特開2017-115526(P2017-115526A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友大阪セメント株式会社の特許一覧 ▶ 鹿島道路株式会社の特許一覧 ▶ 一般財団法人阪神高速道路技術センターの特許一覧

<>
  • 特開2017115526-コンクリートの施工方法 図000008
  • 特開2017115526-コンクリートの施工方法 図000009
  • 特開2017115526-コンクリートの施工方法 図000010
  • 特開2017115526-コンクリートの施工方法 図000011
  • 特開2017115526-コンクリートの施工方法 図000012
  • 特開2017115526-コンクリートの施工方法 図000013
  • 特開2017115526-コンクリートの施工方法 図000014
  • 特開2017115526-コンクリートの施工方法 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-115526(P2017-115526A)
(43)【公開日】2017年6月29日
(54)【発明の名称】コンクリートの施工方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20170602BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20170602BHJP
【FI】
   E01D19/12
   E04G21/02 103Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-254763(P2015-254763)
(22)【出願日】2015年12月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000181354
【氏名又は名称】鹿島道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594094124
【氏名又は名称】一般財団法人阪神高速道路技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】高山 和久
(72)【発明者】
【氏名】山田 ひとみ
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 修
(72)【発明者】
【氏名】横田 慎也
(72)【発明者】
【氏名】神下 竜三
(72)【発明者】
【氏名】久利 良夫
【テーマコード(参考)】
2D059
2E172
【Fターム(参考)】
2D059AA17
2E172AA05
2E172DB07
(57)【要約】
【課題】鋼床版上にコンクリートを打設するとき、鋼床版とコンクリートとの接着強度を十分に向上させることが容易にできるコンクリートの施工方法を提供する。
【解決手段】鋼床版の表面に樹脂接着剤を塗布する塗布工程と、前記樹脂接着剤が塗布された前記鋼床版の表面に、表面乾燥飽水状態以下である砂を散布する散布工程と、前記砂が散布された前記鋼床版の表面にコンクリートを打設する打設工程とを備えるコンクリートの施工方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼床版の表面に樹脂接着剤を塗布する塗布工程と、
前記樹脂接着剤が塗布された前記鋼床版の表面に、表面乾燥飽水状態以下である砂を散布する散布工程と、
前記砂が散布された前記鋼床版の表面にコンクリートを打設する打設工程とを備えるコンクリートの施工方法。
【請求項2】
散布される前の砂を、前記表面乾燥飽水状態以下になるように調整する調整工程をさらに備える請求項1に記載のコンクリートの施工方法。
【請求項3】
前記砂の粒径が、0.15mmを超えて5.0mm以下である請求項1または2に記載のコンクリートの施工方法。
【請求項4】
前記散布工程において、砂の散布量が0.2kg/m以上1.5kg/m未満である請求項1〜3のいずれかに記載のコンクリートの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼床版上にコンクリートを打設するコンクリートの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁等といった鋼床版を有する構造物の増設時や補強工事時において、鋼床版の表面にコンクリートを打設して、これらを一体化させることが行われている。
【0003】
しかし、このように鋼床版上にコンクリートを打設すると、鋼床版とコンクリートとの間の接着強度が十分ではない場合がある。
【0004】
一方、コンクリートを有する構造物の増設時や補強工事時において、既設のコンクリートに新たなコンクリートを打設して、既設のコンクリート(旧コンクリート)と新しいコンクリート(新コンクリート)とを一体化させるコンクリートの施工方法が知られている。
かかる施工方法で施工されたコンクリート構造物は、旧コンクリートと新コンクリートとが接触する面において強度、水密性が低下しやすくなり、新旧コンクリート間の接着強度が低下することがあることから、この接着強度を向上させる技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
例えば、既設コンクリートの表面に、ショットブラスト等によって物理的に凹凸面を形成し、この凹凸面に樹脂接着剤を塗布した後、その上に新しいコンクリートを打設するコンクリートの施工方法が提案されている。
【0006】
また、例えば、既設コンクリート上に樹脂材料を塗布した上から骨材を散布して付着を確保するための凹凸をつけ、その上に新しいコンクリートを打設するコンクリートの施工方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5341466号公報
【特許文献2】特開2013−91982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献1、2に記載された技術は、そもそも、既設のコンクリート上に新たなコンクリートを打設する技術であり、鋼床版上にコンクリートを打設する技術ではない。
【0009】
また、上記特許文献1に記載された技術では、既設のコンクリートの表面に物理的な凹凸を形成する必要があるため、作業が容易であるとはいい難い。しかも、既設コンクリートよりも表面が硬い鋼床版では、物理的な凹凸を形成することが一層困難となる。
【0010】
さらに、上記特許文献2に記載された技術では、鋼床版とコンクリートとの間の接着強度を十分に向上させることが困難である。そもそも、鋼床版とコンクリートとの間の接着強度は、コンクリート同士の間の接着強度よりも低く、このように既設のコンクリートと鋼床版とでは、表面へのコンクリートの接着状態が異なるため、上記特許文献2に記載された技術を鋼床版に適用しても、接着強度を十分に向上させることは困難である。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑み、鋼床版上にコンクリートを打設するとき、鋼床版とコンクリートとの接着強度を十分に向上させることが容易にできるコンクリートの施工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のコンクリートの施工方法は、
鋼床版の表面に樹脂接着剤を塗布する塗布工程と、
前記樹脂接着剤が塗布された前記鋼床版の表面に、表面乾燥飽水状態以下である砂を散布する散布工程と、
前記砂が散布された前記鋼床版の表面にコンクリートを打設する打設工程とを備える。
【0013】
ここで、「表面乾燥飽水状態以下」とは、表面乾燥飽水状態、または、該表面乾燥飽水状態よりも乾燥している状態を意味する。
より具体的には、「表面乾燥飽水状態以下」とは、JIS A 1109:2006の「細骨材の密度および吸水率試験方法」における「4.試料 d)」の記載に従って、砂をフローコーンに軽く詰め、上面を平らにならした後、試料の上面から突き棒の重さだけで力を加えず速やかに25回突き、突き固めた後、残った空間を再度満たすことなく、フローコーンを静かに鉛直に引き上げたとき、砂のコーンがスランプした状態を意味する。一方、上記において、フローコーンを引き上げたとき、砂のコーンが崩れずに残っている状態は、表面乾燥飽水状態を超えている状態に相当する。
【0014】
かかる構成によれば、鋼床版上にコンクリートを打設するとき、鋼床版とコンクリートとの接着強度を十分に向上させることが容易にできる。
ここで、表面乾燥飽水状態を超えている砂の表面には、該砂を覆う水の膜が形成され易いため、この砂が鋼床版とコンクリートとの間に存在すると、上記水の膜によって鋼床版及びコンクリートへの砂の付着が阻害されることになる。また、上記水の膜によって砂同士が凝集し、その分、砂の表面積が小さくなってしまう。
しかし、表面乾燥飽水状態以下である砂の表面には、上記水の膜が形成され難いため、この砂が鋼床版とコンクリートとの間に存在することで、上記水の膜に起因した付着阻害の発生が抑制されて、鋼床版及びコンクリートの双方の接着面に砂が付着し易くなる。そして、このように付着した砂によって、鋼床版及びコンクリートの双方の接着面に対して凹凸を形成することができるため、塗布された樹脂接着剤の接着面積(表面積)が大きくなり、アンカー効果を発揮させることができる。これにより、塗布された樹脂接着剤による接着強度を向上させることができる。よって、煩雑な作業を行うことなく容易に、鋼床版とコンクリートとの間の接着強度を十分に向上させることができる。
【0015】
上記構成のコンクリートの施工方法においては、
散布される前の砂を、前記表面乾燥飽水状態以下になるように調整する調整工程をさらに備えることが好ましい。
【0016】
前記調整工程をさらに備えることによって、上記特定の含水比率(表面乾燥飽水状態以下)の砂を確実に得て散布することができる。よって、より確実に鋼床版とコンクリートとの接着強度を向上させることができる。
【0017】
上記構成のコンクリートの施工方法においては、
前記砂の粒径が、0.15mmを超えて5.0mm以下であることが好ましい。
【0018】
前記砂の粒径が上記範囲であることによって、鋼床版とコンクリートとの接着強度、特に引張接着強度をより向上させることができる。
【0019】
上記構成のコンクリートの施工方法においては、
前記散布工程において、砂の散布量が0.2kg/m以上1.5kg/m未満であることが好ましい。
【0020】
前記砂の散布量が上記範囲であることによって、鋼床版とコンクリートとの接着強度、特に引張接着強度をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、鋼床版上にコンクリートを打設するとき、鋼床版とコンクリートとの接着強度を十分に向上させることが容易にできるコンクリートの施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】砂の表面乾燥状態と引張接着強度との関係を示すグラフ
図2】砂の粒径と引張接着強度との関係を示すグラフ
図3】砂の散布量と引張接着強度との関係を示すグラフ
図4】せん断強度試験に用いる供試体を示す概略図
図5】せん断強度試験に用いる試験装置を示す概略図
図6】砂の表面乾燥状態とせん断接着強度との関係を示すグラフ
図7】砂の粒径とせん断接着強度との関係を示すグラフ
図8】砂の散布量とせん断接着強度との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のコンクリートの施工方法の一実施形態について説明する。
本実施形態のコンクリートの施工方法は、鋼床版の表面に樹脂接着剤を塗布する塗布工程と、前記樹脂接着剤が塗布された前記鋼床版の表面に表面乾燥飽水状態以下である砂を散布する散布工程と、前記砂が散布された前記鋼床版の表面にコンクリートを打設する打設工程とを備えるコンクリートの施工方法である。
【0024】
本実施形態の施工方法は、鋼床版にコンクリートを打ち込むことで、鋼床版とコンクリートとが一体化された構造体を施工する方法である。
鋼床版は、例えば、すでに完成された建物、橋、道路等コンクリート構造物の鋼床版部分であってもよく、あるいは、建設中の構造物の一部を構成する鋼床版であってもよい。
【0025】
コンクリートは特に限定されるものではなく、セメント、細骨材、粗骨材、水、その他混和材、混和剤等を含む通常のコンクリートであれば、どのようなコンクリートであってもよい。
また、コンクリートが繊維を含んでいてもよい。すなわち、コンクリートが、繊維を含むことによって補強された繊維補強コンクリートであってもよい。
【0026】
(塗布工程)
本実施形態では、鋼床版の表面に樹脂接着剤を塗布する塗布工程が実施される。
本実施形態で用いられる樹脂接着剤は、鋼床版にコンクリートを接着可能な樹脂接着剤であれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリマーモルタル等のモルタル、熱硬化性樹脂系の合成樹脂接着剤、などが挙げられる。
中でも、接着強度の観点からエポキシ樹脂系の合成樹脂接着剤が好ましく挙げられる。
【0027】
塗布工程において樹脂接着剤を塗布する鋼床版の表面は、鋼床版の表面のうちコンクリートが打設される面(コンクリートとの接触面)の全面であってもよく、あるいは、コンクリートとの接触面の一部であってもよい。接着強度の観点からは、コンクリートとの接触面の全面に樹脂接着剤を塗布することが好ましい。
【0028】
樹脂接着剤の塗布量は、樹脂接着剤の種類、鋼床版の種類、コンクリートの種類、必要とする接着強度等に応じて適宜設定可能であるが、たとえば、エポキシ樹脂系の樹脂接着剤を用いた場合には0.5kg/m以上2.0kg/m以下程度であることが接着強度の向上性の観点から好ましい。
また、樹脂接着剤としては、セメントの水和反応を阻害しないものが好ましい。このような樹脂接着剤としては、フレッシュコンクリートの打ち継ぎに用いられる高耐久型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0029】
(散布工程)
塗布工程を実施した後に、前記樹脂接着剤が塗布された前記鋼床版の表面に表面乾燥飽水状態以下である砂を散布する散布工程が実施される。
この工程は、樹脂接着剤が硬化する前に実施される。
上記砂は、表面乾燥飽水状態以下であり、好ましくは絶対乾燥(絶乾)状態である。
砂が表面乾燥飽水状態以下であることによって、この砂が樹脂接着剤の表面とコンクリートとの界面に存在した場合に、樹脂接着剤の接着強度を向上させることができる。
【0030】
本実施形態において、砂が表面乾燥飽水状態以下であるとは、JIS A 1109:2006の「細骨材の密度および吸水率試験方法」における「4.試料 d)」の記載に従って、砂をフローコーンに軽く詰め、上面を平らにならした後、試料の上面から突き棒の重さだけで力を加えず速やかに25回突き、突き固めた後、残った空間を再度満たすことなく、フローコーンを静かに鉛直に引き上げたとき、砂のコーンがスランプした状態を意味する。一方、上記において、フローコーンを引き上げたとき、砂のコーンが崩れずに残っている状態は、表面乾燥飽水状態を超えている状態に相当する。
また、絶乾状態とは、105±5℃で加温したとき、一定質量であるような砂の状態を意味する。
【0031】
砂としては、例えば、珪(硅)砂や川砂、砕砂、海砂などが挙げられる。
【0032】
砂としては、硫酸塩、硫化物等の硫黄を含む成分や、酸化物等を含まないことが好ましい。また、砂はゼオライトを含まないことが好ましい。
これらの各成分の含有量が多くなると、樹脂接着剤による接着強度の向上を抑制するおそれがある。
【0033】
砂としては、例えば、粒径が0.15mmを超えて5.0mm以下、好ましくは、0.6mmを超えて1.2mm以下であるものが挙げられる。
粒径が上記範囲であることによって、樹脂接着剤による接着強度、特に引張接着強度をより向上させ易くなる。
【0034】
本実施形態における砂の粒径の範囲は、JIS Z 8801−1:2006に規定されている上限および下限のふるいを連続するふるいとして用いて、JIS A 1102:2014に記載されている方法でふるいにかけて分級した砂をいう。
上限および下限のふるいとは、JIS A 1102:2014の「3.2 ふるい」に記載されているふるいをいい、すなわち、JIS Z 8801−1:2006に規定されている公称目開き4.75mmのふるいを5.0mmふるいといい、公称目開き600μmのふるいを0.6mmふるいという。
例えば、粒径が0.15mmを超えて5.0mm以下である砂とは、前記5.0mmふるいと、前記0.15mmふるいとを連続するふるいとして用いて前記方法で分級した砂を90質量%以上含む砂をいう。
【0035】
砂としては、例えば、JIS A 1137:2014「骨材中に含まれる粘土塊量の試験方法」で測定される粘土塊量が0.5%以下、好ましくは0.3%以下である砂が挙げられる。
粘土塊量が上記範囲であることによって、樹脂接着剤による接着強度をより向上させ易くなる。
【0036】
砂としては、例えば、JIS A 1103:2014「骨材の微粒分量試験方法」で測定される微粒分量が3.0%以下、好ましくは1.0%以下である砂が挙げられる。
微粒分量が上記範囲であることによって、樹脂接着剤による接着強度をより向上させ易くなる。
【0037】
前記散布工程において散布される砂の量(散布量)は特に限定されるものではないが、例えば、0.2kg/m以上1.5kg/m未満、好ましくは、0.6kg/m以上0.8kg/m以下であることが挙げられる。
砂の散布量が前記範囲であることによって、樹脂接着剤による接着強度、特に引張接着強度をより向上させ易くなる。
【0038】
散布工程において砂を散布する手段は特に限定されるものではないが、例えば、サンドスプレッダーなどの散布手段が、より均一に樹脂接着剤が塗布された面に砂を散布できる点で好ましい。
【0039】
(調整工程)
本実施形態のコンクリートの施工方法は、例えば、散布工程で散布される前の砂を表面乾燥飽水状態以下になるように調整する調整工程をさらに備えていてもよい。
調整工程における砂の表面乾燥状態(砂の表面の水の付着状態)を調整する方法としては、上記のようにJIS A 1109:2006に従ってフローコーンを引き上げたとき、砂のコーンがスランプした状態になる砂を選別することで調整してもよい。
あるいは、砂を乾燥して、上記フローコーンを引き上げたとき、砂のコーンがスランプした状態になるように調整してもよい。
砂の乾燥方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、天日で乾燥させること、バーナー等の加熱手段で加熱して乾燥させること、風にさらして乾燥させること、湿度を調整した室内において乾燥させることなどが挙げられる。
【0040】
調整工程における調整方法としては、乾燥することが好ましく、特に、ジェットヒーターによる乾燥のように乾燥時間が短時間であるような乾燥方法が、時間短縮の観点から好ましい。
好ましい乾燥条件としては、例えば、90℃以上110℃で、3時間以上12時間以下の乾燥条件で乾燥すること等が挙げられる。
また、砂を絶乾状態に調整する場合には、105±5℃で一定質量になるまで乾燥することが挙げられる。
【0041】
調整工程は、散布工程を実施するよりも前であればいつ実施してもよい。
例えば、調整工程をコンクリートの施工現場とは異なる場所、例えば、工場等で実施して、該工場等で前記表面乾燥飽水状態以下に調整された砂を施工現場に移送して、散布工程で散布してもよい。
【0042】
かかる調整工程を備えることによって、上記特定の含水比率(表面乾燥飽水状態以下)の砂を確実に得て散布することができる。よって、より確実に鋼床版とコンクリートとの接着強度を向上させることができる。
また、上記のように調整工程を備えることによって、用いる砂の吸水率(JIS A 1109:2006)や含水状態等が異なっても、より確実に、砂を表面乾燥飽水状態以下に調整することが可能となる。
【0043】
(打設工程)
本実施形態のコンクリートの施工方法では、前記散布工程を実施後、前記砂が散布された鋼床版の表面にコンクリートを打設する打設工程が実施される。
打設工程においては、鋼床版における、樹脂接着剤が塗布され、且つ、砂が散布された面をコンクリートとの接触面として、その上にコンクリートを打設する。
なお、コンクリートの打設時に、鉄筋等の鋼材を配置してもよい。
また、この工程は、樹脂接着剤が硬化する前に実施される。すなわち、樹脂接着剤が硬化する前に、上記砂の散布工程と、当該打設工程とが実施される。このように、樹脂接着剤が硬化する前に、コンクリートを打設することによって、コンクリート自身の接着力に加えて、樹脂接着剤の接着力によっても、鋼床版とコンクリートとを接着することができるため、より強固に、鋼床版とコンクリートとを接着させることができる。
【0044】
本実施形態のコンクリートの施工方法では、前記表面乾燥飽水状態以下である砂を、樹脂接着剤を塗布した表面に散布することで、以下のような効果が得られる。
すなわち、樹脂接着剤の上から散布される砂が表面乾燥飽水状態以下であることで、比較的乾燥した砂が鋼床版に塗布された樹脂接着剤と、コンクリートとの界面に存在することになる。上記表面乾燥飽水状態以下である砂の表面には、該砂を覆う水の膜が形成され難いため、この砂が鋼床版とコンクリートとの間(界面)に存在することで、上記水の膜に起因した付着阻害の発生が抑制されて、鋼床版及びコンクリートの双方の接着面に砂が付着し易くなる。そして、このように付着した砂によって、鋼床版及びコンクリートの双方の接着面に対して凹凸を形成することができるため、塗布された樹脂接着剤の接着面積(表面積)が大きくなり、アンカー効果を発揮させることができる。これにより、塗布された樹脂接着剤による接着強度を向上させることができる。よって、煩雑な作業を行うことなく容易に、鋼床版とコンクリートとの間の接着強度を十分に向上させることができる。
【0045】
なお、表面乾燥飽水状態以下である砂が樹脂接着剤の接着強度を向上させうる理由として、以下のことも考えられる。すなわち、表面乾燥飽水状態以下である砂は、その表面に存在する水が極めて少ないため、この水に起因して生じる砂と樹脂接着剤との付着を抑制することができ、樹脂接着剤と鋼床版及びコンクリートとの接着力を高めることができる。これにより、樹脂接着剤の硬化性が向上し、砂のアンカー効果および樹脂接着剤の硬化性向上の相乗効果によるものであるとも考えられる。
また、鋼床版上に樹脂接着剤を塗布することによって、鋼床版上のコンクリートにひび割れ等が発生していても、雨水が鋼床版に到達することを抑制することができる。すなわち、接着剤層は、鋼床版を保護する保護層としても作用し得る。
【0046】
また、上記のように鋼床版とコンクリートとを十分に接着できるため、これら鋼床版とコンクリートとの間の引張強度(引張接着力)のみならず、せん断強度(せん断接着力)をも向上させることも可能となる。
これにより、例えば、鋼床版の局部変形を軽減することが可能となる。例えば、鋼床版がデッキプレート部を有する場合には、該デッキプレート部の局部変形を軽減することが可能となる。
また、例えば、鋼床版が、デッキプレート部と、該デッキプレートに溶接されたUリブ形状のリブ部とを有する場合には、上記のようにデッキプレート部の局部変形を軽減することによって、この局部変形に起因した、デッキプレート部とリブ部との溶接部分の周辺の活荷重応力の発生を低減することも可能となる。
このように、鋼床版とコンクリートとを樹脂接着剤及び砂を介して十分に接着させる(一体化させる)ことで、鋼床版の疲労耐久性の向上を図ることが可能となる。
【0047】
ここで、例えば、上記デッキプレート部を有する鋼床版と、コンクリートとの一体化が十分に図られていない場合には、鋼床版とコンクリートとの間にせん断力が発生した際に、鋼床版とコンクリートの間に、上記せん断力に起因したずれが生じる可能性がある。このずれを抑制すべく、例えば、デッキプレートにジベル筋(スタッドジベルなど)を溶接し、該ジベル筋がコンクリート内に埋設されるようにして、鋼床版とコンクリートとの十分な一体化を図ることが考えられる。
しかし、本実施形態のコンクリートの施工方法では、上記のように、樹脂接着剤を塗布し、砂を散布することによって鋼床版とコンクリートとを十分な接着強度で一体化できるため、鋼床版とコンクリートとの間の相対的なずれに対する抵抗性、すなわちせん断強度を向上させることが可能となる。これにより、施工性に優れる。
なお、本発明においては、樹脂接着剤を塗布し、砂を散布することによって鋼床版とコンクリートとを接着することに加えて、上述したジベル筋による補強を施してもよい。
【0048】
本実施形態のコンクリートの施工方法では、鋼床版の表面に樹脂接着剤を塗布した後に、該樹脂接着剤の表面に砂を散布することで、砂の表面のすべてが樹脂接着剤によって覆われることがない。従って、樹脂接着剤に砂を混合した場合と違い、表面乾燥飽水状態以下である乾燥した砂の表面がコンクリートと接触されることとなる。
【0049】
本実施形態のコンクリートの施工方法によれば、鋼床版におけるコンクリートとの接触面となる表面を削らなくても、十分な接着強度を得ることができる。
よって、鋼床版におけるコンクリートとの接触面となる表面を削らない場合には、その分、施工作業が簡易且つ容易に行えることとなる。
また、塗布工程に先立って、ショットブラストなどで鋼床版の表面を研鑽する研鑽工程を行う場合には、鋼床版と樹脂接着剤との接着強度を一層高めることが可能となる。
【0050】
尚、本実施形態は以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
≪鋼床版≫
鋼床版として、鋼製の平板型枠(縦30cm×横30cm×高さ5cm)を用いた。
【0053】
≪樹脂接着剤≫
樹脂接着剤として、エポキシ化合物を含有する主剤と、アミン類を含有する硬化剤との2成分混合型であるエポキシ系樹脂接着剤(商品名:KCボンド、鹿島道路株式会社製)を用いた。
【0054】
≪コンクリートの材料≫
コンクリートの材料として下記表1に示すものを準備した。
【0055】
【表1】
【0056】
上記コンクリートの材料を用いて下記表2に記載の配合で、スランプ21.5cm、空気量2.0%となるように混練し、後述するように鋼床版上に打設して、供試体を作製した。
【0057】
【表2】
【0058】
《砂の種類、表面乾燥状態の調整》
砂として下記表3に示すように、ふるい分けにて5種類の砂を準備した。各砂の粘土塊量及び微粒分量は、いずれも0であった。
【0059】
尚、砂の粒径の調整方法は以下の方法で行った。
【0060】
・粒径の調整
JIS Z 8801−1:2006で規定されたふるいであって、JIS A 1102:2014 「3.2 ふるい」に規定された0.15mm(公称目開き150μm)、0.3mm(公称目開き300μm)、0.6mm(公称目開き600μm)、1.2mm(公称目開き1.18mm)、2.5mm(公称目開き2.36mm)、5.0mm(公称目開き4.75mm)ふるいを、表3に記載の粒径の上限下限における各ふるいを連続したふるいとして、JIS A 1102:2014に記載の方法で分級した。
【0061】
【表3】
【0062】
また、砂の表面乾燥状態の調整を、以下の方法で調整した。
【0063】
・表面乾燥状態の調整
予め、JIS A 1109:2006の「細骨材の密度および吸水率試験方法」における「4.試料 d)」に従って、砂を24時間吸水させ、「4.試料 c)」に従って、吸水させた砂を平らな面(バットを使用した。)に薄く広げ、かき回しながら暖かい風(ドライヤーを使用した。)を静かに送りつつ均等に乾燥した。この乾燥によって砂の表面乾燥状態を調整した。具体的には、この乾燥を、フローコーンで状態を確認しながら行い、表面乾燥飽水状態を超えている状態(砂の表面に付着している水が乾燥していない状態)で砂を採取して、試料を作製した(表面乾燥飽水状態を超えている試料)。さらに、フローコーンで状態を確認しながら乾燥を続け、表面乾燥飽水状態となったときに砂を採取して、試料を作製した(表面乾燥飽水状態試料)。さらに、残りの砂を、絶乾状態となるように105℃で乾燥させた後、室温まで温度を下げた試料(絶乾状態試料)を作製した。
【0064】
《供試体の作製1》
以下のようにして、供試体を作製した。
鋼製の平板型枠(30cm×30cm×5cm)を鋼床版の模擬材とし、表面をサンドペーパーで研掃し、アセトンで脱脂した。その平板型枠の底面上に、樹脂接着剤の塗布、砂の散布、コンクリートの打設を順に行って、表4に示す供試体を作製した。表4には、散布した砂の粒径、表面乾燥状態も併せて示す。
具体的には、下記の手順で供試体を作製した。
(1)上記絶乾状態試料として、No.1〜5の砂を上記のように調整した(実施例2〜実施例9)。また、上記表面乾燥飽水状態試料、及び、上記表面乾燥飽水状態を超えている試料として、No.3の砂を上記のように調整した(実施例1、比較例2)。
(2)平板型枠の底面に樹脂接着剤としてKSボンド(鹿島道路株式会社製)を、1.4kg/m塗布した(実施例1〜9、比較例1、2)。
(3)塗布した樹脂接着剤上に、表4に示す砂を、散布せず(比較例1)、または、所定量散布し(実施例1〜9、比較例2)、その上に縁切り材として、内径φ100mm×高さ50mmのボイド管(内側テフロン(登録商標)シート貼り付け)を4つ設置した。
(4)コンクリートを練り混ぜ、樹脂接着剤の塗布後15分〜30分間静置した平板型枠内(ボイド管内)に、コンクリートを打設し、20℃で14日間養生させて、供試体を作製した(実施例1〜9、比較例1、2)。
【0065】
《供試体の評価1》
各供試体について、下記方法でコンクリートの引張接着強度を測定した。
【0066】
・引張接着強度の測定方法
引っ張るための専用治具を備えた建築研究所式接着試験機(建研式引張試験機、接着剥離試験器BA−800D、丸菱科学機械製作所社製)を用いた。上記供試体について、ボイド管の上面をカップサンダー等で研磨し、研磨した表面に上記専用治具を接着剤(ボンドクイックメンダー、コニシ社製)で接着して取り付けた。取り付け後、上記建研式引張試験機にて上方向に引っ張った時の力の強さ(引張強度、N/mm2)を測定した。
この引張強度を、4個のボイド管について測定し(n=4)、その平均を求めて、引張接着強度(平均値)とした。
結果を表4、図1〜3に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
表4、図1に示す通り、表面乾燥飽水状態以下の砂を用いた実施例は、コンクリートを樹脂接着剤のみで接着した塗布した比較例1よりも引張接着強度が増加する傾向にあった。
表面乾燥飽水状態を超える状態の砂を用いた比較例2では、比較例1よりも引張接着強度が低下していた。
表4、図2に示す通り、砂が絶乾状態で、散布量が0.7kg/mの場合、粒径が大きくなると、引張接着強度が増加するものの、粒径が0.6mmよりも小さくなると、引張接着強度が低下する傾向にあった。
表4、図3に示す通り、砂が絶乾状態で、粒径が0.6〜1.2mmの場合、散布量が大きくなると、引張接着強度が増加するものの、散布量が1.5kg/m以上になると、引張接着強度が低下する傾向にあった。
【0069】
《供試体の作製2》
鋼床版としての鋼板(φ10cm×高さ5cm)の表面をサンドペーパーで研掃し、アセトンで脱脂し、表5、表6に示すように、樹脂接着剤の塗布、砂の散布、コンクリートの打設を順に行って、供試体を作製した。
具体的には、下記の手順で供試体を作製した。
(1)《供試体の作製1》と同様にして、上記表3に示すように分級し、No.1、3、5に相当する粒径の砂を調製した。
(2)この砂の表面乾燥状態を、《供試体の作製1》と同様にして、下記表6に示すように調製した。
(3)鋼板の表面に樹脂接着剤としてKSボンド(春秋用、鹿島道路株式会社製)を、1.4kg/m塗布した(1本の供試体のφ10cm表面に11.0gを塗布)。
(4)塗布した樹脂接着剤上に、下記表6に示すように、所定の砂を、散布せず、または、所定量で散布した。
(5)鋼板に型枠を設置する一方、上記表2と同様の配合でコンクリートを練り混ぜ、樹脂接着剤の塗布後20分間程度静置した鋼板にコンクリートを打設し、突き棒を用いて8回突いた後、型枠バイブレータで5秒間振動させた。次いで、表面の凹凸が試験結果に悪影響を及ぼさないように、木ゴテや金ゴテで表面をならし、ならした表面をサランラップ(登録商標)等で覆った状態で、20℃で14日間養生させた。このようにして、コンクリート層(φ10cm×高さ5cm)を形成して、図4に示すように、総厚み10cmの供試体を作製した。
【0070】
《供試体の評価2》
各供試体について、下記方法で鋼板とコンクリートとの間のせん断接着強度を測定した。
【0071】
・せん断接着強度の測定方法
せん断接着強度の測定方法として、試験断面に比較的純粋なせん断応力が作用するように、一面せん断試験を行った。
具体的には、室内にて、図5に示すようなせん断試験装置(Instron5583型機械式疲労試験機、インストロンジャパン社製)を用い、該試験装置の冶具に供試体を、その界面が鉛直方向を向くように、且つ、界面にせん断力が作用するように取り付け、鋼板側に載荷速度1mm/minで載荷した。なお、供試体と、その外周に取り付ける冶具との間には、凹凸による隙間を埋めるべく、樹脂を充填した。
そして、鋼板とコンクリート層とが剥離したときの載荷を、最大荷重として測定し、得られた最大荷重を接着面積で除することによって、せん断接着強度を測定した。この測定を、各3つの供試体を用いて繰り返し(n=3)、その平均を求めて、せん断接着強度(平均値)とした。
結果を図6図8に示す。
【0072】
図6に示す通り、砂の表面乾燥状態にかかわらず、砂を散布した供試体の方が、砂を散布しない供試体よりも、せん断接着強度が高い傾向にあった。
図7に示す通り、砂が絶乾状態で、散布量が0.7kg/mの場合、粒径にかかわらず、砂を散布した供試体の方が、砂を散布しない供試体よりも、せん断接着強度が高くなる傾向にあった。
図8に示す通り、砂が絶乾状態で、粒径が0.6〜1.2mmの場合、散布量にかかわらず、砂を散布した供試体の方が、砂を散布しない供試体よりも、せん断接着強度が高くなる傾向にあった。
【0073】
【表5】
【0074】
【表6】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8