【解決手段】本発明は、トリオキサンを主モノマー(a)とし、少なくとも一つの炭素−炭素結合を有する環状エーテル及び/又は環状ホルマールをコモノマー(b)とし、重合触媒(c)に特定のヘテロポリ酸を使用して共重合を行った反応生成物に、アルカリ金属元素若しくはアルカリ土類金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩、カルボン酸塩若しくはその水和物、又はアルカリ金属元素若しくはアルカリ土類金属元素の水酸化物(d)を添加し、溶融混練処理して、重合触媒(c)を失活させて得られたポリアセタール共重合体に対して、炭素数が4以上であり、カルボキシル基を2以上含む脂肪族多価カルボン酸(e)と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(f)とを含有させる。
トリオキサンを主モノマー(a)とし、少なくとも一つの炭素−炭素結合を有する環状エーテル及び/又は環状ホルマールをコモノマー(b)とし、重合触媒(c)に下記一般式(1)で示されるヘテロポリ酸を使用して共重合を行った反応生成物に、アルカリ金属元素若しくはアルカリ土類金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩、カルボン酸塩若しくはその水和物、又はアルカリ金属元素若しくはアルカリ土類金属元素の水酸化物(d)を添加し、溶融混練処理して、重合触媒(c)を失活させて得られたポリアセタール共重合体100重量部に対して、炭素数が4以上であり、カルボキシル基を2以上含む脂肪族多価カルボン酸(e)0.002重量部以上0.1重量部以下と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(f)0.01重量部以上0.5重量部以下とを含有させる、ポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
Hm[M1x・M2yOZ]・nH2O ・・・・・・(1)
〔式(1)中、M1はP及びSiより選ばれた一種又は二種の元素から成る中心元素を示す。M2はW、Mo及びVより選ばれた一種以上の配位元素を示す。xは1以上10以下の整数を示し、yは6以上40以下の整数を示し、zは10以上100以下の整数を示し、mは1以上の整数を示し、nは0以上50以下の整数を示す。〕
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂とも称され、POM樹脂と略される。)は、バランスのとれた機械的性質を有し、耐摩擦・摩耗特性、耐薬品性、耐熱性、電気特性等に優れるため、自動車、電気・電子製品等の分野で広く利用されている。
【0003】
ところで、かかる分野における要求特性は次第に高度化しつつある。この要求に応えるため、ポリアセタール樹脂と、pKaが3.6以上のカルボキシル基含有化合物とを含有するポリアセタール樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
カルボキシル基含有化合物は、pKaが3.6以上である限り特に限定されず、遊離のカルボキシル基を有する種々の化合物、例えば、脂肪族カルボン酸、脂環族カルボン酸、芳香族カルボン酸等が挙げられる。脂肪族、脂環族、芳香族多価カルボン酸類は、ジカルボン酸モノエステル(例えば、マレイン酸モノエチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチルなど)、トリカルボン酸モノ又はジエステル、テトラカルボン酸モノ−、ジ又はトリエステルなどとして、カルボキシル基を少なくとも1つ有する形態でも使用できる。また、好ましいカルボン酸は、脂肪族モノ又はジカルボン酸、芳香族モノカルボン酸である。
【0005】
ポリアセタール樹脂組成物は、さらに、酸化防止剤、アルカリ又はアルカリ土類金属化合物及び安定剤等を含んでもよい。そして、好ましい酸化防止剤には、フェノール系酸化防止剤(特に、ヒンダードフェノール類)等が含まれる。
【0006】
また、加工安定剤として、ポリアルキレングリコール、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド及び脂肪酸金属塩などから選択された少なくとも一種を使用できることが提案されている。脂肪酸金属塩として、炭素数10以上の脂肪酸と金属との塩を使用できる。金属は、1〜4価(特に1〜2価)の価数を有するものが好ましく、通常、アルカリ土類金属(Mg,Caなど)塩を使用するのが好ましい。脂肪酸金属塩の例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム等が挙げられる。
【0007】
特許文献1に記載のポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂の熱安定性(特に成形加工時の溶融安定性)を大幅に改善できるという効果を奏する。また、ホルムアルデヒドの発生量を極めて低レベルに抑制でき、作業環境を大きく改善できるという効果を奏する。さらには、過酷な条件下であってもホルムアルデヒドの生成を抑制でき、金型への分解物の付着(モールドデポジット)、成形品からの分解物の浸出や成形品の熱劣化を抑制でき、成形品の品質や成形性を向上できるという効果を奏する。
【0008】
また、ポリアセタール樹脂組成物の成分として、脂肪酸金属塩を加えることで、ポリアセタール樹脂成形品のウェルド部の物性向上に寄与することが知られている(例えば、特許文献2参照)。脂肪酸金属塩の原料脂肪酸は、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸であることが好ましく、脂肪酸金属塩の原料となる金属化合物は、カルシウムの水酸化物、酸化物及び塩化物であることが好ましい。好ましい脂肪酸金属塩の例として、ジミリスチン酸カルシウム、ジパルミチン酸カルシウム、ジステアリン酸カルシウム、(ミリスチン酸−パルミチン酸)カルシウム、(ミリスチン酸−ステアリン酸)カルシウム、(パルミチン酸−ステアリン酸)カルシウム等が挙げられる。中でも、脂肪酸金属塩は、ジパルミチン酸カルシウム、ジステアリン酸カルシウムであることが好ましい。
【0009】
また、トリオキサンを主モノマー(a)とし、少なくとも一つの炭素−炭素結合を有する環状エーテル及び/又は環状ホルマールをコモノマー(b)として、ポリアセタール共重合体を製造するにあたり、重合触媒(c)に下記一般式(1)で示されるヘテロポリ酸を使用して共重合を行い、反応生成物に、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩若しくはカルボン酸塩又はその水和物(d)を添加し、溶融混練処理して、重合触媒(c)を失活させることも提案されている(特許文献3参照)。
H
m[M
1x・M
2yO
Z]・nH
2O ・・・・・・(1)
〔式(1)中、M
1はP及びSiより選ばれた一種又は二種の元素から成る中心元素を示す。M
2はW、Mo及びVより選ばれた一種以上の配位元素を示す。xは1以上10以下の整数を示し、yは6以上40以下の整数を示し、zは10以上100以下の整数を示し、mは1以上の整数を示し、nは0以上50以下の整数を示す。〕
【0010】
また、重合触媒(c)の失活剤(d)として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又はアルコキシド化合物を用いることも提案されている(特許文献4参照)。
【0011】
特許文献3及び4記載の発明によると、重合触媒の失活剤として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又はアルコキシド化合物を用いることで、重合触媒を有効に失活できるだけでなく、不安定末端部の安定化もでき、熱安定性に優れ、ホルムアルデヒド発生量の極めて少ない高品質のポリアセタール共重合体を、簡易な製造工程により、経済的に製造することができる。
【0012】
また、従来のウェット式の失活方法と比較してドライ式方法にしたことで、失活工程の簡略化及び洗浄工程が省略されている極めて合理化された工程で、重合触媒の速やかで完全な失活に次いで不安定末端部の安定化も行うことができる。その結果、触媒に由来する分解、変質等の支障がなく、熱的に安定で、かつ不安定末端部及びホルムアデヒド放出量の極めて少ない優れた品質のポリアセタール共重合体を経済的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0023】
<ポリアセタール共重合体の製造方法>
本発明では、ホルムアルデヒドの環状三量体であるトリオキサンを主モノマー(a)とし、少なくとも一つの炭素−炭素結合を有する環状エーテル及び/又は環状ホルマールをコモノマー(b)とし、重合触媒(c)に所定のヘテロポリ酸を使用して共重合を行った反応生成物に、所定の塩(d)を添加し、溶融混練処理して、重合触媒(c)を失活させてポリアセタール共重合体を得る。そして、本発明は、ポリアセタール共重合体に対して、炭素数が4以上であり、カルボキシル基を2以上含む多価カルボン酸(e)と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(f)とを含有させる。
【0024】
〔コモノマー(b)〕
コモノマーとしては、少なくとも一つの炭素−炭素結合を有する環状エーテル及び環状ホルマールから選ばれる化合物(b)が使用される。コモノマーとして使用する化合物(b)の代表的な例としては、例えば、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4−ブタンジオールホルマール、1,3−ジオキサン、エチレンオキサイド、プロピレンオキシド、エピクロルヒドリン等が挙げられる。中でも、重合の安定性から考慮して、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4−ブタンジオールホルマール、1,3−ジオキサン、エチレンオキシド等が好ましい。更に、環状エステル、例えばβ−プロピオラクトンや、ビニル化合物、例えばスチレン等も使用できる。また、コモノマーとして、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテルの如き、置換基単位を有する単官能の環状エーテルや環状ホルマールを用いることも可能である。さらに、コモノマーとして、アルキレングリコールのジグリシジルエーテルやジホルマールの如き2個の重合性環状エーテル基又は環状ホルマール基を有する化合物、例えば、ブタンジオールジメチリデングリセリルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル等や、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル等の如き3個以上の重合性環状エーテル基又は環状ホルマール基を有する化合物を用いることもできる。これによって分岐構造や架橋構造が形成されたポリアセタール共重合体も本発明の対象である。
【0025】
本発明において、コモノマーとして用いる環状エーテル及び環状ホルマールから選ばれる化合物(b)の量は、全モノマー(主モノマーとコモノマーの合計量)中の割合として0.1〜20モル%であることが好ましく、0.2〜10モル%であることがより好ましい。コモノマー量が過小であると、重合によって生成する粗ポリアセタール共重合体の不安定末端部が増加して安定性が悪くなる。コモノマー量が過大になると、生成共重合体が軟質となり融点の低下を生じて好ましくない。
【0026】
〔重合触媒(c)〕
本発明は、上記のようなポリアセタール共重合体の製造において、重合触媒(c)としてヘテロポリ酸を使用することを特徴の1つとする。
【0027】
本発明において、重合触媒(c)として使用するヘテロポリ酸とは、異種の酸素酸が脱水縮合して生成するポリ酸の総称をいい、中心に特定の異種元素が存在し、酸素原子を共有して縮合酸基が縮合してできる単核又は複核の錯イオンを有している。このような異核縮合酸は、下記一般式(1)で表すことができる。
H
m[M
1x・M
2yO
Z]・nH
2O ・・・・・・(1)
【0028】
式(1)中、M
1はP及びSiより選ばれた一種又は二種の元素から成る中心元素を示す。M
2はW、Mo及びVより選ばれた一種以上の配位元素を示す。xは1以上10以下の整数を示し、yは6以上40以下の整数を示し、zは10以上100以下の整数を示し、mは1以上の整数を示し、nは0以上50以下の整数を示す。
【0029】
上記へテロポリ酸の具体例として、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、リンモリブドタングステン酸、リンモリブドバナジン酸、リンモリブドタングストバナジン酸、リンタングストバナジン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイモリブドタングステン酸、ケイモリブドタングステントバナジン酸等が挙げられる。中でも、重合の安定性、ヘテロポリ酸自体の安定性から考慮して、へテロポリ酸は、ケイモリブデン酸、ケイタングステン酸、リンモリブデン酸又はリンタングステン酸のいずれか一種以上であることが好ましい。
【0030】
本発明において、上記へテロポリ酸の使用量は、その種類によっても異なり、また、適当に変えて重合反応を調節することができるが、一般には重合されるべきモノマーの総量に対し0.05〜100ppm(以下重量/重量ppmを示す。)の範囲であり、好ましくは0.1〜50ppmである。また、リンモリブデン酸、リンタングステン酸等の如き非常に強く作用するヘテロポリ酸は、0.1〜10ppmの使用量で十分である。この様な少量の触媒でも共重合が可能なことは、触媒による重合体の主鎖分解、解重合等の好ましくない反応を僅少に留め、不安定なホルメート末端基(−O−CH=O)、ヘミアセタール末端基(−O−CH
2−OH)等の生成を抑制するのに効果的であり、また、経済的にも有利である。
【0031】
反応を均一に行うために、重合触媒は、重合に悪影響のない不活性な溶媒で希釈して、主モノマー及び/又はコモノマーに添加して使用することが望ましい。上記不活性な溶媒として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の炭素数1〜10の低分子量カルボン酸と、メタノール、エタノール、1−プロバノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、1−へキサノール等の炭素数1〜10の低分子量のアルコールが縮合して得られるエステル;アセトン、2−ブタノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、3−へキサノン、メチルイソブチルケトン、メチル−t−ブチルケトン等の炭素数1〜10の低分子量のケトン類が好ましく挙げられるが、これらに限定されるものではない。工業的な入手しやすさ等も勘案すると、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン等が最も好適である。重合触媒は、上記不活性な溶媒に、好適には濃度1〜30重量/重量%で溶解されるが、これに限定されるものではない。また、前述した主モノマー、コモノマー、分子量調節剤等の何れか一種又は複数種の一部量又は全量に、上記重合触媒の所定量を予め混合し、この溶液を重合系に添加して重合を行う方法も好ましい。
【0032】
〔共重合体の調製〕
本発明において、重合による粗ポリアセタール共重合体の調製は、従来から公知のトリオキサンの共重合と同様の設備と方法で行うことができる。即ち、バッチ式、連続式、半連続式の何れも可能であり、液体モノマーを用い、重合の進行とともに固体粉塊状のポリマーを得る方法が一般的である。本発明に用いられる重合装置としては、バッチ式では一般に用いられる撹拌機付きの反応槽が使用でき、また、連続式としては、コニーダー、2軸スクリュー式連続押出混合機、2軸パドルタイプの連続混合機、その他、これまでに提案されているトリオキサン等の連続重合装置が使用可能であり、また2種以上のタイプの重合機を組み合わせて使用することもできる。
【0033】
重合方法は特に限定されるものではないが、先に提案されているように、トリオキサン、コモノマー及び重合触媒としてのヘテロポリ酸を、あらかじめ液相状態を保ちつつ十分に混合し、得られた反応原料混合液を重合装置に供給して共重合反応を行えば、必要触媒量の低減が可能となり、結果としてホルムアルデヒド放出量のより少ないポリアセタール共重合体を得るのに有利であり、より好適な重合方法である。重合温度は、60〜120℃の温度範囲で行なわれる。
【0034】
本発明において、上記の主モノマー(a)とコモノマー(b)とを重合してポリアセタール共重合体を調製するにあたり、重合度を調節するため公知の連鎖移動剤、例えばメチラールの如き低分子量の線状アセタール等を添加することも可能である。
【0035】
また、重合反応は活性水素を有する不純物、例えば水、メタノール、ギ酸等が実質的に存在しない状態、例えばこれらが夫々10ppm以下の状態で行うのが望ましく、このためには、これらの不純物成分を極力含まないように調製されたトリオキサン、環状エーテル及び/又は環状ホルマールを、主モノマーやコモノマーとして使用するのが望ましい。
【0036】
〔アルカリ金属元素若しくはアルカリ土類金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩、カルボン酸塩若しくはその水和物、又はアルカリ金属元素若しくはアルカリ土類金属元素の水酸化物(d)〕
本発明においては、上記のように共重合して得られ、重合触媒を含有すると共に、その末端に不安定な部分を有するポリアセタール共重合体(粗ポリアセタール共重合体)に、アルカリ金属元素若しくはアルカリ土類金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩、カルボン酸塩若しくはその水和物、又はアルカリ金属元素若しくはアルカリ土類金属元素の水酸化物(d)を添加し、溶融混練して、重合触媒の失活を行うと共にポリアセタール共重合体(粗共重合体)が有する不安定末端基を低減して安定化する。以下、「アルカリ金属元素若しくはアルカリ土類金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩、カルボン酸塩若しくはその水和物、又はアルカリ金属元素若しくはアルカリ土類金属元素の水酸化物」のことを(d)成分ともいう。かかる安定化処理は、共重合反応によって得られた粗ポリアセタール共重合体を、洗浄等を行うことなく、上記(d)成分をそのままを添加して処理することにより、より簡便かつ効率的に行うことができる。
【0037】
[アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩、カルボン酸塩又はその水和物]
(d)成分がアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩、カルボン酸塩又はその水和物である場合、(d)成分は、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩、脂肪族カルボン酸塩、不飽和脂肪族カルボン酸塩又は芳香族カルボン酸塩又はその水和物のいずれかであることが好ましい。具体的には、炭酸リチウム、無水炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム一水和物、炭酸ナトリウム十水和物、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム、ギ酸リチウム一水和物、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、ギ酸ルビジウム、ギ酸セシウム、ギ酸マグネシウム、ギ酸カルシウム、ギ酸バリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸ナトリウム三水和物、酢酸カリウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム一水和物、酢酸マグネシウム四水和物、酢酸バリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリ酸カルシウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、乳酸リチウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、シュウ酸リチウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム一水和物、コハク酸リチウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸ニナトリウム、コハク酸ニナトリウム六水和物、コハク酸ニカリウム、アジピン酸ニナトリウム、アジピン酸ニカリウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、乳酸リチウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、リンゴ酸ニナトリウム1/2水和物、リンゴ酸ニナトリウム三水和物、酒石酸ニリチウム一水和物、酒石酸ニナトリウムニ水和物、酒石酸水素カリウム、酒石酸ニカリウム、酒石酸カリウムナトリウム四水和物、酒石酸ナトリウムルビジウム、クエン酸リチウム四水和物、クエン酸一ナトリウム、クエン酸ニナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三ナトリウムニ水和物、アスパラギン酸ナトリウム一水和物、グルタミン酸ニナトリウム一水和物、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、フマル酸一ナトリウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、フタル酸水素カリウム、サリチル酸リチウム一水和物、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
工業的な入手しやすさ等も勘案すると、(d)成分は、炭酸リチウム、無水炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム一水和物、炭酸ナトリウム十水和物、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、ギ酸リチウム一水和物、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、ギ酸マグネシウム、ギ酸カルシウム、ギ酸バリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸ナトリウム三水和物、酢酸カリウム、酢酸カルシウム一水和物、酢酸マグネシウム四水和物、酢酸バリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリ酸カルシウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸ニナトリウム、コハク酸ニナトリウム六水和物、コハク酸ニカリウム、クエン酸リチウム四水和物、クエン酸一ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三ナトリウムニ水和物、アスパラギン酸ナトリウム一水和物、グルタミン酸ニナトリウム、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、フマル酸一ナトリウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、フタル酸水素カリウム、サリチル酸リチウム一水和物、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウムであることが好ましい。
【0039】
さらに、重合触媒(c)を失活させた後のポリアセタール共重合体の色相を考慮すると、(d)成分は、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、無水炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム一水和物、炭酸ナトリウム十水和物、炭酸水素ナトリウム、コハク酸ニナトリウム六水和物、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム等であることがより好ましい。
【0040】
(d)成分がアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩、カルボン酸塩又はその水和物である場合、(d)成分は、一種類であってもよいし、複数を組み合わせて使用してもよく、それらの混合物や複塩等の状態であっても構わない。複塩の例としては、炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムとから成るセスキ炭酸ナトリウムを挙げることができる。
【0041】
(d)成分がアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩、カルボン酸塩又はその水和物である場合、(d)成分の含有量は特に制限されるものではないが、(ア)ポリマー中に残存する触媒量、(イ)重合の諸条件によって生じる不安定末端基の種類や量、(ウ)(d)成分の活性の程度や処理条件(温度、時間、接触速度等)等に応じて適宜変えることが好ましい。具体的に、(d)成分の含有量は、ごく少量であることが好ましく、共重合反応によって得られる粗ポリアセタール共重合体1kgに対し、0.002〜1.0ミリ当量であることが好ましく、0.006ミリ当量〜0.34ミリ当量であることがより好ましく、0.009〜0.17ミリ当量であることがより好ましく、0.009〜0.10ミリ当量であることがさらに好ましい。(d)成分の含有量を粗ポリアセタール共重合体1kgに対し1.0ミリ当量以下にすることで、重合触媒(c)失活後のポリアセタール共重合体のb値を2.0以下にすることができる。また、(d)成分の含有量を粗ポリアセタール共重合体1kgに対し0.34ミリ当量以下にすることで、重合触媒(c)失活後のポリアセタール共重合体ペレットのb値を0.4以下にすることができる。
【0042】
(d)成分の量が過剰であると、重合触媒(c)を失活させた後のポリアセタール共重合体の色相が劣る可能性があり、過少であると、失活の効率若しくは不安定末端部の安定化を十分に達成できない可能性がある点で好ましくない。
【0043】
[アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の水酸化物]
(d)成分がアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の水酸化物である場合、(d)成分は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が最も好適であるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
特に、重合触媒(c)を失活させた後のポリアセタール共重合体の色相を考慮すると、(d)成分はアルカリ金属の水酸化物であることが好ましく、水酸化リチウム又は水酸化ナトリウムであることがより好ましい。
【0045】
(d)成分がアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の水酸化物である場合、上記一般式(2)で示される塩(d)は、一種類であってもよいし、複数を組み合わせて使用してもよく、それらの混合物であっても構わない。
【0046】
(d)成分がアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の水酸化物である場合、(d)成分の含有量は特に制限されるものではないが、(ア)ポリマー中に残存する触媒量、(イ)重合の諸条件によって生じる不安定末端基の種類や量、(ウ)(d)成分の活性の程度や処理条件(温度、時間、接触速度等)等に応じて適宜変えることが好ましい。具体的に、(d)成分の含有量は、ごく少量であることが好ましく、共重合反応によって得られる粗ポリアセタール共重合体1kgに対し、0.001〜0.25ミリ当量であることが好ましく、0.002〜0.10ミリ当量であることがより好ましく、0.002〜0.025ミリ当量であることがさらに好ましい。(d)成分の含有量の下限はメルトインデックス(MI)値に影響し、(d)成分の含有量を粗ポリアセタール共重合体1kgに対し0.001ミリ当量以上にすることでMI値をおよそ10以下にすることができ、0.002ミリ当量以上にすることでMI値を10以下にすることができる。(d)成分の含有量の上限はペレットにおける色相(b値)に影響し、(d)成分の含有量を粗ポリアセタール共重合体1kgに対し0.25ミリ当量以下にすることで、重合触媒(c)失活後のポリアセタール共重合体のb値を2.0以下にすることができる。また、(d)成分の含有量を粗ポリアセタール共重合体1kgに対し0.10ミリ当量以下にすることで、重合触媒(c)失活後のポリアセタール共重合体のb値を1.0以下にすることができる。また、(d)成分の含有量を粗ポリアセタール共重合体1kgに対し0.10ミリ当量以下にすることで、重合触媒(c)失活後のポリアセタール共重合体のb値を0.0以下にすることができる。
【0047】
(d)成分の量が過剰であると、重合触媒(c)を失活させた後のポリアセタール共重合体の色相が劣る可能性があり、過少であると、失活の効率又は不安定末端部の安定化を十分に達成できない可能性がある点で好ましくない。
【0048】
〔触媒の失活処理〕
本発明においては、重合触媒(c)を失活させた後のポリアセタール共重合体の色相を高めるため、(d)成分の含有量はごく少量であることが好ましいが、ごく少量の(d)成分を全体に均一に分散することは極めて難しい。そのため、(d)成分の添加は、次の(ア)〜(ウ)のいずれかによって行われることが好ましい。
(ア)(d)成分を溶液として、共重合反応によって得られる粗ポリアセタール共重合体に対して直接添加する。
(イ)(d)成分の溶液をポリアセタール共重合体のパウダーに含ませ、均一に分散させた後、分散後のパウダーを粗ポリアセタール共重合体に添加する。
(ウ)(d)成分を固体の状態のままポリアセタール共重合体のパウダーに均一に分散させた後、分散後のパウダーを前記粗ポリアセタール共重合体に添加する。
【0049】
ポリアセタール共重合体のパウダーに含ませる場合、混合には、水平円筒型、V型、リボン型、パドル型、高速流動型等の一般的な混合機を用いることができる。なお、混合物はそのまま溶融処理しても、加熱、減圧等により溶媒を留去した後溶融処理してもよい。また、失活・安定化剤溶液を、押出機のフィード口及び/又は途中からインジェクション等により供給したりしてもよい。この際、失活・安定化剤溶液を、多段で分割供給してもよい。
【0050】
上記のとおり(d)成分を添加することでごく少量の(d)成分を全体に均一に分散でき、その結果、色差計を使用して測定した、重合触媒(c)失活後のポリアセタール共重合体のb値を2.0以下にすることができる。なお、本明細書におけるb値は、色差計SE−2000(日本電色工業社製)を用いて、ペレット測定用のセル(丸セル)にペレットを所定量入れ、試料台に置き、カバーを被せ、測定したときに表示される値である。
【0051】
本発明においては、重合後、触媒の失活処理を行うにあたり、未反応モノマーが少ない程好ましく、未反応モノマー(主モノマーとコモノマーとの合計を示す)は粗共重合体中に10重量%以下、更に5重量%以下、特に好ましくは3重量%以下である。これにより、重合によって生成した粗ポリアセタール共重合体を、洗浄を行うことなく処理するという、本発明の特に望ましい態様を達成することができる。未反応モノマーを低減するには、一般には重合率を一定以上に上げればよく、これは本発明の場合、使用する触媒の量と重合時間(連続式においては滞留時間)を適宜調節することにより容易に達成され、活性が高いヘテロポリ酸触媒を使用するので少量の触媒でも比較的短時間に達成することができる。また、共重合反応後、一部の残存モノマーを蒸発、気化させて除去し、所定の残存モノマー量になるようにしてもよい。なお、共重合中又は共重合後、気体として回収された未反応トリオキサン及びコモノマーは液化したりして、そのまま原料モノマーの一部として再使用することも可能であり、この場合はより経済的である。
【0052】
また、必要に応じて、従来公知の触媒失活剤や不安定末端の分解処理剤を上記(d)成分と併用することができる。
【0053】
本発明において、失活剤・安定化処理剤として機能する(d)成分の添加は、粗ポリアセタール共重合体の溶融前又は溶融後のいずれの段階で行ってもよく、その両方の段階で行ってもよい。また、(d)成分の添加方法としては分割し、多段で供給してもよい。
【0054】
また、失活・安定化処理剤として(d)成分を添加する場合に、粗共重合体が細かな粉粒体であることが好ましく、このためには反応機が塊状重合物を十分粉砕する機能を有するものが好ましいが、重合後の反応物を別に粉砕機を用いて粉砕してもよい。失活処理における粗共重合体の粒度は、少なくとも90重量%以上が10mm以下、好ましくは4mm以下、更に好ましくは2mm以下である。
【0055】
〔炭素数が4以上であり、カルボキシル基を2以上含む脂肪族多価カルボン酸(e)〕
本発明は、上記の工程を経て得られたポリアセタール共重合体に対して、炭素数が4以上であり、カルボキシル基を2以上含む脂肪族多価カルボン酸(e)と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(f)とを含有させる。
【0056】
これまで、pKaが3.6以上のカルボキシル基含有化合物を添加することにより、ポリアセタール樹脂の加工安定性を著しく向上させ、ホルムアルデヒドの発生を著しく抑制することが提案されていた。しかしながら、カルボキシル基含有化合物は、pKaが3.6以上である限り特に限定されるものでなく、これまで、特定のカルボキシル基含有化合物が、成形体の外観改善、成形機内部にあるポリアセタール樹脂組成物の変色防止に寄与すること等は、知られていなかった。
【0057】
本発明は、カルボキシル基含有化合物の中でも、カルボキシル基を2以上含む脂肪族多価カルボン酸であり、かつ、炭素数が4以上であることを特徴としている。
【0058】
モノカルボン酸は、カルボキシル基を2以上含むカルボン酸に比べ、沸点が低く、また、ポリアセタールとの相溶性が乏しい。ポリアセタール樹脂組成物がカルボン酸を含有するとしても、カルボン酸がモノカルボン酸である場合、たとえモノカルボン酸の量を増やして、モノカルボン酸に含まれるカルボキシル基の量を、好適な含有量のジカルボン酸に含まれるカルボキシル基の量の範囲内にしたとしても、沸点の違い及びポリアセタールとの相溶性に起因して、ホルムアルデヒドの発生量を本発明ほど低レベルに抑制できず、成形体の外観も本発明に比べて劣る。したがって、カルボン酸がモノカルボン酸であることは、好ましくない。
【0059】
また、ポリアセタール樹脂組成物に含まれるカルボン酸がカルボキシル基を2以上含むとしても、カルボン酸がエタン二酸(シュウ酸,炭素数が2である脂肪族飽和ジカルボン酸)、プロパン二酸(マロン酸,炭素数が3である脂肪族飽和ジカルボン酸)等である場合、カルボン酸自身の熱安定性が乏しく、酸強度が非常に強いため、ポリアセタールの分解を促進する場合があり、好ましくない。
【0060】
脂肪族多価カルボン酸(e)は、カルボキシル基を2以上含む多価カルボン酸であり、かつ、炭素数が4以上であれば特に限定されない。
【0061】
本明細書において、脂肪族とは、非環式又は環式の非芳香族性であることをいい、直鎖、分枝、脂環式(非芳香環)を含み得る概念である。
【0062】
多価カルボン酸化合物が脂肪族化合物であると、芳香族化合物である場合に比べ、ホルムアルデヒドの発生量をよりいっそう低レベルに抑制でき、成形体の外観、成形機内部での滞留に起因するポリアセタール樹脂組成物の変色においても優れる。
【0063】
多価カルボン酸は、カルボキシル基を2以上含むものであれば特に限定されるものでなく、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸であってもよい。また、カルボン酸は、トリカルボン酸のモノエステル、テトラカルボン酸のモノエステル、テトラカルボン酸のジエステルであってもよい。
【0064】
また、カルボン酸は、飽和カルボン酸であってもよいし、不飽和カルボン酸であってもよい。
【0065】
炭素数が4以上である脂肪族飽和ジカルボン酸の具体例として、ブタン二酸(コハク酸,炭素数が4である脂肪族飽和ジカルボン酸)、ペンタン二酸(グルタル酸,炭素数が5である脂肪族飽和ジカルボン酸)、ヘキサン二酸(アジピン酸,炭素数が6である脂肪族飽和ジカルボン酸)、ヘプタン二酸(ピメリン酸,炭素数が7である脂肪族飽和ジカルボン酸)、オクタン二酸(スベリン酸,コルク酸,炭素数が8である脂肪族飽和ジカルボン酸)、ノナン二酸(アゼライン酸,炭素数が9である脂肪族飽和ジカルボン酸)、デカン二酸(セバシン酸,炭素数が10である脂肪族飽和ジカルボン酸)、ウンデカン二酸(炭素数が11である脂肪族飽和ジカルボン酸)、ドデカン二酸(炭素数が12である脂肪族飽和ジカルボン酸)が挙げられる。
【0066】
また、炭素数が4以上である脂肪族不飽和ジカルボン酸の具体例として、ブテン二酸(フマル酸,炭素数が4である脂肪族不飽和ジカルボン酸)、ペンテン二酸(グルタコン酸,炭素数が5である脂肪族不飽和ジカルボン酸)、ヘキセン二酸(ジヒドロムコン酸,炭素数が6である脂肪族不飽和ジカルボン酸)、オクテン二酸(炭素数が8である脂肪族不飽和ジカルボン酸)、デセン二酸(炭素数が10である脂肪族不飽和ジカルボン酸)、ウンデセン二酸(炭素数が11である脂肪族不飽和ジカルボン酸)、ドデセン二酸(炭素数が12である脂肪族不飽和ジカルボン酸)等が挙げられる。
【0067】
炭素数が4以上である脂肪族トリカルボン酸の具体例として、2−ヒドロキシプロパン−1,2,3−トリカルボン酸(クエン酸)等が挙げられる。炭素数が4以上である脂肪族テトラカルボン酸の具体例として、エチレンテトラカルボン酸等が挙げられる。
【0068】
炭素数が4以上であり、カルボキシル基を2以上含む脂肪族多価カルボン酸として、ポリマー鎖にペンダントとしてカルボキシル基を有する態様も含む。具体例としては、エチレンアクリル酸共重合樹脂、エチレンメタクリル酸共重合樹脂等が挙げられる。
【0069】
本発明において、(e)成分の配合量は、ポリアセタール樹脂組成物100重量部に対して0.002重量部以上0.1重量部以下である。(e)成分の配合量は、0.005重量部以上0.02重量部以下であることが好ましい。(e)成分の配合量が少ないと、ポリアセタール樹脂組成物に十分な耐熱安定性を付与することができず、加工時における樹脂の分解によるホルムアルデヒドの発生等の要因になり得るため、好ましくない。一方、(e)成分の配合量が過剰の場合、得られる樹脂組成物の耐油性(耐グリース性)が十分でなく、樹脂成形体が機械油やグリース等に触れることによって樹脂成形体の腐食が進行する可能性があり、好ましくない。
【0070】
〔ヒンダードフェノール系酸化防止剤(f)〕
本発明で使用可能なヒンダードフェノール系酸化防止剤(f)は、特に限定されるものでなく、例えば、単環式ヒンダードフェノール化合物(例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール等)、炭化水素基又はイオウ原子を含む基で連結された多環式ヒンダードフェノール化合物(例えば、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等)、エステル基又はアミド基を有するヒンダードフェノール化合物(例えば、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−2−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、ジ−n−オクタデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ジヒドロシンナムアミド、N,N’−エチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’−テトラメチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’−ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’−エチレンビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’−ヘキサメチレンビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、N,N’−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート等が例示される。
【0071】
本発明においては、これらの酸化防止剤から選ばれた少なくとも一種又は二種以上を使用することができる。
【0072】
本発明におけるヒンダードフェノール系酸化防止剤(f)の含有量は、ポリアセタール共重合体100重量部に対し、0.01重量部以上0.5重量部以下であり、好ましくは0.02重量部以上0.4重量部以下である。ヒンダードフェノール系酸化防止剤(f)の配合量が少ないと、酸化防止特性が十分でなく、成形加工時等の高温での短期的な酸化劣化や常温での長期的な使用下での酸化劣化に対するポリアセタール樹脂組成物の安定性が不十分なものとなりやすいため、好ましくない。一方、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(f)の配合量が過剰の場合、不経済であるばかりか、得られる樹脂組成物の機械的物性を損ねる要因にもなる場合がある。
【0073】
〔その他の成分〕
ポリアセタール樹脂組成物は、必要に応じて他の成分を含有するものであってもよい。
本発明の目的・効果を阻害しない限り、ポリアセタール樹脂組成物に対する公知の安定剤を1種又は2種以上添加することができる。また、本発明の目的・効果を阻害しない限り、必要に応じて、熱可塑性樹脂に対する一般的な添加剤、例えば染料、顔料等の着色剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤、或いは、有機高分子材料、無機又は有機の繊維状、粉体状、板状の充填剤等を1種又は2種以上添加することができる。
【0074】
〔溶融混練処理〕
溶融混練処理装置については特に限定されないが、溶融した共重合体を混練する機能を有し、好ましくはベント機能を有するものであり、例えば、少なくとも1つのベント孔を有する単軸又は多軸の連続押出し混練機、コニーダー等が挙げられる。本発明はこの溶融混練処理において、重合触媒の完全な失活及び不安定末端部の低減安定化が行なわれる。溶融混練処理は、共重合体の融点以上260℃までの温度範囲が好ましい。260℃より高いと重合体の分解劣化が生じ好ましくない。
【0075】
さらに、この段階で必要に応じ、各種のポリアセタール樹脂の安定剤として公知の物質を添加しても何ら差し支えない。さらに、例えばガラス繊維の如き無機充填剤、結晶化促進剤(核剤)、離型剤、抗酸化剤等を添加してもよい。
【0076】
上記のように、粗共重合体に失活・安定化処理剤として(d)成分を添加し、溶融混練処理した後、通常、分解して生じたホルムアルデヒドガス、未反応モノマー、オリゴマー、失活・安定化剤等が押出機のベント部より減圧下で除去され、ペレット等に成形されて樹脂加工用の製品となる。ペレットは必要に応じて乾燥される。乾燥する場合、例えば、135℃、4時間程度乾燥させる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるもので
はない。
【0078】
<実施例1〜34、比較例1〜84>
〔主モノマー(a)であるトリオキサンと、コモノマー(b)である環状エーテル及び/又は環状ホルマールとの共重合〕
重合反応装置として連続式二軸重合機を用いた。この重合機は、外側に加熱用又は冷却用の媒体を通すためのジャケットが付いており、その内部には撹拌、推進用の多数のバドルを付した2本の回転軸が長手方向に設けられている。この二軸重合機のジャケットに80℃の温水を通し、2本の回転軸を一定の速度で回転させながら、その一端に、連鎖移動剤としてのメチラールを1000ppm含有する、主モノマー(a)としてのトリオキサン96.2重量%と、コモノマー(b)としての1,3−ジオキソラン3.8重量%とを含有する混合液を連続的に供給するとともに、上記混合液に、重合触媒(c)として、リンタングステン酸を、全モノマーに対して3ppmの量で連続添加して共重合を行った。表1において、重合触媒の添加量は全モノマーの合計に対する重量比率(単位:ppm)である。
【0079】
〔重合触媒(c)の失活〕
共重合による反応生成物(粗ポリアセタール共重合体)を、重合機の他端に設けられた吐出口より排出するとともに、触媒の失活のため、表1〜表3に示した塩(d)を添加した。塩(d)の添加は次のようにして行った。表1〜表3の「添加方法」の欄が「固体」である場合、(d)成分を固体の状態のままポリアセタール共重合体のパウダーに均一に分散させた後、分散後のパウダーを上記反応生成物に添加した。表1〜表3の「添加方法」の欄が「水溶液」である場合、所定のモル数になるよう(d)成分を含む10wt%の水溶液に調製し、その水溶液をポリアセタール共重合体のパウダーに10mL添加し、上記反応生成物に添加した。
【0080】
〔(e)成分及び(f)成分の溶融混練〕
次いで、表1〜表3に示す多価カルボン酸(e)を表1〜表3に示す量で添加するとともに、酸化防止剤としてとしてトリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェール)プロピオネート〕0.3重量%を添加し、ベント付き2軸押出機を用いて温度220℃、ベント部の真空度5mmHgで溶融混練して押し出し、実施例及び比較例に係るポリアセタール共重合体のペレットを調製した。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
表1〜表3において、各種成分は、以下のとおりである。
(d)失活剤
CTUグアナミン(3,9−ビス[2−(3,5−ジアミノ−2,4,6−卜リアザフェニル)エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)
CMTUグアナミン(3,9−ビス[1−(3,5−ジアミノ−2,4,6−卜リアザフェニル)メチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)
ベンゾグアナミン(2,4−ジアミノ−6−フェニル−1,3,5−トリアジン)
(e)多価カルボン酸
エチレンメタクリル酸共重合体(製品名:ニュクレルN1525,三井・デュポンポリケミカル社製)
エチレンアクリル酸共重合体(製品名:プリマコール 3460、ダウケミカルカンパニー社製)
【0085】
〔評価〕
実施例及び比較例に係るペレット状のポリアセタール樹脂組成物を評価するため、ホルムアルデヒド発生量及び成形品外観を評価した。
【0086】
[溶融体からのホルムアルデヒド発生量]
5gのペレットを正確に秤量し、金属製容器中に200℃で5分間保持した後、容器内の雰囲気を蒸留水中に吸収させる。この水溶液のホルムアルデヒド量をJISK0102,29.(ホルムアルデヒドの項)に従って定量し、ペレットから発生するホルムアルデヒドガス量(ppm)を算出した。結果を表1〜表3に示す。
【0087】
[成形品外観]
表面外観評価:株式会社日本製鋼所製射出成形機「J75SS2A」(φ35)を用いて、φ1.5mmのセンター1点ピンゲートの50mm角、3mm厚さの平板を以下の条件で射出成形した。得られた成形品は(1)ゲート付近のフローマークの大きさ(mm)、及び(2)表面荒れの目視評価の2項目について表面外観評価を行った。(1)ではフローマークの大きさが小さいほど良好であり、1から3までの三段階評価とした。1は良好であることを示し、2はやや不良であることを示し、3は不良であることを示す。結果を表1〜表3に示す。
(成形条件)
シリンダー温度200−200−180−150℃
金型温度:90℃
保圧:750kg/cm
2
(射出条件)
射出時間:5秒
計量(1次−2次−保圧):25−20−8mm
速度(1次−2次):25−2.5mm/sec
【0088】
[結果]
重合触媒(c)の失活剤(d)として適切な材料を適切な割合で使用し、かつ、ポリアセタール共重合体に混合する多価カルボン酸(e)として適切な材料を適切な割合で使用して得られるポリアセタール樹脂組成物は、成形体からのホルムアルデヒドの発生量を低レベルに抑制すること、及び成形体の外観をより良好にすることを両立させることができる(実施例1〜34)。そのため、実施例のポリアセタール樹脂組成物は、極めて汎用性が高いといえる。
【0089】
一方、ポリアセタール共重合体に脂肪族多価カルボン酸(e)を混合しない場合、ホルムアルデヒドの発生量を実施例ほど十分に抑制できない(比較例1〜6)。
【0090】
また、失活剤(d)が、アルカリ金属元素若しくはアルカリ土類金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩、カルボン酸塩、又はアルカリ金属元素若しくはアルカリ土類金属元素の水酸化物でないと、ホルムアルデヒドの発生量を実施例ほど十分に抑制できない(比較例7〜48)。
【0091】
また、(e)成分に関し、ポリアセタール樹脂組成物がカルボン酸を含有するとしても、カルボン酸がモノカルボン酸である場合、ホルムアルデヒドの発生量を実施例ほど十分に抑制できないだけでなく、実施例に比べて成形体の外観が劣る(比較例49〜51、55〜57、61〜63、67〜69、73〜75及び79〜81)。
【0092】
また、(e)成分に関し、ポリアセタール樹脂組成物がカルボキシル基を2以上含む多価カルボン酸を含有するとしても、カルボン酸の炭素数が4未満の場合、ホルムアルデヒドの発生量を抑制できず、成型体の外観も劣っている(比較例52、53、58、59、64、65、70、71、76、77、82及び83)。
【0093】
また、ポリアセタール樹脂組成物がジカルボン酸を含有するとしても、ジカルボン酸が芳香族化合物である場合、ホルムアルデヒドの発生量を実施例ほど低レベルに抑制できなく、成形体の外観においても劣る(比較例54、60、66、72、78及び84)。