【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について説明する。
[セメント組成物]
本発明の実施形態に係るセメント組成物は、セメント組成物中のSO
3量が2.8〜3.5質量%であり、セメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が0.35〜1.3質量%であり、かつ、半水石膏の含有量がSO
3換算で1.5〜2.2質量%である。
【0015】
本発明の実施形態に係るセメント組成物は、水分と共に混練されてペースト状で施工されたり、骨材等と混合されてモルタル組成物又はコンクリート組成物を構成するものである。
セメントクリンカー中には、セメントクリンカー中の結晶中に固溶して存在する硫黄分(S分:SO
3換算)や、硫酸アルカリ金属塩(R
2SO
4:硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等)が存在している。セメントクリンカーの結晶中に固溶して存在する硫黄分のみを測定することは困難である。セメントクリンカーの結晶中に固溶して存在する硫黄分は、セメントクリンカー中の水溶性硫酸アルカリ金属塩のように流動性に影響を与えることは少ない。
セメントクリンカーの水溶性の硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3成分は、水との混練直後に、セメント組成物から溶出したカルシウムイオン(Ca
2+)と水溶性の硫酸アルカリ金属塩から生じた硫酸イオン(SO
42−)とが反応し、半水石膏(CaSO
4・0.5H
2O)を生じさせ、この半水石膏が更に水和して二水石膏(CaSO
4・2H
2O)を生じさせて、偽凝結による一時的なこわばりを生じさせ、セメント組成物の流動性を顕著に低下させることが知られていた。また、セメントクリンカー中の硫酸アルカリ金属塩から生じた硫酸イオン(SO
42−)は、エトリンガイト(3CaO・Al
2O
3・3CaSO
4・32H
2O)の生成を促進させ、比較的早期のセメント組成物の凝結(硬化)により、セメント組成物の流動性を低下させることも知られていた。
【0016】
本発明は、セメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩(R
2SO
4)に由来するSO
3成分に着目し、偽凝結等を生じさせるために流動性の低下を生じさせる原因の一つと考えられていたセメントクリンカー中の水溶性の硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3成分が、保存後のセメント組成物において石膏として機能し、セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量を考慮して、このSO
3量と、セメント組成物に添加される半水石膏量が特定量となるように制御することによって、保存状態に関わらずセメント組成物の流動性の低下を抑制するために有効であることを見出した。本発明のセメント組成物は、セメントクリンカー中に含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量を制御したセメントクリンカーを用いるとともに、このセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量を考慮して、セメント組成物に添加する半水石膏量を特定量に制御するので、セメント組成物と水との混練直後に半水石膏が二水石膏になることよって生じる一時的な偽凝結による流動性の低下の抑制にも有効である。
【0017】
本発明の実施形態に係るセメント組成物は、セメント組成物中のSO
3量が2.8〜3.5質量%であり、好ましくは2.80〜3.20質量%であり、更に好ましくは2.82〜3.00質量%であり、より更に好ましくは2.85〜2.99質量%である。
セメント組成物中のSO
3量が2.8質量%未満の場合には、セメント組成物中のSO
3量が少なすぎて、セメント組成物と水とを混練した際に、アルミネート相(C
3A)の急激な水和を緩和することができず、流動性が低下し、セメント組成物と水とを混練した混練物の型への充填性が低下し、空隙が多い状態で充填されるため、結果として得られた硬化物が目的とする強度を満たさない。
セメント組成物中のSO
3量が3.5質量%を超える場合には、セメント組成物に添加する石膏量が増加し、半水石膏の量が増加した場合には、セメント組成物と水とを混練した際のこわばりによる流動性の低下を抑制することができない。また、セメント組成物中のSO
3量が3.5質量%を超える場合には、セメント組成物に添加する石膏量が増加し、二水石膏の量が増加した場合には、保存中に高温環境下に晒された場合に二水石膏から脱水した水分によってセメント組成物が風化し、セメント組成物の劣化を抑制できない。
【0018】
保存前のセメント組成物中のSO
3量は、JIS R5204の「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠して測定することができる。本明細書において、セメン組成物中のSO
3量は、保存前後でほとんど変化しない。セメント組成物中のSO
3量は、SO
3換算の半水石膏、SO
3換算の二水石膏、セメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量、及びセメントクリンカーの結晶中に固溶して存在するSO
3換算の硫黄分の合計量として測定することができる。
【0019】
本発明の実施形態に係るセメント組成物は、セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が0.35〜1.30質量%である。セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量は、より好ましくは0.35〜1.00質量%、更に好ましくは0.35〜0.70質量%、より更に好ましくは0.40〜0.60質量%である。
セメントクリンカーに含まれる水溶性の硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が0.35質量%未満であると、石膏の役割を果たすセメントクリンカーに含まれる水溶性の硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が少なく、セメント組成物に添加する石膏配合量(二水石膏及び半水石膏の合計量)を多くする必要があり、セメント組成物中に添加する石膏配合量が多くなる一方で、半水石膏量を特定量にするために、二水石膏量が増加すると、保存中に二水石膏から脱水する水分によってセメント組成物が風化し、保存後のセメント組成物の流動性の低下を抑制することが困難となる。セメントクリンカーに含まれる水溶性の硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が0.35質量%未満であると、石膏の役割を果たすセメントクリンカーに含まれる水溶性の硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が少なく、セメント組成物に添加する石膏配合量を多くする必要があり、セメント組成物中に添加する石膏配合量が多くなるために、セメント組成物中の半水石膏量が増加すると、水とを混練した際に生じる偽凝結によるセメント組成物の流動性の低下を抑制できない。
また、セメントクリンカーに含まれる水溶性の硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が1.30質量%を超える場合は少ない。仮に、セメントクリンカーに含まれる水溶性の硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が1.30質量%を超えた場合は、硫酸アルカリ金属塩に由来する硫酸イオンが、保存後のセメント組成物において石膏として機能する役割よりも、硫酸アルカリ金属塩に由来するアルカリ金属塩が増量することによってアルカリ骨材反応等の不都合を生じる場合がある。
【0020】
セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量は、粉末X線回折装置(PANalytical社製、製品名:X’Pert
3 Powder)を用いて、X線回折測定を行って得られたセメント組成物のX線回折プロファイルを結晶構造解析ソフトウェア(PANalytical社製、製品名:X’Part High Score Plus version 2.1b)を用いて解析し、セメント組成物のX線回折プロファイルから硫酸アルカリ金属塩に由来するピークを同定し、このピークからセメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量を定量することができる。
【0021】
本発明の実施形態に係るセメント組成物は、半水石膏の含有量が、SO
3換算で1.5〜2.2質量%であり、好ましくはSO
3換算で1.6〜2.1質量%であり、より好ましくはSO
3換算で1.7〜2.1質量%である。
本発明の実施形態に係るセメント組成物は、セメント組成物中の半水石膏の含有量がSO
3換算で1.5質量%未満であると、セメント組成物中のSO
3量を満たすために二水石膏の含有量が増加し、保存中に高温環境下に晒された場合に二水石膏から脱水した水分によってセメント組成物が風化し、保存後の流動性の低下を抑制することができない。
セメント組成物中の半水石膏の含有量がSO
3換算で2.2質量%を超える場合には、セメント組成中に添加される半水石膏の含有量が増加し、水と反応して二水石膏を析出し、混練直後の偽凝結による流動性の低下を抑制できない。
本実施形態に係るセメント組成物は、セメント組成物中の半水石膏の含有量が、保存前においてもSO
3換算で1.5〜2.2質量%を満たすものであり、保存後においてもSO
3換算で1.5〜2.2質量%を満たすものである。
【0022】
セメント組成物中に含まれる半水石膏は、セメント組成物を形成する際に、セメントクリンカーと共に二水石膏の塊を混合粉砕し、粉砕熱によって二水石膏から水分子が失われ生成された半水石膏であってもよい。また、半水石膏は、二水石膏から生成された半水石膏と、もともと半水石膏であったものを混合して用いてもよい。
【0023】
セメント組成物中のSO
3換算の半水石膏の含有量は、保存前に含まれていた二水石膏が時間の経過により脱水して半水石膏に変化するため、保存前と保存後で変化する。
保存前のセメント組成物中のSO
3換算の半水石膏の含有量は、セメント組成物に添加されたSO
3換算の半水石膏の配合量である。
保存後のセメント組成物中のSO
3換算の半水石膏の含有量は、粉末X線回折装置(PANalytical社製、製品名:X’Pert
3 Powder)を用いて、X線回折測定を行って得られた保存後のセメント組成物のX線回折プロファイルを結晶構造解析ソフトウェア(PANalytical社製、製品名:X’Part High Score Plus version 2.1b)を用いて解析し、保存後のセメント組成物のX線回折プロファイルから半水石膏に起因するピークを同定し、このピークから保存後のセメント組成物中のSO
3換算の半水石膏量を定量することができる。
【0024】
本発明の実施形態に係るセメント組成物は、セメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量とSO
3換算の半水石膏の含有量との質量比(セメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量:セメント組成物に添加されるSO
3換算の半水石膏量(質量比))が1.0:1.1〜1.0:7.5であることが好ましい。より好ましくは、前記質量比が1.0:2.0〜1.0:7.2であり、さらに好ましくは1.0:2.8〜1.0:7.0である。セメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量とセメント組成物に添加されるSO
3換算の半水石膏量との質量比が前記範囲内であると、セメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量を考慮して、セメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量とセメント組成物に添加する半水石膏量が特定量となるように制御することによって、保存後においてもセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量を有効に利用して、流動性の低下を抑制することができる。
【0025】
本発明の実施形態に係るセメント組成物は、セメント組成物中のSO
3量が2.8〜3.5質量%であり、セメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が0.35〜1.3質量%であり、かつ、半水石膏の含有量がSO
3換算で1.5〜2.2質量%であり、さらにセメント組成物に添加されたSO
3換算の石膏配合量(半水石膏及び二水石膏の合計量)を差し引いたセメント組成物中のSO
3量が0.8〜1.2質量%であることが好ましい。本発明の実施形態に係るセメント組成物は、前記セメント組成物中のSO
3量のうち、セメント組成物に添加されたSO
3換算の石膏配合量を差し引いたセメント組成物中のSO
3量が、より好ましくは0.8〜1.0質量%であり、更に好ましくは0.82〜0.98質量%であり、より更に好ましくは0.84〜0.94質量%である。
セメント組成物中のセメント組成物に添加された石膏配合量を差し引いたセメント組成物中のSO
3量が0.8〜1.2質量%であると、セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が、保存後において十分に石膏の役割を果たす量が含まれることが想定され、保存後においてセメント組成物の流動性の低下を抑制できる。
【0026】
本発明の実施形態に係るセメント組成物は、ボーグ式で算出されるC
3Sが45〜75質量%、C
2Sが5〜30質量%、C
3Aが5〜15質量%、及びC
4AFが5〜15質量%であることが好ましい。
【0027】
「C
3S」は、化合物組成が3CaO・SiO
2から成り、エーライトと称される。「C
2S」は、化合物組成が2CaO・SiO
2から成り、ビーライトと称される。「C
3A」は、化合物組成が3CaO・Al
2O
3から成り、アルミネート相と称される。「C
4AF」は、化合物組成が4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3から成り、フェライト相と称される。
【0028】
「ボーグ式」とは、セメント組成物を構成する鉱物の鉱物量を求める式のことをいう。セメント組成物を構成する主な鉱物の鉱物量を求めるボーグ式を、式(1)〜(4)に示す。
C
3S=(4.07×CaO)−(7.60×SiO
2)−(6.72×Al
2O
3)−(1.43×Fe
2O
3+2.85×SO
3)・・・・・(1)
C
2S=(2.87×SiO
2)−(0.754×C
3S)・・・・・(2)
C
3A=(2.65×Al
2O
3)−(1.69×Fe
2O
3)・・・・・(3)
C
4AF=3.04×Fe
2O
3・・・・・(4)
前記式中のCaO、SiO
2、Al
2O
3、及びFe
2O
3は、それぞれ、セメント組成物におけるCaO、SiO
2、Al
2O
3、及びFe
2O
3の含有比率(質量%)である。これらの含有比率は、JIS R5202「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準拠して測定することができる。
【0029】
ボーグ式で算出されるC
3Sが45〜75質量%、C
2Sが5〜30質量%、C
3Aが5〜15質量%、及びC
4AFが5〜15質量%であると、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント及び超早強ポルトランドセメントを構成する鉱物組成に適合する。本発明のセメント組成物は、早強ポルトランドセメント及び/又は超早強ポルトランドセメントの鉱物組成を満たすセメント組成物であることが好ましい。早強ポルトランドセメント及び超早強ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメントよりも水分との反応性が高いため、保存中に高温環境下に晒された場合に二水石膏から脱水した水分によってセメント組成物が風化しやすいが、セメント組成物中のSO
3量のうちセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量とセメント組成物に添加される半水石膏量が特定量となるように制御することによって、保存状態に関わらず早強ポルトランドセメント又は超早強ポルトランドセメントを用いたセメント組成物であっても、流動性の低下を抑制することができる。
【0030】
セメント組成物が、早強ポルトランドセメントの場合は、ボーグ式で算出されるC
3Sが50〜70質量%であり、C
2Sが8〜25質量%であり、C
3Aが6〜14質量%であり、C
4AFが6〜14質量%であることがより好ましい。
【0031】
セメント組成物が、超早強ポルトランドセメントの場合は、ボーグ式で算出されるC
3Sが55〜65質量%であり、C
2Sが9〜20質量%であり、C
3Aが7〜12質量%であり、C
4AFが7〜10質量%であることが更に好ましい。
【0032】
本発明の実施形態に係るセメント組成物は、ブレーン比表面積が4000〜5000cm
2/gであることが好ましい。
本明細書において、セメント組成物のブレーン比表面積は、JIS R5201「セメントの物理試験方法」に準拠して測定することができる。
ブレーン比表面積が上記範囲であると、早強ポルトランドセメントや超早強ポルトランドセメントに要求されるブレーン比表面積を満たすことができる。
【0033】
[セメント組成物の製造方法]
次に、本発明のセメント組成物を得るための製造方法を説明する。
セメント組成物の製造方法は、セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が0.35〜1.3質量%となるように、原料を混合し、これらの原料を焼成してセメントクリンカーを製造する工程と、セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が0.35〜1.3質量%となるようにセメントクリンカーと、セメント組成物中のSO
3量が2.8〜3.5質量%となり、半水石膏の含有量がSO
3換算で1.5〜2.2質量%となるように石膏(二水石膏及び半水石膏を含む)を配合する工程とを含む、セメント組成物の製造方法である。
【0034】
本発明のセメント組成物を得るための製造方法として、セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が0.35〜1.3質量%となるようにするためには、原料に石膏、アルカリ金属酸化物を添加する方法や、燃料に硫黄を含有する硫黄含有分(オイルコークス)等を用いる方法が挙げられる。
原料に含まれるSO
3成分は、原料を焼成してセメントクリンカーを製造する際に、焼成中に一部が揮散することが知られており、揮散量を考慮して、目的とするSO
3量よりも2〜3割程度セメントクリンカー中の硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が多くなるように各原料を調合し、調合した原料を1200〜1500℃で焼成して、セメントクリンカーを製造する。また、原料に含まれるSO
3成分は、一部がセメントクリンカー中のシリケート相(エーライト、ビーライト)に固溶することも考えられる。セメントクリンカー中に固溶するSO
3量も考慮して、目的とするSO
3量よりも2〜3割程度セメントクリンカー中の硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が多くなるように各原料を調合し、調合した原料を前記温度で焼成してセメントクリンカーを製造することが好ましい。
具体的には製造したセメントクリンカーを分析し、セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が0.35〜1.3質量%となるセメントクリンカーに基づき、原料の配合を調整して、セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が0.35〜1.3質量%となるようにしたセメントクリンカーを製造することができる。
【0035】
セメント組成物の製造方法において、セメント組成物に添加する半水石膏の添加量は、セメント組成物の全量に対して、好ましくはSO
3換算で1.5〜2.2質量%であり、より好ましくはSO
3換算で1.6〜2.1質量%であり、さらに好ましくはSO
3換算で1.7〜2.1質量%である。また、セメント組成物の製造方法において、セメント組成物に添加する二水石膏の添加量は、セメント組成物の全量に対して、好ましくはSO
3換算で0〜0.7質量%であり、より好ましくはSO
3換算で0.1〜0.6質量%である。
セメント組成物に添加する半水石膏の添加量がSO
3換算で1.5〜2.2質量%であると、セメント組成物中のSO
3量を満たすために添加する二水石膏の含有量を少なくすることができ、セメント組成物中に含まれている二水石膏量が少ないため、保存中に高温環境下にセメント組成物が晒された場合であっても、二水石膏から脱水した水分が少なく、二水石膏から脱水した水分によるセメント組成物の風化を抑制し、保存後の流動性の低下を抑制することができる。また、セメント組成物に添加する半水石膏の添加量がSO
3換算で2.2質量%以下であると、混練直後に二水石膏となる半水石膏の割合が少なく、偽凝結による流動性の低下を抑制することができる。
【0036】
セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が0.35〜1.3質量%となるようにしたセメントクリンカーと、セメント組成物中のSO
3量が2.8〜3.5質量%となり、SO
3換算の半水石膏の含有量が1.5〜2.2質量%となるように、セメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量を考慮して、二水石膏及び/又は半水石膏を添加し、粉砕機でブレーン比表面積が4000〜5000cm
2/gとなるように粉砕して、セメント組成物を製造することができる。セメント組成物中に含まれるセメントクリンカーの含有量(質量%)は、セメント組成物中に含まれる石膏(二水石膏及び半水石膏の合計量)差し引いた値にほぼ等しい。セメント組成物中のセメントクリンカーの量は、好ましくは92.0質量%以上、より好ましくは93.0質量%以上、更に好ましくは94.0質量%以上、好ましくは97.0質量%以下である。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例により、詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0038】
(実施例及び比較例のセメント組成物の作製)
以下のようにして、実施例及び比較例のセメント組成物を作製した。
【0039】
[セメントクリンカーの作製]
セメントクリンカーの原料として、炭酸カルシウム(キシダ化学株式会社製、試薬1級、CaCO
3)、二酸化珪素(キシダ化学株式会社製、試薬1級、SiO
2)、酸化アルミニウム(関東化学株式会社製、試薬1級、Al
2O
3)、酸化鉄(III)(関東化学株式会社製、試薬特級、Fe
2O
3)、塩基性炭酸マグネシウム(キシダ化学株式会社製、試薬特級、4MgCO
3・Mg(OH)
2・5H
2O)、炭酸ナトリウム(キシダ化学株式会社製、無水・特級、Na
2CO
3)、炭酸カリウム(和光純薬工業株式会社製、特級、K
2CO
3)、硫酸カルシウム二水和物(キシダ化学株式会社製、試薬1級、CaSO
4・2H
2O)を用いた。
これらの各原料を下記表1に示す配合で混合した。これらのセメントクリンカーの原料を、電気炉に投入して1000℃で30分間の焼成を行った後、1000℃から1450℃まで30分間かけて昇温させ、さらに1450℃で15分間の焼成を行った後、焼成物を急冷して、各実施例、比較例に用いたセメントクリンカーを作製した。実施例に用いたセメントクリンカーは、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、炭酸カリウム(K
2CO
3)及び硫酸カルシウム二水和物(CaSO
4・2H
2O)の量を調整して、各セメントクリンカー原料を調合し、表1に示すように、セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が0.35〜1.3質量%となるように原料を配合した。
【0040】
【表1】
【0041】
[セメント組成物の作製]
得られたセメントクリンカーに内割りで、各実施例及び比較例について、表3に示す量となるように、硫酸カルシウム二水和物(キシダ化学株式会社製、試薬1級、CaSO
4・2H
2O)、半水石膏(関東化学株式会社製半水石膏、型番:07108−01(焼石膏、鹿1級)を配合した。そして、配合物を、ブレーン比表面積が4000〜5000cm
2/gとなるようにボールミルで粉砕し、各実施例及び比較例のセメント組成物を作製した。
【0042】
(セメント組成物の分析)
実施例及び比較例のセメント組成物について、以下の測定方法によって、ボーク式による鉱物組成と、ブレーン比表面積とを測定し、セメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量を算出した。結果を表2に示す。
【0043】
(i)ボーグ式による鉱物組成
鉱物組成は、セメント組成物の化学成分の数値に基づき、下記のボーグ式により求めた。
C
3S=(4.07×CaO)−(7.60×SiO
2)−(6.72×Al
2O
3)−(1.43×Fe
2O
3+2.85×SO
3)・・・・・(1)
C
2S=(2.87×SiO
2)−(0.754×C
3S)・・・・・(2)
C
3A=(2.65×Al
2O
3)−(1.69×Fe
2O
3)・・・・・(3)
C
4AF=3.04×Fe
2O
3・・・・・(4)
(ii)ブレーン比表面積の測定
JIS R5201:2015「セメントの物理試験方法」に準拠して測定した。
【0044】
(iii)セメント組成物中のSO
3量
セメント組成物中の全SO
3量は、保存前後においてほとんど変化しない。セメント組成物中の全SO
3量は、JIS R5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠して測定した。
【0045】
(iv)粉末X線回折装置を用いたSO
3量の測定
セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量、保存後のセメント組成物中のSO
3換算の半水石膏の含有量は、粉末X線回折装置(PANalytical社製、製品名:X’Pert
3 Powder)を用いた。
測定条件
測定範囲:2θ:10°〜70°
ステップサイズ:0.017°
スキャンスピード:0.1012°/秒
出力設定:45kV、40mA
管球:Cu
(iv−a)セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量
セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量は、保存前後においてほとんど変化しない。セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量は、粉末X線回折装置(PANalytical社製、製品名:X’Pert
3 Powder)を用いて、X線回折測定を行って得られたセメント組成物のX線回折プロファイルを結晶構造解析ソフトウェア(PANalytical社製、製品名:X’Part High Score Plus version 2.1b)を用いて解析し、セメント組成物のX線回折プロファイルから硫酸アルカリ金属塩に由来するピークを同定し、このピークからセメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量を定量した。
(iv−b)保存後のセメント組成物中のSO
3換算の半水石膏の含有量
保存後のセメント組成物中のSO
3換算の半水石膏の含有量は、前記粉末X線回折装置を用いて得られた保存後のセメント組成物のX線回折プロファイルから、前記結晶構造解析ソフトウェアを用いて保存後のセメント組成物中の半水石膏のピークを同定し、このピークから保存後のセメント組成物に含まれるSO
3換算の半水石膏の含有量を定量した。
【0046】
図1は、粉末X線回折装置を用いて測定したセメント組成物中のX線回折プロファイルの一例を示す。
図1中、(a)は実施例1の保存前のセメント組成物のX線回折プロファイルの一例を示し、(b)は半水石膏単体のX線回折プロファイル示し、(c)は二水石膏単体のX線回折プロファイルを示す。例えば、
図1(a)に示すように、セメント組成物のX線回折プロファイルからは、半水石膏に由来する回折ピークAと、二水石膏に由来する回折ピークBを確認することができる。
図1(a)のセメント組成物のX線回折プロファイルにおける回折ピークAは、
図1(b)に示すように半水石膏に特徴的なピークである。
図1(a)のセメント組成物のX線回折プロファイルにおける回折ピークBは、
図1(c)に示すように二水石膏に特徴的なピークである。セメント組成物のSO
3量のX線回折プロファイルから、半水石膏由来のSO
3量、及び二水石膏由来のSO
3量の定量が可能である。またセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するX線回折プロファイルは図示を省略したが、セメント組成物中のX線回折プロファイルから、セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来する回折ピークを測定し、セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量を測定することが可能である。また、セメント組成物のX線回折プロファイルに基づき、SO
3換算の半水石膏の量、SO
3換算の二水石膏の量、及びセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量を測定することができる。
【0047】
(v)SO
3量の換算
粉末X線回折装置を使用したSO
3量の測定以外に、以下のように換算して各SO
3量を算出した。
(v−a)石膏配合量
セメント組成物に添加した石膏の量(二水石膏の量及び半水石膏の量)を、セメント組成物中の石膏配合量(質量%)とした。
(v−b)石膏配合量を差し引いたセメント組成物中のSO
3量
X線粉末回折装置を使用して測定したセメント組成物中のSO
3量からセメント組成物に添加した石膏配合量を差し引いた数値を、石膏配合量を差し引いたセメント組成物中のSO
3量とした。
(v−c)保存前のセメント組成物中のSO
3換算の半水石膏の含有量
セメント組成物に添加したSO
3換算の半水石膏の配合量を、保存前のセメント組成物中のSO
3換算の半水石膏の含有量とした。
(v−d)保存前のセメント組成物中のSO
3換算の二水石膏の含有量
セメント組成物に添加したSO
3換算の二水石膏の配合量を、保存前のセメント組成物中のSO
3換算の二水石膏の含有量とした。
(v−e)保存後のセメント組成物中のSO
3換算の二水石膏の含有量
前記粉末X線回折装置及び前記結晶構造解析ソフトウェアを用いて得られた保存後のセメント組成物に含まれるSO
3換算の半水石膏量を、セメント組成物に添加した石膏配合量(二水石膏及び半水石膏)から差し引き、保存後のセメント組成物中のSO
3換算の二水石膏の含有量とした。
【0048】
(vi)半水化率
保存前後において、下記式によって半水化率を算出した。石膏配合量は、SO
3換算の半水石膏の含有量及びSO
3換算の二水石膏の含有量である。
半水化率=SO
3換算の半水石膏の含有量/石膏配合量
【0049】
【表2】
【0050】
(セメント組成物の保存試験)
実施例1〜6及び比較例1〜5のセメント組成物について、セメント組成物2kgをポリピロピレン容器に入れて、乾燥機(アドバンテック社製、送風定温乾燥機:FC−610)の温度を60℃、70℃、80℃の各温度に設定し、この乾燥機内に、表3に示す保存状態(温度、湿度、保存期間)でセメント組成物を保存した。保存前後の二水石膏量(SO
3換算)及び半水石膏量(SO
3換算)を前述の方法によって算出又は測定し、流動性を下記の方法によって評価した。評価結果を表3に記載した。
【0051】
(A)セメント組成物の保存
実施例1〜6及び比較例1〜5のセメント組成物2kgをポリピロピレン容器に入れて密封し、乾燥機(アドバンテック社製、送風定温乾燥機:FC−610)の温度を60℃、70℃、80℃の各温度に設定し、この乾燥機内に、相対湿度40%で、表3に示す保存状態(温度、保存期間)で保存した。保存期間終了後、セメント組成物を乾燥機から取り出した。保存前及び保存後のセメント組成物の流動性を以下の流動性の評価の手順に従って、降下距離(mm)の測定を行い、流動性を評価した。結果を表3に示す。
【0052】
(B)流動性の評価
(B−a)セメント組成物の標準軟度水量の測定
JIS R5201「セメントの物理試験」の「9.凝結試験」に準拠して、セメント組成物の標準軟度水量を求めた。
(B−b)セメントペーストの作製
セメント組成物と、標準軟度水量の水と、混和剤(BASFポゾリス社製、製品番号15S)を混練し、セメントペーストを得た。混和剤は、セメント組成物に対して1質量%加えた。
(B−c)流動性の評価
JIS R5201「セメントの物理試験」の「8.凝結試験」で使用する装置(ビガー針装置及びセメントペースト容器)を用いた。
まず、セメントペーストは、ビガー針装置のセメントペースト容器に流し込み、容器内のセメントペーストの上面を略水平な状態とした。次に、セメントペーストを収容したセメントペースト容器は、ビガー針装置の標準棒の下方に配置した。その後、ビガー針装置の標準棒をセメントペーストの上面に接触させ、この状態から標準棒の自重によって、標準棒をセメントペースト中に降下させ、標準棒がセメントペースト中に降下し始めてから30秒経過した後に、セメントペーストの上面からセメントペースト中に降下した標準棒の降下距離を測定した。
標準棒の降下距離の測定は、混練した直後のセメントペーストをセメントペースト容器内に流し込んだ直後を0分とし、0分後、5分後、10分後の各時間において、各セメントペーストに対して測定した。
(B−d)流動性の評価基準
標準棒の降下距離が15mm未満の場合は、流動性が低下していると評価し、「×」と表した。
標準棒の降下距離が15mm以上の場合は、流動性の低下が抑制されていると評価し、「○」と表した。
【0053】
(C)保存前後のセメント組成物中のig.loss量
JIS R5202:2010「セメント組成物の化学成分の測定」に準拠して測定した。
【0054】
【表3】
【0055】
表3に示すように、実施例1〜6のセメント組成物は、セメント組成物中のSO
3量が2.8〜3.5質量%であり、セメントクリンカー中の硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が0.35〜1.3質量%であり、半水石膏の含有量がSO
3換算で1.5〜2.2質量%であることから、セメントクリンカー中の硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3成分が石膏として機能し、保存後のセメント組成物においても流動性の低下が抑制されていた。保存試験は、セメント組成物をポリプロピレン容器に入れて密封した状態で行なったため、保存前後でig.loss量の変化はほとんどなかった。表3に示すように、実施例1〜6のセメント組成物は、半水石膏の含有量がSO
3換算で1.5〜2.2質量%であれば、保存前の状態においても、偽凝結による一時的なこわばりは発生し難いことが確認できた。
【0056】
表3に示すように、実施例1〜6のセメント組成物は、セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量を考慮して、セメント組成物中のSO
3量が2.8〜3.5質量%であり、セメント組成物に添加される石膏配合量のうち、半水石膏量が1.5〜2.2質量%であるため、セメント組成物に含まれる二水石膏の量を低減できる。二水石膏量が低減できるので、保存中にセメント組成物中に含まれる二水石膏から水分子が脱水して、この水分によってセメント組成物が風化することを抑制し、セメントの風化を起因とする保存後の流動性の低下を抑制することができる。
【0057】
表3に示すように、比較例1〜3のセメント組成物は、セメント組成物中のSO
3量は、実施例1〜6と数値的に大きく変わらないが、セメントクリンカー中に含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が少ないため、石膏の配合量が実施例と比べて多くなり、石膏の配合量の増大に伴い、二水石膏の配合量(セメント組成物中に含まれるSO
3換算の二水石膏の含有量)が増加するため、60℃〜80℃の比較的高温で保存する間にセメント組成物中に含まれる二水石膏から水分子が脱水し、この水分によってセメント組成物が風化し、保存後の流動性が低下した。
比較例4のセメント組成物は、セメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が0.29質量%と少ないため、SO
3換算の石膏の配合量が2.40質量%と多く、石膏配合量の増大に伴って、セメント組成物中のSO
3換算の二水石膏の含有量も1.10質量%と多く、保存中に二水石膏から水分子が脱水し、この水分によってセメント組成物が風化し、保存後の流動性が低下した。
比較例5のセメント組成物は、セメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO
3量が0.20質量%と少ないため、保存後に石膏として機能するSO
3量が十分ではなく、保存後のセメント組成物の流動性が低下した。