【実施例】
【0027】
[実験例1]
まず、第1の実験例として、ポリ乳酸を使用したプラスチックナノファイバを前記作製方法により現実に作製し、そのプラスチックナノファイバについて、光導波性および圧電特性を測定した。その実験例を以下に示す。
〔混合溶液の作製〕
使用するラセミ体ポリ乳酸は、重量平均分子量が30万〜60万のものとし、溶剤にN,N−ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムを使用した。まず、N,N−ジメチルホルムアミド7.91gとクロロホルム18.8gを混合した溶媒を作製し、この溶媒にラセミ体ポリ乳酸2.52gを溶解した。なお、上記混合比において、N,N−ジメチルホルムアミドとクロロホルムの体積比は2:3とし、ラセミ体ポリ乳酸の濃度は120mg/mlとしている。ラセミ体ポリ乳酸の溶媒への溶解は、室温大気圧下においてマグネットスターラーにより撹拌した。
【0028】
なお、光導波性の測定に使用するナノファイバは、蛍光色素としてシグマ・アルドリッチ社製のローダミン6G(3,6−ビス(エチルアミノ)−9−[2−(エトキシカルボニル)フェニル]−2,7−ジメチルキサンチウム・クロリド:赤色)を添加した。ローダミン6Gを添加する場合においても、N,N−ジメチルホルムアミドとクロロホルムの体積比が2:3となり、ラセミ体ポリ乳酸の濃度が120mg/mlとなるように調整している。すなわち、予めローダミン6G2.8mgとN,N−ジメチルホルムアミド11.3gを混合し、この溶液1.23gに対し、クロロホルム2.92gとラセミ体ポリ乳酸391mgを混合し、室温大気圧下による撹拌により溶解した。なお、ローダミン6Gの濃度は、ラセミ体ポリ乳酸の体積に対して2×10
−3mol/Lである。
【0029】
〔エレクトロスピニング装置〕
シリンジには、シリンジフィルタ(ポアサイズ1μm)と金属ニードル(内径0.18mm)とを取り付けたものを使用した。シリンジポンプにKD−100(KD Scientific Inc.社製)を使用した。コレクタは、ポリイミドフィルム上にスクリーン印刷により銀電極を成膜した基板を使用した。ニードルとコレクタ間の距離は10cmとし、電圧発生装置HVU−30P100(Mecc Co.,LTD社製)を使用した。なお、ファイバ作製においては、シリンジポンプによる吐出速度は0.04mlh
−1とし、ニードルとコレクタ間の電圧は、ニードル側4.0kVを印加しコレクタを0Vとした。また、二枚のコレクタが近接する端縁間に形成すべき間隙は30mmとした。圧電特性を測定するために、ランダム配向させたナノファイバによるシートを作製することとし、その際は、1枚のコレクタを使用している。この場合のエレクトロスピニング装置の概略と、実際の装置を
図1に示す。
図1中の上段に示しているものが、ランダム配向させるための装置の概略図であり、中段がその装置の写真である。また、同図の下段は、一軸配向させるための二枚のコレクタを使用した装置の概略図である。
【0030】
〔測定方法〕
<光導波性>
光導波性を評価するために、前記ローダミン6Gを含有した混合溶液により作製したプラスチックナノファイバを使用した。このプラスチックナノファイバ(一軸配向)一本をクラッド材料(サイトップCTX−109AE:旭硝子株式会社製)のフィルムで包囲し、該フィルムをナノファイバの軸線と直交方向の面でカットして、ナノファイバの先端を
露出させた。このようにクラッディングされたナノファイバに対し、直交方向からLCM−T−111(Laser−Export Co.,Ltd社製)により、波長532nmの励起用のレーザ光をスポット半径0.45mm、強度5mWにより照射した。なお、照射位置は、ナノファイバの軸線方向の長さ(先端からの長さ)が変化するように適宜変化させた。各位置において照射した際のナノファイバ先端における導波光を測定した。導波光の測定は、蛍光顕微鏡BX−51(オリンパス株式会社製)によるものとし、光学フィルタ(590nm以上の波長を透過するもの)を有する小型ファイバ光学分光器USB4000(Ocean Optics Inc.社製)により分光した。その装置の概略を
図2に示す。
【0031】
<圧電特性>
他方、圧電特性を評価する場合には、ナノファイバを多軸配向してなるシート(ファイバ平均直径730nm、肉厚13.5μm)を作製し、厚さ方向に電圧を−100V〜+100Vの範囲で印加し、膜厚の変化を測定した。
【0032】
〔測定結果〕
<ナノファイバ評価>
前記作製方法により作製された一軸配向のナノファイバ1本のSEM像を
図3に示す。このSEM像からも明らかなとおり、目視においてほぼ均一な直径のファイバを得ることができた。そこで、4種のナノファイバについて、長さ120μmの範囲のSEM像を取得し、当該SEM像から直径の変化を評価したところ下表のとおりであった。
【0033】
【表1】
【0034】
<光導波性>
前記一軸配向のナノファイバ(ローダミン6Gを含む)1本をクラッディングしたシートにおいて、励起用レーザ光の照射位置を、ナノファイバ先端からの距離(h)が0.05cmから0.17cmの範囲に変化させた際に励起される光の導波の測定結果を
図4に示す。なお、図は、測定した波長は590nm以上(光学フィルタによる590nm以上透過)の導波光強度であり、測定結果をプロットするとともに、プロットの隣接する30点の隣接平均を実線で示したものである。
【0035】
さらに、前記実線で示す隣接平均の導波光強度の常用対数値について、ナノファイバ先端からの距離(h)との関係を
図5に示す。同図における横軸がナノファイバ先端からの距離(h)である。なお、hの数値が0.05cm以上となっているのは、照射したレーザ光のレーザスポット半径が0.045cm(0.45mm)であることから、これよりhを小さくすることによる検出結果の誤りを防止するため、0.05cm未満については測定しなかったことによるものである。
【0036】
上記結果から明らかなとおり、一軸配向させたポリ乳酸によるプラスチックナノファイバに照射された励起光により、励起された光がナノファイバの先端まで導波していることが判る。ただし、導波光強度は、ナノファイバ先端からの距離(h)の増加に伴って減少しているが、これは、導波距離の増加に伴う導波光の減衰のためである。
【0037】
そこで、伝播損失を算出する。上記
図5中に示される実線は、プロットされた数値の状
態にフィットする次式関数に沿った曲線である。
【0038】
【数1】
【0039】
図5から明らかなとおり、上記フィット関数は、同図のプロットによくフィットしている。そこで、このフィット関数から伝播損失(a)を算出するために次式を用いた。
【0040】
【数2】
【0041】
上式を用いて伝播損失(a)を算出し、これを波長との関係を
図6に示す。同図では、横軸を波長とし、前記表1に示した4種類のファイバ(A〜D)について、同様の算出方法により算出された伝播損失を示している。
【0042】
この図から明らかなとおり、いずれのファイバにおいても、波長590nm〜670nmの範囲における伝播損失は、44dBcm
−1未満となる結果が得られた。また、上記の範囲内においては、波長の増加に伴って伝播損失が減少することが判明した。このような現象の理由としては、ファイバ中のポリ乳酸密度の不均一による過剰散乱が生じたためと推測される。
【0043】
<圧電特性>
圧電特性の測定には、前述のように、ランダム配向させたファイバによるシートを使用した。ここで、ファイバがランダム配向している状態のSEM像を
図7に示す。このSEM像から明らかなとおり、ファイバは特定方向(一定方向)に配向されるものではなくランダム方向に配向している。この種のシートを使用し、電圧印加に伴う当該シートの肉厚の変化を測定した。なお、シートの膜厚方向(表面と裏面との間)に−100V〜+100Vまで印加電圧を変化させ、スキャン速度は6Vs
−1にて測定した。
図8にその結果を示す。図の縦軸は、肉厚の変化の割合(%)であり、横軸は印加電圧である。
【0044】
上記の結果から印加電圧の極性および大きさに応じて、肉厚が−9.0%〜4.1%の範囲で変化した。これが誘電体である場合には極性に関係なく、印加電圧の絶対値に比例して膜厚が減少することとなるが、上記測定結果の場合には、極性に応じて増減している。従って、本実験におけるシートの膜厚の変化は、誘電体であることによるものではなく、圧電材料と同様の動作を示したものである。
【0045】
以上のように、本発明の実施形態および実験例1によれば、ラセミ体ポリ乳酸をエレクトロスピニング法により繊維化(紡糸)したナノファイバは、光導波性を有しつつ圧電特性を備えたものである。なお、使用するラセミ体ポリ乳酸は、非晶性のポリ−DL−乳酸であり、一軸配向のファイバを作製する場合は、離間した二つのコレクタの空隙に、高電圧を印加したニードルからラセミ体ポリ乳酸含有の混合溶液を射出させることによるものである。
【0046】
[実験例2]
次に、第2の実験例として、PMMAを使用したプラスチックナノファイバを前記作製
方法により現実に作製し、そのプラスチックナノファイバについて、光導波性および圧電特性を測定した。その実験例を以下に示す。
【0047】
〔混合溶液の作製〕
<光導波性実験用>
光導波性実験に使用するプラスチックナノファイバを作製するための試料として、シグマ・アルドリッチ社製の重量平均分子量(Mw)35万のPMMAを使用し、溶剤にN,N−ジメチルホルムアミドを使用した。また、蛍光色素として前掲のローダミン6Gを使用した。PMMAを12wt%の濃度でN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させ、また、ローダミン6Gを濃度4.9×10
−3wt%にて添加した。
【0048】
<圧電性実験用>
圧電性実験に使用するプラスチックナノファイバを作製するための試料としては、クロロホルムとN,N−ジメチルホルムアミドの混合溶剤(3:7)の液体中に、前記PMMAを8wt%の濃度で溶解させた。
【0049】
〔エレクトロスピニング装置〕
<光導波性実験用>
光導波性実験に使用するプラスチックナノファイバをエレクトロスピニング法で作製する場合、シリンジには、シリンジフィルタ(ポアサイズ1μm)と金属ニードル(内径0.3mm)とを取り付けたものを使用した。シリンジポンプおよびコレクタは実験1と同様であるが、ニードルとコレクタ間の距離は15cmとし、二枚のコレクタが近接する端縁間に形成すべき間隙は40mmとした。実験1と同じ電圧発生装置を使用し、ニードルに2.2kVの陽極電圧を印加した。なお、ファイバ作製においては、シリンジポンプによる吐出速度は0.20mlh
−1とした。さらに、二枚のコレクタに対して交互に陰極電圧を印加した。この電圧印加には、電圧発生装置HJPM−1N3(松定プレシジョン社製)を使用し、−800Vを印加し、1個のスイッチを用いて印加すべきコレクタを切り替えた。このときの装置の概略を
図9に示す。
【0050】
<圧電性実験用>
圧電性実験に使用するプラスチックナノファイバをエレクトロスピニング法で作製する場合には、一枚のコレクタを使用してランダム配向させることとした。装置の構成は、実験1(
図1の上段)と同じとしたが、シリンジによる吐出速度は、0.04mlh
−1とした。
【0051】
〔測定方法〕
前記方法によって作製されたプラスチックナノファイバの光導波性および圧電特性の測定には、いずれも実験1と同じ装置を用いることとし、基本的に同じ方法によることとした。ただし、圧電特性の測定に使用される多軸配向シートの肉厚およびファイバ平均直径は異なる。なお、ファイバ平均直径は720nmであり、シートの肉厚は15μmであった。
【0052】
〔測定結果〕
<ナノファイバ評価>
前記作製方法により作製された一軸配向のナノファイバ1本のSEM像を
図10に示す。このSEM像からも明らかなとおり、目視においてほぼ均一な直径1μm未満のファイバを得ることができた。そこで、7種のナノファイバについて、長さ120μmの範囲のSEM像を取得し、当該SEM像から直径の変化を評価したところ下表のとおりであった。
【0053】
【表2】
【0054】
<光導波性>
前記一軸配向のナノファイバ(ローダミン6Gを含む)1本をクラッディングしたシートにおいて、励起用レーザ光の照射位置を、ナノファイバ先端からの距離(h)が0.04cmから0.44cmの範囲に変化させた際に励起される光の導波の測定結果を
図11(a)に示す。なお、図は、測定した波長は590nm以上(光学フィルタによる590nm以上透過)の導波光強度であり、測定結果をプロットするとともに、プロットの隣接する30点の隣接平均を実線で示したものである。
【0055】
さらに、前記実線で示す隣接平均の導波光強度の常用対数値について、ナノファイバ先端からの距離(h)との関係を
図11(b)に示す。同図における横軸がナノファイバ先端からの距離(h)である。なお、hの数値が0.05cm以上となっているのは、照射したレーザ光のレーザスポット半径が0.045cm(0.45mm)であることから、これよりhを小さくすることによる検出結果の誤りを防止するため、0.05cm未満については測定しなかったことによるものである。
【0056】
上記結果から明らかなとおり、一軸配向させたPMMAプラスチックナノファイバに照射された励起光により、励起された光がナノファイバの先端まで導波していることが判る。導波光強度が、ナノファイバ先端からの距離(h)の増加に伴って減少しているのは、実験1と同様に、導波距離の増加に伴う導波光の減衰のためである。
【0057】
また、伝播損失は、数1に示したフィット関数から数2に示した式に基づいて算出し、これと波長との関係を
図11(c)に示す。なお、
図11(b)に示される実線は、数1に示したフィット関数に沿った曲線であり、プロットされた数値の状態にフィットしている。
【0058】
この図から明らかなとおり、いずれのファイバにおいても、波長590nm〜680nmの範囲における伝播損失は、63dBcm
−1未満となる結果が得られた。また、上記の範囲内においては、波長の増加に伴って伝播損失が減少することが判明した。このような現象の理由としては、ファイバ中のPMMA材料の密度の不均一による過剰散乱が生じたためと推測される。
【0059】
<圧電特性>
圧電特性の測定には、前述のように、ランダム配向させたファイバによるシートを使用した。ここで、ファイバがランダム配向している状態のSEM像を
図12に示す。
図12(b)は、
図12(a)を10倍に拡大したSEM像である。これらのSEM像から明らかなとおり、ファイバは特定方向(一定方向)に配向されるものではなくランダム方向に配向している。この種のシートを使用し、電圧印加に伴う当該シートの肉厚の変化を測定した。なお、シートの膜厚方向に−100V〜+100Vまで印加電圧を変化させ、スキャン速度は0.4Vs
−1にて測定した。
図13にその結果を示す。図の縦軸は、肉厚の変化の割合(%)であり、横軸は印加電圧である。
【0060】
上記の結果から印加電圧の極性および大きさに応じて、肉厚が−31.5%〜10.6%の範囲で変化した。これが単なる誘電体のエラストマである場合には、印加電圧の極性に依存せず、印加電圧の絶対値に比例して膜厚が減少することとなるが、上記測定結果の
場合には、極性に応じて増減している。つまり、本実験におけるシートの膜厚の変化は、誘電体であることによるものではなく、圧電材料と同様の動作を示したものである。従って、エレクトロスピニング法で作製したPMMAナノファイバは、圧電材料のように電圧に応答して伸縮するものである。
【0061】
以上のように、本発明の実施形態および実験例2によれば、PMMAをエレクトロスピニング法により繊維化(紡糸)したナノファイバは、光導波性を有しつつ圧電特性を備えたものである。なお、一軸配向のファイバを作製する場合は、離間した二つのコレクタの空隙に、高電圧を印加したニードルからPMMA含有の混合溶液を射出させるものであるが、その際、二枚のコレクタのうちいずれか一方に対し、ニードルに印加する極性(+)とは逆の極性(−)の電圧を印加し、その印加すべきコレクタを交互に切り替えることによるものである。
【0062】
上記実施形態および実験条件は、本発明の一例を示すものであって、これらに限定される趣旨ではない。従って、作製の条件等は適宜変更することができる。特に、実験例1および2において使用した溶媒の混合比、および混合溶液に占めるポリ乳酸またはPMMAの割合などは、適宜変更して使用することができる。
【0063】
また、混合溶液の作製において、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドを使用し、または、N,N−ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムの溶液を使用したが、同種の溶媒として、ジクロロメチレン,メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。
【0064】
なお、ポリ乳酸またはPMMAによるナノファイバの作製にはエレクトロスピニング法以外にもセルフアセンブリ法などもあるが、非晶性のラセミ体ポリ乳酸またはPMMAを非晶性のまま繊維化するには、エレクトロスピニング法が適するものであり、特に、離間した二つのコレクタを使用することにより一軸配向が可能となるものである。
【0065】
また、一軸配向したナノファイバと、ランダム配向したナノファイバによるシートを作製しているが、これは用途に応じて選択できることを示す意図である。従って、長繊維によって光ファイバとして機能させつつ、圧電特性に基づく作動によるアクチュエータとして機能させることができるものである。