【課題】製パン時において、フロア時間におけるパン生地の安定性の保持、フロア時間の延長によるパン生地の物性変化、パン生地の伸展性、及び冷凍生地の生地縮み等を改善し、得られるパン類の食感や風味を向上し得る、品質改良剤並びにこれを用いたパン類の製造方法を提供すること。
完全エンド型プロテアーゼが、麹菌由来であり、至適pHが2.5〜6の範囲であり、50℃〜65℃の範囲で80%以上の相対活性を保持する完全エンド型プロテアーゼである請求項1〜4のいずれかに記載の品質改良剤。
製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対して、完全エンド型プロテアーゼ0.5ppm〜100ppm及び酵母粉末50ppm〜2,000ppmを配合する、請求項6に記載のパン類の製造方法。
【背景技術】
【0002】
一般的には、パン類は、小麦粉等の穀粉類とその他の製パン類原料に加水して、混捏、フロア時間(一次発酵)、分割、ベンチ時間、成型、ホイロ(二次発酵)、焼成・油揚げ等の工程を経て製造される。
製造の際、リテールベーカリー等の小規模な製造施設では生じ難いが、パン工場等の比較的に規模が大きい製造施設では、取扱うパン生地の量が多いために、フロア時間終了後、パン生地の全てが分割されるまでに時間差が生じてしまう。このフロア時間の延長が原因で、パン生地の弾力が増大することでパン生地が過度に縮んでしまい、その結果、製造されるパン類の外観、食感等の点でばらつきが発生してしまうという問題がある。
【0003】
また、フロア時間におけるパン生地の安定性を保持するためにグルテンを配合したパン生地や、近年、用いられるようになった国内産小麦「ゆめちから」のようにグルテンが強い小麦粉を使用したパン生地の場合、フロア時間の後半に過度にパン生地が縮んでしまうことにより、作業性が低下するだけで無く、得られるパン類のボリュームが小さくなり、食感が低下するという問題がある。
【0004】
これまでに、経時変化によるパン生地のベタつきの増加や保形性の低下を防止する目的で、40℃での相対活性が低いエンド型プロテアーゼとして、パパイヤ由来のパパイン、パイナップル由来のブロメラインを小麦粉に対して特定量配合する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、この技術では、フロア時間の延長によるパン生地の弾力増大に対してだけでなく、生地伸展性の点でも十分な効果が得られないという問題がある。
【0005】
一方、パン生地のダレやベタつきを抑えながら、サックリとした食感のパン類を得る目的で、パン生地にグルタチオンと卵を配合することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、ドーナツや揚げパン、パン粉などの油ちょう食品の吸油を抑制する目的で、グルタチオン高含有酵母を添加することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
しかしながら、製パン時にグルタチオンやグルタチオン高含有酵母を添加・配合するだけでは、フロア時間の延長によるパン生地の物性変化、パン生地の伸展性、冷凍生地の生地縮み等の問題に対して十分な効果は得られないという問題がある。
【0006】
また、主剤として、マルトデキストリン類、ピロデキストリン類、ポリデキストロース、及び多糖類を単独または混合物として含む群より選択される品質改良剤を用いてグルテンネットワークの形成を促進して強化し、生地弾性を増大させると共に、システイン、グルタチオン、失活化ドライイースト、亜硫酸水素塩、及びプロテアーゼ類を含む群より選択される減衰剤を用いてグルテンネットワークの強化を抑制し、適当な生地を得る技術が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
しかしながら、前記提案では、フロア時間の延長によるパン生地の物性変化、パン生地の伸展性、冷凍生地の生地縮み等の問題に対して十分な効果は得られないという問題がある。
【0007】
このため、パン類の製造において、フロア時間におけるパン生地の安定性の保持、フロア時間の延長によるパン生地の物性変化、パン生地の伸展性、及び冷凍生地の生地縮み等を改善し、得られるパン類の食感や風味を向上し得る、品質改良剤並びにこれを用いたパン類の製造方法が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(パン類の品質改良剤)
本発明のパン類の品質改良剤(以下、「品質改良剤」と称することがある)は、完全エンド型プロテアーゼと、酵母粉末とを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0014】
<完全エンド型プロテアーゼ>
前記完全エンド型プロテアーゼとは、エキソ型プロテアーゼ活性がないエンド型プロテアーゼである。通常、食品用途に使用されるプロテアーゼは、エキソ型プロテアーゼ活性とエンド型プロテアーゼ活性とが混在しているものが多く、そのようなプロテアーゼは、本発明においては好ましくない。前記完全エンド型プロテアーゼとしては、食品用途に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、適宜選択することができる。
前記完全エンド型プロテアーゼの由来としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、麹菌由来が好ましく、アスペルギルス属由来がより好ましく、Aspergillus niger由来が特に好ましい。そのような完全エンド型プロテアーゼは、酸性プロテアーゼであり、至適pHが2.5〜6の範囲であるものがより好ましく、pH3〜5の範囲にあるものがさらに好ましい。
前記完全エンド型プロテアーゼの至適温度としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、40℃〜65℃が好ましく、約60℃がより好ましい。
前記完全エンド型プロテアーゼは、50℃〜65℃の範囲で80%以上の相対活性を保持する完全エンド型プロテアーゼであることが好ましい。前記プロテアーゼの相対活性は、カゼインフォーリン法でpH3.0、反応温度60℃、反応時間10分間の条件で測定した際の酵素活性を100%として算出することができる。
前記完全エンド型プロテアーゼは市販されており、市販品を適宜使用することができる。
【0015】
前記完全エンド型プロテアーゼの前記品質改良剤における含有量としては、特に制限はなく、製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する添加量などに応じて適宜選択することができるが、0.01質量%〜5質量%が好ましく、0.05質量%〜3質量%がより好ましく、0.1質量%〜2質量%が特に好ましい。
【0016】
<酵母粉末>
前記酵母粉末としては、食品に使用し得る酵母から製造される死滅酵母粉末であれば、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、パン酵母、ビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母、味噌醤油酵母などから得られる酵母粉末が挙げられる。これらの中でも、パン酵母、ビール酵母が好ましく、パン酵母がより好ましい。
前記酵母粉末は、前記酵母を死滅処理して製造したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
また、前記酵母粉末は、グルタチオンを高含有する酵母粉末、例えばグルタチオンの含有量が0.5質量%以上であるものが好ましいが、そのような酵母粉末には、グルタチオンだけでなく、種々のアミノ酸、ペプチドが含まれており、これらの成分は呈味成分としてだけではなく、前記完全エンド型プロテアーゼ、グルタチオンの相乗効果を奏すると考えられる。
前記酵母粉末の市販品の具体例としては、イーストパウダーHA(乾燥パン酵母粉末、オリエンタル酵母工業株式会社製)、イーストパウダーHG(乾燥酵パン酵母粉末、オリエンタル酵母工業株式会社製)、粉末ビール酵母食品(乾燥ビール酵母粉末、アサヒフードアンドヘルスケア株式会社製)などが挙げられる。
【0017】
前記酵母粉末の前記品質改良剤における含有量としては、特に制限はなく、製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する添加量などに応じて適宜選択することができるが、1質量%〜80質量%が好ましく、3質量%〜70質量%がより好ましく、5質量%〜50質量%が特に好ましい。
【0018】
<完全エンド型プロテアーゼと酵母粉末との質量比>
前記完全エンド型プロテアーゼと前記粉末酵母との質量比としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、通常は1:2〜500の範囲であり、1:5〜400が好ましく、1:15〜200がより好ましい。前記質量比が前記好ましい範囲外であると、フロア前半と後半の生地物性のバランスが崩れる、例えば生地伸展性が十分でなくなったり、過度になることがある。一方、前記質量比が前記好ましい範囲内であると、前記完全プロテアーゼと前記粉末酵母との相乗効果がより発揮される点で、有利である。
【0019】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、分散剤などが挙げられる。
前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0020】
−分散剤−
前記分散剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、澱粉、穀粉、糖類、デキストリン、セルロースなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記分散剤の前記品質改良剤における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0021】
<配合量>
前記品質改良剤の製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する配合量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、0.05質量%〜5質量%が好ましく、0.01質量%〜3質量%がより好ましく、0.02質量%〜2質量%が特に好ましい。
なお、本発明において、製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する配合量又は添加量は、ベーカーズパーセントで表したものである。
【0022】
<態様>
前記品質改良剤は、前記完全エンド型プロテアーゼと、前記酵母粉末と、必要に応じて前記その他の成分とを同一の包材に含むものであってもよいし、前記各成分を別々の包材に入れ、使用時に混合するものであってもよい。
【0023】
<パン類>
前記パン類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、食パン、ロールパン、菓子パン、惣菜パン、クロワッサン、デニッシュ、ブリオッシュ、フランスパン、ドイツパン(カイザーゼンメル、ライ麦パン等)、フォカッチャ、パネトーネなどが挙げられる。
【0024】
本発明の品質改良剤によれば、製パン時において、フロア時間におけるパン生地の安定性の保持、フロア時間の延長によるパン生地の物性変化、パン生地の伸展性、及び冷凍生地の生地縮み等を改善することができ、得られるパン類の食感や風味を向上することができる。
【0025】
(パン類の製造方法)
本発明のパン類の製造方法は、本発明の品質改良剤を用いる限り、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、小麦粉を主体とする穀粉類を主原料とし、これに水分、イースト、乳、卵、油脂、塩、糖類などの他の原料、及び本発明の品質改良剤を添加して混捏し、得られた生地を、通常の手順で発酵、成型、焼成する方法などが挙げられる。
製パン方法の種類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、中種製法、ストレート製法、湯種製法、冷蔵若しくは冷凍生地製法などが挙げられる。
前記中種製法の場合、前記品質改良剤は、中種工程時に使用してもよいし、本捏工程時に使用してもよいし、両工程で使用してもよい。
【0026】
<小麦粉を主体とする穀粉類>
前記小麦粉を主体とする穀粉類とは、小麦粉を含む穀粉、澱粉類及びその加工澱粉をいう。前記小麦粉を主体とする穀粉類は、小麦粉を単独で使用してもよいし、小麦粉と他の穀粉や澱粉類などを併用してもよい。
【0027】
前記穀粉としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、小麦粉、ライ麦粉、そば粉、米粉、大麦粉、大豆粉、コーンフラワーなどが挙げられる。前記穀粉は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記小麦粉は、通常、パン類の製造に用いられるものであれば特に限定はされないが、強力粉、準強力粉が好ましい。
【0028】
前記澱粉類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ、甘藷澱粉などが挙げられる。前記澱粉類は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
前記加工澱粉としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、熱処理澱粉、α化澱粉、酸処理澱粉、架橋澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉などが挙げられる。前記加工澱粉は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
<品質改良剤の添加量>
−完全エンド型プロテアーゼ−
前記完全エンド型プロテアーゼの製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する添加量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、0.5ppm〜100ppmが好ましく、0.75ppm〜60ppmがより好ましく、1.5ppm〜30ppmが特に好ましい。前記添加量が0.5ppm未満であると、本発明の効果が得られないことがあり、100ppmを超えると、生地の弾力の過度な低下やパン類の容積の低下が生じることがある。
【0031】
−酵母粉末−
前記酵母粉末の製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する添加量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、50ppm〜2,000ppmが好ましく、100ppm〜1,000ppmがより好ましい。前記添加量が50ppm未満であると、本発明の効果が得られないことがあり、2,000ppmを超えると、得られるパン類に酵母臭が感じられることがある。
【0032】
本発明のパン類の製造方法によれば、製パン時において、フロア時間におけるパン生地の安定性の保持、フロア時間の延長によるパン生地の物性変化、パン生地の伸展性、及び冷凍生地の生地縮み等を改善することができ、得られるパン類の食感や風味を向上することができる。
【0033】
(パン類の品質改良方法)
本発明のパン類の品質改良剤によれば、パン類の品質を改良することができる。したがって、本発明は、前記パン類の品質改良剤を用いるパン類の品質改良方法にも関する。
前記パン類の品質改良方法は、本発明の品質改良剤を用いる限り、特に制限はなく、公知のパン類の製造方法を適宜選択することができる。
前記公知のパン類の製造方法は、上記した本発明のパン類の製造方法の項目に記載したものと同様である。また、前記パン類の品質改良方法における本発明の品質改良剤の使用方法も、上記した本発明のパン類の製造方法の項目に記載したものと同様である。
前記パン類の品質改良方法によれば、製パン時において、フロア時間におけるパン生地の安定性の保持、フロア時間の延長によるパン生地の物性変化、パン生地の伸展性、及び冷凍生地の生地縮み等を改善することができ、得られるパン類の食感や風味を向上することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例、比較例、及び試験例を示して本発明を説明するが、本発明は、これらの実施例、及び試験例に何ら限定されるものではない。
【0035】
(実施例1〜3、比較例1〜3:品質改良剤)
下記表1の配合にて、実施例1〜3、及び比較例1〜3の品質改良剤を製造した。
【0036】
【表1】
【0037】
前記表1に記載の成分の詳細は、以下のとおりである。
・完全エンド型プロテアーゼ
麹菌(Aspergillus niger)由来の酸性プロテアーゼ、至適pH3、至適温度60℃、50℃〜65℃の範囲で80%以上の相対活性を保持する、5万u/g。
・エンド/エキソ型プロテアーゼ(非完全エンド型プロテアーゼ)
麹菌(Aspergillus oryzae)由来プロテアーゼ、酸性・中性・アルカリ性プロテアーゼ、至適温度55℃、約5〜6万u/g。
・死滅酵母粉末(イーストパウダーHG;オリエンタル酵母工業株式会社製)
グルタチオンの含有量:約0.5質量%。
【0038】
(試験例1:ロールパンの製造)
穀粉として強力粉(国内産小麦(ゆめちから100%)の強力粉)、品質改良剤として実施例1〜3、又は比較例1〜3の品質改良剤を用い、中種製法によりロールパンを製造した。配合及び工程は、以下のとおりである。
<配合>
配合(質量部) 中種 本捏
・ 強力粉 70.0 30.0
・ 生イースト 3.0
・ パン類の品質改良剤 0.2
・ 乳化剤 0.3
・ 全卵 5.0
・ 食塩 1.5
・ 砂糖 3.0 12.0
・ 脱脂粉乳 2.0
・ 油脂(マーガリン) 10.0
・ 水 45.0 26.0
【0039】
<工程>
工程 中種 本捏
・ ミキシング 低速2分中速2分 低速2分間中速5分間↓(油脂)
中速4分高速1分
・ 捏上温度 26℃ 28℃
・ フロア時間 2時間 15分
・ 分割重量 − 52g
・ ベンチ時間 − 15分間
・ 成型 − ロール成型
・ ホイロ時間 − 35℃・60分
・ 焼成条件 − 210℃・9分間
【0040】
<評価>
−評価(1):フロア時間延長によるパン生地の縮み及び生地伸展性−
上記工程における本捏の15分間のフロア時間終了直後のパン生地、及び前記フロア時間終了45分間後(すなわちフロア時間60分間)のパン生地をモルダーで棒状に成型し、成型したパン生地の長さを測定し、以下の評価基準で評価した。結果を表2に示す。
[評価基準]
本捏のフロア時間終了45分間後のパン生地を用いた場合のパン生地の長さ(X)と、本捏のフロア時間終了直後のパン生地を用いた場合のパン生地の長さ(Y)との比(X/Y)により評価した。
3点 : X/Yが、0.9以上である。
2点 : X/Yが、0.8以上0.9未満である。
1点 : X/Yが、0.8未満である。
【0041】
−評価(2):ロールパンの比容積−
ロールパンの比容積を、得られたパンの容積(ml)/生地質量(g)により算出し、以下の評価基準で評価した。結果を表2に示す。
[評価基準]
3点: 比容積が、7以上である。
2点: 比容積が、6以上7未満である。
1点: 比容積が、6未満である。
【0042】
−評価(3):ロールパンの食感−
得られたロールパンについて、食感を以下の評価基準で評価した。結果を表2に示す。
[評価基準]
5点: ソフトで歯切れがよい。
4点: ソフトでやや歯切れがよい。
3点: ややソフトであるが、弾きが僅かにある。
2点: やや硬いか、やや弾きがある。
1点: 硬い食感で、弾きがある。
【0043】
【表2】
表2の評価の項目中、(1)はフロア時間延長によるパン生地の縮み及び生地伸展性、(2)はロールパンの比容積、(3)はロールパンの食感の評価結果を示す。
【0044】
表2の結果から、本発明の品質改良剤を用いることにより、グルテンが強い小麦粉を使用した場合であっても、フロア時間が延長した場合のパン生地の縮みを抑制し、十分な生地伸展性が得られることが示された。したがって、本発明の品質改良剤を用いることにより、作業性の低下を抑制することができ、また、得られるパン類のボリュームの低減を抑制することができ、更にはパン類の外観、食感等のばらつきの発生を抑制できる。
【0045】
また、前記試験例1において、本発明の品質改良剤を用いて製造されたロールパンは、本発明の品質改良剤を用いなかったロールパンと比較して比容積に優れ、また食感や風味も優れるものであった。
【0046】
(試験例2:ロールパンの製造)
試験例1において、強力粉を国内産小麦(ゆめちから100%)の小麦粉としていた点を、一般的なパン用強力粉(ミリオン、日清製粉株式会社製)に代え、パン類の品質改良剤の種類及び添加量を下記表3に記載のように変更した以外は、試験例1と同様にしてロールパンを製造し、各評価を行った。結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
表3の評価の項目中、(1)はフロア時間延長によるパン生地の縮み及び生地伸展性、(2)はロールパンの比容積、(3)はロールパンの食感の評価結果を示す。
【0048】
表3の結果から、異なる種類の小麦粉を用いたり、製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する酵素及び酵母粉末の添加量を変えたりした場合でも、試験例1と同様に、本発明の品質改良剤を用いることにより、フロア時間が延長した場合のパン生地の縮みを抑制し、十分な生地伸展性が得られることが示された。
【0049】
また、前記試験例2において、本発明の品質改良剤を用いて製造されたロールパンは、比容積に優れ、また食感や風味も優れるものであった。
【0050】
(試験例3:冷凍生地を用いたロールパンの製造)
品質改良剤として実施例1又は実施例3の品質改良剤を用い、以下の配合及び工程で、ロールパンを製造した。
<配合>
・ 強力粉(日清製粉株式会社製) ・・・ 100.0質量部
・ 生イースト(オリエンタル酵母工業株式会社製) ・・・ 5.0質量部
・ パン類の品質改良剤 ・・・ 表4参照
・ 食塩 ・・・ 1.7質量部
・ 砂糖 ・・・ 9.0質量部
・ 脱脂粉乳 ・・・ 2.0質量部
・ 全卵 ・・・ 10.0質量部
・ 油脂(植物性ショートニング) ・・・ 10.0質量部
・ 水 ・・・ 55.0質量部
【0051】
<工程>
・ ミキシング時間 低速2分間中速6分間↓(油脂)中速5分間高速1分間
・ 捏上温度 21℃
・ フロア時間 30分間
・ 分割重量 45g
・ ベンチ時間 10分間
・ 成型 ロール成型
・ 凍結、冷凍条件 −30℃で45分間凍結後、−20℃で30日間保管
・ 解凍条件 20℃、相対湿度70%で、210分間
・ ホイロ時間 35℃、相対湿度85%で、60分間
・ 焼成条件 200℃で、10分間
【0052】
<評価>
−評価(4):冷凍生地の生地縮み−
上記工程における凍結、冷凍、及び解凍後のパン生地と、前記分割直後のパン生地をモルダーで棒状に成型し、成型したパン生地の長さを測定し、以下の評価基準で評価した。結果を表4に示す。
[評価基準]
前記解凍後のパン生地を用いた場合のパン生地の長さ(V)と、前記分割直後のパン生地を用いた場合のパン生地の長さ(W)との比(V/W)により評価した。
3点 : V/Wが、0.9以上である。
2点 : V/Wが、0.8以上0.9未満である。
1点 : V/Wが、0.8未満である。
【0053】
−評価(2):ロールパンの比容積−
試験例1と同様にして、ロールパンの比容積を評価した。結果を表4に示す。
【0054】
−評価(3):ロールパンの食感−
試験例1と同様にして、ロールパンの食感を評価した。結果を表4に示す。
【0055】
【表4】
表4の評価の項目中、(4)は冷凍生地の生地縮み、(2)はロールパンの比容積、(3)はロールパンの食感の評価結果を示す。
【0056】
表4の結果から、冷凍生地を用いた場合でも、本発明の品質改良剤を用いることにより、パン生地の縮みを抑制し、十分な生地伸展性が得られることが示された。
【0057】
また、前記試験例3において、本発明の品質改良剤を用いて製造されたロールパンは、比容積に優れ、また食感も優れるものであった。なお、試験例3−2、3−3では、酵母粉末の添加量が増えるにつれて、製造されたロールパンにやや酵母臭が感じられたため、風味の点で酵母粉末の添加量を好ましい範囲にするのが好適である。