄を含む中和澱物スラリーとニッケル回収用母液である中和終液とを得る。
【0067】
具体的に、中和工程S4では、浸出液の酸化を抑制しながら、得られる中和終液のpHが4.0以下、好ましくは3.0〜3.5、より好ましくは3.1〜3.2になるように、その浸出液に炭酸カルシウム等の中和剤を添加し、ニッケル及びコバルト回収用の母液となる中和終液と、不純物元素として3価の鉄を含む中和澱物スラリーとを形成する。
【0068】
なお、中和終液は、中和処理により得られたスラリーを固液分離することによって回収される。この中和終液は、上述したように、浸出工程S1において原料のニッケル酸化鉱石に対して硫酸による浸出処理を施して得られた浸出液に基づく溶液であって、ニッケル及びコバルトを含む硫酸酸性溶液である。
【0069】
(5)硫化工程
硫化工程S5では、ニッケル及びコバルト回収用母液である中和終液を硫化反応始液として、その硫化反応始液に対して硫化剤としての硫化水素ガスを吹き込むことによって硫化反応を生じさせ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトの混合硫化物と、ニッケル及びコバルトの濃度を低い水準で安定させた貧液とを生成させる。
【0070】
なお、中和終液中に亜鉛が含まれる場合には、硫化物としてニッケルやコバルトを分離するに先立って、亜鉛を硫化物として選択的に分離することができる。
【0071】
硫化工程S5における硫化処理は、硫化反応槽等を用いて行うことができ、硫化反応槽に導入した硫化反応始液に対して、その反応槽内の気相部分に硫化水素ガスを吹き込み、溶液中に硫化水素ガスを溶解させることで硫化反応を生じさせる。この硫化処理により、硫化反応始液中に含まれるニッケル及びコバルトを混合硫化物として固定化する。硫化反応の終了後、得られたニッケル及びコバルト混合硫化物を含むスラリーをシックナー等の沈降分離装置に装入して沈降分離処理を施し、その混合硫化物のみをシックナーの底部より分離回収する。
【0072】
本実施の形態においては、以上のような各処理工程を経ることによって、ニッケル及びコバルト混合硫化物を製造することができる。特に、本実施の形態においては、予備中和工程S2において、中和剤を多段階で添加して処理しているため、浸出スラリーのpHのバラつきを効果的に抑えることができる。これにより、より効果的に鉄の沈殿を促進させて浸出液中における鉄の濃度を減少させることができるとともに、固液分離を経て得られたオーバーフロー液、すなわち浸出液の濁度上昇を抑えることができ、次工程以降の処理を効率的に行うことができる。
【0073】
なお、この硫化工程S5を経て分離された水溶液成分は、シックナーの上部からオーバーフローさせて貧液として回収する。なお、回収した貧液は、ニッケル等の有価金属濃度の極めて低い溶液であり、硫化されずに残留した鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含む。この貧液は、最終中和工程S6に移送されて無害化処理される。
【0074】
(6)最終中和工程
最終中和工程S6では、上述した固液分離工程S3における固液分離処理により分離された浸出残渣や、硫化工程S5にて回収された、鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含む貧液等に対して、排出基準を満たす所定のpH範囲に調整する中和処理(無害化処理)が施される。
【0075】
pHの調整方法としては、特に限定されないが、例えば炭酸カルシウムスラリー等の中和剤を添加することによって所定の範囲に調整することができる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0077】
[実施例1]
ニッケル酸化鉱石に対してHPAL法に基づいて浸出処理して得られた浸出スラリーを用い、予備中和工程における処理として遊離酸除去処理を行った。この処理では、連続的な処理が可能な2槽の反応槽を備える遊離酸除去設備を用い、浸出スラリーを収容させた反応槽に石灰石スラリーを添加して浸出スラリーのpHを3.0に調整するようにし、17日間の操業を行った。
【0078】
より具体的に、容量315m
3の第1の反応槽と、容量390m
3の第2の反応槽との、2槽の反応槽を備えた遊離酸除去設備を使用し、中和剤としての石灰石スラリーを、第1の反応へは石灰石スラリーの総添加量の95%を、第2の反応槽へは石灰石スラリーの総添加量の5%の割合でそれぞれを添加して、多段階の中和剤添加による処理を行った。
【0079】
なお、この予備中和工程に移送された浸出スラリーの流量は、平均で296m
3/hrであった。また、浸出スラリー中のニッケル濃度は7.8g/Lであり、鉄濃度は7.2g/Lであり、当該浸出スラリーの濃度は39.9質量%であった。
【0080】
表1に、このような予備中和工程における処理を行った結果を示す。表1には、浸出スラリー中の遊離酸の濃度と処理により調整したpHを示し、またpHについて等分散検定(F検定)を行ってpHのバラつきを確認した。さらに、この予備中和工程での処理後の浸出スラリーをシックナーに移送し、固液分離工程として固液分離処理を行ったときのシックナーオーバーフロー液の濁度を測定した。なお、固液分離処理で得られた浸出残渣中の鉄品位は50.1質量%であった。
【0081】
【表1】
【0082】
[比較例1]
予備中和工程において、第1の反応槽のみを備えた遊離酸除去設備を使用し、中和剤としての石灰石スラリーを添加して浸出スラリーのpHを3.0に調整する操業を2ヵ月間に亘って実施した。
【0083】
なお、この予備中和工程に移送された浸出スラリーの流量は、平均で290m
3/hrであった。また、浸出スラリー中のニッケル濃度は7.7g/Lであり、鉄濃度は7.7g/Lであり、当該浸出スラリーの濃度は40.0質量%であった。
【0084】
表2に、比較例1の予備中和工程における処理結果を示す。表2には、実施例1における処理結果と同様に、浸出スラリー中の遊離酸の濃度と処理により調整したpHを示し、またpHについて等分散検定(F検定)を行ってpHのバラつきを確認した。さらに、この予備中和工程での処理後の浸出スラリーをシックナーに移送し、固液分離工程として固液分離処理を行ったときのシックナーオーバーフロー液の濁度を測定した。なお、固液分離処理で得られた浸出残渣中の鉄品位は50.6質量%であった。
【0085】
【表2】
【0086】
実施例1及び比較例1の処理結果から分かるように、それぞれの予備中和工程における処理による浸出スラリーのpHの平均値には大きな差はなく、およそpH3.0に適切に調整することができた。また、次工程の固液分離工程で得られた浸出残渣中の鉄品位もほぼ同等であり、浸出スラリーのpH調整により鉄の沈殿が促進された。
【0087】
しかしながら、予備中和工程にて調整した浸出スラリーのpHに関して等分散検定を行った結果、有意水準5%で、実施例1の方が比較例1よりも分散が小さいという結果となった。つまり、実施例1での処理のように、2槽以上の反応槽を備えた遊離酸除去設備を用いて、中和剤である石灰石スラリーの添加を多段階に分けて行うことによって、調整する浸出スラリーのpHのバラつきを小さくすることができることが分かった。
【0088】
また、固液分離工程における処理により得られたシックナーオーバーフロー液の濁度に関しても等分散検定を行った結果、有意水準5%で、実施例1の方が比較例1よりも分散が小さいという結果となった。つまり、実施例1での処理のように、中和剤の添加を多段階に分けて行うことによって、オーバーフロー液の濁度のバラつきも抑えることができることが分かった。