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特開2017-139246気密封止用蓋材、それを用いた電子部品収納パッケージ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-139246(P2017-139246A)
(43)【公開日】2017年8月10日
(54)【発明の名称】気密封止用蓋材、それを用いた電子部品収納パッケージ
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/02 20060101AFI20170714BHJP
   H03H 9/02 20060101ALI20170714BHJP
【FI】
   H01L23/02 J
   H01L23/02 C
   H03H9/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-126008(P2014-126008)
(22)【出願日】2014年6月19日
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304051908
【氏名又は名称】株式会社日立金属ネオマテリアル
(72)【発明者】
【氏名】横田 将幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅春
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108BB02
5J108CC04
5J108EE03
5J108EE04
5J108EE07
5J108EE14
5J108EE19
5J108FF11
5J108GG03
5J108GG11
5J108GG15
5J108KK04
(57)【要約】
【課題】1つの気密封止用蓋材を製造するために必要なリードタイムが短縮でき、その結果として製造コストが低減でき、加えて、熱処理時の変色や酸化に対する耐性を含む耐食性の向上が期待できる気密封止用蓋材を提供し、その気密封止用蓋材を用いた電子部品収納パッケージを提供する。
【解決手段】ステンレス鋼を用いて成る基材層と、前記基材層の一方面に対し、NiまたはNi合金を用いて成る表面層が接合されているクラッド材を用いて成る気密封止用蓋材とする。この気密封止用蓋材を用いて、前記表面層が電子部品を収納するための電子部品収納部材に溶接された電子部品収納パッケージとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品を収納するための電子部品収納部材を含む電子部品収納パッケージに用いられる気密封止用蓋材であって、ステンレス鋼を用いて成る基材層と、前記基材層の一方面に対し、NiまたはNi合金を用いて成る第1表面層が接合されているクラッド材を用いて成る、気密封止用蓋材。
【請求項2】
前記基材層の他方面に対し、NiまたはNi合金を用いて成る第2表面層が接合されているクラッド材を用いて成る、請求項1に記載の気密封止用蓋材。
【請求項3】
前記クラッド材の厚みが50μm〜150μmである、ことを特徴とする請求項1または2に記載の気密封止用蓋材。
【請求項4】
前記第1表面層の厚みが1μm〜12μmである、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の気密封止用蓋材。
【請求項5】
前記第2表面層の厚みが1μm〜12μmである、ことを特徴とする請求項4に記載の気密封止用蓋材。
【請求項6】
電子部品を収納するための電子部品収納部材と、前記電子部品収納部材を気密封止するための気密封止用蓋材とを有し、前記気密封止用蓋材は、ステンレス鋼を用いて成る基材層と、前記基材層の一方面に接合されたNiまたはNi合金を用いて成る第1表面層とを有するクラッド材を用いて成り、前記第1表面層が前記電子部品収納部材に対して溶接されている、電子部品収納パッケージ。
【請求項7】
前記基材層の他方面に対し、NiまたはNi合金を用いて成る第2表面層が接合されているクラッド材を用いて成る、請求項6に記載の電子部品収納パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密封止用蓋材、それを用いた電子部品収納パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面にNi層またはNi合金層を有する気密封止用蓋材を用いた電子部品収納パッケージが知られている。電子部品収納パッケージは、電子部品が収納された電子部品収納部材に対して気密封止用蓋材がはんだ接着や抵抗溶接によって接合され、電子部品収納部材の内部が気密封止されたものである。この気密封止に際し、はんだとの濡れ性や抵抗溶接性を高めるために、気密封止用蓋材にNi層またはNi合金層を有することは有効である。
【0003】
例えば、特許文献1には、半導体パッケージの構成部品であるNiめっきされたキャップ(蓋材)が開示され、そのキャップは内部に半導体チップを収容するパッケージ本体の外周部にはんだ付けされている。また、特許文献2には、圧電振動子の構成部品であるNiめっきされた29Ni(ニッケル)−16Co(コバルト)−Fe(鉄)合金を用いて成る蓋部材(蓋材)が開示され、その蓋部材は内部に圧電振動素子を収容する絶縁基板パッケージ本体の外周部にはんだ付けされている。また、特許文献3には、42Ni−Fe合金や29Ni−16Co−Fe合金等のFe基合金を用いて成る薄板に対してNiめっきを施した蓋部材(蓋材)が、従来の技術として記載されている。このような蓋材は、42Ni−Fe合金や29Ni−16Co−Fe合金等のFe基合金を用いて成る基材層と、その基材層の表面にめっき形成されたNiまたはNi合金を用いて成る表面層(Ni層またはNi合金層)とを有する。また、このような蓋材は、圧延によって前記Fe基合金を用いて成る板材を形成し、その板材から個片を形成し、その個片にNiめっき処理を行う製造方法が一般的である。
【0004】
また、上述した特許文献3には、薄板の片面もしくは両面に熱間クラッド加工によってNiが接合された蓋部材(蓋材)が、従来の技術として記載されている。そして、特許文献3には、アルミナパッケージの構成部品である42Ni−FeとNiとのクラッド材を用いて成る金属製ハーメチックシール蓋(蓋材)が開示され、そのシール蓋は内部にシリコンチップを収容するアルミナパッケージ本体の外周部にはんだ薄板(シールリング)を用いてはんだ付けされている。このような蓋材は、42Ni−Fe合金等のFe基合金を用いて成る基材層と、その基材層の表面にクラッド接合されたNiまたはNi合金を用いて成る表面層(Ni層またはNi合金層)とを有する。また、このような蓋材は、圧延によって前記Fe基合金を用いて成る板素材およびNiまたはNi合金を用いて成る板素材を形成し、これらの板素材をクラッド圧延してクラッド材に形成し、そのクラッド材から個片を形成する製造方法が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭62−68238号公報
【特許文献2】特開2012−74807号公報
【特許文献3】特開平4−96256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したNiめっきされた蓋材の製造において、基材に対して無電解Niめっき処理を行う場合は、バレル内での基材同士の重なり抑制を目的としてダミー部材を加えることが専らであるため、バレル内へ投入可能な基材個数が少なくなる。また、基材に対して電解Niめっき処理を行う場合は、めっき厚みのばらつき抑制を目的として電流密度を小さくすることが専らであるため、めっき処理速度が小さくなる。また、無電解Niめっき処理や電解Niめっき処理は、その処理後に被めっき材(蓋材)を十分に洗浄し、めっき液残りによる蓋材の腐食を防止する必要がある。これらの結果、特許文献1〜3に開示されたNiめっきされた蓋材では、蓋材1個当たりのNiめっき処理に要する時間(タクトタイム)が長くなるため、1個の蓋材を製造するために必要な時間(リードタイム)が長くなるという問題点がある。また、リードタイムが長くなる分だけ、蓋材の製造コストが高くなるという問題がある。
【0007】
また、上述した特許文献3に開示されたクラッド材を用いて成る蓋材のように、42Ni−Fe合金や29Ni−16Co−Fe合金等のFe基合金を用いて成る基材の片面または両面にNi材またはNi合金材が接合されたクラッド材を用いて成る蓋材は、プレス加工(打抜き)などの簡便な手段によって所定の寸法に形成することが専らである。その結果、クラッド材を用いて成る蓋材では、打抜き断面において露出している基材部分から腐食してしまうことがあるため、蓋材の耐食性が低くなるという問題点がある。
【0008】
本発明の目的は、1つの気密封止用蓋材を製造するために必要なリードタイムが短縮でき、その結果として製造コストが低減でき、加えて、耐食性の向上が期待できる気密封止用蓋材を提供し、その気密封止用蓋材を用いた電子部品収納パッケージを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、従来の蓋材の構成やそれらの製造プロセスを詳細に検討し、従来よりもリードタイムが短縮し、耐食性が向上する気密封止用蓋材の構成を見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、電子部品を収納するための電子部品収納部材を含む電子部品収納パッケージに用いられる気密封止用蓋材であって、ステンレス鋼を用いて成る基材層と、前記基材層の一方面に対し、NiまたはNi合金を用いて成る第1表面層が接合されているクラッド材を用いて成る、気密封止用蓋材である。
【0010】
本発明の気密封止用蓋材は、前記基材層の他方面に対し、NiまたはNi合金を用いて成る第2表面層が接合されているクラッド材を用いて成ることが好ましい。また、前記クラッド材の厚みが50μm〜150μmであることが好ましい。また、前記表面層の厚みが1μm〜12μmであることが好ましい。また、前記第2表面層の厚みが1μm〜12μmであることがより好ましい。
【0011】
本発明の気密封止用蓋材を用いることにより、本発明の気密封止用蓋材による作用効果を享受することができる電子部品収納パッケージを得ることができる。すなわち本発明の電子部品収納パッケージは、電子部品を収納するための電子部品収納部材と、前記電子部品収納部材を気密封止するための気密封止用蓋材とを有し、前記気密封止用蓋材は、ステンレス鋼を用いて成る基材層と、前記基材層の一方面に接合されたNiまたはNi合金を用いて成る第1表面層とを有するクラッド材を用いて成り、前記表面層が前記電子部品収納部材に対して溶接されている、電子部品収納パッケージである。
【0012】
本発明の電子部品収納パッケージは、前記基材層の他方面に対し、NiまたはNi合金を用いて成る第2表面層が接合されているクラッド材を用いて成ることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、1つの気密封止用蓋材を製造するために必要なリードタイムが短縮でき、その結果として製造コストが低減でき、加えて、耐食性の向上が期待できる気密封止用蓋材を得ることができる。また、本発明による気密封止用蓋材を用いることにより、本発明の作用効果を享受することができる電子部品収納パッケージを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態による気密封止用蓋材の構成を示した斜視図である。
図2図1に示す蓋材1の表面層4に対応する表面層を有さない気密封止用蓋材の構成を示した斜視図である。
図3】本発明の一実施形態による電子部品収納パッケージの構成を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明における重要な特徴は、耐食性(熱処理時の変色や酸化に対する耐性を含む)の向上を図るために、従来のNiめっき処理を行う必要がないクラッド材を用いて成る気密封止用蓋材の構成において、基材層にステンレス鋼を適用したことである。
【0016】
本発明の気密封止用蓋材は、ステンレス鋼を用いて成る基材層の一方面に対し、NiまたはNi合金を用いて成る表面層が接合されているクラッド材を用いて成る。このクラッド材であってNiまたはNi合金を用いて成る表面層を有する構成により、前記表面層を電子部品を収納するための電子部品収納部材側に配置して電子部品収納部材を気密封止することができるため、前記基材層の表面にNiめっき処理を行う必要がない。
【0017】
また、クラッド材は、圧延によって2以上の板素材を形成し、クラッド圧延によって2以上の前記板素材を相互に接合することによって製造することができる。製造技術に鑑みれば、クラッド材用の板素材を形成するための圧延は、従来のNiめっきされた蓋材用の板材を形成するための圧延に比べて大きな違いがない。例えば、従来行われている板材の仕上げ圧延工程の最終段階をクラッド圧延に置換するか、あるいは前記最終段階に次いでクラッド圧延を行う程度の違いに過ぎない。従って、クラッド材の製造に要するタクトタイムは、従来行われている板材の圧延工程における仕上げ圧延に要する程度の時間か、あるいは更にクラッド圧延に要する時間を加算した程度の時間を見込むことが相当である。
【0018】
よって、Niめっき処理を行う必要がない本発明の気密封止用蓋材の製造においては、上述したように通常タクトタイムが長くなるNiめっき処理を行う場合と比べて、たとえクラッド材の製造に要するタクトタイムが加算されるとしても、1つの気密封止用蓋材を製造するために必要なリードタイムを十分に短縮することができる。この結果、リードタイムの短縮分だけ、1つの気密封止用蓋材を製造するために必要な製造コストを低減することができる。
【0019】
また、従来行われているNiめっき処理は、めっき前の清浄化、めっき液の濃度や不純物の管理、めっき後の十分な洗浄など、コストを押し上げる要因が多いため、一般的に製造コストが高い。一方、従来行われているクラッド圧延は、従来行われているNiめっき処理よりも製造コストが低く、Niめっき処理を行う蓋材であっても板材の仕上げ圧延を行う必要があるため、その最終段階にクラッド圧延を追加したからといって、製造コストが大きく増大することはない。よって、Niめっき処理に替えてクラッド圧延が追加されるとしても、概ねNiめっき処理を行わない分だけ、1つの気密封止用蓋材を製造するために必要な製造コストを低減することができる。
【0020】
また、本発明の気密封止用蓋材は、ステンレス鋼を用いて成る基材層を有する。基材層をステンレス鋼を用いて成る構成にすることによって、主にCrからなる不動態膜が基材層の表面上に形成されるため、基材層が42Ni−Fe合金や29Ni−16Co−Fe合金等のFe基合金を用いて成る構成である場合と比べて、基材層の耐食性を向上させることができる。これにより、プレス打抜きによって露出する断面などのNiまたはNi合金により構成された表面層に覆われていない部分からの基材層の腐食が抑制されるため、気密封止用蓋材の耐食性を向上させることができる。
【0021】
ステンレス鋼は、一般にCr(クロム)を10.5質量%以上含む鋼とされ、Feを50質量%以上含む鋼の中でも特に耐食性が優れている鋼である。本発明における基材層は、上述したCr系の不動態膜を明確に生成して優れた耐食性を発揮するようになるCrを12.0質量%以上含むステンレス鋼が好ましい。例えば、12質量%以上18質量%以下のCrを含むオーステナイト系のSUS301シリーズ、SUS304シリーズ、SUS316シリーズや、フェライト系のSUS430シリーズ、SUS436シリーズや、マルテンサイト系のSUS440シリーズや、析出硬化系のSUS630シリーズなどが使用できる。
【0022】
また、より高い耐食性を所望する場合は、例えば、18質量%を超えて25質量%以下のCrを含むオーステナイト系の310シリーズや、オーステナイト−フェライト系の329シリーズや、フェライト系の445シリーズなどが使用できる。オーステナイト系のステンレス鋼は、耐食性が特に優れているため好ましい。また、オーステナイト−フェライト系は、オーステナイト系ほどではないにしても耐食性が優れているため好ましい。また、フェライト系は、一般に、オーステナイト系やオーステナイト−フェライト系よりもプレス加工性が良く、安価であるため好ましい。
【0023】
以下、本発明の気密封止用蓋材における好ましい構成について説明する。
本発明の気密封止用蓋材は、NiまたはNi合金を用いて成る表面層が接合されていないステンレス鋼を用いて成る基材層の他方面に対し、NiまたはNi合金を用いて成る第2表面層が接合されているクラッド材を用いて成ることが好ましい。この構成により、気密封止用蓋材を電子部品収納部材に対して接合して気密封止する際に、気密封止用蓋材の表裏の判別が不要になるので電子部品収納パッケージの生産性を向上させることができる。また、基材層の表裏面がNiまたはNi合金を用いて成る耐食性の高い表面層および第2表面層によって被覆され、これにより基材層の露出が低減されるため、耐食性がオーステナイト系よりもやや低いフェライト系のステンレス鋼を基材層とすることにより、上述したフェライト系のプレス加工性や安価である利点を得ることができる。
【0024】
また、本発明の気密封止用蓋材は、厚みが50μm〜150μmの前記クラッド材を用いて成ることが好ましい。クラッド材の厚みが50μm以上であると、気密封止に耐え得る機械的強度を有することができるため、気密封止を行った際に蓋材が変形するなどして電子部品収納パッケージの気密封止が困難になるのを抑制することができる。また、クラッド材の厚みが150μm以下であると、電子部品収納パッケージの軽量化やコンパクト化に有効である。
【0025】
また、本発明の気密封止用蓋材は、NiまたはNi合金を用いて成る第1表面層の厚みが1μm〜12μmであることが好ましい。気密封止用蓋材を電子部品収納部材に対してシーム溶接などによって接合して気密封止する際には、気密封止用蓋材の第1表面層のNiまたはNi合金を溶融させることになる。このとき、第1表面層の厚みが1μm以上であると、十分なNiまたはNi合金の溶融量が得られるため、電子部品収納パッケージの気密封止の信頼性を高めることができる。また、第1表面層の厚みが12μm以下であると、電子部品収納パッケージの軽量化やコンパクト化に有効であり、NiまたはNi合金は一般に高価であるため低コスト化にも有効である。加えて、第1表面層の厚みが12μm以下であると、NiまたはNi合金が必要を超えて溶融して電子部品収納部材の内部へ流入する可能性を小さくなる。
【0026】
また、本発明の気密封止用蓋材は、NiまたはNi合金を用いて成る第1表面層の厚みが1μm〜12μmである場合、NiまたはNi合金を用いて成る第2表面層の厚みが1μm〜12μmであることが好ましい。第1表面層および第2表面層の厚みが1μm〜12μmであることにより、たとえ気密封止用蓋材の一方表面のNiまたはNi合金を用いて成る層の厚みが1μmで、他方表面のNiまたはNi合金を用いて成る層の厚みが12μmであったとしても、上述した気密封止に必要な十分なNiまたはNi合金の溶融量が得られるという効果や、上述した電子部品収納パッケージの軽量化やコンパクト化や低コスト化に有効であるという効果を失うことなく、気密封止用蓋材の表裏の判別が不要になるため、電子部品収納パッケージの生産性を向上させることができる。この場合、より好ましくは、NiまたはNi合金を用いて成る第1表面層および第2表面層が同等な特性(延性、融点、熱膨張率など)をもつことであり、気密封止用蓋材と電子部品収納部材との接合の作業性をより向上させることができる。
【0027】
以上述べた本発明の気密封止用蓋材を用いて、本発明の電子部品収納パッケージを得ることができる。具体的に本発明の電子部品収納パッケージは、電子部品を収納するための電子部品収納部材と、前記電子部品収納部材を気密封止するための本発明の気密封止用蓋材とを有する。気密封止用蓋材は、電子部品が収納された電子部品収納部材に対して例えばはんだ接着や抵抗溶接などによって接合され、その接合によって電子部品収納部材の内部が気密封止され、これにより内部に電子部品が収納された電子部品収納パッケージに成る。よって、本発明の電子部品収納パッケージは、上述した本発明の気密封止用蓋材によって発揮されるすべての作用効果が反映されるため、気密封止の信頼性が高く、軽量で、コンパクトで、安価な電子部品収納パッケージとして実用化することができる。
【0028】
また、本発明の電子部品収納パッケージは、上述した本発明の気密封止用蓋材の好ましい構成、すなわち、前記第1表面層の反対側になる前記基材層の他方面に対し、NiまたはNi合金を用いて成る第2表面層が接合されているクラッド材を用いて成る気密封止用蓋材を用いて形成されていることが好ましい。
【0029】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に、本発明の気密封止用蓋材の一実施形態による気密封止用蓋材1(以下、「蓋材1」という。)の構成を示す。また、図2に、基材層2の一方面にのみ表面層3を有し、図1に示す蓋材1の第2表面層4(以下、「表面層4」という。)に対応する層を有さない気密封止用蓋材(以下、「蓋材1’」という。)の構成を示す。また、図3に、図1に示す蓋材1を用いて成る本発明の電子部品収納パッケージの一実施形態による電子部品収納パッケージ100(以下、「パッケージ100」という。)の構成を示す。
【0030】
まず、図1に示す蓋材1並びに図2に示す蓋材1’について説明する。
図1に示す蓋材1は、長さがL、幅がW、厚みがTであり、厚みがT1の基材層2に対し、基材層2の一方面である下面2aには厚みがT2の表面層3が、基材層2の他方面である上面2bには厚みがT3の第2表面層4が、それぞれクラッド圧延によって接合された、3層のクラッド材を用いて成る。なお、表面層4は設けなくても構わない場合もあり、基材層2と表面層3に相当する素材をクラッド圧延して接合すれば、表面層4を有さない2層のクラッド材を用いて成る図2に示す蓋材1’を得ることができる。
【0031】
図1に示す蓋材1においては、基材層2には耐食性のあるステンレス鋼(例えばオーステナイト系のSUS304やフェライト系のSUS430)を使用でき、表面層3および表面層4にはNiまたはNi合金(例えば純Ni(純度99%以上)やCuを含むNi合金)を使用することができる。また、図2に示す蓋材1’においては、基材層2には高い耐食性のあるステンレス鋼(例えばオーステナイト系のSUS304)を使用でき、表面層3にはNiまたはNi合金(例えば純Ni(純度99%以上)やCuを含むNi合金)を使用することができる。
【0032】
また、図1に示す蓋材1のL、W、Tは、それぞれ0.8mm〜7.0mm、0.8mm〜7.0mm、50μm〜150μmが好ましく、例えば、L:5.0mm×W:3.2mm×T:100μm、L:2.3mm×W:1.8mm×T:80μm、L:1.6mm×W:1.2mm×T:60μmなどの蓋材1を形成することができる。また、蓋材1のT1、T2、T3は、それぞれ26μm〜148μm、1μm〜12μm、1μm〜12μmが好ましく、例えば、T1:74μm、T2:3μm、T3:3μmなどの蓋材1を形成することができる。上述したT、T2、T3について、Tはクラッド材の好ましい厚みの範囲(50μm〜150μm)内に、T2は表面層3の好ましい厚みの範囲(1μm〜12μm)内に、T3は表面層4の好ましい厚みの範囲(1μm〜12μm)内である。
また、図2に示す蓋材1’のL、W、T、T1、T2についても、図1に示す蓋材1と同様の寸法で形成することができる。
【0033】
図1に示す蓋材1あるいは図2に示す蓋材1’を、図3に示すように電子部品収納部材10(以下、「収納部材10」という。)に対して接合することができ、蓋材1あるいは蓋材1’の下面1a側に配置された表面層3を収納部材10に対して抵抗溶接の一種であるシーム溶接によって溶接することができる。この場合、蓋材1あるいは蓋材1’の表面層3が溶融して接合層として機能する。また、蓋材1の場合、上面1b側に配置された表面層4は、基材層2の上面2bを被覆する被覆層として機能する。耐食性の優劣の観点からすれば、実用上、基材層2にフェライト系のステンレス鋼を使用した場合は被覆層として機能する表面層4を設けた3層構造の蓋材1であることが好ましく、基材層2にオーステナイト系のステンレス鋼を使用した場合は表面層4を設けない2層構造の蓋材1’であってよい場合がある。
【0034】
ここで、基材層2にステンレス鋼を用いて成る蓋材1または蓋材1’を、例えばシーム溶接によって収納部材10に接合して気密封止を行う場合には、従来使用されている42Ni−Fe合金や29Ni−16Co−Fe合金等のFe基合金を用いて成る基材層に比べ、リークやクラックなどの気密封止の不具合が発生しやすいと考えられる。この問題について、本発明者らは、電流値や通電時間などのシーム溶接条件の調整や接合部周辺の抜熱対策などを適切に行うことにより、蓋材1または蓋材1’や収納部材10への熱影響が最小化できることを見出し、上述したリークやクラックなどの気密封止の不具合の防止が可能であることを確認している。また、蓋材の接合をシーム溶接で行う場合、蓋材の表面層がCuを概ね60質量%以上含むNi合金を用いて成ると、表面層がより低融点で、より高抵抗になるため、接合温度の低減や省電力に有効である。
【0035】
以上述べたように、本発明の気密封止用蓋材の一実施形態である蓋材1は、ステンレス鋼を用いて成る基材層2と、基材層2の一方面に対してNiまたはNi合金を用いて成る表面層3(第1表面層)が接合され、表面層3の反対側にあたる基材層2の他方面に対してNiまたはNi合金を用いて成る表面層4(第2表面層)が接合されているクラッド材を用いて成る。また、本発明の気密封止用蓋材の実施形態の別例である蓋材1’は、ステンレス鋼を用いて成る基材層2と、基材層2の一方面に対してNiまたはNi合金を用いて成る表面層3(第1表面層)が接合されているクラッド材を用いて成る。なお、本発明の効果が得られる範囲において、蓋材1の表面層4に対してさらに別材質の層が形成されていてもよいし、表面層4を有さない蓋材1’であれば基材層2の露出部分に対してさらに別材質の層が形成されていてもよい。
【0036】
次に、図3に示すパッケージ100について説明する。
このパッケージ100は、図1に示す蓋材1および収納部材10を有する。なお、図1に示す蓋材1に替えて、表面層4を設けない図2に示す蓋材1’を使用することもできる。図1に示す蓋材1と図2に示す蓋材1’との相違が表面層4の有無に限られるため、図2に示す蓋材1’を用いた具体例の説明は略すことにする。
【0037】
図3に示す収納部材10の内部には、電子部品である水晶振動子20が収納されている。また、蓋材1と収納部材10とは、収納部材10の内部に水晶振動子20を収納した状態で、気密封止されている。この気密封止は、例えば蓋材1の表面層3を収納部材10に対向配置した状態でシーム溶接を行うことによって成り、必要に応じて大気、窒素ガス、アルゴンガスなどを導入した雰囲気中や、減圧雰囲気中で行うことができる。
【0038】
ここで、大気中などの酸化性雰囲気中で熱処理を行う場合、蓋材の表面層が概ね70質量%以上のNiを含んで成ると、蓋材の表面の着色の抑制に有効である。また、図3に示す蓋材1のように表面層3、4を有する蓋材において、外側になる表面層4を少なくとも2層化し、最外側にはNiまたは概ね70質量%以上のNiを含むNi合金を用いて成る最外層を設け、その最外層と基材層2との間には上述したCuを概ね60質量%以上含むNi合金を用いて成る層(中間層)を設ける構成にすれば、上述した蓋材の表面の着色の抑制に有効であるばかりか、シーム溶接における上述した接合温度の低減や省電力にも有効である。
【0039】
また、図3に示す収納部材10は、セラミックスであるアルミナ(Al)を用いて内部が空洞になる箱形状に形成された基台11と、基台11にろう付け接合されたリング状のシールリング12と、シールリング12を被覆するめっき層13とを含む。基台11は、箱形状の底になるように形成された底部11aと、底部11aの外周部から起立して箱形状の側面になるように形成された側部11bと、側部11bの上端に形成されたメタライズ層11dとを有している。このメタライズ層11dは、ろう材を用いてセラミックス(Al)材質である基台11と金属材質であるシールリング12とを接合する際に、ろう材に対する濡れ性を高めて接合状態を良好にする機能を有し、側部11bの上端からシールリング12に向かって順にW層、Ni層、Au層が積層された構造(図示せず)になっている。この基台11において、側部11bによって囲まれた凹部11cが前記空洞の主体となり、水晶振動子20がバンプ21によって底部11aに固定されている。
【0040】
金属材質のシールリング12は、29Ni−16Co−Fe合金などを用いて形成された基材12aと、基材12aの下面側に設けられた銀ろう部12bとを有している。シールリング12の銀ろう部12bは、基台11のメタライズ層11dに対して接合されており、例えば、シールリング12の銀ろう部32bをメタライズ層11dに当接させた状態で加熱し、銀ろう部32bを溶融することによって前記接合を行うことができる。また、メタライズ層11dに対して接合されたシールリング12は、Niめっき層とAuめっき層が順に積層された構造(図示せず)のめっき層13によって被覆されている。
【0041】
以上述べたように、パッケージ100は、電子部品である水晶振動子20を収納するための収納部材10と、収納部材10を気密封止するための図1に示す蓋材1とを有する。そして、ステンレス鋼を用いて成る基材層2と、基材層2の一方面に対してNiまたはNi合金を用いて成る表面層3が接合され、表面層3が接合されていない基材層2の他方面に対してNiまたはNi合金を用いて成る表面層4(第2表面層)が接合されているクラッド材を用いて成る蓋材1の表面層3が、収納部材10に対して溶接されている。あるいは、図2に示す蓋材1’を用いて、ステンレス鋼を用いて成る基材層2と、基材層2の一方面に対してNiまたはNi合金を用いて成る表面層3が接合されているクラッド材を用いて成る蓋材1’の表面層3が、収納部材10に対して溶接されている。
【0042】
従って、本発明の電子部品収納パッケージの一実施形態であるパッケージ100は、図1に示す蓋材1あるいは図2に示す蓋材1’の表面層3と、シールリング12を被覆するめっき層13とが、例えばろう付け接合されることにより、収納部材10の基台11の凹部11cを含む前記空洞に水晶振動子20が収納された状態で気密封止された構成を有することができる。なお、上述したこの実施形態では、水晶振動子20を電子部品収納部材10に収納した例を示したが、本発明はこれに限られない。例えば、SAWフィルタ(表面弾性波フィルタ)などを電子部品収納部材に収納してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1.蓋材(気密封止用蓋材)、1’.蓋材(気密封止用蓋材)、1a.下面、1b.上面、2.基材層、2a.下面、2b.上面、3.表面層、4、表面層(第2表面層)、10.収納部材(電子部品収納部材)、11.基台、11a.底部、11b.側部、11c.凹部、11d.メタライズ層、12.シールリング、12a.基材、13.めっき層、20.水晶振動子、21.バンプ、100.パッケージ(電子部品収納パッケージ)
図1
図2
図3