【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム『精神的価値が成長する感性イノベーション拠点』委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】わくわく感が得られるようなお手本となる基本運転者状態を環境に対応させて記憶した第1DB(データベース)10を有する。検出手段1で検出された運転者状態に基づいて、運転者がわくわく感を有しないと判定されたときは、検出手段2で検出される環境を第1DB10に照合して得られる基本運転者状態と検出された運転者状態とを比較することにより、わくわく感を向上させるための制御対象とその制御量が決定される(感性状態推定手段11、制御量決定手段12)。学習器15によって、前記制御量と環境と運転者状態とに基づいて運転者固有の学習値が決定され(学習値は第2DB16に記憶)。学習値が存在する状態となった後は、学習値を加味して制御対象に対する制御量が決定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、最近の車両では、運転することに所定の感性状態、例えば、わくわく感を抱くようにすることが求められるようになっている。すなわち、運転に際してわくわく感を有することは、運転そのものが楽しくなるだけでなく、運転技量の向上にも繋がることになる。
【0005】
一方、個々の運転者が抱くわくわく感に関する感情は、走行環境等が同一であっても相違することが多いものである。すなわち、例えば運転操作系の特性を、ある運転者にとってわくわく感を抱くような設定としても、別の運転者にとってはわくわく感を抱かないこともある。つまり、車両の特性をある一定のものに設定しただけでは、個々の運転者に対応してわくわく感を得ることができないものとなる。
【0006】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、個々の運転者に対応して、所定の感性状態をもって運転できるようにした乗員の感性向上システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、請求項1に記載のように、
環境を検出する環境検出手段と、
移動体を運転する運転者の状態を検出する運転者状態検出手段と、
所定の感性状態が得られるようなお手本となる基本運転者状態を環境に対応させて記憶した第1データベースと、
前記運転者状態検出手段で検出された運転者状態に基づいて、運転者の感性状態を推定する感性状態推定手段と、
前記感性状態推定手段によって運転者が前記所定の感性状態でないと推定されたときに、前記環境検出手段で検出される環境を前記第1データベースに照合して得られる基本運転者状態と前記運転者状態検出手段で検出された運転者状態とに基づいて、前記所定の感性状態となる方向となるように移動体に搭載された制御対象への制御量を決定する制御量決定手段と、
前記制御量決定手段で決定された制御量でもって前記制御対象を制御する制御手段と、
前記制御手段による制御量と前記環境検出手段により検出される環境と前記運転者状態検出手段により検出される運転者状態とに基づいて、該検出された環境と該検出された運転者状態とに対応した運転者固有の学習値を決定する学習値決定手段と、
前記学習値決定手段で決定された学習値を、環境と運転者状態とに対応づけて記憶する第2データベースと、
を備え、
前記制御量決定手段は、前記第2データベースに学習値が存在するときは、該学習値を加味して前記制御対象に対する制御量を決定する、
ようにしてある。
【0008】
上記解決手法によれば、運転を続けているうちに第2データベースに学習値が記憶されていき、この学習値を利用した制御を行うことによって、個々の運転者が所定の感性をもって運転することが可能となる。また、制御対象や制御量は、お手本となる基本運転者状態を参照して決定されるので、所定の感性状態を適切に得る上でも好ましいものとなる。さらに、感性状態に少なからず影響を与える環境をも考慮した制御としてあるので、環境の相違にかかわらず所定の感性状態を得る上でも好ましいものとなる。
【0009】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、請求項2以下に記載のとおりである。すなわち、
前記制御量決定手段は、前記第2データベースに学習値が存在するときは、学習値を前記制御対象に対する制御量として決定する、ようにしてある(請求項2対応)。この場合、所定の感性状態を確実に得るようにしつつ、制御の簡単化の上で好ましいものとなる。また、第2データベースの記憶内容を他の車両で用いることにより、当該他の車両について、即座に所定の感性状態をもって運転することも可能となる。
【0010】
前記感性状態推定手段は、快・不快に関するパラメータと、活性・非活性に関するパラメータと、未来志向・過去志向に関するパラメータとの3種類のパラメータによってわくわく感に関する感性状態であると推定する、ようにしてある(請求項3対応)。この場合、運転者は、所定の感性状態として、わくわく感を抱いた状態で運転することができ、運転そのものが楽しくなるだけでなく、運転技量の向上にも繋がる。また、わくわく感を多くのパラメータを用いて判定することにより、感性に関して相違を有する多くの運転者について、わくわく感を精度よく判定する上で好ましいものとなる。
【0011】
前記感性状態推定手段は、前記3種類のパラメータにおいて快かつ活性かつ未来志向のゾーンにある状態のときをわくわく感がある感性状態であると推定する、ようにしてある(請求項4対応)。この場合、わくわく感が得られるときの3つのパラメータの状態を特定して、わくわく感を得るあるいは向上させるための制御対象を的確に特定する等の上で好ましいものとなる。
【0012】
前記環境検出手段が、移動体の室内環境と移動体の室外環境と移動体の状態との少なくとも1つされている、ようにしてある(請求項5対応)。この場合、検出される環境の具体的なものが提供される。
【0013】
前記制御対象が、運転操作系とされている、ようにしてある(請求項6対応)。この場合、運転操作系を制御して、所定の感性状態を実現する、例えばわくわく感を向上させることができる。
【0014】
前記制御対象が、スピーカから移動体の室内に発生する音とされている、ようにしてある(請求項7対応)。この場合、スピーカから発生される音を利用して、所定の感性状態を実現する、例えばわくわく感を向上させることができる。
【0015】
前記制御対象が、フロントウインドガラスに設定された可変式の視界制限手段とされている、ようにしてある(請求項8対応)。この場合、フロントウインドガラスを通しての視界領域の変更によって、所定の感性状態を実現する、例えばわくわく感を向上させることができる。
前記制御対象が、移動体における内装材の輝度、色または模様を変更する変更手段とされている、ようにしてある(請求項9対応)。この場合、車室内雰囲気を変更することに、所定の感性状態を実現する、例えばわくわく感を向上させることができる。
【0016】
前記制御対象が、可変式とされたシートとされている、ようにしてある(請求項10対応)。この場合、シートを可変とすることにより、所定の感性状態を実現する、例えばわくわく感を向上させることができる。
【0017】
同乗者の状態を検出する同乗者状態検出手段と、
前記同乗者状態検出手段により検出される同乗者状態と、前記運転者状態検出手段で検出される運転者状態とに基づいて、運転者と同乗者との間での共感状態を判定する共感関係判定手段と、
前記共感関係判定手段により判定された共感状態を、環境に対応した同乗者の運転者に対する共感レベルとして記憶する第3データベースと、
前記環境検出手段により検出される環境に対応して前記第3データベースに記憶されている共感レベルが低いときは、同乗者の運転者に対する共感を高めるための制御を行う共感用制御装置をさらに有している、
ようにしてある(請求項11対応)。この場合、同乗者が運転者に対して共感をもって所定の感性状態を実現する、例えばわくわく感を感じさせるようにする上で好ましいものとなる。
【0018】
前記共感用制御装置は、同乗者の視線方向を変更するように促す視線誘導手段を備えて、共感レベルが低いときは同乗者の視線方向を運転者の視線方向へと誘導する、ようにしてある(請求項12対応)。この場合、視線誘導という手法によって、運転者に対する同乗者の共感を高めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、個々の運転者に対応して、所定の感性状態をもって運転できるようにする上で好ましいものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、運転者の所定の感性状態の一例として、例えばわくわく感に関する感性状態を示す指標を示すものである。すなわち、感性状態を、「快・不快」というパラメータと、「活性・非活性」というパラメータと、「未来志向・過去志向」(時間軸)というパラメータという3つのパラメータで3軸(3次元)方式で示すようにしてある。そして、感性の一つとしてのわくわく感は、「快」かつ「活性」かつ「未来志向」となるゾーンにあるときとされる。ここで、感性とは、わくわく、うきうき、はらはら、どきどき、などのさまざまな感情を包含する広い概念である。その感性の一つとして、わくわく感を例に説明している。
【0022】
前記「快」は、心地よいこと、面白いことを感じている感性状態で、活動に伴う充実感を示すものともされる。「不快」は、快の反対方向の感性状態である。前記「活性」は、覚醒状態のときの感性状態で、「非活性」は活性の反対方向の感情(漫然状態の感性状態)である。「未来志向」は、前向きな感性状態で、自分が努力したらその通りになるという感性状態としても示される(躁鬱状態のうち躁の状態も含まれる)。「過去志向」は未来志向の反対方向の感性である(後ろ向きな感性状態)。
【0023】
以下の記載では、感性の一つとしてわくわく感を例に説明する。本発明では、後述する検出された運転者状態に基づいて、運転者の感性状態が
図1に示す3軸方式のわくわく感の指標のうちどのゾーンに位置しているかが判定(推定)される。例えば、快・不快については、原点位置から、快のレベルが小さいほうから大きい方へ順に、例えば+1、+2・・・・+5というように例えば5段階の評価値を設定し、不快方向へは−1、−2・・・−5というように例えば5段階の評価値を設定する。活性・非活性および未来志向・過去志向についても同じようにして評価値を設定する。そして、判定結果が、わくわく感のゾーンに無いときは、わくわく感が向上される方向に(3つのパラメータについての評価値がそれぞれ+となるように)、車両に搭載された各種機器類を制御して、わくわく感が向上されるようにしてある。
【0024】
図2は、本発明の制御系統例をブロック図的に示すものである。
図1中、1は、運転者状態検出手段である。運転者状態検出手段1により検出される検出対象は、特に運転者のわくわく感に関する感性状態の判定用として用いられる。運転者状態検出手段1により検出される対象としては、例えば、顔表情の検出(例えばCCDカメラの利用)、視線移動、瞬目、眼球停留および瞳孔径の検出(例えばアイカメラの利用)、心拍の検出(シートに設けた心拍センサの利用)、呼吸(回数や深さ)の検出(例えばCCDカメラの利用)、皮膚抵抗、指尖脈波の検出(例えばステアリングハンドルに設けたセンサの利用)、上肢筋電の検出(例えば6ch式で、ステアリングハンドルに設けた筋電センサの利用)下肢筋電の検出(例えば3ch式で、シートに設けた筋電センサの利用)、音声情報の検出(声の調子等で、マイクを利用)、シートへの着座圧の検出(シートに設けた荷重圧センサの利用)がある。なお、上記の他、運転者状態として、各種操作系(ステアリング、アクセルペダルブレーキペダル、シフトノブ等)に対する運転者の操作位置(姿勢位置)、操作速度、操作加速度が検出される(各操作系に設けたセンサを利用)。
【0025】
2は、環境検出手段である。この環境検出手段2によって検出される対象としては、おおまかに、車室内環境、車室外環境、走行環境、車両情報がある。車室内環境としては、例えば空気室(温度、湿度、臭い)、日射状態、室内音等がある(各種センサの利用)。車室外環境としては、特に天候が検出される(昼間、夜間、晴れ、雨天、降雪等で、各種センサの利用)。検出される走行環境(道路環境)としては、直線路、カーブ路、高速道路、一般道路、交差点付近等の区別等とされる(ナビゲーション装置の利用やカメラの利用)。車両情報としては、各種のセンサを用いて、車速、エンジン回転数、操舵角や舵角速度、旋回角度というステアリングハンドル系に関するもの、アクセル開度、アクセル踏み込み力、アクセル踏み込み速度というアクセルペダル系に関するもの、ブレーキ操作量、ブレーキ操作速度、ブレーキ操作力というブレーキペダルに関するものが検出され、さらに変速機の変速段が検出される。
【0026】
図1中、10は、短期データベース(第1データベース)で、お手本となる運転者状態を環境と対応づけて記憶されている。すなわち、あらゆるシーン(環境検出手段2で検出される環境の組み合わせ)において、お手本となるベテランドライバが運転した状態が、環境と対応づけて記憶されている。すなわち、あるシーンにおいて、短期データベース10に記憶されている運転者状態のような運転を行えば、わくわく感が得られるというものとなっている。短期データベース10に記憶されているお手本となる運転者状態は、適切なハンドル操作、適切なアクセル操作、適切なブレーキ操作、適切なシフト操作等の操作状況や、適切な視線移動の仕方等々が記憶されている。
【0027】
11は、感性状態推定手段で、運転者のわくわく感に関する感性状態を判定(推定)するものとなっている。すなわち、前述した運転者状態検出手段1で検出される運転者状態に基づいて、わくわく感を感じている感性状態であるか否か(前述した3つのパラメータについての評価値の決定)、またわくわく感を感じていないとしたら、どのような要因が不足しているかが判定(推定)される。なお、3つのパラメータの組み合わせにより感性を評価するが、その感性の具体例、例えばわくわく感等と、これら3つのパラメータとの関係例をまとめて
図11に示す。
図12には、感性の一つであるわくわく感を向上させるための制御対象と制御手法の例を示してある。
【0028】
感性状態推定手段11は、わくわく感に無い感性状態であると判定したときは、運転者状態検出手段1で検出された運転者状態と、短期データベース10に記憶されているお手本となる運転者状態とを比較して、両方の運転者状態の差分とわくわく感を感じさせない要因とが抽出され、その結果が制御量決定手段12に出力される。
【0029】
制御量決定手段12では、運転者状態検出手段1で検出された運転者状態を、短期データベース10からのお手本となる運転者状態との差分(例えば、目線の移動の仕方の相違や、ステアリングハンドルの操作の仕方の相違等)に応じて、わくわく感が向上する方向の制御量(補正量)が決定される。決定される制御量は、感性状態推定手段11からのわくわく感を感じさせない要因を除去するための制御対象14についてのものとなる。そして、制御器(制御手段)13によって、わくわく感を向上させるための制御対象14に対して、制御量決定手段12で決定された制御量が出力される。これにより、運転者のわくわく感が向上される方向へと誘導されることになる。なお、制御対象14について後述する。
【0030】
前述した運転者状態検出手段1で検出された運転者状態と、環境検出手段2で検出された環境と、制御器13からの制御量とは、学習器(学習手段)15に入力される。学習器15は、フィードバック制御を利用した学習を行う。すなわち、制御器13から制御量が出力されたときに、運転者状態検出手段1で検出された運転者状態が、感性状態推定手段11によりわくわく感を感じている感性状態であるとされたときに、このときの制御量が学習値として、検出された運転者状態と環境とに対応づけられる。そして、運転者状態と環境に対応づけられた学習値は、長期データベース(第2データベース)16に記憶される。学習器15で決定される学習値は、運転者状態と環境とが同じである状態において複数の制御量が存在するまで待って、この複数の制御量の例えば平均値として決定することができる。この場合、複数の制御量のうち、新しい制御量が古い制御量に比して学習値への反映度合いが大きくなるよう重み付けをして、学習値を決定するようにしてもよい。
【0031】
学習値の決定に際しては、さらに、わくわく感についての評価値がもっとも高くなる制御量を選択してもよい。例えば、3つのパラメータについての各評価値がそれぞれ例えば3以上となる制御量であることを前提として、各評価値の合計値がもっとも大きくなるときの制御量を学習値として決定することもできる。
【0032】
ある運転者状態である環境のときに、長期データベース16に学習値が存在する場合は、制御量決定手段12は、この学習値を最終的な制御量として制御器13に出力することができる(短期データベース10からの運転者状態を利用しない制御量の決定)。このように、長期間の間には、長期データベース16にあらゆるシーン(あるいは殆どのシーン)について学習値が記憶されるようになり、運転者状態および環境に応じて、わくわく感の感性状態を常時得ることが可能になる。なお、学習値をより最適化するために(究極的には、3つのパラメータについての評価値がそれぞれ最高値となるように)、例えば、運転者状態検出手段1で検出される運転者状態と短期データベース10からの基本運転者状態との比較により決定される制御量と、長期データベース16からの学習値とを所定割合で重み付けして(例えば上記制御量について60%、学習値について40%等)、最終的な制御量として決定することもできる。
【0033】
このように、長期データベース16に記憶されている学習値は運転者固有のものとなる。そして、長期データベース16に記憶されている記憶内容を、外部の記憶媒体(例えばSDカード等)に出力(コピー)して、他の車両(の長期データベースに相当する記憶部位)に移植(コピー)することにより、この他の車両が、わくわく感の感性状態を得ることのできる運転者固有のものとして即座に設定することが可能になる。
【0034】
ここで、運転者がわくわく感の感性状態を得つつ、同乗者(特に助手席乗員)との共感をも得ることができればより好ましいものとなる。実験結果によれば、運転者と同乗者とに対してある景色を同時に目視させると、運転者と同乗者との身体がシンクロ(同期)して揺れるようになる(運転者と同乗者とが互いに別の景色を見ているときは、このような同調は生じ難い)。
【0035】
例えば、運転者状態検出手段1により運転席シート(シートクッション)に荷重圧センサを設けると共に、同乗者シート(例えば助手席シート)にも荷重圧センサを設けておき、この両荷重圧センサからの出力を比較することにより、運転者と同乗者との身体の揺れを検出することにより、身体の揺れが同調する共感状態の度合い(共感状態にあるか否かの2段階でもよい)を判定することができる。上記同乗者シートに設けた荷重圧センサが、
図2において同乗者状態検出手段21として示される。
【0036】
図2において、同乗者状態検出手段21による検出結果と、運転者状態検出手段1による検出結果とは、共感関係判定手段22に入力されて、前述した共感度合いつまり共感レベルの判定が行われる。共感関係判定手段22の判定結果は、共有データベース(第3データベース)23に記憶される。すなわち、共感関係判定手段22によって判定された共感レベルが、運転者状態と環境とに対応づけられた状態でもって、共有データベース23に記憶される。
【0037】
ある環境において、共有データベース23での記憶内容が共感レベルが所定値以下の低いときは、同乗者の共感レベルを向上させる制御が実行される。すなわち、制御量決定手段12、制御器13、制御対象14が、共感用の制御装置をも構成していて、共感レベルが向上するように制御を行う。具体的には、制御対象として、例えば同乗者のシートを可変式として、運転者の視線方向へと同乗者の身体の向きを変更するようにしてもよい(例えば、同乗者のシートクッションを運転者の視線方向へ向けて水平方向に若干回動させたり、左右のサイドサポートを同乗者の身体が運転者の視線方向を向く方向へと変位させる等)。また、同乗者が特に助手席乗員のときは、助手席乗員の前方にあるフロントウインドガラスに例えばヘッドアップディスプレイや車室内高所に設けたプロジェクションマッピング等によって、助手席乗員の前方位置に運転者の視線方向へ視線を誘導する矢印マークを表示させる等のことができる。なお、制御の簡単化等のために、共有データベース23は、制御量決定には利用しないようにして、もっぱら同乗者用の制御対象を制御するために用いるのが好ましい(運転者のわくわく感を向上させる制御とは別個独立した制御とする)。
【0038】
次に、わくわく感を向上させるための具体例について説明する。まず、
図3において、ハンドル操作量と車両の曲がり量との関係を示すものである。図中、αが基本設定(基本特性)である。α1は、αに比してハンドル操作量に対する車両の曲がり量を増大させたクイックなハンドル特性であり、α2は、αに比してハンドル操作量に対する車両の曲がり量を減少させた安定したハンドル特性である。α1に近づく方向への特性変更が、活性化や快化に繋がる。各特性α、α1、α2はそれぞれ線形とされているが、これは、線形な特性とすることにより、人間が感じる感性として、意のままに繰れるという感覚が強くなるためである。なお、このような線形特性にするには、実際の物理量の変化については、例えば
図4に示すようにほぼ対数的な関係の設定とすることになる。
図4では、操作方向と操作戻し方向とでヒステリシスを有するようにされた実際の設定がr1で示され、このr1のような特性を簡単化して対数的な関数としたものがr2で示される。
図3のようなリニアな特性の設定は、アクセルペダルやブレーキペダル等他の操作系についても同じようにするのが好ましい(感性としてリニアな関係となる特性設定で、物理量の変化としては略対数的な設定の特性)。
【0039】
図5は、可変式の窓枠構造の例を示し、図中ハッチングを付して領域が、変更可能な領域器(視界制限可能領域)である。すなわち、フロントウインドガラス51は、その上縁部がルーフ52により仕切られ、その左右の側縁部が左右一対のフロントピラー53で仕切られ、その下縁部がインストルメントパネル54で仕切られる。このように、フロントウインドガラス51の窓枠構造が、ルーフ52と左右一対のフロントピラー53とインストルメントパネル54とによって仕切られた構造となっており、このような構造自体は変更不可能となっている。そして、窓枠構造は、一般的な逆台形形状とされている。運転者は、この仕切られた大きさ、形状から視覚的な影響を受けることになる。
図5中、55はステアリングハンドル、56はメータフードであり、実施形態では左ハンドル車とされている。
【0040】
フロントウインドガラス51には、ハッチングを付した領域が視界制限領域として設定されている。この視界制限領域は、例えばカラー式の液晶フィルムをハッチングで示した領域に貼り付けることにより構成されて、その通電状態を変更することにより、透明な視界確保状態と、半透明あるいは非透明な視界制限状態との間で切換可能となっている。すなわち、
図5に示す状態では、最大面積範囲での視界制限状態が示されている。
【0041】
上記視界制限領域は、フロントウインドガラス51の全周縁部を取り囲むように全体的に環状として形成されている。より具体的には、フロントウインドガラス51の上縁部に沿って車幅方向に長くされた上視界制限領域S1と、フロントウインドガラス51の下縁部に沿って車幅方向に長くされた下視界制限領域S2と、フロントピラー53の内周縁部に沿って上下方向に長くされた左右の側部視界制限領域S3、S4とから構成されている。上下の視界制限領域S1とS2との左右端部同士が、左右の視界制限領域S3あるいはS4により連結された形状とされている。なお、以下の説明で、各視界制限領域S1〜S4を区別する必要のないときは、単に「S」の符号を用いて説明することもある。
【0042】
上記各視界制限領域S1〜S4は、通電カットにより、透明な視界確保状態とされる。一方、通電された視界制限状態においては、通電態様を変更することにより、その透過率および色が変更可能となっている。例えば、透過率0%〜60%の範囲で変更可能とされ、また、例えば黒色と灰色と緑色と青色とで変更可能となっている。
【0043】
図5は、各視界制限領域S1〜S4について、それぞれ最大範囲での視界制限状態のときを示してあるが、各視界制限領域S1〜S4について、部分的に視界制限状態とすることも可能となっている。この部分的に視界制限状態とする態様が、
図6、
図7を
図2と対比させることにより明確となる。
【0044】
図6は、上下の視界制限領域S1とS2とを利用した視界制限を行っている状態が示される(視界制限領域S3、S4による視界制限はなし)。この
図6では、上視界制限領域S1により視界制限された形状が、車幅方向中央部がもっとも下方に突出し、車幅方向外側に向かうにつれてほほ直線に近い形で徐々の下方への突出量が小さくなった形状とされる。また、下視界制限領域S2により視界制限された形状が、車幅方向中央部がもっとも上方に突出し、車幅方向外側に向かうにつれて徐々に上方への突出量が小さくなるように緩やかに湾曲された山形形状とされている。この
図3のような設定により、走行中、特に高速走行中において、矢印で示す斜め上方に向かうオプティカルフロー(走行中に運転者が認識する景色の流れ方向)が上側の視界制限形状に沿うように、また矢印で示す斜め下方に向かうオプティカルフローが下側の視界制限形状に沿うようになり、運転の爽快感や眠気防止の上で好ましい設定となる。
【0045】
図6の下視界制限領域S2の形状設定は、特に高速走行の際に、車両近傍部分を運転者に認識させないようにして、疲労軽減(ひいては非活性化の防止)の上で好ましいものとなる。また、
図6の上視界制限領域S1の形状設定は、運転者が直接的には視認することが少ない不必要な上方視界部分を遮断して、眩しさの低減や疲労低減等の上で好ましいものとなる。なお、各視界制限領域S1、S2での視界制限部位の透過度を、例えばフロントウインドガラス51の外周縁部に近づくほど透過度が低くなるように徐々に変化させることもできる(勿論、全範囲について透過度を一定とすることもできる)。また、晴天時での透過度を低くし(視界制限度合いを高くする)、曇天等の周囲が暗いときは透過度を高める等のこともできる.同様に、視界制限された部位の色についても、変化させることができる。例えば、晴天時には、黒色等のダーク系の色とし、曇天時には例えば青色系の明るい色を用いるようにすることができる。勿論、色についても、その濃さを、例えばフロントウインドガラス51の外周縁部に近づくほど濃くする等のこともできる。
【0046】
図7は、左右の視界制限領域S4を利用して、フロントウインドガラス51の右端部について、略三角形状の視界制限領域を設定すると共に、略三角形状とされた視界制限部分の内周縁部は上下方向にほぼまっすぐ伸びる略直線状としてある。
図7に示すような設定により、近景の付加や遠近感の補正に好ましいものとなる。また、運転席に近い側のフロントピラー53の上端部および下端部のそれぞれに対して、オプティカルフローがほぼ垂直に近い角度で遮蔽される形で整流され、前方への注意を向上させ安定感を向上させる上でも好ましい設定となっている。
図6、
図7に示すのは一部の例であり、運転者状態に応じて、適宜の位置および面積(形状)の視界制限を行うことができる。上述のような視界制限領域を利用した窓枠形状の変更を適宜行うことにより、活性方向、未来志向方向あるいは快方向へと運転者状態を誘導することが可能となる。
【0047】
図8は、スピーカから車室内に向けてサウンドとしてのエンジン音を発生する際に、エンジン音を強調制御するようにした例を示す。すなわち、アクセル開度に応じて、ベースサウンドとしてのエンジン音のうち4次、6次、8次の音を強調した(ゲイン増大させた)例を示す。このような設定により、アクセル操作や加速Gに応じた音圧とすることができ(適切な音圧のフィードバック)、明確な音色となって力強い鼓動感やハーモニックスによる伸び感を得ることができる。特に、運転者が眠気を生じていたり(非活性の状態)、過去志向のとき、さらには不快なときに、サウンドを利用して活性方向、未来志向方向、快方向へと誘導する上で好ましいものとなる。
【0048】
なお、活性方向、未来志向方向あるいは快方向へと運転者を誘導する制御対象および制御方向(制御量)は種々選択できる。例えば、アクセル特性の変更(操作反力や、アクセル開度に対するエンジン出力との関係を示す特性の変更)、ブレーキ特性の変更(操作反力や、ブレーキ操作量に対する減速度の関係を示す特性の変更)、ステアリング特性の変更(操作反力や、操舵角に対する車両の曲がり量(例えばヨーレート)の関係を示す特性の変更)等々、種々選択できる。
【0049】
ここで、車室内装材の色、輝度あるいは模様を変更することにより、運転者状態を活性方向、未来志向方向あるいは快方向へと誘導するようにしてもよい。すなわち、
図5一点鎖線で示す領域βが、薄膜のカラー表示器あるいは車室内高所に設けたプロジェクションマッピングにより、色、輝度、模様の少なくとも1つあるいは任意の2つを変更可能とされている。領域βは、実施形態では、助手席シートに着座している助手席乗員から目視されやすい位置、例えばサイドドア上縁部、インストルメントパネル54の後縁部、フロントピラー53の下部を含む領域となるように設定されている。
【0050】
車室内蔵材を、例えば明るい色系への変更and/or輝度の高いものに変更することにより、活性方向、未来志向方向あるいは快方向へと誘導することができる。領域βを利用して、内装材に多く設定されている模様としての「しぼ」の大きさや深さを、乗員に近い側から遠い側へ向けて順次変更して、遠くに位置するほどぼやけて見えるようにして奥行き感を出させたり、あるいは乗員の車両との一体感を強調したり、上質感を向上させる等のことが可能となる。また、明るい色系に変更することや、輝度が高くなるように変更することにより、活性方向、未来志向方向、快方向へ運転者状態を誘導することが可能である。なお、領域βの設定は、助手席、運転席、左右の後席の任意の1つあるいは任意の複数の席に対応して設定することもでき、また天井内壁について設定することもできる。この他、車室内の適宜の箇所に設置した照明ランプの明るさや色合いを変更して(光による刺激付与)、わくわく感を向上させるようにすることもできる。
【0051】
わくわく感を向上させる制御対象としては、空調制御装置(例えば温度変更や風量変更による刺激付与)や香り発生装置(例えば複数種の香りを用意して、わくわく感を向上させる香りを選択して発生させる)を含めることができ、またステアリングハンドルやシートへの微少振動付与による刺激付与等々、適宜選択できる。
【0052】
次に、
図9に示すフローチャートを参照しつつ、本発明の制御例について説明する。なお、以下の説明でQはステップを示す。また、
図2において、各検出手段1、2、21および制御対象14を除いた部分は、マイクロコンピュータを利用して構成されたコントローラ(制御ユニット)Uの機能をブロック図的に示したもので、
図9および後述する
図10のフローチャートは、このコントローラUの制御内容を示すものとなる。
【0053】
まず、
図9のQ1において、運転者状態の検出と環境の検出とが行われる。この後、Q2において、検出された環境を短期データベース10の照合することにより、お手本となる基本運転者状態が読み出される。この後、Q3において、検出された運転者状態に基づいて、運転者のわくわく感が判定される。
【0054】
Q4では、Q3の判定結果が、わくわく感を有するものであるか否かが判別される。このQ5の判別でNOのときは、Q5において、学習値が存在するか否かが判別される。当初は学習値が存在しないので、Q5の判別でNOとなる。このときは、Q6において、基本運転者状態と検出された運転者状態とに基づいて、わくわく感を増大させるための制御対象の選択とその制御量とが決定される。この後、Q7において、決定された制御対象に対して、決定された制御量が出力される。
【0055】
Q7の後、Q8において、学習値決定のために一時的に記憶されている記憶値が所定数以上(例えば5以上)であるか否かが判別される。当初は、このQ8の判別でNOとなって、Q9において、今回の制御状態が一時的に記憶される。すなわち、Q9では、環境と運転者状態と制御対象と制御量とわくわく感の度合い(3つのパラメータについての各評価値)とが対応づけられて記憶される。
【0056】
Q8の判別でYESのとき、つまり、Q9で記憶されている記憶値が、あるシーン(同じ環境で同じ運転者状態)において所定数以上であると、Q10において、学習値の決定が行われる。そして、Q11において、決定された学習値が長期データベース16に記憶される。
【0057】
Q5の判別でYESのとき、つまり長期データベース16に学習値が存在するときは、Q12において、学習値がそのまま最終的な制御量として制御対象に出力される。なお、学習値の決定の手法は前述したとおりである。また、制御対象に出力される最終的な制御量は、既述のように、「検出された運転者状態と基本運転者状態とに基づいて決定される制御量」と「学習値」との両方を用いて決定することもできる。
【0058】
図10は、運転者に対する同乗者の共感を得るための制御例を示すものである。すなわち、Q21において、運転者状態の検出が行われ、Q22において、同乗者の状態が検出される。この後、Q23において、運転者状態と同乗者状態とに基づいて、共感状態(共感レベル)が判定される。
【0059】
Q22の後、Q23において、共感を有するか否か(共感レベルが所定値以上の高い状態であるか否か)が判別される。Q23の判別でYESのとき(共感レベルが所定値以上で共感有りのとき)は、そのままリターンされる。Q23の判別でNOのとき(共感レベルが所定値未満で、共感なしのとき)は、Q24において、共有データベース23に、対応する共感用のデータが記憶されているか否かが判別される。このQ24の判別でNOのときは、Q25において、共感を高めるための制御が既述のように行われる。この後、Q26において、共感を高めるために行われた制御状態が共有データベース23に記憶される。前記Q24の判別でYESのときは、Q27において、共有データベース23に記憶されている記憶値でもって、共感を得るための制御が実行される。
【0060】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能である。共感を得るための制御を実行したときに、共感レベルをフィードバックして学習値を決定し、所定値以上の共感レベルが得られる学習値を共有データベース23に記憶させることもできる(少なくとも環境と共感レベルと制御対象と制御量とを対応づけて記憶)。制御量決定手段12では、共有データベース23での共感度合いをも加味して、制御量の補正を行なうようにしてもよい。すなわち、共感度合いが高い状態であれば、制御量の補正は不用であるが、共感度合いが低い(あるいは無い)ときは、共感度合いが高まる方向へ制御量を補正するようにしてもよい(運転者のわくわく感向上と共感レベル向上との兼ね合いで制御量を決定する)。
【0061】
所定の感性状態としては、わくわく感ではなく、はらはら感やどきどき感にする等、向上対象となる感性は適宜選択できる。例えば、スポーツ走行に不慣れな運転者に対して、スポーツ走行の醍醐味を感じてもらうために、あえてはらはら感やどきどき感を向上させるように制御することができる。また、短期データベース10として、感性が互いに相違するものとして複数用意して、運転者がどの感性を向上させる制御を望むのかをマニュアル選択させるようにしてもよい。運転対象となる移動体として自動車の場合を示したが、自動車以外の車両(例えば二輪車)、各種の建設・工事用機械、工場や敷地内で使用されることの多いフォークリフト等の搬送機械、船舶(特に小型船舶)、飛行機(特に小型飛行機)等、適宜のものを含むものである。また、移動体は、運転者により遠隔操作されるもの(例えばドローンやヘリコプタ等)であってもよい。さらに、移動体や環境は、擬似的(バーチャル)なものであってもよい(例えばドライビングシミュレータでの適用)。フローチャートに示す各ステップあるいはステップ群は、コントローラUの有する機能(を発揮する手段)として把握することができる。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。