特開2016-223858(P2016-223858A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2016-223858バイオディーゼル燃料中の金属の分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-223858(P2016-223858A)
(43)【公開日】2016年12月28日
(54)【発明の名称】バイオディーゼル燃料中の金属の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/22 20060101AFI20161205BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20161205BHJP
【FI】
   G01N33/22 B
   G01N1/10 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-109046(P2015-109046)
(22)【出願日】2015年5月28日
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】成川 知弘
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA07
2G052AD06
2G052AD26
2G052AD46
(57)【要約】
【課題】バイオディーゼル燃料に含まれる金属を簡易かつ迅速に水溶液に抽出でき、この水溶液を用いてバイオディーゼル燃料に含まれる金属の含有量を精確に分析できる方法を提供する。
【解決手段】バイオディーゼル燃料中の金属の分析方法は、抽出工程と、回収工程と、測定工程とを備えている。抽出工程では、バイオディーゼル燃料と硝酸を混合し、この混合液を振とうしてバイオディーゼル燃料に含まれるAl、K、Mg、Ca、Cu、Mn、Cd、Na、Ni、およびVから選択される1以上の金属を硝酸中に抽出する。回収工程では、抽出工程で得られた混合液を静置して油層と水層に分離させた後、水層を回収する。測定工程では、回収した水層に含まれる金属の含有量を分析機器で測定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオディーゼル燃料と、酸またはアルカリを含有する水溶液とを混合し、この混合液を振とうして前記バイオディーゼル燃料に含まれる金属を前記水溶液中に抽出する抽出工程と、
前記抽出工程で得られた混合液を静置して油層と水層に分離させた後、前記水層を回収する回収工程と、
回収した前記水層に含まれる金属の含有量を分析機器で測定する測定工程と、
を有するバイオディーゼル燃料中の金属の分析方法。
【請求項2】
前記水溶液が酸を含有し、
前記酸が硝酸、塩酸、および硫酸から選択される1以上である請求項1記載のバイオディーゼル燃料中の金属の分析方法。
【請求項3】
前記酸が硝酸であり、
前記金属がAl、K、Mg、Ca、Cu、Mn、Cd、Na、Ni、およびVから選択される1以上である請求項2記載のバイオディーゼル燃料中の金属の分析方法。
【請求項4】
前記水溶液がアルカリを含有し、
前記アルカリが水酸化テトラメチルアンモニウムおよびアンモニアの少なくとも一方である請求項1記載のバイオディーゼル燃料中の金属の分析方法。
【請求項5】
前記アルカリが水酸化テトラメチルアンモニウムであり、
前記金属がNaである請求項4記載のバイオディーゼル燃料中の金属の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性油脂や動物性油脂を原料として得られるバイオディーゼル燃料に含まれる金属、特に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および遷移金属元素などを、簡易かつ迅速に水溶液に抽出して分析する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化石燃料は採掘地域が限られるため、世界情勢による価格変動が大きく、また枯渇の危惧がある。このため、化石燃料に依存しないで、安定供給可能なエネルギー源である石油代替燃料が注目されている。石油代替燃料として、動植物由来原料から製造されるバイオエタノール燃料やバイオディーゼル燃料が挙げられる。バイオディーゼル燃料は、油脂の主成分であるトリアシルグリセリドをアルコールとエステル交換した脂肪酸メチルエステルの混合物などから構成される。
【0003】
バイオディーゼル燃料の発熱量や物理的性質は、軽油の発熱量や物理的性質とほぼ同等であるため、バイオディーゼル燃料は石油代替燃料として有用である。しかも、バイオディーゼル燃料が燃焼したときに排出される有害ガス成分のSOxや黒煙の量は、軽油が燃焼したときと比べて少ない。このため、欧米諸国では、植物性油脂を原料としたバイオディーゼル燃料製造の実用化が進んでいる。一方、日本では植物性油脂だけではなく、動物性油脂および動物性油脂と植物性油脂の混合油脂からのバイオディーゼル燃料製造も検討され、実用化燃料としての期待が高い。
【0004】
しかしながら、バイオディーゼル燃料の化学的および物理的性状が燃料としての品質を大きく左右することから、バイオディーゼル燃料の製造法だけではなく、バイオディーゼル燃料の品質に関して、化学的・物理的な項目についての規格がある。バイオディーゼル燃料の製造では、メチルエステル化の工程において、アルカリ金属触媒が用いられる。また、バイオディーゼル燃料の製造で、バイオディーゼル燃料を水洗浄する場合があり、このときにアルカリ金属、アルカリ土類金属、および遷移金属がバイオディーゼル燃料に混入してしまうことがある。これらの金属分は、燃焼の際に燃焼機関の部品の金属部に付着・蓄積し、燃料流量の変化、出力低下、および排ガス成分の悪化の原因となる。
【0005】
欧州規格(European Standards)であるEN(European Norm)規格および日本工業規格のJIS K2390は、製品性能に影響を及ぼす可能性がある成分のバイオディーゼル燃料中の含有量を規制している。アルカリ金属のナトリウム(Na)とカリウム(K)のバイオディーゼル燃料中の含有量をNaとKの合計で5.0mg/kg以下となるように、アルカリ土類金属のマグネシウム(Mg)およびカルシウム(Ca)のバイオディーゼル燃料中の含有量をMgとCaの合計で5.0mg/kg以下となるように、EN規格および日本工業規格でそれぞれ規制されている。そして、これらの金属の分析方法はEN 14538で定められている。
【0006】
欧米諸国で普及しているEN規格およびそれに準拠した金属含有量の分析では、所定濃度の金属分を含むバイオディーゼルのオイルベース溶液を定量分析の基準液とした比較法によって濃度を求めている。しかし、濃度が決まっている試薬を必要とする上、オイルベースであるため、この分析方法は汎用性が乏しい。また、単なる比較法であるため、この分析方法では分析値の精確さに欠ける。さらに、実際の分析では基準液の希釈が必要で、用いる分析機器によっては、希釈の影響によって感度や挙動が大きく変化するが、この変化が考慮されていない。
【0007】
日本では、2003年頃からバイオディーゼル燃料混合軽油の安全性等の試験について、規格検討ワーキンググループが立ち上げられ、各規格項目とその内容が審議された。このとき、金属分(ここではNa、K、Mg、Caの4成分)の分析としてバイオディーゼル燃料の灰化および塩酸分解よる前処理と、誘導結合プラズマ(以下「ICP」と記載することがある)発光分光分析法による測定法案が示された。しかし、分解温度が高いバイオディーゼル燃料は、分解などの前処理が難しく、さらに測定時の干渉などから精確な分析ができないまま検討は滞っている。
【0008】
欧米諸国においても、これらの金属分による燃焼系への不具合の評価方法が確立されていないことが問題視されている。一方、燃料の実用性を考慮した場合、さらに低い規制値を検討することが望まれている。このため、現時点では既存の試験法を採用することが適当であるとしながらも、より簡便かつ有用な測定方法の検討が課題して残された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
バイオディーゼル燃料の分析挙動は、バイオディーゼル燃料に含まれる有機物の種類と量や、バイオディーゼル燃料を分析する分析機器に依存する。金属の定量に優れた原子スペクトル分析を行うには、一般的に分析試料が液体であることが望ましい。この定量の際に、JCSS規格によって濃度とその不確さが付された市販の水溶液である元素標準液を濃度基準として用いることで、分析値の精確さとSIへのトレーサビリティが確保され、分析結果が国際的な妥当性と整合性を有する。
【0010】
しかし、油脂成分を分析試料とした場合、粘性などの物理的性質が試料ごとに大きく異なる。これによって機器分析時の送液量が変化し、分析の精確さが低下する(物理干渉)。また、試料に含まれる長鎖飽和脂肪酸が多いと、分析機器内の流路に炭素が析出して根詰まりすることがあり、機器へのダメージが大きい。炭素の析出を避けるためには、通常の水溶液を測定する際には使用しない酸素ガスを、試料と共に分析機器に導入しなければならず、酸素ガスとその導入器具が必要となる。また、油脂などの有機溶媒は、ビニール製やポリプロピレン製などのチューブや容器を侵食するため、分析操作に用いる器具をガラス製またはフッ素樹脂製等にする必要がある。
【0011】
さらに、炭素を多く含む有機溶媒を含有する試料は、原子スペクトル分析の際に、バックグラウンドの増加と変動や、カーボン・マトリックス効果による増感作用を示し、分析の精確さが低下する(化学干渉およびスペクトル干渉)。このため、基準となる標準液と試料の液性や成分を合わせることと酸素ガスの導入が定量に不可欠となる。酸素ガスの導入によって機器分析は可能になるものの、測定試料の全ての液性と成分を一致させるのは不可能である。このため、有機溶媒を含有する試料の分析では、干渉を含んだ誤差がある結果が得られるおそれがある。干渉抑制の観点では、既知濃度の基準液を測定する試料に添加する標準添加法や添加回収試験による分析技術もある。しかし、水およびオイルベースのいずれでも、基準液の主成分の組成を維持したまま希釈するのが難しく、正確な定量は困難である。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、バイオディーゼル燃料に含まれる金属の定量分析を水溶液で行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、分析対象が油脂成分を含む燃料であること、国際的な妥当性評価ができるSIトレーサブルな標準液は水溶液であること、および金属などの無機元素を定量する際に優れた原子スペクトル分析(ICP質量分析、ICP発光分光分析、電気加熱式原子吸光、フレーム原子吸光分析、蛍光X線分析などの分析機器およびこれらの検出器)を用いることを考慮し、分析試料を水溶液とすることに着目し、分析の際の問題点を全て除去または抑制することに成功した。なお、本発明では、分解能や、同位体希釈法および標準添加法などの分析方法に関係なく、全ての水溶液を測定できる分析機器に適用できる。すなわち、バイオディーゼル燃料に含まれる金属を水溶液に完全抽出することで、水溶液を分析試料として取り扱うことができる全ての分析機器に適用可能な方法を確立した。
【0014】
本発明のバイオディーゼル燃料中の金属の分析方法は、バイオディーゼル燃料と、酸またはアルカリを含有する水溶液とを混合し、この混合液を振とうしてバイオディーゼル燃料に含まれる金属を水溶液中に抽出する抽出工程と、抽出工程で得られた混合液を静置して油層と水層に分離させた後、水層を回収する回収工程と、回収した水層に含まれる金属の含有量を分析機器で測定する測定工程とを有する。
【0015】
本発明の分析方法において、水溶液が酸を含有し、酸が硝酸、塩酸、および硫酸から選択される1以上であることが好ましい。本発明の分析方法において、酸が硝酸であり、金属がAl、K、Mg、Ca、Cu、Mn、Cd、Na、Ni、およびVから選択される1以上であってもよい。本発明の分析方法において、水溶液がアルカリを含有し、アルカリが水酸化テトラメチルアンモニウムおよびアンモニアの少なくとも一方であってもよい。本発明の分析方法において、アルカリが水酸化テトラメチルアンモニウムであり、金属がNaであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、バイオディーゼル燃料に含まれる金属を簡易かつ迅速に水溶液に抽出でき、この水溶液を用いてバイオディーゼル燃料に含まれる金属の含有量を精確に分析できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係るバイオディーゼル燃料中の金属の分析方法の工程図。
図2】硝酸を用いてバイオディーゼル燃料中の金属分を抽出したときの(a)Ag、(b)Al、(c)Baの回収率を示す図。
図3】硝酸を用いてバイオディーゼル燃料中の金属分を抽出したときの(a)Ca、(b)Cd、(c)Crの回収率を示す図。
図4】硝酸を用いてバイオディーゼル燃料中の金属分を抽出したときの(a)Cu、(b)Fe、(c)Kの回収率を示す図。
図5】硝酸を用いてバイオディーゼル燃料中の金属分を抽出したときの(a)Mg、(b)Mn、(c)Naの回収率を示す図。
図6】硝酸を用いてバイオディーゼル燃料中の金属分を抽出したときの(a)Ni、(b)Pb、(c)Znの回収率を示す図。
図7】硝酸を用いてバイオディーゼル燃料中の金属分を抽出したときの(a)Sb、(b)Sn、(c)Tiの回収率を示す図。
図8】硝酸を用いてバイオディーゼル燃料中の金属分を抽出したときの(a)Mo、(b)P、(c)Vの回収率を示す図。
図9】水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いてバイオディーゼル燃料中の金属分を抽出したときの(a)Ag、(b)Al、(c)Baの回収率を示す図。
図10】水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いてバイオディーゼル燃料中の金属分を抽出したときの(a)Ca、(b)Cd、(c)Crの回収率を示す図。
図11】水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いてバイオディーゼル燃料中の金属分を抽出したときの(a)Cu、(b)Fe、(c)Kの回収率を示す図。
図12】水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いてバイオディーゼル燃料中の金属分を抽出したときの(a)Mg、(b)Mn、(c)Naの回収率を示す図。
図13】水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いてバイオディーゼル燃料中の金属分を抽出したときの(a)Ni、(b)Pb、(c)Znの回収率を示す図。
図14】水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いてバイオディーゼル燃料中の金属分を抽出したときの(a)Sb、(b)Sn、(c)Tiの回収率を示す図。
図15】水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いてバイオディーゼル燃料中の金属分を抽出したときの(a)Mo、(b)P、(c)Vの回収率を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のバイオディーゼル燃料中の金属の分析方法について、図面を参照しながら実施形態と実施例に基づいて詳細に説明する。なお、重複説明は適宜省略する。また、2つの数値の間に「〜」を記載して数値範囲を表す場合には、この2つの数値も数値範囲に含まれるものとする。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係るバイオディーゼル燃料中の金属の分析方法の手順を示している。本実施形態の分析方法は、抽出工程と、回収工程と、測定工程とを備えている。抽出工程では、バイオディーゼル燃料と、酸またはアルカリを含有する水溶液とを混合し、この混合液を振とうしてバイオディーゼル燃料に含まれる金属を水溶液中に抽出する。具体的には、水と混じり合わないバイオディーゼル燃料に、酸またはアルカリを含む水溶液を加えて振り混ぜ、バイオディーゼル燃料に含まれていた金属分を、添加した水溶液に抽出する。
【0020】
回収工程では、抽出工程で得られた混合液を静置して油層と水層に分離させた後、水層を回収する。この水層には、バイオディーゼル燃料中に含まれていた金属が含まれている。このため、定量分析が可能な分析機器にこの水層を供することによって、バイオディーゼル燃料の品質が評価できる。すなわち、測定工程では、回収した水層に含まれる金属の含有量を分析機器で測定する。このように本発明の分析方法では、バイオディーゼル燃料に含まれる金属分を水溶液へ抽出し、この水溶液を定量分析に供している。
【0021】
さらに、本実施形態の分析方法の手順を詳しく説明する。まず、分析対象のバイオディーゼル燃料を、共栓付き試験管にはかり取り、酸試薬またはアルカリ試薬を含む水溶液を添加する。つぎに、試験管を密閉した後、手で激しく振り混ぜ、バイオディーゼル燃料と添加した水溶液を接触混合する。そして、試験管内がバイオディーゼル燃料の油層と水層の二層に分離するまで静置する。分離した二層の上層のバイオディーゼル燃料を取り除いて、または下層の水層を取り出して、水層のみを得る。
【0022】
この水層中の金属は、水溶液に含まれる一般的な金属と同等に扱える。すなわち、この水溶液中の金属分の貯蔵安定性は、水溶液中の一般的な無機元素の貯蔵安定性と同等である。また、この水溶液は水または親水性物質と任意の割合で混合できる。このため、この水溶液への試薬の添加、この水溶液と他の水溶液の混合、この水溶液の親水性試薬や水での希釈などが可能である。また、この水溶液は100℃程度以下での加熱や風乾によって溶媒を揮発できるため、水溶液の濃縮や、他の親水性試薬や溶媒での濃縮した水溶液の再希釈が可能である。
【0023】
回収工程で回収した水溶液は、溶媒が水である試薬または標準液を定量するときの、すなわち検量線を作成するときの基準液として使用できる。この水溶液によってSIトレーサブルな基準液が作製できるため、この基準液を用いた定量分析結果もSIトレーサブルとなる。本実施形態の分析方法では、水溶液が、硝酸、塩酸、および硫酸から選択される1以上の酸を含有することが好ましい。これらの中でも硝酸が好ましい。抽出工程で硝酸を用いれば、バイオディーゼル燃料に含まれるAl、K、Mg、Ca、Cu、Mn、Cd、Na、Ni、およびVから選択される1以上の金属のほとんどが全量抽出できるからである。
【0024】
また、本実施形態の分析方法では、水溶液が、水酸化テトラメチルアンモニウム(以下「TMAH」ということがある)およびアンモニアの少なくとも一方であるアルカリを含有していてもよい。分析機器使用時に、干渉などによる定量誤差が発生しにくい上、分析対象である金属元素を含まないからである。これらの中でもTMAHが好ましい。抽出工程でTMAH水溶液を用いれば、バイオディーゼル燃料に含まれるNaのほとんどが全量抽出できるからである。油層の液体ではなく水溶液で分析することによって、精確な分析を行う際に障害となる前述の懸念要因を除去または抑制できる。また、水溶液の分析試料は5分以内で調製できるため、分析工程で大量の試料が取り扱え、一定水準以上の品質が要求されるバイオディーゼル燃料の製造や品質評価が飛躍的に促進できる。
【0025】
回収工程で回収した水層を原子スペクトル分析機器などの機器で分析することで、水溶液試料としての取り扱いができ、良好な分析感度や分析挙動が得られる。このため、SIトレーサビリティを確保した分析が可能となる。本発明の分析方法は、植物性油脂、動物性油脂、またはこれらの混合物から製造されるバイオディーゼル燃料に適用できる。また、バージン油だけでなく、廃食物油などから製造されたバイオディーゼル燃料にも本発明の分析方法が適用できる。
【0026】
植物性油脂とは、例えば大豆油や菜種油などの植物由来の油脂をいい、植物性油脂由来成分とは、植物性油脂そのもの、または植物性油脂に物理的や化学的な処理を加えて組成を変更したものをいう。動物性油脂とは、例えば豚、牛、鶏などの動物由来の油脂をいい、動物性油脂由来成分とは、動物性油脂そのもの、または動物性油脂に物理的や化学的な処理を加えて組成を変更したものをいう。植物性油脂由来成分や動物性油脂由来成分を、アルカリ条件下で、アルコール類、例えばメタノールでエステル交換する反応によって、脂肪酸メチルエステルが得られる。
【0027】
脂肪酸メチルエステルを主成分とする燃料がバイオディーゼル燃料である。バイオディーゼル燃料は、密度、セタン価、および発熱量が軽油と同等であり、石油代替燃料として用いることができる。バイオディーゼル燃料は、単独で燃料として用いることもできるが、軽油などの他の燃料と混合して用いることが多い。バイオディーゼル燃料と他の燃料との混合比は、燃料として要求される性能を満たす範囲であれば特に限定されない。
【0028】
抽出工程において、水溶液の抽出挙動と抽出条件は抽出される金属に依存し、同一抽出条件下で、バイオディーゼル燃料に含まれる一種類以上の金属を水溶液中に抽出できる。複数種の金属を抽出したときには、これらの金属が同時分析できる分析機器を利用することで、一種類または複数種の金属元素を同時分析して、定量分析と定性分析の少なくとも一方ができる。一種類の金属を抽出したときには、一種類の金属が分析できる分析機器、または複数種の元素が同時に分析できる分析機器を利用することで、定量分析と定性分析の少なくとも一方ができる。
【実施例】
【0029】
実施例1:バイオディーゼル燃料試料の調製
実施例で用いたバイオディーゼル燃料の原料の油に含まれていた水とメタノールの含有量を下記にそれぞれ示す。
パーム油 : 水483mg/kg 、 メタノール 165mg/kg
ヒマワリ油: 水791mg/kg 、 メタノール 21mg/kg
廃食油 : 水640mg/kg 、 メタノール 49mg/kg
【0030】
これらのパーム油、ひまわり油、および廃食油をメタノールでエステル交換して、パーム油由来バイオディーゼル燃料(以下「PBDF」と記載することがある)、ひまわり油由来バイオディーゼル燃料(以下「SBDF」と記載することがある)、および廃食油由来バイオディーゼル燃料(以下「WBDF」と記載することがある)をそれぞれ製造した。欧州規格のEN 14538または日本工業規格のJIS K 2390に準拠した方法で、これら3種類のバイオディーゼル燃料に含まれる主要無機成分のNa、K、Mg、Ca、およびPの含有量を評価したところ、これらの全成分が検出感度(0.01mg/kg)以下であったことを確認した。
【0031】
JCSS校正された天秤を用いた質量比混合法によって、金属濃度が認証された市販のオイルベース標準液(CONOSTAN社製の炭化水素系パラフィンオイルベースとVHG Labs社製のエンジンオイルベースの少なくとも一方)0.5gを、PBDF、SBDF、およびWBDF49.5gでそれぞれ希釈した。なお、このオイルベース標準液には、Na、K、Mg、Ca、P、Ag、Al、B、Ba、Cd、Cr、Cu、Fe、Mn、Mo、Ni、Sb、Pb、Si、Sn、Ti、V、Znの23元素が1000mg/kgずつ含まれていた。したがって、オイルベース標準液を含んだPBDF(以下「DP」と記載することがある)、オイルベース標準液を含んだSBDF(以下「DS」と記載することがある)、およびオイルベース標準液を含んだWBDF(以下「DW」と記載することがある)の希釈倍率は100倍で、DP、DS、およびDWの金属濃度の理論値は、上記23元素について10mg/kgである。
【0032】
DP、DS、およびDWを各1gはかり取り、これを10gとなるようにキシレン(関東化学株式会社製 原子吸光分析用)で希釈して金属濃度の理論値が1mg/kgであるDP試料A、DS試料A、およびDW試料Aを得た。同様にして、DP、DS、およびDWを各1gはかり取り、これにオイルベース標準液を添加し、さらに10gとなるようにキシレンで希釈して、金属濃度の理論値を1mg/kgとしたDP試料B、DS試料B、およびDW試料Bと、金属濃度の理論値を2mg/kgとしたDP試料C、DS試料C、およびDW試料Cを得た。
【0033】
得られた9種類の試料をICP発光分光分析装置(PerkinElmer社製 Optima7300DV)を用いて分析し、発光強度からDP、DS、およびDWのそれぞれの金属濃度を求めた。なお、炭素が析出しないように、サイクロンチャンバーに酸素ガスを導入しながら分析装置に試料を導入した。このICP発光分光分析法によって求めた金属濃度と、上記質量比混合法によって算出した金属濃度の理論値が一致したので、各種分析試料の金属濃度は質量比混合法によって算出した理論値を採用した。
【0034】
実施例2:酸水溶液を用いた抽出
まず、DP1gを試験管7本にはかり取った。つぎに、水(Millipore精製 超純水)、ならびに硝酸(関東化学株式会社製 Ultrapur)を希釈して0.07mol/L、0.14mol/L、0.70mol/L、1.5mol/L、3.0mol/L、および4.0mol/Lの濃度にした水溶液を、これら7本の試験管に10gずつ加え、手で30秒間振り混ぜた(抽出工程)。そして、これら7本の試験管内の液体が油層と水層に分離するまで静置した後、水層を回収した(回収工程)。つぎに、JCSS規格元素標準液によって作成した検量線を用いて、回収した水層に含まれる金属の含有量をICP発光分光分析装置(PerkinElmer社製 Optima7300DV)で定量し(分析工程)、回収率(以下「抽出率」と記載することがある)を算出した。DSおよびDWについても、同様の手順で回収率を算出した。なお、検量線の作成には、関東化学株式会社製元素標準液(JCSS規格、1000mg/L)を使用した。
【0035】
その結果を図2から図8に示す。なお、DPについては●で、DSについては■で、DWについては▲で、それぞれ回収率を示している。図2から図8に示すように、抽出挙動は元素によって異なるが、多くの元素で90%以上の抽出が可能であった。このうち、Al、K、Mg、Ca、Cu、Mn、Cd、Na、Ni、Vは精確に定量でき、DP、DS、およびDWのいずれでも回収率が100±5%であった。酸水溶液を用いた抽出で定量した元素と、その回収率を下記に示す。
Al、K、Mg、Ca、Cu、Mn、Cd、Na、Ni、V ・・・ 回収率:100±5%
Ag、Ba、Mo、Fe、Pb、Zn ・・・ 回収率:>90 %
Cr、Sb、Sn、Ti ・・・ 回収率:90-50 %
P ・・・ 回収率:50> %
【0036】
実施例3:アルカリ水溶液を用いた抽出
まず、DP1gを試験管7本にはかり取った。つぎに、水(Millipore精製 超純水)、ならびにTMAH水溶液(多摩化学工業社製 高純度TMAH25%水溶液)を希釈して0.015mol/L、0.03mol/L、0.15mol/L、0.3mol/L、0.6mol/L、および0.9mol/Lの濃度にした水溶液を、これら7本の試験管に10gずつ加え、手で30秒間振り混ぜた。そして、これら7本の試験管内の液体が油層と水層に分離するまで静置した後、水層を回収した。つぎに、JCSS規格元素標準液によって作成した検量線を用いて、回収した水層に含まれる金属の含有量をICP発光分光分析装置(PerkinElmer社製 Optima7300DV)で定量し、回収率を算出した。また、DSおよびDWについても、同様の手順で回収率を算出した。なお、検量線の作成には、関東化学株式会社製元素標準液(JCSS規格、1000mg/L)を使用した。
【0037】
その結果を図9から図15に示す。なお、DPについては●で、DSについては■で、DWについては▲で、それぞれ回収率を示している。図9から図15に示すように、抽出挙動は元素によって異なった。酸水溶液を用いた抽出と比べると、アルカリ水溶液を用いた抽出での回収率は低かった。しかし、アルカリ水溶液を用いた抽出において、Na、Sn、Mo、Znの回収率が90%以上となる条件があった。特に、Naは精確に定量でき、DP、DS、およびDWのいずれでも回収率が100±5%であった。したがって、アルカリ水溶液を用いた抽出ではNaの選択的定量が可能である。アルカリ水溶液を用いた抽出で定量した元素と、その回収率を下記に示す。
Na ・・・ 回収率:100±5%
Sn、Mo ・・・ 回収率:>90 %
Ag、Al、K、Mg、Cu、Zn ・・・ 回収率:90-50 %
Fe、Sb、Ba、Ca、Cd、Mn、Ti、Cr、Ni、P、Pb、V ・・・ 回収率:50> %
【0038】
実施例4:酸水溶液の添加量依存性
まず、DP1gを試験管にはかり取った。つぎに、硝酸(関東化学株式会社製 Ultrapur)を希釈して0.14mol/Lの濃度にした水溶液10gをこの試験管に加え、手で30秒間振り混ぜた。そして、実施例2と同様にして回収率を算出した。これ以外に、DPと0.14mol/L硝酸水溶液との混合比が、それぞれ2gと10g、10gと10g、10gと5gである3種類の試料についても、これと同様にして回収率を算出した。すなわち、「0.14mol/L硝酸水溶液の質量/DPの質量」が0.5〜10である異なる4種類の試料を用いて回収率を算出した。その結果、回収率は図2から図8に示したものと同様であった。すなわち、DPの0.5倍〜10倍の質量の酸水溶液を用いてDPから金属を抽出する場合、酸水溶液の添加量による依存性は認められなかった。また、DSおよびDWについても、これと同様にして回収率を算出したが、酸水溶液の添加量による依存性は認められなかった。
【0039】
実施例5:アルカリ水溶液の添加量依存性
0.14mol/L硝酸水溶液に代えて0.6mol/LのTMAH水溶液(多摩化学工業社製 高純度TMAH25%水溶液を希釈したもの)を用い、その他は実施例4と同様にして、DP、DS、およびDWに含まれる金属の回収率を算出した。その結果、回収率は図9から図15に示したものと同様であった。すなわち、DP、DS、およびDWの0.5倍〜10倍の質量のアルカリ水溶液を用いて、DP、DS、およびDWから金属を抽出する場合、アルカリ水溶液の添加量による依存性は認められなかった。
【0040】
実施例6:酸水溶液の抽出時間依存性
まず、DP1gを試験管にはかり取った。つぎに、実施例4で用いた0.14mol/L硝酸水溶液10gをこの試験管に加えた。そして、時間を変えてこの試験管を振とうした後、実施例4と同様にして回収率を算出した。振とう時間(抽出時間)は、手による15秒〜60秒と、振とう器による3分〜30分とを併せて6種類変えた。また、DSおよびDWについても、これと同様にして回収率を算出した。その結果、抽出時間を変化させても回収率はほとんど差がなかった。
【0041】
実施例7:アルカリ水溶液の抽出時間依存性
0.14mol/L硝酸水溶液に代えて0.6mol/LのTMAH水溶液(多摩化学工業社製 高純度TMAH25%水溶液を希釈したもの)を用い、その他は実施例6と同様にして、DP、DS、およびDWに含まれる金属の回収率を算出した。その結果、抽出時間を変化させても回収率に差はなかった。
【0042】
実施例8:混合液の保存安定性
実施例6および実施例7の手で30秒間振とうした6種類(DP、DS、およびDWについて、それぞれ酸およびアルカリを添加)の試料を室温で1日〜1ヶ月保存した後、実施例6および実施例7と同様にして、DP、DS、およびDWに含まれる金属の回収率を算出した。その結果、1ヶ月保存した試料の金属の回収率は、振とう直後の金属の回収率とほとんど差がなかった。
【0043】
実施例9:分析方法の比較
実施例2〜8で得られた水層の金属の含有量を、フレーム原子吸光分析装置(PerkinElmer社製 AAnalyst 800)およびICP質量分析装置(Agilent社製 7500c)を用いて定量分析した。検量線の作成には、関東化学株式会社製元素標準液(JCSS規格、1000mg/L)を使用した。なお、分析機器によって分析感度が異なるため、必要に応じて、この水層を水で希釈してから定量分析した。NaとKを除く各成分の含有量について、フレーム原子吸光分析装置またはICP質量分析装置を用いた分析結果が、ICP発光分光分析装置を用いた分析結果と分析精度範囲内で一致した。すなわち、本発明の分析方法は、様々な分析機器に適用できることがわかった。
【0044】
以上の結果より、バイオディーゼル燃料に含まれるAl、K、Mg、Ca、Cu、Mn、Cd、Na、Ni、Vの精確な分析には、硝酸などの酸水溶液を用いた抽出が有用である。また、硝酸などの酸水溶液を用いた抽出では、バイオディーゼル燃料に含まれるAg、Sb、Ba、Mo、Fe、Sn、Ti、Pb、Znの90%以上の抽出が可能である。TMAHなどのアルカリ水溶液を用いた抽出では、バイオディーゼル燃料に含まれるNaの抽出に特に有効である。また、アルカリ水溶液を用いれば、バイオディーゼル燃料からSn、Mo、Znの90%以上が抽出できる。
【0045】
本発明の抽出方法によれば、バイオディーゼル燃料に含まれる金属を水溶液に抽出できるため、ICP質量分析法、ICP発光分光分析法、黒鉛炉原子吸光法、フレーム原子吸光法、マイクロ波プラズマ発光分光分析法、吸光光度法、滴定法、またはイオンクロマトグラフィーなどの無機分析に用いる主な分析機器で、水溶液用の導入系や容器類などを使って分析できる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の分析方法によれば、SIトレーサビリティが確保された標準液を濃度基準にできるため、精確な分析が可能となる。また、バイオディーゼル燃料をはじめとするオイル成分中の金属を定量する際に、特別な標準液を用意する必要がなく、簡易に精確な分析ができる。さらに、バイオディーゼル燃料から金属を抽出した水溶液は、酸やアルカリを含んでいても沸点が150℃程度以下であるため、フッ素樹脂などの金属汚染が少ない材質の分析器具が使用でき、濃縮や希釈操作が簡単にできる。また、機器分析の精確さ向上のために、内部標準元素、マトリックス修飾剤、マスキング剤、キレート化剤、酸試薬、またはアルカリ試薬などを水層の分析試料に添加して、均質に混ぜることができる。
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