【解決手段】本発明は、無機充填剤11を含有する樹脂成形品10’の所要の面10’aに対し、ミラー32を介してレーザ照射装置31からレーザを照射し、そのミラー32からの反射光で樹脂の一部除去を行い、側面12aから無機充填剤11が露出された溝12を形成する。本発明によると、溝付き樹脂成形品10と他の成形品20とを接合した際に、溝12で露出する無機充填剤11が溝付き樹脂成形品10及び他の成形品20の破壊を抑えるアンカーの役割を果たし、結果として、接合面が内壁面やテーパ形状の壁面等である場合であっても、複合成形体の強度を著しく高められる。
無機充填剤を含有する樹脂成形品の所要の面に対し、ミラーを介してレーザを照射し、前記ミラーからの反射光で樹脂の一部除去を行い、側面から前記無機充填剤が露出された溝を形成する溝形成工程を含む、溝付き樹脂成形品の製造方法。
前記溝形成工程は、前記無機充填剤を含有する中空形状の前記樹脂成形品の内壁面に対し、前記ミラーを介して前記レーザを照射し、前記ミラーからの反射光で前記内壁面における樹脂の一部除去を行い、前記溝を形成する工程である、請求項1又は2に記載の溝付き樹脂成形品の製造方法。
請求項1から4のいずれかに記載の溝付き樹脂成形品の製造方法を使用した後、前記溝を有する面を接触面として他の成形品と射出成型により一体化して複合成形品を製造する、複合成形品の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、複合成形品の形状は複雑化しており、例えば、筒状の樹脂成形品の内側で他の成形品と一体化させた複合成形品、テーパ形状である樹脂成形品の壁面で他の成形品と一体化させた複合成形品も提案されている。しかしながら、これらの複合成形品においては、一の成形品と他の成形品とを接合したときの強度に関し、さらなる改良の余地がある。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、より高い接合強度を有する樹脂成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のような課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、無機充填剤を含有する樹脂成形品の所要の面に対し、ミラーを介してレーザを照射し、そのミラーからの反射光で樹脂の一部除去を行い、側面から前記無機充填剤が露出された溝を形成することで、溝付き樹脂成形品と他の成形品とを接合した際に、溝で露出する無機充填剤が溝付き樹脂成形品及び他の成形品の破壊を抑えるアンカーの役割を果たし、結果として、接合面が内壁面やテーパ形状の壁面等である場合であっても、複合成形体の強度を著しく高められることを見出した。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1)また、本発明は、無機充填剤を含有する樹脂成形品の所要の面に対し、ミラーを介してレーザを照射し、前記ミラーからの反射光で樹脂の一部除去を行い、側面から前記無機充填剤が露出された溝を形成する溝形成工程を含む、溝付き樹脂成形品の製造方法である。
【0009】
(2)また、本発明は、前記無機充填剤が溝の両側に位置する山の間に架かる、(1)に記載の溝付き樹脂成形品の製造方法である。
【0010】
(3)また、本発明は、前記溝形成工程が、前記無機充填剤を含有する中空形状の前記樹脂成形品の内壁面に対し、前記ミラーを介して前記レーザを照射し、前記ミラーからの反射光で前記内壁面における樹脂の一部除去を行い、前記溝を形成する工程である、(1)又は(2)に記載の溝付き樹脂成形品の製造方法である。
【0011】
(4)また、本発明は、前記ミラーが錐状であり、前記溝形成工程が、前記ミラーを前記樹脂成形品の中空部に入り込むように設置し、前記樹脂成形品の内壁面に対し、前記ミラーを介して前記レーザを照射し、前記ミラーからの反射光で前記内壁面における樹脂の一部除去を行い、前記溝を形成する工程である、(2)に記載の溝付き樹脂成形品の製造方法である。
【0012】
(5)また、本発明は、(1)から(4)のいずれかに記載の溝付き樹脂成形品の製造方法を使用した後、前記溝を有する面を接触面として他の成形品と射出成型により一体化して複合成形品を製造する、複合成形品の製造方法である。
【0013】
(6)また、本発明は、無機充填剤を含有する中空形状の樹脂成形品であって、内壁面の少なくとも一部に、前記無機充填剤が露出された溝が形成されている溝付き中空形状樹脂成形品である。
【0014】
(7)また、本発明は、前記無機充填剤が溝の両側に位置する山の間に架かる、(6)に記載の溝付き中空形状樹脂成形品である。
【0015】
(8)また、本発明は、(6)又は(7)に記載の溝付き中空形状樹脂成形品の前記溝を有する面上に他の成形品が隣接された複合成形品である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、接合面が内壁面やテーパ形状の壁面等であっても、溝で露出する無機充填剤が溝付き樹脂成形品及び他の成形品の破壊を抑えるアンカーの役割を果たし、結果として複合成形体の強度を著しく高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0019】
<溝付き樹脂成形品の製造方法>
図1は、本発明に係る溝付き樹脂成形品1を製造する製造装置30の一例を示す図である。製造装置30は、レーザを照射するレーザ照射装置31と、このレーザ照射装置31から照射されたレーザを反射するミラー32と、このミラーからの反射光を受ける樹脂成形品10’を載せる載置台33とを備える。
【0020】
本発明に係る溝付き樹脂成形品10の製造方法は、無機充填剤11(
図2)を含有する樹脂成形品10’の所要の面10’aに対し、ミラー32を介してレーザ照射装置31からレーザを照射し、ミラー32からの反射光で樹脂の一部除去を行い、側面12a(
図2)から無機充填剤11が露出された溝12(
図2)を形成する溝形成工程を含む。
【0021】
〔溝形成工程〕
溝形成工程は、無機充填剤11を含有する樹脂成形品10’の所要の面10’aに対し、ミラー32を介してレーザ照射装置31からレーザを照射し、ミラー32からの反射光で樹脂の一部除去を行う工程である。
【0022】
[樹脂成形品10’]
(樹脂)
樹脂の種類は、レーザの照射等により除去され、結果として溝12を形成できるものであれば、特に限定されるものではなく、熱可塑性であってもよいし、熱硬化性であってもよい。樹脂の好適な材質として、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアセタール(POM)等が挙げられる。
【0023】
レーザの照射により樹脂を一部除去するにあたり、レーザの吸収を調整する手法として、樹脂にレーザを吸収する配合剤の種類や添加量を調整することが挙げられる。このような配合剤としては、顔料や染料といったものが用いられ、カーボンブラックが効果的である。
【0024】
[無機充填剤11]
無機充填剤11は、樹脂成形品10’の樹脂の一部を除去することにより溝12を形成する際に、溝12から露出するものであれば特に限定されない。
【0025】
無機充填剤11として、ガラス繊維、炭素繊維、ウィスカー繊維、ガラスフレーク、マイカ、タルク等を挙げることができる。中でも、レーザの照射によって溝を形成する際に、レーザを透過しやすく、繊維によるレーザ遮蔽が起こりにくいことに加え、安価であることから、無機充填剤11は、ガラス繊維であることが好ましい。
【0026】
本発明では、溝12で露出する無機充填剤11が溝付き樹脂成形品10及び他の成形品20(
図5)の破壊を抑えるアンカーの役割を効果的に果たすにあたって、例えばレーザの照射によって樹脂の一部が除去され、照射部位と非照射部位とにより形成される凹凸の山どうしを好適に架けることができる点で、無機充填剤11の形状は繊維状であることが好ましい。
【0027】
また、繊維状以外のガラスフレーク、マイカ、タルク、ガラスビーズなどの無機充填剤やその他の添加剤や改質剤などが、本発明の効果の発現を妨げない程度に配合されていても構わない。
【0028】
無機充填剤11の含有量は特に限定されるものでないが、樹脂100重量部に対して5重量部以上80重量部以下であることが好ましい。5重量部未満であると、無機充填剤11が溝12で露出したとしても、無機充填剤11が溝付き樹脂成形品10及び他の成形品20の破壊を抑えるアンカーの役割を十分に果たせない可能性がある。80重量部を超えると、無機充填剤11と溝12に配された他の成形品との係止効果が十分に発揮できない場合がある点で好ましくない。
【0029】
無機充填剤11を含有する樹脂材料の市販品として、ガラス繊維入りLCP(製品名:ラペロス(登録商標)LCP E130i,ポリプラスチックス社製)、ガラス繊維入りPPS(製品名:ジュラファイド(登録商標)PPS 1140A7,ポリプラスチックス社製)、ガラス繊維・無機フィラー入りPPS(製品名:ジュラファイド(登録商標)PPS 6165A7,ポリプラスチックス社製)、ガラス繊維入りPBT(製品名:ジュラネックス(登録商標)3300、ウィンテックポリマー社製)、ガラス繊維入りPOM(製品名:ジュラコン(登録商標)POM GH−25、ポリプラスチックス社製)等を挙げることができる。
【0030】
[レーザの照射]
続いて、レーザの照射について説明する。
【0031】
(載置角度)
ミラー32の載置角度、及び樹脂成形品10’の載置台33への載置角度は特に限定されるものでなく、レーザ照射装置31からレーザを照射したときに、溝12を形成する箇所にレーザを好適に照射できる角度であればよい。
【0032】
(照射態様)
レーザの照射は、照射対象材料の種類やレーザ装置の出力等をもとに設定されるが、樹脂に適度のエネルギーを照射して溝を形成しないと、無機充填剤が十分に露出しなかったり、設定どおりの幅や深さの溝を形成することが難しかったりするため、複数回に分けて行うことが好ましい。
【0033】
ところで、無機充填剤11は、レーザのエネルギーを部分的に遮蔽する。そのため、深くまで樹脂を除去するために、レーザの照射を複数回行おうとすると、後になるほど、レーザが既に露出した無機充填剤11に当たることよって吸収されるエネルギー分だけ、高いエネルギーを与える必要がある。そのため、レーザの照射を複数回繰り返す場合、レーザの照射量を前回の照射量より高める工程を含むことが好ましい。
【0034】
(溝12)
図2は、溝付き樹脂成形品10のうち、レーザ照射部位とレーザ非照射部位とにより形成される凹凸を示す概略断面図である。レーザの照射によって得られる溝付き樹脂成形品10の表面には溝12が形成されている。溝12では、無機充填剤11が露出されている。無機充填剤が溝の両側に位置する山の間に架かることで、他の成形品と一体化して複合成形品を得る際、溝に入り込んだ他の成形品に対する高いアンカー効果を発揮することができる。そして、樹脂の一部除去により溝12を形成するとともに溝の少なくとも表面側において側面から露出し溝に照射されるレーザを一部遮蔽する無機充填剤11の一部を除去することにより、溝12の側面12aから繊維状無機充填剤11を溝側面より突出した状態で露出させることができる。無機充填剤11の少なくとも一部を除去することで、溝12に露出する無機充填剤11によるレーザの遮蔽効果が減ることで、溝の深くまでレーザが効果的に照射出来るため、溝をより深くすることができ、これにより、他の成形品20(
図7)と複合成形したときのアンカー効果を高めることができる。また、他の成形品と一体化して複合成形品を得る際、少なくとも表面側において露出する無機充填剤11の端部を突出する状態で一部を除去し、とりわけ溝12の中央部の無機充填剤11を除去することで、流動状態にある他の成形品の溝への入り込みを容易にし、溝が深くとも高いアンカー効果を得ることができる。
【0035】
ところで、本発明は、溝付き樹脂成形品10の溝12を有する面を接触面として他の成形品20と一体化して複合成形品1(
図7)を製造する場合があるところ、この複合成形品1において無機充填剤11は露出されていない。本明細書では、複合成形品1において繊維状無機充填剤11が露出していない場合であっても、複合成形品1から他の成形品20を取り除いた態様において溝12から繊維状無機充填剤11が露出していれば、「溝12において繊維状無機充填剤11が露出されている」ものとする。
【0036】
他の成形品20と複合成形したときに溝12の側面12aから無機充填剤11が突出して露出することで十分なアンカー効果がより効果的に得られる点で、溝12の長手方向は、無機充填剤11の長手方向とは異なることが好ましい。
【0037】
複数の溝12は両端が繋がった溝12を等高線のように並べて設けても良いし、交差しない縞状に形成されても、溝12が交差する格子状に形成されてもよい。溝12を格子状に形成する場合は、溝12の長手方向が繊維状無機充填剤の長手方向とは異なる斜格子状に形成することが好ましい。また、溝12を格子状に形成する場合、溝12の形状はひし形状であっても良い。
【0038】
溝12の長さは特に限定されるものでなく、溝12が短い場合、開口部の形状は四角形であってもよいし、丸形や楕円形であってもよい。アンカー効果を得るためには、溝12は長い方が好ましい。
【0039】
また、溝12の深さDについても特に限定されるものではないが、より高いアンカー効果を得られる点で、溝12の深さは深い方が好ましく、深さDが浅いと、溝12で他の成形品20と接合して複合成形品1を形成する際に、溝12に露出する繊維状無機充填剤11と他の成形品20との間に十分なアンカー効果を生じないことから、溝付き樹脂成形品10と他の成形品20とを強固に密接できないことがある。
【0040】
[溝形成工程の他の例]
図3及び
図4は、溝形成工程の他の一例を示す図である。複合成形品の形状は複雑化しており、例えば、筒状の樹脂成形品の内側で他の成形品と一体化させた複合成形品等も提案されている。筒状の樹脂成形品の内側で他の成形品と好適に一体化できるようにするため、溝形成工程は、無機充填剤を含有する中空形状の樹脂成形品16’の内壁面16’aに対し、ミラー42を介してレーザ照射装置41からレーザを照射し、ミラー42からの反射光で内壁面16’aにおける樹脂の一部除去を行い、溝を形成する工程であることが好ましい。
【0041】
そして、ミラー42は、錐状であり、溝形成工程は、ミラー42を樹脂成形品16’の中空部に入り込むように取り付け、樹脂成形品16’の内壁面16’aに対し、ミラー42を介してレーザ照射装置41からレーザを照射し、ミラー42からの反射光で内壁面16aにおける樹脂の一部除去を行い、溝を形成する工程であることが好ましい。
【0042】
他の例に係る溝形成工程を経ることで、無機充填剤を含有する中空形状の樹脂成形品であって、内壁面の少なくとも一部に、無機充填剤が露出された溝が形成されている溝付き中空形状樹脂成形品が得られる。
【0043】
<複合成形品の製造方法>
本発明に係る複合成形品の製造方法は、特に限定されるものでないが、上記溝付き樹脂成形品の製造方法を使用した後、溝12を有する面12aを接触面12aとして他の成形品20と射出成型により一体化して複合成形品を製造する工程を含むことが好ましい。
【0044】
射出成型により一体化する場合、複合成形品の製造方法は、溝付き樹脂成形品10の溝12を有する面12aに未硬化材料を配し、面12aに向けて応力を加える未硬化材料供給工程と、その未硬化材料を硬化する硬化工程とを含むことが好ましい。
【0045】
〔未硬化材料供給工程〕
未硬化材料を供給する手法は特に限定されるものでないが、一次成形品のレーザ被照射領域10bを有する面に射出注入された高温の未硬化材料との接触による熱伝達により溶融し、未硬化材料と高い圧力で接合できる点で、射出成形による多重成形法を用いることが好ましい。
【0046】
多重成形の例として、一次成形品のレーザ被照射領域10bが現れるように樹脂成形品10を射出成形型に入れ、未硬化材料を射出圧入する未硬化材料射出工程が挙げられる。
【0047】
射出圧は、未硬化材料が溝12に入り込み、接合効果を発揮できるだけの射出圧及び充填後の保圧であることが好ましい。無機充填剤11が繊維状である場合、射出圧は、未硬化材料が溝12に入り込み、溝12の側面12aより突出して露出された繊維状無機充填剤を囲んで、繊維状無機充填剤とのアンカー効果を発揮できるだけの射出圧及び充填後の保圧であることが好ましい。
【0048】
射出速度は、射出圧入の際に、溝12に未硬化材料が入り込むことのできる速度であることが好ましい。
【0049】
〔硬化工程〕
硬化工程は、未硬化材料供給工程で供給した未硬化材料を硬化する工程である。これら低結晶化工程、未硬化材料供給工程及び硬化工程を経ることで、多重成形による硬化性樹脂との複合成形品1が得られる。
【0050】
図5は、本発明に係る複合成形品1の一例を示す。複合成形品1は、溝付き樹脂成形品10の溝12を有する面上に他の成形品20が隣接されている。
【0051】
他の成形品20は、未硬化状態の場合に、無機充填剤11が露出された溝12に入ることが可能なものであれば特に限定されるものでなく、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂(熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、放射線硬化性樹脂等)、ゴム、接着剤、金属等のいずれであってもよい。
【0052】
溝付き樹脂成形品10の内壁に他の成形品20を一体化させた複合成形品1は、異なる性質を兼ね備える優れた性能を有する。例えば、繊維状の強化材料を含有する高強度の溝付き樹脂成形品10の内側に、潤滑性を有する他の成形品20を配し、複合一体化することで、高性能の軸受けを得ることができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0054】
<実施例>
〔溝付き樹脂成形品〕
ガラス繊維入りポリブチレンテレフタレート(製品名:ジュラファイド(登録商標)PPS 1140A64,ウィンテックポリマー社製)を下記(ジュラネックスにおける射出成形の条件)に記載の条件で射出成形した射出成形品に、照射回数が30回になるように、
図1に記載の製造装置30を用いて、ミラー32の載置角度を水平面に対して45度にし、樹脂成形品10’の載置角度を水平面に対して90度にして、レーザ照射装置31からレーザを水平方向に対して垂直方向からミラー32に向けて同心円状に照射した。レーザの発振波長は1.064μm、最大定格出力は13W(平均)とし、出力は90%、周波数は40kHz、走査速度は1000mm/sとした。これにより、溝幅が100μmである溝付き樹脂成形品10を得た。
(ジュラファイドPPSにおける射出成形の条件)
予備乾燥:140℃、3時間
シリンダ温度:320℃
金型温度:140℃
射出速度:20mm/sec
保圧:50MPa(500kg/cm
2)
【0055】
〔評価〕
上記の溝付き樹脂成形品について、溝を有する面を電子顕微鏡(SEM)で拡大観察した。結果を
図6及び
図7に示す。
図6の倍率は90倍であり、
図7の倍率は270倍である。
【0056】
図6及び
図7より、繊維状無機充填剤が溝の側面から突出して露出していることが確認された。
【0057】
<参考例>
〔溝付き樹脂成形品〕
上記PPS 1140A64を上記(ジュラファイドPPSにおける射出成形の条件)に記載の条件で
図8の(1)に示す形状に射出成形した射出成形品に、レーザを、照射回数が30回になるように、射出成形品の表面に対して垂直方向から格子状に照射した(
図8の(2))。レーザの照射条件は実施例と同じであった。
【0058】
〔複合成形品の製造〕
上記溝付き樹脂成形品について、レーザの照射によって形成された溝を有する面を接触面として射出成形用金型にインサートし、ポリアセタール樹脂(製品名:ジュラコン(登録商標)POM M90−44,ポリプラスチックス社製)を下記(ジュラコンPOMにおける射出成形の条件)に記載の条件で、
図8の(3)に示すように射出成形した。これにより、参考例に係る複合成形品を得た。
(ジュラコンPOMにおける射出成形の条件)
予備乾燥:80℃、3時間
シリンダ温度:190℃
金型温度:80℃
射出速度:16mm/sec
保圧:80MPa(800kg/cm
2)
【0059】
〔評価〕
[強度]
参考例に係る複合成形品の接合強度を評価するため、参考例に係る複合成形品について破壊荷重を測定した。破壊荷重の測定は次のようにして行った。測定機器としてテンシロンUTA−50kN(オリエンテック社製)を使用し、クロスヘッド速度が1mm/分の条件で行った。また、評価は複合成形体(131mm長さ、13mm幅、6.5mm厚み)を破壊に至るまで引張ることで接合強度を測定した。
【0060】
破壊荷重を測定した結果、破壊荷重は991Nであった。なお、溝を有しない樹脂成形品を用いて同様の手順で複合成形品を作成しようとしたが、金型より取り出す時点で分離し、複合成形体を得ることはできなかった。
【0061】
[電子顕微鏡(SEM)での拡大観察]
上記の溝付き樹脂成形品について、溝を有する面を電子顕微鏡(SEM)で拡大観察した。また、参考例に係る複合成形品を作成する際に用いた溝付き樹脂成形品を電子顕微鏡(SEM)で拡大観察した。結果を
図8、
図9及び表1に示す。
【表1】
【0062】
図8、
図9及び表1から、異材質の組合せであっても、溝に露出する無機充填剤と他の成形品とのアンカー効果により、溝付き樹脂成形品と他の成形品とが強固に接合しているといえる。
【0063】
図8、
図9及び表1の結果は、レーザを照射する際にミラーを介していない点、溝の間隔と格子状である点で、本発明に係る方法を使用したものとは異なる。しかしながら、実施例に係る溝付き樹脂成形品及び参考例に係る溝付き樹脂成形品のいずれも、繊維状無機充填剤が溝の側面から突出して露出した態様であり、異材質の組合せにおいて、溝に露出する無機充填剤と他の成形品とのアンカー効果を奏するといえる。したがって、本発明に係る方法を使用して溝付き樹脂成形品を得た場合であっても、その溝付き樹脂成形品は、その後、複合成形品を得た際、参考例と同様にアンカー効果を奏するといえる。