【課題】電極活物質の表面に炭素質被膜を形成するための熱処理において、被加熱物全体を均一に加熱し被加熱物全体の熱処理温度及び熱処理時間を均一化して、より多くの被加熱物をより短時間で熱処理可能なリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法の提供。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法は、電極活物質およびその前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、炭素質被膜の前駆体である有機化合物とを含む混合物30を非酸化性雰囲気下で焼成する焼成工程にて、容器本体11と、その内底面11a及び内側面11bの少なくとも一方に突設された伝熱体12とを有する熱処理用容器10を用いて混合物30を熱処理し、容器本体11及び伝熱体12は炭素系材料であり、容器本体11の内部で混合物30に接する容器本体11及び伝熱体12の見かけ面積の総和Aと、混合物30の見かけ体積Vとの比(V/A)が2.5以下。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の熱処理方法では、被加熱物が粉体あるいは粒体であるから、熱処理用容器内に充填された被加熱物は、多くの空隙を含み、それらの空隙は容器あるいは被加熱物よりも熱伝導率の低い、雰囲気ガスで満たされている。そのため、熱処理用容器内では、被加熱物への熱伝導が充分ではない。また、真空に近い状態における熱処理では、伝熱に寄与するガスさえもほとんど存在しないため、さらに熱伝導が悪くなる。その結果、被加熱物は全体として熱伝導率が低くなるため、熱処理用容器の中心部への伝熱速度が遅くなり、被加熱物に処理温度のむらが生じやすい。その結果、熱処理用容器の中心部における熱処理温度の低温化、いわゆる生焼けの状態が発生する。
【0008】
この課題を解決する方法としては、熱処理する被加熱物の量を少なくする、処理時間を長くする等の方法が挙げられる。しかしながら、これらの方法は、生産性の低下や、長時間加熱による粒子成長、焦げ、焼結等の弊害を招くことがある。
一方、生産性を確保しつつ、熱処理用容器の中心部を充分な温度に加熱するために、中心部の温度低下を見越して処理温度を高くする方法が採用される場合もある。しかしながら、この場合、熱処理用容器の外縁部近傍では、被加熱物の温度が高くなり過ぎるため、粒子成長、焦げ、焼結等が生じてしまい、所望の性状の電極材料が得られないという課題があった。
【0009】
1つの熱処理用容器内に含まれる被加熱物は、後の工程において、所望の性状を有するものと、所望の性状を有しないものとに分離するのが非常に困難である。そのため、被加熱物の一部にでも、温度の高低や処理時間の長短に起因する致命的な不良が生じた場合、被加熱物全体が不良品となる可能性もある。
【0010】
特に、近年、リチウムイオン二次電池の正極材料として注目されている、リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)を含む電極材料の製造方法としては、電子伝導性を担保するために、リン酸鉄リチウムを、炭素質被膜の前駆体である有機化合物とともに熱処理し、リン酸鉄リチウムを導電性炭素質被膜で被覆する方法が広く用いられている。しかしながら、このリン酸鉄リチウムは、有機化合物とともに非酸化性雰囲気下で熱処理した際、還元反応によりFe、Fe
2P、FeP、Fe
3Pといった不純物が生成する。この不純物は、リチウムイオン二次電池内部で溶解し、金属鉄として負極に析出して、寿命の低下や短絡を引き起こす。この還元反応は、特に、被加熱物の熱処理温度が高温である場合に顕著に生じる。一方、熱処理温度が低いと、有機化合物が充分に炭化せず、導電性炭素質被膜が得られないばかりではなく、炭素質被膜がリン酸鉄リチウムの表面で絶縁膜として存在するため、リチウムイオン二次電池の性能が低下する。
このように、リン酸鉄リチウムの表面に導電性炭素質被膜を形成するための熱処理において、温度のむらは特に大きな課題であった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、電極活物質の表面に炭素質被膜を形成するための熱処理において、被加熱物全体を均一に加熱し、被加熱物全体の熱処理温度および熱処理時間を均一化して、より多くの被加熱物を、より短時間で熱処理可能なリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、電極活物質および電極活物質の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、炭素質被膜の前駆体である有機化合物とを含む混合物(被加熱物)を非酸化性雰囲気下にて焼成する焼成工程において、容器本体と、容器本体の内底面および内側面のうち少なくともいずれか一方に突設され、板状および柱状のうち少なくともいずれか一方をなす中実体からなる伝熱体とを有する熱処理用容器を用いて混合物を熱処理することにより、混合物全体を均一に加熱し、混合物全体の熱処理温度および熱処理時間を均一化して、より多くの混合物を、より短時間で熱処理可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。また、本発明者等は、熱処理用容器内部に伝熱体を設けることにより、熱処理用容器内部まで均一に熱が伝わり易くなるばかりでなく、熱処理用容器外部への熱の放出も速くなるため、より短時間に、混合物の昇温および降温が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法は、電極活物質と、前記電極活物質の表面を被覆する炭素質被膜と、を有するリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法であって、前記電極活物質および前記電極活物質の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、前記炭素質被膜の前駆体である有機化合物とを含む混合物を非酸化性雰囲気下にて焼成する焼成工程を有し、前記焼成工程において、容器本体と、該容器本体の内底面および内側面のうち少なくともいずれか一方に突設され、板状および柱状のうち少なくともいずれか一方をなす中実体からなる伝熱体とを有する熱処理用容器を用いて、前記混合物を熱処理し、前記容器本体および前記伝熱体は炭素系材料からなり、前記容器本体の内部において、前記混合物に接する前記容器本体および前記伝熱体の見かけ面積の総和Aと、前記混合物の見かけ体積Vとの比(V/A)が2.5以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法によれば、電極活物質および電極活物質の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、炭素質被膜の前駆体である有機化合物とを含む混合物(被加熱物)を非酸化性雰囲気下にて焼成する焼成工程において、容器本体と、容器本体の内底面および内側面のうち少なくともいずれか一方に突設され、板状および柱状のうち少なくともいずれか一方をなす中実体からなる伝熱体とを有する熱処理用容器を用いて混合物を熱処理することにより、混合物全体を均一に加熱し、混合物全体の熱処理温度および熱処理時間を均一化して、より多くの混合物を、より短時間で熱処理可能となる。また、本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法によれば、熱処理用容器内部に伝熱体を設けることにより、熱処理用容器内部まで均一に熱が伝わり易くなるばかりでなく、熱処理用容器外部への熱の放出も速くなるため、より短時間に、混合物の昇温および降温が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
[リチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法は、電極活物質と、電極活物質の表面を被覆する炭素質被膜と、を有するリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法であって、電極活物質および電極活物質の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、炭素質被膜の前駆体である有機化合物とを含む混合物を非酸化性雰囲気下にて焼成する焼成工程を有し、焼成工程において、容器本体と、容器本体の内底面および内側面のうち少なくともいずれか一方に突設され、板状および柱状のうち少なくともいずれか一方をなす中実体からなる伝熱体とを有する熱処理用容器を用いて、混合物を熱処理し、容器本体および伝熱体は炭素系材料からなり、容器本体の内部において、混合物に接する容器本体および伝熱体の見かけ面積の総和Aと、混合物の見かけ体積Vとの比(V/A)が2.5以下である。
【0018】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法は、上記の焼成工程の前に、電極活物質および電極活物質の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種の製造工程と、電極活物質および電極活物質の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種、炭素質被膜の前駆体である有機化合物、および溶媒を混合し、スラリーを調製するスラリー調製工程と、得られたスラリーを乾燥し、電極活物質および電極活物質の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と有機化合物とを含む混合物とする乾燥工程とを有していてもよい。
【0019】
「電極活物質および電極活物質の前駆体の製造工程」
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法では、電極活物質としては、特に限定されないが、Li
xA
yD
zPO
4(但し、Aは、Co、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、Dは、Mg、Ca、S、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sc、Yおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0<x<2、0<y<1.5、0≦z<1.5)が用いられることが好ましい。このようなLi
xA
yD
zPO
4で表される化合物の中でも、LiFePO
4がより好ましい。
【0020】
Li
xA
yD
zPO
4で表される化合物の製造方法としては、固相法、液相法、気相法等の従来の方法を用いることができる。このような方法で得られたLi
xA
yD
zPO
4としては、例えば、粒子状のもの(以下、「Li
xA
yD
zPO
4粒子」と言うことがある。)が挙げられる。
Li
xA
yD
zPO
4粒子は、例えば、Li源と、A源と、P源と、水と、必要に応じてD源と、を混合して得られるスラリー状の混合物を水熱合成して得られる。水熱合成によれば、Li
xA
yD
zPO
4は、水中に沈殿物として生成する。得られた沈殿物は、Li
xA
yD
zPO
4の前駆体であってもよい。この場合、Li
xA
yD
zPO
4の前駆体を焼成することで、目的のLi
xA
yD
zPO
4粒子が得られる。
この水熱合成には耐圧密閉容器を用いることが好ましい。
【0021】
ここで、Li源としては、酢酸リチウム(LiCH
3COO)、塩化リチウム(LiCl)等のリチウム塩および水酸化リチウム(LiOH)等が挙げられる。これらの中でも、Li源としては、酢酸リチウム、塩化リチウムおよび水酸化リチウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0022】
A源としては、Co、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種を含む塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。例えば、Li
xA
yD
zPO
4におけるAがFeである場合、Fe源としては、塩化鉄(II)(FeCl
2)、酢酸鉄(II)(Fe(CH
3COO)
2)、硫酸鉄(II)(FeSO
4)等の2価の鉄塩が挙げられる。これらの中でも、Fe源としては、塩化鉄(II)、酢酸鉄(II)および硫酸鉄(II)からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0023】
D源としては、Mg、Ca、S、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sc、Yおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。
【0024】
P源としては、リン酸(H
3PO
4)、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)等のリン酸化合物が挙げられる。これらの中でも、P源としては、リン酸、リン酸二水素アンモニウムおよびリン酸水素二アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0025】
「スラリー調製工程」
スラリー調製工程により、電極活物質および電極活物質の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種の間に、炭素質被膜の前駆体である有機化合物が介在し、それらが均一に混合するため、電極活物質および電極活物質の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種の表面を有機化合物でむらなく被覆することができる。
さらに、焼成工程により、電極活物質の表面を被覆する有機化合物が炭化することにより、炭素質被膜が均一に被覆された電極活物質を含む電極材料が得られる。
【0026】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法で用いられる有機化合物としては、電極活物質の表面に炭素質被膜を形成できる化合物であれば特に限定されない。このような有機化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテルおよび多価アルコール等からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
多価アルコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン、グリセリン等が挙げられる。
【0027】
電極活物質および電極活物質の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種に対する有機化合物の配合量は、この有機化合物の全質量を炭素元素に換算したとき、電極活物質および電極活物質の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種100質量部に対して、0.6質量部以上かつ4.0質量部以下であることが好ましく、1.1質量部以上かつ1.7質量部以下であることがより好ましい。
有機化合物の炭素元素換算の配合量が0.6質量部以上であることにより、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法で得られた電極材料を含む電極を備えたリチウムイオン二次電池を作製した場合に、高速充放電レートにおける放電容量が低くなり難く、充分な充放電レート性能を実現することができる。一方、有機化合物の炭素元素換算の配合量が4.0質量部以下であることにより、リチウムイオンが炭素質被膜中に拡散する際に立体障害が少なく、リチウムイオンの移動抵抗が低くなる。その結果、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法で得られた電極材料を含む電極を備えたリチウムイオン二次電池を作製した場合に、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が上昇し難く、高速充放電レートにおける電圧低下を抑制することができる。
【0028】
スラリー調製工程では、電極活物質および電極活物質の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、有機化合物とを、溶媒に溶解または分散させて、均一なスラリーを調製する。
これらの原料を溶媒に溶解または分散させる際には、分散剤を加えることもできる。
電極活物質および電極活物質の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、有機化合物とを、溶媒に溶解または分散させる方法としては、溶媒に電極活物質および電極活物質の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種を分散させ、溶媒に有機化合物を溶解または分散させる方法であれば、特に限定されない。このような方法としては、例えば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、アトライタ等の媒体粒子を高速で攪拌する媒体攪拌型分散装置を用いる方法が好ましい。
【0029】
溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のアミド類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの溶媒の中でも、水が好ましい。
【0030】
「乾燥工程」
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法では、電極活物質および電極活物質の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、有機化合物とを、溶媒に分散させてなるスラリーを乾燥することによって、電極活物質および電極活物質の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、有機化合物との混合物を調製してもよい。
また、噴霧乾燥法を用いて、上記のスラリーを、高温雰囲気中、例えば、70℃以上かつ250℃以下の大気中に噴霧し、乾燥して、電極活物質および電極活物質の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、有機化合物との混合物の造粒体を生成してもよい。この噴霧乾燥法では、速やかに乾燥して略球状の造粒体を生成するためには、噴霧の際の液滴の粒子径は、0.01μm以上かつ100μm以下であることが好ましい。
【0031】
「焼成工程」
次いで、得られた乾燥物(混合物)を熱処理用容器に容れて、非酸化性雰囲気下、好ましくは500℃以上かつ850℃以下、より好ましくは600℃以上かつ850℃以下の温度にて、0.1時間以上かつ4時間以下焼成する。
【0032】
熱処理用容器としては、例えば、
図1に示すような容器が用いられる。
この熱処理用容器10は、容器本体11と、容器本体11の内底面11aに突設され、円柱状をなす中実体からなる伝熱体12,12,12,12とを備えている。
伝熱体12は、容器本体11の内底面11aに対して垂直に設けられ、容器本体11の高さ方向(容器本体11内部の深さ方向)に沿って配置されている。
伝熱体12,12,12,12の配置は特に限定されないが、例えば、容器本体11内に収容した上記の乾燥物(混合物)30に対して、伝熱体12,12,12,12を介して均一に熱を伝えることができるように、伝熱体12,12,12,12が配置される。
【0033】
伝熱体12は、乾燥物(混合物)30よりも熱伝導率の高い素材からなる。また、容器本体11と伝熱体12は、同一の素材からなることが好ましい。加工の容易さ、価格の安さ、熱伝導率の高さの点から、容器本体11と伝熱体12は、炭素系材料を用いることが好ましい。
【0034】
また、容器本体11の内部において、乾燥物(混合物)30に接する容器本体11および伝熱体12の見かけ面積の総和をA、乾燥物(混合物)30の見かけ体積をVとした場合、その総和Aと体積Vとの比(V/A)が2.5以下である。
前記の総和Aと体積Vとの比(V/A)が2.5を超えると、容器本体11内に収容した乾燥物(混合物)30全体に対して、伝熱体12を介して均一に熱を伝えることができなくなる。
【0035】
非酸化性雰囲気としては、窒素(N
2)、アルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる雰囲気が好ましい。乾燥物(混合物)30の酸化をより抑えたい場合には、水素(H
2)等の還元性ガスを数体積%程度含む還元性雰囲気が好ましい。また、焼成時に非酸化性雰囲気中に蒸発した有機分を除去することを目的として、非酸化性雰囲気中に酸素(O
2)等の支燃性ガスまたは可燃性ガスを導入してもよい。
【0036】
ここで、焼成温度を500℃以上とすることにより、乾燥物(混合物)30に含まれる有機化合物の分解および反応が充分に進行し易く、有機化合物の炭化を充分に行い易い。その結果、得られた凝集体中に高抵抗の有機化合物の分解物が生成することを防止し易い。一方、焼成温度を850℃以下とすることにより、乾燥物(混合物)30中のリチウム(Li)が蒸発し難く、還元による金属やリン化物の生成を抑制できる。また、電極活物質の粒子が目的の大きさ以上に粒成長することが抑制される。その結果、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法で得られた電極材料を含む電極を備えたリチウムイオン二次電池を作製した場合に、高速充放電レートにおける放電容量が低くなることを防止でき、充分な充放電レート性能を有するリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【0037】
焼成工程における、乾燥物(混合物)30の焼成時間は、有機化合物が充分に炭化する時間であればよく、良好な熱伝導性を有する本法では、生産性を考慮して可能な限り短くすることができる。
【0038】
これにより、乾燥物(混合物)30中の有機化合物が熱分解して生成した炭素により電極活物質粒子の一次粒子の表面が被覆される。
【0039】
なお、
図1には、容器本体11と、容器本体11の内底面11aに突設され、円柱状をなす中実体からなる4つの伝熱体12とを備えた熱処理用容器10を例示したが、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法では、熱処理用容器10の構成は
図1に示すものに限定されない。本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法にあっては、熱処理用容器10は、容器本体11と、容器本体11の内底面11aおよび内側面11bのうち少なくともいずれか一方に突設され、板状および柱状のうち少なくともいずれか一方をなす中実体からなる伝熱体12とを有するものであればよい。また、熱処理用容器10では、容器本体11の内部に設けられる伝熱体12の数および配置は、容器本体11内に収容した乾燥物(混合物)30に対して、伝熱体12を介して均一に熱を伝えられるように、乾燥物(混合物)30の量や熱伝導性に応じて適宜調整される。
【0040】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法によれば、電極活物質および電極活物質の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、炭素質被膜の前駆体である有機化合物とを含む混合物(被加熱物)を非酸化性雰囲気下にて焼成する焼成工程において、容器本体11と、容器本体11の内底面11aおよび内側面11bのうち少なくともいずれか一方に突設され、板状および柱状のうち少なくともいずれか一方をなす中実体からなる伝熱体12とを有する熱処理用容器10を用いて混合物を熱処理することにより、混合物30全体を均一に加熱し、混合物30全体の熱処理温度および熱処理時間を均一化して、より多くの混合物30を、より短時間で熱処理可能となる。
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法によれば、熱処理用容器10内部に伝熱体12を設けることにより、熱処理用容器10内部まで均一に熱が伝わり易くなるばかりでなく、熱処理用容器10外部への熱の放出も速くなるため、より短時間に、混合物30の昇温および降温が可能である。これにより、混合物30の焼成工程に要する時間を短縮することができる。
さらに、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法によれば、容器本体11の内部において、混合物30に接する容器本体11および伝熱体12の見かけ面積の総和Aと、混合物30の見かけ体積Vとの比(V/A)が2.5以下とすることにより、容器本体11内に収容した混合物30全体に対して、伝熱体12を介して均一に熱を伝えることができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
[熱処理用容器の作製]
直方体状の炭素系材料を所定の形状に切削し、
図1に示す形状の熱処理用容器を作製した。
【0043】
「電極材料の作製」
水熱法により合成したリン酸鉄リチウム(LiFePO
4)50kgと、有機化合物としてのショ糖2.5kgと、水とを混合して100Lとし、その混合物をボールミルにて粉砕、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを180℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、ショ糖で被覆されたリン酸鉄リチウムで構成された造粒体を得た。
得られた造粒体5kgを熱処理用容器に容れて、窒素雰囲気下、昇温速度300℃/時間で780℃まで昇温した後、3時間保持した。このときの造粒体に接する熱処理用容器の容器本体および伝熱体の見かけ面積の総和Aと、造粒体の見かけ体積Vとの比(V/A)は2.45であった。
その後、自然冷却して、炭素被覆を有する実施例1のリン酸鉄リチウム(電極材料A1)を得た。
【0044】
「リチウムイオン二次電池の作製」
溶媒であるN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)に、電極材料A1と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)とを、ペースト中の質量比で、電極材料A1:PVdF:AB=90:5:5となるように加えて、これらを混合し、電極材料ペースト(正極用)を調製した。
次いで、この電極材料ペースト(正極用)を、厚さ15μmのアルミニウム箔(集電体)の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、アルミニウム箔の表面に正極合剤層を形成した。
その後、正極合剤層を、600kgf/cm
2の圧力にて加圧し、実施例1の正極を作製した。
次いで、正極に対し、負極として天然黒鉛負極板 (黒鉛:PVdF:AB=94:3:3)を配置し、これら正極と負極の間に多孔質ポリプロピレンからなるセパレーターを配置し、電池用部材とした。正極と負極の理論容量比を1:1.1とした。
一方、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとを1:1(質量比)にて混合し、さらに、その混合液に1MのLiPF
6溶液を加えて、リチウムイオン伝導性を有する電解液を作製した。
次いで、電池用部材を電解液に浸漬し、実施例1のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0045】
[実施例2]
熱処理用容器として、より細い伝熱体を多数配した熱処理用容器を用いたこと以外は実施例1と同様にして、炭素被覆を有する実施例2のリン酸鉄リチウム(電極材料A2)を得た。このときの造粒体に接する熱処理用容器の容器本体および伝熱体の見かけ面積の総和Aと、造粒体の見かけ体積Vとの比(V/A)は1.4であった。
また、電極材料A2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0046】
[実施例3]
実施例1と同様にして、炭素被覆を有する実施例3のリン酸鉄リチウム(電極材料A3)を得た。このときの造粒体に接する熱処理用容器の容器本体および伝熱体の見かけ面積の総和Aと、造粒体の見かけ体積Vとの比(V/A)は2.0であった。
また、電極材料A3を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0047】
[実施例4]
実施例1と同様にして、炭素被覆を有する実施例4のリン酸鉄リチウム(電極材料A4)を得た。このときの造粒体に接する熱処理用容器の容器本体および伝熱体の見かけ面積の総和Aと、造粒体の見かけ体積Vとの比(V/A)は2.3であった。
また、電極材料A4を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0048】
[比較例1]
熱処理用容器として、
図2に示す、2つの伝熱体12を備えた熱処理用容器を用いたこと以外は実施例1と同様にして、炭素被覆を有する比較例1のリン酸鉄リチウム(電極材料B1)を得た。このときの造粒体に接する熱処理用容器の容器本体および伝熱体の見かけ面積の総和Aと、造粒体の見かけ体積Vとの比(V/A)は3.2であった。
また、電極材料B1を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0049】
[比較例2]
熱処理用容器として、
図2に示す熱処理用容器を用い、造粒体を熱処理用容器に容れて、窒素雰囲気下、昇温速度300℃/時間で870℃まで昇温した後、3時間保持したこと以外は実施例1と同様にして、炭素被覆を有する比較例2のリン酸鉄リチウム(電極材料B2)を得た。このときの造粒体に接する熱処理用容器の容器本体および伝熱体の見かけ面積の総和Aと、造粒体の見かけ体積Vとの比(V/A)は3.2であった。
また、電極材料B2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0050】
[比較例3]
熱処理用容器として、伝熱体を設けないものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、炭素被覆を有する比較例3のリン酸鉄リチウム(電極材料B3)を得た。このときの造粒体に接する熱処理用容器の容器本体および伝熱体の見かけ面積の総和Aと、造粒体の見かけ体積Vとの比(V/A)は4.0であった。
また、電極材料B3を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0051】
[電極材料の評価]
「粉末X線回折(XRD)測定」
実施例1〜4および比較例1〜3の電極材料について、粉末X線回折(XRD)測定により結晶相を同定した。結果を表1および
図3に示す。
【0052】
「炭素量測定」
また、実施例1〜4および比較例1〜3の電極材料について、炭素分析計(装置名:炭素硫黄分析装置 EMIA−810W、堀場製作所社製)を用いて、炭素の含有量を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
「リチウムイオン二次電池の評価」
実施例1〜4および比較例1〜3のリチウムイオン二次電池について、以下の評価を行った。
(1)トリクル充電試験
リチウムイオン二次電池について、環境温度60℃にて、1C電流値で電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電を行った後、定電圧充電に切替えて、この定電圧充電を10日間行った。その後、1C電流値にて電池電圧が2Vとなるまで定電流放電した。定電流充電容量および定電圧充電容量の和と、定電流放電容量との差をトリクル試験不可逆容量(mAh/g)とした。結果を表1および
図4に示す。
【0054】
(2)1000サイクル放電容量維持率
リチウムイオン二次電池について、環境温度60℃にて、2C電流値で電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電を行った後、定電圧充電に切替えて電流値が0.01Cとなった時点で充電を終了した。その後、放電電流2Cでの放電を行い、電流電圧が2Vとなった時点で放電を終了した。その際の放電容量を測定して初期容量とした。
その後、前述の条件で充放電を繰り返し、1000サイクル目の放電容量を測定して、初期容量に対する放電容量維持率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1、
図3および
図4の結果から、実施例1〜4のリチウムイオン二次電池用電極材料は、LiFePO
4の表面が炭素質被膜で充分に被覆されているとともに、不純物としてFe
2Pを含まないことが確認できた。そのため、実施例1〜4のリチウムイオン二次電池は、放電容量およびサイクル寿命等の電池特性に優れることが確認できた。
一方、比較例1および比較例3のリチウムイオン二次電池用電極材料は、有機化合物のショ糖の炭化が充分ではなく、LiFePO
4の表面に抵抗膜として炭素質被膜が存在するため、比較例1および比較例3のリチウムイオン二次電池は、放電容量が低いことが確認できた。
また、比較例2のリチウムイオン二次電池用電極材料は、不純物としてFe
2Pを含むため、比較例2のリチウムイオン二次電池は、放電容量の劣化が激しく、トリクル充電試験において、明確な分解電流が見られた。