【解決手段】脈波測定装置100は、生体信号測定装置1により測定される体表脈波の時系列波形から、脈拍成分を主体とする基準波を抽出する基準波抽出手段110と、基準波の抽出とは別途に、体表脈波の時系列波形から、強調波を抽出する強調波抽出手段120と、基準波と強調波の両方のピークを考慮して脈拍成分の出現時間を特定する脈波間隔演算手段130と、を有する。
生体信号測定装置により測定される複数種類の生体情報の複合波である体表脈波の時系列波形から、脈拍成分を主体とする周波数帯域の時系列波形を基準波として抽出する基準波抽出手段と、
前記体表脈波の時系列波形から、前記脈拍成分を主体とする周波数帯域とそれよりも高周波の周波数成分を含む、より広域の周波数帯域の時系列波形を強調波として抽出する強調波抽出手段と、
前記基準波抽出手段により得られた基準波のピーク出現時間を含む所定の時間範囲内における、前記強調波抽出手段により得られた強調波のピーク出現時間を、脈拍成分の出現時間として特定し、特定された脈拍成分の出現時間の間隔を脈波間隔として求める脈波間隔演算手段と
を有することを特徴とする脈波測定装置。
前記体表脈波の時系列波形を微分して脈拍成分の変動を強調する微分手段と、前記微分手段により得られる微分波形を整流する整流手段とを備えた前処理手段を有し、前記前処理手段により処理された時系列波形を前記基準波抽出手段又は前記強調波抽出手段により処理させる請求項1記載の脈波測定装置。
前記微分手段は、前記体表脈波の時系列波形に1階微分を施す手段であり、前記整流手段は、前記微分手段により得られる1階微分波形を半波整流する手段である請求項2記載の脈波測定装置。
前記基準波抽出手段において設定される前記脈拍成分を主体とする周波数帯域は、下限周波数が0.3〜0.8Hzの範囲のいずれかの値で設定され、上限周波数が1〜2Hzの範囲のいずれかの値で設定されている請求項1〜3のいずれか1に脈波測定装置。
前記強調波抽出手段において設定される所定の周波数帯域が、上限周波数15Hzまでの範囲において、前記脈拍成分を主体とする周波数帯域及びそれよりも高周波の周波数成分を含む、より広域に設定されたものである請求項4記載の脈波測定装置。
前記解析手段は、前記脈波間隔からLF、HF,LF/HFのパワースペクトル密度を求めて自律神経活動の評価を行う手段である請求項8記載の自律神経活動評価装置。
前処理手順として、前記体表脈波の時系列波形を微分して脈拍成分の変動を強調する微分手順と、前記微分手順の実行より得られる微分波形を整流する整流手順とを実行させ、前記前処理手順の実行により得られる時系列波形を用いて前記基準波抽出手順又は前記強調波抽出手順を実行させる請求項10記載のコンピュータプログラム。
前記微分手順は、前記体表脈波の時系列波形に1階微分を施す手順であり、前記整流手順は、前記微分手順の実行により得られる1階微分波形を半波整流する手順である請求項11記載のコンピュータプログラム。
前記脈波間隔演算手順の実行により得られる脈波間隔を用いて自律神経活動の評価を行う解析手順をさらに実行させる請求項10〜12のいずれか1に記載のコンピュータプログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
体表脈波(心部揺動波(APW))は、自律神経機能を反映する生体信号であるが、体表脈波は脈拍成分だけでなく呼吸成分などの複数種類の生体情報を含んだ複合波である。そこで、自律神経活動の評価をより高精度で行うためには、生体信号検出装置により検出される複合波の中から脈波間隔をできるだけ正確に特定することが望ましい。
【0007】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、生体信号測定装置によって採取された複数種類の生体情報の複合波である体表脈波から、脈波間隔をより高い精度で検出できる脈波測定装置を提供すると共に、この脈波測定装置により検出した精度の高い脈波間隔の情報を用いることで自律神経活動の評価をより正確に行うことができる自律神経活動評価装置を提供することを課題とする。また、本発明はコンピュータを上記の脈波測定装置又は自律神経活動評価装置として機能させるためのコンピュータプログラム及び記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の脈波測定装置は、生体信号測定装置により測定される複数種類の生体情報の複合波である体表脈波の時系列波形から、脈拍成分を主体とする周波数帯域の時系列波形を基準波として抽出する基準波抽出手段と、前記体表脈波の時系列波形から、前記脈拍成分を主体とする周波数帯域とそれよりも高周波の周波数成分を含む、より広域の周波数帯域の時系列波形を強調波として抽出する強調波抽出手段と、前記基準波抽出手段により得られた基準波のピーク出現時間を含む所定の時間範囲内における、前記強調波抽出手段により得られた強調波のピーク出現時間を、脈拍成分の出現時間として特定し、特定された脈拍成分の出現時間の間隔を脈波間隔として求める脈波間隔演算手段とを有することを特徴とする。
【0009】
前記体表脈波の時系列波形を微分して脈拍成分の変動を強調する微分手段と、前記微分手段により得られる微分波形を整流する整流手段とを備えた前処理手段を有し、前記前処理手段により処理された時系列波形を前記基準波抽出手段又は前記強調波抽出手段により処理させることが好ましい。
前記微分手段は、前記体表脈波の時系列波形に1階微分を施す手段であり、前記整流手段は、前記微分手段により得られる1階微分波形を半波整流する手段であることが好ましい。
【0010】
前記基準波抽出手段において設定される前記脈拍成分を主体とする周波数帯域は、下限周波数が0.3〜0.8Hzの範囲のいずれかの値で設定され、上限周波数が1〜2Hzの範囲のいずれかの値で設定されていることが好ましい。
前記強調波抽出手段において設定される所定の周波数帯域が、上限周波数15Hzまでの範囲において、前記脈拍成分を主体とする周波数帯域及びそれよりも高周波の周波数成分を含む、より広域に設定されたものであることが好ましい。
前記強調波抽出手段は、前記上限周波数までの範囲において前記所定の周波数帯域を調整可能に設けられていることが好ましい。
前記生体信号測定装置により測定される体表脈波が、被験者の背部より採取された背部体表脈波であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の自律神経活動評価装置は、前記脈波測定装置と、前記脈波測定装置から得られる脈波間隔を用いて自律神経活動の評価を行う解析手段とを備えたことを特徴とする。
前記解析手段は、前記脈波間隔からLF、HF,LF/HFのパワースペクトル密度を求めて自律神経活動の評価を行う手段であることが好ましい。
【0012】
本発明のコンピュータプログラムは、コンピュータに、生体信号測定装置により測定される複数種類の生体情報の複合波からなる体表脈波の時系列波形から、脈拍成分を主体とする周波数帯域の時系列波形を基準波として抽出する基準波抽出手順と、前記体表脈波の時系列波形から、前記脈拍成分を主体とする周波数帯域を含む、より広域の所定の周波数帯域の時系列波形を強調波として抽出する強調波抽出手順と、前記基準波抽出手順の実行により得られた基準波のピーク出現時間を含む所定の時間範囲内における、前記強調波抽出手段の実行により得られた強調波のピーク出現時間を、脈拍成分の出現時間として特定し、特定された脈拍成分の出現時間の間隔を脈波間隔として求める脈波間隔演算手順とを実行させることを特徴とする。
前処理手順として、前記体表脈波の時系列波形を微分して脈拍成分の変動を強調する微分手順と、前記微分手順の実行より得られる微分波形を整流する整流手順とを実行させ、前記前処理手順の実行により得られる時系列波形を用いて前記基準波抽出手順又は前記強調波抽出手順を実行させることが好ましい。
前記微分手順は、前記体表脈波の時系列波形に1階微分を施す手順であり、前記整流手順は、前記微分手順の実行により得られる1階微分波形を半波整流する手順であることが好ましい。
前記脈波間隔演算手順の実行により得られる脈波間隔を用いて自律神経活動の評価を行う解析手順をさらに実行させることが好ましい。
【0013】
また、本発明のコンピュータ読み取り可能の記録媒体は、前記コンピュータプログラムを記録したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、生体信号測定装置により測定される体表脈波の時系列波形から、脈拍成分を主体とする周波数帯域の時系列波形を基準波として抽出する基準波抽出手段と、この基準波の抽出とは別途に、体表脈波の時系列波形から、脈拍成分を主体とする周波数帯域とそれよりも高周波の周波数成分を含む、より広域の周波数帯域の時系列波形を強調波として抽出する強調波抽出手段とを有している。基準波抽出手段により抽出される基準波は、脈拍成分を主体とする低周波の帯域幅でフィルタリングされたものであり、波形がなだらかになりそのピークが脈拍成分の出現時間と必ず一致するとは限らない。そのため、基準波のピーク間隔を求めてもそれが脈波間隔を正確に抽出したものとは言えない場合がある。しかしながら、本発明は、基準波の周波数帯域よりも高周波の周波数成分を含んだより広域の周波数帯域でフィルタリングした強調波を求める手段を併有し、基準波よりも尖鋭化した形で出現する強調波のピーク出現時間と基準波のピーク出現時間との両方を考慮して脈拍成分の出現時間を特定する。そのため、脈拍成分の出現時間から求められる脈波間隔の特定精度を高めることができ、かつ、脈波間隔の特定精度が向上するため、それを用いた自律神経活動評価の精度も高くなる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に示した本発明の実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明するが、まず、本発明の一の実施形態に係る脈波測定装置100及び自律神経活動評価装置100Aの分析対象である体表脈波(本実施形態では、体幹の背部から採取される体表脈波)の検出に適する生体信号測定装置1の概略を
図1〜
図3に基づいて説明する。なお、脈波測定装置100及び自律神経活動評価装置100Aの分析対象である体表脈波を採取する生体信号測定装置は
図1〜
図3に限定されるものではないことはもちろんであるが、
図1〜
図3に示したものによれば、寝具に付設することにより仰臥状態で非拘束で体表脈波を採取でき、寝たきりの人等からの生体情報の採取に適している。また、睡眠に関する分析の用途にも適している。さらに、座席構造の背部に付設することにより着座しただけで生体情報を得ることができるため、リラックスした状態での生体情報を得ることができると共に、運転などの着座姿勢での作業中の生体情報を得ることができる点でも好ましい。
【0017】
具体的には、本実施形態で用いた生体信号測定装置1は、
図2及び
図3に示したように、コアパッド11、スペーサパッド12、センサ13、フロントフィルム14、リアフィルム15を有して構成される。
【0018】
コアパッド11は、例えば板状に成形され、脊柱に対応する部位を挟んで対称位置に、縦長の貫通孔11a,11aが2つ形成されている。コアパッド11は、板状に形成されたポリプロピレンのビーズ発泡体から構成することが好ましい。コアパッド11をビーズ発泡体から構成する場合、発泡倍率は25〜50倍の範囲で、厚さがビーズの平均直径以下に形成されていることが好ましい。例えば、30倍発泡のビーズの平均直径が4〜6mm程度の場合では、コアパッド11の厚さは3〜5mm程度にスライスカットする。
【0019】
スペーサパッド12は、コアパッド11の貫通孔11a,11a内に装填される。スペーサパッド12は、三次元立体編物から形成することが好ましい。三次元立体編物は、例えば、特開2002−331603号公報、特開2003−182427号公報等に開示されているように、互いに離間して配置された一対のグランド編地と、該一対のグランド編地間を往復して両者を結合する多数の連結糸とを有する立体的な三次元構造となった編地である。三次元立体編物が人の背によって押圧されることにより、三次元立体編物の連結糸が圧縮され、連結糸に張力が生じ、生体信号に伴う人の筋肉を介した体表面の振動が伝播される。また、コアパッド11よりも、三次元立体編物からなるスペーサパッド12の方が厚いものを用いることが好ましい。これにより、フロントフィルム14及びリアフィルム15の周縁部を貫通孔11a,11aの周縁部に貼着すると、三次元立体編物からなるスペーサパッド12が厚み方向に押圧されるため、フロントフィルム14及びリアフィルム15の反力による張力が発生し、該フロントフィルム14及びリアフィルム15に固体振動(膜振動)が生じやすくなる。一方、三次元立体編物からなるスペーサパッド12にも予備圧縮が生じ、三次元立体編物の厚み方向の形態を保持する連結糸にも反力による張力が生じて弦振動が生じやすくなる。
【0020】
センサ13は、上記したフロントフィルム14及びリアフィルム15を積層する前に、いずれか一方のスペーサパッド12に固着して配設される。スペーサパッド12を構成する三次元立体編物は上記したように一対のグランド編地と連結糸とから構成されるが、各連結糸の弦振動がグランド編地との節点を介してフロントフィルム14及びリアフィルム15に伝達されるため、センサ13はスペーサパッド12の表面(グランド編地の表面)に固着することが好ましい。センサ13としては、マイクロフォンセンサ、中でも、コンデンサ型マイクロフォンセンサを用いることが好ましい。
【0021】
次に、本実施形態の脈波測定装置100及び自律神経活動評価装置100Aの構成について
図4に基づいて説明する。脈波測定装置100は、基準波抽出手段110、強調波抽出手段120及び脈波間隔演算手段130を有している。自律神経活動評価装置100Aは、脈波測定装置100を構成する基準波抽出手段110、強調波抽出手段120及び脈波間隔演算手段130に加えて、自律神経活動の評価を行う解析手段140を有している。脈波測定装置100及び自律神経活動評価装置100Aはいずれもコンピュータから構成され、コンピュータにインストールされるコンピュータプログラムによって脈波測定装置100として機能し、あるいは、自律神経活動評価装置100Aとして機能する。脈波測定装置100及び自律神経活動評価装置100Aは物理的に一つのコンピュータで構成してもよいし、それぞれ別途のコンピュータから専用の装置として構成してもよい。なお、コンピュータとしては、デスクトップ型やノート型のPCのほか、タブレットやスマートフォンなどの携帯型端末あるいはウェアラブル端末などいずれのタイプであってもよいことはもちろんである。
【0022】
また、コンピュータプログラムは、コンピュータに基準波抽出手順、強調波抽出手順及び脈波間隔演算手順を実行させることで、コンピュータを上記の基準波抽出手段110、強調波抽出手段120及び脈波間隔演算手段130として機能させ、脈波測定装置100としての機能を実現させ、さらに、解析手順を実行させることで上記の解析手段140として機能させ、自律神経活動評価装置100Aとしての機能を実現させる。なお、コンピュータプログラムは、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO(光磁気ディスク)、DVD−ROM、メモリカードなどの記録媒体へ記憶させて提供することもできるし、通信回線を通じて伝送することも可能である。
【0023】
基準波抽出手段110は、生体信号測定装置1により測定される上記の体表脈波の時系列波形から、脈拍成分を主体とする周波数帯域の時系列波形を基準波として抽出する(
図5(d)参照)。体表脈波、本実施形態では背部から検出される体表脈波には、脈拍成分のほか、呼吸成分、体動成分などの複数種類の生体情報を含んでいる。本実施形態の脈波測定装置100は、心電図の各R波間の時間(RR間隔)に相当する脈波間隔を測定するものであるため、脈波間隔を直接的に抽出すべく、脈拍成分を多く含む周波数帯域の時系列波形を抽出し、これを基準となる波形(基準波)としたものである。
【0024】
脈拍成分を主体とする周波数帯域としては、下限周波数を0.3〜0.8Hzの範囲のいずれかの値で設定し、上限周波数を1〜2Hzの範囲のいずれかの値で設定することが好ましい。安静状態の人の脈拍数は個人差がありまた年齢等によっても異なるが、1分間で60回前後が標準的であるとされているため、0.5〜1.5Hzの周波数帯域を有するバンドパスフィルタで抽出することが好ましい。
【0025】
強調波抽出手段120は、生体信号測定装置1により測定される体表脈波の時系列波形から、上記の基準波抽出手段110とは別途に、脈拍成分を主体とする周波数帯域(上記の例では0.5〜1.5Hz)とそれよりも高周波の周波数成分を含む、より広域の周波数帯域の時系列波形を抽出し、この時系列波形を、脈拍の生じたタイミングを強調する波形(強調波)として用いる(
図5(e)参照)。基準波抽出手段110により抽出した基準波は、脈拍成分を主体とする周波数帯域(上記の例では0.5〜1.5Hz)を直接的にターゲットとしたものであり、低周波の狭い周波数帯域であるため、波形がなだらかな近似的な曲線として出力され、波形がなまる傾向にある(
図5(d)及び
図6参照)。基準波が、脈拍成分を主体とした周波数帯域を抜き出した波形であったとしても、ピーク付近がなだらかな近似的な曲線となってしまうため、その中のピークが、真の脈拍成分の出現時間と必ずしも一致しているとは限らない。これに対し、脈拍成分を主体とする周波数帯域(上記の例では0.5〜1.5Hz)よりも高周波の周波数成分を含んだより広域の周波数帯域によってフィルタリングした強調波は、脈拍成分以外の生体情報も含むが、基準波と比較して、各生体情報に対応する波形が尖鋭化して出現する(
図5(e)及び
図6参照)。但し、複数の生体情報を含んでいるため、逆にいずれのピークが脈拍成分であるか判別し難い場合がある。
【0026】
そこで、本実施形態では、生体信号測定装置1により測定される体表脈波の時系列波形から、上記のようにそれぞれ別途に、基準波抽出手段110によって上記の基準波を抽出し、強調波抽出手段120によって上記の強調波を抽出して、脈波間隔演算手段130によって両者を突き合わせることで、より正確な脈拍成分の出現時間を特定するものである(
図6参照)。ここで、強調波抽出手段120において設定する周波数帯域は、上限周波数15Hzまでの範囲において、上記の脈拍成分を主体とする周波数帯域(上記の例では0.5〜1.5Hz)及びそれよりも高周波の周波数成分を含む、より広域に設定されたものとすることが好ましい。上限周波数15Hzを超える場合には、ノイズの含有率が高くなる。そこで、例えば0.5〜3Hz、0.5〜6Hz、0.5〜9Hz、0.5〜12Hz、0.5〜15Hzといった範囲のバンドパスフィルタで強調波を抽出することが好ましい。この強調波の好ましい周波数帯域は、年齢、性別等により感度の違いがあるため、脈波測定装置100において個人毎に調整可能な設定項目として設けることも可能である。
【0027】
脈波間隔演算手段130は、脈拍成分の出現時間を特定し、脈波間隔を求める。
図6を参照すると、まず、基準波抽出手段110により得られた基準波のピーク(基準波ピーク)を特定する。次に、特定した基準波ピークの出現時間を含む所定の時間範囲内において、強調波抽出手段120により得られた強調波のピーク(強調波ピーク)の出現時間を照らし合わせる。そして、基準波ピークを含む所定の時間範囲内に存在する強調波ピークの出現時間を、脈拍成分の出現時間として特定する。さらに、特定された各脈拍成分の出現時間同士の間隔を脈波間隔として求める。ここで、基準波ピークの出現時間を含む所定の時間範囲は広すぎると、その範囲に含まれる強調波ピークの数が多くなりすぎ特定し難くなるため、基準波ピークを中心とした前後数十ms(例えば10ms)で設定することが好ましい。個人毎にその範囲を設定可能な構成とすることも可能である。また、基準波ピークを中心とした所定の時間範囲内に相当する強調波ピークが複数存在する場合には、その範囲内で最も振幅が高いものを脈拍成分として選択することが好ましい。
【0028】
ここで、上記した基準波抽出手段110及び強調波抽出手段120で処理される体表脈波の時系列波形は、生体信号測定装置1から検出した後、コンピュータプログラムによって前処理手順を実行させることにより前処理手段150を施したものであることが好ましい。本実施形態の前処理手段150は、微分手順の実行による微分手段151、整流手順の実行による整流手段152を施すものである。微分手段151は、生体信号測定装置1から得られた体表脈波の時系列波形(
図5(a)の計測波形)を微分して脈拍成分の変動を強調する手段であり、好ましくは1階微分が用いられ、
図5(a)の計測波形を1階微分した波形が
図5(b)に示した波形である。整流手段152は、微分手段151により得られた微分波形を整流するもので、好ましくは半波整流による整流手段が用いられる。
図5(c)が
図5(b)の1階微分波形を半波整流した波形である。1階微分波形を半波整流することにより、微分波形の負成分に現れる脈拍の反動成分などの影響を除去できる。
【0029】
解析手段140は、脈波間隔演算手段130により得られた心電図のRR間隔に相当する脈波間隔を用いて自律神経活動の評価を行う。解析手段140は、脈波間隔を用いて例えば最大エントロピー法によりスペクトル解析するものであり、典型的には、LF(0.04〜0.15Hz)、HF(0.15〜0.40Hz)、LF/HFのパワースペクトル密度を求めてこれらを自律神経活動の指標として出力する手段とすることができる。LFが交感神経及び副交感神経活動を、HFが副交感神経活動を、LF/HFが交感神経活動を反映するからである。
【0030】
本実施形態によれば、生体信号測定装置1から得られる
図5(a)に示した体表脈波(計測波形)、好ましくは、微分手段151及び整流手段152を含む前処理手段150によって
図5(b)の1階微分波形、
図5(c)の半波整流波形となるように前処理した時系列波形を、基準波抽出手段110及び強調波抽出手段120によって処理し、
図5(d)に示した基準波及び
図5(e)に示した強調波を求める。そして、
図6に示したように、脈波間隔演算手段130によって、基準波ピークと強調波ピークを求め、さらに両者の一致する時間を特定し、それを脈拍成分の出現時間として特定する。脈拍成分を主体とする周波数帯域でフィルタリングして求められる基準波のみからでは正確な脈拍成分の出現時間を判定し難いが、本実施形態によれば、強調波を組み合わせることで脈拍成分の出現時間の特定精度、すなわち脈波測定装置100の出力結果である脈波間隔の精度が向上する。脈波間隔の演算精度が高まるため、解析手段140による自律神経活動の評価指標の精度、すなわち自律神経活動評価装置100Aの出力結果である評価指標の精度も向上する。
【0031】
以下、強調波を求めるための好ましい周波数帯域に関して行った実験と自律神経活動評価を行った実験について説明する。
【0032】
1.実験条件
(1)強調波のバンドパスフィルタの帯域検証実験
強調波抽出手段120においてバンドパスフィルタを設定して抽出する周波数帯域(バンド幅)の適切な帯域を検証する実験を行った。実験は、被験者として健常男性7名(年齢標準偏差:23.0±0.8歳)を対象に行った。精度検証のため、生体情報モニタ(BP-608 Evolution II CS,OMRON COLIN Co.)を用いて胸部3点誘導法で心電図を同時計測した。計測信号はサンプリング周波数1kHzでAD変換器(CSI−3601169,Interface)を介してPCに保存した。適切なバンドパスフィルタ帯域を検証するため、強調波の帯域制限条件を0.5〜3Hz、0.5〜6Hz、0.5〜9Hz、0.5〜12Hz、0.5〜15Hzの5条件で行い、それぞれの波形から脈波間隔を抽出した。各条件で抽出された脈波間隔及び各脈波間隔から求めた自律神経活動変化と、心電
図RR間隔及び心電
図RR間隔から求めた自律神経活動変化との相関係数、2乗平均誤差を算出して比較した。なお、統計処理はTukey法による多重比較を行い、有意水準は5%とした。
【0033】
(2)短期睡眠時自律神経活動評価実験
被験者をマットレス上に仰臥位姿勢として睡眠実験を行った。一般的に、脳波の特徴により睡眠は6段階に分類できることが報告されており、睡眠導入から時間の経過とともにノンレム睡眠とレム睡眠が交互に起こり、ノンレム睡眠時には睡眠段階がStage1からStage4 へ変化する。ノンレム睡眠からレム睡眠を介し再びノンレム睡眠に回帰するまでのサイクルが2回以内においては、ノンレム睡眠時の睡眠強度が深まるごとに副交感神経が亢進し交感神経が抑制されることが知られている。そこで、睡眠第1周期のStageWからStage2までの睡眠段階向上に伴う自律神経活動変化の評価を行なった。本実験では被験者に
図1〜
図3に示した生体信号測定装置1を埋設したマットレス上に仰臥位で寝かせ、被験者の背部から体表脈波を計測した。本実験において、自律神経活動評価装置100Aを構成する解析手段140としては、最大エントロピー法による心拍変動解析ソフト(MemCalc/Win,GMS Co.)を用いた。変動解析条件は窓幅25秒、オーバーラップ24秒とし、1秒ごとに自律神経活動変化を算出し窓終了時間にて評価した。被験者は健常な男性4名(年齢標準偏差:20.5±1.8歳)であった。睡眠状態の判定のため、多チャネルテレメータ(WEB−7000,Nihon Kohden)を用いて国際10−20電極配置法に基づくFp
1から脳波の同時計測を行なった。計測信号はサンプリング周波数1kHzでAD変換器(TNS-6851B, Interface)を介してPCに保存した。
【0034】
睡眠段階の判定は計測した脳波から30秒の判定区間ごとに脳波の特徴を確認し、StageWからStage2までの睡眠段階推移を評価した。睡眠段階の向上に伴う自律神経系の活動変化を評価するため、HF及びLF/HFの各睡眠段階の平均値をStageW時の平均値で正規化して比較した。統計処理はTukey法による多重比較を行い、有意水準は5%とした。
【0035】
2.実験結果・考察
(1)強調波のバンドパスフィルタの帯域検証実験
図7(a)〜(j)は、生体信号測定装置1によって計測された体表脈波及びその処理波形であり、7名の被験者のうちの一人(被験者A)のデータである。このうち、
図7(d)が基準波であり、
図7(f)〜(j)は、それぞれ、生体信号測定装置1からの原波形(
図7(a))を1階微分して1階微分波形とした後(
図7(b))、さらに半波整流波(
図7(c))とし、その半波整流波に対して、0.5〜3Hz、0.5〜6Hz、0.5〜9Hz、0.5〜12Hz、0.5〜15Hzの各周波数帯域でバンドパスフィルタをかけて求めた強調波の時系列波形である。
【0036】
そして、
図7(f)〜(j)のそれぞれについて、基準波(
図7(d))のピーク出現時間を基準として、その前後10msの時間範囲内におけるピークを突き合わせ、上記したように脈波間隔演算手段130によって脈拍成分の出現時間を特定し、それから求られる隣接するピーク間の時間に相当する脈波間隔を求めた。
【0037】
図8(a)は心電
図RR間隔から求めたLF、HF、LF/HFの時系列変化であり、
図8(b)〜(f)は、強調波のバンドパスフィルタを0.5〜3Hz(
図8(b))、0.5〜6Hz(
図8(c))、0.5〜9Hz(
図8(d))、0.5〜12Hz(
図8(e))、0.5〜15Hz(
図8(f))として求めたLF、HF、LF/HFの時系列変化である。これらを比較すると強調波のバンドパスフィルタの周波数帯域がいずれの場合であっても、心電
図RR間隔から求めた時系列変化とほぼ同様の傾向を示している。
【0038】
図9(a),(b)は、心電
図RR間隔と、上記の5種のバンドパスフィルタで帯域制限をそれぞれ適用して本実施形態の脈波測定装置100の脈波間隔演算手段130により得られる脈波間隔との相関係数(
図9(a))と二乗平均(
図9(b))を示し、
図9(c),(d)は、心電
図RR間隔から求めたLFと、上記の5種のバンドパスフィルタで帯域制限をそれぞれ適用して得られた上記脈波間隔演算手段130の脈波間隔を用いて本実施形態の自律神経活動評価装置100Aから求めたLFの値との相関係数(
図9(c))と二乗平均(
図9(d))を示し、
図9(e),(f)は、心電
図RR間隔から求めたHFと、上記の5種のバンドパスフィルタで帯域制限をそれぞれ適用して得られた上記脈波間隔演算手段130の脈波間隔を用いて本実施形態の自律神経活動評価装置100Aから求めたHFの値との相関係数(
図9(e))と二乗平均(
図9(f))を示し、
図9(g),(h)は、心電
図RR間隔から求めたLF/HFと、上記の5種のバンドパスフィルタで帯域制限をそれぞれ適用して得られた上記脈波間隔演算手段130の脈波間隔を用いて本実施形態の自律神経活動評価装置100Aから求めたLF/HFの値との相関係数(
図9(g))と二乗平均(
図9(h))を示した図である。
【0039】
図9から、上記の5種のバンドパスフィルタを適用した各脈波間隔、各LF、各HF及び各LF/HFのうち、いずれか1つのバンドパスフィルタを施したものが、他の4種のバンドパスフィルタを施したもの全てに対して有意な差を示すものはなかった。但し、
図9(c)のLF及び
図9(g)のLF/HFの相関係数に注目すると、0.5〜9Hzと0.5〜3Hzとの間に有意な差を確認でき(すべての相関係数:p<0.05)、二乗平均誤差では
図9(b)の脈波間隔及び
図9(f)のHFにおいて0.5〜9Hzと0.5〜3Hzとの間に有意な差を確認できた(脈波間隔:p<0.01、HF:p<0.05)。
【0040】
表1にバンドパスフィルタの周波数帯域を0.5〜9Hzで設定して本実施形態の脈波測定装置100により求めた脈波間隔及び自律神経活動評価装置100Aから得られたLF、HF及びLF/HFと、心電
図RR間隔及び心電
図RR間隔から求めたLF、HF及びLF/HFとの全被験者の相関係数を示す。
【表1】
【0041】
表1より、全ての指標において全被験者で0.9以上の相関を確認した。このことから、上記実験例で設定した5種のバンドパスフィルタの中では、0.5〜9Hzが強調波抽出手段120で用いる周波数帯域として最も汎用性が高いと言える。但し、被験者によって脈波の周期が異なることから、被験者の条件(年齢、性別など)を考慮して、上記のように、個人毎に強調波抽出手段120で用いる周波数帯域を設定可能とすることが好ましい。
【0042】
以上より、本実施形態の脈波測定装置100により得られる脈波間隔は、心電RR間隔と同等の生体情報として抽出でき、それを用いた自律神経活動評価装置100Aの出力も、心電RR間隔を用いた自律神経活動の評価結果と同等のものとして扱うことができる。
【0043】
(2)短期睡眠時自律神経活動評価実験
図10は、被験者Aから計測された脳波信号(
図10(a))、脳波から算出したスペクトル信号(
図10(b))、生体信号測定装置1から計測された原波形(
図10(c))、本実施形態の脈波測定装置100により得られた脈波間隔の時系列波形(
図10(d))、本実施形態の自律神経活動評価装置100Aから得られたLFの時系列波形(
図10(e))、HFの時系列波形(
図10(f))及びLF/HFの時系列波形(
図10(g))を示す。
図10(c)〜(g)に示した斜線を付した範囲のうち、約270秒から約580秒までの間が睡眠段階のStage1であり、約580秒以降が睡眠段階のStage2である。
図10(b)より、脳波は、0秒から減衰し690秒からは12〜14Hzのパワースペクトルが高くなっている。これは、睡眠段階のStageW、Stage1、Stage2で観察されるα波や紡錘波の典型的な特徴であり、このことから、被験者Aの睡眠深度が時間と共に徐々に深くなっていることが確認される。そして、睡眠段階の向上に伴い、
図10(f)に示した副交感神経活動を反映するHFが増加傾向を示している。
【0044】
図11は、各睡眠段階でのHF及びLF/HFの正規化した平均値を示す。
図11(a)より、正規化したHFはStage2と他の睡眠段階との間で有意な差を示した(いずれもp<0.01)。
図11(b)のLF/HFは各睡眠段階の間に有意な差は確認できなかった。これは、被験者Aが、十分な安静時間をとり実験を開始したため、交感神経活動に関しては、覚醒時と睡眠時で顕著な差が見られなかったものと推定される。
【0045】
一方、脳波、生体信号測定装置1によって検出された体表脈波、脈波測定装置100により得られた脈波間隔の各波形にはスパイクが確認された。これは実験時における被験者Aの体動によるものである。なお、LF、HF、LF/HFの各波形では、スパイクの影響を除外する外れ値除去処理を行っているため、一部に計算結果が出力されていない。LF/HFに関しては、上記のように各睡眠段階の間に有意な差が見られないものの、
図10(g)を見ると、Stage1の方がStage2よりも振幅が大きい傾向にあり、Stage2の方が振幅が小さくて安定している傾向にある。これはStage1において、体動により一時的に交感神経が亢進したためと考えられる。
【0046】
これらのことから、本実施形態の自律神経活動評価装置100Aから得られるHF、LF/HFの時系列波形を用いることで、自律神経活動の評価、睡眠状態の評価を行うことが可能であることがわかる。