【課題】揺れが生じる不安定な環境下においても海水試料を短時間で連続的且つ自動的に高い頻度で濾過して、更に他の観測点で採取した海水試料による汚染に影響されずに多量のフィルタ試料を得る。
【解決手段】濾過採取装置は、観測点における海水試料をフィルタによって濾過して前記海水試料中の懸濁粒子に含まれる所定のサンプルを採取する濾過採取装置において、前記フィルタまで前記海水試料を供給可能なライン内をエアブローすることによって前記ライン内の洗浄を行う洗浄部を備え、前記洗浄部は、前記サンプルが他の海水試料による汚染に影響を受け易いサンプルである場合、前記ライン内をエアブローした後、該サンプルを採取するための海水試料の濾過工程前に、該海水試料を用いて前記ライン内の共洗いを行う。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施の形態に係る濾過採取装置を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
[濾過採取装置の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る濾過採取装置の試料投入機構を示す正面図であり、
図2は試料投入機構を示す側面図、
図3は試料投入機構を示す平面図である。また、
図4は、濾過採取装置の濾過採取機構を示す正面図であり、
図5は濾過採取機構を示す側面図、
図6は濾過採取機構を示す平面図である。更に、
図7は、濾過採取装置の処理工程系統図である。
【0020】
本実施形態に係る濾過採取装置は、
図1〜
図3に示す試料投入機構10と、
図4〜
図6に示す濾過採取機構20とを備えてなる。濾過採取装置は、海洋の観測点における海水試料をフィルタによって濾過して、この海水試料中の懸濁粒子に含まれる所定のサンプルを採取する装置である。これら各機構10,20は、それぞれ別体に形成され得るが、例えば図示しないホース等の接続部材を用いて両者間の海水試料等の流路(ライン)を繋ぐことにより、
図7に示すような処理工程の系統を有する1つの濾過採取装置を構成し得る。なお、ラインは、少なくともフィルタまで海水試料を供給可能に構成され得る。
【0021】
[試料投入機構の構成]
図1〜
図3及び
図7に示すように、試料投入機構10は、図示しないポンプ装置等から送液されて蛇口9(
図7参照)から導入された海水試料が投入される試料投入用のタンク11と、試料送液用のチューブポンプ12とを矩形枠状の架台80の上面側に備えている。この試料投入機構10の架台80の上面側には、更に、羽根車式の流量計2と、試料投入用のラインの排水弁である自動バルブ3aと、試料投入用のラインの注水弁である自動バルブ3bとが備えられている。
【0022】
また、試料投入機構10は、架台80の上面側に、試料投入用のタンク11の排水弁である自動バルブ3c(
図1及び
図7参照)と、試料投入用のタンク11の出口弁である自動バルブ4とを備えている。更に、試料投入装置10は、圧力計としての圧力センサ5と、エアブロー用の入口弁である自動バルブ6と、エア用の電磁弁81及びフィルタレギュレータ82(
図1及び
図3参照)とを、架台80の上面側に備えている。
【0023】
試料投入機構10の架台80内には、試料投入機構10の上述したような各部の動作を制御するコントローラとしての制御盤13(
図1及び
図2参照)が収められている。また、この架台80には、上方の四隅近傍に複数の吊りボルト83が取り付けられると共に、下面側にキャリマウント機構を有する複数の可動キャスタ84及び固定キャスタ85が備えられており、機構全体の移動及び設置が自在となるように構成されている。
【0024】
[濾過採取機構の構成]
一方、
図4〜
図6及び
図7に示すように、濾過採取機構20は、新規なフィルタが内蔵されたホルダの供給用のホルダ供給部21と、濾過工程時にホルダを押さえ付けて保持するホルダの加圧保持用のホルダ加圧部22と、ホルダを移動させるホルダ移動部23と、エア用の電磁弁91(
図6参照)とを矩形枠状の架台90の上面側に備えている。
【0025】
なお、ホルダ移動部23は、ホルダの外周面を把持可能な二以上のグリップ片25c(
図6参照)を有する複数のグリップ部25a,25bと、これらグリップ部25a,25bを所定間隔で水平方向に平行配置した状態で三次元的に移動させるグリップ移動部23c(
図5及び
図6参照)とを備えている。
【0026】
グリップ移動部23cは、レール23a(
図6参照)に沿って水平方向(左右方向)に移動自在に構成されている。また、グリップ移動部23cには、各グリップ部25a,25bが、グリップ移動部23cに対して鉛直方向(上下方向)及びレール23aの軸方向に交差する水平方向(前後方向)のいずれの方向にも移動自在に構成されている。各グリップ部25a,25bのグリップ片25cは、ここではそれぞれ対となり且つ個別に開閉自在な構造を備えている。
【0027】
この濾過採取機構20の架台90の上面側には、更に、濾過済みのホルダの投入口99a(
図6及び
図7参照)と、エアベントの入口用の弁92a(
図6参照)と、エアベント出口92b(
図7参照)と、濾過採取機構20を全体的に操作するためのコントローラとしての操作盤93と、GPSからのデータを受信するGPS受信部24とが備えられている。濾過採取機構20の架台90内には、採取された懸濁粒子の凍結保存用の液体窒素が収められている液体窒素容器26と、エアブロー用の加圧エアを供給するコンプレッサ27(
図4及び
図5参照)とが収められている。
【0028】
また、液体窒素容器26の上方には、液体窒素容器26用の蓋部自動開閉装置28と、この蓋部自動開閉装置28と投入口99aとを繋ぐ濾過済みのホルダのガイドであるシュータ99b(
図4及び
図7参照)と、三方切り替え可能な採取出口用の弁である自動三方バルブ7と、排水出口用の弁である自動バルブ8(
図4及び
図7参照)とが備えられている。なお、その他、濾過採取機構20の架台90には、エア用の電磁弁である自動バルブ9と、同じくエア用の電磁弁9a(
図4参照)と、コリオリ式の流量計29と、マイクロスイッチである液面スイッチ96とが備えられている。
【0029】
濾過採取機構20の架台90にも、試料投入機構10の架台80と同様に、上方の四隅近傍に複数の吊りボルト97が取り付けられると共に、下面側にキャリマウント機構を有する複数の可動キャスタ94及び固定キャスタ95が備えられており、機構全体の移動及び設置が自在となるように構成されている。なお、濾過採取機構20の架台90の周囲及びその上方の周囲は、透明板98a,98b,98c(
図4及び
図5参照)によって、風などの外部環境の影響を極力受けないように囲まれている。
【0030】
なお、試料投入機構10に設けられたタンク11や制御盤13、或いは濾過採取機構20に設けられたコンプレッサ27やホルダ加圧部22、液体窒素容器26などの各部は、それぞれの架台80,90に対して小型に形成され一体化が図られているが、これら各部は運搬時等に容易に分離できる構造を備えている。また、濾過採取機構20が試料投入機構10の全ての機能を備え、単体で濾過採取装置として機能するように構成してもよい。
【0031】
このように構成された試料投入機構10及び濾過採取機構20からなる濾過採取装置は、特に、船舶上における揺れが生じる不安定な環境下においても海水試料を短時間で連続的且つ自動的に高い頻度で濾過して多量のフィルタ試料(サンプル)を得ることができる構成を備えている。濾過採取された懸濁粒子試料は、植物プランクトンの色素や核酸の解析に供される。
【0032】
そして、この濾過採取装置では、上述したバルブや弁、コンプレッサ等の各部が洗浄部として動作することにより、フィルタまで海水試料を供給可能なライン内をエアブローすることによるライン内の洗浄が行われる。この洗浄は、エアブローした後に行われる共洗いによっても行われ得る。具体的には、濾過採取されるサンプルが、例えば植物プランクトンの色素サンプルである場合は、濾過工程後に、ライン内に取り付けられたホルダの内部に残留する海水試料を第1のエアブローにより取り除くことが行われる。また、濾過工程後におけるライン内からホルダを取り外した後のライン内に残留する海水試料を第2のエアブローにより取り除くことが行われる。
【0033】
更に、濾過採取装置では、濾過採取されるサンプルが、例えば他の観測点で採取した海水試料による汚染に影響を受け易い植物プランクトンの核酸サンプルである場合は、この核酸サンプルを採取するための海水試料の濾過工程前に、ライン内に残留する別の観測点の海水試料を上記エアブローにより取り除いて洗浄した後、この核酸サンプルを採取するための海水試料を用いてライン内に流すことにより共洗いが行われる。以下、本実施形態に係る濾過採取装置の動作について説明する。なお、以降において特に明記しない場合は、各部の動作は制御盤13や操作盤93の制御により、自動的に行われるものとする。
【0034】
[タンクの洗浄工程]
まず、試料投入機構10におけるタンク11の洗浄工程が行われる。この洗浄工程では、観測点における海水試料の採取前に蛇口9からタンク11内にその観測点の海水試料を投入する。そして、タンク11に内蔵された液面レベルセンサ11aにより満水を検知すると、自動バルブ3cが開状態となってタンク11内の海水試料を全て排水する。このような海水試料の「投入」及び「排出」動作を手動又は自動で繰り返すことにより、タンク11の洗浄工程が行われる。なお、タンク11の内部には、金属汚染がなく汚れが付着し難く汚れが落ち易いPFAコーティングが施されていてもよい。
【0035】
[海水試料の採取工程及び濾過工程]
タンク11の洗浄後、予め定められた設定量の海水試料を再びタンク11に投入する。そして、海水試料を濾過する前に、濾過採取するサンプルが、植物プランクトンの核酸サンプルである場合は、例えばオペレータの制御盤13や操作盤93に対する選択操作により、ラインをタンク11内に投入した海水試料を用いてラインに流すことにより共洗いする。
【0036】
具体的には、ライン内に残留する海水試料がエアブローにより取り除かれた後に共洗いが行われる。そして、本実施形態の濾過採取装置では、色素サンプル及び核酸サンプルのいずれの場合においても、従来のような洗浄水を用いてライン内を洗浄することは行われない。これにより、作業時間の短縮や高い頻度でのサンプルの取得を図ることが可能となる。
【0037】
なお、この共洗いは、特に他の海水試料による汚染の影響を受け易い植物プランクトンの核酸(DNA又はRNA)サンプルを採取するときには、自動的に必ず行われるように設定しておくとよい。共洗いされるラインは、例えば
図7に示すように、ライン(A)「自動バルブ4→チューブポンプ12→圧力センサ5→加圧ユニット22a→流量計29→自動三方バルブ7」、及びライン(B)「自動バルブ4→チューブポンプ12→圧力センサ5→加圧ユニット22a→自動バルブ9→エアベント出口92b」である。
【0038】
図8は、濾過採取機構20におけるホルダ14の供給部21の動作説明図であり、ホルダ供給部21の正面を表している。
図9は、ホルダ供給部21のホルダ受台16を示す説明図である。上述したエアブローによる洗浄と共に行われる共洗い後、まず、ホルダ供給部21において、ホルダ14の移動が行われる。
図8においては、ホルダ供給部21におけるホルダ14を複数収容するホルダ収容部としてのホルダマガジン15からホルダ供給部21側のホルダ受台16まで、ホルダ14を移動させる様子が示されている。
【0039】
すなわち、ホルダ供給部21では、
図8(a)に示すように、複数のホルダ14が収容された筒状のホルダマガジン15を、
図8(b)に示すように、ホルダ供給部21側のホルダ受台16に向けて降下させる。そして、
図8(c)に示すように、ホルダ14をホルダ受台16にセットして配置したら、ホルダマガジン15を上昇させて、
図8(d)に示すように、次のセッティングまで待機する。なお、ホルダマガジン15には、例えば最大12個のホルダ14が収容され得る。
【0040】
図9(a)及び(b)に示すように、ホルダ受台16には、ホルダ14が載置された際に、ホルダ14の外周面に対峙し、例えばその外周部分の一部を一対の円弧状壁面で押さえることができる落下防止片としての落下防止ストッパ16aが複数形成されている。なお、図示は省略するが、後述するホルダ加圧部22のホルダ受台17にも、この落下防止ストッパ16aと同様の構造からなる落下防止ストッパ17aが形成されている。
【0041】
このような落下防止ストッパ16a(17a)がホルダ受台16(17)に設けられていることで、例えばホルダ14がグリップ部25aによりホルダ受台16上で把持されていないときや、ホルダ14がホルダ加圧部22の加圧ユニット22aによりホルダ受台17に押さえ付けられていない状態などのときに、すなわち、ホルダ14がホルダ受台16,17に載置されただけのときに、船舶の揺れ等によりホルダ受台16(17)から脱落してしまうことを防止することができる。
【0042】
図10は、濾過採取装置にて用いられるホルダ14を示す平面図、
図11はホルダ14を示す一部断面側面図である。
図10及び
図11に示すように、ホルダ14(濾過済みのホルダ14aも同様)は、ホルダトッププレート30をホルダベースプレート31に対し、Oリング32、フィルタ33、サポートスクリーン34及びサポートリング35を介在させた状態で螺合した構造からなる。フィルタ33は、例えばガラス繊維フィルタやメンブレンフィルタ(精密濾過膜)からなり、フィルタ33の上部には、海水試料やエアが通る濾過室33aが形成されている。
【0043】
ホルダトッププレート30には、中心部に濾過室33aに連通する海水試料やエアの入口孔36が形成されている。また、上部には同心円状溝37が形成されており、その一部に濾過室33aに連通するエアベント孔38が設けられている。ホルダベースプレート31には、中心部に海水試料やエアの出口孔39が形成されている。
【0044】
図12は、濾過採取機構20におけるホルダ移動部23によるグリップ部25a,25bの動作説明図であり、濾過採取機構20を簡略した平面で表している。また、
図13は、濾過採取機構20のグリップ部25aがホルダ14を把持した状態を示す平面図である。ホルダ供給部21側のホルダ受台16にホルダ14を配置(載置)したら、このホルダ受台16からホルダ加圧部22側のホルダ受台17にホルダ14を移動させことが行われる。なお、
図12においては、ホルダマガジン15の記載は省略し、各ホルダ受台16,17の落下防止ストッパ16a,17aは図示していない。
【0045】
すなわち、
図12(a)に示すように、ホルダ受台16にホルダ14が配置されたら、グリップ移動部23cをレール23aの右端部まで移動させる。これにより、グリップ部25a,25bを、それぞれホルダ供給部21側のホルダ受台16及びホルダ加圧部22側のホルダ受台17と前後方向に離間した状態で正対させる。
【0046】
次に、
図12(b)に示すように、各グリップ部25a,25bのグリップ片25cを開いてからアーム23bを伸ばし、各グリップ部25a,25bをホルダ受台16,17上でホルダ14を把持可能な近接位置に移動させた上で下降させて、各グリップ部25a,25bのグリップ片25cを閉じる。これにより、ホルダ受台16に配置されたホルダ14をグリップ部25aで把持する。
【0047】
このとき、
図13に示すように、グリップ部25aのグリップ片25cは、ホルダ受台16の落下防止ストッパ16aと干渉しない位置に配置され、対向する一対の円弧状壁面によりホルダ14の外周部を把持している。なお、後述するグリップ部25bやホルダ受台17についても同様である。
【0048】
ホルダ14をグリップ部25aで把持したら、各グリップ部25a,25bのグリップ片25cを閉じたまま上昇させた上でアーム23bを縮め、
図12(c)に示すように、再度各グリップ部25a,25bをホルダ受台16,17と前後方向に離間した状態で正対させる。その後、
図12(d)に示すように、グリップ移動部23cをレール23aの左端部まで移動させる。これにより、グリップ部25aはホルダ受台17と前後方向に離間した状態で正対し、グリップ部25bは投入口99aと上下方向に離間した状態で正対する。なお、この状態のときに、ホルダ加圧部22において濾過済みのホルダ14aをグリップ部25bが把持していたら、投入口99a上においてグリップ部25bのグリップ片25cのみを開くように動作させてもよい。これにより、濾過済みのホルダ14aを直ちに投入口99a、シュータ99b及び蓋部自動開閉装置28を介して液体窒素容器26内に投入することが可能となる。
【0049】
次に、グリップ部25bの開閉状態は問わずに、グリップ部25aのグリップ片25cを閉じたまま、
図12(e)に示すように、アーム23bを伸ばして、グリップ部25aを、ホルダ受台17上でホルダ14をセット可能な近接位置に移動させた上で下降させて、グリップ部25aのグリップ片25cを開く。これにより、ホルダ受台17にホルダ14をセットして配置する。
【0050】
ホルダ14をホルダ受台17に配置したら、
図12(f)に示すように、グリップ部25aのグリップ片25cの開閉状態は問わずにアーム23bを縮め、再度各グリップ部25a,25bをホルダ受台17と前後方向及び投入口99aと上下方向にそれぞれ離間した状態で正対させる。このようにして、ホルダ供給部21側のホルダ受台16からホルダ加圧部22側のホルダ受台17へのホルダ14の移動が行われる。なお、グリップ移動部23cの移動は、図示しないエアシリンダの動作により行われる。
【0051】
図14は、濾過採取機構20におけるホルダ14の加圧部22の動作説明図であり、ホルダ加圧部22の正面を表している。また、
図15は、濾過採取機構20におけるホルダ14の加圧部22内の海水試料の流路を示す断面図である。ホルダ14のホルダ受台17への配置が完了したら、ホルダ加圧部22において、海水試料の濾過が行われる。なお、
図14においては、濾過開始から濾過終了までのホルダ加圧部22における動きが示されている。
【0052】
まず、
図14(a)に示すように、ホルダ受台17にホルダ14が配置された後、ホルダ加圧部22の昇降モータM1の動作によって、加圧ユニット22aがホルダ14に向かって下降する。次に、
図14(b)に示すように、ホルダ加圧部22のホルダ受台17と加圧ユニット22aとによって、ホルダ14を所定圧で押さえ付ける。これにより、加圧ユニット22a、ホルダ14及びホルダ受台17が液密且つ気密に接続され、インラインが構成される。そして、インラインが構成された後に、自動バルブ9が開き海水試料をホルダ14内に送液してホルダ14内及びライン内に残留するエアをエアベント出口92bより排出し、自動バルブ9が閉じる。自動バルブ9が閉じた状態で海水試料をホルダ14内に流し濾過した後、エアブローによって、濾過済みホルダ14a内部に残留する海水試料の除去が完了したら、
図14(c)に示すように、昇降モータM1の動作により、加圧ユニット22aを濾過済みのホルダ14aから離間するように上昇させる。
【0053】
なお、インラインが構成されると、自動バルブ9と自動バルブ4とを開状態にした上で、チューブポンプ12を始動させることが行われる。これにより、ホルダ14に対して、タンク11内に採取した海水試料が送液され、このホルダ14内のフィルタによる海水試料の濾過が行われる。
【0054】
具体的には、
図15に矢印で示すように、送液された海水試料は、加圧ユニット22aの入口孔40を通って、ホルダ14の入口孔36から濾過室33a内に充填される。濾過室33a内に充填された海水試料は、フィルタ33及びサポートスクリーン34を通って出口孔39から排出され、ホルダ受台17の出口孔42から排出される。なお、自動バルブ9が閉状態であるため、濾過室33a内の海水試料はエアベント孔38、同心円状溝37及び加圧ユニット22aのエアベント出口孔41を通って排出されることはない。
【0055】
加圧ユニット22aとホルダ14とは、同心円状溝37を間に挟むような状態で配置された同心円状の大小2つのOリング48a,48bを介して液密、気密に接続されており、ホルダ14とホルダ受台17とは、Oリング49を介して液密、気密に接続されている。
【0056】
なお、濾過の目的が例えばプランクトン(微生物)の細胞採集である場合は、通常、細胞ができるだけ破損しないように濾過圧力値が約0.026MPa以下の低圧濾過が行われる。ホルダ加圧部22における濾過圧力値の上限値は、任意に設定可能である。濾過中に設定した濾過圧力値に達した場合は、濾過を終了する。
【0057】
また、海水試料の濾過に際して、本実施形態に係る濾過採取機構20では、上述したGPS受信部24によって、濾過した海水試料の採取時間や採取場所(観測点の緯度、経度等の位置情報)に関連するデータを取得する。取得されたデータは、例えばCSVファイル形式でソリッド・ステート・ドライブ(SSD)、ハード・ディスク・ドライブ(HDD)、メモリカード等の記憶媒体からなる記憶部に記録され、後に人工衛星による海色データとの照らし合わせ等に用いられ得る。
【0058】
また、上記インラインを保持し、海水試料をホルダ14内に送液する際に、例えばホルダ14内及びライン内に残留するエアを、エアベント出口92bへ排出することが行われる。このときのエアの排出が行われるラインは、ライン(C)「自動バルブ4→チューブポンプ12→自動バルブ6→圧力センサ5→加圧ユニット22a」である。また、このときのエアの排出は、液面スイッチ96に備えたセンサが、エアと共に送液される海水試料を検知した場合に、自動バルブ9が自動で閉状態となることにより終了する。
【0059】
このように、自動バルブ9が閉状態となった後も、上記インラインを保持しながら、予め設定した積算濾過量となるように海水試料を送液し濾過を行う。なお、積算濾過量の計量は、例えば1ml単位で行うことができる。また、この積算濾過量に達した濾液は、自動三方バルブ7の後段において、自動的に採取されてもよい。このときの自動採取量は、自動三方バルブ7と自動バルブ8との開閉具合の調整により設定され得る。そして、設定した積算濾過量に達した場合、自動的にチューブポンプ12の動作を停止させ、例えば上述した採取時間等のデータと共に積算濾過量のデータを記録して、海水試料の採取工程及び濾過工程を終了する。
【0060】
[濾過済みホルダ14a内に残留する海水試料の除去工程]
図16は、ホルダ14の加圧部22内のエアの流路を示す断面図である。濾過工程を終了したら、加圧ユニット22a、濾過済みのホルダ14a及びホルダ受台17が接続されたインラインを保持したまま、自動バルブ6と自動バルブ9とを開状態にすると共に、自動三方バルブ7を自動バルブ8がある排水ライン側に切り替え、更に自動バルブ8を閉状態にする。
【0061】
この状態のまま、エアブロー口6aに接続されたコンプレッサ27の加圧エアにより、ラインの内部をエアブローして、濾過済みのホルダ14a内に残留する海水試料を取り除く。エアブローされるラインは、ライン(D)「自動バルブ6→圧力センサ5→加圧ユニット22a→自動バルブ9→エアベント出口92b」である。
【0062】
すなわち、
図16に矢印で示すように、エアは、加圧ユニット22aの入口孔40を通って、ホルダ14の濾過室33a内に送られる。そして、エアは、濾過室33a内からエアベント孔38を通って同心円状溝37及びエアベント出口孔41を通ってエアベント出口92b側に排出される。
【0063】
また、エアブローの終了後は、自動バルブ9を閉状態にし、自動三方バルブ7を排水ライン側のままにして、自動バルブ6と自動バルブ8とを開状態にする。この状態のまま、ラインの内部を再度エアブローして、更に濾過済みのホルダ14a内に残留する海水試料を除去する。エアブローされるラインは、ライン(E)「自動バルブ6→圧力センサ5→加圧ユニット22a→流量計29→自動バルブ8」である。
【0064】
このときのエアは、
図16に矢印で示すように、入口孔40を通って濾過室33a内に送られた後、フィルタ33及びサポートスクリーン34を通ってホルダ14の出口孔39から排出され、更にホルダ受台17の出口孔42から自動三方バルブ7側へ排出される。これにより、濾過済みのホルダ14a内に残留した海水試料によって、次工程の濾過済みのホルダ14aの凍結保存時において表れる悪影響をほぼ抑えることができる。
【0065】
なお、ホルダ14には上述した同心円状溝37が設けられているので、インライン構成時には、加圧ユニット22aのエアベント出口孔41とホルダ14のエアベント孔38とを同軸上にくるように位置合わせしなくとも、エアベント出口孔41とエアベント孔38とを同心円状溝37を介して連通させることができる。
【0066】
[濾過済みのホルダの凍結保存工程]
図17は、濾過採取機構20におけるホルダ移動部23によるグリップ部25a,25bの動作説明図であり、濾過採取機構20を簡略した平面で表している。また、
図18は、濾過採取機構20の液体窒素容器26の上方の一部を示す正面図である。上述したエアブローによる濾過済みホルダ14a内の海水試料の除去工程が終了したら、濾過済みのホルダ14aをホルダ加圧部22から取り外して液体窒素容器26内に投入し、濾過済みのホルダ14aを凍結保存することが行われる。
【0067】
すなわち、
図17(a)に示すように、エアブローの後、グリップ移動部23cをレール23aの右端部まで移動させる。そして
図17(b)に示すように、少なくともグリップ部25bのグリップ片25cを開いてからアーム23bを伸ばし、グリップ部25bをホルダ受台17上で濾過済みのホルダ14aを把持可能な近接位置に移動させた上で下降させてから閉じる。これにより、ホルダ受台17上の濾過済みのホルダ14aをグリップ25bのグリップ片25cで把持する。
【0068】
濾過済みのホルダ14aをグリップ部25bで把持したら、グリップ部25bを閉じたまま上昇させた上でアーム23bを縮めて、
図17(c)に示すように、グリップ部25a,25bを、それぞれホルダ受台16,17と前後方向に離間した状態で正対させる。そして、
図17(d)に示すように、グリップ移動部23cをレール23aの左端部まで移動させる。これにより、上述したようにグリップ部25bは投入口99aと上下方向に離間した状態で正対することとなる。
【0069】
そして、投入口99a上においてグリップ部25bのグリップ片25cを開き、濾過済みのホルダ14aを投入口99aに落下させて投入する。なお、投入口99a上にてグリップ部25bが開かれると、
図18に示すように、液体窒素容器26上の蓋部自動開閉装置28が連動して、図示しない液体窒素容器26の蓋部が開かれる。
【0070】
こうして、投入口99aに投入された濾過済みのホルダ14aは、投入口99a、シュータ99b及び蓋部自動開閉装置28を通って液体窒素容器26内に入れられる。これにより、濾過済みのホルダ14a内のフィルタ試料(サンプル)が、液体窒素容器26内の液体窒素により−196℃の温度にて凍結保存される。
【0071】
[ライン内に残留する海水試料の除去工程]
図19は、濾過採取機構20におけるホルダ14の加圧部22の動作説明図であり、ホルダ加圧部22の正面を表している。なお、
図19においては、濾過済みホルダ14aをホルダ受台17から取り外した後のホルダ加圧部22における動きが示されている。
図19(a)に示すように、昇降モータM1の動作によってホルダ加圧部22の加圧ユニット22aを上昇させて、濾過済みのホルダ14aをホルダ受台17から取り外した後、
図19(b)に示すように、再度昇降モータM1の動作により加圧ユニット22aを下降させる。そして、
図19(c)に示すように、加圧ユニット22aとホルダ受台17とをシール性を持たせた状態で接続する。
【0072】
その後、自動バルブ9を閉状態にし、自動三方バルブ7を排水ライン側に切り替え、更に自動バルブ6と自動バルブ8とを開状態にして、ライン(E)「自動バルブ6→圧力センサ5→加圧ユニット22a→流量計29→自動バルブ8」のライン内をエアブローし、残留する海水試料を取り除くことが行われる。
【0073】
また、自動バルブ8を閉状態にし、自動バルブ6と自動バルブ9とを開状態にして、更に自動三方バルブ7を採取ライン側に切り替えて、ライン(D)「自動バルブ6→圧力センサ5→加圧ユニット22a→自動バルブ9→エアベント出口92b」のライン内、及びライン(F)「自動バルブ6→圧力センサ5→加圧ユニット22a→流量計29→自動バルブ7」のライン内をエアブローし、海水試料の残液を取り除くことが行われる。
【0074】
そして、この濾過採取装置では、上述した[タンクの洗浄工程]〜[ライン内に残留する海水試料の除去工程]の各工程を、例えば予め設定した濾過回数分(或いは採取する観測点分)繰り返して行う。これにより、本実施形態に係る濾過採取装置においては、海水試料を短時間で連続的且つ自動的に高い頻度で濾過して多量のフィルタ試料を得ることが可能となる。
【0075】
なお、海域における複数の観測点で海水試料を濾過し採取する場合であって、別の新たな観測点において海水試料を濾過し採取する際には、事前に未使用のフィルタ33が内蔵された新たなホルダ14を、ホルダマガジン15からマガジン側のホルダ受台16に配置しておくとよい。その後、核酸サンプルを採取するために共洗いを行う場合は、新たな観測点における海水試料を用いて共洗いを行う。
【0076】
[メンテナンス工程]
上記全ての工程が終了したら、濾過採取装置の各部のメンテナンスが行われる。まず、試料投入機構10のタンク11内に海水試料を洗い流す洗浄液を投入する。そして、投入された洗浄液を用いて、タンク11内及びライン内を洗浄する。その後、エアブローを行ってライン内に残留した洗浄液を取り除くことが行われる。これにより、濾過採取装置のメンテナンスが完了する。
【0077】
以上述べたように、本発明に係る濾過採取装置によれば、海水試料を短時間で連続的且つ自動的に高い頻度で濾過し採取することが可能となる。また、所定の間隔で平行配置されたグリップ部25a,25bを有するホルダ移動部23により、ホルダ14のホルダ受台16,17及び投入口99aへの三次元的な移動距離を必要最小限にすることができる。これにより、装置全体や各機構の小型化を促進し、船舶の限られたスペースにおいても容易に設置することが可能となる。
【0078】
また、ホルダ受台16,17に配置されたホルダ14を、船舶による大きな揺れが発生した場合でも、ホルダ保持構造である落下防止ストッパ16a,17aにより押さえることができる構造を備える。このため、ホルダ14がホルダ受台16,17から移動したり落下したりすることはなく、自動的且つ連続的な濾過が停止してしまうことを防止することができる。
【0079】
また、ホルダ14のホルダトッププレート30に同心円状溝37が設けられているので、ホルダ14のエアベント孔38と加圧ユニット22aのエアベント出口孔41とを同軸上に位置合わせしなくとも、エアの排出を行うことができ、併せてホルダ受台17へのホルダ14の設置を容易にすることもできる。
【0080】
また、GPS受信部24が搭載されているので、海水試料の採取時間と採取場所(観測点の位置情報)の正確なデータを取得でき、サンプルに関する情報と共に関連付けて記憶することが可能となる。
【0081】
更に、濾過採取装置では、濾過採取の終了後に、濾過済みのホルダ14a内やライン内に残留している海水試料をエアブローで除去し、ホルダ14aを液体窒素容器26に投入して凍結保存し、更にその後に、再度、ホルダ受台17及び加圧ユニット22a内やライン内に未だ残留している海水試料を再びエアブローで除去する方式を採用している。これにより、ホルダ受台17及び加圧ユニット22a内やライン内に海水試料が残留することはない。
【0082】
以上、本発明のいくつかの実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。