(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-132707(P2017-132707A)
(43)【公開日】2017年8月3日
(54)【発明の名称】義歯安定剤除去剤及び除去方法
(51)【国際特許分類】
A61K 6/00 20060101AFI20170707BHJP
A61C 13/23 20060101ALI20170707BHJP
A61K 6/08 20060101ALI20170707BHJP
【FI】
A61K6/00 Z
A61C13/23
A61K6/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-12907(P2016-12907)
(22)【出願日】2016年1月27日
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(72)【発明者】
【氏名】原田 佳枝
(72)【発明者】
【氏名】三村 純代
(72)【発明者】
【氏名】二川 浩樹
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA20
4C089BE17
4C089CA03
(57)【要約】
【課題】義歯安定剤を除去可能な義歯安定剤除去剤、及び、除去方法を提供する。
【解決手段】義歯安定剤除去剤は、カルボキシメチルセルロースのグリコシド結合を切断する機能を有するセルラーゼを含有している。義歯安定剤除去剤では、義歯に付着している義歯安定剤を除去することが可能となる。洗浄後は、義歯に新たに義歯安定剤を用いることで、清潔かつ十分に歯茎に密着した状態で、義歯の使用を続けることが出来るようになる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシメチルセルロースのグリコシド結合を切断する機能を有するセルラーゼを含有し、
義歯に付着しているクリームタイプの義歯安定剤を除去する、
ことを特徴とする義歯安定剤除去剤。
【請求項2】
前記義歯安定剤除去剤が液状であり、前記セルラーゼを0.1〜0.5重量%含有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の義歯安定剤除去剤。
【請求項3】
前記義歯安定剤除去剤が固体状であり、前記セルラーゼを6.9〜27.3重量%含有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の義歯安定剤除去剤。
【請求項4】
カルボキシメチルセルロースのグリコシド結合を切断する機能を有するセルラーゼを含有する液状の義歯安定剤除去剤に、クリームタイプの義歯安定剤が付着している義歯を浸漬し、前記義歯安定剤を除去する、
ことを特徴とする義歯安定剤除去方法。
【請求項5】
前記セルラーゼを0.1〜0.5重量%含有する前記義歯安定剤除去剤を用いる、
ことを特徴とする請求項4に記載の義歯安定剤除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯安定剤除去剤及び除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の社会の高齢化にともない、有床義歯をはじめとする義歯使用者が増えている。一般的に、義歯使用者は就寝前に義歯を取り外し、義歯の雑菌等を除去すべく、翌朝まで義歯洗浄液に浸漬させるなどを行い、洗浄された義歯を翌朝口腔内に取り付けて使用している。このため、義歯洗浄剤については、種々のものがある(例えば、特許文献1−4)。
【0003】
義歯が使用者に十分に適合していれば、義歯と歯茎とが密着するので、義歯安定剤を使用する必要性はないと考えられている。しかしながら、義歯の長期間使用によって、義歯或いは歯茎の形状が変化して義歯と歯茎との適合性が損なわれたり、作製された義歯が使用者に十分に適合していなかったりするなどの理由から、義歯安定剤を利用する者も増えている。
【0004】
義歯安定剤には、クリームタイプ、パウダータイプ、シートタイプ、クッションタイプのものがあり、この中で、歯科医からクリームタイプの義歯安定剤が推奨されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−117600号公報
【特許文献2】特開平11−180842号公報
【特許文献3】特開平10−511093号公報
【特許文献4】特開平10−95722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
使用後の義歯の洗浄は、不十分だとカンジダ症など感染症の原因になるため、重要なオーラルケアの一つである。これまでの義歯洗浄剤は、義歯に付着した細菌等の除去に主眼が置かれていることから、義歯に付着しているクリームタイプの義歯安定剤の除去能が十分ではなかった。
【0007】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、義歯安定剤を除去可能な義歯安定剤除去剤、及び、除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係る義歯安定剤除去剤は、
カルボキシメチルセルロースのグリコシド結合を切断する機能を有するセルラーゼを含有し、
義歯に付着しているクリームタイプの義歯安定剤を除去する、
ことを特徴とする。
【0009】
また、前記義歯安定剤除去剤が液状であり、前記セルラーゼを0.1〜0.5重量%含有することが好ましい。
【0010】
また、前記義歯安定剤除去剤が固体状であり、前記セルラーゼを6.9〜27.3重量%含有することが好ましい。
【0011】
本発明の第2の態様に係る義歯安定剤除去方法は、
カルボキシメチルセルロースのグリコシド結合を切断する機能を有するセルラーゼを含有する液状の義歯安定剤除去剤に、クリームタイプの義歯安定剤が付着している義歯を浸漬し、前記義歯安定剤を除去する、
ことを特徴とする。
【0012】
前記セルラーゼを0.1〜0.5重量%含有する前記義歯安定剤除去剤を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る義歯安定剤除去剤では、義歯に付着している義歯安定剤を除去することが可能となる。洗浄後は、義歯に新たに義歯安定剤を用いることで、清潔かつ十分に歯茎に密着した状態で、義歯の使用を続けることが出来るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(A)は、除去剤11、12にポリグリップ無添加を塗布した試料を浸漬させた際の残余量値の経時的変化を示すグラフ、
図1(B)は、除去剤11、12にタフグリップを塗布した試料を浸漬させた際の残余量値の経時的変化を示すグラフである。
【
図2】
図2(A)は、除去剤21、洗浄剤21にポリグリップ無添加を塗布した試料を浸漬させた残余量値の経時的変化を示すグラフ、
図2(B)は、除去剤21、洗浄剤21にタフグリップを塗布した試料を浸漬させた残余量値の経時的変化を示すグラフ、
図2(C)は、除去剤22、洗浄剤22にポリグリップ無添加を塗布した試料を浸漬させた残余量値の経時的変化を示すグラフ、
図2(D)は、除去剤22、洗浄剤22にタフグリップを塗布した試料を浸漬させた残余量値の経時的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(義歯安定剤除去剤)
義歯安定剤除去剤は、カルボキシメチルセルロースのグリコシド結合を切断する機能を有するセルラーゼを含有していしている。
【0016】
クリームタイプの義歯安定剤には、成分としてカルボキシメチルセルロースが多く含まれている。義歯安定剤除去剤に含まれているセルラーゼは、この義歯安定剤に含まれているカルボキシメチルセルロースのグリコシド結合を切断することにより、義歯安定剤除去剤を分解し、義歯から義歯安定剤除去剤を除去する。
【0017】
セルラーゼはカルボキシメチルセルロースのグリコシド結合を切断する機能を有していればよく、例えば、セルラーゼ(EC3.2.1.4)などが挙げられる。
【0018】
義歯安定剤除去剤は、その他、一般的な義歯洗浄剤に用いられる公知の殺菌剤、保存剤、着色剤、香料などの成分を含有していてもよい。
【0019】
義歯安定剤除去剤は液状(液剤)、固体状(錠剤、散剤、顆粒剤など)の形態が挙げられる。義歯安定剤除去剤が液状の場合、セルラーゼを0.1〜0.5重量%含有していることが好ましい。また、義歯安定剤除去剤が固体状の場合、セルラーゼを6.9〜27.3重量%含有していることが好ましい。
【0020】
義歯安定剤除去剤が液状の場合、水にセルラーゼを所定量溶解させることで得られる。
【0021】
また、義歯安定剤除去剤が固体状の場合、適宜公知の賦形剤、その他成分等とセルラーゼを混合し、錠剤等に成形することで得られる。
【0022】
液状の義歯安定剤除去剤を使用する場合、義歯安定剤除去剤(例えば、150mL)にそのまま義歯を浸漬させ、6〜12時間おいておくことで、義歯に付着している義歯安定剤を除去できる。
【0023】
また、固体状の義歯安定剤除去剤を使用する場合、水(例えば、150mL)に義歯安定剤除去剤を投入して溶解し、この溶液に義歯を浸漬させ、6〜12時間おいておくことで、義歯に付着している義歯安定剤を除去できる。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
義歯安定剤除去剤を調製し、義歯安定剤の除去特性について検証した。
【0025】
義歯安定剤除去剤は、40℃の水150mLにセルラーゼ(メイセラーゼ(登録商標);Meiji Seika ファルマ株式会社)を投入して調製した。なお、セルラーゼの濃度は0.1重量%(セルラーゼ投入量:150mg)、0.5重量%(セルラーゼ投入量:750mg)として調製し、それぞれの義歯安定剤除去剤を除去剤11、及び、除去剤12と記す。
【0026】
試料として、歯科用の加熱重合型アクリルレジン(面積:25mm
2、厚み:2mm)を準備した。この試料の表面にクリームタイプの義歯安定剤を略均一に塗布した。クリームタイプの義歯安定剤として、新ポリグリップ無添加(登録商標;グラクソ・スミスクライン株式会社)、タフグリップクリーム(登録商標;小林製薬株式会社)を用いた。
【0027】
義歯安定剤を塗布した試料をそれぞれ除去剤11、除去剤12に浸漬して室温(23±2℃)に置き、義歯安定剤除去剤の残余量を経時的に測定した。
【0028】
また、コントロール実験として、除去剤11、除去剤12の代わりに水(以下、コントロール11)を用い、上記と同様に、義歯安定剤を塗布した試料を水に浸漬して、義歯安定剤除去剤の残余量を経時的に測定した。
【0029】
その結果を
図1に示す。なお、残余量値は、試料を撮影し、試料に残っている義歯安定剤の残余面積を目視にて確認し、残余面積の割合を表1に基づいて求めた値である。
【0030】
【表1】
【0031】
図1(A)、(B)をみると、除去剤11、12では、コントロール11に比べ、いずれの浸漬時間においても義歯安定剤の残余量値が小さいことがわかる。セルラーゼによって、義歯安定剤に含まれているカルボキシメチルセルロースが分解された結果、義歯安定剤の残余量が少なくなったと言える。特に、浸漬6時間において、残余量値に大きな差が生じており、一般的に、義歯使用者が洗浄する場合、6時間程度の浸漬時間であることを鑑みると、除去剤11、12は非常に有効であると言える。
【0032】
一方で、除去剤11、12のいずれについても、義歯安定剤の残余量値は同程度で推移しており、有意差はみられない。したがって、添加するセルラーゼは0.1〜0.5重量%程度でよいと考えられる。
【0033】
(実施例2)
続いて、セルラーゼと市販の義歯洗浄剤を組み合わせて用い、義歯安定剤の除去について検証した。
【0034】
40℃の水150mLに、セルラーゼ(メイセラーゼ(登録商標);Meiji Seika ファルマ株式会社)を150mg投入し、更に、義歯洗浄剤として酵素入りポリデント(登録商標)(錠剤:2.8±0.03g/1粒;小林製薬株式会社)を1粒投入し、義歯安定剤除去剤を調製した。これを除去剤21と記す。
【0035】
また、義歯洗浄剤として、青ピカ(登録商標)(錠剤:2.0±0.01g/1粒;ロート製薬株式会社)を1粒投入した以外、上記と同様にして、義歯安定剤除去剤を調製した。これを除去剤22と記す。
【0036】
また、コントロール実験として、セルラーゼを投入せずに、それぞれの義歯洗浄剤を水に投入した義歯洗浄剤を調製した。酵素入りポリデント(登録商標)を投入して調製した義歯洗浄剤を洗浄剤21、青ピカ(登録商標)を投入して調製した義歯洗浄剤を洗浄剤22と記す。
【0037】
また、実施例1と同様に、義歯安定剤として、新ポリグリップ無添加(登録商標)、タフグリップクリーム(登録商標)を塗布した試料(歯科用の加熱重合型アクリルレジン(面積:25mm
2、厚み:2mm))を準備した。
【0038】
そして、実施例1と同様に、それぞれの除去剤、洗浄剤にそれぞれの義歯安定剤を塗布した試料を浸漬し、経時的に義歯安定剤の残余量を測定した。なお、義歯安定剤の残余量の測定方法は、実施例1と同様である。
【0039】
その結果を
図2に示す。
図2(A)が除去剤21、洗浄剤21にポリグリップ無添加(登録商標)を塗布した試料を浸漬させた結果、
図2(B)が除去剤21、洗浄剤21にタフグリップ(登録商標)を塗布した試料を浸漬させた際の結果、
図2(C)が除去剤22、洗浄剤22にポリグリップ無添加(登録商標)を塗布した試料を浸漬させた結果、
図2(D)が除去剤22、洗浄剤22にタフグリップ(登録商標)を塗布した試料を浸漬させた際の結果である。
【0040】
図2(A)〜
図2(D)のいずれについても、除去剤の方が洗浄剤に比べて、残余量値が小さく、有意に早く効果を発揮していることがわかる。
【0041】
なお、除去剤21、除去剤22中のセルラーゼ濃度は0.1重量%であり、固体状の義歯安定剤除去剤として水に溶解する形態の場合、固体中のセルラーゼ濃度はそれぞれ約5.7重量%、6.9重量%である。また、除去剤21、除去剤22中のセルラーゼ濃度を0.5重量%としたとすると、固体中のセルラーゼ濃度はそれぞれ約21.2重量%、27.2重量%と換算される。このことから、固体状の義歯安定剤除去剤とした場合、その固体中にセルラーゼを6.9〜27.3重量%含有していればよいと考えられる。
【0042】
以上のように、カルボキシメチルセルロースのグリコシド結合を切断する機能を有するセルラーゼを含有する義歯安定剤除去剤では、義歯に付着している義歯安定剤を効果的に除去できることを立証した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る義歯安定剤除去剤は、クリームタイプの義歯安定剤に含まれているカルボキシメチルセルラーゼのグリコシド結合を切断する機能を有するセルラーゼを含有している。義歯に利用されるクリームタイプの義歯安定剤の除去に利用可能である。