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特開2016-94326単分散シングルウォールカーボンナノチューブを利用した透明導電フィルム及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-94326(P2016-94326A)
(43)【公開日】2016年5月26日
(54)【発明の名称】単分散シングルウォールカーボンナノチューブを利用した透明導電フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20160422BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20160422BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20160422BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20160422BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   C01B31/02 101F
   B82Y30/00
   B82Y40/00
   H01B5/14 A
   H01B13/00 503B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】書面
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-240555(P2014-240555)
(22)【出願日】2014年11月11日
(71)【出願人】
【識別番号】511163735
【氏名又は名称】ナノサミット株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】230117477
【弁護士】
【氏名又は名称】吉川 景司
(72)【発明者】
【氏名】古月 文志
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 弘太郎
【テーマコード(参考)】
4G146
5G307
5G323
【Fターム(参考)】
4G146AA12
4G146AB07
4G146AC20A
4G146AC20B
4G146AC30A
4G146AC30B
4G146AD22
4G146AD28
4G146BA04
4G146BA11
4G146BC32B
4G146CA11
4G146CA16
4G146CB17
5G307FA02
5G307FB04
5G323BA05
5G323BB01
5G323BB02
5G323BB06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】簡易な方法による、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNTs)フィルムにおけるカーボンナノチューブ(CNT)の形態を制御する新規な技術の提供。
【解決手段】分散剤を用いてSWCNTsを溶媒中に分散した溶液中におけるシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)の濃度を調整した後、PETフィルム上に塗布するという簡易な方法で、SWCNTsにおいて形成されるCNTの形態を制御することにより、透明度及び導電性の極めて高いSWCNTsを得ることができる。このようにして得られた透明導電SWCNTsは、容量性タッチスクリーン、LCDs、太陽電池等に適用することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散剤を用いてシングルウォールカーボンナノチューブを溶媒中に単分散させたシングルウォールカーボンナノチューブ溶液中におけるシングルウォールカーボンナノチューブの質量百分率濃度を調整することで、形成されるシングルウォールカーボンナノチューブの形態が制御されたカーボンナノチューブフィルム。
【請求項2】
請求項1記載のカーボンナノチューブの質量百分率濃度を0.001ないし0.02wt.%とする請求項1記載のカーボンナノチューブフィルム。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブフィルム上のカーボンナノチューブの接合密度を1μm当たり2.4ないし164接合箇所数とする、請求項1又は2記載のカーボンナノチューブフィルム。
【請求項4】
シート抵抗を286Ω/sqないし800kΩ/sqとする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブフィルム。
【請求項5】
透明度を95ないし98%とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブフィルム。
【請求項6】
分散剤を用いてシングルウォールカーボンナノチューブを溶媒中に単分散させたシングルウォールカーボンナノチューブ溶液中におけるシングルウォールカーボンナノチューブの質量百分率濃度を調整することで、形成されるシングルウォールカーボンナノチューブの形態を制御することを特徴とする、カーボンナノチューブフィルムの製造方法
【請求項7】
前記カーボンナノチューブの質量百分率濃度を0.001ないし0.02wt.%とする請求項6記載のカーボンナノチューブフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブフィルム上のカーボンナノチューブの接合密度を1μm当たり2.4ないし164接合箇所数とする、請求項6又は7記載のカーボンナノチューブフィルムの製造方法。
【請求項9】
シート抵抗を286Ω/sqないし800kΩ/sqとする、請求項6ないし8のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブフィルムの製造方法。
【請求項10】
透明度を95ないし98%とする、請求項6ないし8のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブフィルムの製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし5いずれか1項に記載の透明導電カーボンナノチューブフィルムを含む又は請求項6ないし10いずれか1項に記載の製造方法により製造されたカーボンナノチューブフィルムを含む、電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シングルウォールカーボンナノチューブを利用したカーボンナノチューブフィルム及びその製造方法並びにそれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、近年、様々な分野において利用が注目され、研究が盛んに行われている物質である。なかでも、シングルウォールカーボンナノチューブ(以下「SWCNTs」という。)は、その特異な光学的及び電気的な性質ゆえに、透明導電フィルムの分野において大きな注目を集めている。さらに、高純度のSWCNTsには商業的有用性が期待されており、柔軟性のある電子デバイス、例えば、容量性タッチスクリーン、LCDs、太陽電池等における、将来の応用可能性が期待されている。
【0003】
また、従来より用いられてきたインジウムスズ酸化物(ITO)には脆弱性の問題があったが、これに代わる魅力的な素材としてSWCNTsフィルムが注目されている。というのも、SWCNTsフィルムは、ITOと比べ、はるかに低温の温度条件で作ることができるからである。それゆえ、多種多様な柔軟性のある(以下「軟性」という。)フィルム、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)の上に、SWCNTsを設計することが可能であり、その高い互換性により、軟性フィルム上にSWCNTsを均一に広げることが容易となる。
【0004】
なお、先行研究により、π−πスタッキング効果及び疎水−疎水相互作用は、SWCNTsが軟性PETフィルムの表面上に強固に付着するための2つの主要因であることが確認されている(Hohnholz D et al.,Adv Funct Mater 2005;15(1):51−6及びRahy A et al.,Appl Surf Sci 2009;255(15):7084−9)。
【0005】
ところで、現在までに、透明導電SWCNTsフィルムの作製方法について、様々な方法が開発されてきた。例えば、濾過法(Shi Z et al.,Adv Funct Mater 2001;21(22):4358−63)、ディップキャスティング法(Manohar SK et al.,J Am Chem Soc 2004;126(14):4462−3及びYu X et al.,Surf Coat Technol 2008;202(10):2002−7)、スプレーコーティング法(Lee YH et al.,J Am Chem Soc 2007;129(25):7758−9及びTenent RC at al.,Adv mater 2009;21(31):3210−6)、スピンコーティング法(LeMieux MC et al.,Science 2008;321(5885):101−4及びMeitl MA et al.,Nano Lett 2004;4(9):1643−7)、ラングミュア−ブロジェット法(Li X et al.,J Am Chem Soc 2007;129(16):4890−1)、スライディング法(Li X et al.,Energy Environ Sci 2013;6(3):879−87)、ワイヤーバーコーティング法(メイヤーロッドコーティング法とも呼ばれる)(Moon Js et al.,Diamond Relat Mater 2005;14(11−12):1882−7、Kitano T et al.,Carbon 2009;47(15):3559−65、Dan B et al.,ACS Nano 2009;3(4):835−43、及びLi X et al.,ACS Nano 2012;6(2):1347−56)がある。
【0006】
これらの方法の中で、ワイヤーバーコーティング法は、唯一、大規模かつ継続的な事業の実現可能性を有する技術として知られている。ワイヤーバーコーティング法は、軟性物質上にインクを広げ塗布するために有用な方法であり、膜厚や形態的特徴について、インク濃度やコーティングを変化させることによって調節することができ、これにより最終製品の光電気的特性を最適化することができる(Kitano T et al.,Carbon 2009;47(15):3559−65)。
【0007】
しかしながら、溶液中におけるSWCNTsは、その自己組織化特性によって、容易に結晶性の塊を形成し、加工とパターニングを困難にする。そのため、SWCNTsを使用する際には、溶液中のSWCNTsを個々の管のレベルにまで分散させること(以下「単分散」という。)が望ましい。この点、本発明の発明者(以下「本発明者」という。)による従前の研究では、典型的な線形両イオン性界面活性剤である3−(N、N−ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホン酸塩を用いることによって、通常のSWCNTs塊を単分散させる、シンプルであるが強力な方法が考案されている(Fugetsu et al.,Chem Lett 2005;34(9):1218−9)。このほか、カーボンナノチューブの分散剤として、アニオン性アルキル両親媒性化合物、胆汁塩、多環芳香族炭化水素、DNA、ペプチド、及び多糖類等の多くの分散剤が用いられてきた。
【0008】
また、カーボンナノチューブを用いた透明導電フィルムの電気輸送特性等の特性は、主に、カーボンナノチューブネットワークにおけるカーボンナノチューブ同士の接合によるものであることが知られており、デバイス特性は、接触形状を制御することにより根本的に改善され、また、それは、管の導電性というよりも接触抵抗の調節により主に生じるものであると理解されている。そのため、透明導電フィルムの形態制御は、軟性電子デバイスの設計における重要な要素であると理解されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【非特許文献1】Heinze S et al.,Phys Rev Lett 2002;89(10):106801−4
【非特許文献2】Baughman RH et al.,Science 2002;297(5582):787−92
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、簡易な方法により、SWCNTsフィルムにおけるカーボンナノチューブの形態を制御する新規な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、試行錯誤の結果、分散剤を用いてSWCNTsを溶媒中に単分散させたSWCNTs溶液(以下「単分散SWCNTs溶液」という。)中のSWCNTsの質量百分率濃度を調整するという簡易な方法で、形成されるSWCNTsの形態を制御できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
ここで、本発明における「分散剤」とは、カーボンナノチューブを溶媒に分散させるための試薬を意味する。また、「分散」とは、溶解や懸濁を含む広義の分散を意味し、例えば、カーボンナノチューブが全て溶解している態様、全て懸濁している態様、一部が溶解し一部が懸濁している態様等を意味する。なお、本発明で用いることのできる分散剤は、線形両イオン性界面活性剤に限定されず、アニオン性アルキル両親媒性化合物、胆汁塩、多環芳香族炭化水素、DNA、ペプチド、及び多糖類等のいずれも用いることができる。
【0012】
本発明においてSWCNTsを分散させる「溶媒」とは、分散剤との組み合わせでSWCNTsを分散させ得るものであれば良く、例えば、水性溶媒(水、アルコール、これらの組み合わせ等)と非水性溶媒(油性溶媒。例えば、シリコンオイル、四塩化炭素、クロロホルム、トルエン、これらの組み合わせ等)のいずれでも良い。
【0013】
本発明における単分散SWCNTs溶液の軟性フィルムへのコーティング工程としては、濾過法、ディップキャスティング法、スプレーコーティング法、スピンコーティング法、ラングミュア−ブロジェット法、スライディング法、ワイヤーバーコーティング法(メイヤーロッドコーティング法)のいずれも用いることができる。
【0014】
本発明において「形成されるSWCNTsの形態」とは、ワイヤーバーコーティング法等の手法で軟性フィルム上に塗布されたSWCNTsが、乾燥工程や酸処理工程等を経て形成されるSWCNTsフィルムにおけるSWCNTsの形態を意味する。また、形態の「制御」とは、SWCNTsフィルムにおけるSWCNTsの管密度や接合密度を、所望の範囲に調整することを意味する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、単分散SWCNTs溶液中のSWCNTsの質量百分率濃度を調整するという簡易な方法によって、SWCNTsフィルム上のカーボンナノチューブの形態を制御し、透明度や導電性の極めて高いSWCNTsフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0017】
実施例1
<SWCNTsフィルムの特性の評価方法>
【0018】
SWCNTsフィルムの形態観察は、走査型電子顕微鏡(SEM,JSM−6390,JEOL Co.,Japan)を用いて行われた。
【0019】
原子間力顕微鏡(AFM)像は、Agilent Series 5500 AFM機器を用いて得た。試料は、単分散SWCNTs溶液を軟性PETフィルム上に投下することで調製された。像は、スキャニングレートを0.5Hzとしたタッピングモードを用いて得た。
【0020】
SWCNTsフィルムの透明度(光学的性質)は、C−570UV/VIS/NIR分光光度計(Jasco Co.,Tokyo,Japan)を用いて測定された。
【0021】
SWCNTsフィルムのシート抵抗(導電性)は、室温で、表面抵抗計(Loresta EP,Model MCP−T360,Mitsubishi Chemical Co.,Japan)を用いて試験された。
【0022】
SWCNTsフィルムの電気容量測定は、容量計(Agilent,U1731C)を用いて、交流電流、0.1Vの電圧及び周波数100kHzで行われた。
【0023】
<単分散SWCNTs溶液の調製>
分散剤としてグリココール酸塩2.0gをコール酸ナトリウム5.0gに混ぜたもの及びSWCNTs(平均の長さが30〜50μmのもの)2.0gを含む脱イオン化水1リットルを、80℃で30分間撹拌し、その後、できあがった懸濁液をビーズミルで30分間継続して撹拌した。なお、単分散SWCNTs溶液の分散レベルは、原子間力顕微鏡(AFM)によって評価された。
【0024】
<単分散SWCNTs溶液のコーティング工程>
単分散SWCNTsにおけるSWCNTsの質量百分率濃度を、0.001wt.%として調製したSWCNTs溶液1.5リットルを、ワイヤーロッドコーティング装置を用いて、PETフィルム上に塗布した。
【0025】
調製されたフィルムを、まず、自然状態で秒速0.4メートルの風速で10分間乾燥し、次に、凝集を防ぐために120℃で10分間乾燥させた。続いて、当該乾燥させたフィルムを、分散剤を除去するために、脱イオン化水で洗浄し、次いで、希釈硝酸(40wt.%)で洗浄した。
【0026】
フィルム形成剤として10wt.%の酢酸セルロースをカーボンナノチューブネットワークの表面に塗布した後、オーブンを用いて120℃で乾燥させた。カーボンナノチューブは、その後、テープでフィルムから剥がされ、最後に、様々な軟性フィルムの表面に移された後、恒久的に固定された。
【0027】
実施例2ないし4
実施例1と同様の方法で調製した単分散SWCNTs溶液のコーティング工程における単分散SWCNTs溶液中におけるSWCNTsの濃度を、それぞれ、0.003wt.%、0.01wt.%、0.02wt.%として、実施例1と同様の方法で単分散SWCNTs溶液のコーティング工程を行った。
【0028】
フィルム表面の特徴及びSWCNTsフィルムのカーボンナノチューブの分布状態を調べるために、実施例4のフィルム試料(286Ω/sqのシート抵抗及び92%の透明度を持つフィルム)を観察したものが図1である。図1で示すように、酸処理後、SWCNTsのオープンネットワークがPETフィルム上に均一な分布で作り出された。カーボンナノチューブが密に織り込まれることで、ネットワークにおいてカーボンナノチューブ同士の接合の密度がより高いものになっており、これが導電性及び透明度の改善に寄与している。なお、従前の報告では、透明導電フィルムは、表面が均一でない場合には、光の拡散により、それが非常に薄いにもかかわらず、高い光透過率を失うとされている(Xie SS et al.,Nano lett 2007;7(8):2307−11)。
【0029】
電気伝導性に関するカーボンナノチューブ同士の接合の段階的な変化ないし影響を調べるため、異なるカーボンナノチューブ密度を持つ実施例1ないし4のフィルム試料を観察したところ、図2のとおり、SWCNTsフィルムのカーボンナノチューブ同士の接合密度は、SWCNTs分散液の濃度の増加と共に、徐々に増加した。
【0030】
図3で示すように、カーボンナノチューブ同士の接合数に対応する密度の増加が劇的に得られた。実施例1ないし4のSWCNTsフィルムにおける、AFM像から推定されるカーボンナノチューブ同士の接合密度は、それぞれ、1μm当たり、2.4、26、90、及び164(接合箇所数)であった。一方、カーボンナノチューブの密度は、1μm当たり、それぞれ、1.3、7、16、及び30(管)であった。この結果を、表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
図2及び図3の顕微鏡写真は、連続して相互に接続するネットワークを形成するように絡み合うカーボンナノチューブの性質をもまた示している。このようなカーボンナノチューブは、軟性フィルム上に2次元定位で絡み合い、開放気孔を有する比較的密度の高い層を形成する。図2(c)及び図2(d)で見られるように、その表面域は、カーボンナノチューブ(その多くは真っ直ぐで変形していない)で密に覆われている。これらの像をよく見ると、管同士の接合部に位置する表面の特徴は、完全には真っ直ぐではなく、わずかに曲がり弾性的に変形していることが分かる。フィルム上におけるカーボンナノチューブの接合箇所の典型的な接合部の形状は図3a右下のAFM像に示されている。加えて、フィルムの特徴に目立つ違いはなく、カーボンナノチューブが空間的に均一に分布していることが示唆される。
【0033】
実施例1ないし4のSWCNTsフィルムのシート抵抗は、室温で、4点プローブ導電性測定によって測定された。フィルム試料のシート抵抗及び波長550nmにおける光透過性は、図3bのとおりである。なお、全ての可視領域における透過性は、比較的同等であった。表2に示すとおり、実施例1ないし4のシート抵抗については、それぞれ800kΩ/sq、150kΩ/sq、2.4kΩ/sq、及び286Ω/sqであった。また、透明度については、それぞれ98%、97%、95%、及び92%であった。特に、実施例4で得られたSWCNTsフィルムは、導電性と透明性が共に高く、従来のSWCNTsフィルムよりも良い光電気特性を有していた。
【0034】
【表2】
【0035】
電極として働かせる2つの薄い銅線をSWCNTsフィルムの二側面に貼り付け、2つの電極間に5Vから40Vまでの一連の異なる電圧をかけることで、SWCNTsフィルムのシート抵抗を計算した。図4に示されるように、得られたフィルムのシート抵抗は、4点プローブ導電性測定を用いた場合の結果と正確に一致した。
【0036】
このように、本発明の実施例においては、連続して相互に接続するネットワークの構築を、単にSWCNTs溶液の濃度を調節することで実現できた。なお、実施例におけるSWCNTsフィルムは、光電気的性能における明らかな減少なしに、結合剤としてセルロースを用いた他のPETフィルムに移すことができた
【0037】
タッチスクリーンに利用される透明導電フィルムにおいては、500kΩ/sq以下の抵抗で85%以上の透明度を持つことが基本的要求とされている。この点、本発明において、単純なワイヤーバーコーティング工程を通じて得ることができたSWCNTsフィルムは、この要求を満たしており、軟性タッチスクリーンへの実用的応用が期待される。そこで、SWCNTsを基礎にした軟性タッチスクリーンの容量応答特性を活用するために、実施例4のSWCNTsフィルムを軟性タッチスクリーンの構造に適用した。
【0038】
図5aのように、面積が21cmである商用ポリエチレンフィルムを二片のSWCNTsフィルムで挟むサンドウィッチ状構造の装置が調製された。電圧を0.1V、周波数100kHzとして駆動した場合、図5bのとおり、当該装置は、1176pFの電気容量を示した。また、当該装置の表面を乾いた裸の指でタッチすると、1343pFまでの電気容量における14.2%未満の急激な増加を観測し、指を離すと、電気容量は、1秒未満の時間で元の値に戻った。なお、100秒以内に、一度の応答遅延もなく、四度の当該容量応答特性を観察することができた。
【0039】
この結果により、本発明によるSWCNTsフィルムを利用した軟性タッチスクリーンは、透明、高感度かつ即応答性を有することが明らかとなり、軟性光電気デバイスへの適用が可能であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は、軟性PETフィルム上に形成された実施例4のSWCNTsフィルムの表面の形態を示す、SEMによって撮影された画像である。
図2図2は、軟性PETフィルム上に、(a)0.001wt.%、(b)0.003wt.%、(c)0.01wt.%、(d)0.02wt.%という一連の濃度のSWCNTs溶液を用いて形成させた曲がった繊維区分を示すSWCNTsフィルムのAFM像である。
図3図3aは、SWCNTsフィルムにおける、カーボンナノチューブ濃度とカーボンナノチューブ同士の接合箇所密度との間の関係を示すグラフであり、右下のAFM像は、2つのカーボンナノチューブの接合箇所の典型的な形状である。また、図3bは、調整されたSWCNTsフィルムのシート抵抗と可視光の透過性との間の関係を示すグラフである。
図4図4は、SWCNTsフィルムの電流対電圧に関する特性を示すグラフである。
図5図5aは、SWCNTsフィルムを用いた容量性タッチスクリーンの設計モデルを示す図である。図5bは、裸の指でタッチされた場合の、調整されたSWCNTsフィルムを用いたタッチスクリーンの容量応答特性を示すグラフである。
図1a
図1b
図2(a)】
図2(b)】
図2(c)】
図2(d)】
図3a
図3b
図4
図5a
図5b