【課題】パン生地の過度な弾力の増大によるパン生地の縮みを防止すると共に、冷凍又は冷蔵生地の解凍若しくは常温への戻しから焼成前までの生地の緩みを抑制し、これらに起因する作業性を改善し、得られるパン類の容積を増大させ、更にパン類の外観、食感、風味も改善し得る、冷凍又は冷蔵生地用パン類の品質改良剤、前記品質改良剤を用いた冷凍又は冷蔵パン類生地の製造方法、及び前記品質改良剤を用いた冷凍又は冷蔵生地を用いたパン類の製造方法を提供すること。
【解決手段】グルコースオキシダーゼ、トランスグルタミナーゼ、α−アミラーゼ、ヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼ、並びにカタラーゼを含有する冷凍又は冷蔵生地用パン類の品質改良剤、前記品質改良剤を用いる冷凍又は冷蔵生地を用いたパン類の製造方法、及び前記品質改良剤を用いる冷凍又は冷蔵パン類生地の製造方法である。
グルコースオキシダーゼ、トランスグルタミナーゼ、α−アミラーゼ、ヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼ、並びにカタラーゼを含有することを特徴とする冷凍又は冷蔵生地用パン類の品質改良剤。
【背景技術】
【0002】
近年、食パン、菓子パン、調理パンなど多様なパン類が豊富に出まわっている。これに併せ、消費者が求めるパン類の品質も高まってきている。パン類の品質を向上させ、さらに製パン時の作業性向上のために、L−アスコルビン酸や各種酵素剤が使用されている。
【0003】
例えば、パン容積の増大、外相・内相、触感の改善、作業性(ベタつき)の改善を目的として、パン生地に、酸化酵素としてグルコースオキシダーゼとカタラーゼ、加水分解酵素としてリパーゼ、アミラーゼ等を配合する技術(例えば、特許文献1参照)や、生澱粉を分解しうる特定のアミラーゼと、その他にα−アミラーゼ、β−アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、グルコースオキシダーゼ、トランスグルタミナーゼなどの各種食品用酵素を併用する技術(例えば、特許文献2参照)が提案されているように、パン類の製造時に幾つかの酵素を組み合わせることが行われている。
【0004】
一方、パン類はミキシングから焼成までかなりの時間を要することから、作業者の負担軽減のため、また、消費者の要望から、飲食店やフードコート、リテールベーカリー等で焼き立てのパン製品をタイムリーに提供するため、冷凍生地や冷蔵生地を用いるパン類の製造方法が近年急速に浸透してきている。しかし、パン生地は、冷凍又は冷蔵保管により障害を受け、その機械耐性が低下し、その結果、得られるパン類の容積が減少する、外観が劣る、食感が固くなる、風味が低下するといった問題が生じていた。
【0005】
前記冷凍又は冷蔵保管したパン生地を用いることによる問題を解決する手段の1つとして、各種食用酵素をパン生地に配合する技術が検討されている。
例えば、パン生地の冷凍により生じるパン表面のフィッシュアイの発生や焼き色の赤色化を防止し、パン容積の減少を抑制するために、セルラーゼ、α−アミラーゼ及びL−アスコルビン酸を配合する技術(例えば、特許文献3参照)、マルトトリオースを生成する特定のアミラーゼに、グルコースオキシダーゼ、ヘミセルラーゼを併用する技術(例えば、特許文献4参照)、パン表面の梨肌出現や得られるパン製品の老化などを防止する目的で、ヘミセルラーゼ、アスペルギルスオリゼ由来のアミラーゼを併用する技術(例えば、特許文献5参照)が提案されている。
しかしながら、これらの提案では、パン生地を冷凍又は冷蔵せずに製造されたパン類と比較すると、パン類の外観、食感、風味において十分な効果が得られていないという問題がある。
【0006】
一方、本出願人は、これまでに、パン生地に機械耐性および冷凍耐性を付与し、冷凍パン生地でもパン容積を増大させ、得られるパン製品をソフトにする技術として、ヘミセルラーゼ、カタラーゼ、中温性アミラーゼおよびL−アスコルビン酸を併用する技術を提案している(例えば、特許文献6参照)。
しかし、この技術をもってしても、日々高まる消費者の要望に対して十分とまではいえず、更なる改良が求められている。
【0007】
したがって、パン生地の過度な弾力の増大によるパン生地の縮みを防止すると共に、冷凍又は冷蔵生地の解凍若しくは常温への戻しから焼成前までの生地の緩みを抑制し、これらに起因する作業性を改善し、得られるパン類の容積を増大させ、更にパン類の外観、食感、風味も改善し得る、冷凍又は冷蔵生地用パン類の品質改良剤が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(冷凍又は冷蔵生地用パン類の品質改良剤)
本発明の冷凍又は冷蔵生地用パン類の品質改良剤(以下、「品質改良剤」と称することがある)は、グルコースオキシダーゼと、トランスグルタミナーゼと、α−アミラーゼと、ヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼと、カタラーゼとを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0014】
<グルコースオキシダーゼ>
前記グルコースオキシダーゼは、グルテンの酸化による生地弾力強化、容積増大に効果的である。
前記グルコースオキシダーゼとしては、食品用途に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、適宜選択することができる。
前記グルコースオキシダーゼは市販されており、市販品を適宜使用することができる。
前記グルコースオキシダーゼの前記品質改良剤における含有量としては、特に制限はなく、後述する製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する添加量などに応じて適宜選択することができる。
【0015】
<トランスグルタミナーゼ>
前記トランスグルタミナーゼは、グルテン中のグルタミンとリジンとの結合を強化することによる生地弾力強化、容積増大に効果的である。
前記トランスグルタミナーゼとしては、食品用途に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、適宜選択することができる。
前記トランスグルタミナーゼは市販されており、市販品を適宜使用することができる。
前記トランスグルタミナーゼの前記品質改良剤における含有量としては、特に制限はなく、後述する製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する添加量などに応じて適宜選択することができる。
【0016】
<α−アミラーゼ>
前記α−アミラーゼは、澱粉に作用し、生地熟成促進、食感のやわらかさ向上などに効果的である。
前記α−アミラーゼとしては、食品用途に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、適宜選択することができる。
前記α−アミラーゼは市販されており、市販品を適宜使用することができる。
前記α−アミラーゼの前記品質改良剤における含有量としては、特に制限はなく、後述する製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する添加量などに応じて適宜選択することができる。
【0017】
<ヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼ>
前記ヘミセルラーゼは、ヘミセルロースを分解することにより、グルテンのほぐれを促進し、結果的にパン容積増大などに効果的である。
前記セルラーゼは、セルロースを分解することにより、グルテンのほぐれを促進し、結果的にパン容積増大などに効果的である。
前記ヘミセルラーゼ、セルラーゼは、どちらか一方を単独で使用してもよいし、両者を併用してもよいが、両者を併用することがより好ましい。
前記ヘミセルラーゼ、セルラーゼとしては、食品用途に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、適宜選択することができる。
前記ヘミセルラーゼ、セルラーゼは市販されており、市販品を適宜使用することができる。
前記ヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼの前記品質改良剤における含有量としては、特に制限はなく、後述する製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する添加量などに応じて適宜選択することができる。
【0018】
<カタラーゼ>
前記カタラーゼは、グルコースオキシダーゼの即効性の酸化作用を抑え、作業性向上に効果的である。
前記カタラーゼとしては、食品用途に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、適宜選択することができる。
前記カタラーゼは市販されており、市販品を適宜使用することができる。
前記カタラーゼの前記品質改良剤における含有量としては、特に制限はなく、後述する製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する添加量などに応じて適宜選択することができる。
【0019】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、L−アスコルビン酸;β−アミラーゼ;麦芽粉末;植物性蛋白質、穀粉類、及び澱粉類からなる食品素材などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記その他の成分の前記品質改良剤における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0020】
前記品質改良剤は、前記その他の成分として、L−アスコルビン酸、β−アミラーゼ、及び麦芽粉末からなる群から選択される1つ以上を含むことが好ましく、更に、植物性蛋白質、穀粉類、及び澱粉類からなる食品素材を含むことがより好ましい。
【0021】
−L−アスコルビン酸−
前記L−アスコルビン酸としては、食品用途に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、適宜選択することができる。
前記L−アスコルビン酸は市販されており、市販品を適宜使用することができる。
前記L−アスコルビン酸の前記品質改良剤における含有量としては、特に制限はなく、後述する製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する添加量などに応じて適宜選択することができる。
【0022】
−β−アミラーゼ−
前記β−アミラーゼとしては、食品用途に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、適宜選択することができる。
前記β−アミラーゼは市販されており、市販品を適宜使用することができる。
前記β−アミラーゼの前記品質改良剤における含有量としては、特に制限はなく、後述する製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する添加量などに応じて適宜選択することができる。
【0023】
−麦芽粉末−
前記麦芽粉末としては、食品用途に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、大麦麦芽粉末、小麦麦芽粉末、ライ麦麦芽粉末などが挙げられる。
前記麦芽粉末は市販されており、市販品を適宜使用することができる。
前記麦芽粉末の前記品質改良剤における含有量としては、特に制限はなく、後述する製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する添加量などに応じて適宜選択することができる。
【0024】
−植物性蛋白質、穀粉類、及び澱粉類からなる食品素材−
前記植物性蛋白質、穀粉類、及び澱粉類からなる食品素材は、1つの原料からなるものであってもよいし、複数の原料からなるものであってもよい。
前記原料の具体例としては、小麦蛋白、小麦粉などが挙げられる。
前記小麦粉の場合は、植物性蛋白質、及び澱粉を含む穀粉であることから、1つの原料で前記食品素材とすることができる。また、前記小麦粉に、植物性蛋白質や澱粉類を加えて前記食品素材としてもよい。
前記小麦蛋白の場合は、更に、穀粉類及び澱粉類を加えて前記食品素材とすることができる。
前記食品素材は市販されており、市販品を適宜使用することができる。
前記食品素材の前記品質改良剤における含有量としては、特に制限はなく、後述する製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する添加量などに応じて適宜選択することができる。
【0025】
<配合量>
前記品質改良剤の製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する配合量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、0.05質量%〜2質量%が好ましく、0.1質量%〜1質量%がより好ましい。
なお、本発明において、製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する配合量又は添加量は、ベーカーズパーセントで表したものである。
【0026】
<態様>
前記品質改良剤は、前記グルコースオキシダーゼと、前記トランスグルタミナーゼと、前記α−アミラーゼと、前記ヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼと、前記カタラーゼと、必要に応じて前記その他の成分とを同一の包材に含むものであってもよいし、前記各成分を別々の包材に入れ、使用時に混合するものであってもよい。
【0027】
<パン類>
前記パン類としては、冷凍又は冷蔵生地を用いて製造されるものであれば、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、食パン、ロールパン、菓子パン、惣菜パン、クロワッサン、デニッシュ、ブリオッシュ、フランスパン、ドイツパン(カイザーゼンメル、ライ麦パン等)、フォカッチャ、パネトーネなどが挙げられる。
【0028】
本発明の品質改良剤によれば、パン生地の過度な弾力の増大によるパン生地の縮みを防止すると共に、冷凍又は冷蔵生地の解凍若しくは常温への戻しから焼成前までの生地の緩みを抑制し、これらに起因する作業性を改善し、得られるパン類の容積を増大させ、更にパン類の外観、食感、風味も改善し得る。
【0029】
(冷凍又は冷蔵パン類生地の製造方法)
本発明の冷凍又は冷蔵パン類生地の製造方法(以下、「パン生地の製造方法」と称することがある)は、本発明の品質改良剤を用いる限り、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
例えば、(1)小麦粉を主体とする穀粉類を主原料とし、これに水分、イースト、乳、卵、油脂、塩、糖類などの他の原料、及び本発明の品質改良剤を添加して混捏し、前記混捏直後の生地を冷凍又は冷蔵する方法、(2)前記混捏後、一次発酵(フロア時間)し、次いで分割した生地を冷凍又は冷蔵する方法、(3)前記分割後、ベンチ時間、次いで成型した後に冷凍又は冷蔵する方法、(4)前記成型後、二次発酵(ホイロ)した後に冷凍又は冷蔵する方法などが挙げられる。
前記冷凍又は冷蔵の条件としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0030】
<小麦粉を主体とする穀粉類>
前記小麦粉を主体とする穀粉類とは、小麦粉を含む穀粉、澱粉類及びその加工澱粉をいう。前記小麦粉を主体とする穀粉類は、小麦粉を単独で使用してもよいし、小麦粉と他の穀粉や澱粉類などを併用してもよい。
【0031】
前記穀粉としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、小麦粉、ライ麦粉、そば粉、米粉、大麦粉、大豆粉、コーンフラワーなどが挙げられる。前記穀粉は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
前記澱粉類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ、甘藷澱粉などが挙げられる。前記澱粉類は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
前記加工澱粉としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、熱処理澱粉、α化澱粉、酸処理澱粉、架橋澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉などが挙げられる。前記加工澱粉は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
<品質改良剤の配合量>
−グルコースオキシダーゼ−
前記グルコースオキシダーゼの製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する配合量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、0.7ppm〜30ppmが好ましく、1.5ppm〜15ppmがより好ましい。前記配合量が0.7ppm未満であると、配合効果がほとんど得られないことがあり、30ppmを超えると、生地が過度に弾力的で作業性が低下することがある。
【0035】
−トランスグルタミナーゼ−
前記トランスグルタミナーゼの製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する配合量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、0.2ppm〜10ppmが好ましく、0.5ppm〜5ppmがより好ましい。前記配合量が0.2ppm未満であると、配合効果がほとんど得られないことがあり、10ppmを超えると、パン類の食感が過度に硬くなり、美味しさが低下することがある。
【0036】
−α−アミラーゼ−
前記α−アミラーゼの製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する配合量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、2ppm〜90ppmが好ましく、5ppm〜50ppmがより好ましい。前記配合量が2ppm未満であると、配合効果がほとんど得られないことがあり、90ppmを超えると、生地熟成が過剰に促進されて生地が粘り、作業性が低下することがある。
【0037】
−ヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼ−
前記ヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼの製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する配合量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、2ppm〜90ppmが好ましく、5ppm〜50ppmがより好ましい。前記配合量が2ppm未満であると、配合効果がほとんど得られないことがあり、90ppmを超えると、生地弾力が緩み、パン類の形状が不安定な状態となることがある。
【0038】
前記ヘミセルラーゼと、前記セルラーゼとを併用する場合の前記ヘミセルラーゼの製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する配合量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、2ppm〜80ppmが好ましく、4ppm〜40ppmがより好ましい。前記配合量が2ppm未満であると、添加による効果が十分ではないことがあり、80ppmを超えると、添加量が過剰となり、添加量に相応する効果が得られないことがある。
【0039】
前記ヘミセルラーゼと、前記セルラーゼとを併用する場合の前記セルラーゼの製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する配合量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、0.2ppm〜10ppmが好ましく、0.5ppm〜5ppmがより好ましい。前記配合量が0.2ppm未満であると、添加による効果が十分ではないことがあり、10ppmを超えると、添加量が過剰となり、添加量に相応する効果が得られないことがある。
【0040】
−カタラーゼ−
前記カタラーゼの製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する配合量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、0.3ppm〜20ppmが好ましく、0.7ppm〜8ppmがより好ましい。前記配合量が0.3ppm未満であると、添加による効果が十分ではないことがあり、20ppmを超えると、添加量が過剰となり、添加量に相応する効果が得られないことがある。
【0041】
−L−アスコルビン酸−
前記L−アスコルビン酸の製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する配合量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、25ppm〜250ppmが好ましく、50ppm〜200ppmがより好ましい。前記配合量が25ppm未満であると、添加による効果が十分ではないことがあり、250ppmを超えると、添加量が過剰となり、添加量に相応する効果が得られないことがある。
【0042】
−β−アミラーゼ−
前記β−アミラーゼの製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する配合量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、2ppm〜70ppmが好ましく、3ppm〜40ppmがより好ましい。前記配合量が2ppm未満であると、添加による効果が十分ではないことがあり、70ppmを超えると、パン生地の過度な緩みが生じたり、パンが軟らかすぎて骨格の維持が困難となったりすることがある。
【0043】
−麦芽粉末−
前記麦芽粉末の製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する配合量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、5ppm〜220ppmが好ましく、10ppm〜110ppmがより好ましい。前記配合量が5ppm未満であると、添加による効果が十分ではないことがあり、220ppmを超えると、パン生地の過度な緩みが生じたり、パンが軟らかすぎて骨格の維持が困難となったりすることがある。
【0044】
−植物性蛋白質、穀粉類、及び澱粉類からなる食品素材−
前記食品素材の製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する配合量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、前記グルコースオキシダーゼ、トランスグルタミナーゼ、α−アミラーゼ、ヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼ、並びにカタラーゼからなる酵素類及びL−アスコルビン酸と、前記食品素材との質量比が、1:10〜50となるように配合することが好ましい。
【0045】
本発明のパン生地の製造方法によれば、パン生地の過度な弾力の増大によるパン生地の縮みを防止すると共に、冷凍又は冷蔵生地の解凍若しくは常温への戻しから焼成前までの生地の緩みを抑制し、これらに起因する作業性が改善された冷凍又は冷蔵パン類生地を得ることができる。また、前記パン生地を用いることで、得られるパン類の容積を増大させ、更にパン類の外観、食感、風味も改善し得る。
【0046】
(冷凍又は冷蔵生地を用いたパン類の製造方法)
本発明の冷凍又は冷蔵生地用パン類の製造方法(以下、「パン類の製造方法」と称することがある)は、本発明の品質改良剤を用いる限り、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、上記した冷凍又は冷蔵パン類生地の製造方法の項目に記載した方法と同様にして、パン類生地を製造し、得られた生地を、通常の手順で発酵、成型、焼成する方法などが挙げられる。
製パン方法の種類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、中種製法、ストレート製法、湯種製法などが挙げられる。
前記中種製法の場合、前記品質改良剤は、本捏工程時に使用することが好ましい。
また、前記品質改良剤の使用方法も、上記した冷凍又は冷蔵パン類生地の製造方法の項目に記載した方法と同様である。
【0047】
本発明のパン類の製造方法によれば、パン生地の過度な弾力の増大によるパン生地の縮みを防止すると共に、冷凍又は冷蔵生地の解凍若しくは常温への戻しから焼成前までの生地の緩みを抑制し、これらに起因する作業性を改善し、得られるパン類の容積を増大させ、更にパン類の外観、食感、風味も改善し得る。
【0048】
(冷凍又は冷蔵生地を用いたパン類の品質改良方法)
本発明の品質改良剤によれば、冷凍又は冷蔵生地を用いたパン類の品質を改良することができる。したがって、本発明は、前記品質改良剤を用いる冷凍又は冷蔵生地を用いたパン類の品質改良方法にも関する。
前記冷凍又は冷蔵生地を用いたパン類の品質改良方法(以下、「パン類の品質改良方法」と称することがある)は、本発明の品質改良剤を用いる限り、特に制限はなく、公知のパン類の製造方法を適宜選択することができる。
前記公知のパン類の製造方法は、上記した本発明のパン類の製造方法の項目に記載したものと同様である。また、前記品質改良剤の使用方法も、上記した冷凍又は冷蔵パン類生地の製造方法の項目に記載した方法と同様である。
前記パン類の品質改良方法によれば、パン生地の過度な弾力の増大によるパン生地の縮みを防止すると共に、冷凍又は冷蔵生地の解凍若しくは常温への戻しから焼成前までの生地の緩みを抑制し、これらに起因する作業性を改善し、得られるパン類の容積を増大させ、更にパン類の外観、食感、風味も改善し得る。
【実施例】
【0049】
以下、実施例、比較例、及び試験例を示して本発明を説明するが、本発明は、これらの実施例、及び試験例に何ら限定されるものではない。
【0050】
(実施例1、比較例1〜5:品質改良剤)
下記表1の配合にて、実施例1、及び比較例1〜5の品質改良剤を製造した。
【0051】
【表1】
【0052】
(試験例1:冷蔵生地を用いたクロワッサンの製造−1)
前記実施例1、及び比較例1〜5の品質改良剤を用い、以下の配合及び工程で、クロワッサンを製造した。
<配合>
・ 強力粉(日清製粉株式会社製) ・・・ 100.0質量部
・ 生イースト(オリエンタル酵母工業株式会社製) ・・・ 4.0質量部
・ 品質改良剤(実施例1、又は比較例1〜5) ・・・ 0.2質量部
・ 砂糖 ・・・ 8.0質量部
・ 食塩 ・・・ 2.0質量部
・ 脱脂粉乳 ・・・ 3.0質量部
・ 油脂(マーガリン) ・・・ 4.0質量部
・ 水 ・・・ 65.0質量部
・ ロールイン油脂 ・・・ 50.0質量部
【0053】
<工程>
・ ミキシング時間 ・・・ 低速3分間中速6分間高速2分間
・ 捏上温度 ・・・ 25℃
・ フロア時間 ・・・ 30分間
・ リタード条件 ・・・ 15時間〜20時間、0℃
・ ロールイン ・・・ 3つ折り、3回
・ 分割重量 ・・・ 50g
・ 成型方法 ・・・ クロワッサン成型
・ ホイロ条件 ・・・ 32℃、相対湿度85%
・ ホイロ時間 ・・・ 45分間
・ 焼成条件 ・・・ 220℃、10分間
【0054】
<評価>
−評価(1):パン生地の縮み−
上記工程におけるフロア時間終了直後のパン生地、及び冷蔵後(0℃、15時間〜20時間後)のパン生地をロールインによりシート状にし、クロワッサン用に分割したパン生地の長さを測定し、以下の評価基準で評価した。結果を表2−1に示す。
[評価基準]
冷蔵後のパン生地を用いた場合のパン生地の長さ(X)と、フロア時間終了直後のパン生地を用いた場合のパン生地の長さ(Y)との比(X/Y)により評価した。
3点 : X/Yが、0.9以上である。
2点 : X/Yが、0.8以上0.9未満である。
1点 : X/Yが、0.8未満である。
【0055】
−評価(2):クロワッサンの比容積−
クロワッサンの比容積を、得られたパンの容積(ml)/生地質量(g)により算出し、以下の評価基準で評価した。結果を表2−1に示す。
[評価基準]
3点: 比容積が、7以上である。
2点: 比容積が、6以上7未満である。
1点: 比容積が、6未満である。
【0056】
−評価(3):クロワッサンの食感−
得られたクロワッサンについて、食感を以下の評価基準で評価した。結果を表2−1に示す。
[評価基準]
3点: ソフトで歯切れがよい。
2点: やや硬いか、やや弾きがある。
1点: 硬い食感で、弾きがある。
【0057】
【表2-1】
表2−1の評価の項目中、(1)はパン生地の縮み、(2)はクロワッサンの比容積、(3)はクロワッサンの食感の評価結果を示す。
【0058】
また、試験例1−1における品質改良剤の各成分の添加量を表2−2に示す。
【0059】
【表2-2】
【0060】
試験例1の結果から、本発明の品質改良剤を用いた試験例1−1では、パン生地の縮みを防止することができ、得られるパン類の容積を増大させることができ、また、食感も優れていた。一方、本発明の品質改良剤における必須の酵素のいずれか1つを有しない試験例1−2〜1−6では、パン生地の縮みの防止、パン類の容積、及び食感の少なくともいずれかが十分ではないことが確認された。
更に、試験例1−1では、冷蔵生地の緩みも抑制され、作業性も改善されており、また、パンの外観及び風味も試験例1−2〜1−6よりも優れていた。
【0061】
(試験例2:冷蔵生地を用いたクロワッサンの製造−2)
試験例1において、品質改良剤の配合量を0.2質量部としていた点を、0.4質量部に変更した以外は、試験例1と同様にしてクロワッサンを製造し、各評価を行った。結果を表3−1に示す。
【0062】
【表3-1】
表3−1の評価の項目中、(1)はパン生地の縮み、(2)はクロワッサンの比容積、(3)はクロワッサンの食感の評価結果を示す。
【0063】
また、試験例2−1における品質改良剤の各成分の添加量を表3−2に示す。
【0064】
【表3-2】
【0065】
試験例2の結果から、本発明の品質改良剤を用いた試験例2−1では、パン生地の縮みを防止することができ、得られるパン類の容積を増大させることができ、また、食感も優れていた。
更に、試験例2−1では、冷蔵生地の緩みも抑制され、作業性も改善されており、また、パンの外観及び風味も試験例2−2〜2−6よりも優れていた。
そのため、品質改良剤における各成分の量を変更した場合であっても本発明の効果が得られることが示された。
【0066】
(試験例3:冷凍生地を用いたロールパンの製造−1)
前記実施例1、及び比較例1〜5の品質改良剤を用い、以下の配合及び工程で、ロールパンを製造した。
<配合>
・ 強力粉(日清製粉株式会社製) ・・・ 100.0質量部
・ 生イースト(オリエンタル酵母工業株式会社製) ・・・ 5.0質量部
・ 品質改良剤(実施例1、又は比較例1〜5) ・・・ 0.4質量部
・ 食塩 ・・・ 1.7質量部
・ 砂糖 ・・・ 9.0質量部
・ 脱脂粉乳 ・・・ 2.0質量部
・ 全卵 ・・・ 10.0質量部
・ 油脂(植物性ショートニング) ・・・ 10.0質量部
・ 水 ・・・ 58.0質量部
【0067】
<工程>
・ ミキシング時間 ・・・ 低速3分間中速8分間高速3分間
・ 捏上温度 ・・・ 20℃
・ フロア時間 ・・・ 30分間
・ 分割重量 ・・・ 45g
・ ベンチ時間 ・・・ 10分間
・ 成型 ・・・ ロール成型
・ 凍結、冷凍条件 ・・・ −30℃で45分間凍結後、−20℃で保管、30日間
・ 解凍条件 ・・・ 20℃、相対湿度70%、60分間
・ ホイロ時間 ・・・ 35℃、相対湿度85%、60分間
・ 焼成条件 ・・・ 200℃、10分間
【0068】
<評価>
−評価(1):パン生地の縮み−
上記工程におけるフロア時間終了直後のパン生地、及び解凍後のパン生地をモルダー成型したパン生地の長さを測定し、以下の評価基準で評価した。結果を表4−1に示す。
[評価基準]
解凍後のパン生地を用いた場合のパン生地の長さ(X)と、フロア時間終了直後のパン生地を用いた場合のパン生地の長さ(Y)との比(X/Y)により評価した。
3点 : X/Yが、0.9以上である。
2点 : X/Yが、0.8以上0.9未満である。
1点 : X/Yが、0.8未満である。
【0069】
−評価(2):ロールパンの比容積−
ロールパンの比容積を、得られたパンの容積(ml)/生地質量(g)により算出し、以下の評価基準で評価した。結果を表4−1に示す。
[評価基準]
3点: 比容積が、7以上である。
2点: 比容積が、6以上7未満である。
1点: 比容積が、6未満である。
【0070】
−評価(3):ロールパンの食感−
得られたロールパンについて、食感を以下の評価基準で評価した。結果を表4−1に示す。
[評価基準]
3点: ソフトで歯切れがよい。
2点: やや硬いか、やや弾きがある。
1点: 硬い食感で、弾きがある。
【0071】
【表4-1】
表4−1の評価の項目中、(1)はパン生地の縮み、(2)はロールパンの比容積、(3)はロールパンの食感の評価結果を示す。
【0072】
また、試験例3−1における品質改良剤の各成分の添加量を表4−2に示す。
【0073】
【表4-2】
【0074】
試験例3の結果から、本発明の品質改良剤を用いた試験例3−1では、パン生地の縮みを防止することができ、得られるパン類の容積を増大させることができ、また、食感も優れていた。
更に、試験例3−1では、冷蔵生地の緩みも抑制され、作業性も改善されており、また、パンの外観及び風味も試験例3−2〜3−6よりも優れていた。
そのため、本発明の品質改良剤によれば、冷凍パン生地を用いた場合であっても、優れた効果が得られることが示された。
【0075】
(試験例4:冷凍生地を用いたロールパンの製造−2)
試験例3において、品質改良剤の配合量を0.4質量部としていた点を、0.8質量部に変更した以外は、試験例3と同様にしてロールパンを製造し、各評価を行った。結果を表5−1に示す。
【0076】
【表5-1】
表5−1の評価の項目中、(1)はパン生地の縮み、(2)はロールパンの比容積、(3)はロールパンの食感の評価結果を示す。
【0077】
また、試験例4−1における品質改良剤の各成分の添加量を表5−2に示す。
【0078】
【表5-2】
【0079】
試験例4の結果から、本発明の品質改良剤を用いた試験例4−1では、パン生地の縮みを防止することができ、得られるパン類の容積を増大させることができ、また、食感も優れていた。
更に、試験例4−1では、冷蔵生地の緩みも抑制され、作業性も改善されており、また、パンの外観及び風味も試験例4−2〜4−6よりも優れていた。
そのため、冷凍パン生地の場合でも、品質改良剤における各成分の量を変更しても本発明の効果が得られることが示された。