【解決手段】次の(1)〜(3)の構成を有する、金属粒子を内包したゼオライト。(1)MFI構造のゼオライトの結晶内に金属粒子が内包されている。(2)前記ゼオライトが有する細孔の平均径よりも、前記金属粒子のサイズの方が大きい。(3)前記ゼオライトのサイズが、50〜1000nmである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のゼオライトについて、以下に説明する。
【0013】
[本発明のゼオライト]
本発明のゼオライトの概略断面図を
図1に示す。
図1に示すように、本発明のゼオライトは、金属粒子を内包している。ゼオライトに内包された金属粒子は、ゼオライト壁に移動を阻害されるため、高温環境下においても成長が抑制される。また、金属粒子をゼオライト以外の粒子で完全に覆った場合、原料または反応物が貴金属と接触することができないので触媒活性が発揮されない。しかし、本発明のゼオライトは、a軸方向およびb軸方向に貫通孔(
図1では細孔と記している)を有しているので、貫通孔を通して原料または反応物のやりとりができる。なぜなら、貫通孔の断面直径は一般的には0.5〜0.6nmであるのに対して金属粒子の粒径は、それよりも大きいので貫通孔を通じて金属粒子は移動できないが、原料または反応物は貫通孔内を移動できるからである。そのため、金属粒子が完全に覆われていたとしても触媒活性を発揮することができる。また、本発明のゼオライトは、実質的に金属粒子のみが内包されている(洗浄やイオン交換等で除去ができないレベルの成分は含んでいてもよい。)。
【0014】
このように本発明のゼオライトは、ゼオライトの結晶内に金属粒子が内包されているので、後述するメチシレン水素化試験を行った場合に測定される水素化反応生成物の収率は好ましくは3mol%以下、より好ましくは1mol%以下、さらに好ましくは0.5mol%以下となる。なぜなら、メチシレンの分子サイズはゼオライトがもつ細孔の径よりも大きいため、金属粒子と接触しないためである。
【0015】
また、本発明のゼオライトは、ゼオライトの結晶内に金属粒子が内包されているので、後述する熱処理を行った場合の金属粒子の成長率(成長率[%]=((熱処理後の金属粒子サイズ/熱処理前の金属粒子サイズ)−1)×100)は、好ましくは50%以下、さらに好ましくは30%以下となる。なぜなら、金属粒子の移動がゼオライト壁によって阻害されるためである。
【0016】
[本発明のゼオライトの構造]
本発明のゼオライトは、MFI構造を有している。本発明において、MFI構造の有無は、X線回折パターンから判断することができる。本発明のゼオライトは、X線回折パターンにおいて2θが下記の範囲に少なくとも1本のピークが存在する場合、MFI構造を有していると判断する。詳しい測定方法は後述する。
2θ=7.5〜8.5°
2θ=8.5〜9.5°
2θ=13.5〜14.5°
2θ=14.5〜15.5°
2θ=22.5〜23.5°
2θ=23.0〜24.0°
2θ=24.0〜25.0°
【0017】
MFI構造を有するゼオライトは、前述のごとく、ZSM−5、シリカライトがある。本発明のゼオライトは、Alを含まず、実質的に酸化ケイ素からなるシリカライトであることが好ましい。シリカライトは、Alを含んでいないので、高温で水分の多い環境下においても、安定してMFI構造を維持できる。また、本発明のゼオライトとしてZSM−5を用いる場合は、SiO
2/Al
2O
3比が、50以上であることが好ましい。ZSM−5のSiO
2/Al
2O
3比が50より低い場合、高温で水分の多い環境下において水分によりMFI構造が破壊される可能性があるので、好ましくない。
【0018】
[本発明のゼオライトのサイズ]
本発明のゼオライトは、ナノサイズのゼオライトである。そのサイズは、50〜1000nmの範囲にある。本発明におけるサイズとは、電子顕微鏡写真(倍率:10万〜20万倍)から100個の粒子を抽出し、その粒子の最も長い径を計測した値の平均値である。詳しい測定方法は後述する。本発明のゼオライトのサイズは、50〜200nmであることが好ましい。200nm以下のサイズのゼオライトは、強度に優れるので、他の材料と混合したり成形してもクラッキングや剥がれが起きにくい。50nmより小さいゼオライトは、合成が困難である。
【0019】
[本発明のゼオライトの比表面積]
本発明のゼオライトの比表面積は、250〜400m
2/gであることが好ましい。本発明における比表面積は、BET1点法により求めることができる。詳しい測定方法は後述する。比表面積が250m
2/gより低いゼオライトは、触媒活性が低くなる可能性があるため、好ましくない。
【0020】
[本発明のゼオライトが内包する金属粒子]
本発明のゼオライトが内包する金属粒子は、遷移金属または貴金属である。本発明のゼオライトが内包する金属粒子は、貴金属であることが好ましい。貴金属は、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osの元素からなり、本発明のゼオライトが内包する金属粒子は、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ruから選ばれる少なくとも1種であることが特に好ましい(これらの元素は、金属単体であってもよく、化合物の状態でもよい。)。これらの元素は、触媒の活性金属として特に有効なためである。しかし、これらの貴金属は埋蔵量が少なく大変高価であるため、大量に使用することは好ましくない。そこで、可能な限りこれらの貴金属のサイズを小さくすることで、少量であっても高い触媒活性を得ることができる。一方で、サイズの小さい貴金属は、シンタリングしやすいという課題も抱えている。本発明のゼオライトは、このような課題を解決する方法として特に優れている。
【0021】
[本発明のゼオライトが内包する金属粒子の量]
本発明のゼオライトは、金属粒子を少なくとも1個以上内包している。本発明のゼオライトが内包する金属粒子の数は、1〜50個が好ましい。ゼオライトが内包する金属粒子の数が多い場合、ゼオライトの強度が低下し、クラック等が発生する可能性があるため好ましくない。また、ゼオライトの細孔を閉塞させるので、ゼオライト内部における原料または生成物の拡散を阻害するので好ましくない。本発明のゼオライトが内包する金属粒子の数は、SEMまたはTEM画像において一つのゼオライト粒子に含まれる金属粒子を数えて算出する。測定方法の詳細は、後述する。
【0022】
また、金属粒子の含有量は、ゼオライトの含有量に対して、0.1〜10wt%であることが好ましい。金属粒子の含有量が増加すると、ゼオライトが内包する金属粒子の数が増加して、ゼオライトの強度が低下するため好ましくない。また、合成過程において金属粒子同士が接触する頻度が高まり、金属粒子が成長して大きくなる可能性があるため、金属粒子のサイズを小さく保つことが必要な用途(例えば、触媒等)に使用する場合は好ましくない。金属粒子とゼオライトの含有量は、例えば、ICP分析法により算出することができる。
【0023】
[本発明のゼオライトが内包する金属粒子のサイズ]
本発明のゼオライトが内包する金属粒子のサイズは、1〜10nmであることが好ましい。特に、1〜5nmであることが好ましい。本発明のゼオライトが内包する金属粒子のサイズが1〜5nmの範囲にある金属粒子は、特にシンタリングが起こりやすく、本発明のシンタリングを抑制する効果が顕著に表れる。
【0024】
[本発明のゼオライトと金属粒子のサイズの比率]
本発明のゼオライトと金属粒子のサイズの比率(金属粒子のサイズ/ゼオライトのサイズ)は、0.001〜0.2であることが好ましい。該比率が1より低い場合、ゼオライト中に金属粒子を内包することができなくなる。また、該比率が高すぎても、不必要に金属粒子を覆うことになり、好ましくない。
【0025】
本発明のゼオライトの製造方法(以下、本発明の製造方法ともいう。)について、以下に説明する。
【0026】
[本発明のゼオライトの製造方法]
本発明のゼオライトの製造方法は、下記(A)〜(D)の工程を具備する。
(A)金属粒子生成工程
(B)SiO
2層形成工程
(C)ゼオライト生成工程
(D)後処理工程
【0027】
以下、(A)〜(D)の工程について詳述する。
【0028】
[(A)金属粒子生成工程]
本発明の製造方法において、(A)の工程は、金属粒子を生成する工程である。例えば、界面活性剤と有機溶媒を混合し、これに一定量の金属塩を溶解し、更に還元剤を加え金属粒子を生成させることができる。また、市販の金属ゾル等を用いてもよい。
【0029】
前述の界面活性剤は、金属粒子の表面にミセルを形成することでエマルション化できるものであれば、従来公知のものを使用することができる。本発明の製造方法では、ポリオキシエチレン(15)オレイルエーテルを使用することが好ましい。ポリオキシエチレン(15)オレイルエーテルを界面活性剤として使用する場合、金属粒子の成長を抑制し、サイズの小さい金属粒子を得ることができる。
【0030】
前述の有機溶剤は、前記の金属粒子と界面活性剤の組合せでミセルを形成するものであれば、従来公知のものを使用することができる。本発明の製造方法では、シクロヘキサンを使用することが好ましい。
【0031】
前述の界面活性剤と有機溶媒の混合比率(界面活性剤[mol]/(界面活性剤[L]+有機溶媒[L]))は、0.1〜0.75、好ましくは0.3〜0.6である。
【0032】
前述の金属塩は、有機溶媒に溶解するものであれば、従来公知のものを使用することができる。例えば、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩等を用いることができる。本発明の製造方法では、塩化物を使用することが好ましい。塩化物は、前記の有機溶媒に対して溶解度が大きいので好ましい。また、有機溶媒の温度を沸点以下に高めることで、前述の金属塩の溶解度を高めることもできる。
【0033】
前述の還元剤は、有機溶剤に溶解した金属を還元できるものであれば、従来公知の物を使用することができる。例えば、還元力性の高いヒドラジンが好ましい。
【0034】
還元剤を添加するとき、有機溶媒の温度は、0〜60℃、好ましくは40〜50℃である。0℃より低い場合、金属の還元が進みにくく、60℃より高い場合、生成した金属粒子が凝集し金属粒子のサイズが大きくなる可能性があるため好ましくない。また、還元剤と有機溶媒の反応が進み、発火する恐れもある。
【0035】
[(B)SiO
2層形成工程]
本発明の製造方法において、(B)の工程は、(A)工程で生成した金属粒子の表面にSiO
2層を形成する工程である。例えば、金属の外表面を覆っている界面活性剤と金属アルコキシドが反応することで、金属粒子の表面にSiO
2層を形成することができる。具体的には、(A)工程で得られた溶液にSiアルコキシドを添加し、Siアルコキシドを加水分解することによって、金属粒子の表面にSiO
2層を形成することができる。
【0036】
前述のSiアルコキシドは、加水分解できるものであれば、従来公知のものを使用することができる。例えば、オルトケイ酸テトラエチル、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトラプロピル等を使用することができる。また、この他にシランカップリング剤を用いてもよい。本発明の製造方法において、オルトケイ酸テトラメチルまたはオルトケイ酸テトラエチルを使用することが好ましい。アルコキシ基が短い方が加水分解性が良く、SiO
2層が均一に形成される。
【0037】
前述のSiアルコキシドを加水分解するために、水を加える。この時、酸または塩基を含む水溶液を用いることが好ましい。酸または塩基は、加水分解反応を促進するための触媒となる。酸または塩基を含む水溶液として、例えば、塩酸やアンモニア水等を使用することができる。本発明の製造方法において、アンモニア水を用いることが好ましい。
【0038】
加水分解中または加水分解後の溶液のpHは7〜11が好ましい。pHが7より低い場合、金属粒子の表面に被覆されたSiO
2層同士が反応して、凝集しやすくなるため好ましくない。場合によっては、溶液が固化する恐れもある。また、これらの粒子が凝集した状態で(C)工程以降を行った場合、最終的に得られる金属粒子を内包したゼオライトの粒子径が大きくなるため好ましくない。更に、pHが11より高い場合、SiO
2層が溶解するので好ましくない。したがって、適切なpHの範囲で加水分解反応を行う必要がある。
【0039】
加水分解中または加水分解後の溶液の温度は0〜50℃が好ましい。前記の溶液の温度が0℃より低い場合、SiO
2層同士の反応は抑制されるものの、加水分解反応も遅くなるため、SiO
2層の形成に要する時間が極端に長くなるため好ましくない。また、前記の溶液の温度が50℃より高い場合、加水分解反応は進行しやすくなるものの、金属粒子の表面に被覆されたSiO
2層同士が反応して、凝集しやすくなるため好ましくない。したがって、適切な温度範囲で加水分解反応を行う必要がある。
【0040】
[(C)ゼオライト生成工程]
本発明の製造方法において、(C)の工程は、(B)工程で生成した金属粒子の表面のSiO
2層を有機構造規定剤と共に水熱処理し、SiO
2層からゼオライト層を生成する工程である。
【0041】
前述の水熱処理は、オートクレーブを用いて行う。具体的には、オートクレーブに(B)工程により得られた溶液を充填し、有機構造規定剤を添加した後、密閉して撹拌する。その後、オートクレーブを80〜120℃に昇温し、24〜120時間保持する。この時、オートクレーブの温度および保持時間が前述の範囲にない場合、ゼオライトが十分に生成しない可能性がある。
【0042】
前述の有機構造規定剤は、水熱処理によってゼオライトを生成できるものであれば、従来公知のものを用いることができる。例えば、MFI構造のゼオライトを得たい場合は、テトラプロピルアンモニウム等を用いることができる。有機構造規定剤の添加量は、SiO
2の含有量に対して0.1〜0.5wt%であることが好ましい。有機添加剤の量が少なすぎても多すぎても、目的の構造を有するゼオライトが生成しにくくなる。
【0043】
(D)後処理工程
本発明の製造方法において、(D)の工程は、(C)工程で得られた金属粒子を内包したゼオライトを含む溶液から、金属粒子を内包したゼオライトを回収する工程である。具体的には、(C)工程で得られた前記の溶液から金属粒子を内包したゼオライトを分離・乾燥した後、焼成して有機構造規定剤を除去する。また、焼成によって金属粒子が酸化される場合は、必要によって水素還元処理を追加する。
【0044】
前述の分離は、溶媒を除去できる方法であればよく、例えば、濾過、遠心分離、加熱、減圧等の従来公知の方法を用いることができる。本発明の製造方法において、前述の分離は加熱せずに行うことが好ましく、溶媒の除去速度を考慮すれば、濾過、遠心分離を用いることが好ましい。また、分離して得られた金属粒子を内包したゼオライトは、表面に溶媒が残っているため、必要によって乾燥を行うとよい。乾燥は、表面の溶媒が除去できる条件であればよく、加熱乾燥、減圧乾燥、真空乾燥等を行うとよい。この場合も、加熱せずに減圧乾燥や真空乾燥を行うとよい。
【0045】
前述の焼成は、ゼオライトに含まれる有機構造規定剤を除去できる条件であればよく、例えば、大気中において400〜600℃で1〜48時間程度加熱するとよい。加熱温度および加熱時間が前述の範囲にない場合、有機構造規定剤の除去が十分でなかったり、金属粒子またはゼオライトが成長し、
サイズが大きくなる可能性があるので、前述の範囲で行うとよい。
【0046】
前述の焼成を行った場合、ゼオライトに内包される金属粒子の表面が酸化される場合がある。そこで、必要によって、焼成後に水素還元処理を行って酸素を除去するとよい。水素還元処理は、水素雰囲気下において、150〜450℃、1〜48hr程度行うとよい。温度および時間が前述の範囲にない場合、水素還元が十分に進行せず金属粒子に酸化物が残存したり、金属粒子またはゼオライトが成長し、サイズが大きくなる可能性があるので、前述の範囲で水素還元処理を行うとよい。また、水素還元処理後の金属粒子は、空気中の酸素と容易に反応しやすいため注意が必要である。場合によって、酸化で生じた反応熱によってゼオライトが発火する恐れがある。水素還元処理後は、水素雰囲気から窒素等の不活性雰囲気にガス置換し、徐々に酸素濃度を21%に近づけていくとよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
(A)金属粒子生成工程
界面活性剤であるポリオキシエチレン(15)オレイルエーテル[O-15](日本サーファクタント工業株式会社製)と有機溶媒であるシクロヘキサン(和光純薬工業株式会社製,99.5%)を、界面活性剤/有機溶媒混合=0.5mol/Lとなるよう混合した。この溶液をウォーターバスで50℃まで加熱し、塩化ロジウム(RhCl
3・3H
2O,和光純薬工業株式会社製,99.5%)を蒸留水(和光純薬工業株式会社製)に溶解し0.18Mの塩化ロジウム水溶液を調製し、0.36cc添加した。1時間撹拌後、ヒドラジン一水和物(N
2H
4・H
2O,和光純薬工業株式会社製、99.0%)を0.0010g添加して、0.5時間撹拌を継続し、溶液Aを調製した。
【0049】
(B)SiO
2層形成工程
撹拌を継続しつつ、溶液Aの温度を50℃に調整した。その後、溶液Aにオルトケイ酸テトラエチル(和光純薬工業株式会社製、95.0%)を2.31g添加し0.5時間撹拌した。更に、アンモニア水(和光純薬工業株式会社製,28.0%)3.23ccを0.5時間かけて添加し、溶液Bを調製した。
【0050】
(C)ゼオライト生成工程
溶液Bに、テトラプロピルアンモニウム(和光純薬工業株式会社製,10%水溶液)を7.50g添加し、2時間撹拌した後、オートクレーブで100℃、72時間水熱処理を行った。
【0051】
(D)後処理工程
水熱処理後の溶液Bを濾過し、得られた粉末を2-プロパノールで洗浄した。前記の粉末を、110℃、10時間大気中で乾燥した。その後、テンプレート、界面活性剤、有機溶媒を除去するために、前記の粉末を550℃、12時間、空気中で焼成した。前記の粉末を焼成した後、ロジウムを還元するために、450℃、水素濃度99.5%の雰囲気下で2時間水素還元し、ロジウムを内包したゼオライトを得た。
【0052】
[X線回折測定]
前述のゼオライトについて、下記の条件でX線回折測定を行った。
X線回折装置:UltimaIV(リガク製)
線源:Cu−Kα線
加速電圧、電流:40KV、20mA
受光スリット:開放
スキャン速度:20°/min
ステップ幅:0.020°
測定範囲(2θ):5°〜80°
【0053】
前述の測定で得られたX線回折パターンから、前述のゼオライトは、MFI構造を有するSilicalite-1であることが確認された。また、金属ロジウムを含有していることも確認された。X線回折パターンを
図2に示す。
【0054】
[金属粒子サイズ測定]
前述のゼオライトについて、水素パルス吸着法により、ロジウムのサイズを算出した。
装置名:BELCAT‐A(日本ベル株式会社)
前処理温度:450℃
前処理時間:N
2を15分流通し、その後H
2を15分流通し、更にその後N
2を15分流通
前処理ガス流量:30cc/min
サンプル量:0.075g
パルス吸着:50℃、9.95%H
2/N
2Balance
【0055】
前述の測定で得られた水素パルス吸着の結果から、前述のゼオライトに内包されるロジウムのサイズを算出したところ、2.8nmであった。結果を表1に示す。
【0056】
前述のゼオライトについて、熱処理を行った後、前述のゼオライトに内包されるロジウムの粒子径を算出した。下記の条件以外は、前述の条件と同様の方法で測定した。
熱処理:空気雰囲気下、600℃で2hr保持
【0057】
前述の測定で得られた水素パルス吸着の結果から、600℃で熱処理した前述のゼオライトに内包されるロジウムのサイズは、3.5nmであった。また、その成長率(成長率[%]=((熱処理後の金属粒子サイズ/熱処理前の金属粒子サイズ)−1)×100)は、25%であった。結果を表1に示す。
【0058】
[ゼオライトのサイズ測定]
前述のゼオライトについて、SEM観察を行い、ゼオライトのサイズを算出した。具体的には粒子100個をランダムに抽出し,その長径の平均値をサイズとした。
装置名:JEOL JSM−6500F
【0059】
前述の測定で得られたゼオライトのサイズは、110nmであった。結果を表1に示す。また、TEM観察で得られたTEM画像から、ゼオライトの内部にロジウムが1個以上内包されていることが確認された。TEM画像を
図3に示す。
装置名:JEOL JEM−2010
【0060】
[反応評価:ベンゼン水素化]
前述のゼオライトについて、ベンゼン水素化試験により、触媒活性の評価を行った。なお、ベンゼンの分子サイズは、前述のゼオライトが持つ細孔径より小さい。
反応器 :液相回分反応器(
図4)
前処理 :反応器内部で、450℃、2hr、水素雰囲気下
ゼオライト仕込量:0.08g
反応原料 :ベンゼン17.52g
触媒/反応原料 :6.45×10
−5g/g(Rh基準)
反応温度 :80℃
反応時間 :4時間
水素圧 :1MPa
反応液分析 :ガスクロマトグラフィー(カラム:SHIMADZU CBP−20)
【0061】
前述の反応評価で得られた生成物(シクロヘキサン)の収率は、61.8mol%であった。結果を表に示す。
【0062】
[反応評価:ベンゼン水素化(被毒物質あり)]
前述のゼオライトについて、被毒物質(4,6ジメチルジベンゾチオフェン)の存在下でベンゼン水素化を行った。具体的には、下記の条件以外は、前述のベンゼン水素化の条件と同じ条件で触媒活性の評価を行った。なお、4,6ジメチルジベンゾチオフェンは、Rhに吸着して触媒活性を低下させる被毒物質の一つであって、その分子サイズは、前述のゼオライトがもつゼオライトの細孔径より大きい。
反応原料:ベンゼン17.52g、4,6ジメチルジベンゾチオフェン0.0351g
【0063】
前述の反応評価で得られた生成物(シクロヘキサン)の収率は、24.0mol%であった。結果を表1に示す。
【0064】
[反応評価:メチシレン水素化]
前述のゼオライトについてメチシレン水素化を行った。具体的には、下記の条件以外は、前述のベンゼン水素化の条件と同じ条件で触媒活性の評価を行った。なお、メチシレンの分子サイズは、前述のゼオライトがもつゼオライトの細孔径より大きい。
反応原料:メチシレン17.2g
【0065】
前述の反応評価で得られた生成物(1,3,5−トリメチルシクロヘキサン)の収率は、0mol%であった。結果を表1に示す。
【0066】
[比較例1]
エマルション法で得られた粒子径が80nmであるゼオライト(Silicalite−1)1.0gと塩化ロジウム水溶液(Rh濃度0.18M)を混合し、12時間室温で乾燥してロジウム担持ゼオライト前駆体を得た。得られたロジウム担持ゼオライト前駆体を真空乾燥し、550℃、12時間、空気中で焼成した。その後、450℃、水素濃度99.5%の雰囲気下で2時間水素還元し、ロジウム担持ゼオライトを得た。
【0067】
前述のロジウム担持ゼオライトについて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0068】
実施例1のゼオライトは、600℃で熱処理しても、ロジウムのサイズがシングルナノオーダーを維持している。これは、ロジウムがゼオライトで覆われており、ロジウムの移動を抑制したためと考えられる。一方、比較例1のゼオライトは、600℃で熱処理すると、ロジウムのサイズが18.6nmまで大きくなる。これは、ロジウムが移動し、ロジウム同士が接触し凝集または結晶成長したためと考えられる。したがって、本発明のゼオライトは、600℃という過酷な環境下においても、ロジウムの成長を抑制できる。
【0069】
実施例1のゼオライトは、ベンゼン水素化試験において活性を示すが、メチシレン水素化試験においては活性を示さない。これは、実施例1のゼオライトに含まれるロジウムがゼオライトに内包されているため、ゼオライトの細孔より小さいベンゼンはゼオライト内に侵入してロジウムと接触することにより水素化され、ゼオライトの細孔より大きいメチシレンはゼオライト内に侵入できずロジウムと接触できなかったため、水素化されなかったものと考えられる。
【0070】
実施例1のゼオライトと比較例1のゼオライトを比較すると、被毒物質のない状態では、比較例1のゼオライトの方がベンゼン水素化活性が高い。しかし、被毒物質がある状態では、実施例1のゼオライトの方がベンゼン水素化活性が高い。これは、水素化活性金属であるロジウムがゼオライトの表面にある比較例1のゼオライトは、被毒物質によってロジウムが被毒されたため、ベンゼン水素化活性が低くなったものと考える。一方、ロジウムがゼオライトに内包されている実施例1のゼオライトは、被毒物質がゼオライトの内部に侵入できずロジウムが被毒されなかったため、ベンゼンの水素化活性が高くなったものと考えられる。
【0071】
【表1】