特開2017-171840(P2017-171840A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジミインコーポレーテッドの特許一覧

<>
  • 特開2017171840-ブラスト研磨用スラリ 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-171840(P2017-171840A)
(43)【公開日】2017年9月28日
(54)【発明の名称】ブラスト研磨用スラリ
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20170901BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20170901BHJP
   B24C 11/00 20060101ALI20170901BHJP
   B24C 3/00 20060101ALI20170901BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20170901BHJP
【FI】
   C09K3/14 550D
   C09G1/02
   B24C11/00 D
   B24C3/00 A
   C03C19/00 A
   B24C11/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-62148(P2016-62148)
(22)【出願日】2016年3月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】井出 匠学
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AC03
(57)【要約】
【課題】優れた平滑性で研磨対象物(ワーク)をブラスト加工可能なブラスト研磨用スラリを提供する。
【解決手段】モース硬度8以上の第1の粒子と、分散媒と、を含み、出力40Wにて120秒間の超音波分散処理を行った後で測定される、粒子の大粒子径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%に相当する粒子径(Dv50%)が10μm以下である、ブラスト研磨用スラリである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モース硬度8以上の第1の粒子と、
分散媒と、を含み、
出力40Wにて120秒間の超音波分散処理を行った後で測定される、粒子の大粒子径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%に相当する粒子径(Dv50%)が10μm以下である、ブラスト研磨用スラリ。
【請求項2】
前記第1の粒子よりもモース硬度が小さい第2の粒子をさらに含む、請求項1に記載のブラスト研磨用スラリ。
【請求項3】
第1の粒子の含有量は、前記第2の粒子の含有量よりも多い、請求項2に記載のブラスト研磨用スラリ。
【請求項4】
前記第2の粒子がジルコン粒子を含む、請求項2または3に記載のブラスト研磨用スラリ。
【請求項5】
粒子の大粒子径側からの積算粒子体積が全粒子体積の3%に相当する粒子径(Dv3%)が3μm以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のブラスト研磨用スラリ。
【請求項6】
前記第1の粒子がアルミナ粒子である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のブラスト研磨用スラリ。
【請求項7】
ガラス加工用である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のブラスト研磨用スラリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ブラスト研磨用スラリ、特に、ディスプレイ基板等の無機材料の研磨に適したブラスト研磨用スラリに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイや液晶ディスプレイ等のディスプレイに用いられるガラス等の無機材料製基板の加工には、ディスプレイの大型化、高精細化、高輝度化といった要求に伴い、より高度な技術が要求されるようになってきている。かようなディスプレイ基板の研磨方法として、ブラスト法、バレル法、ラッピング法等が知られている。
【0003】
このうち、ドライブラスト(サンドブラスト)やウェットブラスト等のブラスト法は、アルミナ、ジルコニア、ガラスビーズ、ステンレス、シリコンカーバイド等の粒子を含むブラスト材を、圧縮空気等のキャリアガスを利用してノズルから研磨対象物(ワーク)に対して噴射して研磨を行う技術である。
【0004】
特許文献1には、所定の粒度分布を満足し、モース硬度(新モース硬度)が1〜12で磁性を帯びた粒子からなることを特徴とする研磨材に係る発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−114968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような従来のブラスト材では、平滑性に優れた研磨対象物(ワーク)を得ることが困難な場合や、高い加工能率でブラスト加工を行うことが困難な場合が存在していた。
【0007】
したがって、本発明の目的は、優れた平滑性で研磨対象物(ワーク)をブラスト加工可能なブラスト研磨用スラリを提供することである。本発明の他の目的は、加工能率に優れたブラスト研磨用スラリを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、特定の硬度を有する粒子(砥粒)および分散媒を含み、含まれる粒子の粒度分布を特定の範囲内とすることによって、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、上記諸目的は、モース硬度8以上の第1の粒子と、分散媒と、を含み、出力40Wにて120秒間の超音波分散処理を行った後で測定される、粒子の大粒子径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%に相当する粒子径(Dv50%)が10μm以下である、ブラスト研磨用スラリによって達成できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のブラスト研磨用スラリによれば、研磨対象物(ワーク)を平滑にブラスト加工可能なブラスト研磨用スラリを提供することができる。また、本発明によれば、優れた加工能率でブラスト加工が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施形態に係るブラスト加工方法に用いられる装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、モース硬度8以上の第1の粒子と、分散媒と、を含み、出力40Wにて120秒間の超音波分散処理を行った後で測定される、粒子の大粒子径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%に相当する粒子径(以下、「粒子の大粒子径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%に相当する粒子径」を、単に「Dv50%」とも称する。)が10μm以下である、ブラスト研磨用スラリに関する。かようなブラスト研磨用スラリによれば、研磨対象物(ワーク)を平滑にブラスト加工することができる。また、上記ブラスト研磨用スラリによれば、優れた加工能率にて研磨対象物(ワーク)をブラスト加工することができる。
【0013】
ブラスト研磨用スラリは、研磨対象物に噴射して使用されるという点でバレル法やラッピング法に用いられる粒子とは使用形態が異なり、このためこれらの異なる研磨方法に用いられる粒子に要求される物性も必ずしも共通ではない。例えば、バレル法やラッピング法に用いられる粒子と、ブラスト加工法に用いられる粒子とは、その好適な粒子径は必ずしも共通するものではない。さらに、ブラスト加工法は、ドライブラスト法とウェットブラスト法とに大別される。ウェットブラスト法では、分散媒(水等)によって研磨対象物まで粒子が運ばれるため、ドライブラスト法と比較して、微細な粒径の粒子を用いることができ、幅広い粒径の粒子を使用可能であるという特徴がある。よって、このように、ウェットブラスト法では、幅広い粒径の粒子が使用可能であるものの、良好な加工能率を維持しつつ、さらに平滑性を向上させることができる技術が求められている。
【0014】
さらに、ウェットブラスト法では、ブラスト加工に用いる装置(特に配管、ノズルなどブラスト研磨用スラリの流路)の内部におけるブラスト研磨用スラリの詰まりの発生が問題となる。したがって、かような詰まりの発生を効果的に抑制することができる技術もまた求められている。
【0015】
これに対し、本発明者は、粒子の硬度および粒径分布の観点から鋭意検討を行い、本発明を完成させるに至った。上記ブラスト研磨用スラリによって上記効果が得られる詳細なメカニズムは不明であるが、以下のように推測される。
【0016】
ブラスト研磨用スラリに含まれる粒子(砥粒)にも研磨材としての一定程度の硬度が要求される。このため、モース硬度8以上の第1の粒子をブラスト研磨用スラリが含むことによって、研磨対象物(ワーク)を適度な加工能率でブラスト加工(研磨)できる。さらに、ブラスト研磨用スラリに含まれる粒子が大きすぎる場合、所望の平滑性を達成することが困難になる。特に、粗大粒子が過度に含まれるブラスト研磨用スラリを用いると、研磨後の研磨対象物の平滑性が顕著に低下すると考えられる。これに対し、本開示に係るブラスト研磨用スラリは、出力40Wにて120秒間の超音波分散処理を行った後で測定されるDv50%が10μm以下であり、第1の粒子としてモース硬度8以上の粒子を含有することで、粒子の粒子径と硬度とがブラスト加工に適度にバランスされる結果、実用的な加工能率を得ながらも、研磨対象物を平滑にブラスト加工することができる。
【0017】
また、上記粒子を含有することにより、本開示に係るブラスト研磨用スラリは、ブラスト加工装置(特に配管、ノズルなどブラスト研磨用スラリの流路)の内部における詰まりが効果的に抑制される。
【0018】
さらに、ブラスト加工という加工方法においては、加工能率の向上と平滑性の向上とは、互いにトレードオフの関係にある。したがって、ブラスト加工に関する技術においては、平滑性を向上させる一方で、加工能率もまた良好にすることができる手段が求められているともいえる。これに対して、本開示に係るブラスト研磨用スラリは、出力40Wにて120秒間の超音波分散処理を行った後で測定されるDv50%が10μm以下であり、第1の粒子としてモース硬度8以上の粒子を含むことにより、加工能率と平滑性との両立が達成されるものと推測される。なお、上記メカニズムは推測によるものであり、本発明は上記メカニズムに何ら限定されるものではない。
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0020】
本開示に係るブラスト研磨用スラリは、粒子(砥粒)および分散媒を必須で含む。すなわち、本開示に係るブラスト研磨用スラリは、ウェットブラスト用ブラスト材である。
【0021】
<粒子>
本開示のブラスト研磨用スラリに含まれる粒子は、当該ブラスト研磨用スラリを出力40Wにて120秒間の超音波分散処理を行った後で測定した際、大粒子径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%に相当する粒子径(Dv50%)が10μm以下である。Dv50%が10μmを超えると、ブラスト処理(加工)後において優れた平滑性を得ることが困難になる。
【0022】
加工能率と平滑性とのさらなる良好なバランスの観点からは、ブラスト研磨用スラリに含まれる粒子のDv50%の上限は、好ましくは9.5μm以下、より好ましくは4.5μm以下、さらにより好ましくは4.1μm以下であり、特に好ましくは3.0μm以下であり、最も好ましくは3.0μm未満である。
【0023】
一方、粒子のDv50%の下限は、特に制限されないが、加工能率と平滑性とのバランスの観点から、1.0μm以上であると好ましい。粒子のDv50%の下限は、やはり加工能率と平滑性とのバランスの観点から、好ましくは1.2μm以上であり、より好ましくは1.5μm以上であり、さらに好ましくは1.5μm超であり、特に好ましくは1.6μm以上である。
【0024】
好ましい一実施形態では、Dv50%は、1.2μm以上4.5μm以下であり、より好ましくは1.5μm以上4.1μm以下であり、さらに好ましくは1.5μmを超えて4.1μm以下であり、特に好ましくは1.6μm以上3.0μm以下であり、最も好ましくは1.6μm以上3.0μm未満である。当該粒度分布であれば、加工能率と平滑性とのさらなる良好なバランスがより有効に達成できる。また、上記粒度分布であれば、加工装置(特に配管、ノズルなどブラスト研磨用スラリの流路)の詰まりをより抑制しやすくなる。
【0025】
本発明者は、ブラスト研磨用スラリに含まれる粒子の粒度分布が、加工能率および平滑性の向上の重要な因子であり、大きな粒子の含有量が少ないことが加工能率および平滑性向上の点で好ましいことを見出した。すなわち、ブラスト研磨用スラリに含まれる粒子が大きすぎる場合には、所望の平滑性を達成することが困難になる。特に、粗大粒子が過度に含まれるようなブラスト研磨用スラリを用いると、研磨後の研磨対象物の加工能率や平滑性が低下する傾向にある。一方、ブラスト研磨用スラリに含まれる粒子が小さすぎる場合には、加工能率が低下する傾向にある。
【0026】
また、加工能率と平滑性とのさらなる良好なバランスを考慮すると、ブラスト研磨用スラリに含まれる粒子の大粒子径側からの積算粒子体積が全粒子体積の3%に相当する粒子径(Dv3%)が2.0μm以上であることが好ましい。なお、本明細書では、「出力40Wにて120秒間の超音波分散処理を行った後で測定される、粒子の大粒子径側からの積算粒子体積が全粒子体積の3%に相当する粒子径(Dv3%)」を単に「Dv3%」とも称する。加工能率と平滑性とのさらなる良好なバランスの観点からは、ブラスト研磨用スラリに含まれる粒子のDv3%の下限は、より好ましくは3μm以上であり、さらに好ましくは3μmを超え、特に好ましくは3.5μm以上である。また、Dv3%の上限は特に制限されないが、加工能率と平滑性とのさらなる良好なバランスの観点からは、ブラスト研磨用スラリに含まれる粒子のDv3%の上限は、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは12μm以下であり、さらに好ましくは7.0μm以下であり、さらにより好ましくは6.2μm以下であり、特に好ましくは5.0μm以下であり、最も好ましくは4.0μm以下である。
【0027】
好ましい一実施形態では、Dv3%は、好ましくは2.5μm以上7.0μm以下であり、より好ましくは3μm以上6.2μm以下であり、さらに好ましくは3μmを超え5.0μm以下であり、特に好ましくは3.5μm以上4.0μm以下である。当該粒度分布であれば、加工能率と平滑性とのさらなる良好なバランスがより有効に達成できる。
【0028】
また、加工能率と平滑性とのさらなる良好なバランスを考慮すると、ブラスト研磨用スラリに含まれる粒子の大粒子径側からの積算粒子体積が全粒子体積の0.1%に相当する粒子径(Dv0.1%)が15μm以下であることが好ましい。なお、本明細書では、「出力40Wにて120秒間の超音波分散処理を行った後で測定される、粒子の大粒子径側からの積算粒子体積が全粒子体積の0.1%に相当する粒子径」を、単に「Dv0.1%」とも称する。これにより、粗大粒子の混入がより抑制される。加工能率と平滑性とのさらなる良好なバランスの観点からは、ブラスト研磨用スラリに含まれる粒子のDv0.1%の上限は、好ましくは15μm以下であり、より好ましくは12μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下であり、特により好ましくは7.0μm以下であり、最も好ましくは7.0μm未満である。Dv0.1%の下限は特に制限されないが、例えば2.5μm以上であり、好ましくは3.0μm以上であり、より好ましくは4.0μm以上であり、さらに好ましくは5.0μm以上である。
【0029】
好ましい一実施形態では、Dv0.1%は、好ましくは2.5μm以上15μm以下であり、より好ましくは3.0μm以上12μm以下であり、さらにより好ましくは4.0μm以上10μm以下であり、特に好ましくは5.0μm以上7.0μm以下であり、最も好ましくは5.0μm以上7.0μm未満である。
【0030】
上記のような所定の粒子径を有する粒子は、任意の粉砕手段、例えばボールミル、ロールミル、ジェットミル等により、粒子の粒径を測定しながら粉砕を行ったり、粒子を分級(例えば、水篩分級)したりするなど任意の手段で調製することができる。
【0031】
なお、本明細書において、Dv0.1%、Dv3%、Dv50%等の粒子径は出力40Wにて120秒間の超音波分散処理を行った後、レーザー回折散乱式粒子径粒度分布測定装置を用いて、粒子(スラリ中の粒子)の粒度分布(体積基準)を測定した結果から求めた値(相当径)である。なお、より詳細な測定方法・条件は実施例に記載のとおりである。
【0032】
本開示のブラスト研磨用スラリは、モース硬度8以上の第1の粒子(第1の砥粒)を必須に含む。なお、本明細書において、「モース硬度」は単に「硬度」と、「モース硬度8以上の第1の粒子」は単に「第1の粒子」または「第1の砥粒」とも称する。
【0033】
モース硬度8以上の粒子が含まれないような、比較的軟質の粒子のみが含まれるブラスト研磨用スラリでは、高い加工能率を達成することが困難となる。第1の粒子としてブラスト研磨用スラリに含まれる粒子は、モース硬度8(ビッカース硬度1648HV)以上(上限=10)であればよいが、好ましくはモース硬度9以上(上限=10)である。なお、本明細書における「モース硬度」は、以下の10種の鉱物を標準物質として、これらと比較した硬さを評価する方法であり、標準物質とサンプルとをこすり、ひっかき傷が付いた方が、低い硬度であるとして判定を行う。モース硬度を直接測定することが困難な場合、組成分析から組成を求め、同じ組成の物質のモース硬度から判断することができる。
【0034】
【表1】
【0035】
一実施形態では、ブラスト研磨用スラリは、第1の粒子を、粒子の主成分として含む。上記「粒子の主成分として含む」とは、ブラスト研磨用スラリに含まれる全粒子のうち、50質量%以上の割合で含むことをいう。ブラスト研磨用スラリに含まれる第1の粒子の含有量の下限は、含有粒子の全質量に対して、50質量%超であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましい。ブラスト研磨用スラリに含まれる第1の粒子の含有量の上限は、含有粒子の全質量に対して、例えば100質量%以下である。好ましい一実施形態では、ブラスト研磨用スラリは、第1の粒子を、含有粒子の全質量に対して、好ましくは50質量%を超えて100質量%以下の割合で含み、より好ましくは55質量%以上100質量%以下の割合で含む。
【0036】
なお、モース硬度8以上の粒子がブラスト研磨用スラリに2種類以上含まれる場合、本明細書では、モース硬度が最も高い粒子を第1の粒子として扱う。すなわち、第1の粒子は、ブラスト研磨用スラリを構成する粒子のうち、モース硬度8以上であり、かつ、最大の硬度を有する粒子である。また、ブラスト研磨用スラリに8以上の同じモース硬度(小数点以下1桁)を有する2種以上の材料からなる粒子が含まれる場合は、そのいずれの粒子も第1の粒子として扱う。同じモース硬度を有する2種以上の第1の粒子がブラスト材に含まれる場合、上記した第1の粒子の含有量は、これら2種以上の第1の粒子の合計量を指す。
【0037】
上記第1の粒子は、モース硬度が8以上の粒子であればいずれの材料から形成されてよい。例えば、第1の粒子としては、オスミウム(Os、硬度=8)、黄玉(Topaz・アルミニウムや弗素を含む珪酸塩・宝石トバーズ、硬度=8)、タングステンカーバイド(炭化タングステン、WC)(硬度=8)、ホウ化ジルコニウム(ZrB、硬度=8)、窒化アルミニウム(AlN、硬度=8)、コランダム(Corundum・酸化アルミニウム・ルビー・サファイヤ・鋼玉、硬度=9)、窒化チタン(TiN、硬度=9)、炭化チタン(TiC、硬度=9)、炭化タンタル(TaC、硬度=9)、炭化ジルコニウム(ZrC、硬度=9)、クロム(硬度=9)、酸化アルミニウム(アルミナ、Al、硬度=9)、炭化ケイ素(SiC、硬度=9)、ホウ化アルミニウム(AlB、硬度=9)、ボロンカーバイド(BC、硬度=9)、ホウ化チタン(TiB、硬度=9.5)、ベリリア(BeO、硬度=9)、ダイヤモンド(硬度=10)等の粒子が例示できる。上記粒子は、硬度が同じであれば、1種単独で使用しても、または2種以上の混合物の形態で使用してもよい。入手容易性、加工能率等の観点から、第1の粒子が炭化ケイ素および/または酸化アルミニウム粒子(アルミナ粒子)であることが好ましい。さらに上記観点からは、第1の粒子は、酸化アルミニウム粒子(アルミナ粒子)を含むとより好ましく、酸化アルミニウム粒子(アルミナ粒子)であることが好ましい。
【0038】
好ましい一実施形態では、ブラスト研磨用スラリは、第1の粒子よりもモース硬度が小さい第2の粒子をさらに含む。なお、本明細書において、第1の粒子よりもモース硬度が小さい粒子について、単に「第2の粒子」または「第2の砥粒」とも称する。
【0039】
上記モース硬度が小さい第2の粒子の存在により、第1の粒子による過度な研磨が抑制されるため、研磨後の研磨対象物(ワーク)の平滑性をより一層優れたものにすることができる。
【0040】
第2の粒子は第1の粒子よりもモース硬度が小さければよく、各粒子のモース硬度間の相対的な関係で定まる。したがって、モース硬度が8以上の2種以上の粒子を用いる場合、最もモース硬度が高い粒子が第1の粒子であり、第1の粒子以外の粒子を第2の粒子として扱う。
【0041】
第2の粒子の硬度は、第1の粒子よりも低ければ特に制限されないが、加工能率と平滑性とのさらなる良好なバランスを考慮すると、第1の粒子の硬度と第2の粒子の硬度との差は、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは1以上であり、特に好ましくは1超である。また、第1の粒子の硬度と第2の粒子の硬度との差は、好ましくは3以下であり、より好ましくは2以下であり、特に好ましくは2未満である。好ましい形態では、第1の粒子の硬度と第2の粒子の硬度との差は、好ましくは0.5以上3以下であり、より好ましくは1以上2以下であり、特に好ましくは1を超えて2未満である。
【0042】
または、第2の粒子の硬度は、好ましくは5以上8以下であり、より好ましくは6以上8未満であり、特に好ましくは6以上7.5以下である。このような硬度差または硬度であれば、加工能率と平滑性とのさらなる良好なバランスがより有効に達成できる。
【0043】
本明細書において、第2の粒子が異なる硬度を有する粒子の混合物である場合の、第2の粒子の硬度は、各粒子の硬度に当該粒子の含有量(質量比)をかけたものの和とする。例えば、第2の粒子が硬度6の粒子、硬度7の粒子および硬度8の粒子から1:3:6(質量比))の混合比で構成される場合には、第2の粒子の硬度は、7.5(=6×0.1+7×0.3+8×0.6)となる。
【0044】
第2の粒子は、第1の粒子に比して硬度の低い材料であればいずれの材料から形成されてよい。例えば、第2の粒子としては、上記第1の粒子で例示した粒子(ダイヤモンドを除く)に加えて、緑柱石(Beryl、硬度=7.8)、ケイ酸ジルコニウム(ジルコン)(ZrSiO、硬度=7.5)、電気石(Tourmaline、硬度=7.3)、酸化ジルコニウム(ジルコニア、硬度=7)、ケイ素(シリコン、硬度=7)、石英(Quartz・二酸化珪素・水晶・石英ガラスの原料、硬度=7)、スチール鋼(硬度=5〜8.5)、ガーネット(硬度=6.5〜7)、二酸化クロム(硬度=6〜7)、メノウ(硬度=6〜7)、ルテニウム(硬度=6.5)、黄鉄鋼(Pyrite、硬度=6.3)、イリジウム(硬度=6.25)、酸化ケイ素(シリカ、硬度=7)、酸化マグネシウム(マグネシア、硬度=6.5)、酸化鉄(硬度=6)、輝石・斜輝石(Augite、硬度=6)、赤鉄鉱(Hematite、硬度=6)、正長石(Orthoclase・カリウム−アルミニウム含有珪酸塩、硬度=6)、ガラス(硬度=6)、酸化セリウム(セリア、硬度=6)、酸化チタン(チタニア、硬度=5.5〜6)などの無機粒子;フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂のような合成高分子製樹脂などが例示できるが、これらに限定されない。上記粒子は、1種単独で使用しても、または2種以上の混合物の形態で使用してもよい。研磨後の研磨対象物(ワーク)の平滑性の観点から、ブラスト研磨用スラリは、第2の粒子としてケイ酸ジルコニウム粒子(ジルコン粒子)を含むと好ましい。また、上記観点から、第2の粒子は、ケイ酸ジルコニウム粒子(ジルコン粒子)であるとさらにより好ましい。なお、本明細書において、「ジルコン粒子」とは、ジルコニウムのケイ酸塩鉱物粒子であり、ジルコンサンドとして天然に産出するものである。このため、ケイ酸ジルコニウム粒子(ジルコン粒子)を含む材料として、ジルコンサンド等を用いてもよい。ジルコンの理想化学組成はZrSiOで表される。ジルコンにはケイ酸ジルコニウム(ZrSiO)以外の金属(例えば、チタン、鉄など)が不純物として含まれることがある。本発明に係るブラスト材を、ディスプレイ基板等の無機材料の研磨に用いる際、研磨対象基板への影響の低減の観点から金属不純物が少ないことが好ましい。上記点から、ジルコン粒子中の金属不純物含有量は、ジルコン粒子の総質量を基準として、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。ジルコン粒子は、高い純度のものの入手が容易であり、金属不純物含有量が0.5質量%以下のものを使用することもできる。
【0045】
好ましい一実施形態では、ブラスト研磨用スラリは、第1の粒子として、ダイヤモンド粒子、炭化タングステン粒子、アルミナ粒子、炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子、炭化ジルコニウム粒子、炭化タンタル粒子、窒化チタン粒子およびホウ化アルミニウム粒子からなる群から選択される1種と、第2の粒子として、炭化タングステン粒子、ガラス粒子、ジルコン粒子、セリア粒子、ジルコニア粒子、チタニア粒子、マグネシア粒子およびジルコン粒子からなる群から選択される1種以上とを含む。より好ましい実施形態では、第1の粒子および第2の粒子の組み合わせが、ダイヤモンド粒子と炭化タングステン粒子、炭化タングステン粒子とガラス粒子、およびアルミナ粒子とジルコン粒子からなる群より選択される組み合わせである。特に好ましい実施形態では、第1の粒子および第2の粒子の組み合わせが、アルミナ粒子とジルコン粒子との組み合わせである。
【0046】
本開示のブラスト研磨用スラリでは、粒子(砥粒)は、第1の粒子(第1の砥粒)および第2の粒子(第2の砥粒)のみから構成されることが好ましい。
【0047】
本明細書では、上述のように、ブラスト研磨用スラリに含まれ得る複数種の粒子のうち、最もモース硬度が高い粒子を第1の粒子とし、第1の粒子以外の粒子を第2の粒子とする。ここで、第1の粒子および第2の粒子の混合比は、特に制限されないが、第1の粒子の含有量は、第2の粒子の含有量よりも多いことが好ましい。これにより、高い加工能率を維持しつつ、ワークの平滑性をより一層向上できる。
【0048】
ブラスト研磨用スラリは、粒子として、50質量%を超えて100質量%未満の第1の粒子と、0質量%を超えて50質量%未満の第2の粒子とを含む(ただし、第1の粒子と第2の粒子との合計量は、ブラスト研磨用スラリに含まれる粒子の全質量(100質量%)である。)ことがより好ましい。さらに好ましくは、ブラスト研磨用スラリは、粒子として、55質量%以上70質量%以下の第1の粒子と、30質量%以上45質量%以下の第2の粒子とを含む(ただし、第1の粒子と第2の粒子との合計量は、ブラスト研磨用スラリに含まれる粒子の全質量(100質量%)である。)。
【0049】
本開示に係るブラスト研磨用スラリは、上記粒子と共に、以下で詳述する分散媒を含む。ブラスト研磨用スラリ全体に対する粒子の含有量の下限は、特に制限されないが、加工能率の観点から、例えば5質量%以上であり、好ましくは10質量%以上である。ブラスト研磨用スラリ全体に対する粒子の含有量の上限は、加工能率の観点から、例えば70質量%以下であり、好ましくは45質量%以下である。一実施形態では、ブラスト研磨用スラリ全体に対する粒子の含有量は、5質量%以上70質量%以下であり、好ましくは10質量%以上45質量%以下である。
【0050】
<分散媒>
本開示に係るブラスト研磨用スラリは、上記粒子(第1の粒子および必要に応じて添加される第2の粒子)に加え、分散媒をさらに含む。上記粒子に加えて分散媒を含むブラスト研磨用スラリは、ウェットブラスト用のブラスト材として好適に用いられる。ウェットブラスト加工は、粒子粉末(乾燥粉末)を用いるドライブラスト加工(サンドブラスト加工)に比べて、粒子が分散媒(液体)により運ばれるため空気抵抗を受けにくく、飛散による作業環境の悪化も生じにくい。また、研磨対象物(ワーク)が分散媒(液体)により冷却されるため摩擦熱による研磨対象物(ワーク)のダメージが抑えられる。さらに、研磨対象物(ワーク)の表面上に分散媒(液体)の膜が形成され、噴射された粒子も分散媒(液体)によって洗浄されるため、研磨対象物(ワーク)への粒子の食い込みが少ないといった利点がある。さらにまた、分散媒中に、必要に応じて添加される薬剤(添加剤)を溶解させることができるため、ブラスト加工と同時に上記薬剤による処理を行うこともできるという利点もある。
【0051】
分散媒としては、水が好ましく用いられるが、水に可溶な有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等の低級アルコール、またはアセトン等のケトン類の他、これらの1種以上と水との混合物を用いてもよい。ブラスト研磨用スラリに用いる分散媒としては、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水が好ましい。
【0052】
分散媒を含むブラスト研磨用スラリのpHは、例えば3以上10以下であり、好ましくは4以上9以下である。pHの調整は、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、硝酸、クエン酸等の酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリエタノールアミン等の塩基を適宜組み合わせて行ってもよい。
【0053】
分散媒には、粒子の分散を容易にする分散助剤を添加してもよい。かような分散助剤としては、ポリカルボン酸(例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合体等のポリアクリル酸類およびその塩)、リグニンスルホン酸等が例示できる。分散助剤(アンチケーキ剤)の添加量は、ブラスト研磨用スラリ全体に対し、例えば0.1質量%以上1.0質量%以下となる量である。
【0054】
ブラスト研磨用スラリは、必要に応じて、エッチング剤、界面活性剤、酸化剤、防食剤、キレート剤、防腐剤、防黴剤等の他の成分をさらに含んでもよい。ブラスト研磨用スラリが上記他の成分を含む場合の、各成分の添加量は、特に制限されず、従来と同様の量が採用できる。
【0055】
ブラスト研磨用スラリの製造方法は、特に制限されず、例えば、粒子および必要に応じて添加される分散媒、分散助剤、他の成分を、攪拌混合することにより得ることができる。
【0056】
各成分を混合する際の温度は特に制限されず、例えば10℃以上40℃以下であり、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0057】
<研磨対象物(ワーク)、ブラスト加工方法>
本開示のブラスト研磨用スラリは、ディスプレイ用ガラス基板のほか、シリコンウエハ、水晶ウエハ、レンズやプリズム等の光学素子、宝石類、青色レーザーLED用サファイヤ基板、磁気ディスク用ガラス基板、磁気ヘッド等を研磨対象物(ワーク)とした、ワーク表面の表面平滑化、ピーニング、バリ取り、エッチング(リブ形成)等のブラスト加工に用いることができる。好適には、本開示のブラスト研磨用スラリは、ディスプレイ用ガラス基板のブラスト加工、特に表面平滑化(例えば切断面の平滑化)に用いられる。すなわち、本発明の一実施形態では、ガラス加工用であるブラスト研磨用スラリが提供される。ガラス基板としては、例えば、石英ガラス、ソーダ石灰ガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス等が例示できる。特に、本開示のブラスト研磨用スラリは、ガラス基板の切断面に対して好適に使用できる。
【0058】
また、本開示のブラスト研磨用スラリによれば、適度な加工能率および平滑性のバランスにて、研磨対象物(ワーク)をブラスト加工できる。
【0059】
ここで、本開示のブラスト研磨用スラリによるブラスト加工後の研磨対象物の平滑性は、特に限定されず、用途によって適宜調節できる。例えば、ブラスト加工後の研磨対象物は、JIS B0601:2001に記載の方法に基づき測定されるRaが、ブラスト加工前の研磨対象物のRaに対して、20nm以上減少する(すなわち、ΔRaが−20nm以下である)ことが好ましく、50nm以上(ΔRaが−50nm以下)がより好ましく、80nm以上(ΔRaが−80nm以下)が更に好ましく、90nm以上(ΔRaが−90nm以下)が特に好ましい。ブラスト加工前の研磨対象物のRaに対するブラスト加工後のRaの減少の程度は大きいほど好ましいため、上限は特に制限されない。本明細書において、上記「ブラスト加工後の研磨対象物のRa(さらには、ΔRa)」は、実施例に記載の方法で測定された値である。
【0060】
本開示の一実施形態では、上記のブラスト研磨用スラリを用いるブラスト加工方法が提供される。ここで、ブラスト加工方法は本開示のブラスト研磨用スラリを使用する以外は、従来と同様の方法が必要であれば適宜改変して適用できる。以下、図1を参照しつつ、本形態についてより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲をなんら限定するものではない。
【0061】
図1は、本開示のブラスト加工方法に好適に用いられ得る装置の一具体例(ブラスト加工装置100)を表す概略図である。ブラスト加工装置100は、ブラスト加工室2、ブラスト研磨用スラリ4を収容するタンク5、タンク5からブラスト加工室2へブラスト研磨用スラリ4を輸送するブラスト材輸送部6、ならびにコンプレッサーからブラスト加工室2へ圧縮空気を供給する圧縮空気供給部8からなる。ブラスト研磨用スラリ4が分散媒を含むスラリ状の場合、タンク5に収容されたブラスト研磨用スラリ4は任意の撹拌手段(図示せず)で撹拌されることが好ましい。撹拌手段を設けることにより、スラリ中の粒子を均一に分布させることができる。また、タンク5には、コンプレッサーからタンク5に加圧用気体(例えば、圧縮空気)を供給する圧縮空気供給部(図示せず)が連設されてもよい。
【0062】
ブラスト加工室2は、研磨対象物1が配置されるステージ3、およびブラスト材輸送部6により輸送されたブラスト研磨用スラリ4を研磨対象物1に噴射する噴射ノズル7を収容する。噴射ノズル7はブラスト材4が噴射される噴射口が形成された開口部を有する。噴射ノズル7は、噴射口が、研磨対象物1に対向するように設置され、任意に、図1における矢印x方向に移動可能な態様であってもよい。噴射ノズル7の開口部の形状は特に制限されず、円形、幅広形状(例えば、研磨対象物1の幅以上の幅を有する幅広形状)等であってもよい。研磨対象物1は、通常は、噴射ノズル7の開口部と0.1mm以上10mm以下程度の距離を置いて配置される。噴射ノズル7は、ブラスト材輸送部6から輸送されたブラスト研磨用スラリ4を圧縮空気供給部8から供給される圧縮空気で加速して研磨対象物1に噴射する。これによって、研磨対象物1をブラスト加工する。ブラスト材(ブラスト研磨用スラリ4)噴射圧力は特に制限されないが、例えば、0.1MPa以上1MPa以下、好ましくは0.1MPa以上0.7MPa以下である。ブラスト材噴射量は、圧縮空気圧の調節等によって制御できる。
【0063】
本発明のブラスト研磨用スラリは一液型であってもよいし、ブラスト研磨用スラリの一部または全部を任意の混合比率で混合した二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、ブラスト研磨用スラリの供給経路を複数有する研磨装置を用いた場合、研磨装置上でブラスト研磨用スラリが混合されるように、予め調整された2つ以上のブラスト研磨用スラリを用いてもよい。
【0064】
また、本発明のブラスト研磨用スラリは、原液の形態であってもよく、ブラスト研磨用スラリの原液を水で希釈することにより調製されてもよい。ブラスト研磨用スラリが二液型であった場合には、混合および希釈の順序は任意であり、例えば一方のスラリを水で希釈後それらを混合する場合や、混合と同時に水で希釈する場合、また、混合されたブラスト研磨用スラリを水で希釈する場合等が挙げられる。
【実施例】
【0065】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。また、下記実施例において、特記しない限り、操作および測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で行った。
【0066】
実施例1〜12および比較例1
下記表2に記載の粒子(砥粒)を準備した。なお、下記表2において、各粒子(粒子1、2)の詳細は下記のとおりである。なお、下記表2において、炭化ケイ素(シリコンカーバイド)粒子は「SiC」と、アルミナ粒子は「Al」と、およびジルコン粒子は「ZrSiO」と、それぞれ、称する。また、本例で使用されるジルコン粒子は、実質的に(金属不純物含有量が0.5質量%以下)ケイ酸ジルコニウム(ZrSiO)で構成されるため、ジルコン粒子の硬度はケイ酸ジルコニウムの硬度(7.5)である。
【0067】
【化1】
【0068】
表2に記載の組成になるように粒子1を準備し、または粒子1および粒子2をそれぞれ乾式にて混合して、スラリ用粒子1〜13を調製した。得られたスラリ用粒子1〜13(分散媒に分散させる前)を、それぞれ、30質量%の濃度となるように水に懸濁して、懸濁液1〜13を調製した。さらに、得られた懸濁液1〜13に、分散助剤としてポリアクリル酸ナトリウムを0.2質量%の濃度となるようにそれぞれ加えて撹拌し、ブラスト研磨用スラリ1〜13とした。ここで、ブラスト研磨用スラリ1〜13のpHは7.5であった。
【0069】
このようにして調製したブラスト研磨用スラリ中に含まれる粒子の粒度分布を、それぞれ、以下の条件にて測定した。得られた粒度分布に基づいて、大粒子径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%に相当する粒子径(Dv50%)、大粒子径側からの積算粒子体積が全粒子体積の3%に相当する粒子径(Dv3%)、および大粒子径側からの積算粒子体積が全粒子体積の0.1%に相当する粒子径(Dv0.1%)を求めた。結果を下記表2に示す。
【0070】
(粒度分布測定)
≪前処理≫
まず、前処理として上記ブラスト研磨用スラリ1〜13をそれぞれ0.5ml計量し、これにヘキサメタリン酸ナトリウム(0.2質量%)を30ml添加した。得られた各サンプルについて、超音波出力40Wにて120秒間、超音波処理を行い、粒度分布測定用試料とした。
【0071】
≪測定≫
各サンプルについて上記の条件で超音波処理を行った後、3分以内に以下の測定条件により粒径分布(相当径)測定を行った。
【0072】
(測定条件)
測定装置: Microtrac MT3000II(マイクロトラック・ベル株式会社製)
TR透過率: 0.80〜0.90
測定時間: 30秒
測定回数: 2回
粒子透過性: 透過(TRANSPARENT)
粒子屈折率: 1.77
粒子形状: 非球形
溶媒屈折率: 1.33
計算モード: MT3000II
分布表示: 体積
循環器条件
流速: 50%
超音波出力: 40W
超音波時間: 240秒。
【0073】
上記のとおり調製したブラスト研磨用スラリ1〜13を用いて、以下の条件により、ワーク(正面側)のブラスト加工を行った。なお、ブラスト研磨用スラリは攪拌機を備えた密閉タンクに貯蔵し、ブラスト加工中は、ブラスト研磨用スラリを攪拌機で撹拌しながらブラスト加工を行った。
【0074】
(ブラスト加工条件)
装置: ミポット MBM−2(マコー株式会社製)
ワーク: 無アルカリガラス(30mm×30mm、厚さ3mm)
ノズル開口部〜ワーク距離: 0.5mm
ノズル位置: 固定
ノズル開口部形状: 円形(直径 1mm)
ノズル角度: ワークに対して直角(90°)(ノズル位置を固定して噴射)
エアー圧力: 0.4MPa。
【0075】
上記条件にてブラスト加工を行ったワークについて、加工後のワーク質量の減少質量(g)および表面粗さ(ΔRa)を評価した。なお、加工時間は、下記(加工後のワーク質量の減少質量)では、10秒間とし、また、下記(表面粗さ)では、1秒間とした。結果を下記表2に示す。
【0076】
(加工後のワーク質量の減少質量:加工能率)
加工前のワーク質量に対する加工後のワーク質量の減少質量(W(g))を測定した。なお、加工後のワーク質量の減少質量(W(g))が大きいことは、より多量に(大きく)研磨されたことを意味し、加工能率が高いことを意味する。
【0077】
(表面粗さ)
加工面における表面粗さを示す「Ra」を加工前後のワークについて測定し、加工後のRaから加工前のRaを差し引いた値をΔRaとした。ΔRaの値が低いほど、加工表面が平坦化されたことを示す。Raの測定はJIS B0601:2001に記載の方法に基づき、非接触表面形状測定機(レーザー顕微鏡 VK−X200、株式会社キーエンス製)を用いて行った。非接触表面形状測定機の測定条件としては、測定範囲(視野角)を280μm×210μmとした。
【0078】
(詰まり)
ブラスト研磨用スラリ1〜13を用いてそれぞれ詰まりの有無を評価した。このとき、詰まりの評価は、以下のようにスラリの流量(回収量)を測定することにより行った。まず、上記ブラスト加工条件により、ワークを設置しない状態で1分間ブラスト加工装置を動作させ、スラリの回収容器によって回収されるスラリの量(重量)を測定した。当該操作を1セットとし、16セット行った。最初3セットのスラリ回収量(重量)の平均(A)、と、最後3セットのスラリ回収量(重量)の平均(B)を比較して、スラリの詰まり易さの評価を行った。なお、ブラスト研磨用スラリを変更する際は加工装置の内部を水で洗浄・置換してからそれぞれ評価を行った。評価基準は以下のとおりである。
【0079】
(詰まりの評価基準)
×:上記回収量の平均(A)に対する上記回収量の平均(B)の低下率が10%以上
○:上記回収量の平均(A)に対する上記回収量の平均(B)の低下率が10%未満。
【0080】
【表2】
【0081】
上記表2から、実施例に係るブラスト研磨用スラリによれば、高い加工能率で、加工後の平滑性に優れた研磨対象物(ワーク)を得ることが可能である。また、実施例に係るブラスト研磨用スラリによれば、加工装置(配管、ノズルなどブラスト研磨用スラリの流路)の詰まりも抑制することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 研磨対象物、
4 ブラスト研磨用スラリ、
7 噴射ノズル、
100 ブラスト加工装置。
図1