【課題】紫外線に対する耐久性に優れる塗膜を形成することができる無機粒子分散液、無機粒子含有組成物、およびこの無機粒子含有組成物を用いて形成した塗膜、塗膜付きプラスチック基材、並びに表示装置を提供する。
【解決手段】本発明の無機粒子分散液は、分散剤により表面処理された無機粒子と、溶媒と、を含有する無機粒子分散液であって、前記分散剤が、加水分解性基と(メタ)アクリロイル基を有し、かつ、ウレタン結合を有するシランカップリング剤である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の無機粒子分散液、無機粒子含有組成物、塗膜、塗膜付きプラスチック基材、および表示装置の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0020】
なお、本発明における「紫外線に対する耐久性」とは、塗膜付きプラスチックフィルムに1900mJ/cm
2の紫外線を照射した場合に、日本工業規格:JIS−K−5600−5−6「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法)」に基づき密着性の評価をした場合において、塗膜がプラスチック基材より剥がれないことを意味する。
【0021】
[無機粒子分散液]
本実施形態の無機粒子分散液は、分散剤により表面処理された無機粒子と、溶媒と、を含有する分散液であって、前記分散剤が、加水分解性基と(メタ)アクリロイル基を有し、かつ、ウレタン結合を有するシランカップリング剤である。
【0022】
本実施形態の無機粒子分散液において、粒度分布の累積体積百分率が90%のときの粒径(D90)を、粒度分布の累積体積百分率が50%のときの粒径(D50)で除した値が、1以上かつ4以下であることが好ましく、1以上かつ3以下であることがより好ましく、1以上かつ2以下であることがさらに好ましい。
ここで、粒度分布とは、無機粒子分散液に含まれる無機粒子の粒度分布のことである。
粒度分布の累積体積百分率が90%のときの粒径(D90)を、粒度分布の累積体積百分率が50%のときの粒径(D50)で除した値を、上記の範囲内とすることにより、溶媒中に均一に無機粒子を分散させることが可能となる。このため、本実施形態の無機粒子分散液を含む無機粒子含有組成物を用いて形成された塗膜内における無機粒子の特性分布を均一にすることができる。これにより、その塗膜において、干渉縞といった色ムラ等を低減することが可能となる。また、粗大粒子が低減されるため、本実施形態の無機粒子分散液を含む無機粒子含有組成物の塗工時の異物発生を抑制できるといった効果もある。
【0023】
なお、本実施形態におけるD50とD90は、動的光散乱方式を測定原理とする粒度分布計(商品名:マイクロトラックUPA150、日機装社製)で測定した値を意味する。
【0024】
本実施形態の無機粒子分散液におけるD50は、無機粒子分散液の透明性向上の観点から、1nm以上かつ45nm以下であることが好ましく、1nm以上かつ20nm以下であることがより好ましい。
【0025】
「無機粒子」
本実施形態における無機粒子は、特に限定されず、所望の特性に応じて適宜選択される。本実施形態における無機粒子としては、例えば、ジルコニウム、亜鉛、鉄、銅、チタン、スズ、セリウム、タンタル、ニオブ、タングステン、ユーロピウム、ケイ素およびハフニウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む無機粒子が好適に用いられる。また、これらの無機粒子の酸化物がより好適に用いられる。
【0026】
1種の金属元素からなる無機酸化物粒子としては、例えば、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO
2)、酸化亜鉛(II)(ZnO)、酸化鉄(III)(Fe
2O
3)、酸化銅(I)(Cu
2O)、酸化チタン(IV)(TiO
2)、酸化錫(IV)(SnO
2)、酸化セリウム(IV)(CeO
2)、酸化タンタル(V)(Ta
2O
5)、酸化ニオブ(V)(Nb
2O
5)、酸化タングステン(VI)(WO
3)、酸化ユーロピウム(III)(Eu
2O
3)、シリカ(酸化ケイ素)(IV)(SiO
2)、酸化ハフニウム(IV)(HfO
2)等が好適に用いられる。
【0027】
2種の金属元素からなる無機酸化物粒子としては、例えば、チタン酸カリウム(K
2Ti
6O
13)、チタン酸バリウム(BaTiO
3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)、ニオブ酸カリウム(KNbO
3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)、タングステン酸カルシウム(CaWO
4)、アンチモン添加酸化スズ(ATO;Sb固溶SnO
2)、インジウム添加酸化スズ(ITO;In固溶SnO
2)等が好適に用いられる。
【0028】
これらの無機酸化物粒子の中でも、原材料費や製造コストの点から、酸化ジルコニウム(IV)、酸化亜鉛(II)、酸化チタン(IV)、アンチモン添加酸化錫(ATO)、インジウム添加酸化スズ(ITO)、シリカ(IV)がより好適に用いられる。
【0029】
本実施形態の無機粒子分散液中の無機粒子の含有量は、所望の特性に応じて、適宜調整される。例えば、本実施形態の無機粒子分散液全体に対して、無機粒子の含有量は、10質量%以上かつ60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上かつ50質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上かつ50質量%以下であることがさらに好ましい。
本実施形態の無機粒子分散液中の無機粒子の含有量が、上記範囲であることにより、本実施形態の無機粒子分散液を含む無機粒子含有組成物を用いて形成された塗膜に無機粒子の特性が得られやすく、また分散液の粘度が、取り扱いが容易な程度となるため好ましい。
【0030】
無機粒子の平均一次粒子径は、特に限定されず、所望の特性に応じて、適宜調整される。本実施形態の無機粒子分散液が透明性を必要とする用途に用いられる場合、無機粒子の平均一次粒子径は3nm以上かつ40nm以下であることが好ましく、10nm以上かつ30nm以下であることがより好ましく、10nm以上かつ25nm以下であることがさらに好ましい。
無機粒子の平均一次粒子径が3nm以上であれば、溶媒に無機粒子を分散したときに、無機粒子が凝集し難くなるため、透明性の高い分散液が得られる。また、無機粒子の比表面積が小さくなるため、分散液を得るために必要な分散剤量が少なくなるため好ましい。一方、無機粒子の平均一次粒子径が40nm以下であれば、溶媒に無機粒子を分散したときの分散粒径が小さくなり、透明性の高い分散液が得られる。
【0031】
本実施形態において、「平均一次粒子径」とは、個々の粒子そのものの粒子径を意味する。平均一次粒子径の測定方法としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等を用いて、無機粒子それぞれの長径、例えば、100個以上の無機粒子それぞれの長径、好ましくは500個の無機粒子それぞれの長径を測定し、その算術平均値を算出する方法が挙げられる。
【0032】
「分散剤」
本実施形態における分散剤は、加水分解性基と(メタ)アクリロイル基を有し、かつ、ウレタン結合を有するシランカップリング剤である。このような分散剤で表面処理された無機粒子は、紫外線に対する耐久性(耐光性)に優れる。
本実施形態における分散剤による無機粒子の表面処理とは、本実施形態における分散剤と無機粒子とが何らかの相互作用をして、互いに結合していればよい。共有結合により結合していてもよいし、物理吸着等の非共有結合により結合していてもよい。また、無機粒子について、予め加水分解を行い、一部または全部の加水分解を進行させた後、本実施形態の分散剤によって、無機粒子を表面処理してもよい。
加水分解性基とは、加水分解されて無機粒子の表面に結合できる基を意味する。加水生分解性基としては、アルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基であることがより好ましい。
【0033】
本実施形態における分散剤の分子量は、所望の分散性と耐光性が得られるように適宜調整されるが、230以上かつ550以下であることが好ましく、260以上かつ500以下であることがより好ましく、300以上かつ450以下であることがさらに好ましい。
本実施形態における分散剤の分子量が上記範囲であることにより、分散性に優れ、耐光性に優れる表面処理無機粒子を得ることができる。
【0034】
本実施形態における分散剤で表面処理されることにより、無機粒子が耐紫外線性に優れるものとなる理由の詳細は不明であるが、例えば、次のように考えられる。
ウレタン結合と(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤を作製すると、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシランと比較して、必然的に長鎖(分子量が大きい)のシランカップリング剤となる。また、ウレタン結合は、分子構造に靱性を付与することができる。そのため、このような長鎖のウレタン結合を有するシランカップリング剤を用いることで、塗膜硬化時の膜収縮が緩和され、柔軟な膜になりやすい。その結果として、塗膜において、紫外線による密着性等の特性劣化が起きにくいと推定される。また、上述のように、加水分解性基が無機粒子の表面に結合することにより、分散剤が無機粒子の表面に安定に存在し、前述のような効果が発揮されやすくなる。
【0035】
本実施形態における分散剤は、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤であることが好ましい。
(RO)
3−Si−X
o−NHCOO−X
p−Y
q−X
r−O−Z・・・(1)
(但し、Rは水素原子またはアルキル基、Xは直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、Yは環状のアルキル基、Zは(メタ)アクリロイル基、oとpは1以上の整数、qとrは0以上の整数である。)
【0036】
上記一般式(1)におけるRは、水素原子または炭素原子数1〜22のアルキル基であることが好ましい。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状および環状のいずれでもよい。アルキル基が環状である場合、単環状および多環状のいずれでもよい。そして、アルキル基は、炭素原子数が1〜22であることが好ましいが、後述する溶媒への親和性がより高い化合物とするためには、炭素原子数が1以上かつ6以下であることがより好ましい。
【0037】
直鎖状または分岐鎖状のアルキル基であるXは、炭素原子数が1〜22であることが好ましく、このようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、n−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2,2−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、3,3−ジメチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2,2,3−トリメチルブチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基等が挙げられる。
直鎖状または分岐鎖状のアルキル基は、後述する溶媒への親和性の観点からは、炭素原子数が1以上かつ6以下であることがより好ましい。
Xは直鎖状のアルキル基であることが好ましい。
【0038】
環状のアルキル基であるYは、炭素原子数が3〜22であることが好ましく、炭素原子数が3〜10であることがより好ましい。このような環状のアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基等が挙げられる。さらに、アルキル基としては、これら環状のアルキル基の1個以上の水素原子が、直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基で置換されたもの等が挙げられる。
環状のアルキル基は、後述する溶媒への親和性の観点からは、炭素原子数が3以上かつ6以下であることがさらに好ましい。
【0039】
oは特に限定されないが、例えば、1〜22のものを好適に用いることができ、1〜5のものをより好適に使用することができ、1〜3のものをさらに好適に使用することができる。
pは特に限定されないが、例えば、1〜22のものを好適に用いることができ、1〜10のものをより好適に使用することができ、1〜5のものをさらに好適に使用することができる。
qは特に限定されないが、例えば、0〜5のものを好適に使用することができ、0〜3のものをより好適に使用することができ、0〜2のものをより好適に使用することができる。
rはq=0のときは0である。qが1以上の場合にはrは特に限定されないが、例えば、rが1〜22のものを好適に使用することができ、1〜4のものをより好適に使用することができ、1〜2のものをさらに好適に使用することができる。
o+p+rは2〜22となるように調整するのが好ましく、3〜10となるように調整することがより好ましく、4〜8となるように調整することがさらに好ましい。
【0040】
本実施形態における分散剤は、イソシアネートシリル化剤とヒドロキシアクリレートを重合促進剤の存在下で、加熱混合することにより得られる。加熱温度と混合時間は、使用するイソシアネートシリル化剤とヒドロキシアクリレートの特性に合わせて、適宜調節すればよい。
【0041】
本実施形態の無機粒子分散液における分散剤の添加量は、良好な分散性が得られる程度に適宜調整される。本実施形態の無機粒子分散液における分散剤の添加量は、例えば、無機粒子の全質量に対して、5質量%以上かつ120質量%以下であることが好ましく、10質量%以上かつ110質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上かつ100質量%以下であることがさらに好ましい。
【0042】
「溶媒」
本実施形態における溶媒は、分散剤で表面処理された無機粒子が分散できる溶媒であれば特に限定されない。例えば、溶解度パラメーター(SP値)が8.0以上かつ12以下であり、水への溶解度が1.5g/100ml以上である有機溶媒を用いることが好ましい。
このような溶媒としては、例えば、メチルイソブチルケトン(SP値:8.4)、酢酸ブチル(SP値:8.5)、アクリル酸エチル(SP値:8.6)、ジアセトンアルコール(SP値:9.2)、メチルエチルケトン(SP値:9.3)、シクロヘキサノン(SP値:9.9)、1−メトキシ−2−プロパノール(SP値:9.5)、ドデカノール(SP値:9.8〜10.3)、シクロペンタノン(SP値:10.4)、2,3−ブタンジオール(SP値:11.1)、1−プロパノール(SP値:11.9)等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
溶媒の溶解度パラメーターが上記範囲であれば、本実施形態の無機粒子分散液を、エポキシ樹脂(SP値:10.9)、アクリル樹脂(SP値:9.5)、ポリスチレン(SP値:8.5〜10.3)、ウレタン樹脂(SP値:10〜11)、フェノール樹脂(SP値:11.5)、セルロース樹脂(SP値:10〜12)、ポリエステル樹脂(SP値:10〜11)、エポキシ樹脂(SP値:10〜11)のように極性が中程度の樹脂(SP値:8.5〜12)に好適に配合できる。
【0044】
本実施形態において、溶解度パラメーター((cal/cm)
1/2)は、例えば、J.Brandrup等による「Polymer Handbook fourth edition」のVII 675から713に記載されている方法(特に、B3式、B8式)で算出することができる。また、前記文献の表1(VII 711)、表7(VII 688−694)、表8(VII 694−697)の値を用いることができる。
【0045】
溶媒の沸点は、80℃以上であることが好ましい。
溶媒の沸点が、80℃以上であれば、本実施形態の無機粒子分散液と樹脂を混合して組成物とした後、その組成物を用いて塗膜を形成する際や、その組成物から溶媒を除去する際に適度な揮発速度が得られ、無機粒子が偏析することが抑制される。
【0046】
また、有機溶媒の水への溶解度が、上記範囲であれば、本実施形態における分散剤の加水分解に必要な量の水分を溶媒に溶解できるため好ましい。
【0047】
本実施形態における溶媒は、所望の特性を損なわない範囲において、高沸点溶媒や、低沸点溶媒等の他の溶媒を含んでいてもよい。
本実施形態の無機粒子分散液における溶媒の含有量は、所望の特性に応じて、適宜調整される。本実施形態の無機粒子分散液における溶媒の含有量は、例えば、35質量%以上かつ90質量%以下であることが好ましく、40質量%以上かつ80質量%以下であることがより好ましく、45質量%以上かつ70質量%以下であることがさらに好ましい。
【0048】
本実施形態の無機粒子分散液は、その特性を損なわない範囲において、塩基性物質を含んでいてもよい。
塩基性物質としては、水と混合した場合に水素イオン指数(pH)が7より大となる物質であり、かつ、無機粒子分散液における水の含有量が1質量%以下であっても、均一に混合できる物質であれば、特に限定されない。
このような塩基性物質としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、アミン類等が挙げられるが、取り扱いが容易な点で、アミン類が好ましい。
【0049】
アミン類としては、例えば、アミン、アミド、アミン系分散剤、アミン系界面活性剤、アミド型モノマー、アミン系溶媒、アミド系溶媒等が挙げられる。
アミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミンのいずれを用いてもよく、これらを混合して用いてもよいが、三級アミンを用いることがより好ましい。
アミド型モノマーとしては、例えば、アクリルアミド型モノマーやメタクリルアミド型モノマーが好適に用いられる。このようなアミド型モノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド等が挙げられる。
【0050】
アミンは、炭素原子数が2以上のアミンを用いることが好ましい。炭素原子数が2以上のアミンは、その置換基が無機粒子と相互作用するため、無機粒子の表面で加水分解反応が進行して、本実施形態における分散剤同士の縮合の進行を抑制し、本実施形態における分散剤による無機粒子の表面処理反応を進行し易くする役割を果たす。そのため、アミンは、炭素原子数が6以上のものが好ましく、炭素原子数が10以上のものがより好ましい。
【0051】
炭素原子数が2以上のアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン類;モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、イソプロピルアミン、ジエチレントリアミン、2−エチルヘキシルアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族ポリアミン;アニリン、o−トルイジン、メチレンオルソクロルアミン、4,4’−ジフェニルメタンジアミン、2,4’−トリレンジアミン、2,6’−トリレンジアミン、4−アミノ安息香酸等の芳香族ポリアミン;ポリアミノアマイド、ポリアルキロールアミノアマイド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリエステルポリアミン、アミノ変性シリコーン等のアミノ基を有する高分子;等が挙げられる。
【0052】
炭素原子数が2以上のアミンのアミン価と、炭素原子数が2以上のアミンの含有量との積、すなわち、(炭素原子数が2以上のアミンのアミン価)×(本実施形態の無機粒子分散液全体に対する炭素原子数が2以上のアミンの含有量(質量%))は、10以上かつ45以下であることが好ましく、25以上かつ42以下であることがより好ましい。
炭素原子数が2以上のアミンのアミン価と、炭素原子数が2以上のアミンの含有量との積が、上記の範囲であることにより、表面処理反応が十分に進行し、かつ、後述する樹脂の物性を劣化させることが抑制されるため好ましい。
【0053】
塩基性物質の添加量は、粒度分布の累積体積百分率が90%のときの粒径(D90)を、粒度分布の累積体積百分率が50%のときの粒径(D50)で除した値が、1以上かつ4以下となるように、適宜調整されればよいが、無機粒子分散液中に塩基性物質が0.01質量%以上かつ1質量%以下含有されることが好ましい。
【0054】
本実施形態の無機粒子分散液は、水の含有量が、無機粒子の含有量の3質量%以下であることが好ましい。すなわち、無機粒子分散液における無機粒子の含有量を100質量%とした場合、無機粒子分散液における水の含有量は、無機粒子の含有量の3質量%以下である。
水の含有量が、上記範囲であることにより、無機粒子分散液中における無機粒子の凝集などが抑制され、経時安定性に優れるため好ましい。
なお、本実施形態の無機粒子分散液の経時安定性とは、時間の経過と共に、無機粒子が凝集し難く、長期にわたって、溶媒中に安定して無機粒子が分散する性能のことである。
【0055】
本実施形態の無機粒子分散液は、本実施形態における分散剤の加水分解に必要な量の水を含んでいれば、水の含有量はできる限り少ないことが好ましい。無機粒子分散液における水の含有量は、具体的には、無機粒子分散液全体に対して、1.2質量%以下であることが好ましい。
無機粒子分散液中の水の含有量が、上記の範囲であることが好ましい理由は、水の含有量が1.2質量%を超えると、無機粒子分散液の経時安定性を損なうことがあるからである。ここで、本実施形態における分散剤の加水分解に必要な水の含有量とは、本実施形態における分散剤による無機粒子の表面処理に必要な加水分解が進行する量であり、全ての加水分解が進行する(加水分解率100%)のに必要な水の含有量よりも少なくてもよい。また、表面処理反応には、無機粒子の付着水、束縛水を用いることもできる。
なお、本実施形態の無機粒子分散液における水の含有量は、カールフィッシャー水分計(型番:AQL−22320、平沼産業社製)で滴定された値を意味する。
【0056】
本実施形態の無機粒子分散液の製造方法としては、無機粒子分散液の構成要素として上述した各材料を、機械的に混合し、無機粒子を溶媒中に分散させる方法が挙げられる。
分散装置としては、例えば、撹拌機、自公転式ミキサー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等が挙げられる。
【0057】
本実施形態の無機粒子分散液によれば、無機粒子が加水分解性基と(メタ)アクリロイル基を有し、かつ、ウレタン結合を有するシランカップリング剤からなる分散剤で表面処理されているので、樹脂と混合して塗膜を形成した場合に、紫外線に対する耐久性に優れた塗膜を得ることができる。
【0058】
[無機粒子含有組成物]
本実施形態の無機粒子含有組成物は、本実施形態の無機粒子分散液と、バインダー成分と、を含む。
【0059】
「バインダー成分」
バインダー成分は、特に限定されないが、例えば、樹脂モノマー、樹脂オリゴマー、樹脂ポリマー、有機ケイ素化合物またはその重合体等を好適に用いることができる。
【0060】
バインダー成分としては、一般的なハードコート膜に使用される硬化性樹脂のモノマーやオリゴマーであれば、特に限定されず、光硬化性樹脂のモノマーやオリゴマーを用いてもよく、熱硬化性樹脂のモノマーやオリゴマーを用いてもよい。
透明性が高いバインダー成分としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコー樹脂、(メタ)アクリル樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート樹脂等のモノマーやオリゴマーを用いることができる。
透明性が高く、ハードコート性が強い膜が得られやすい点で、光硬化性樹脂のモノマーを用いることが好ましく、光硬化性樹脂のモノマーの中でもさらに、分子中に1個以上のアクリロイル基およびメタクリロイル基の少なくとも一方を有する架橋性化合物を用いることが好ましい。
【0061】
分子中に1個以上のアクリロイル基およびメタクリロイル基の少なくとも一方を有する架橋性化合物としては、特に限定されないが、反応性、透明性、耐候性、硬度に優れた多官能アクリレートが好ましい。ここで多官能とは、3個以上の官能基を有することを意味する。3個以上の官能基は、全て同種の官能基であってもよいし、異種の官能基であってもよい。
上記の架橋性化合物が有するアクリロイル基、メタクリロイル基以外の官能基としては、例えば、ビニル基、アリル基、アリルエーテル基、スチリル基、水酸基等が挙げられる。
【0062】
多官能アクリレートの具体例としては、例えば、(メタ)トリメチロールプロパントリアクリレート、(メタ)ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、(メタ)ペンタエリスリトールトリアクリレート、(メタ)ペンタエリスリトールテトラアクリレート、(メタ)ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のポリオールポリアクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート、ポリシロキサンアクリレート等が挙げられる。これらの多官能アクリレートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
本実施形態の無機粒子含有組成物中には、発明の効果を阻害しない範囲内で、官能基が1個または2個であり、上述のモノマーには含まれないモノマーやオリゴマー、分散剤、重合開始剤、帯電防止剤、屈折率調節剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、レベリング剤、消泡剤、無機充填剤、カップリング剤、防腐剤、可塑剤、流動調整剤、増粘剤、pH調整剤、重合開始剤等の一般的な各種添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0064】
分散剤としては、例えば、硫酸エステル系、カルボン酸系、ポリカルボン酸系等のアニオン型界面活性剤、高級脂肪族アミンの4級塩等のカチオン型界面活性剤、高級脂肪酸ポリエチレングリコールエステル系等のノニオン型界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アマイドエステル結合を有する高分子系界面活性剤等が挙げられる。
【0065】
重合開始剤は、用いるモノマーの種類に応じて、適宜選択される。光硬化性樹脂のモノマーを用いる場合には、光重合開始剤が用いられる。光重合開始剤の種類や量は、使用する光硬化性樹脂のモノマーに応じて適宜選択される。
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン系、ジケトン系、アセトフェノン系、ベンゾイン系、チオキサントン系、キノン系、ベンジルジメチルケタール系、アルキルフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、フェニルフォスフィンオキサイド系等の公知の光重合開始剤が挙げられる。
【0066】
本実施形態の無機粒子含有組成物は、基材に塗布して塗膜を形成するものであることから、塗工を容易にするために、粘度が0.2mPa・s以上かつ500mPa・s以下であることが好ましく、0.5mPa・s以上かつ200mPa・s以下であることがより好ましい。
無機粒子含有組成物の粘度が0.2mPa・s以上であれば、塗膜にした時の膜厚が薄くなりすぎず、膜厚の制御が容易であるため好ましい。一方、無機粒子含有組成物の粘度が500mPa・s以下であれば、粘度が高すぎず塗工時における無機粒子含有組成物の取扱いが容易となるため好ましい。
【0067】
無機粒子含有組成物の粘度は、無機粒子含有組成物に適宜、有機溶媒を添加して、上記範囲に調整することが好ましい。
有機溶媒としては、上記無機粒子含有組成物と相溶性がよいものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ペンタノン、イソホロン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アミド系溶媒、エーテルエステル系溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0068】
本実施形態の無機粒子含有組成物によれば、本実施形態の無機粒子分散液を含有しているので、塗膜を形成した場合に、紫外線に対する耐久性に優れた塗膜を得ることができる。
【0069】
[無機粒子含有組成物の製造方法]
本実施形態の無機粒子含有組成物の製造方法としては、無機粒子含有組成物の構成要素として上述した各材料を、機械的に混合する方法が挙げられる。
上述した各材料を、機械的に混合する混合装置としては、例えば、撹拌機、自公転式ミキサー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等が挙げられる。
【0070】
[塗膜]
本実施形態の塗膜は、本実施形態の無機粒子含有組成物を用いて形成されてなる。
本実施形態の塗膜の膜厚は、用途に応じて適宜調整されるが、通常0.01μm以上かつ20μm以下であることが好ましく、0.5μm以上かつ10μm以下であることがより好ましい。
【0071】
本実施形態の塗膜の製造方法は、上記の無機粒子含有組成物を被塗布物上に塗工することで塗膜を形成する工程と、この塗膜を硬化させる工程とを有する。
塗膜を形成する塗工方法としては、例えば、バーコート法、フローコート法、ディップコート法、スピンコート法、ロールコート法、スプレーコート法、メニスカスコート法、グラビアコート法、吸上げ塗工法、はけ塗り法等、通常のウェットコート法が用いられる。
【0072】
塗膜を硬化させる硬化方法としては、バインダー成分の種類に応じて適宜選択され、熱硬化させる方法または光硬化させる方法が用いられる。
光硬化に用いるエネルギー線としては、塗膜が硬化すれば、特に限定されないが、例えば、紫外線、遠赤外線、近紫外線、赤外線、X線、γ線、電子線、プロトン線、中性子線等のエネルギー線が用いられる。これらのエネルギー線の中でも、硬化速度が速く、装置の入手および取り扱いが容易である点から、紫外線を用いることが好ましい。
【0073】
紫外線照射による硬化の場合、200nm〜500nmの波長帯域の紫外線を発生する高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ等を用いて、100J/cm
2〜3000J/cm
2のエネルギーにて、紫外線を照射する方法等が挙げられる。
【0074】
本実施形態の塗膜によれば、本実施形態の無機粒子含有組成物を用いて形成されているため、紫外線に対する耐久性に優れた塗膜を得ることができる。
【0075】
[塗膜付きプラスチック基材]
本実施形態の塗膜付きプラスチック基材は、樹脂材料を用いて形成された基材本体(プラスチック基材)と、基材本体の少なくとも一面に設けられた本実施形態の塗膜と、を有する。
【0076】
塗膜付きプラスチック基材は、本実施形態の無機粒子含有組成物を、公知の塗工法を用いて基材本体上に塗工することで塗膜を形成し、その塗膜を硬化させることにより得られる。
【0077】
基材本体は、プラスチック基材であれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、アクリル、アクリル−スチリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、塩化ビニル等のプラスチックから形成されたものが用いられる。
透明性が求められる用途に用いる場合には、基材本体としては、光透過性を有するプラスチック基材を用いることが好ましい。
【0078】
プラスチック基材は、シート状であってもよく、フィルム状であってもよいが、フィルム状であることが好ましい。
【0079】
本実施形態の塗膜付きプラスチック基材は、空気を基準として測定した場合に、ヘーズ値が1.4%以下であることが好ましく、1.2%以下であることがより好ましい。
【0080】
ここで、「ヘーズ値」とは、全光線透過光に対する拡散透過光の割合(%)のことであり、空気を基準として、ヘイズメーターNDH−2000(日本電色社製)を用い、日本工業規格JIS−K−7136に基づいて測定した値を意味する。
【0081】
本実施形態の塗膜付きプラスチック基材は、プラスチック基材と塗膜の間にハードコート膜を設けてもよい。また、塗膜とは屈折率等の性能が異なる膜を積層させてもよい。
【0082】
本実施形態の塗膜付きプラスチック基材によれば、本実施形態の塗膜を有するため、紫外線に対する耐久性に優れた塗膜を有する塗膜付きプラスチック基材を得ることができる。
【0083】
[表示装置]
本実施形態の表示装置は、本実施形態の塗膜および本実施形態の塗膜付きプラスチック基材の少なくとも一方、すなわち、本実施形態の塗膜および本実施形態の塗膜付きプラスチック基材のいずれか一方または両方を備えてなる。
表示装置は、特に限定されないが、本実施形態ではタッチパネル用の液晶表示装置について説明する。
【0084】
[タッチパネル]
タッチパネルはITO電極と透明基材(ポリエチレンテレフタレート等のプラスチック基材)との屈折率差が大きい場合には、ITO電極部分が見え易くなる、いわゆる骨見え現象が起こる。
そのため、屈折率が1.9以上の無機粒子を選択した本実施形態の塗膜を、透明基材とITO電極の間の層として設けることにより、透明基材とITO電極の屈折率差を緩和して、骨見え現象を抑制することができる。
本実施形態の塗膜および本実施形態の塗膜付きプラスチック基材の少なくとも一方をタッチパネルに設ける方法は、特に限定されず、公知の方法により実装すればよい。例えば、本実施形態の塗膜付きプラスチック基材の塗膜面に、ITO電極をパターニングし、配向膜、液晶層を積層した構造等が挙げられる。
【0085】
本実施形態の表示装置によれば、本実施形態の塗膜および本発明の塗膜付きプラスチック基材の少なくとも一方を備えているので、紫外線に対する耐久性に優れた表示装置を得ることができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0087】
[実施例1]
「分散剤の作製」
γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン(商品名:Silquest A−link35、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)を15質量部と、2−ヒドロキシエチルアクリレート(商品名:ライトエステルHOA(N)、共栄化学社製)を15質量部と、重合促進剤(オクチル酸ビスマス)(商品名:K−KAT 348、キングインダストリーズ社製)0.09質量部と、メチルイソブチルケトン69.91質量部とを混合し、60℃にて6時間反応させて、加水分解性基とアクリロイル基を有し、かつウレタン結合を有する実施例1のシランカップリング剤を含む溶液を作製した。
得られたシランカップリング剤(分子量321(計算値))を含む溶液をフーリエ変換式赤外分光法(FT−IR)で確認した結果、N=C=O基とOH基が消失しており、反応が完了していることが確認された。
【0088】
「無機粒子含有組成物」
酸化ジルコニウム(IV)(平均一次粒子径12nm、住友大阪セメント社製)を40質量部、得られたシランカップリング剤を含む溶液を20質量部、アルキルジメチルアミン(アミン価140)を0.3質量部、水を0.8質量部、メチルイソブチルケトン(MIBK)を38.9質量部混合した後、ビーズミルを用いて、分散処理を行って、実施例1の無機粒子分散液を得た。
塗膜の屈折率が1.65となるように、得られた無機粒子分散液にアクリル樹脂(商品名:EXP−1851(樹脂成分50質量%)、大日精化社製)、重合開始剤を混合して、実施例1の無機粒子含有組成物を得た。なお、重合開始剤はアクリル樹脂に対して5質量%となるように混合した。
【0089】
「塗膜付きプラスチック基材」
得られた無機粒子含有組成物を50μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムに、乾燥膜厚が1μmとなるようにバーコーティング法で塗布し、90℃ にて1分間加熱して乾燥させ、プラスチック基材に塗膜を形成した。
次いで、高圧水銀灯(120W/cm)を用い、塗膜に紫外線を250mJ/cm
2のエネルギーとなるように露光し、塗膜を硬化させて、実施例1の塗膜付きプラスチック基材を得た。
【0090】
「塗膜付きプラスチック基材の評価」
「全光線透過率、ヘーズ値」
塗膜付きプラスチック基材の全光線透過率とヘーズ値を、空気を基準として、ヘーズメーターNDH−2000(日本電色社製)を用い、日本工業規格:JIS−K−7136に基づいて測定した。全光線透過率とヘーズ値の測定には、作製した塗膜付きプラスチック基材から100mm×100mmの試験片を作製し、その試験片を用いた。結果を表1に示す。
【0091】
「耐擦傷性」
塗膜付きプラスチック基材の耐擦傷性を評価した。
塗膜付きプラスチック基材の塗膜の表面に対して、#0000のスチールウールを250g/cm
2の荷重を掛けて10往復摺動させた。スチールウールは、ラビングテスター(太平理化工業社製)に装着して、往復摺動させた。
スチールウールを往復摺動させた後の塗膜の表面を目視により観察し、次の基準で耐擦傷性を評価した。結果を表1に示す。
評価結果がAであるものが良品であり、評価結果がBからEとなるに従い、耐擦傷性が低いことを示している。
A:傷0本
B:傷1−10本
C:傷11−20本
D:傷20−30本
E:傷31本以上
【0092】
「紫外線に対する耐久性」
塗膜付きプラスチックフィルムの塗膜を、1500mJ/cm
2、1900mJ/cm
2、のそれぞれのエネルギーの紫外線で露光した。
露光後の塗膜付きプラスチックフィルムについて、日本工業規格:JIS−K−5600−5−6「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法)」に基づき密着性の評価を行った。ここでは、剥がれが生じていないものを「○」、剥がれが生じたものを「×」とした。結果を表2に示す。
【0093】
[実施例2]
「分散剤の作製」
2−ヒドロキシエチルアクリレートの替りに、4−ヒドロキシブチルアクリレート(商品名:4HBA、日本化成社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、加水分解性基とアクリロイル基を有し、かつウレタン結合を有する実施例2のシランカップリング剤を含む溶液を作製した。
得られたシランカップリング剤(分子量349(計算値))を含む溶液をフーリエ変換式赤外分光法(FT−IR)で確認した結果、N=C=O基とOH基が消失しており、反応が完了していることが確認された。
【0094】
実施例1のシランカップリング剤を含む溶液の替りに、実施例2のシランカップリング剤を含む溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例2の無機粒子分散液、無機粒子含有組成物、塗膜付きプラスチック基材を得た。
【0095】
「塗膜付きプラスチック基材の評価」
実施例1と同様にして、全光線透過率、ヘーズ値および耐擦傷性を評価した。結果を表1に示す。
また、実施例1と同様にして、紫外線に対する耐久性を評価した。結果を表2に示す。
【0096】
[実施例3]
「分散剤の作製」
2−ヒドロキシエチルアクリレートの替りに、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート(商品名:CHDMMA、日本化成社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、加水分解性基とアクリロイル基を有し、かつウレタン結合を有する実施例3のシランカップリング剤を含む溶液を作製した。得られたシランカップリング剤(分子量403(計算値))を含む溶液をフーリエ変換式赤外分光法(FT−IR)で確認した結果、N=C=O基とOH基が消失しており、反応が完了していることが確認された。
【0097】
実施例1のシランカップリング剤を含む溶液の替りに、実施例3のシランカップリング剤を含む溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例3の無機粒子分散液、無機粒子含有組成物、塗膜付きプラスチック基材を得た。
【0098】
「塗膜付きプラスチック基材の評価」
実施例1と同様にして、全光線透過率、ヘーズ値および耐擦傷性を評価した。結果を表1に示す。
また、実施例1と同様にして、紫外線に対する耐久性を評価した。結果を表2に示す。
【0099】
[実施例4]
「無機粒子分散液」
スズドープ酸化インジウム(ITO)(商品名:F−ITO、平均一次粒子径15nm、DOWAハイテック社製)50質量部と、実施例2のシランカップリング剤を含む溶液25質量部と、アルキルジメチルアミン0.75質量部と、水を0.8質量部と、メチルイソブチルケトン(MIBK)23.45質量部を混合した後、ビーズミルを用いて、分散処理を行って、実施例4の無機粒子分散液を作製した。
【0100】
「無機粒子含有組成物」
得られた無機粒子分散液52.6質量部と、アクリル樹脂(商品名:NKハード T−102;新中村化学工業株式会社製)20.1質量部と、重合開始剤0.64質量部と、トルエン11質量部と、MIBK15.66質量部を混合して、実施例4の無機粒子含有組成物を得た。
【0101】
実施例1の無機粒子含有組成物の替りに、実施例4の無機粒子含有組成物を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例4の塗膜付きプラスチック基材を得た。
【0102】
「塗膜付きプラスチック基材の評価」
実施例1と同様にして、全光線透過率、ヘーズ値および耐擦傷性を評価した。結果を表1に示す。
また、実施例1と同様にして、紫外線に対する耐久性を評価した。結果を表2に示す。
【0103】
[実施例5]
「無機粒子分散液」
実施例4のスズドープ酸化インジウム(ITO)の替りに、アンチモンドープ酸化スズ(平均一次粒子径10nm、住友大阪セメント社製)を用いた以外は実施例4と同様にして、実施例5の無機粒子分散液を作製した。
【0104】
「無機粒子含有組成物」
実施例4の無機粒子分散液の替りに、実施例5の無機粒子分散液を用いた以外は実施例4と同様にして、実施例5の無機粒子含有組成物を得た。
【0105】
実施例1の無機粒子含有組成物の替りに、実施例5の無機粒子含有組成物を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例5の塗膜付きプラスチック基材を得た。
【0106】
「塗膜付きプラスチック基材の評価」
実施例1と同様にして、全光線透過率、ヘーズ値および耐擦傷性を評価した。結果を表1に示す。
また、実施例1と同様にして、紫外線に対する耐久性を評価した。結果を表2に示す。
【0107】
[比較例1]
酸化ジルコニウム(IV)(平均一次粒子径12nm、住友大阪セメント社製)を40質量部、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−503、信越化学化学工業社製)を6.0質量部、アルキルジメチルアミン(アミン価140)を0.3質量部、水を0.8質量部、メチルイソブチルケトン(MIBK)を52.9質量部混合した後、ビーズミルを用いて、分散処理を行って、ウレタン結合を有さない分散剤で表面処理された比較例1の無機粒子分散液を得た。
【0108】
実施例1の無機粒子分散液の替りに、比較例1の無機粒子分散液を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1の無機粒子含有組成物、塗膜、塗膜付きプラスチック基材を得た。
【0109】
「塗膜付きプラスチック基材の評価」
実施例1と同様にして、全光線透過率、ヘーズ値および耐擦傷性を評価した。結果を表1に示す。
また、実施例1と同様にして、紫外線に対する耐久性を評価した。結果を表2に示す。
【0110】
[比較例2]
酸化ジルコニウム(IV)(平均一次粒子径12nm、住友大阪セメント社製)を40質量部、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシランを3.8質量部、4−ヒドロキシブチルアクリレートを2.2質量部、アルキルジメチルアミン(アミン価140)を0.3質量部、水を0.8質量部、メチルイソブチルケトン(MIBK)を52.9質量部混合した後、ビーズミルを用いて、分散処理を行って、ウレタン結合を有さない分散剤で表面処理された比較例2の無機粒子分散液を得た。
【0111】
実施例1の無機粒子分散液の替りに、比較例2の無機粒子分散液を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例2の無機粒子含有組成物、塗膜、塗膜付きプラスチック基材を得た。
【0112】
「塗膜付きプラスチック基材の評価」
実施例1と同様にして、全光線透過率、ヘーズ値および耐擦傷性を評価した。結果を表1に示す。
また、実施例1と同様にして、紫外線に対する耐久性を評価した。結果を表2に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
表1および表2の結果から、実施例1〜実施例5と、比較例1および2とを比較すると、実施例1〜実施例5の塗膜付きプラスチック基材の塗膜は、比較例1および2の塗膜付きプラスチック基材の塗膜と同等の全光線透過率、ヘーズ値および耐擦傷性を有するうえに、1900mJ/cm
2の紫外線に対しても耐性を有することが確認できた。