【実施例】
【0029】
実施例1:バイオディーゼル燃料試料の調製
実施例で用いたバイオディーゼル燃料の原料の油に含まれていた水とメタノールの含有量を下記にそれぞれ示す。
パーム油 : 水483mg/kg 、 メタノール 165mg/kg
ヒマワリ油: 水791mg/kg 、 メタノール 21mg/kg
廃食油 : 水640mg/kg 、 メタノール 49mg/kg
【0030】
これらのパーム油、ひまわり油、および廃食油をメタノールでエステル交換して、パーム油由来バイオディーゼル燃料(以下「PBDF」と記載することがある)、ひまわり油由来バイオディーゼル燃料(以下「SBDF」と記載することがある)、および廃食油由来バイオディーゼル燃料(以下「WBDF」と記載することがある)をそれぞれ製造した。欧州規格のEN 14538または日本工業規格のJIS K 2390に準拠した方法で、これら3種類のバイオディーゼル燃料に含まれる主要無機成分のNa、K、Mg、Ca、およびPの含有量を評価したところ、これらの全成分が検出感度(0.01mg/kg)以下であったことを確認した。
【0031】
JCSS校正された天秤を用いた質量比混合法によって、金属濃度が認証された市販のオイルベース標準液(CONOSTAN社製の炭化水素系パラフィンオイルベースとVHG Labs社製のエンジンオイルベースの少なくとも一方)0.5gを、PBDF、SBDF、およびWBDF49.5gでそれぞれ希釈した。なお、このオイルベース標準液には、Na、K、Mg、Ca、P、Ag、Al、B、Ba、Cd、Cr、Cu、Fe、Mn、Mo、Ni、Sb、Pb、Si、Sn、Ti、V、Znの23元素が1000mg/kgずつ含まれていた。したがって、オイルベース標準液を含んだPBDF(以下「DP」と記載することがある)、オイルベース標準液を含んだSBDF(以下「DS」と記載することがある)、およびオイルベース標準液を含んだWBDF(以下「DW」と記載することがある)の希釈倍率は100倍で、DP、DS、およびDWの金属濃度の理論値は、上記23元素について10mg/kgである。
【0032】
DP、DS、およびDWを各1gはかり取り、これを10gとなるようにキシレン(関東化学株式会社製 原子吸光分析用)で希釈して金属濃度の理論値が1mg/kgであるDP試料A、DS試料A、およびDW試料Aを得た。同様にして、DP、DS、およびDWを各1gはかり取り、これにオイルベース標準液を添加し、さらに10gとなるようにキシレンで希釈して、金属濃度の理論値を1mg/kgとしたDP試料B、DS試料B、およびDW試料Bと、金属濃度の理論値を2mg/kgとしたDP試料C、DS試料C、およびDW試料Cを得た。
【0033】
得られた9種類の試料をICP発光分光分析装置(PerkinElmer社製 Optima7300DV)を用いて分析し、発光強度からDP、DS、およびDWのそれぞれの金属濃度を求めた。なお、炭素が析出しないように、サイクロンチャンバーに酸素ガスを導入しながら分析装置に試料を導入した。このICP発光分光分析法によって求めた金属濃度と、上記質量比混合法によって算出した金属濃度の理論値が一致したので、各種分析試料の金属濃度は質量比混合法によって算出した理論値を採用した。
【0034】
実施例2:酸水溶液を用いた抽出
まず、DP1gを試験管7本にはかり取った。つぎに、水(Millipore精製 超純水)、ならびに硝酸(関東化学株式会社製 Ultrapur)を希釈して0.07mol/L、0.14mol/L、0.70mol/L、1.5mol/L、3.0mol/L、および4.0mol/Lの濃度にした水溶液を、これら7本の試験管に10gずつ加え、手で30秒間振り混ぜた(抽出工程)。そして、これら7本の試験管内の液体が油層と水層に分離するまで静置した後、水層を回収した(回収工程)。つぎに、JCSS規格元素標準液によって作成した検量線を用いて、回収した水層に含まれる金属の含有量をICP発光分光分析装置(PerkinElmer社製 Optima7300DV)で定量し(分析工程)、回収率(以下「抽出率」と記載することがある)を算出した。DSおよびDWについても、同様の手順で回収率を算出した。なお、検量線の作成には、関東化学株式会社製元素標準液(JCSS規格、1000mg/L)を使用した。
【0035】
その結果を
図2から
図8に示す。なお、DPについては●で、DSについては■で、DWについては▲で、それぞれ回収率を示している。
図2から
図8に示すように、抽出挙動は元素によって異なるが、多くの元素で90%以上の抽出が可能であった。このうち、Al、K、Mg、Ca、Cu、Mn、Cd、Na、Ni、Vは精確に定量でき、DP、DS、およびDWのいずれでも回収率が100±5%であった。酸水溶液を用いた抽出で定量した元素と、その回収率を下記に示す。
Al、K、Mg、Ca、Cu、Mn、Cd、Na、Ni、V ・・・ 回収率:100±5%
Ag、Ba、Mo、Fe、Pb、Zn ・・・ 回収率:>90 %
Cr、Sb、Sn、Ti ・・・ 回収率:90-50 %
P ・・・ 回収率:50> %
【0036】
実施例3:アルカリ水溶液を用いた抽出
まず、DP1gを試験管7本にはかり取った。つぎに、水(Millipore精製 超純水)、ならびにTMAH水溶液(多摩化学工業社製 高純度TMAH25%水溶液)を希釈して0.015mol/L、0.03mol/L、0.15mol/L、0.3mol/L、0.6mol/L、および0.9mol/Lの濃度にした水溶液を、これら7本の試験管に10gずつ加え、手で30秒間振り混ぜた。そして、これら7本の試験管内の液体が油層と水層に分離するまで静置した後、水層を回収した。つぎに、JCSS規格元素標準液によって作成した検量線を用いて、回収した水層に含まれる金属の含有量をICP発光分光分析装置(PerkinElmer社製 Optima7300DV)で定量し、回収率を算出した。また、DSおよびDWについても、同様の手順で回収率を算出した。なお、検量線の作成には、関東化学株式会社製元素標準液(JCSS規格、1000mg/L)を使用した。
【0037】
その結果を
図9から
図15に示す。なお、DPについては●で、DSについては■で、DWについては▲で、それぞれ回収率を示している。
図9から
図15に示すように、抽出挙動は元素によって異なった。酸水溶液を用いた抽出と比べると、アルカリ水溶液を用いた抽出での回収率は低かった。しかし、アルカリ水溶液を用いた抽出において、Na、Sn、Mo、Znの回収率が90%以上となる条件があった。特に、Naは精確に定量でき、DP、DS、およびDWのいずれでも回収率が100±5%であった。したがって、アルカリ水溶液を用いた抽出ではNaの選択的定量が可能である。アルカリ水溶液を用いた抽出で定量した元素と、その回収率を下記に示す。
Na ・・・ 回収率:100±5%
Sn、Mo ・・・ 回収率:>90 %
Ag、Al、K、Mg、Cu、Zn ・・・ 回収率:90-50 %
Fe、Sb、Ba、Ca、Cd、Mn、Ti、Cr、Ni、P、Pb、V ・・・ 回収率:50> %
【0038】
実施例4:酸水溶液の添加量依存性
まず、DP1gを試験管にはかり取った。つぎに、硝酸(関東化学株式会社製 Ultrapur)を希釈して0.14mol/Lの濃度にした水溶液10gをこの試験管に加え、手で30秒間振り混ぜた。そして、実施例2と同様にして回収率を算出した。これ以外に、DPと0.14mol/L硝酸水溶液との混合比が、それぞれ2gと10g、10gと10g、10gと5gである3種類の試料についても、これと同様にして回収率を算出した。すなわち、「0.14mol/L硝酸水溶液の質量/DPの質量」が0.5〜10である異なる4種類の試料を用いて回収率を算出した。その結果、回収率は
図2から
図8に示したものと同様であった。すなわち、DPの0.5倍〜10倍の質量の酸水溶液を用いてDPから金属を抽出する場合、酸水溶液の添加量による依存性は認められなかった。また、DSおよびDWについても、これと同様にして回収率を算出したが、酸水溶液の添加量による依存性は認められなかった。
【0039】
実施例5:アルカリ水溶液の添加量依存性
0.14mol/L硝酸水溶液に代えて0.6mol/LのTMAH水溶液(多摩化学工業社製 高純度TMAH25%水溶液を希釈したもの)を用い、その他は実施例4と同様にして、DP、DS、およびDWに含まれる金属の回収率を算出した。その結果、回収率は
図9から
図15に示したものと同様であった。すなわち、DP、DS、およびDWの0.5倍〜10倍の質量のアルカリ水溶液を用いて、DP、DS、およびDWから金属を抽出する場合、アルカリ水溶液の添加量による依存性は認められなかった。
【0040】
実施例6:酸水溶液の抽出時間依存性
まず、DP1gを試験管にはかり取った。つぎに、実施例4で用いた0.14mol/L硝酸水溶液10gをこの試験管に加えた。そして、時間を変えてこの試験管を振とうした後、実施例4と同様にして回収率を算出した。振とう時間(抽出時間)は、手による15秒〜60秒と、振とう器による3分〜30分とを併せて6種類変えた。また、DSおよびDWについても、これと同様にして回収率を算出した。その結果、抽出時間を変化させても回収率はほとんど差がなかった。
【0041】
実施例7:アルカリ水溶液の抽出時間依存性
0.14mol/L硝酸水溶液に代えて0.6mol/LのTMAH水溶液(多摩化学工業社製 高純度TMAH25%水溶液を希釈したもの)を用い、その他は実施例6と同様にして、DP、DS、およびDWに含まれる金属の回収率を算出した。その結果、抽出時間を変化させても回収率に差はなかった。
【0042】
実施例8:混合液の保存安定性
実施例6および実施例7の手で30秒間振とうした6種類(DP、DS、およびDWについて、それぞれ酸およびアルカリを添加)の試料を室温で1日〜1ヶ月保存した後、実施例6および実施例7と同様にして、DP、DS、およびDWに含まれる金属の回収率を算出した。その結果、1ヶ月保存した試料の金属の回収率は、振とう直後の金属の回収率とほとんど差がなかった。
【0043】
実施例9:分析方法の比較
実施例2〜8で得られた水層の金属の含有量を、フレーム原子吸光分析装置(PerkinElmer社製 AAnalyst 800)およびICP質量分析装置(Agilent社製 7500c)を用いて定量分析した。検量線の作成には、関東化学株式会社製元素標準液(JCSS規格、1000mg/L)を使用した。なお、分析機器によって分析感度が異なるため、必要に応じて、この水層を水で希釈してから定量分析した。NaとKを除く各成分の含有量について、フレーム原子吸光分析装置またはICP質量分析装置を用いた分析結果が、ICP発光分光分析装置を用いた分析結果と分析精度範囲内で一致した。すなわち、本発明の分析方法は、様々な分析機器に適用できることがわかった。
【0044】
以上の結果より、バイオディーゼル燃料に含まれるAl、K、Mg、Ca、Cu、Mn、Cd、Na、Ni、Vの精確な分析には、硝酸などの酸水溶液を用いた抽出が有用である。また、硝酸などの酸水溶液を用いた抽出では、バイオディーゼル燃料に含まれるAg、Sb、Ba、Mo、Fe、Sn、Ti、Pb、Znの90%以上の抽出が可能である。TMAHなどのアルカリ水溶液を用いた抽出では、バイオディーゼル燃料に含まれるNaの抽出に特に有効である。また、アルカリ水溶液を用いれば、バイオディーゼル燃料からSn、Mo、Znの90%以上が抽出できる。
【0045】
本発明の抽出方法によれば、バイオディーゼル燃料に含まれる金属を水溶液に抽出できるため、ICP質量分析法、ICP発光分光分析法、黒鉛炉原子吸光法、フレーム原子吸光法、マイクロ波プラズマ発光分光分析法、吸光光度法、滴定法、またはイオンクロマトグラフィーなどの無機分析に用いる主な分析機器で、水溶液用の導入系や容器類などを使って分析できる。