【課題】時系列に取得された複数の画像を基に背景画像を生成し、背景画像と入力画像とに基づき差分画像を抽出する背景差分を行う画像処理装置、画像処理方法及び監視システムにおいて、背景画像の生成をより高速に行うことで、リアルタイムで画像処理を行う必要がある用途に最適な画像処理装置、画像処理方法及び監視システムを提供することを目的とする。
【解決手段】画像処理装置100は、時系列に取得された複数の画像の中央値を用いて背景画像を形成する場合において、基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープを作成保持しておき、この基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープの更新によって背景画像を形成する中央値を算出することで、処理負担が少なく中央値の算出処理を高速に行っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている複数の画像の対応する各画素における平均値を用いて背景画像を生成する場合、例えば、灰色の背景に白い物体が数フレーム入ってしまうと、数フレーム入り込んだ白い物体に大きく影響されてしまい正確な背景画像の生成が不可能になってしまう。したがって、より正確な背景画像を生成する上で、特許文献2に記載されている複数の画像の対応する各画素における中央値を求めて背景画像を生成する方法の方が好ましい。
【0006】
しかしながら、特許文献2において中央値を求める処理に関しては、画素の値を並び替えて、中央値を算出する、と記載されているだけである。したがって、背景画像の生成に用いる画像の数が少なければ、背景画像を生成する毎に画像数に応じた各画素における画素群の並べ替えを行って中央値を算出したとしても、それほど画像処理装置における処理負担は大きくない。
【0007】
一方、背景画像の生成に用いる画像の数が多くなれば、背景画像を生成する毎に各画素における画素群の並べ替えを行って中央値を算出していると、当然ながら画素群の構成数が多くなるので、画像処理装置における処理負担が非常に大きくなり、撮影と同時並行してリアルタイム処理を行おうとしても、処理が間に合わなくなるおそれがある。
【0008】
ここで、例えば、1秒30フレームとすると、2秒で60フレームとなるが、ゆっくりと移動する物があるとこれらも背景画像として写り込んでしまう可能性がある。このため、より正確な背景画像を生成する上では、撮影期間はある程度長い方が好ましい。しかしながら、撮影期間が増えればそれだけ画像数も増えてしまうことになるので、対応する各画素の画素群の構成数も当然多くなり、その都度、並べ替えを行って中央値を求めていたのでは、処理に非常に時間がかかってしまい、背景画像の生成処理が追いつかなくなってしまう。
【0009】
とくに、撮影した画像をいったん保存しておき、後日改めてデータ解析等の目的で背景差分による画像処理を行うような場合であれば、背景画像の生成に高速化は必要とされない。しかしながら、実際に高齢者や入退場者の監視のように、撮影しながら実時間において背景差分による画像処理を行うような場合には、リアルタイムで画像処理を行う必要がある。
【0010】
したがって、背景差分における背景画像の生成を行う画像処理装置、画像処理方法また、これらを利用した監視システムにおいては、中央値を求める処理はできるだけ高速化が望まれる。
【0011】
そこで、本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、時系列に取得された複数の画像を基に背景画像を生成し、背景画像と入力画像とに基づき差分画像を抽出する背景差分を行う画像処理装置、画像処理方法及び監視システムにおいて、背景画像の生成をより高速に行うことで、リアルタイムで画像処理を行う必要がある用途に最適な画像処理装置、画像処理方法及び監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明の画像処理装置は、時系列に画像を取得する画像取得部と、前記画像取得部により取得した複数の画像を蓄積する画像蓄積部と、蓄積された複数の画像を基に画素毎に基準待ち行列を作成する基準待ち行列作成部と、画素毎に作成された前記基準待ち行列を保持しておく待ち行列保持部と、前記基準待ち行列の基準中央値と、前記基準中央値未満の値で構成される基準ロウヒープと、前記基準中央値よりも大きな値で構成される基準ハイヒープと、を作成する基準値作成部と、作成された前記基準中央値、前記基準ロウヒープ、基準基準ハイヒープと、を保持しておく基準値保持部と、取得された入力画像に基づいて、前記待ち行列保持部における前記基準待ち行列のエンキュー、デキュー処理を行い前記基準待ち行列を更新する待ち行列更新部と、該エンキュー、デキュー処理に基づき前記基準中央値、前記基準ロウヒープ、前記基準ハイヒープの更新を行う基準値更新部と、前記基準値更新部により更新された前記基準中央値に基づき背景画像を生成する背景画像形成部と、前記背景画像と前記入力画像により差分画像を抽出する差分画像抽出部と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の画像処理装置によれば、時系列に取得された複数の画像の中央値を用いて背景画像を形成する場合において、基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープを作成保持しておき、この基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープの更新によって背景画像を形成する中央値を算出するので、処理負担が少なく中央値の算出処理を高速に行うことができる。具体的には、本発明の画像処理装置は、新たな入力画像に対して、基準中央値のエンキュー、デキューだけで中央値が決まったり(後述するパターン1)、基準ロウヒープだけの更新で中央値が決まったり(後述するパターン5)と、簡単な処理で中央値を算出することができる。従って、本発明の画像処理装置は、リアルタイムで画像処理を行う用途に最適なものとなる。なお、本発明の画像処理装置は、前記基準値作成部における前記基準値中央値、前記基準ロウヒープ、前記基準ハイヒープの作成を、前記基準待ち行列をヒープソート処理することにより行うことができる。
【0014】
また、本発明の画像処理方法は、時系列に取得された複数の画像を基に背景画像を形成し、該背景画像と入力画像とに基づき差分画像を抽出する背景差分を行う画像処理方法において、前記複数の画像を基に画素毎に基準待ち行列を作成する待ち基準行列作成ステップと、前記基準待ち行列に基づき、基準中央値と、前記基準中央値未満の値で構成される基準ロウヒープと、前記基準中央値よりも大きな値で構成される基準ハイヒープと、を決定する基準値作成ステップと、入力画像に基づき前記基準待ち行列のエンキューとデキューとを行い前記基準待ち行列の更新を行う待ち行列更新ステップと、前記エンキューとデキューに基づき、前記基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープの更新を行う基準値更新ステップと、更新された前記基準中央値に基づき前記背景画像を生成する背景画像形成ステップと、を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の画像処理方法によれば、時系列に取得された複数の画像を基に背景画像を形成し、この背景画像と入力画像とに基づき差分画像を抽出する背景差分を行う画像処理方法において、基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープを作成保持しておき、この基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープの更新によって背景画像を形成する中央値を算出するので、処理負担が少なく中央値の算出処理を高速に行うことができる。
【0016】
また、本発明の監視システムは、上記の画像処理装置からなる画像抽出手段と、画像抽出手段により抽出された画像が通報条件を満たすか否かの通報判定手段と、前記通報判定手段により通報条件を満たすと判定されると通報を行う通報手段と、を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の監視システムによれば、背景差分を用いて画像抽出を行い、この抽出された画像が通報条件を満たすか否かの判定によって通報を行う場合において、画像抽出を行うための背景画像の形成を高速に行うことができるため、リアルタイムでの監視に適したものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態及び図面を参照にして本発明を実施するための形態を説明するが、以下に示す実施形態は、本発明をここに記載したものに限定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。
【0020】
図1は、本発明の実施形態における画像処理装置100を用いた監視システム1の構成を示したシステム概念図である。監視システム1は、インターネットからなるネットワークNを介して接続されたカメラC、端末T、画像処理装置100で構成されている。
【0021】
まず、カメラCは、時系列に画像を取得する撮像装置からなり、画像処理装置100における画像取得部110を構成する。このカメラCは、例えば、公共の場所に設置されて画像を取得したり、ビル等の建物の出入口に設置されて画像を取得したり、室内に設置されて画像を撮影する。そして、監視システム1は、カメラCにより取得された画像を用い画像処理装置100により、例えば、公共の場所に設置された画像から通行人の監視を行ったり、ビル等の建物の出入口に設置された画像から侵入者の監視を行ったり、室内に設置された画像から高齢者の監視を行ったりする。
【0022】
なお、カメラCは、可視光による画像を撮像するものだけでなく、赤外線による画像を撮像するものや、サーモグラフィーのような赤外線の熱分布を用いた画像を取得するものでも構わない。そして、監視システム1は、例えば、サーモグラフィーからなるカメラCにより工場内の高温装置の画像を取得し、画像処理装置100を用い、この装置での異常高温の温度管理、或はこの装置への作業者の接近等の監視として利用することもできる。
【0023】
また、カメラCは、
図1に示すように複数用いることができ、異なる場所にそれぞれカメラCを設置することで、監視システム1は異なる場所を逐次監視することができるシステムとなっている。
【0024】
端末Tは、携帯電話やスマートフォン等の携帯端末からなり、監視システム1における通報手段を構成するものである。監視システム1は、画像処理装置100により抽出された画像から、特定の通行人、不審な侵入者、或は危険な状況の高齢者等、所定の通報条件を満たす画像が抽出された場合に、端末Tを所持する者にネットワークNを介して通報する。
【0025】
なお、通報手段としての端末Tは、所持者に対して監視システム1からの通報であることを知らせることができれば、どのような通報でも構わない。例えば、通報手段は、端末Tへの電話による通報や端末Tの発光或は振動による通報でも構わない。また、通報手段は、端末Tではなく、ネットワークNに接続された警報装置等でも構わない。また、ネットワークNもインターネットに限定されるものではない。
【0026】
次に、本実施形態における監視システム1を構成する画像処理装置100について図面を用いて詳細に説明する。
図2は、本実施形態における画像処理装置100の構成を示すブロック図である。
【0027】
画像処理装置100は、集中管理を行う管理センター等に設置されたコンピュータによって構成されており、時系列に取得された複数の画像を基にして背景画像を形成し、この背景画像と入力画像とに基づいて差分画像を抽出する背景差分と呼ばれる画像処理方法を実行する。そして、画像処理装置100は、図示していない有線或は無線の接続部を介してネットワークNに接続されている。
【0028】
この画像処理装置100は、
図2に示すように、画像取得部110、画像蓄積部120、基準待ち行列作成部130、待ち行列保持部140、基準値作成部150、基準値保持部160、待ち行列更新部170、基準値更新部180、背景画像形成部190、差分画像抽出部200、を備えている。
【0029】
画像取得部110は、背景差分による画像処理を行うため、リアルタイムで時系列に画像を取得するためのものであり、ネットワークNを介して接続するカメラCを介して時系列に画像を取得していく。
【0030】
画像蓄積部120は、画像取得部110により取得した複数の画像を一時的に蓄積しておくためのものである。この画像蓄積部120は、コンピュータを構成しているRAM(Random Access Memory)やハードディスク等の記憶装置によって構成される。なお、カメラCを複数用いて異なる場所の画像を取得する場合には、画像蓄積部120はカメラC毎に取得された画像をそれぞれ蓄積しておく。
【0031】
基準待ち行列作成部130は、画像蓄積部120に蓄積された複数の画像から、1画素毎に基準待ち行列を作成するものである。基準待ち行列は、時系列に蓄積される画像において、同一位置の画素を時系列に順次並べた画素群からなるものである。したがって、例えば、320×240ピクセルの画像を60フレーム分で基準待ち行列を作成すると、同一位置の画素において60個の画素群からなる基準待ち行列が作成され、この基準待ち行列が、画像を構成する画素数である76800個作成されることになる。この基準待ち行列作成部130は、コンピュータを構成するCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)やハードディスク等で構成され、ROMやハードディスクに記憶されたプログラムに基づくCPUでの演算により作成される。
待ち行列保持部140は、基準待ち行列作成部130で作成された全画素毎の基準待ち行列を保持しておくものであり、RAM等によって構成される。
【0032】
基準値作成部150は、待ち行列保持部140に保持されている画素毎の基準待ち行列をそれぞれヒープにより昇順(或は降順)に並べ替えることにより(ヒープソート処理)、各基準待ち行列の基準中央値と、この基準中央値未満の値で構成されるヒープ(基準ロウヒープ)と、この基準中央値よりも大きな値で構成されるヒープ(基準ハイヒープ)と、を作成するものである。この基準値作成部150は、コンピュータを構成するCPU、ROM等で構成される。
【0033】
ここで、基準値作成部150によるヒープソート処理により作成される基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープの具体例について
図3を用いて説明する。
図3(A)は待ち行列保持部140に保持されているある画素における基準待ち行列E1を示している。なお、基準待ち行列E1は、9枚の画像を用いて作成したある画素における基準待ち行列の例を示している。
【0034】
図3(B)は、基準待ち行列E1の配列に対して最初に生成したヒープを示している。なお、このヒープとは、親要素のデータが子要素のデータより常に大きいか等しい(または常に小さいか等しい)という性質を持つ木構造のことである。
【0035】
図3(B)のヒープから最大値の9を取り出し、残りの値でヒープを生成して最大値(次は8)を取り出す。この作業を繰り返すことで、基準待ち行列E1の値が昇順{1、2、3、4、5、6、7、8、9}に並べ替えられる。基準待ち行列E1をヒープソート処理により並べ替えた結果から中央値である基準中央値と、この基準中央値未満の値で構成される基準ロウヒープと、この基準中央値よりも上の値で構成される基準ハイヒープを作成する。なお、基準ロウヒープは親要素の値が子要素の値より常に大きいか等しい性質の木構造であり、基準ハイヒープは親要素の値が子要素の値より常に小さいか等しい性質の木構造となっている。
【0036】
図3(C)は、基準待ち行列E1をヒープソート処理により並べ替えた結果{1、2、3、4、5、6、7、8、9}から作成した基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープを示している。そして、この基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープは、RAM等によって構成される基準値保持部160によって保持される。なお、本実施形態における基準値作成部150では、基準待ち行列E1をヒープソート処理により並べ替えたが、他のソート処理によって行っても構わない。
【0037】
待ち行列更新部170は、画像取得部110により取得された新たな画像(入力画像)に基づいて、待ち行列保持部140に保持されている基準待ち行列を更新するものであり、CPU、ROM等で構成される。基準待ち行列の更新は、基準待ち行列のエンキュー、デキュー処理により行われる。具体的には、基準待ち行列E1の場合に、入力画像における対応する画素の値が『0』であれば、基準待ち行列E1で最も古い値である『3』がデキューされ、この『0』がエンキューされ、この基準待ち行列E1は、{4、7、5、6、8、1、9、2、0}へと更新され、待ち行列保持部140によって保持される。
【0038】
基準値更新部180は、待ち行列更新部170におけるエンキューとデキュー処理とに基づいて、基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープを更新するものであり、CPU、ROM等で構成される。そして、基準値更新部180により更新された基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープは、基準値保持部160によって保持される。この基準値更新部180における具体例について説明する。
図4は、基準値更新部180における具体的な基準値更新の処理動作を示すフローチャートである。
【0039】
まず、基準値更新部180は、待ち行列更新部170において、対応する画素おける基準待ち行列で新たにエンキューされる値が基準値保持部160に保持されている基準中央値と同一か否かの判定を行う(ステップS1)。ステップS1においてYESであれば、基準値更新部180は、対応する画素における基準待ち行列でデキューされる値が基準値保持部160に保持されている基準中央値と同一か否かの判定を行う(ステップS2)。ステップS2においてYESであれば、基準値更新部180は、後述するパターン1の更新パターンのようにして基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープの更新を行う。
【0040】
次に、ステップS2においてNOであれば、基準値更新部180は、デキューされる値が基準中央値未満か否かの判定を行う(ステップS3)。基準値更新部180は、ステップS3においてYESであれば、後述するパターン2の更新パターンのようにして基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープの更新を行い、ステップS3においてNOであれば、後述するパターン3の更新パターンのようにして基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープの更新を行う。
【0041】
一方、ステップS1においてNOであれば、次に基準値更新部180は、基準待ち行列でエンキューされる値が基準値保持部160に保持されている基準中央値未満か否かの判定を行う(ステップS4)。
【0042】
そして、ステップS4においてYESであれば、基準値更新部180は、デキューされる値が基準値保持部160に保持されている基準中央値と同一か否かの判定を行う(ステップS5)。ステップS5においてYESであれば、基準値更新部180は、後述するパターン4の更新パターンのようにして基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープの更新を行う。
【0043】
次に、ステップS5においてNOであれば、基準値更新部180は、デキューされる値が基準中央値未満か否かの判定を行う(ステップS6)。基準値更新部180は、ステップS6においてYESであれば、後述するパターン5の更新パターンのようにして基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープの更新を行い、ステップS6においてNOであれば、後述するパターン6の更新パターンのようにして基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープの更新を行う。
【0044】
そして、ステップS4においてNOであれば、次に基準値更新部180は、デキューされる値が基準値保持部160に保持されている基準中央値と同一か否かの判定を行う(ステップS7)。ステップS7においてYESであれば、基準値更新部180は、後述するパターン7の更新パターンのようにして基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープの更新を行う。
【0045】
次に、ステップS7においてNOであれば、基準値更新部180は、デキューされる値が基準中央値未満か否かの判定を行う(ステップS8)。基準値更新部180は、ステップS8においてYESであれば、後述するパターン8の更新パターンのようにして基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープの更新を行い、ステップS8においてNOであれば、後述するパターン9の更新パターンのようにして基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープの更新を行う。
【0046】
以上のような処理が基準値更新部180で行われ、更新された基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープが基準値保持部160に保持されることで、基準値更新部180での処理が終了する。
【0047】
次に上記のパターン1〜9の更新パターンについて具体例を示す。
図5は更新パターンのパターン1、2を示し、
図6は更新パターンのパターン3、4を示し、
図7は更新パターンのパターン5、6を示し、
図8は更新パターンのパターン7、8を示し、
図9は更新パターンのパターン9を示している。また、
図5〜9には、待ち行列更新部170で行われる基準待ち行列の更新と、基準値更新部180で行われる待ち行列更新部170でのエンキューとデキュー処理とに基づく、基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープの更新とを示している。なお、
図5〜9における具体例では、更新前の基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープが、
図3(C)に示したものと同じものとなっている。そのため更新前の基準待ち行列の構成は、昇順に並べ替えると{1、2、3、4、5、6、7、8、9}となっている。
[パターン1]
【0048】
図5に示すパターン1は、基準待ち行列{5、3、4、7、6、8、1、9、2}において、新たにエンキューされる値が基準中央値と同じ値『5』で、基準中央値と同じ値『5』がデキューされる場合のパターンである。
この場合、基準待ち行列は、待ち行列更新部170において{3、4、7、6、8、1、9、2、5}へと更新され、待ち行列保持部140で保持される。
【0049】
また、基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープは、エンキュー(
図5〜9においてEnと図示する)、デキュー(
図5〜9においてDeと図示する)される値が基準中央値と同じなので、結局従前と同様のまま基準値保持部160に保持される。
[パターン2]
【0050】
図5に示すパターン2は、基準待ち行列{3、4、7、5、6、8、1、9、2}において、新たにエンキューされる値が基準中央値と同じ値『5』で、基準中央値未満の値『3』がデキューされる場合のパターンである。
この場合、基準待ち行列は、待ち行列更新部170において{4、7、5、6、8、1、9、2、5}へと更新され、待ち行列保持部140で保持される。
【0051】
また、基準中央値と同じ値がエンキューされ、基準ロウヒープ側の値がデキューされるため、基準ロウヒープ側においてエンキューされる『5』とデキューされる『3』を入れ替えてヒープの再構成が行われる更新が行われて、図示したものが基準値保持部160に保持される。
[パターン3]
【0052】
図6に示すパターン3は、基準待ち行列{7、3、4、5、6、8、1、9、2}において、新たにエンキューされる値が基準中央値と同じ値『5』で、基準中央値より大きな値『7』がデキューされる場合のパターンである。
この場合、基準待ち行列は、待ち行列更新部170において{3、4、5、6、8、1、9、2、5}へと更新され、待ち行列保持部140で保持される。
【0053】
また、基準中央値と同じ値がエンキューされ、基準ハイヒープ側の値がデキューされるため、基準ハイヒープ側においてエンキューされる『5』とデキューされる『7』を入れ替えてヒープの再構成が行われる更新が行われて、図示したものが基準値保持部160に保持される。
[パターン4]
【0054】
図6に示すパターン4は、基準待ち行列{5、4、3、7、6、8、1、9、2}において、新たにエンキューされる値が基準値未満の値『3』で、基準中央値と同じ値『5』がデキューされる場合のパターンである。
この場合、基準待ち行列は、待ち行列更新部170において{4、3、7、6、8、1、9、2、3}へと更新され、待ち行列保持部140で保持される。
【0055】
また、現在の基準中央値『5』がデキューされ、空いた基準中央値へ現在の基準ロウヒープ側の親(根)である『4』が移り、基準ロウヒープにおいて『3』がエンキューされてヒープの再構成が行われる更新が行われて、図示したものが基準値保持部160に保持される。この時、基準ハイヒープについての更新は行われない。
[パターン5]
【0056】
図7に示すパターン5は、基準待ち行列{3、4、7、5、6、8、1、9、2}において、新たにエンキューされる値が基準値未満の値『0』で、基準中央値未満の値『3』がデキューされる場合のパターンである。
この場合、基準待ち行列は、待ち行列更新部170において{4、7、5、6、8、1、9、2、0}へと更新され、待ち行列保持部140で保持される。
【0057】
また、エンキュー、デキューされる値が何れも基準中央値未満の値であるため、基準中央値、基準ハイヒープについては更新がなく、基準ロウヒープにおいてデキューされる『3』とエンキューされる『0』を入れ替えてヒープの再構成が行われる更新が行われて、図示したものが基準値保持部160に保持される。
[パターン6]
【0058】
図7に示すパターン6は、基準待ち行列{7、4、3、5、6、8、1、9、2}において、新たにエンキューされる値が基準値未満の値『1』で、基準中央値より大きな値『7』がデキューされる場合のパターンである。
この場合、基準待ち行列は、待ち行列更新部170において{4、3、5、6、8、1、9、2、1}へと更新され、待ち行列保持部140で保持される。
【0059】
また、基準ハイヒープ側において『7』がデキューされるので、現在の中央値である『5』と入れ替えて基準ハイヒープ側のヒープの再構成が行われ、空いた基準中央値へ現在の基準ロウヒープ側の親(根)である『4』が移り、『4』が新たな基準中央値となる。そして、基準ロウヒープ側では新たに『1』をエンキューしてヒープの再構成が行われる更新が行われて、図示したものが基準値保持部160に保持される。
[パターン7]
【0060】
図8に示すパターン7は、基準待ち行列{5、4、3、7、6、8、1、9、2}において、新たにエンキューされる値が基準値より大きな値『9』で、基準中央値と同じ値『5』がデキューされる場合のパターンである。
この場合、基準待ち行列は、待ち行列更新部170において{4、3、7、6、8、1、9、2、9}へと更新され、待ち行列保持部140で保持される。
【0061】
また、現在の基準中央値『5』がデキューされるので、空いた基準中央値へ、今回エンキューされる基準ハイヒープ側の現在の親(根)である『6』が移り、『6』が新たな基準中央値となる。そして、基準ハイヒープ側では新たに『9』をエンキューしてヒープの再構成が行われる更新が行われて、図示したものが基準値保持部160に保持される。この時、基準ロウヒープについての更新は行われない。
[パターン8]
【0062】
図8に示すパターン8は、基準待ち行列{2、4、3、7、6、8、1、9、5}において、新たにエンキューされる値が基準値より大きな値『8』で、基準中央値未満の値『2』がデキューされる場合のパターンである。
この場合、基準待ち行列は、待ち行列更新部170において{4、3、7、6、8、1、9、5、8}へと更新され、待ち行列保持部140で保持される。
【0063】
また、基準ロウヒープ側において『2』がデキューされるので、現在の中央値である『5』と入れ替えて基準ロウヒープ側のヒープの再構成が行われ、空いた基準中央値へ現在の基準ハイヒープ側の親(根)である『6』が移り、『6』が新たな基準中央値となる。そして、基準ハイヒープ側では新たに『8』をエンキューしてヒープの再構成が行われる更新が行われて、図示したものが基準保持部160に保持される。
[パターン9]
【0064】
図9に示すパターン9は、基準待ち行列{6、4、3、7、2、8、1、9、5}において、新たにエンキューされる値が基準値より大きな値『10』で、基準中央値より大きな値『6』がデキューされる場合のパターンである。
この場合、基準待ち行列は、待ち行列更新部170において{4、3、7、2、8、1、9、5、10}へと更新され、待ち行列保持部140で保持される。
【0065】
また、エンキュー、デキューされる値が何れも現在の基準中央値よりも大きな値なので、基準ハイヒープ側においてデキューされる『6』とエンキューされる『10』を入れ替えてヒープの再構成が行われる更新が行われて、図示したものが基準保持部160に保持される。
以上のようして基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープの更新が、本実施形態における画像処理装置100の基準値更新部180において行われる。
【0066】
背景画像形成部190は、基準値保持部160に保持されている画素毎の基準中央値を用いて背景画像を形成するためのものであり、CPU、RAM、ROM等で構成される。そして、この背景画像の形成において、本実施形態における画像処理装置100では、基準待ち行列作成部130により、画像蓄積部120に蓄積された複数の画像から、1画素毎に基準待ち行列を作成し、基準値作成部150により、待ち行列保持部140に保持されている画素毎の基準待ち行列をそれぞれヒープにより並べ替えて、基準待ち行列毎の基準中央値と、この基準中央値未満の値で構成される基準ロウヒープ、この基準中央値よりも大きな値で構成される基準ハイヒープと、を作成しておき、その後取得された入力画像に基づいて、待ち行列更新部170により、待ち行列保持部140に保持されている基準待ち行列をエンキュー、デキュー処理により更新するとともに、基準値更新部180により、待ち行列更新部170におけるエンキューとデキュー処理とに基づいて、基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープを更新し、画素毎の基準中央値を用いて背景画像の形成を行っている。
【0067】
また、時系列に取得された複数の画像を基に背景画像を形成し、該背景画像と入力画像とに基づき差分画像を抽出する背景差分を行う本実施形態の画像処理方法において、複数の画像を基に画素毎に基準待ち行列を作成する待ち基準行列作成ステップと、この基準待ち行列に基づき、基準中央値と、基準ロウヒープと、基準ハイヒープと、を決定する基準値作成ステップと、入力画像に基づき基準待ち行列のエンキューとデキューとを行い基準待ち行列の更新を行う待ち行列更新ステップと、このエンキューとデキューに基づき基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープの更新を行う基準値更新ステップと、更新された基準中央値に基づき背景画像を生成する背景画像形成ステップと、が行われている。
【0068】
従って、時系列に取得された複数の画像を用いて背景画像を形成する画像処理における、複数の画像の対応する画素群(基準待ち行列)の中央値を求めて背景画像を生成する方法において、本実施形態の画像処理装置100及び画像処理方法では、この中央値を基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープの更新により求めている。
【0069】
これは特許文献2に記載されているように、背景画像を生成する毎に対応する画素群の並べ替えを行って中央値を算出する処理方法に比べ、最初に作成しておいた基準中央値、基準ロウヒープ、基準ハイヒープの更新だけで中央値が算出できるので、処理負担が少なく中央値の算出処理を高速に行うことができる。つまり、画像処理装置100は、
図4〜8に示したように、新たな入力画像に対して、基準中央値のエンキュー、デキューだけで中央値が決まったり(パターン1)、基準ロウヒープだけの更新で中央値が決まったり(パターン5)と、簡単な処理で中央値を算出することができる。そして、画像処理装置100は、リアルタイムで画像処理を行う必要がある監視等の用途において最適なものとなる。
【0070】
ここで、本実施形態のような画像処理装置100における画像処理方法により背景画像を形成した場合と、異なる画像処理方法により背景画像を形成した場合との処理速度について検証した結果を述べる。なお、複数の画像を用いて対応する画素における画素群から中央値を求めたソート法として、本実施形態の画像処理方法をヒープ法と呼ぶこととする。また、異なる画像処理方法として、ソート法としてよく知られているバブルソート法とクイックソート法を用いた。
【0071】
なお、バブルソート法は、数列(画素群)の中で隣接する数値の大小比較を行い、条件を満たしていたら交換するという処理を要素数−1回行うことでソートする方法である。また、クイックソート法は、数列(画素群)の中から適当な値(ピボット)を選択し、ピボットよりも大きい値を後方に、小さい値を前方に移動して数列をピボットより小さい値と大きい値の領域に分割し、数列の分割が出来なくなるまで、分割した領域で同様の処理を繰り返してソートする方法である。
【0072】
処理速度の比較は、時系列の10枚の画像を用いて各画素の中央値を求めて背景画像を作成する処理の時間をそれぞれ計測して行った。解像度は320×240ピクセルの画像とした。なお、その処理時間を10で割って、1枚当たりにかかる時間についても比較を行った。
【0073】
バブルソート法は、今回101.56[s]かかり、1枚当たり10.156[s]であった。クイックソート法は、今回14.56[s]かかり、1枚当たり1.456[s]であった。本実施形態のヒープ法は、今回8.57[s]かかり、1枚当たり0.857[s]であった。監視等の用途において、リアルタイムで画像を取得しながら画像処理を行う場合には、1枚当たりにかかる時間はできるだけ短い方がよく、本実施形態のヒープ法が有用であることがわかった。
【0074】
差分画像抽出部200は、画像取得部110で取得された入力画像と、背景画像形成部190で形成された背景画像を用い、差分画像を抽出するためのものであり、CPU、RAM、ROM等で構成される。この入力画像と背景画像を用いて差分画像を抽出する方法は既知の方法を用いることできる。
【0075】
以上のように、本実施形態の画像処理装置100においては、差分画像の抽出に用いる背景画像の生成を複数の画像を用いて行う場合に、背景画像の形成を高速に行うことができる。従って、リアルタイムで画像処理を行う必要がある監視などの用途において、画像処理装置100は非常に適したものとなる。
【0076】
そしてこの画像処理装置100からなる画像抽出手段を備える監視システム1は、画像処理装置100における差分画像抽出部200において抽出された差分画像が所定の通報条件を満たすか否かの通報判定手段(図示せず)を備えている。なお、通報判定手段は、例えば、監視システム1が高齢者の監視であれば差分画像と転倒画像とのマッチングを行って転倒か否かを判定する。また、監視システム1が特定者の監視であれば差分画像における顔画像と特定者の顔画像とのマッチングを行って特定者か否かを判定する。
【0077】
そして、通報判定手段により通報条件を満たすと判定された場合、監視システム1は、通報手段(端末T)を介して通報を行う。このように、本実施形態の監視システム1においては、背景差分を用いた監視において、背景画像の形成を高速に行うことができるため、リアルタイムでの監視が必要な用途に非常に適している。