【実施例1】
【0022】
本発明のクライオポンプを、核融合炉に適用した実施例について説明する。
A.全体構成:
図1は、核融合炉10の全体構成を示す説明図である。核融合炉10は、二重水素および三重水素のプラズマを核融合反応させる装置である。この反応によって、莫大なエネルギが放出されるとともに、ヘリウムが発生される。
中央のドーナツ型の装置は磁場閉じ込めプラズマ装置11であり、プラズマを磁場によって封じ込めるための装置である。核融合に用いられるプラズマは、非常に高温高密度であり、金属製の容器等では容器自体が損耗、溶融等してしまうため封じ込めることができないため、磁力等によって封じ込める方法がとられる。プラズマを封じ込めるために磁場を利用する方式としては、ヘリカル型、トカマク型などが知られており、磁場閉じ込めプラズマ装置11には、いずれを採用してもよい。また、レーザービームや粒子ビームを利用する、いわゆる慣性閉じ込め方式と呼ばれる装置を利用してもよい。
【0023】
磁場閉じ込めプラズマ装置11には、3カ所に中性粒子入射加熱装置12が接続されている。磁場閉じ込めプラズマ装置11内のプラズマに対して中性粒子を入射し、その運動エネルギによってプラズマを加熱するための装置である。中性粒子入射加熱装置12の数や位置などは任意に設定可能である。また、プラズマを加熱するための装置としては、中性粒子入射加熱装置12に代えて、電子サイクロトロン共鳴加熱やイオンサイクロトロン共鳴加熱など、電磁波を用いる方式の装置を採用してもよい。
【0024】
磁場閉じ込めプラズマ装置11の周囲から配管14を介して実施例のクライオポンプ100が接続されている。クライオポンプ100は、磁場閉じ込めプラズマ装置11で生じる水素、二重水素、三重水素の気体(以下、水素同位体と呼ぶ)およびヘリウムなどを排気するための装置である。本実施例のクライオポンプ100では、水素同位体を冷却して凝縮させた固体として排出し、ヘリウムについては気体のまま排出する構成を採用している。クライオポンプ100の構成については、後述する。
配管14を設ける部位および数は、任意に設計可能であるが、磁場閉じ込めプラズマ装置11内に設けられるダイバータと呼ばれる装置の付近に設けることが好ましい。ダイバータの付近では、プラズマが気体に変化しやすいからである。
磁場閉じ込めプラズマ装置11の内部は、数パスカル程度の圧力となっているため、クライオポンプ100を0.1パスカル程度に減圧することにより、水素同位体およびヘリウムをクライオポンプ100内に流入させることができる。
【0025】
磁場閉じ込めプラズマ装置11には、さらに配管16によって水素ペレット入射装置200が接続されている。水素ペレット入射装置200は、水素同位体を冷却して固体状態にしたペレットを、磁場閉じ込めプラズマ装置11内に配管16を通じて入射するための装置である。
核融合炉10では、核融合反応を安定的に生じさせるために、各断面の中心部ほどプラズマの密度が高くなる密度分布を実現することが好ましい。かかる密度分布を実現する方法として、水素のペレットをプラズマ内部に射出する方法が知られている。こうすることにより、プラズマの中心部に水素同位体を補填することができ、中心部の密度を高めることができるのである。
水素ペレット入射装置200で用いるペレットは、クライオポンプ100から排出される水素同位体の固体を、配管15を介して水素ペレット入射装置200に搬送することで利用している。搬送は、動力や振動を用いる方法、圧縮空気等の気体を用いる方法など種々の方法をとり得る。こうすることで、排出される固体を射出用のペレットとして利用することができるため、別途、ペレットを用意する必要がなく、効率的に水素同位体を活用できる利点がある。もちろん、水素ペレット入射装置200は、クライオポンプ100とは別個に用意されたペレットを使用するものとしてもよい。
【0026】
B.クライオポンプの全体構成:
図2は、クライオポンプ100の全体構成を示す説明図である。
クライオポンプ100は、概ね中空円柱形の金属製の密閉された外容器110内に組み込まれている。外容器110は、配管14を介して磁場閉じ込めプラズマ装置11に接続されており、配管14を介して水素同位体およびヘリウムが流入する。
外容器110の内部には、下端にフランジ102cを有する中空の支柱102が固定されている。支柱には、上端および中段にもフランジ部102a、102bが形成されている。
中段のフランジ部102bには、概ね円筒形の内容器120が設置されている。本実施例では、内容器120の底面に断面円形のカップ状の突部125を設け、突部125の底面をフランジ部102bに載せた状態で支持するようにした。この理由については後述する。内容器120については、突部125を省略した構成をとってもよい。
【0027】
また、外容器110の内部には、中央に金属製の心棒130が設置されている。心棒130は、中空の支柱102の内部を貫通してGM冷凍機101に連結され、極低温に冷却されるようになっている。冷却温度は任意に設定可能である。本実施例では、水素同位体を心棒130周りに凝縮させて排気するため、冷却温度は、水素同位体の凝縮点よりも低い温度である10Kとした。かかる温度の冷却が可能であれば、GM冷凍機101に代えて他の冷凍機を採用してもよい。
心棒130の径および長さは、クライオポンプ100の排気能力およびGM冷凍機101の冷却能力に応じて、任意に設計可能である。
【0028】
心棒130の下端側には、支柱102の上端のフランジ部102aに載せる形で、受部140が固定されている。受部140は、円柱形の部材の中央に断面U字状の凹部143を設け、さらに凹部143につながり、外部に延びる排出管141、142が形成された部材である。排出管141、142は、心棒130の外周に凝縮した水素同位体の固体を排出するためのものであり、内容器120の底面から立ち上がる支持壁124で支持されている。本実施例では、排出管141は、内容器120内に開口し、排出管142は内容器120と外容器110との間に開口するよう長さが設定されている。
外容器110には、下端側に水素同位体を排出するための排気管104が設けられているから、排出管142から排出された水素同位体は、排気管104から外部に排出される。本実施例では、排気管104が配管15(
図1参照)に接続されており、水素同位体の固体は、そのままペレットとして利用される。
このように、本実施例では、水素同位体は固体の状態で外容器110から排出するものとしているが、排出管104から排出された後、昇華させ、気体の状態で排気管104から排気するようにしてもよい。この場合は、配管14から流入してくる水素同位体と、排出管142から排出される固体とが混在しないように、外容器110の内部に隔壁を設けておくことが好ましい。
排出管141、142は種々の形状とすることができ、両者ともに内容器120と外容器110との間に開口するようにしてもよいし、両者ともに外容器110の外側に開口するようにしてもよい。
【0029】
内容器120の内面には、3つのシェルフ121U、121M、121Lが形成されている。各シェルフには、支柱122U、122M、122Lが固定されており、各支柱にはノズル部材123U、123M、123Lが固定されている。また、受部140の上に中空のドーナツ状の貯気室150が形成されている。貯気室150の内部には上端が広く、下端が狭いすり鉢形状のガイド151が設けられている。また、貯気室150にはヘリウムを排気するための排気管105が取り付けられている。
【0030】
図中には、ノズル部材123U、123Mの先端部分の領域Aについて拡大図を示した。このようにノズル部材123U、123Mの先端部分は、気体を噴出させるためのノズルを形成している。本実施例では、ノズルは、気体が上流から下流に流れる途中で最小径dminとなるスロート部が形成された、いわゆるコンバージェント・ダイバージェント・ノズルとなっており、気体を超音速で噴出させることが可能となっている。
同様に、ノズル部材123M、123Lによって上から2段目のノズルが形成され、ノズル部材123Lと貯気室150によって上から3段目のノズルが形成されている。これらのノズルも、領域Aに示したノズルと同様の形状となっている。
本実施例では、3段のノズルを備えるものとしたが、その数や位置は任意に設定可能である。
【0031】
内容器120は、ノズル部材123U、123M、123Lによって密閉された状態となっており、開口部は、これらで形成される3段のノズル部分のみである。本実施例では、このように閉じられた内容器120内に、排出管141から固体としての水素同位体が排出されるようになっている。排出された水素同位体は内容器120内で昇華するため、内容器120内の水素同位体の圧力が上昇し、やがて3段のノズルから噴出されるようになる。昇華を促進するため、内容器120にヒータ等の加熱機構を設けても良い。
図中には、こうして各ノズルから心棒130に向けて、水素同位体が噴出されている様子を示した。このように本実施例では、内容器120およびノズル部材123U、123M、123Lによって、水素同位体の噴出機構が形成されていることになる。
水素同位体を噴出するための噴出機構は上述の構成に限られず、また必ずしも排出管141から排出された水素同位体を用いる必要もない。例えば、内容器120の内部に、排出された水素同位体とは別に、噴出用の水素同位体を供給するようにしてもよいし、外部から噴出用の気体を導入し、心棒130に向けて噴射するようにしてもよい。
【0032】
心棒130の上端側には、円筒形状のカッター部材132がはめ込まれている。カッター部材132は内側形状が心棒130の断面形状とほぼ同じ形状となっており、図中の矢印vに示すように心棒130の軸方向に往復運動可能となっている。駆動機構134は、心棒130を駆動するための機構である。駆動機構134は、圧縮空気を利用する機構としたが、電動、油圧駆動など種々の方式を採用可能である。
カッター部材132は、心棒130に沿って往復運動することにより、心棒130の外周に付着した水素同位体の固体を掻き落とす役割を果たす。本実施例では、心棒130が金属製であるのに対し、本実施例ではカッター部材132はテフロン(登録商標)製とした。このように両者を異なる材質で形成することにより、心棒130が極低温に冷却された状態でも、心棒130とカッター部材132とが固着することを抑制できる。もちろん、心棒130とカッター部材132の固着がクライオポンプ100の動作上、支障のない範囲に収まる場合には、両者を同一材質の素材で形成しても構わない。
【0033】
C.クライオポンプの動作:
次に、クライオポンプ100の排気動作について、水素同位体の排気、ヘリウムの排気の順に説明する。
【0034】
図3は、クライオポンプ100による水素同位体の排気動作を示す説明図である。心棒130、受部140およびカッター部材132のみを模式的に示した。
図3(a)は、動作開始の状態を表している。この状態では、カッター部材132は、心棒130の上端に停止している。心棒130には、内容器120に設けられたノズルから、図示するように水素同位体が噴射されている。
【0035】
図3(b)は、開始後しばらく経過した時点の状態を表している。心棒130は極低温に冷却されているため、その周囲に、水素同位体が凝縮し、固体水素として付着する。
この状態で、カッター部材132を矢印VDのように下側に駆動させると、カッター部材132によって固体水素が掻き落とされ、受部140の凹部143に押し込まれ始める。
【0036】
図3(c)は、カッター部材132を最下端まで下げた状態を表している。カッター部材132によって掻き落とされた固体水素は、受部140の凹部143に押し込まれ、さらに排出管141、142を通じて受部140から排出される。
図2で説明した通り、固体水素は、排出管141からは内容器120内に排出され、排出管142からは内容器120と外容器110との間の空間に排出されることになる。
最下端まで押し下げが完了すると、カッター部材132は矢印VUのように上側に駆動され、開始時の状態(
図3(a))に戻る。
【0037】
以上の動作を繰り返すことによって、クライオポンプ100は、水素同位体を固体水素の形で排気することができる。
本実施例では、
図3(a)に示すようにノズルから心棒130に向けて水素同位体を噴射するため、固体水素の付着を促進することができる。もっとも、心棒130は極低温に冷却されているため、仮にノズルからの噴射を行わなかったとしても、心棒130の外周には固体水素は付着し、クライオポンプ100の排気動作は実現することができる。この意味で、ノズルからの噴射は、クライオポンプ100の排気効率を向上させることができるが、その動作に本質的に必要というわけではない。
【0038】
本実施例では、心棒130を固定してカッター部材132を上下に駆動している。心棒130とカッター部材132とは、心棒130の軸方向に相対的に移動させればよいから、例えば、カッター部材132を固定して心棒130を移動させるようにしてもよい。また、両者を同時に移動させるようにしてもよい。
本実施例では、上下方向にカッター部材132を移動させているが、心棒130を水平方向に設置し、カッター部材132を左右方向に移動させるようにしてもよい。
本実施例では、カッター部材132を最下端まで移動させた後、ホームポジションとも言うべき上端の位置(
図3(a))に戻している。これに対し、カッター部材132を下端まで移動させた後は、下端で待機させ、固体水素が付着した後、これを掻き落としながら上端に移動させるようにしてもよい。こうすることによって、往復いずれの動作においても固体水素を掻き落とすことができ、排気効率を向上させることができる。かかる態様は、特に心棒130を水平に設置した場合に有用である。
カッター部材132は円筒形状に限られず、リング形状としてもよい。
【0039】
本実施例のクライオポンプ100は、水素同位体の排気と併せてヘリウムを排気することもできる。以下では、ヘリウムの排気について説明する。
【0040】
図4は、クライオポンプ100によるヘリウムの排気動作を示す説明図である。ヘリウムの排気に関係する内容器120部分を拡大して示した。
内容器120には、配管14から水素同位体とヘリウムが吸入される。そして、内容器120に形成された3段のノズルからは水素同位体の超音速ジェットが図中の矢印J1、J2、J3のように噴射されている。これらの超音速ジェットは、やや下向きに噴射しているため、内容器120内の気体分子は水素同位体、ヘリウムともに下向きの運動量を与えられ、矢印F1で示すように下向きの流れを生じる。
水素同位体は、先に
図3で説明した通り、心棒130に固体水素として付着するが、ヘリウムは凝縮点が水素同位体よりも低いため、心棒130が10Kに冷却されていたとしても凝縮しない。この結果、ヘリウムは気体の状態のままで貯気室150に集められ、矢印F2のように排気管105を介して外部に排気される。内容器120の内部は外容器110よりも圧力が低いから、排気管105から外部に排気可能とするため、排気管105には外部からの逆流を防止するための逆止弁を設けたり、排気管105の開口部に減圧室を形成するなどしておくことが好ましい。
【0041】
ヘリウムの排気(
図4の動作)は、水素同位体の排気(
図3の動作)と並行して行われる。即ち、ヘリウムが排気されている間も、
図3に示したように、カッター部材132は上下に駆動され、固体水素が掻き落とされる。貯気室150内のガイド151は、カッター部材132で掻き落とされた固体水素を受部140内に効果的に収容する役割を果たす。
【0042】
以上で説明した実施例1のクライオポンプ100によれば、心棒130に付着した固体水素をカッター部材132で掻き落とすことによって排気するため、固体水素を大量に貯留することなく排気を継続することができる。また、心棒130の再生処理もほぼ不要とすることができる。従って、クライオポンプ100の連続稼働時間を長期化することが可能である。
【0043】
また、実施例1のクライオポンプ100では、水素同位体の超音速ジェットを心棒130に向けて噴射するため、水素同位体の排気効率を向上させることができる。さらに、この超音速ジェットの効果によってヘリウムを排気することも可能となる。
【0044】
実施例1のクライオポンプ100には、心棒130と円筒状のカッター部材132を採用することによる構造上の利点もある。水素を凝縮させる冷却面としては種々の形状が考えられるが、実施例1のように心棒130を採用することによって、冷却すべき部材の体積を抑制し、効率的な冷却が可能となるとともに、心棒130の外周全体が気体の凝縮に利用でき、体積当たりに凝縮に利用可能な表面積が大きくなる利点もある。
また、カッター部材132を筒状にすることによって、固体水素を掻き落とす際の荷重に耐えうる強度を比較的簡易な構造で確保することが可能となる。
さらに、実施例1では、心棒130に沿ってカッター部材132を往復動させるという比較的単純な動作によって固体水素を掻き落とすことが可能となっている。従って、駆動機構134の構成も簡略化することができる利点もある。
【実施例2】
【0045】
D.全体構成:
次に、実施例2としてのクライオポンプ200について説明する。クライオポンプ200も、実施例1と同様、核融合炉に適用され(
図1参照)、水素同位体およびヘリウムを排気するための装置である。
【0046】
図5は、実施例2としてのクライオポンプ200の全体構成を示す説明図である。
クライオポンプ200は、実施例1と同様の外容器210内に組み込まれている。
外容器210の下側には、中央に円形の孔212が形成された隔離板211が形成されている。隔離板211は外容器210と一体的に形成されていてもよいし、別体であってもよい。
【0047】
また、外容器110の内部には、中央に金属製の心棒230が設置されている。心棒230は、実施例1と同様、GM冷凍機201に連結され、極低温に冷却されるようになっている。冷却温度は任意に設定可能である。
心棒230は、隔離板211と同程度の高さの位置に段部231が形成され、ここから下は細径部232となっている。細径部232の径は、カッター部材232の動作時に心棒230を十分に支持できるだけの剛性を有するように設定すればよい。
また、段部231より上側では、心棒230は、上端の径DU>下端の径DLというようにテーパ状となっている。こうすることにより、カッター部材232を下側に移動させるとき、固体水素が心棒230とカッター部材232との間に詰まってしまうことを緩和できる。さらに、段部231において心棒230の径が不連続に変化しているため、段部231で固体水素を心棒230から、より確実に剥離、落下させることができる。
【0048】
実施例2では、カッター部材232によって掻き落とされた固体水素は、孔212から隔離板211の下側に落下する。外容器210には、隔離板211の下側の部位に水素同位体を排出するための排気管204が設けられているから、水素同位体は、排気管204から外部に排出される。実施例1と同様、排気管204から排出される水素同位体の固体をペレットとして核融合炉内に入射させてもよい。
【0049】
外容器210内には円筒状の内容器220が設けられている。図中では、内容器220の支持方法については図示を省略した。
内容器220の下側には中央に円形の孔を有するシェルフ252が設けられており、シェルフ252の下側の部分が、実施例1と同様のドーナツ状の貯気室250を形成する。また、貯気室250の内部には実施例1と同様のガイド251、およびヘリウムを排気するための排気管205が取り付けられている。
【0050】
内容器220には、心棒230に向けて気体を噴射するためのノズル241が設けられている。実施例2では、ノズル241は、圧縮機240に取り付けられており、外容器210内の気体を吸引・圧縮して噴射するようになっている。ノズル24の形状は、実施例1と同様、コンバージェント・ダイバージェント・ノズルとすることができる。
また、実施例2では、圧縮機240は、スライド機構242に取り付けられており、矢印V2に示すように、上下方向にスライド可能となっている。スライド機構242としては、電動、油圧など種々の駆動方法をとることができる。こうすることにより、ノズルの位置を変化させながら気体を噴射させることができるため、心棒230の全体にわたって偏りなく気体の噴射が可能となる。かかるスライド機構に代えて、実施例1と同様、多段のノズルを備えるようにしてもよいし、ノズルは一段だけとしても差し支えない。
【0051】
心棒230の上端側には、実施例1と同様、円筒形状のカッター部材232がはめ込まれている。カッター部材232は図中の矢印V1に示すように心棒230の軸方向に往復運動可能となっている。駆動機構234は、心棒230を駆動するための機構である。
【0052】
駆動機構234およびスライド機構242、圧縮機240の動作は制御装置260によって制御される。制御装置260は、内部にCPU、RAM、ROMなどを備えるマイクロコンピュータとして構成されており、あらかじめインストールされた制御プログラムに従って、これらの動作を制御する。実施例2では、ソフトウェア的に制御する方法を採用したが、制御処理をハードウェアによって実現するようにしてもよい。
【0053】
実施例2のクライオポンプ200の排気動作も実施例1と原理的には同じである。即ち、極低温に冷却された心棒230の外表面に固体水素を付着させ、これをカッター部材232で掻き落とすことによって、水素同位体の排気を行う。また、ノズル241からの超音速ジェットの噴射による拡散効果によってヘリウムを排気管205から排気する。
【0054】
E.排気制御処理:
図6は、排気制御処理のフローチャートである。制御装置260によって繰り返し実行される処理内容を示した。
処理を開始すると制御装置260は、圧縮機240を作動させる(ステップS10)。これによってノズル241からの超音速ジェットの噴射が開始される。
制御装置260は、スライド機構242を制御して、圧縮機240を下げる動作を行い(ステップS12)、下位置でしばらく保持した後(ステップS14)、圧縮機の上側に移動させる上げ動作を行う(ステップS16)。
図5に示した左右2台の圧縮機240を同期して移動させてもよいし、一方が下げ動作をしているときに他方が上げ動作をするというように交互に移動させるようにしてもよい。
下位置で保持するのは(ステップS14)、貯気室250に近い位置にノズル241を保持することにより、ヘリウムの排気を促進するためである。この処理は省略しても構わない。また、保持する時間は、任意に設定可能である。
【0055】
制御装置260は、ステップS12〜S14の動作を所定時間経過するまで(ステップS18)繰り返し実行する。この所定時間は、心棒230の外表面に固体水素が付着するまでの時間であり、心棒230の冷却能力、ノズル241からのジェットによる吹きつけ効果、カッター部材232による掻き落とし能力などを考慮して設定することができる。
【0056】
所定時間経過すると、制御装置260は、圧縮機の動作を停止する(ステップS20)。そして、駆動機構234を制御し、カッター部材232を下げる動作を行う(ステップS22)。このように制御することにより、カッター部材232で固体水素を掻き落としている間は、圧縮機の動作が停止しているため、カッター部材232の外表面に固体水素が付着することを抑制できる。
ステップS20の処理を省略し、圧縮機は動作させたままで、カッター部材232を作動させても構わない。
【0057】
以上の処理全体を繰り返し実行することにより、実施例2のクライオポンプ200は、水素同位体およびヘリウムの排気を行うことができる。
実施例2のクライオポンプ200も、実施例1と同様の効果を奏することができる。
【0058】
以上、本実施例の種々の変形例を示してきた。本発明については、ここに記載した実施例および変形例に限らず、さらに種々の変形例を構成することが可能である。
(1)心棒およびカッター部材の変形例:
図7は、変形例としてのクライオポンプの構成を示す説明図である。心棒およびカッター部材の構造のみを模式的に示した。
【0059】
図7(a)に示した変形例(1)のクライオポンプは、円柱状の心棒330Aと平板状のカッター部材332Aを備えている。カッター部材332Aは心棒330Aの表面に接触するように固定されている。カッター部材332Aの全幅(図中における高さ方向の長さ)は、心棒330Aの軸方向の長さとほぼ同一である。心棒330Aは極低温に冷却されているため、この表面には固体水素が付着している。この状態で、駆動機構によって心棒330Aを図示するように中心軸周りに回転させると、カッター部材332Aによって固体水素が掻き落とされ、実施例と同様、クライオポンプを継続的に運転することが可能となる。
図7(a)の例では、カッター部材332Aは、心棒330Aの表面に対して垂直(即ちカッター部材332Aの面と心棒330Aの中心軸が同一平面内にある位置関係)に設置してあるが、角度を持たせて(即ちカッター部材332Aの面と心棒330Aの中心軸が異なる平面にあり平行となる位置関係)に設置してもよい。
また、カッター部材332Aの幅は、心棒330Aの全長よりも短くしてもよい。この場合は、心棒330Aを回転させている間、カッター部材332Aを心棒330Aの軸方向に移動させることによって、心棒330Aの全体に付着した固体水素を掻き落とすことができる。
【0060】
図7(b)に示した変形例(2)のクライオポンプは、円柱状の心棒330Bとらせん形状のカッター部材332Bを備えている。カッター部材332Bは心棒330Bの表面の各部位に垂直に接触するように固定されている。
図7(b)では、カッター部材332Bは、心棒330Bの軸方向全体にわたって設置されている例を示したが、一部にとどめても良い。この状態で、駆動機構によって心棒330Bを図示するように中心軸周りに回転させると、カッター部材332Bによって固体水素が掻き落とされ、実施例と同様、クライオポンプを継続的に運転することが可能となる。
かかる態様では、らせん形状のカッター部材332Bは心棒330Bの表面で、心棒330Bの中心軸に対して斜めに接触している。こうすることによって、心棒330Bを回転させると、局所的には心棒330Bの表面は図中のV方向の速度を持つことになるが、これはカッター部材332Bに対して法線方向の速度Vnと接線方向の速度Vtに分解でき、同様に、固体水素を掻き落とす際にカッター部材332Bにかかる荷重も法線方向Vnと接線方向Vtに分解される。この結果、カッター部材332Bにかかる荷重が低減され、剛性の要求を低減することができる。カッター部材332Bを、
図7(b)で示した形状の一部を切り取った状態、即ち、心棒の表面に沿った円弧部分を有する三日月状の形状としても、同様の効果を得ることができる。
【0061】
図7(c)に示した変形例(3)のクライオポンプは、円柱状の冷却棒330Cおよびその周囲にはめ込まれた円筒状のスリーブ331Cからなる心棒と、平板状のカッター部材332Cを備えている。カッター部材332Cはスリーブ331Cの表面に接触するように固定されている。冷却棒330CはGM冷凍機(図示せず)に固定されており、極低温に冷却されている。スリーブ331Cは冷却棒330Cを中心として回転できるよう、微小な間隙を設けてはめ込まれているが、冷却棒330Cが極低温に冷却されると、輻射によってスリーブ331Cも極低温に冷却され、表面に固体水素が付着する。この状態で、駆動機構によってスリーブ331Cを図示するように中心軸周りに回転させると、カッター部材332Cによって固体水素が掻き落とされ、実施例と同様、クライオポンプを継続的に運転することが可能となる。カッター部材332Cは、
図7(a)の例で説明したように斜めに配置してもよいし、また、
図7(b)の例のようにらせん形状等としてもよい。また、カッター部材332Cの幅は、冷却棒330Cの全長よりも短くしてもよい。
上記態様では、心棒を冷却棒330Cとスリーブ331Cからなる構成とすることにより、冷却棒330CはGM冷凍機に固定させておくことができ、簡易な構造とすることができる利点がある。また、こうして固定された冷却棒330Cは、スリーブ331Cの回転軸を兼用することができる点でも、構造上の利点がある。
【0062】
以上で説明した
図7(a)〜
図7(c)で説明した変形例において、回転動作は間欠的に行うものとしてもよいが、連続的に行うことがより好ましい。これらの変形例では、心棒とカッター部材とが常時、接して配置されているため、心棒とカッター部材との間に固体水素が付着するおそれがあるが、回転動作を連続的に行うことにより、こうした付着を抑制することができる利点がある。また、間欠動作を行わせるよりも、連続的に回転動作させることにより、駆動機構の構成が簡略化できる利点もある。
また、
図7(a)〜
図7(c)では、カッター部材を固定し、心棒を回転させる例を示したが、逆に、心棒を固定し、カッター部材を回転させるようにしてもよい。両者を逆方向、または異なる速度で同方向に回転させるようにしてもよい。
心棒およびカッター部材については、さらに種々の変形例をとることが可能である。
【0063】
(2)その他の変形例
本発明のクライオポンプは、水素とヘリウム以外にも種々の気体の排気に適用可能である。
実施例では、核融合炉への適用例を示したが、本発明のクライオポンプは、この他、半導体ウェハ製造、電子顕微鏡など種々の装置に適用可能である。
実施例のクライオポンプは、単に排気目的だけでなく、凝縮点の異なる2種類の気体を分離する用途にも使用可能である。当然、排気の対象は、水素とヘリウムに限られるものではない。