【解決手段】一主面を、板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部2と、静電チャック部2の前記載置面と反対側の面に間隙を有するパターンで接着された加熱部材50と、加熱部材50の間隙を充填するシート材20と、静電チャック部2を冷却する機能を有するベース部10とをこの順に備え、シート材20は、ショア硬度(A)が10〜70である静電チャック装置100。
一主面を、板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部と、前記静電チャック部の前記載置面と反対側の面に間隙を有するパターンで接着された加熱部材と、前記加熱部材の間隙を充填するシート材と、前記静電チャック部を冷却する機能を有するベース部とをこの順に備え、前記シート材は、ショア硬度(A)が10〜70である静電チャック装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<静電チャック装置>
本発明の静電チャック装置は、一主面を、板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部と、前記静電チャック部の前記載置面と反対側の面に間隙を有するパターンで接着された加熱部材と、前記加熱部材の間隙を充填するシート材と、前記静電チャック部を冷却する機能を有するベース部とをこの順に備え、前記シート材は、ショア硬度(A)が10〜70である。
まず、本発明の静電チャック装置における静電チャック部、加熱部材、シート材、並びにベース部の積層構成について説明する。
【0014】
図1は、本発明の静電チャック装置の積層構成の一例を示す断面模式図である。
静電チャック装置100は、ウエハを固定する静電チャック部2と、静電チャック部2を加熱する加熱部材50と、静電チャック部2を冷却する機能を有する厚みのある円板状のベース部10とを有する。静電チャック部2とベース部10との間には、静電チャック部2側から順に、加熱部材50、シート材20、及び絶縁材層60を有する。
【0015】
加熱部材50は、図示しない接着剤、粘着剤等を介して、静電チャック部2の載置面と反対側の面(加熱部材設置面という)上に位置し、静電チャック部2に、間隙を有するパターンで接着されている。加熱部材50は、例えば、幅の狭い帯状の金属材料を蛇行させた1つ又は複数のパターンにより構成することができる。
図1には、4つの加熱部材50が示されている。これらの加熱部材50は、通常、1つのパターンで連なっているが、複数の、同一種又は異種のパターンにより構成されていてもよい。例えば、直径の異なる複数の輪状の加熱部材を同心円状に配置してもよい。
【0016】
図1のシート材20は、ショア硬度(A)が10〜70であるため、加熱部材50の間隙の形状に追随する。従って、静電チャック部2の加熱部材設置面に加熱部材50がある場所は、加熱部材50上又は加熱部材50の側面に隣接し、加熱部材50がない場所は静電チャック部2に隣接している。
静電チャック装置の製造方法の詳細は後述するが、静電チャック装置は、加熱部材50を固定した静電チャック部2の加熱部材設置面側に、シート材20と、必要に応じて絶縁材層60を介在させて、静電チャック部2とベース部10とを挟み、加圧することで、製造することができる。このとき、シート材20として、ショア硬度(A)が10〜70である硬度が低い材質のシートを使用することで、シート材20の一部が流動的に移動して、加熱部材50同士の間隙に入り込み、静電チャック部2と加熱部材5とにより生じた凹凸を埋設するので、加熱部材50を静電チャック部2の加熱部材設置面に安定に固定化することができる。シート材のショア硬度(A)は、例えば、テクロック社製のデュロメータGS−706で測定することができる。
【0017】
また、加熱部材50の間隙の全体積(以下「間隙割合」と称することがある)は、シート材20の体積の50体積%以下であることが好ましい。50体積%以下であることで、加熱部材50の間隙に埋設されていない部分のシート材20の厚さが確保され、加熱部材50と絶縁材層60(絶縁材層60を有さない場合はベース部10)との近接を抑制し、静電チャック部とベース部との温度差により生じる応力を緩和することができる。また、一般に、静電チャック装置の構造上の制限から、間隙割合は10体積%以上になり易い。
【0018】
更に、
図1の静電チャック装置100は、シート材20とベース部10との間に、絶縁材層60を有する。
図1においては、絶縁材層60をベース部10に隣接する位置に設けているが、絶縁材層60は、例えば、加熱部材50と静電チャック部2との間に設けられていてもよいし、シート材20とベース部10との間及び加熱部材50と静電チャック部2との間の両方に設けられていてもよい。
本発明の静電チャック装置の積層構成は
図1に示す構成に限られない。
以下、図面の符号を省略して説明する。
【0019】
〔シート材〕
シート材は、ショア硬度(A)(JIS Z 2246:2000)が10〜70である。
ショア硬度(A)が10未満であるシート材は入手することができず、70を超えるシート材は、表面凹凸への追従性が悪く、静電チャック部及び加熱部材への密着性に優れない。シート材のショア硬度(A)は15〜65であることが好ましく、20〜60であることがより好ましい。
シート材は上記のような硬度の低い材質であることで、シート材が、加熱部材が固定化された静電チャック部とベース部とに挟まれたときに、シート材の一部が流動的に加熱部材の間隙に入り込み、加熱部材を静電チャック部に固定化する。
シート材は、チューイングガムのように塑性変形するものではなく、弾力性のある素材であることが好ましい。具体的には、シート材の貯蔵弾性率E’が、0〜200℃の温度範囲において1〜10MPaであることが好ましく、2〜8MPaであることがより好ましい。E’が1MPa以上であることで、塑性変形しにくく、E’が10MPa以下であることで、シート材のショア硬度(A)を70以下にし易い。
シート材の貯蔵弾性率E’は、JIS K 7244(1999年)のプラスチック動的機械特性の試験方法に基づき測定することができる。
【0020】
本発明において、シート材は、加熱部材の間隙を埋設し、加熱部材を安定に固定化する機能を有すると共に、静電チャック部とベース部との温度差により生じる応力を緩和する機能も有し得る。
静電チャック部とベース部との温度差により生じる応力を緩和する観点から、シート材は、シリコーン系エラストマー、及びフッ素系エラストマーからなる群より選択される1種以上を含有することが好ましい。
シリコーン系エラストマーとしては、オルガノポリシロキサンを主成分としたもので、ポリジメチルシロキサン系、ポリメチルフェニルシロキサン系、ポリジフェニルシロキサン系に分けられる。一部をビニル基、アルコキシ基等で変性したものもある。具体例として、KEシリーズ〔信越化学工業(株)製〕、SEシリーズ、CYシリーズ、SHシリーズ〔以上、東レダウコーニングシリコーン(株)製〕などが挙げられる。
【0021】
フッ素系エラストマーとしては、ハードセグメントがフッ素系樹脂であり、ソフトセグメントがフッ素系ゴムである構造を有するエラストマー、シリコーン系エラストマーに含まれる炭化水素基の一部又は全部の水素原子がフッ素原子に置換されたエラストマー等が挙げられる。
シート材は、シリコーン系エラストマー、又はフッ素系エラストマーを、それぞれ単独で含んでいてもよいし、2種以上を含んでいてもよいし、1種以上のシリコーン系エラストマーと1種以上のフッ素系エラストマーの両方を含んでいてもよい。
【0022】
〔静電チャック部〕
静電チャック部は、一主面を、板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵する。
より具体的には、例えば、上面が半導体ウエハ等の板状試料を載置する載置面とされた載置板と、この載置板と一体化され該載置板を支持する支持板と、これら載置板と支持板との間に設けられた静電吸着用内部電極及び静電吸着用内部電極の周囲を絶縁する絶縁材層(チャック内絶縁材層)と、支持板を貫通するようにして設けられ静電吸着用内部電極に直流電圧を印加する給電用端子とにより構成されていることが好ましい。
【0023】
載置板及び支持板は、重ね合わせた面の形状を同じくする円板状のもので、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al
2O
3−SiC)複合焼結体、酸化アルミニウム(Al
2O
3)焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、酸化イットリウム(Y
2O
3)焼結体等の機械的な強度を有し、腐食性ガス及びそのプラズマに対する耐久性を有する絶縁性のセラミックス焼結体からなるものであることが好ましい。
載置板の載置面には、直径が板状試料の厚みより小さい突起部が複数個形成され、これらの突起部が板状試料を支える構成であることが好ましい。
【0024】
静電チャック部の厚さ(載置板及び支持板の合計の厚み)は0.7mm〜5.0mmが好ましい。静電チャック部の厚さが0.7mm以上であることで、静電チャック部の機械的強度を確保することができる。静電チャック部の厚さが5.0mm以下であることで、静電チャック部の横方向の熱移動が増加しにくく、所定の面内温度分布が得られ易くなるため、熱容量が増加しにくく、熱応答性が劣化しにくい。なお、静電チャック部の横方向とは、
図1に示すような、静電チャック部、加熱部材、シート材、並びにベース部の積層構成において、積層方向と直交する方向をいう。
【0025】
静電吸着用内部電極は、電荷を発生させて静電吸着力で板状試料を固定するための静電チャック用電極として用いられるもので、その用途によって、その形状や、大きさが適宜調整される。
静電吸着用内部電極は、酸化アルミニウム−炭化タンタル(Al
2O
3−Ta
4C
5)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム−タングステン(Al
2O
3−W)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al
2O
3−SiC)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム−タングステン(AlN−W)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム−タンタル(AlN−Ta)導電性複合焼結体等の導電性セラミックス、又は、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)等の高融点金属により形成されている。
【0026】
静電吸着用内部電極の厚さは、特に限定されるものではないが、0.1μm〜100μmが好ましく、5μm〜20μmがより好ましい。静電吸着用内部電極の厚さが0.1μm以上であることで、充分な導電性を確保することができ、厚さが100μm以下であることで、載置板及び支持板と、静電吸着用内部電極との間の熱膨張率差が大きくなりにくく、載置板と支持板との接合界面にクラックが入りにくい。
このような厚さの静電吸着用内部電極は、スパッタ法、蒸着法等の成膜法、又はスクリーン印刷法等の塗工法により容易に形成することができる。
【0027】
チャック内絶縁材層は、静電吸着用内部電極を囲繞して腐食性ガス及びそのプラズマから静電吸着用内部電極を保護するとともに、載置板と支持板との境界部、すなわち静電吸着用内部電極以外の外周部領域を接合一体化するものである。チャック内絶縁材層は、載置板及び支持板を構成する材料と同一組成または主成分が同一の絶縁材料により構成されていることが好ましい。
【0028】
給電用端子は、静電吸着用内部電極に直流電圧を印加するために設けられた棒状のものである。給電用端子の材料としては、耐熱性に優れた導電性材料であれば特に制限されるものではないが、熱膨張係数が静電吸着用内部電極及び支持板の熱膨張係数に近似したものが好ましく、例えば、静電吸着用内部電極を構成している導電性セラミックス、又は、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、コバール合金等の金属材料が好適に用いられる。
【0029】
給電用端子は、絶縁性を有する碍子によりベース部に対して絶縁されていることが好ましい。
また、給電用端子は支持板に接合一体化され、さらに、載置板と支持板とは、静電吸着用内部電極及びチャック内絶縁材層により接合一体化されて静電チャック部を構成していることが好ましい。
【0030】
〔加熱部材〕
加熱部材は、静電チャック部の載置面と反対側の面に位置し、接着剤、粘着剤等を介して、静電チャック部に、間隙を有するパターンで固定されている。
加熱部材の形態は特に制限されないが、相互に独立した2つ以上のヒーターパターンからなるヒータエレメントであることが好ましい。
ヒータエレメントは、例えば、静電チャック部の載置面と反対側の面(加熱部材設置面)の中心部に形成された内ヒータと、内ヒータの周縁部外方に環状に形成された外ヒータとの、相互に独立した2つのヒータにより構成することができる。内ヒータ及び外ヒータは、それぞれが、幅の狭い帯状の金属材料を蛇行させたパターンを、加熱部材設置面の中心軸を中心として、この軸の回りに繰り返し配置し、かつ隣接するパターン同士を接続することで、1つの連続した帯状のヒーターパターンとすることができる。
内ヒータ及び外ヒータをそれぞれ独立に制御することにより、静電チャック部の載置板の載置面に静電吸着により固定されている板状試料の面内温度分布を精度良く制御することができる。
【0031】
ヒータエレメントは、厚みが0.2mm以下、好ましくは0.1mm以下の一定の厚みを有する非磁性金属薄板、例えば、チタン(Ti)薄板、タングステン(W)薄板、モリブデン(Mo)薄板等をフォトリソグラフィー法により、所望のヒーターパターンにエッチング加工することで形成されることが好ましい。
ヒータエレメントの厚みが0.2mm以下であることで、ヒータエレメントのパターン形状が板状試料の温度分布として反映されにくく、板状試料の面内温度を所望の温度パターンに維持し易くなる。
また、ヒータエレメントを非磁性金属で形成すると、静電チャック装置を高周波雰囲気中で用いてもヒータエレメントが高周波により自己発熱しにくく、板状試料の面内温度を所望の一定温度又は一定の温度パターンに維持し易くなる。
また、一定の厚みの非磁性金属薄板を用いてヒータエレメントを形成すると、ヒータエレメントの厚みが加熱面全域で一定となり、さらに発熱量も加熱面全域で一定となるので、静電チャック部の載置面における温度分布を均一化することができる。
【0032】
〔絶縁材層〕
静電チャック装置は、ベース部の少なくとも一部を被覆する絶縁材層を有することが好ましい。
本発明の静電チャック装置は、静電チャック部を加熱する加熱部材を有していることから、静電チャック部とベース部との導通(ショート不良)を抑制し、ベース部の耐電圧性を向上するために、絶縁材層を有することが好ましい。
絶縁材層は、ベース部の少なくとも一部を被覆していればよいが、ベース部の全部を被覆するフィルム状又はシート状の層であることが好ましい。
また、絶縁材層の位置は、静電チャック部とベース部との間にあればよく、また、単層のみならず、複数の層で構成されていてもよい。例えば、ベース部に隣接する位置、加熱部材と静電チャック部との間等に絶縁材層を有していてもよい。
以上の中でも、絶縁材層は、絶縁材層の形成容易性の観点から、加熱部材と、ベース部との間であって、ベース部に近接する位置に備えられることが好ましい。
【0033】
絶縁材層をベース部に固定する場合、絶縁材層は、ベース部の上面に接着剤を介して固定されていることが好ましい。絶縁材層の固定に用いる接着剤(絶縁材層用接着剤)は特に制限されず、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の耐熱性及び絶縁性を有するシート状、又はフィルム状の接着性樹脂を用いることができる。絶縁材層用接着剤の厚みは5μm〜100μmが好ましく、より好ましくは10μm〜50μmである。絶縁材層用接着剤の面内の厚みのバラツキは、ベース部による静電チャック部の温度制御の面内均一性を上げる観点から10μm以内が好ましい。
絶縁材層の熱伝導率は、静電チャック部の温度調整の観点から、0.05W/mk以上かつ0.5W/mk以下が好ましく、より好ましくは0.1W/mk以上かつ0.25W/mk以下である。
【0034】
〔ベース部〕
ベース部は、静電チャック部を冷却する機能を有し、加熱部材により加熱された静電チャック部を所望の温度に調整するための部材であり、静電チャック部に固定された板状試料のエッチング等により生じた発熱を下げる機能も有する。
ベース部の形状は特に制限されないが、通常、厚みのある円板状である。ベース部は、その内部に水を循環させる流路が形成された水冷ベース等であることが好ましい。
ベース部を構成する材料は、熱伝導性、導電性、及び加工性に優れた金属、これらの金属を含む複合材、並びに、セラミックスが挙げられる。具体的には、例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)、銅合金、ステンレス鋼(SUS)等が好適に用いられる。ベース部の少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理が施されているか、アルミナ等の絶縁膜が成膜されていることが好ましい。
【0035】
<静電チャック装置の製造方法>
静電チャック装置の製造方法は、本発明の静電チャック装置の積層構成を形成し得る方法であれば、特に制限されず、例えば、静電チャック部、加熱部材、シート材、ベース部をこの順に積層して、静電チャック部とベース部とを、ホットプレス等により加圧して挟んでもよいし、各層間に接着剤を介在させて、互いに隣接する層を接着してもよい。
シート材を加熱部材の間隙に入り込ませ、シート材と、加熱部材及び静電チャック部との密着性を高めて、加熱部材を静電チャック部の板状試料の載置面上と反対側の面に安定に固定化し易くする観点から、シート材は、層厚が50〜300μmであり、かつショア硬度(A)が10〜70であるシート材を用いることが好ましい。
【0036】
すなわち、静電チャック装置の製造方法は、一主面を、板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部の前記載置面と反対側の面に、間隙を有するパターンで接着された加熱部材を形成する工程、及び、前記静電チャック部の前記加熱部材が形成された面と、層厚が50〜300μmであり、かつショア硬度(A)が10〜70であるシート材とを対峙させて、前記静電チャック部と、前記静電チャック部を冷却する機能を有するベース部とで、前記シート材を挟み、押圧する工程を有することが好ましい。
【0037】
静電チャック装置の製造に用いるシート材の層厚(シート材に外力が加わっていない状態での層厚)が50μm以上であることで、静電チャック部とベース部との温度差により生じる応力を緩和し易く、300μm以下であることで、静電チャック部の面内温度均一性の低下を抑制することができる。
シート材の層厚は、70〜250μmであることが好ましい。シート材の厚さは、例えば、ミツトヨ社製の膜厚VL−50Aで測定することができる。
シート材のショア硬度(A)、材質等については、既述のとおりである。
【0038】
静電チャック装置の製造に接着剤を用いる場合は、接着剤シートを用いてもよいし、液状の接着剤を用いてもよいが、接着剤を付与した層の層厚を小さくする観点から、接着剤と、水と、必要に応じて接着剤を溶解する有機溶媒とを含む塗布液(以下、接着用溶液と称する)を用いることが好ましい。
【0039】
静電チャック装置の製造にあたっては、予め、静電チャック部の加熱部材設置面上に接着剤等で加熱部材を固定しておくことが好ましい。
静電チャック装置に絶縁材層を備える場合は、ベース部上に接着剤(絶縁材層用接着剤)で絶縁材層を固定しておくことが好ましい。
加熱部材は、1つ又は複数の個別の加熱部材を、間隔を空けつつ、加熱部材設置面上にそれぞれ固定してもよいし、加熱部材設置面上に膜状又は板状の加熱部材を貼り付けてから、加熱部材の一部をエッチング等により除去して間隙を形成してもよい。
【0040】
シート材は、片面又は両面に予め接着用溶液を塗布しておくことが好ましい。加熱部材付き静電チャック部とベース部とで、接着用溶液を塗布済みのシート材を挟み、ホットプレス等により加圧することで、静電チャック装置が得られる。
静電チャック装置に絶縁材層を設けるときは、絶縁材の片面または両面に接着用溶液を塗布しておき、加熱部材付き静電チャック部とベース部とで、接着用溶液を塗布済みのシート材及び接着用溶液を塗布済みの絶縁材を任意の位置に配置して挟み、ホットプレス等により加圧することで、絶縁材層付きの静電チャック装置が得られる。
【0041】
接着用溶液の接着剤は、公知の接着剤を用いることができ、アクリル系、エポキシ系、シリコーン系等の種々の接着剤を用いることができる。接着剤は市販品でもよく、例えば、シリコーン接着剤(シリコーン粘着剤を含む)として、東レ・ダウコーニング社製、シリコーン粘着剤(例えば、SD 4580 PSA、SD 4584 PSA、SD 4585 PSA、SD 4587 L PSA、SD 4560 PSA等)、モメンティブ社製、シリコーン接着剤(例えば、XE13−B3208、TSE3221、TSE3212S、TSE3261−G、TSE3280−G、TSE3281−G、TSE3221、TSE326、TSE326M、TSE325等)、信越シリコーン社製、シリコーン接着剤(例えば、KE−1820、KE−1823、KE−1825、KE−1830、KE−1833等)等が挙げられる。
【0042】
接着用溶液は、接着剤を溶解する有機溶媒を含んでいてもよい。有機溶媒としては、接着剤を溶解し得るものであれば特に制限されず、例えば、アルコール及びケトンからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられ、ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0043】
接着用溶液は、薄膜での均一塗布の観点から、接着剤の濃度が、0.05質量%〜5質量%となる範囲で調製することが好ましい。接着用溶液中の接着剤の濃度は、0.1質量%〜1質量%であることがより好ましい。
更に、接着用溶液は、接着剤の加水分解を促進するために触媒を含でいてもよい。触媒としては、塩酸、硝酸、アンモニア等が挙げられ、中でも、塩酸、及びアンモニアが好ましい。
静電チャック装置内に触媒が残存することを抑制する観点から、接着用溶液は、触媒を含まないことが好ましく、接着剤として、反応性官能基がエポキシ基、イソシアネート基、アミノ基、又はメルカプト基である接着剤を含むことが好ましい。
【0044】
また、静電チャック部は次のように製造することが好ましい。
まず、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al
2O
3−SiC)複合焼結体により板状の載置板及び支持板を作製する。この場合、炭化ケイ素粉末及び酸化アルミニウム粉末を含む混合粉末を所望の形状に成形し、その後、例えば1600℃〜2000℃の温度、非酸化性雰囲気、好ましくは不活性雰囲気下にて所定時間、焼成することにより、載置板及び支持板を得ることができる。
【0045】
次いで、支持板に、給電用端子を嵌め込み保持するための固定孔を複数個形成する。
給電用端子を、支持板の固定孔に密着固定し得る大きさ、形状となるように作製する。この給電用端子の作製方法としては、例えば、給電用端子を導電性複合焼結体とした場合、導電性セラミックス粉末を、所望の形状に成形して加圧焼成する方法等が挙げられる。
【0046】
このとき、給電用端子に用いられる導電性セラミックス粉末としては、静電吸着用内部電極と同様の材質からなる導電性セラミックス粉末が好ましい。
また、給電用端子を金属とした場合、高融点金属を用い、研削法、粉末治金等の金属加工法等により形成する方法等が挙げられる。
【0047】
次いで、給電用端子が嵌め込まれた支持板の表面の所定領域に、給電用端子に接触するように、上記の導電性セラミックス粉末等の導電材料をテルピネオールとエチルセルロース等とを含む有機溶媒に分散した静電吸着用内部電極形成用塗布液を塗布し、乾燥して、静電吸着用内部電極形成層とする。
この塗布法としては、均一な厚さに塗布する必要があることから、スクリーン印刷法等を用いることが望ましい。また、他の方法としては、蒸着法あるいはスパッタリング法により上記の高融点金属の薄膜を成膜する方法、上記の導電性セラミックスあるいは高融点金属からなる薄板を配設して静電吸着用内部電極形成層とする方法等がある。
【0048】
また、支持板上の静電吸着用内部電極形成層を形成した領域以外の領域に、絶縁性、耐腐食性、耐プラズマ性を向上させるために、載置板及び支持板と同一組成または主成分が同一の粉末材料を含むチャック内絶縁材層を形成する。このチャック内絶縁材層は、例えば、載置板及び支持板と同一組成または主成分が同一の絶縁材料粉末をテレピノールとエチルセルロース等とを含む有機溶媒に分散した塗布液を、上記所定領域にスクリーン印刷等で塗布し、乾燥することにより形成することができる。
【0049】
次いで、支持板上の静電吸着用内部電極形成層及び絶縁材の上に載置板を重ね合わせ、次いで、これらを高温、高圧下にてホットプレスして一体化する。このホットプレスにおける雰囲気は、真空、あるいはAr、He、N
2等の不活性雰囲気が好ましい。また、圧力は5〜10MPaが好ましく、温度は1600℃〜1850℃が好ましい。
【0050】
このホットプレスにより、静電吸着用内部電極形成層は焼成されて導電性複合焼結体からなる静電吸着用内部電極となる。同時に、支持板及び載置板は、チャック内絶縁材層を介して接合一体化される。
また、給電用端子は、高温、高圧下でのホットプレスで再焼成され、支持板の固定孔に密着固定される。
そして、これら接合体の上下面、外周およびガス穴等を機械加工し、静電チャック部とする。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例においては、
図1に示す静電チャック装置の積層構成に類似する積層体を作成し、評価した。
【0052】
<1.実施例及び比較例の積層体の構成>
実施例及び一部の比較例の積層体は、
図1における静電チャック部2、加熱部材50、シート材20、及びベース部10をこの順に積層した構成をしている。ただし、実施例及び比較例の積層体は、
図1における絶縁材層60は備えていない。比較例1の積層体は、ショア硬度(A)が10〜70のシート材を有していない。
【0053】
<2.積層体の製造>
セラミックス板(Al
2O
3−SiC複合焼結体;静電チャック部)上に、接着剤を介して厚さ100μmのTi箔(加熱部材)を積層してから、Ti箔をエッチングすることにより、セラミックス板の一部を露出させ、直径の異なる輪状のTi箔が同心円状に配置されたTiパターンを形成した。
Tiパターンの模式図を
図2に示す。
図2において、静電チャック部上に、静電チャック部の外周22まで加熱部材のTi箔が積層されており、Ti箔は、静電チャック部の外周22側の2つについては、Ti箔のエッチングにより、加熱部材52と加熱部材54とに分けられ、加熱部材52と加熱部材54との間隙53は、凹状に形成されている。
Tiパターンによる凹凸面が形成されたセラミックス板上に、表1に示すショア硬度(A)及び層厚〔μm〕のシート材(シリコーン系エラストマーシート)を積層し、更にアルミ治具(直径40mm、厚さ2cm;ベース部10)を積層して、セラミックス板とアルミ治具を張り合わせ、100℃で3分間加熱し、積層体を得た。なお、シート材は、片面がエンボス状であり、他方の面が凹凸の無い平滑な表面のシート材を用い、積層体は、エンボス状の表面が、Tiパターンによる凹凸面が形成されたセラミックス板に隣接するように張り合わされている。
実施例及び比較例で用いたシート材のショア硬度(A)は、テクロック社製のデュロメータGS−706で測定し、厚さはミツトヨ社製の膜厚VL−50Aで測定したものである。
【0054】
<3.評価方法>
実施例及び比較例の積層体について次の評価をした。結果を表1に示す。
1.加熱部材の間隙の埋設状態
実施例及び比較例の積層体の製造においては、シート材とベース部との間に接着剤を介在させなかったため、加熱部材及び静電チャック部に張り付いたシート材から、ベース部を容易に剥離することができた。また、シート材は、無色透明であるため、ベース部側のシート材表面を観察することにより、シート材による凹部の埋設状態を確認することができた。ベース部側のシート材表面を、光学顕微鏡により150倍に拡大した画像を確認することで、加熱部材の間隙のシート材による埋設状態を評価した。
シート材の加熱部材側の表面はエンボス状であり、他方の面は平滑であるため、圧着によりシート材が押圧されて、加熱部材の凹部に埋設されれば、エンボスが潰れてシート材は透明に見える。一方、シート材が加熱部材の凹部に十分埋設されないと、エンボスが潰れないため、光の乱反射によりシート材が白濁して見える。
【0055】
図2に示されるTiパターンの加熱部材52と加熱部材54との間隙53の拡大図を
図3に示す。
図3には、加熱部材152、加熱部材154及び、加熱部材152と加熱部材154との間隙153が示されている。間隙153は、凹状となっており、いわば、加熱部材152と加熱部材154との間に形成された溝である。
また、
図3には、間隙153の任意の位置において、間隙153の幅が最短となるように結んだ直線が示されている。当該直線において、間隙153の加熱部材154側の一端をAとし、間隙153の加熱部材152側の一端をBとする。
図4には、直線ABの位置における加熱部材の間隙の断面図を示す。加熱部材の間隙253には、シート材222が台形状に埋設されている。
【0056】
既述のように、実施例及び比較例で用いたシート材の表面は、加熱部材に押し当てた面が、エンボス状になっているため、シート材222のうち、間隙253の壁面(
図4においては底面)に押し当てられている領域のシート材222の表面bは、透明に見える。一方、シート材222のうち、間隙253の底面に押し当てられていない領域のシート材222の表面a及び表面cは、エンボスの凹凸による光の乱反射により、白濁して見える。
加熱部材の間隙の幅、
図3及び
図4においては、直線ABの長さLのうち、シート材が白濁して見える領域の長さ(
図4においては、L
1及びL
2)の合計(
図4においては、L
1+L
2)を「空壁部」とし、空壁部の割合〔
図4においては、100×(L
1+L
2)/L〕を算出した。加熱部材の間隙のシート材による埋設状態は、算出した空壁部の割合に基づき、下記評価基準により評価した。
【0057】
(評価基準)
A:凹部の両端を結ぶ直線上で、空壁部が50%以下である。
B:凹部の両端を結ぶ直線上で、空壁部が50%超90%未満である。
C:凹部の両端を結ぶ直線上で、空壁部が90%以上である。
【0058】
2.シート材の貯蔵弾性率E’
実施例及び比較例で用いたシート材の貯蔵弾性率E’を日立ハイテクサイエンス社製のDMA−7100を用いて、室温(25℃)にて3回測定し、その平均値を表1に示した。
結果を表1に示す。
【0059】
3.シート材の体積に対する加熱部材の間隙の全体積の割合(間隙割合)
実施例及び比較例の積層体の製造に用いたシート材の体積と、加熱部材の間隙の全体積とから、シート材の体積に対する加熱部材の間隙の全体積の割合を算出した。結果を表1に示す。なお、加熱部材の間隙の全体積は、加熱部材の高さ(加熱部材の厚さ)、加熱部材間の溝の幅の長さ及び、加熱部材間の溝の全長から算出した。また、加熱部材間の溝の幅さ及び全長は、ガラスで接着した加熱部材の凹凸面を、光学顕微鏡で150倍に拡大し撮影した写真を元に算出した。
【0060】
【表1】
【0061】
表1からわかるように、ショア硬度(A)が10〜70のシート材を用いた積層体は、加熱部材の間隙にシート材が入り込み、凹凸を埋設していることがわかる。加熱部材の凹凸がシート材で埋設されていることで、加熱部材は安定に静電チャック部に固定化されることがわかった。