【課題】小型電子機器などに使用されるストリップラインやマイクロストリップラインといった厚み方向の誘電特性の影響を受けやすい回路配線において、高周波化への対応が可能で、線熱膨張係数も低いポリイミド、樹脂フィルム及び金属張積層板の提供。
【解決手段】(i)酸無水物成分として、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)を40〜80モル%、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を20〜60モル%で含有し、(ii)ジアミン成分として、4,4’−ビフェニルジアミンIを60〜90モル%、一般式(3)等で表されるジアミンIIを10〜40モル%で含有し、(iii)NTCDA及びジアミンIの合計(A)と、BPDA及びジアミンIIの合計(B)との比(A/B)が1.6〜4.0であるポリイミド。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
[ポリイミド]
本実施の形態のポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸無水物成分を含む酸無水物成分と、芳香族ジアミンを含むジアミン成分と、を反応させて得られるポリイミドである。ポリイミドは、一般に、酸無水物とジアミンとを反応させて製造されるので、酸無水物とジアミンを説明することにより、ポリイミドの具体例が理解される。以下、好ましいポリイミドを酸無水物とジアミンにより説明する。
【0021】
<酸無水物>
本実施の形態のポリイミドは、原料の酸無水物成分として、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)及び3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を使用する。NTCDAは、ナフタレン骨格を有するため、他の一般的な酸無水物成分に比べて、ポリイミド中の分子の配向性の制御が可能であり、線熱膨張係数(CTE)の抑制とガラス転移温度(Tg)の向上効果がある。特に、本実施の形態で用いるNTCDAは、ナフタレン骨格の2,3,6,7位にカルボン酸由来の縮合構造を有することから、ナフタレン骨格の長手方向にポリマー鎖を伸長させることが可能であり、例えば1,4,5,8位に縮合構造を有するものに比べ、ポリイミド中の分子の配向性を制御する効果が高く、また2,3,6,7位に縮合構造を有するものは、5員環により酸無水物構造を形成するため、6員環により酸無水物構造を形成する1,4,5,8位に縮合構造を有するものと比較し、ジアミンとの反応性が高く、室温でのアミド酸形成が容易である。さらに、NTCDAは、一般的な酸無水物と比較し分子量が大きいため、イミド基濃度低下の効果が大きく、誘電特性の改善にも寄与する。このため、誘電特性の改善と低CTE化との両立が可能となる。このような観点から、NTCDAは、原料の全酸無水物成分の100モル部に対し、40〜80モル部の範囲内、好ましくは50〜80モル部の範囲内がよい。原料の全酸無水物成分の100モル部に対し、NTCDAの仕込み量が40モル部未満であると、分子の配向性が低下し、低CTE化が困難となるため、低誘電化との両立が困難となり、一方、NTCDAの仕込み量が80モル部を超えると、フィルムとしての脆弱化や、高弾性率化による回路基板用の絶縁層としての適用が困難になる。また、BPDAは、ポリイミドの前駆体のポリアミド酸としてのゲル膜の自己支持性を付与できるが、イミド化後のフィルムとしてのCTEを増大させる。このような観点から、BPDAは、原料の全酸無水物成分の100モル部に対し、20〜60モル部の範囲内、好ましくは20〜50モル部の範囲内がよい。
【0022】
その他の酸無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODA)、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,3',3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物等が挙げられる。
【0023】
本実施の形態のポリイミドは、原料の酸無水物成分の100モル部に対して、上記の一般式(6)で表される芳香族テトラカルボン酸無水物を20モル部以下とすることが好ましく、より好ましくは15モル部以下がよい。原料の全酸無水物成分の100モル部に対し、上記の一般式(6)で表される芳香族テトラカルボン酸無水物の仕込み量が20モル部を超えると、分子の配向性が低下し、低CTE化が困難となる。一般式(6)で表される芳香族テトラカルボン酸無水物の代表例としては、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、2,3',3,4'-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。
【0024】
<ジアミン>
本実施の形態のポリイミドは、原料のジアミン成分として、上記の一般式(1)及び(2)で表される芳香族ジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の芳香族ジアミン(ジアミンI)並びに上記の一般式(3)〜(5)で表される芳香族ジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の芳香族ジアミン(ジアミンII)を使用する。ジアミンIは、ポリイミド中の分子の配向性を制御することでCTEの増加を抑制することができ、またTgを向上させることができる。このような観点から、ジアミンIは、原料の全ジアミン成分の100モル部に対し、60〜90モル部の範囲内、好ましくは70〜90モル部の範囲内がよい。ジアミンIIは、屈曲性の部位を有するので、ポリイミドに柔軟性を付与することができる。ここで、ジアミンIIにおけるベンゼン環が3個又は4個である場合は、CTEの増加を抑制するために、ベンゼン環に結合するアミノ基はパラ位とする必要がある。このような観点から、ジアミンIIは、原料の全ジアミン成分の100モル部に対し、10〜40モル部の範囲内、好ましくは10〜30モル部の範囲内がよい。原料の全ジアミン成分の100モル部に対し、ジアミンIIの仕込み量が10モル部未満であると、フィルムとした場合の伸度が低下し、折り曲げ耐性等の低下が生じる。一方、ジアミンIIの仕込み量が40モル部を超えると、分子の配向性が低下し、低CTE化が困難となる。
【0025】
一般式(1)において、基R
1及びR
2の好ましい例としては、水素原子又は炭素数1〜3のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基、あるいは炭素数1〜3のアルコキシ基若しくはアルケニル基を挙げることができる。一般式(1)で表される芳香族ジアミンの好ましい具体例としては、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−EB)、2,2’−ジエトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(m−EOB)、2,2’−ジプロポキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(m−POB)、2,2’−n−プロピル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−NPB)、2,2’−ジビニル−4,4’−ジアミノビフェニル(VAB)、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)等を挙げることができる。
【0026】
一般式(2)で表される芳香族ジアミンの好ましい具体例としては、p‐フェニレンジアミン(p−PDA)、m‐フェニレンジアミン(m−PDA)等を挙げることができる。
【0027】
一般式(3)において、基R
1及びR
2の好ましい例としては、水素原子又は炭素数1〜4のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基、あるいは炭素数1〜3のアルコキシ基若しくはアルケニル基を挙げることができる。また、一般式(3)において、連結基Xの好ましい例としては、−O−、−S−、−CH
2−、−CH(CH
3)
2−、−SO
2−又は−CO−を挙げることができる。一般式(3)で表される芳香族ジアミンの好ましい具体例としては、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル(4,4'-DAPE)、3,3'−ジアミノジフェニルエーテル、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,3'−ジアミノジフェニルメタン、3,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルプロパン、3,3'−ジアミノジフェニルプロパン、3,4'−ジアミノジフェニルプロパン、4,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、3,4'−ジアミノベンゾフェノン、3,3'−ジアミノベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0028】
一般式(4)において、基R
1、R
2及びR
3の好ましい例としては、水素原子又は炭素数1〜4のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基、あるいは炭素数1〜3のアルコキシ基若しくはアルケニル基を挙げることができる。また、一般式(4)において、連結基Xの好ましい例としては、−O−、−S−、−CH
2−、−CH(CH
3)
2−、−SO
2−又は−CO−を挙げることができる。一般式(4)で表される芳香族ジアミンの好ましい具体例としては、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,4−ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、ビス(4‐アミノフェノキシ)−2,5−ジ−tert−ブチルベンゼン(DTBAB)、4,4−ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゾフェノン(BAPK)、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン等を挙げることができる。
【0029】
一般式(5)において、基R
1、R
2、R
3及びR
4の好ましい例としては、水素原子又は炭素数1〜4のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基、あるいは炭素数1〜3のアルコキシ基若しくはアルケニル基を挙げることができる。また、一般式(5)において、連結基X及びX1の好ましい例としては、単結合、−O−、−S−、−CH
2−、−CH(CH
3)
2−、−SO
2−又は−CO−を挙げることができる。但し、屈曲部位を付与する観点から、連結基X及びX
1の両方が単結合である場合を除くものとする。一般式(5)で表される芳香族ジアミンの好ましい具体例としては、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン等を挙げることができる。
【0030】
その他のジアミンとしては、例えば、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2−ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン等が挙げられる。
【0031】
また、本実施の形態のポリイミドは、NTCDA及びジアミンIの合計(A)と、BPDA及びジアミンIIの合計(B)との比(A/B)が1.6〜4.0の範囲内、好ましくは1.6〜3.3の範囲内がよい。ポリイミドの剛直性を付与するために使用するNTCDA及びジアミンIと、ポリイミドの柔軟性及び低弾性率化を付与するために使用するBPDA及びジアミンIIの割合を制御することで、ポリイミドのフィルム特性を向上させることが可能となる。比(A/B)が1.6未満であると、ポリイミド中の分子の配向性が低下し、低CTE化が困難となり、またTgが低下する。4.0を超えると、フィルムとした場合の伸度が低下するとともに、高弾性率に変化することにより、折り曲げ耐性等の低下が生じる。
【0032】
本実施の形態のポリイミドにおいて、上記酸無水物及びジアミンの種類や、2種以上の酸無水物又はジアミンを使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張性、接着性、ガラス転移温度(Tg)等を制御することができる。
【0033】
本実施の形態に係るポリイミドは、上記の酸無水物成分と、上記のジアミン成分を溶媒中で反応させ、ポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、酸無水物成分とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0〜100℃の範囲内の温度で30分〜24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5〜30重量%の範囲内、好ましくは10〜20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ブタノン、ジメチルスホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液の濃度が5〜30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0034】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸の溶液の粘度は、500cP〜100,000cPの範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。ポリアミド酸をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0035】
[樹脂フィルム]
本実施の形態の樹脂フィルムは、本実施の形態のポリイミドから形成されるポリイミド層を含む絶縁樹脂のフィルムであれば特に限定されるものではなく、絶縁樹脂からなるフィルム(シート)であってもよく、銅箔、ガラス板、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの樹脂シート等の基材に積層された状態の絶縁樹脂のフィルムであってもよい。また、本実施の形態の樹脂フィルムの厚みは、好ましくは3〜100μmの範囲内、より好ましくは3〜75μmの範囲にある。
【0036】
本実施の形態のポリイミドは、ベースフィルム層(絶縁樹脂層の主層)としての適用が好適である。具体的には、線熱膨張係数(CTE)が好ましくは5×10
−6〜20×10
−6(1/K)の範囲内、より好ましくは10×10
−6〜20×10
−6(1/K)の範囲内にある低熱膨張性のポリイミド層をベースフィルム層に適用すると大きな効果が得られる。低熱膨張性ポリイミドの中で、好適に利用できるポリイミドは、非熱可塑性のポリイミドである。本実施の形態のポリイミドを使用して低熱膨張性のベースフィルム層を形成する場合の厚みは、好ましくは5〜50μmの範囲内、より好ましくは10〜35μmの範囲である。
【0037】
一方、上記線熱膨張係数(CTE)を超える高膨張性のポリイミド層も、例えば金属層や他の樹脂層などの基材との接着層としての適用が好適である。このような接着性ポリイミド層として好適に用いることができるポリイミドとして、そのガラス転移温度(Tg)が、例えば360℃以下であるものが好ましく、200〜320℃の範囲内にあるものがより好ましい。
【0038】
高膨張性のポリイミド層とするには、例えば、原料の酸無水物成分としてピロメリット酸二無水物、3,3',4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物を、ジアミン成分としては、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンを用いることがよく、特に好ましくはピロメリット酸二無水物及び2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンを原料各成分の主成分とするものがよい。
【0039】
本実施の形態の樹脂フィルムとしてのポリイミドフィルムの形成方法については特に限定されないが、例えば、[1]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、イミド化してポリイミドフィルムを製造する方法(以下、キャスト法)、[2]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、ポリアミド酸のゲルフィルムを支持基材から剥がし、イミド化してポリイミドフィルムを製造する方法などが挙げられる。また、本発明で製造されるポリイミドフィルムが、複数層のポリイミド樹脂層からなる場合、その製造方法の態様としては、例えば、[3]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥することを複数回繰り返した後、イミド化を行う方法(以下、逐次塗工法)、[4]支持基材に、多層押出により、同時にポリアミド酸の積層構造体を塗布・乾燥した後、イミド化を行う方法(以下、多層押出法)などが挙げられる。ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を基材上に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。多層のポリイミド層の形成に際しては、ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を基材に塗布、乾燥する操作を繰り返す方法が好ましい。
【0040】
本実施の形態の樹脂フィルムは、単層又は複数層のポリイミド層を含むことができる。この場合、ポリイミド層の少なくとも1層(好ましくはベースフィルム層)が、本実施の形態のポリイミドを用いて形成されていればよい。例えば、非熱可塑性ポリイミド層をP1、熱可塑性ポリイミド層をP2とすると、樹脂フィルムを2層とする場合にはP2/P1の組み合わせで積層することが好ましく、樹脂フィルムを3層とする場合にはP2/P1/P2の順、又は、P2/P1/P1の順に積層することが好ましい。ここで、P1が本実施の形態のポリイミドを用いて形成されたベースフィルム層となる。なお、P2は、本実施の形態のポリイミド以外のポリイミドによって構成されていてもよい。
【0041】
本実施の形態の樹脂フィルムは、必要に応じて、ポリイミド層中に無機フィラーを含有してもよい。具体的には、例えば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0042】
本実施の形態の樹脂フィルムを低熱膨張性のポリイミドフィルムとして適用したものは、例えばカバーレイフィルムにおけるカバーレイ用フィルム材として適用することができる。本実施の形態の樹脂フィルムに、任意の接着剤層を積層してカバーレイフィルムを形成することができる。カバーレイ用フィルム材層の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば5μm以上100μm以下が好ましい。また、接着剤層の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば15μm以上50μm以下が好ましい。
【0043】
[金属張積層板]
本実施の形態の金属張積層板は、絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の少なくとも片側の面に積層された金属層と、を有する。金属張積層板の好ましい具体例としては、例えば銅張積層板(CCL)などを挙げることができる。
【0044】
<絶縁樹脂層>
本実施の形態の金属張積層板において、絶縁樹脂層は、単層又は複数層のポリイミド層を有する。この場合、金属張積層板に優れた高周波特性を付与するためには、ポリイミド層の少なくとも1層(好ましくはベースフィルム層)が、本実施の形態のポリイミドを用いて形成されていればよい。また、絶縁樹脂層と金属層との接着性を高めるため、絶縁樹脂層における金属層に接する層は、熱可塑性ポリイミド層であることが好ましい。例えば、絶縁樹脂層を2層とする場合において、非熱可塑性ポリイミド層をP1、熱可塑性ポリイミド層をP2、金属層をM1とすると、P1/P2/M1の順に積層することが好ましい。ここで、P1が本実施の形態のポリイミドを用いて形成されたベースフィルム層となる。なお、P2は、本実施の形態のポリイミド以外のポリイミドによって構成されていてもよい。
【0045】
<金属層>
本実施の形態の金属張積層板における金属層の材質としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。この中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。なお、後述する本実施の形態の回路基板における配線層の材質も金属層と同様である。
【0046】
信号配線に高周波信号が供給されている状態では、その信号配線の表面にしか電流が流れず、電流が流れる有効断面積が少なくなって直流抵抗が大きくなり信号が減衰する問題(表皮効果)がある。金属層の絶縁樹脂層に接する面の表面粗度を下げることで、この表皮効果による信号配線の抵抗増大を抑制できる。しかし、電気性能要求基準を満足させるために表面粗度を下げると、金属層と絶縁樹脂層との接着力(剥離強度)が弱くなる。そこで、電気性能要求を満足可能であり、絶縁樹脂層との接着性を確保しつつ金属張積層板の視認性を向上させるという観点から、金属層の絶縁樹脂層に接する面の表面粗度は、十点平均粗さRzが1.5μm以下であることが好ましく、かつ、算術平均粗さRaが0.2μm以下であることが好ましい。
【0047】
本実施の形態の金属張積層板は、例えば本実施の形態のポリイミドを含んで構成される樹脂フィルムを用意し、これに金属をスパッタリングしてシード層を形成した後、例えばメッキによって金属層を形成することによって調製してもよい。
【0048】
また、本実施の形態の金属張積層板は、本実施の形態のポリイミドを含んで構成される樹脂フィルムを用意し、これに金属箔を熱圧着などの方法でラミネートすることによって調製してもよい。
【0049】
さらに、本実施の形態の金属張積層板は、金属箔の上に本実施の形態のポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を含有する塗布液をキャストし、乾燥して塗布膜とした後、熱処理してイミド化し、ポリイミド層を形成することによって調製してもよい。
【0050】
[回路基板]
本実施の形態の回路基板は、絶縁樹脂層と、絶縁樹脂層上に形成された配線層と、を有する。本実施の形態の回路基板において、絶縁樹脂層は、単層又は複数層のポリイミド層を有することができる。この場合、回路基板に優れた高周波特性を付与するためには、ポリイミド層の少なくとも1層(好ましくはベースフィルム層)が、本実施の形態のポリイミドを用いて形成されていればよい。また、絶縁樹脂層と配線層との接着性を高めるため、絶縁樹脂層における配線層に接する層が、本実施の形態のポリイミドを用いて形成された熱可塑性ポリイミド層であることが好ましい。例えば、絶縁樹脂層を2層とする場合において、非熱可塑性ポリイミド層をP1、熱可塑性ポリイミド層をP2、配線層をM2とすると、P1/P2/M2の順に積層することが好ましい。ここで、P1が本実施の形態のポリイミドを用いて形成されたベースフィルム層となる。なお、P2は、本実施の形態のポリイミド以外のポリイミドによって構成されていてもよい。
【0051】
本実施の形態のポリイミドを使用する以外、回路基板を作製する方法は問われない。例えば、本実施の形態のポリイミドを含む絶縁樹脂層と金属層で構成される金属張積層板を用意し、金属層をエッチングして配線を形成するサブトラクティブ法でもよい。また、本実施の形態のポリイミド層上にシード層を形成した後、レジストをパターン形成し、さらに金属層をパターンメッキすることにより配線形成を行うセミアディティブ法でもよい。
【0052】
以上のように、本実施の形態のポリイミドを使用することによって、伝送損失を小さく抑えた金属張積層板を形成することができる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0054】
[ガラス転移温度(Tg)の測定]
ガラス転移温度は、5mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、動的粘弾性測定装置(DMA:ユー・ビー・エム社製、商品名;E4000F)を用いて、30℃から400℃まで昇温速度4℃/分、周波数11Hzで測定を行い、主分散に基づくtanδの極大値温度より求めた。
【0055】
[線熱膨張係数(CTE)の測定]
3mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、サーモメカニカルアナライザー(Bruker社製、商品名;4000SA)を用い、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から265℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、250℃から100℃までの平均熱膨張係数(線熱膨張係数)を求めた。
【0056】
[厚み方向の誘電率の測定]
空洞共振器摂動法誘電率評価装置(Agilent社製、商品名;ベクトルネットワークアナライザE8363B)を用い、所定の周波数における樹脂シート(硬化後の樹脂シート)の厚み方向の誘電率を測定した。
サンプルは、厚み約25μmの樹脂シートを3枚積層したものを2つ準備し、円形銅箔/樹脂シート3枚/導体平板/樹脂シート3枚/円形銅箔の積層構成となるように、円形銅箔と導体平板の間に樹脂シート3枚をそれぞれ挟み、測定を実施した。なお、測定に使用した樹脂シートは、温度;24〜26℃、湿度;45〜55%の条件下で、24時間放置したものである。
【0057】
[製膜性の評価]
製膜性は、銅箔上にポリアミド酸を塗工し、熱処理後に、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチングしたフィルムの自己支持性を評価した。
「○」:銅箔エッチングしたフィルムについて、容易に亀裂等を生じないこと。
「×」:銅箔エッチングしたフィルムについて、容易に亀裂等を生じ自己支持性がないこと。
【0058】
実施例及び比較例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
m‐TB:2,2’‐ジメチル‐4,4’‐ジアミノビフェニル
m‐EOB:2,2'-ジエトキシ-4,4'-ジアミノビフェニル
4,4'-DAPE:4,4'-ジアミノジフェニルエーテル
TPE−R:1,3-ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン
p−PDA:p‐フェニレンジアミン
BAPP:2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
BAPB:4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル
NTCDA:2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’ ‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
ODPA:4,4’−オキシジフタル酸無水物
DMAc:N,N‐ジメチルアセトアミド
【0059】
[合成例A−1]
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、11.467gのm−TB(0.0540モル)、1.755gのTPE−R(0.0060モル)及び170.0gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、10.436gのBPDA(0.0355モル)及び6.342gのNTCDA(0.0237モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液A−aを得た。ポリアミド酸溶液A−aの溶液粘度は38,100cpsであった。
【0060】
[合成例A−2〜A−19]
表1から表3に示す原料組成とした他は、合成例A−1と同様にしてポリアミド酸溶液A−b〜A−sを調製した。なお、表1から表3中の「A/B」は、NTCDA及びジアミンIの合計(A)と、BPDA及びジアミンIIの合計(B)との比(A/B)を意味する。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
[実施例A−1]
厚さ12μmの電解銅箔の片面(表面粗さRz;2.1μm)に、合成例A−1で調製したポリアミド酸溶液A−aを硬化後の厚みが約25μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、120℃から360℃まで段階的な熱処理を30分以内で行い、イミド化を完結した。得られた金属張積層板について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、樹脂フィルムA−1を得た。なお、樹脂フィルムA−1を構成するポリイミドは、非熱可塑性であった。
樹脂フィルムA−1の線熱膨張係数、ガラス転移温度、厚み方向の誘電率を求め、製膜性を確認した。各測定結果を表4に示す。
【0065】
[実施例A−2〜A−10、比較例A−11〜A−18]
表4に示すポリアミド酸溶液を使用した他は、実施例A−1と同様にして、実施例A−2〜A−10、比較例A−11〜A−18の樹脂フィルムA−2〜A−18を得た。得られた樹脂フィルムA−2〜A−18の線熱膨張係数、ガラス転移温度、厚み方向の誘電率を求め、製膜性を確認した。各測定結果を表4〜表6に示す。
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
【表6】
【0069】
[実施例B−1]
厚さ12μmの電解銅箔の片面(表面粗さRz;1.39μm)に、ポリアミド酸溶液A−sを硬化後の厚みが約2〜3μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。次に、その上にポリアミド酸溶液A−cを硬化後の厚みが、約21μmとなるように均一に塗布し、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、その上にポリアミド酸溶液A−sを硬化後の厚みが約2〜3μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。このようにして、3層のポリアミド酸層を形成した後、120℃から360℃まで段階的な熱処理を30分以内で行い、イミド化を完結して、金属張積層板を得た。得られた金属張積層板について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、樹脂フィルムB−1を得た。得られたフィルムのCTEは24.1ppm/Kであり、厚み方向の誘電率は14GHz時に2.93であった。
【0070】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。