【解決手段】磁気素子は、面直方向に磁化され且つ反強磁性交換結合した第1磁性層および第2磁性層を備える。第1磁性層および第2磁性層には、第1磁性層側から見て互いに回転方向が逆である一対の渦状磁気構造が形成されている。各渦状磁気構造の中心部と該渦状磁気構造の外部とで、磁気モーメントの向きが反平行である。渦状磁気構造対は、第1磁性層の一部にレーザ光を照射して局所的な加熱を行うステップと、第1磁性層の磁化方向と逆向きに外部磁場を印加し、第1磁性層の一部で磁気モーメントを反転させるステップとを経て製造される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。以下の説明では、必要に応じて特定の方向を示す用語(「上」、「下」など)を用いるが、これらは本発明の理解を容易にするために用いているのであって、本発明の範囲を限定する目的で用いていると理解するべきではない。なお、説明の都合上、図面に記載されたZ方向を上下方向と称し、+Z方向を上方向、−Z方向を下方向とする。また、図面に記載されたX方向とY方向は、互いに垂直な方向であって、Z方向に垂直な方向である。
【0018】
[実施形態1]
(磁気素子1の構成)
図1に示すように、磁気素子1は、第1磁性層10、第2磁性層20、および、第1磁性層10と第2磁性層20との間に設けられた非磁性層30を備える。第1磁性層10と第2磁性層20は、一軸異方性を有する強磁性体の薄膜であって、その磁化容易軸が膜面に対して垂直な方向を向いた垂直磁化膜である。第1磁性層10と第2磁性層20は、好ましくは、同じ厚さを有する。磁気素子1は、例えば絶縁基板の上に設けられている。
【0019】
第1磁性層10と第2磁性層20を構成する強磁性体の例は、TbFeCo(テルビウム鉄コバルト)、CoFeB(コバルト鉄ボロン)、CoPt(コバルト白金)、CoCrPt(コバルトクロム白金)、CoFeSi(コバルト鉄ケイ素)、MnSi(シリコマンガン)などの合金である。第1磁性層10と第2磁性層20を構成する強磁性体には、キュリー温度が周囲温度(例えば室温)より高い材料が用いられる。前記キュリー温度は、磁気素子1に電流を流したときに発生するジュール熱により第1磁性層10と第2磁性層20の温度が上昇しても、超えられない程度に高いことが好ましい。垂直磁化膜は、強磁性薄膜の格子構造を歪ませることで容易に作成できるので、第1磁性層10と第2磁性層20を構成する材料として、例示したものの他、多くの強磁性体を用いることができる。
【0020】
ここで、一般に、非磁性層を挟んで2つの強磁性層を設けた場合、非磁性層の厚さに応じて2つの強磁性層の結合の強さが変化する(例えば、S.S.P.Parkin, Phys, Rev. Lett 67, 3598(1991)を参照)。そして、2つの強磁性層は、非磁性層の厚さに応じて強磁性交換結合または反強磁性交換結合する。強磁性交換結合の場合、2つの強磁性層の磁気モーメントは互いに同じ方向を向き、反強磁性交換結合の場合、2つの強磁性層の磁気モーメントは互いに反対の方向を向く。
【0021】
非磁性層30は、第1磁性層10と第2磁性層20とが反強磁性交換結合する厚さを有する。非磁性層30の厚さは、例えば約2nm以下である。非磁性層30を構成する非磁性体または常磁性体は、好ましくは、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)などのスピン軌道相互作用が大きい金属である。
【0022】
第1磁性層10は、後述する渦状磁気構造11の部分を除いて、膜面に対して垂直な方向(以下、面直方向と称す)のうち下方向(−Z方向)に磁化されている。第2磁性層20は、後述する渦状磁気構造21の部分を除いて、面直方向のうち上方向(+Z方向)に磁化されている。
【0023】
第1磁性層10と第2磁性層20の磁化方向は、説明したものと逆であってもよい。すなわち、第1磁性層10が、後述する渦状磁気構造11の部分を除いて、面直方向のうち上方向(+Z方向)に磁化され、第2磁性層20が、後述する渦状磁気構造21の部分を除いて、面直方向のうち下方向(−Z方向)に磁化されていてもよい。このとき、渦状磁気構造11,21における磁化方向も上下逆になる。
【0024】
第1磁性層10には、渦状磁気構造11が形成されている。
図1、
図2に示すように、渦状磁気構造11では、中心部(コア)に位置する複数の原子(以下、原子群と称す)の磁気モーメント12が上方向(+Z方向)を向いている。前述の通り、渦状磁気構造11の外部における磁気モーメント13は下方向を向いている。このように、渦状磁気構造11の中心部と渦状磁気構造11の外部とで、磁気モーメントの向きは反平行である。
【0025】
本実施形態では、渦状磁気構造11の中心部に位置する原子群と外部における磁気モーメント13との間における磁気モーメント14は、面内成分を有する。また、磁気モーメント14は、渦状磁気構造11の外部から中心部に向かって渦を巻きながら倒れこみ、徐々に上向きの面直成分が増加している。ただし、磁気モーメント14の向きはこれに限定されない。
【0026】
第2磁性層20には、渦状磁気構造21が形成されている。
図1、
図3に示すように、渦状磁気構造21では、中心部(コア)における磁気モーメント22が下方向(−Z方向)を向いている。前述の通り、渦状磁気構造21の外部における磁気モーメント23は上方向を向いている。このように、渦状磁気構造21の中心部と渦状磁気構造21の外部とで、磁気モーメントの向きは反平行である。
【0027】
本実施形態では、渦状磁気構造21の中心部に位置する原子群と外部に位置する原子群との間における磁気モーメント24は、面内成分を有する。また、磁気モーメント24は、渦状磁気構造21の外部から中心部に向かって渦を巻きながら徐々に倒れこみ、徐々に下向きの面直成分が増加している。ただし、磁気モーメント24の向きはこれに限定されない。
【0028】
第1磁性層10と第2磁性層20に形成された一対の渦状磁気構造(以下、渦状磁気構造対と称す)11,21は、第1磁性層10側から見て(または第2磁性層20側から見て)互いに回転方向が逆向きである。
【0029】
渦状磁気構造対11,21は、第1磁性層10と第2磁性層20の厚さ方向(Z方向)に連続して形成されており、磁気バブルと同様に円筒状または円柱状の磁区構造(または磁壁)であると考えることができる。渦状磁気構造対11,21を構成する円筒または円柱の円の直径は、例えば約10nm以上約300nm以下であってもよい。前記直径を小さくすることにより、例えば、実施形態2で説明する磁気メモリの集積度を大きくすることができるという効果が得られる。渦状磁気構造11(渦状磁気構造21)のうち、第1磁性層10(第2磁性層20)の上面での円の直径と下面での円の直径とは、第1磁性層10(第2磁性層20)の厚さと材料、および、非磁性層30の厚さと材料に応じて異なりうる。
【0030】
なお、
図2、
図3に示している矢印は、1つの原子の磁気モーメントを示しているのではなく、原子群の磁気モーメントを示している。したがって、本明細書における「領域における磁気モーメント」という表現は、当該領域に含まれる原子群の磁気モーメントを意味する。また、
図2、
図3では、説明の都合上、一点鎖線の内部を渦状磁気構造11として画定しているが、例えば、磁気モーメントが実質的に面内成分を有しない領域を、「渦状磁気構造11の外部」として画定することができる。
【0031】
磁気素子1に形成された渦状磁気構造対11,21は、新規な磁気構造であり、従来の磁気構造(磁気バブルなど)と比べて、電流駆動により安定して高速で移動し、かつ、電流駆動による移動の閾値も小さい。この効果は、後述のシミュレーションにより確認されることになる。また、渦状磁気構造対11,21では、磁気素子1に電流が流れているときだけでなく、磁気素子1に電流が流れていないときにも安定している。
【0032】
(磁気素子1を製造する方法)
次に、磁気素子1を製造する方法を、
図4から
図8を用いて説明する。なお、
図5から
図8において、磁気モーメントが下向きの範囲を白抜きで示し、磁気モーメントが上向きの範囲にハッチングを付し、磁気モーメントが面内成分を有する範囲にドットを付している。前記方法は、これに限定されないが、例えば大気圧下、室温下で実施される。
【0033】
前記方法は、第1磁性層10、第2磁性層20および非磁性層30を備えた積層体40を準備するステップ101を含む(
図4を参照)。積層体40は、例えば絶縁基板の上に、蒸着などの方法により、第2磁性層20、非磁性層30および第1磁性層10を積層させて設けられる。
【0034】
前記方法は、第1磁性層10の面内の一部の領域15(
図5の点線の内部)にレーザ光50を照射するステップ102を含む。レーザ照射ステップ102により、領域15に含まれる原子群の温度が上昇する。レーザ光50の照射範囲(またはビーム径)は、第1磁性層10に形成する渦状磁気構造11の大きさに対応する。レーザ光50の照射パラメータ(レーザ光の波長、照射時間など)は、ステップ102で、領域15に位置する原子群が、強磁性体から常磁性体への転移温度であるキュリー温度より高い目標温度となるように設定される。キュリー温度が約140度であるTbFeCoの場合、前記目標温度は、例えば150度に設定される。このとき、第1磁性層10と第2磁性層20を構成する強磁性体のキュリー温度が低いほど、目標温度を低くでき、従って照射するレーザ光50のエネルギーを小さくできるという利点がある。領域15では、原子群の温度が上昇することで飽和磁化が低下し、他の領域16よりも小さい外部磁場で磁気モーメントを制御できるようになる。
【0035】
前記方法は、第1磁性層10の磁化方向(下方向、−Z方向)と逆方向(上方向、+Z方向)の外部磁場60を印加するステップ103を含む(
図6を参照)。外部磁場60の大きさは、温度が上昇している領域15における磁気モーメントが反転する程度に大きく、他の領域16の磁気モーメントが反転しない程度に小さい。磁場印加ステップ103により、領域15における磁気モーメントは外部磁場60と同じ上向きに反転し、他の領域16における磁気モーメントは外部磁場60と反対の下方向を向いたままとなる。また、領域15の外側の領域17における磁気モーメントは、面内成分を有するように傾斜する(面内で寝る)。なお、外部磁場60を印可し始めるタイミングは、レーザ光50を照射するステップ102より前であってもよい。磁場印加ステップ103は、例えば約10ナノ秒以下で終了する。
【0036】
図7に示すように、磁場印加ステップ103の後、磁気モーメントが面内成分を有する領域17の範囲が拡大する。これは、磁場印加ステップ103の後、領域17における磁気モーメントが第2磁性層20における磁気モーメントと反強磁性交換結合し、安定な状態へと推移するためである。これと同時に、第2磁性層20で領域17に対応する領域27における磁気モーメントが面内成分を有するようになる。
【0037】
図8に示すように、
図7に示す状態の後、第2磁性層20の領域27の内部にあって、第1磁性層10の領域15に対応する領域25における磁気モーメントが下向きに反転する。これは、
図7の状態で、既に第1磁性層10で安定した磁気構造に対して、第2磁性層20に形成された不安定な磁気構造が安定化しようとするからである。このようにして、第1磁性層10に渦状磁気構造11が形成され、第2磁性層20に、第1磁性層10側から見て(または第2磁性層20側から見て)渦状磁気構造11とは逆向きの渦状磁気構造21が形成される。中心部の領域15,25における磁気モーメントは、外部の領域16,26における磁気モーメントとそれぞれ反平行である。また、第1磁性層10の領域15,16における磁気モーメントは、第2磁性層の領域25,26における磁気モーメントと反平行である。
【0038】
ステップ103を開始して渦状磁気構造対11,21が形成されるまでの時間は、印加する外部磁場の大きさにも依存するが、例えば、約2ナノ秒以下とすることができる。このように、レーザ照射ステップ102と磁場印加ステップ103とにより、渦状磁気構造対が形成された磁気素子1を迅速かつ容易に得ることができる。
【0039】
(シミュレーション)
次に、実施形態1に係る磁気素子1の効果を確認するため、第1磁性層10と第2磁性層20を小さなセルで区切り、各セルについて、下記式(1)に示す磁気モーメントの運動方程式(ランダウ−リフシッツ−ギルバート方程式)を解くマイクロマグネティクスシミュレーションを行った。
【0041】
磁気素子1の実施例として、ストライプ形状を有する磁性細線を用いた。第1磁性層10と第2磁性層20は、厚さ5nmのTbFeCoであるとし、さらに、厚さ0nmの非磁性層30を導入した。言い換えると、第1磁性層10と第2磁性層20との間の距離を0とすると共に、非磁性層30の物質パラメータは取り入れず、第1磁性層10と第2磁性層20との交換エネルギーをパラメータとして取り入れた。セルサイズは、縦10nm×横10nm×厚さ5nmとした。
【0042】
前記式(1)において、mは磁化ベクトルである。また、γは電子の磁気回転比であり、その大きさは1.76・10
7rad/(s・Oe)である。
【0043】
前記式(1)において、H
effは、磁気モーメントが受ける有効磁場であり、各セルの磁化が作る磁場と異方性磁場との和である。異方性磁場は、最近接セル間の交換エネルギー、第1磁性層10と第2磁性層20との間の交換エネルギーから求まる交換場、および、垂直磁化の磁気異方性エネルギーから求められる(Japanese journal of applied physics vol.28, No.12, December, 1989, pp. 2485-2507の式(2)から式(4)を参照)。
【0044】
最近接セル間の交換エネルギーは、交換スティフネス定数Aを用いて計算される。交換スティフネス定数Aの大きさは、1.0×10−
7erg/cmとした。第1磁性層10と第2磁性層20との間の交換エネルギーは−A(=−1.0×10−
7erg/cm)とした。垂直磁化の磁気異方性エネルギーKuの大きさは、1.0×10
6erg/cm
3とした。
【0045】
前記式(1)において、M
Sは飽和磁化の大きさであり、αはダンピング定数である。TbFeCoの薄膜についての実験から得られている値として、ダンピング定数αを0.4とし、飽和磁化M
Sの値を400emu/cm
3とした。
【0046】
図9は、実施例の磁気素子と比較例の磁気素子にそれぞれ形成された磁気構造を、シミュレーションにより電流駆動したときの移動速度を比較したグラフである。グラフの横軸は時間(ns)を示し、縦軸は各磁気構造の変位量(nm)を示す。駆動電流の電流密度Jの大きさは、1.0×10
12(A/m
2)とした。グラフの実線は、実施例の磁気素子に形成された渦状磁気構造対11,21についての結果を示し、破線は、比較例1の磁気素子に形成された磁気バブルについての結果を示し、点線は、比較例2の磁気素子に形成された通常の磁壁についての結果を示す。比較例1,2の磁気素子は、実施例の磁気素子と同様に、磁気素子ストライプ形状を有する磁性細線である。
【0047】
比較例1の磁気素子は、TbFeCoの単層の垂直磁化膜を備える。磁気素子には、磁気バブルが形成されている。この磁気バブルは、TbFeCo層の面内の一部の領域にレーザ光を照射することにより、形成できる。比較例1では、シミュレーションのパラメータに、実施例と同じ値を用いた。
【0048】
比較例2の磁気素子は、TbFeCoの単層の垂直磁化膜を備える。磁気素子には、磁化方向の異なる複数の磁区が形成されている。この複数の磁区は、トンネル磁気抵抗効果素子を有する磁気センサに近接配置した記録ヘッドを用いて、TbFeCo層に電流磁場を発生させることにより、または、TbFeCo層を横切るように直線上にレーザ光を照射することにより、形成できる。比較例2では、シミュレーションのパラメータに、実施例と同じ値を用いた。
【0049】
実施例の磁気素子に形成された渦状磁気構造対、比較例1の磁気素子に形成された磁気バブル、および比較例2の磁気素子に形成された通常の磁壁について、平均移動速度(変位量(nm)/4ns)を求めたところ、それぞれ、70m/s、44m/sおよび20m/sであった。
【0050】
平均移動速度の結果から、電流駆動により、渦状磁気構造対11,21は、磁気バブルと通常の磁壁に比べて高速で移動することがわかる。また、実線(渦状磁気構造)は、破線(磁気バブル)および点線(磁壁)と比べて線形性が高い、または、より直線に近い。従って、渦状磁気構造対11,21は、磁気バブルと磁区と比べて、より一定の速度で移動することがわかる。
【0051】
図10は、実施例の磁気素子に形成された渦状磁気構造対11,21をシミュレーションにより電流駆動したときの速度を、駆動電流の電流密度に対してプロットしたグラフである。グラフの横軸は対数表示された電流密度J(A/m
2)を示し、縦軸は対数表示された移動速度v(m/s)を示す。グラフに示すように、移動速度は電流密度に対しておおよそ比例している。比例定数は、約70×10
-12である。
【0052】
磁気バブルと通常の磁壁の駆動電流には、約10
10A/m
2の閾値電流が存在し、閾値電流より小さい電流では動かないことが知られている。例えば、文献(Li et al., Current-Induced Domain Wall Motion in TbFeCo Wires With Perpendicular Magnetic Anisotropy, IEEE Transactions on Magnetics, Vol. 46, NO. 6, June 2010)では、単層のTbFeCoに形成された通常の磁壁を電流駆動したときの閾値電流が調べられている(
図4を参照)。
図4には、膜厚が小さいほど閾値電流が大きいことが示されており、膜厚が50nmのときに4.5×10
10A/m
2であり、膜厚が30nmのときに5.8×10
10A/m
2であることが示されている。
【0053】
これに対して、
図10からわかるように、実施例の磁気素子に形成された渦状磁気構造対では、対応する閾値電流が10
6A/m
2よりも小さい。このように、渦状磁気構造対は、小さい電流密度でも駆動可能である。
【0054】
図11は、比較例1の磁気素子の上に形成された磁気バブルをシミュレーションにより電流駆動したときの挙動を示す図である。
図11は、磁気バブルを上から見た図であり、磁気バブルは黒色で示されている。(a)に示すように当初ほぼ円形であった磁気バブルは、(b),(c)に示すように、時間の経過と共に、電流の流れる方向に伸びるように変形する。電流密度が大きいほど、変形量は大きくなる。このように、磁気バブルの形状は、電流駆動に対して安定しない。
【0055】
磁気バブルの形状が電流駆動に対して安定しないことは、実験でも確認されている。
図12は、比較例2と同じTbFeCo層の上に形成された磁気バブルを極カー効果顕微鏡により撮影した写真であり、
図13は、その磁気バブルを電流駆動したときの挙動を極カー効果顕微鏡により撮影した写真である。
図13に示すように、(a)に示すように当初はほぼ円形であった磁気バブルは、(b),(c),(d)に示すように、時間の経過と共に、電流の流れる方向に伸びるように変形している。
【0056】
図14は、実施例の磁気素子に形成された渦状磁気構造対をシミュレーションにより電流駆動したときの挙動を示す図である。
図14は、渦状磁気構造対を上から見た図であり、渦状磁気構造対は黒色で示されている。(a)に示すように当初ほぼ円形であった渦状磁気構造対は、(b),(c),(d),(e)に示すように、時間の経過と共に、ほぼ同じ形状を維持している。このように、渦状磁気構造の形状は、電流駆動に対して安定している。
【0057】
ここで、磁気素子に形成される磁気構造の安定性、および、電流駆動による移動速度は、シミュレーションで用いた各パラメータの値に応じて変化する。当業者であれば、磁気素子に備えられる1つまたは複数の磁性層を構成する材料、1つまたは複数の磁性層の厚さなどを調節することにより、所望の安定性と移動速度を達成できる。例えば、磁性層を構成する合金の組成を変更することにより、飽和磁化Ms、交換スティフネス定数Aおよび垂直磁化の磁気異方性エネルギーKuを変更することができる(例えば、IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, VOL. 41, NO. 10, OCTOBER 2005の表1には、TbFeCoに含まれるTbの割合と、飽和磁化Ms、交換スティフネス定数Aおよび垂直磁化の磁気異方性エネルギーKuとの関係が記載されている)。
【0058】
前記シミュレーションにより、従来の磁気構造(磁気バブルなど)と比べたときの渦状磁気構造対11,21の利点として、電流駆動により安定して高速で移動し、かつ、電流駆動による移動の閾値も小さいことが確認された。従って、このような利点を有する渦状磁気構造対11,21が形成された、本実施形態1に係る磁気素子1は、第2実施形態で説明する磁気メモリ装置だけでなく、例えば演算素子、乱数発生装置においても好適に利用される可能性がある。
【0059】
[実施形態2]
図15は、本発明の実施形態2に係る磁気メモリ装置200を示す斜視図である。
磁気メモリ装置200は、データ転送線220とデータ書込線230とを有する磁気素子(または磁気メモリ素子)210を備える。
図15は、既にデータが書き込まれた状態の磁気素子210を示している。磁気素子210は、実施形態1で説明した積層体40に相当し、すなわち、前記渦状磁気構造対が形成されていない磁気素子1に相当する。
図16などに示すように、磁気素子210のデータ転送線220は、第1磁性層225、第2磁性層226、および、第1磁性層225と第2磁性層226との間に設けられた非磁性層227を備える。これらの層225,226,227に対応して、磁気素子210のデータ書込線230は、それぞれ、第1磁性層234、第2磁性層235、および、第1磁性層234と第2磁性層235との間に設けられた非磁性層236を備える。磁気素子210は、積層体40における各層の蒸着とフォトリソグラフィとにより形成される。
【0060】
データ転送線220は、ストライプ形状を有する磁性細線であり、
図15ではX方向に延びている。
図15に示すX方向は、データ転送線220の長手方向である。符号241は、データ転送線220に形成された渦状磁気構造対を示す。データ転送線220は、複数のデータ領域221,222に区画されている。磁気素子210に
図15に示すようなデータが書き込まれた状態では、データ領域221には、渦状磁気構造対241が形成され、データ領域222には、渦状磁気構造対241が形成されていない。データ領域221,222は、一定の間隔で設けられている。後述するように、1つのデータ領域は、1ビットのデータに相当する。データ転送線220で、後述する磁気抵抗センサ270の先(
図15で磁気抵抗センサ270より右側)には、データ通過領域223が設けられている。
【0061】
データ転送線220は、第1磁性層225、第2磁性層226および非磁性層227の端面全体が、リード線を介してデータ転送電源224に接続されている。ただし、本実施形態1では、第1磁性層225、第2磁性層226および非磁性層227はすべて金属でできているので、第1磁性層225、第2磁性層226および非磁性層227のうち少なくとも1つがデータ転送電源224に接続されていれば、データ転送線220の全層を通電させることができる。データ転送電源224は、データ転送線220の両端部間に電圧を印加し、渦状磁気構造対241を電流駆動し、データ転送線220の上を移動させるデータ転送用駆動部として機能する。データ転送電源224は、磁気素子210を流れる電流の向きを反転させることができるように構成されている。
【0062】
データ書込線230は、データ転送線220に対して交差して(または直交して)設けられており、
図15ではY方向に延びている。
図15に示すY方向は、データ書込線230の長手方向である。
図16に示すように、データ書込線230の第1磁性層234、第2磁性層235および非磁性層236は、データ転送線220の第1磁性層225、第2磁性層226および非磁性層227とそれぞれ交わっている。符号242は、データ書込線230に形成された渦状磁気構造対を示す。データ書込線230は、第1磁性層234、第2磁性層235および非磁性層236の端面全体が、リード線を介してデータ書込電源233に接続されている。データ書込電源233は、データ書込線230の両端部間に電圧を印加し、渦状磁気構造対242を電流駆動し、データ書込線230の上を移動させるデータ書込用駆動部として機能する。
【0063】
前述の通り、渦状磁気構造対242は、磁気バブルなどを駆動できない約10
10A/m
2以下の低い電流密度で駆動可能である。データ転送電源224とデータ書込電源233は、例えば、約10
6A/m
2以上約10
10A/m
2以下の電流密度で電流を流す。これにより、渦状磁気構造対242を小さい電流密度で電流駆動しつつ、その移動速度を確保できる。
【0064】
データ書込線230の一端側には、渦状磁気構造対242が生成されるデータ生成領域231が位置し、データ書込線230の他端側には、渦状磁気構造対242が消去されるデータ消去領域232が位置する。
【0065】
磁気メモリ装置200は、データ書込線230のデータ生成領域231に設けられたレーザ光源250および磁場発生部260をさらに備える。レーザ光源250は、
図5を用いて説明したレーザ照射ステップ102で用いられ、積層体40に含まれる第1磁性層10の面内の領域15にレーザ光を照射して局所的に加熱する。磁場発生部260は、
図6を用いて説明した磁場印加ステップ103で用いられ、積層体40に外部磁場を印加する。このように、レーザ光源250および磁場発生部260は、データ転送線220にデータを書き込むための書込部として機能する。
【0066】
磁気メモリ装置200は、データ転送線220とデータ書込線230との交差点となるデータ領域に設けられた磁気抵抗センサ270をさらに備える。磁気抵抗センサ270は、TMR(トンネル磁気抵抗効果)素子271を用いた磁気センサである。TMR素子271は、
図16に示すように、強磁性体でできているピン層(固定層)272およびフリー層273と、ピン層272とフリー層273との間に設けられた、非磁性絶縁体薄膜であるトンネル絶縁膜274とを有する。フリー層273は、データ転送線220の第1磁性層225とデータ書込線230の第1磁性層234との交差領域により構成される。従って、フリー層273は、第1磁性層225,234と同じ材料でできている。ピン層272は、フリー層273と同じ材料でできていてもよい。トンネル絶縁膜274は、Al
2O
3(酸化アルミニウム)、MgO(酸化マグネシウム)など公知の材料でできていてよい。
【0067】
TMR素子271のピン層272とフリー層273には、図示しない電極が設けられている。TMR素子271は、この電極を介して、公知の読み出し回路に接続されている。磁気抵抗センサ270では、データ転送線220の上を渦状磁気構造対241が移動することによる磁化の変動が、TMR素子271の電気抵抗の変化として読み出される。具体的には、データ転送線220の上に渦状磁気構造対241が存在する場合には「1」(
図17)、存在しない場合(
図16)には「0」のように1ビットのデータとして読み出しが行われる。このように、磁気抵抗センサ270は、データ転送線220に書き込まれたデータを読み出すための読出部として機能する。
【0068】
本実施形態2では、磁気抵抗センサ270は、AMR(異方性磁気抵抗効果)素子を用いた磁気センサなど、他の磁気抵抗センサであってもよい。
【0069】
本実施形態2では、磁気抵抗センサ270のTMR素子271は、
図18に示すように、そのすべての層272,273,274が、データ転送線220とデータ書込線230との交差領域の上に設けられてもよい。ただし、
図16、
図17に示す、データ転送線220の第1磁性層225およびデータ書込線230の第1磁性層234が磁気抵抗センサ270のフリー層273を兼ねている構造では、
図18に示す構造に比べて製造効率が向上する。また、TMR素子271は、データ転送線220とデータ書込線230との交差領域に設けられる必要はなく、データ転送線220の上であればどの位置に設けられてもよい。
【0070】
本実施形態2では、TMR素子271を有する磁気抵抗センサ270の代わりに、例えば、ホール素子(ホールバーなど)を有するホールセンサが読出部として用いられてもよい。ただし、磁気抵抗センサ270を用いた場合、ホールセンサと比べて感度が高く、また応答速度も大きいので有利である。
【0071】
次に、
図15および
図19、
図20を用いて、磁気メモリ装置200の動作を説明する。
【0072】
データ転送線220にデータを書き込む場合、
図5から
図8を用いて説明した方法により、データ書込線230のデータ生成領域231に渦状磁気構造対242が発生する(
図15を参照)。発生した渦状磁気構造対242は、データ書込電源233を駆動することにより、
図19に示すように、データ書込線230の上をデータ転送線220に到達するまで長手方向(−Y方向に)移動する。これにより、データ転送線へ220のデータの書き込みが完了する。電流を加えない状態でも渦状磁気構造対242が安定していることから、書き込まれたデータは、電流駆動を停止しても消去されることがない(すなわち不揮発性である)。
【0073】
データ転送線220に書き込まれたデータを読み出す場合、データ転送電源224が駆動される。これにより、渦状磁気構造対241,242をデータ転送線220の上で長手方向(+X方向)に移動させる向きに磁場が発生する。データ転送線220の上を移動する渦状磁気構造対241,242は、磁気抵抗センサ270のTMR素子271の電気抵抗の変化として検出される。磁気抵抗センサ270の先まで移動した渦状磁気構造対241,242は、データ通過領域223に入る。データ通過領域223に入った渦状磁気構造対241,242を読み出す場合は、データ転送電源224による電流の方向を逆にすることにより、
図20に示す矢印とは逆方向(
図15では−X方向)に渦状磁気構造対241,242が移動し、磁気抵抗センサ270により検出される。
【0074】
データ転送線220に書き込まれたデータを消去する場合、データ転送電源224を駆動することにより、渦状磁気構造対241,242がデータ転送線220の上を移動し、データ書込線230との交差点に到達する。この状態で、データ転送電源224の作動が停止され、渦状磁気構造対242が、データ書込電源233の駆動により、データ書込線230の上を長手方向(−Y方向)に移動し、データ消去領域232に到達してリード線に衝突し、消去される。
【0075】
本実施形態2によれば、従来の磁気構造(磁気バブルなど)と比べて、電流駆動により安定して高速で移動し、かつ、電流駆動による移動の閾値も小さい渦状磁気構造対241,242が磁気素子210に形成されていることにより、従来技術よりも小さい消費電力で安定して動作する不揮発性のメモリ装置を得ることができる。また、データ転送電源224とデータ書込電源233が、例えば、約10
6A/m
2以上約10
10A/m
2以下の電流密度で電流を流して渦状磁気構造対241,242を電流駆動することにより、消費電力を小さくする効果を高めることができる。
【0076】
[実施形態3]
図21は、本発明の実施形態3に係る磁気メモリ装置300を示す図である。
磁気メモリ装置300は、データ転送線320とデータ書込線330とを有する磁気素子(または磁気メモリ素子)310を備える。
図21は、既にデータが書き込まれた状態の磁気素子310で示している。磁気素子310は、実施形態1で説明した積層体40に相当し、すなわち、前記渦状磁気構造対が形成されていない磁気素子1に相当する。
図22などに示すように、磁気素子310のデータ転送線320は、第1磁性層325、第2磁性層326、および、第1磁性層325と第2磁性層326との間に設けられた非磁性層327を備える。磁気素子310は、積層体40における各層の蒸着とフォトリソグラフィとにより形成される。
【0077】
データ転送線320は、平面視(
図21)でループ形状を有する磁性細線である。ただし、データ転送線320は、後述するデータ転送用駆動部380の位置では閉じられておらず、すなわち開ループ形状を有する。符号341は、データ転送線320に形成された渦状磁気構造対を示す。データ転送線320は、複数のデータ領域321,322に区画されている。磁気素子310に
図21に示すようなデータが書き込まれた状態では、データ領域321には、渦状磁気構造対341が形成され、データ領域322には、渦状磁気構造対341が形成されていない。データ領域321,322は、一定の間隔で設けられている。1つのデータ領域は、1ビットのデータに相当する。データ転送線320は、(
図21ではX方向に延びる)直線領域323と、円弧領域324とを有する。
図21に示すX方向は、直線領域323の長手方向である。円弧領域324で、データ領域は、内周側から外周側に向かって拡大する形状を有する。
【0078】
データ書込線330は、データ転送線320の直線領域323に、データ転送線320に対して交差して設けられており、
図21ではY方向に延びている。
図21に示すY方向は、データ書込線330の長手方向である。符号342は、データ書込線330に形成された渦状磁気構造対を示す。データ書込線330は、リード線を介してデータ書込電源333に接続されている。データ書込電源333は、データ書込線330の両端部間に電圧を印加し、渦状磁気構造対342を電流駆動し、データ書込線330の上を移動させるデータ書込用駆動部として機能する。
【0079】
データ書込線330の一端側には、渦状磁気構造対342が生成されるデータ生成領域331が位置し、データ書込線330の他端側には、渦状磁気構造対342が消去されるデータ消去領域332が位置する。
【0080】
磁気メモリ装置300は、実施形態2で説明したレーザ光源250および磁場発生部260をさらに備える。レーザ光源250および磁場発生部260の構成と動作については、実施形態2と同様であり、説明を省略する。磁気メモリ装置300は、データ転送線320の直線領域323に設けられた磁気抵抗センサ370をさらに備える。磁気抵抗センサ370は、実施形態2で説明した磁気抵抗センサ270と同じ構成を有するため、その構成と動作については説明を省略する。
【0081】
磁気メモリ装置300は、データ転送線320の直線領域323に設けられたデータ転送用駆動部380をさらに備える。データ転送用駆動部380は、絶縁積層体381、一対の電極382,383およびデータ転送電源384を有する。
【0082】
図22に示すように、開ループ形状を有するデータ転送線320の一端(第1端)328と他端(第2端)329は、長手方向(X方向)に距離を隔てて設けられている。絶縁積層体381は、データ転送線320の第1端328と第2端329との間を接続するように設けられている。絶縁積層体381は、絶縁層385,386,387を有する。絶縁層385,386は、MnZnフェライト((Mn,Zn)Fe
2O
4)などの強磁性絶縁体でできており、絶縁層387は、SiO
2(二酸化ケイ素)などの非磁性絶縁体または常磁性絶縁体でできている。ただし、絶縁層387が充分に薄ければ、絶縁層387が絶縁層385,386と同じ強磁性絶縁体でできていてもよい。
【0083】
一対の電極382,383は、データ転送線320の第1磁性層325と第2磁性層326とを挟んで絶縁積層体381の長手方向(X方向)の両端部に隣接して設けられている。一対の電極382,383は、データ転送線320の直線領域323の長手方向(X方向)に対して交差する幅方向(+Y方向)に延びている。図示していないが、データ転送線320の第1磁性層325、第2磁性層326および非磁性層327はすべて、磁気素子310のループの内側端面(+Y方向側端面)で、一対の電極382,383にそれぞれ接している。データ転送電源384は、一対の電極382,383に電気的に接続されており、一対の電極382,383の間に電圧を印加する。
【0084】
データ転送線320へのデータの書込みとデータ転送線320に書き込まれたデータの消去は、実施形態2で説明したデータ転送線220へのデータの書込みとデータ転送線220に書き込まれたデータの消去と同様に行われるため、説明を省略する。
【0085】
データ転送線320に書き込まれたデータを読み取る場合、データ転送電源384が駆動される。このとき、データ転送用駆動部380では、
図22に示すように、データ転送線320から電極382へ電流が流れ(矢印1001,1002)、電極383からデータ転送線320へ電流が流れる(矢印1003,1004)。このように、絶縁積層体381の周りを回るように電流が流れることにより、渦状磁気構造対341をデータ転送線320の上で移動させる向きに磁場が発生する。データ転送線320の上で移動する渦状磁気構造対341は、磁気抵抗センサ270により電圧変化として検出される。
【0086】
実施形態2では、データ転送線220を直線形状とすることにより、読出部(磁気抵抗センサ270)を通過した渦状磁気構造対241,242がデータ転送線220の端部でリード線に衝突して消えないように、データ通過領域223が設けられる。データ通過領域223は、データ転送線220に記憶させるデータ量に応じて長くなる。一方、本実施形態3では、データ転送線320をループ形状とすることにより、データ通過領域223に相当する領域を設ける必要がない。従って、本実施形態3に係る磁気メモリ装置300は、実施形態2に係る磁気メモリ装置200に比べて小型化できるという効果がある。
【0087】
次に、
図23から
図28を参照して、データ転送用駆動部の変形例を説明する。
図23から
図28に示す変形例では、データ転送用駆動部を構成する絶縁層と一対の電極とにのみ
図22と異なる符号を付しており、データ転送線にはいずれも同じ符号320を付している。また、一対の電極に電気的に接続されるデータ転送電源384は図示していない。
【0088】
図23と
図24に示す変形例では、データ転送線320が、データ転送用駆動部の位置で、上下方向(Z方向)にずれて且つ長手方向(X方向)に重なって(オーバラップして)設けられている。データ転送線320の一端と他端とは、絶縁層481により上下方向(Z方向)で接続されている。データ転送線320の一端(第1端)側の端面に電極482が、データ転送線320の他端(第2端)側の端面に電極483が設けられている。
【0089】
図23に示す変形例では、電極482はデータ転送線320の一端から上方向(+Z方向)に延び、電極483はデータ転送線320の他端から長手方向(+X方向)に延びている。データ転送電源384が駆動されると、データ転送線320から電極483へ電流が流れ(矢印1005,1006)、電極482からデータ転送線320へ電流が流れる(矢印1007)。
【0090】
図24に示す変形例では、電極482はデータ転送線320の一端から長手方向(−X方向)に延び、電極483はデータ転送線320の他端から幅方向(−Y方向)に延びている。データ転送電源384が駆動されると、データ転送線320から電極483へ電流が流れ(矢印1008,1009)、電極482からデータ転送線320へ電流が流れる(矢印1010)。
【0091】
図25と
図26に示す変形例では、
図22に示す例と同様に、データ転送用駆動部の位置で、データ転送線320の一端と他端とが長手方向(X方向)に距離を隔てて設けられている。データ転送線320の一端と他端とは、第2磁性層326の下面でデータ転送線320に沿って長手方向(X方向)に延びる絶縁層581により接続されている。
【0092】
図25に示す変形例では、データ転送線320の一端(第1端)側の端面に電極582が、データ転送線320の他端(第2端)側の端面に電極583が設けられている。電極582,583は、データ転送線320の一端、他端からそれぞれ上方向(+Z方向)に延びている。データ転送電源384が駆動されると、データ転送線320から電極582へ電流が流れ(矢印1011,1012)、電極583からデータ転送線320へ電流が流れる(矢印1013,1014)。
【0093】
図26に示す変形例では、データ転送線320の一端(第1端)側であって第1磁性層325の上に電極582が、データ転送線320の他端(第2端)側であって第1磁性層325の上に電極583が設けられている。電極582,583は、データ転送線320の第1磁性層325の上面からそれぞれ上方向(+Z方向)に延びている。データ転送電源384が駆動されると、データ転送線320から電極582へ電流が流れ(矢印1015,1016)、電極583からデータ転送線320へ電流が流れる(矢印1017,1018)。
【0094】
図27と
図28に示す変形例では、
図22に示す例と同様に、データ転送用駆動部の位置で、データ転送線320の一端(第1端)328と他端(第2端)329とが長手方向(X方向)に距離を隔てて設けられている。また、データ転送線320では、第2磁性層326は、第1磁性層325と非磁性層327に対して長手方向(X方向)に張り出して設けられている。データ転送線320の第1端328、第2端329は、第1磁性層325および非磁性層327の第1端328a、第2端329aと、第2磁性層326の第1端328b、第2端329bとを有する。第2磁性層326の第1端328b、第2端329bとの間には絶縁層681が設けられ、これによりデータ転送線320の第1端328と第2端329とが接続される。第1磁性層325および非磁性層327の第1端328a側端面と第2端329a側端面であって第2磁性層326の上面には、それぞれ電極682,683が設けられている。
【0095】
図27に示す変形例では、電極682は、第2磁性層326の上面から上方向(+Z方向)に延び、電極683は、第2磁性層326の上面から上方向(+Z方向)に延びている。データ転送電源384が駆動されると、データ転送線320から電極682へ電流が流れ(矢印1019,1020)、電極683からデータ転送線320へ電流が流れる(矢印1021)。
【0096】
図28に示す変形例では、電極682は、第2磁性層326の上面から幅方向(+Y方向)に延び、電極683は、第2磁性層326の上面から幅方向(+Y方向)に延びている。データ転送電源384が駆動されると、データ転送線320から電極682へ電流が流れ(矢印1022,1023)、電極683からデータ転送線320へ電流が流れる(矢印1024,1025)。
【0097】
図22から
図28に示したように、磁気メモリ装置300では、データ転送用駆動部が有する一対の電極を所望の形状、配置とすることができ、製品の設計に自由度が得られる。
【0098】
以上、実施形態により本発明を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されない。また、各実施形態に記載された特徴は、自由に組み合わせられてよい。また、前記実施形態には、種々の改良、設計上の変更および削除が加えられてよい。
【0099】
例えば、実施形態1に係る磁気素子1では、第1磁性層10と第2磁性層20との間に非磁性層30が設けられた三層膜構造を有する例を説明した。ここで、現在、非磁性層を設けず強磁性体と酸化物強磁性体の二層膜で反強磁性結合を作る研究が行われており、例えばFe/Fe
3O
4(鉄/四酸化三鉄)の二層膜が反強磁性結合することが確認されている。本発明には、このような二層膜構造を有する磁気素子が含まれると理解するべきである。