【実施例】
【0050】
以下、本発明について、実施例及び比較例を挙げて、より具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、部及び%は、特に断りがない限り、重量基準である。
【0051】
以下に各種物性の測定法を示す。
(1)重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)
ブロック共重合体及びブロック共重合体水素化物の分子量は、THFを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による標準ポリスチレン換算値として38℃において測定した。測定装置としては、東ソー社製、HLC8020GPCを用いた。
(2)水素化率
ブロック共重合体水素化物[D]の水素化率は、前駆体であるブロック共重合体[C]の芳香族ビニル化合物由来の構造単位に含まれる芳香環の炭素−炭素不飽和結合及び鎖状共役ジエン由来の構造単位に含まれる炭素−炭素不飽和結合の合計に対して水素化された炭素−炭素結合の割合である。
ブロック共重合体水素化物[D]の水素化率は、
1H−NMRスペクトル又はGPC分析により算出される。
水素化率99%以下の領域は、
1H−NMRスペクトルを測定して算出し、99%を超える領域は、GPC分析により、UV検出器とRI検出器によるピーク面積の比率から算出した。
【0052】
(3)成形品の濁り
変性ブロック共重合体水素化物[E]のペレットを押出し成形して、厚さ0.76mm、幅230mmの片面に梨地エンボスパターンが形成されたシートを成形した。
このシートから試験片を切り出し、厚さ1.2mm、幅50mm、長さ50mmの2枚の白板ガラスの間に挟み積層した。この積層物を、厚さ75μmのポリプロピレン製の袋に入れ、密封パック器(BH−951、パナソニック社製)を使用して、袋内を脱気しながら開口部をヒートシールして積層物を密封包装した。その後、密封包装した積層物をオートクレーブに入れて、温度130℃、圧力0.8MPaで30分間処理して、合せガラス試験片[S](ガラス/変性ブロック共重合体水素化物[E]/ガラス)を作製した。
この合せガラス試験片[S]のヘイズをヘイズメータ(日本電色工業社製、NDH2000)により測定した。成形品の濁りは、ヘイズの値が、1%以下の場合を「○(良好)」、1%を超えている場合を「×(不良)」と評価した。
【0053】
(4)ガラスとの接着性
変性ブロック共重合体水素化物[E]のペレットを押出し成形して、厚さ0.38mm、幅230mmの片面に梨地エンボスパターンが形成されたシートを成形した。
このシートから試験片を切り出し、シート端部に非接着部位を設けて厚さ2mm、幅25mm、長さ65mmのソーダライムガラス板の上にエンボス面をガラス面に接触するように重ね、上記(3)成形品の濁りの項に記載したのと同様に、密封包装した後オートクレーブを使用して貼り合せ、剥離試験用試験片[T]を作成した。
試験片[T]のシート面に15mm幅の切り目を入れ、オートグラフ(島津製作所製、AGS−X)を使用して、シートの非接着部位から、剥離速度50mm/分で、180度剥離試験を行い、剥離強度を測定した。接着性は、剥離強度が15N/cm以上の場合を「○(良好)」、15N/cm未満の場合を「×(不良)」と評価した。
【0054】
[参考例1]
ブロック共重合体水素化物[D1]の作製
内部が充分に窒素置換された、攪拌装置を備えた反応器に、脱水シクロヘキサン550部、脱水スチレン25.0部、及び、n−ジブチルエーテル0.475部を入れた。全容を60℃で攪拌しながら、n−ブチルリチウム(15%シクロヘキサン溶液)0.83部を加えて重合を開始させ、60℃で攪拌しながら、さらに60分反応させた。反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、この時点で重合転化率は99.5%であった。
その後、反応液に脱水イソプレン50.0部を加え、そのまま60℃で30分攪拌を続けた。反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、この時点で重合転化率は99%であった。
その後さらに、反応液に脱水スチレンを25.0部加え、全容を60℃で60分攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、この時点での重合転化率はほぼ100%であった。
ここでイソプロピルアルコール0.5部を加えて反応を停止させた。得られたブロック共重合体[C1]の重量平均分子量(Mw)は49,600、分子量分布(Mw/Mn)は1.04、wA:wB=50:50であった。
【0055】
次に、上記重合体溶液を、攪拌装置を備えた耐圧反応器に移送し、水素化触媒として珪藻土担持型ニッケル触媒(日揮触媒化成社製、製品名「E22U」、ニッケル担持量60%)4.0部及び脱水シクロヘキサン100部を添加して混合した。反応器内部を水素ガスで置換し、更に溶液を攪拌しながら水素を供給し、温度170℃、圧力4.5MPaにて6時間水素化反応を行った。
水素化反応により得られたブロック共重合体水素化物[D1]の重量平均分子量(Mw)は52,500、分子量分布(Mw/Mn)は1.04であった。
【0056】
水素化反応終了後、反応液を濾過して水素化触媒を除去した後、濾液にフェノ−ル系酸化防止剤であるペンタエリスリチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](コーヨ化学研究所社製、Songnox1010)0.05重量部を溶解したキシレン溶液1.0部を添加して溶解させた。
次いで、上記溶液を、ゼータプラス(登録商標)フィルター30H(キュノ社製、孔径0.5〜1μm)にて濾過し、更に別の金属ファイバー製フィルター(ニチダイ社製、孔径0.4μm)にて順次濾過して微小な固形分を除去した後、円筒型濃縮乾燥器(日立製作所社製、コントロ)を用いて、温度260℃、圧力0.001MPa以下で、溶液から、溶媒であるシクロヘキサン、キシレン及びその他の揮発成分を除去し、濃縮乾燥器に直結したダイから溶融状態でストランド状に押し出し、冷却後、ペレタイザーでカットして、ブロック共重合体水素化物[D1]のペレット95部を得た。
得られたブロック共重合体水素化物[D1]の重量平均分子量(Mw)は51,900、分子量分布(Mw/Mn)は1.05、水素化率はほぼ100%であった。
【0057】
[参考例2]
ブロック共重合体水素化物[D2]の作製
重合段階で、モノマーとして、スチレン20.0部、n−ブチルリチウム(15%シクロヘキサン溶液)0.81部、イソプレン60.0部及びスチレン20.0部をこの順に反応系に添加して重合反応を行う以外は、参考例1と同様にして、ブロック共重合体水素化物[D2]のペレット93部を得た。
得られたブロック共重合体水素化物[D2]の重量平均分子量(Mw)は53,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.05、水素化率はほぼ100%、wA:wB=40:60であった。
【0058】
[実施例1]
(変性ブロック共重合体水素化物[E1]−1の製造)
参考例1で得たブロック共重合体水素化物[D1]のペレット100部に対して、ビニルトリメトキシシラン2.0部及びジ−t−ブチルパーオキサイド(日油社製、パーブチルD、半減期が1分となる温度:185.9℃)0.2部を添加し、ブレンダーで混合した。この混合物を、二軸押出機(東芝機械社製、TEM37B)を用いて、樹脂温度220℃で、滞留時間が約40秒となるように制御して連続的に混練した。
【0059】
混練した樹脂は、二軸押出機に取り付けたダイを通して、ダイ温度220℃で連続的に押出し、直径約2.2mmのストランド状にして、水槽中の温度30℃の水に浸漬して冷却固化した。固化したストランドは、ペレタイザーによりカッティングし、トリメトキシシリル基を有する変性ブロック共重合体水素化物[E1]−1のペレット97部を得た。
【0060】
(変性ブロック共重合体水素化物[E1]−1の分析)
得られた変性ブロック共重合体水素化物[E1]−1のペレットの表面のATR法によるIRスペクトルを、赤外分光装置(Thermo Fisher Scienthific社製、iS5)を使用して測定した。IRスペクトルには、1090cm
−1にSi−OCH
3基、825cm
−1と739cm
−1にSi−CH
2基に由来する新たな吸収帯が、ビニルトリメトキシシランのそれらの1075cm
−1、808cm
−1、及び766cm
−1と異なる位置に観察された。
【0061】
変性ブロック共重合体水素化物[E1]−1のペレット10部をシクロヘキサン100部に溶解させた後、このものを脱水したメタノール400部中に注いで変性ブロック共重合体水素化物[E1]−1を凝固させた。凝固物を濾取し、25℃で真空乾燥して変性ブロック共重合体水素化物[E1]−1のクラム9.5部を単離した。単離したクラムのFT−IRスペクトルでは、ペレットの表面のIRスペクトルと同様に、1090cm
−1、825cm
−1及び739cm
−1に新たな吸収帯が観察された。また、単離したクラムの
1H−NMRスペクトル(重クロロホルム中)では3.6ppmにメトキシ基のプロトンに基づく吸収帯が観察され、ピーク面積比からブロック共重合体水素化物[D1]の100部に対してビニルトリメトキシシラン1.8部が結合していることが確認された。
【0062】
(変性ブロック共重合体水素化物[E1]−1のシートの評価)
変性ブロック共重合体水素化物[E1]−1のペレットを、37mmφのスクリューを備えた二軸混練機を有するTダイ式フィルム溶融押出し成形機(Tダイ幅300mm)、キャストロール(梨地エンボスパターン付き)、ゴム製ニップロール及びシート引き取り装置を備えた押出しシート成形機を使用して、溶融樹脂温度200℃、Tダイ温度200℃、キャストロール温度80℃の成形条件にて押出し成形し、変性ブロック共重合体水素化物[E1]−1からなるシート[F1]−1(厚さ0.76mm、幅230mm)及びシート[F1]−2(厚さ0.38mm、幅230mm)を成形した。シート[F1]−1及びシート[F1]−2は、押出しシートの片面をニップロールでエンボスロールに押し当てることにより、エンボスパターンを転写し、ロール状に巻き取り回収した。
得られたシート[F1]−1、[F1]−2を使用して、それぞれのシートの濁り及びガラスとの接着性を評価した。評価結果は、両シートとも、濁りは「○」、接着性は「○」であった。これらの評価結果を表1に示した。
【0063】
[実施例2〜4]
(変性ブロック共重合体水素化物[E1]−2〜「E1」−4の製造及び成形品の評価)
製造条件の樹脂温度を190〜230℃、混練時間を20〜300秒、押出し時のダイ温度を190〜230℃、冷却水の温度を60℃に変え、表1に示した組合わせの条件とする以外は、実施例1と同様にして、ブロック共重合体水素化物[D1]、ビニルトリメトキシシラン及びジ−t−ブチルパーオキサイド混練して、変性ブロック共重合体水素化物[E1]−2〜[E1]−4を製造した。
得られた変性ブロック共重合体水素化物[E1]−2〜[E1]−4について、実施例1と同様にしてシートを成形し、成形品の濁り及びガラスとの接着性を評価合した。評価結果を表1にまとめて示した。
【0064】
[比較例1〜5]
(変性ブロック共重合体水素化物[E1]−5〜「E1」−9の製造及び成形品の評価)
製造条件の樹脂温度を190〜240℃、混練時間を20〜300秒、押出し時のダイ温度を190〜240℃、冷却水の温度を20〜70℃に変え、表1に示した組合わせの条件とする以外は、実施例1と同様にして、ブロック共重合体水素化物[D1]、ビニルトリメトキシシラン及びジ−t−ブチルパーオキサイドを混練して、変性ブロック共重合体水素化物[E1]−5〜[E1]−9を製造した。
得られた変性ブロック共重合体水素化物[E1]−5〜「E1」−9のペレット表面のATR法によるIRスペクトルには、1030cm
−1と1055cm
−1にSi−O―Si基に由来する新たな吸収帯が、ビニルトリメトキシシランのIRスペクトルとは異なる位置に観察された。
得られた変性ブロック共重合体水素化物[E1]−5〜[E1]−9について、実施例1と同様にしてシートを成形し、成形品の濁り及びガラスとの接着性を評価合した。評価結果を表1にまとめて示した。
【0065】
【0066】
[実施例5]
(変性ブロック共重合体水素化物の製造)
参考例2で得たブロック共重合体水素化物[D2]のペレット100部に対して、ビニルトリメトキシシラン2.2部及び2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(日油社製、パーヘキサ25B、半減期が1分となる温度:179.8℃)0.2部を添加し、ブレンダーで混合した。この混合物を、実施例1と同様の二軸押出機を用いて、樹脂温度210℃で、滞留時間が約60秒となるように制御して連続的に混練した。
【0067】
混練した樹脂は、実施例1と同様にして、ダイ温度210℃、冷却水の温度30℃の条件でストランドを冷却固化し、カッティングしてトリメトキシシリル基を有する変性ブロック共重合体水素化物[E2]のペレット95部を得た。
【0068】
(変性ブロック共重合体水素化物[E2]の分析)
得られた変性ブロック共重合体水素化物[E2]を、実施例1と同様に分析した。ATR法によるIRスペクトルには、変性ブロック共重合体水素化物[E1]と同様に、1090cm
−1にSi−OCH
3基、825cm
−1と739cm
−1にSi−CH
2基に由来する新たな吸収帯が観察された。
また、溶解、凝固、単離した変性ブロック共重合体水素化物[E2]のFT−IRスペクトルでは、ペレットの表面のIRスペクトルと同様に、1090cm
−1、825cm
−1及び739cm
−1に新たな吸収帯が観察された。また、
1H−NMRスペクトルでは3.6ppmにメトキシ基のプロトンに基づく吸収帯が観察され、ピーク面積比からブロック共重合体水素化物[D2]の100部に対してビニルトリメトキシシラン1.9部が結合していることが確認された。
【0069】
(変性ブロック共重合体水素化物[E2]−1のシートの評価)
変性ブロック共重合体水素化物[E2]−1のペレットを使用する以外は、実施例1と同様にして、シート[F2]−1(厚さ0.76mm、幅230mm)及びシート[F2]−2(厚さ0.38mm、幅230mm)を成形した。
得られたシート[F2]−1、[F2]−2を使用して、それぞれのシートの濁り及びガラスとの接着性を評価した。評価結果は、両シートとも、濁りは「○」、接着性は「○」であった。これらの評価結果を表2に示した。
【0070】
[実施例6〜8]
(変性ブロック共重合体水素化物[E2]−2〜「E2」−4の製造及び成形品の評価)
製造条件の樹脂温度を190〜230℃、混練時間を20〜300秒、押出し時のダイ温度を190〜230℃、冷却水の温度を60℃に変え、表2に示した組合わせの条件とする以外は、実施例2と同様にして、ブロック共重合体水素化物[D2]、ビニルトリメトキシシラン及び 2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン混練して、変性ブロック共重合体水素化物[E2]−2〜[E2]−4を製造した。
得られた変性ブロック共重合体水素化物[E2]−2〜[E2]−4について、実施例1と同様にしてシートを成形し、成形品の濁り及びガラスとの接着性を評価合した。評価結果を表2にまとめて示した。
【0071】
[比較例6〜10]
(変性ブロック共重合体水素化物[E2]−5〜「E2」−9の製造及び成形品の評価)
製造条件の樹脂温度を190〜240℃、混練時間を20〜300秒、押出し時のダイ温度を190〜240℃、冷却水の温度を20〜70℃に変え、表2に示した組合わせの条件とする以外は、実施例1と同様にして、ブロック共重合体水素化物[D2]、ビニルトリメトキシシラン及び2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン混練して、変性ブロック共重合体水素化物[E2]−5〜[E2]−9を製造した。
得られた変性ブロック共重合体水素化物[E2]−5〜「E2」−9のペレット表面のATR法によるIRスペクトルには、1030cm
−1と1055cm
−1にSi−O―Si基に由来する新たな吸収帯が、ビニルトリメトキシシランのIRスペクトルとは異なる位置に観察された。
得られた変性ブロック共重合体水素化物[E2]−5〜[E2]−9について、実施例1と同様にしてシートを成形し、成形品の濁り及びガラスとの接着性を評価合した。評価結果を表2にまとめて示した。
【0072】
【0073】
実施例及び比較例の結果から以下のことがわかる。
本発明の製造方法の条件で、ブロック共重合体水素化物[D]とエチレン性不飽和シラン化合物とを有機過酸化物の存在下で反応させた場合、得られた変性ブロック共重合体水素化物[E]から成形されたシートは、透明で濁りが小さく、ガラスとの良好な接着性を示す(実施例1〜8)。
反応温度が本発明の製造方法の上限温度(230℃)を超えた場合、得られた変性ブロック共重合体水素化物[E]から成形されたシートは、濁りが大きく、ガラスとの接着性も低くなる(比較例4、9)。
冷却水の温度が本発明の製造方法の上限温度(60℃)を超えた場合、得られた変性ブロック共重合体水素化物[E]から成形されたシートは、濁りが大きくなる(比較例1〜10)。
冷却水の温度が本発明の製造方法の上限温度(60℃)を大きく超え、70℃となった場合は、得られた変性ブロック共重合体水素化物[E]から成形されたシートは、濁りだけでなく、ガラスとの接着性も不良となる(比較例2、5、7、10)。