【解決手段】一主面を、板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部2と、静電チャック部2の前記載置面と反対側の面に間隙を有するパターンで接着された加熱部材50と、シート材20と、静電チャック部2を冷却する機能を有するベース部10とをこの順に備え、パターンの間隙が、無機充填剤及び接着剤を含む無機充填剤組成物30で充填された静電チャック装置100。
一主面を、板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部と、前記静電チャック部の前記載置面と反対側の面に間隙を有するパターンで接着された加熱部材と、シート材と、前記静電チャック部を冷却する機能を有するベース部とをこの順に備え、前記パターンの間隙が、無機充填剤及び接着剤を含む無機充填剤組成物で充填された静電チャック装置。
前記無機充填剤が、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム及び酸化亜鉛からなる群より選択される1種以上を含む請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
前記接着剤が、ポリイミド樹脂接着剤、シリコーン樹脂接着剤、及びエポキシ樹脂接着剤からなる群より選択される1種以上を含む請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
前記シート材が、シリコーン系エラストマー及びフッ素系エラストマーからなる群より選択される1種以上を含有する請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<静電チャック装置>
本発明の静電チャック装置は、一主面を、板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部と、前記静電チャック部の前記載置面と反対側の面に間隙を有するパターンで接着された加熱部材と、シート材と、前記静電チャック部を冷却する機能を有するベース部とをこの順に備え、前記パターンの間隙が、無機充填剤及び接着剤を含む無機充填剤組成物で充填されている。
まず、本発明の静電チャック装置における静電チャック部、加熱部材、シート材、及びベース部の積層構成について説明する。
【0017】
図1は、本発明の静電チャック装置の積層構成の一例を示す断面模式図である。
静電チャック装置100は、ウエハを固定する静電チャック部2と、静電チャック部2を加熱する加熱部材50と、静電チャック部2を冷却する機能を有する厚みのある円板状のベース部10とを有する。静電チャック部2とベース部10との間には、静電チャック部2側から順に、加熱部材50、シート材20、及び絶縁材層60を有し、パターンの間隙が、無機充填剤及び接着剤を含む無機充填剤組成物30で充填されている。
【0018】
加熱部材50は、図示しない接着剤、粘着剤等を介して、静電チャック部2の載置面と反対側の面(加熱部材設置面という)上に位置し、静電チャック部2に、間隙を有するパターンで接着されている。加熱部材50は、例えば、幅の狭い帯状の金属材料を蛇行させた1つ又は複数のパターンにより構成することができる。
図1には、4つの加熱部材50が示されている。これらの加熱部材50は、通常、1つのパターンで連なっているが、複数の、同一種又は異種のパターンにより構成されていてもよい。例えば、直径の異なる複数の輪状の加熱部材を同心円状に配置してもよい。
【0019】
加熱部材50から発される熱は、通常、静電チャック装置100の上下方向に伝達し、静電チャック装置100の横方向に拡散しにくい。
なお、静電チャック装置100の上下方向とは、静電チャック部2からベース部10に垂線を下ろしたときの、垂線と平行する方向をいい、静電チャック装置100の横方向とは、当該垂線と直交する方向をいう。
パターンの間隙には、従来、一般に、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂等の耐熱性のある高分子材料が充填され、静電チャック部2と加熱部材50とにより生じた凹凸が埋設された。しかし、高分子材料は、熱伝導性を有しないため、パターンの間隙には熱が行き渡り難く、静電チャック部2の面内温度均一性が得られにくかった。
【0020】
これに対し、本発明においては、パターンの間隙が、無機充填剤及び接着剤を含む無機充填剤組成物30で充填されている。無機充填剤は、金属酸化物、金属窒化物等の熱伝導性の成分を含有するため、加熱部材50から発された熱が、パターンの間隙に充填された金属充填剤を介して伝導し易く、パターンの間隙も加熱され易くなる。よって、静電チャック部2の面内温度均一性に優れる。
【0021】
図1に示す静電チャック装置100の無機充填剤組成物30は、パターンの間隙、すなわち、静電チャック部2と加熱部材50とにより生じた凹凸を完全に埋め尽くしており、無機充填剤組成物30の層厚と、加熱部材50の高さが同じであるが、パターンの間隙は、無機充填剤組成物30で埋め尽くさなくてもよい。
パターンの間隙の熱伝導は、互いに隣接するパターンの加熱部材50同士が、無機充填剤を含む無機充填剤組成物30で結ばれることで達成され易いため、パターンの間隙には、互いに隣接するパターンの加熱部材50同士が、無機充填剤及び接着剤を含む無機充填剤組成物30で結ばれる程度に、無機充填剤組成物30が充填されていればよい。具体的には、パターンの間隙の全体積に対する無機充填剤組成物30の充填率が20体積%以上あればよい。
パターンの間隙が、無機充填剤組成物30で埋め尽くされていない場合に生じ得るシート材20と無機充填剤組成物30層表面との間の空間は、別途、高分子材料等を充填すればよい。
【0022】
図1のシート材20は、静電チャック部とベース部との温度差により生じる応力を緩和する部材であり、柔軟な材質であることが好ましい。シート材20の硬度は特に制限されないが、例えば、ショア硬度(A)(JIS Z 2246:2000)が10〜70であると、パターンの間隙が、無機充填剤組成物30で埋め尽くされていない場合に生じ得るシート材20と無機充填剤組成物30層表面との間の空間を、シート材20で充填することができ、別途、高分子材料等を用意する手間が省ける。
【0023】
更に、
図1の静電チャック装置100は、シート材20とベース部10との間に、絶縁材層60を有する。
図1においては、絶縁材層60をベース部10に隣接する位置に設けているが、絶縁材層60の位置は特に制限されず、例えば、加熱部材50と静電チャック部2との間、加熱部材50とシート材20との間等に設けられていてもよい。
本発明の静電チャック装置の積層構成は
図1に示す構成に限られない。
以下、図面の符号を省略して説明する。
【0024】
〔無機充填剤組成物〕
無機充填剤組成物は、無機充填剤及び接着剤を含む。
無機充填剤組成物は、加熱部材のパターンの間隙の熱伝導性を阻害しない限度において、無機充填剤及び接着剤以外の成分を更に含んでいてもよい。
【0025】
(無機充填剤)
無機充填剤は、加熱部材のパターンの間隙の熱伝導性を上げる観点から、熱伝導率(JIS R 1650-3:2002)が、20W/(m・K)以上の材質であることが好ましい。熱伝導率が20W/(m・K)以上あることで、パターンの間隙の加熱が行き届き、静電チャック部の面内温度均一性がより向上する。無機充填剤の熱伝導率の上限は特に制限されず、高いほど好ましいが、通常、高くても200W/(m・K)程度である。
無機充填剤の熱伝導率は、40W/(m・K)以上であることがより好ましい。無機充填剤の熱伝導率は、真空理工社製、熱定数測定装置TC−7000型により測定することができる。
【0026】
無機充填剤としては、金属窒化物、金属酸化物、金属等が挙げられ、これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよいが、加熱部材同士による導通を抑制する観点から、金属窒化物及び金属酸化物のいずれか一方又は両方を用いることが好ましい。無機充填剤は、金属窒化物及び金属酸化物からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。
金属酸化物としては、酸化亜鉛〔ZnO
2;熱伝導率=25W/(m・K)〕、酸化アルミニウム〔Al
2O
3;熱伝導率=40W/(m・K)〕等が挙げられ、金属窒化物としては、窒化アルミニウム〔AlN;熱伝導率=170W/(m・K)〕等が挙げられる。
無機充填剤は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム及び酸化亜鉛からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0027】
無機充填剤組成物中の無機充填剤の含有量(「無機充填剤濃度」と称することがある)は、加熱部材のパターンの間隙の熱伝導性を上げる観点から、20体積%〜50体積%であることが好ましい。無機充填剤組成物中の無機充填剤の含有量が20体積%以上であることで、加熱部材のパターンの間隙の熱伝導性が向上し、50質量%以下であることで、無機充填剤組成物の脆化を抑制することができる。
無機充填剤組成物中の無機充填剤の含有量は、30体積%〜50体積%であることがより好ましい。
【0028】
(接着剤)
接着剤は、無機充填剤の分散媒として働き、また、静電チャック部とシート材との接着剤として機能し得る。
接着剤の種類は特に制限されず、ポリイミド樹脂接着剤、シリコーン樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。中でも、加熱部材の加熱による無機充填剤組成物の劣化を抑制する観点から、耐熱性を有する接着剤が好ましく、ポリイミド樹脂接着剤及びシリコーン樹脂接着剤が個好ましく、シリコーン樹脂接着剤がより好ましい。
【0029】
既述のように、無機充填剤組成物は、パターンの間隙の全部を充填していなくてもよいが、加熱部材のパターンの間隙の熱伝導性を上げる観点から、パターンの間隙の全体積に対する無機充填剤組成物の充填率は、20体積%以上であることが好ましい。同様の観点から、パターンの間隙の全体積に対する無機充填剤組成物の充填率は、40体積%以上であることがより好ましく、60体積%以上であることが更に好ましく、80体積%以上であることがより更に好ましい。パターンの間隙の全体積に対する無機充填剤組成物の充填率の上限は100体積%である。
【0030】
(高分子材料)
パターンの間隙が、無機充填剤組成物で埋め尽くされていない場合に生じ得るシート材と無機充填剤組成物層表面との間の空間は、別途、高分子材料等を充填することができる。
高分子材料としては、ポリイミド樹脂等の耐熱樹脂、シリコーン接着剤(シリコーンゴム)、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、RTV(Room Temperature Vulcanizing)ゴム、及びフッ素シリコーンゴム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0031】
〔シート材〕
シート材は、静電チャック部とベース部との温度差により生じる応力を緩和する部材であり、かかる観点から、シート材は、シリコーン系エラストマー、及びフッ素系エラストマーからなる群より選択されるいずれかを含有することが好ましい。
シリコーン系エラストマーとしては、オルガノポリシロキサンを主成分としたもので、ポリジメチルシロキサン系、ポリメチルフェニルシロキサン系、ポリジフェニルシロキサン系に分けられる。一部をビニル基、アルコキシ基等で変性したものもある。具体例として、KEシリーズ〔信越化学工業(株)製〕、SEシリーズ、CYシリーズ、SHシリーズ〔以上、東レダウコーニングシリコーン(株)製〕などが挙げられる。
【0032】
フッ素系エラストマーとしては、ハードセグメントがフッ素系樹脂であり、ソフトセグメントがフッ素系ゴムである構造を有するエラストマー、シリコーン系エラストマーに含まれる炭化水素基の一部又は全部の水素原子がフッ素原子に置換されたエラストマー等が挙げられる。
シート材は、シリコーン系エラストマー、又はフッ素系エラストマーを、それぞれ単独で含んでいてもよいし、2種以上を含んでいてもよいし、1種以上のシリコーン系エラストマーと1種以上のフッ素系エラストマーの両方を含んでいてもよい。
【0033】
シート材の厚さは、20μm〜500μmであることが好ましい。シート材の厚さが20μm以上であることで、静電チャック部とベース部との温度差により生じる応力を緩和し易く、500μm以下であることで、静電チャック部の面内温度均一性の低下を抑制することができる。
シート材のショア硬度(A)(JIS Z 2246:2000)は、静電チャック部とベース部との温度差により生じる応力を緩和する観点から、20〜80であることが好ましい。
また、より硬度の低いショア硬度(A)(JIS Z 2246:2000)が10〜70のシート材を用いることで、パターンの間隙が、無機充填剤組成物で埋め尽くされていない場合に生じ得るシート材と無機充填剤組成物層表面との間の空間を、シート材により埋設することができる。
【0034】
〔静電チャック部〕
静電チャック部は、一主面を、板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵する。
より具体的には、例えば、上面が半導体ウエハ等の板状試料を載置する載置面とされた載置板と、この載置板と一体化され該載置板を支持する支持板と、これら載置板と支持板との間に設けられた静電吸着用内部電極及び静電吸着用内部電極の周囲を絶縁する絶縁材層(チャック内絶縁材層)と、支持板を貫通するようにして設けられ静電吸着用内部電極に直流電圧を印加する給電用端子とにより構成されていることが好ましい。
【0035】
載置板及び支持板は、重ね合わせた面の形状を同じくする円板状のもので、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al
2O
3−SiC)複合焼結体、酸化アルミニウム(Al
2O
3)焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、酸化イットリウム(Y
2O
3)焼結体等の機械的な強度を有し、腐食性ガス及びそのプラズマに対する耐久性を有する絶縁性のセラミックス焼結体からなるものであることが好ましい。
載置板の載置面には、直径が板状試料の厚みより小さい突起部が複数個形成され、これらの突起部が板状試料を支える構成であることが好ましい。
【0036】
静電チャック部の厚さ(載置板及び支持板の合計の厚み)は0.7mm〜5.0mmが好ましい。静電チャック部の厚さが0.7mm以上であることで、静電チャック部の機械的強度を確保することができる。静電チャック部の厚さが5.0mm以下であることで、静電チャック部の横方向の熱移動が増加しにくく、所定の面内温度分布が得られ易くなるため、熱容量が増加しにくく、熱応答性が劣化しにくい。
【0037】
静電吸着用内部電極は、電荷を発生させて静電吸着力で板状試料を固定するための静電チャック用電極として用いられるもので、その用途によって、その形状や、大きさが適宜調整される。
静電吸着用内部電極は、酸化アルミニウム−炭化タンタル(Al
2O
3−Ta
4C
5)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム−タングステン(Al
2O
3−W)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al
2O
3−SiC)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム−タングステン(AlN−W)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム−タンタル(AlN−Ta)導電性複合焼結体等の導電性セラミックス、又は、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)等の高融点金属により形成されている。
【0038】
静電吸着用内部電極の厚さは、特に限定されるものではないが、0.1μm〜100μmが好ましく、5μm〜20μmがより好ましい。静電吸着用内部電極の厚さが0.1μm以上であることで、充分な導電性を確保することができ、厚さが100μm以下であることで、載置板及び支持板と、静電吸着用内部電極との間の熱膨張率差が大きくなりにくく、載置板と支持板との接合界面にクラックが入りにくい。
このような厚さの静電吸着用内部電極は、スパッタ法、蒸着法等の成膜法、又はスクリーン印刷法等の塗工法により容易に形成することができる。
【0039】
チャック内絶縁材層は、静電吸着用内部電極を囲繞して腐食性ガス及びそのプラズマから静電吸着用内部電極を保護するとともに、載置板と支持板との境界部、すなわち静電吸着用内部電極以外の外周部領域を接合一体化するものである。チャック内絶縁材層は、載置板及び支持板を構成する材料と同一組成または主成分が同一の絶縁材料により構成されていることが好ましい。
【0040】
給電用端子は、静電吸着用内部電極に直流電圧を印加するために設けられた棒状のものである。給電用端子の材料としては、耐熱性に優れた導電性材料であれば特に制限されるものではないが、熱膨張係数が静電吸着用内部電極及び支持板の熱膨張係数に近似したものが好ましく、例えば、静電吸着用内部電極を構成している導電性セラミックス、又は、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、コバール合金等の金属材料が好適に用いられる。
【0041】
給電用端子は、絶縁性を有する碍子によりベース部に対して絶縁されていることが好ましい。
また、給電用端子は支持板に接合一体化され、さらに、載置板と支持板とは、静電吸着用内部電極及びチャック内絶縁材層により接合一体化されて静電チャック部を構成していることが好ましい。
【0042】
〔加熱部材〕
加熱部材は、静電チャック部の載置面と反対側の面に位置し、接着剤、粘着剤等を介して、静電チャック部に、間隙を有するパターンで接着されている。
加熱部材の形態は特に制限されないが、相互に独立した2つ以上のヒーターパターンからなるヒーターエレメントであることが好ましい。
ヒーターエレメントは、例えば、静電チャック部の載置面と反対側の面(加熱部材設置面)の中心部に形成された内ヒーターと、内ヒーターの周縁部外方に環状に形成された外ヒーターとの、相互に独立した2つのヒーターにより構成することができる。内ヒーター及び外ヒーターは、それぞれが、幅の狭い帯状の金属材料を蛇行させたパターンを、加熱部材設置面の中心軸を中心として、この軸の回りに繰り返し配置し、かつ隣接するパターン同士を接続することで、1つの連続した帯状のヒーターパターンとすることができる。
内ヒーター及び外ヒーターをそれぞれ独立に制御することにより、静電チャック部の載置板の載置面に静電吸着により固定されている板状試料の面内温度分布を精度良く制御することができる。
【0043】
ヒーターエレメントは、厚みが0.2mm以下、好ましくは0.1mm以下の一定の厚みを有する非磁性金属薄板、例えば、チタン(Ti)薄板、タングステン(W)薄板、モリブデン(Mo)薄板等をフォトリソグラフィー法により、所望のヒーターパターンにエッチング加工することで形成されることが好ましい。
ヒーターエレメントの厚みが0.2mm以下であることで、ヒーターエレメントのパターン形状が板状試料の温度分布として反映されにくく、板状試料の面内温度を所望の温度パターンに維持し易くなる。
また、ヒーターエレメントを非磁性金属で形成すると、静電チャック装置を高周波雰囲気中で用いてもヒーターエレメントが高周波により自己発熱しにくく、板状試料の面内温度を所望の一定温度又は一定の温度パターンに維持し易くなる。
また、一定の厚みの非磁性金属薄板を用いてヒーターエレメントを形成すると、ヒーターエレメントの厚みが加熱面全域で一定となり、さらに発熱量も加熱面全域で一定となるので、静電チャック部の載置面における温度分布を均一化することができる。
【0044】
〔絶縁材層〕
静電チャック装置は、ベース部の少なくとも一部を被覆する絶縁材層を有することが好ましい。
本発明の静電チャック装置は、静電チャック部を加熱する加熱部材を有していることから、静電チャック部とベース部との導通(ショート不良)を抑制し、ベース部の耐電圧性を向上するために、絶縁材層を有することが好ましい。
絶縁材層は、ベース部の少なくとも一部を被覆していればよいが、ベース部の全部を被覆するフィルム状又はシート状の層であることが好ましい。
また、絶縁材層の位置は、静電チャック部とベース部との間にあればよく、また、単層のみならず、複数の層で構成されていてもよい。例えば、ベース部に隣接する位置、加熱部材と静電チャック部との間、加熱部材とシート材との間等に絶縁材層を有していてもよい。
以上の中でも、絶縁材層は、絶縁材層の形成容易性の観点から、加熱部材と、ベース部との間であって、ベース部に近接する位置に備えられることが好ましい。
【0045】
絶縁材層をベース部に固定する場合、絶縁材層は、ベース部の上面に接着剤を介して固定されていることが好ましい。絶縁材層の固定に用いる接着剤(絶縁材層用接着剤)は特に制限されず、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の耐熱性及び絶縁性を有するシート状、又はフィルム状の接着性樹脂を用いることができる。絶縁材層用接着剤の厚みは5μm〜100μmが好ましく、より好ましくは10μm〜50μmである。絶縁材層用接着剤の面内の厚みのバラツキは、ベース部による静電チャック部の温度制御の面内均一性を上げる観点から10μm以内が好ましい。
絶縁材層の熱伝導率は、静電チャック部の温度調整の観点から、0.05W/mk以上かつ0.5W/mk以下が好ましく、より好ましくは0.1W/mk以上かつ0.25W/mk以下である。
【0046】
〔ベース部〕
ベース部は、静電チャック部を冷却する機能を有し、加熱部材により加熱された静電チャック部を所望の温度に調整するための部材であり、静電チャック部に固定された板状試料のエッチング等により生じた発熱を下げる機能も有する。
ベース部の形状は特に制限されないが、通常、厚みのある円板状である。ベース部は、その内部に水を循環させる流路が形成された水冷ベース等であることが好ましい。
ベース部を構成する材料は、熱伝導性、導電性、及び加工性に優れた金属、これらの金属を含む複合材、並びに、セラミックスが挙げられる。具体的には、例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)、銅合金、ステンレス鋼(SUS)等が好適に用いられる。ベース部の少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理が施されているか、アルミナ等の絶縁膜が成膜されていることが好ましい。
【0047】
<静電チャック装置の製造方法>
静電チャック装置の製造方法は、本発明の静電チャック装置の積層構成を形成し得る方法であれば、特に制限されず、静電チャック部、加熱部材及び無機充填剤組成物、シート材、ベース部をこの順に積層して、静電チャック部とベース部とを、ホットプレス等により加圧して挟んでもよいし、各層間に接着剤を介在させて、互いに隣接する層を接着してもよい。接着剤を用いる場合は、接着剤シートを用いてもよいし、液状の接着剤を用いてもよいが、接着層の層厚を小さくする観点から、接着剤と、水と、必要に応じて接着剤を溶解する有機溶媒とを含む塗布液(以下、接着用溶液と称する)を用いることが好ましい。
【0048】
静電チャック装置の製造にあたっては、予め、静電チャック部の加熱部材設置面上に接着剤等で加熱部材を固定しておくことが好ましい。静電チャック装置に絶縁材層を備える場合は、ベース部上に接着剤(絶縁材層用接着剤)で絶縁材層を固定しておくことが好ましい。
加熱部材は、1つ又は複数の個別の加熱部材を、間隔を空けつつ、加熱部材設置面上にそれぞれ固定してもよいし、加熱部材設置面上に膜状又は板状の加熱部材を貼り付けてから、加熱部材の一部をエッチング等により除去して加熱部材設置面を露出させ、間隙を形成してもよい。
【0049】
パターンの間隙には、無機充填剤及び接着剤を含む無機充填剤組成物を充填する。無機充填剤組成物は、無機充填剤は、無機充填剤組成物中の含有量が、例えば、20体積%〜50体積%となるように、接着剤および接着剤を溶解する溶媒とを含む無機充填剤分散液を用いることが好ましい。
接着剤を溶解する溶媒としては、接着剤の種類にもよるが、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
パターンの間隙への無機充填剤分散液の付与方法としては、スクリーン印刷による付与、スピンコートによる塗布の他、スプレー、ハケ、バーコーターによる塗布、インクジェット法による吐出等が挙げられる。
無機充填剤分散液の付与後は、分散液の付与面を加熱して溶媒を飛ばすことが好ましい。分散液付与面の加熱は、無機充填剤分散液膜の膜厚、無機充填剤分散液中の接着剤又は無機充填剤の濃度、種類等により異なるが、80℃〜120℃で、30秒〜5分間の条件で行うことが好ましい。
【0050】
パターンの間隙の全部に無機充填剤組成物を充填せず、パターンの間隙の全体積に対する無機充填剤組成物の充填率が100体積%未満となる割合で無機充填剤組成物を充填する場合は、パターンの間隙に、更に、高分子材料を付与することができる。
高分子材料は、高分子材料と高分子材料を溶解する溶媒とを含む高分子材料溶液を用いてパターンの間隙に付与することが好ましい。高分子材料を溶解する溶媒としては、高分子材料の種類にもよるが、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられ、例えば、高分子材料として、ポリイミド樹脂を用いる場合、溶媒はメチルエチルケトンを用いることが好ましい。高分子材料溶液のパターンの間隙への付与方法は、無機充填剤分散液の付与方法と同様である。高分子材料溶液の付与後に、高分子材料溶液の付与面を加熱して溶媒を飛ばすこと、その際の温度も同様である。
【0051】
シート材は、片面又は両面に予め接着用溶液を塗布しておくことが好ましい。加熱部材付き静電チャック部とベース部とで、接着用溶液を塗布済みのシート材を挟み、ホットプレス等により加圧することで、静電チャック装置が得られる。
ショア硬度(A)が10〜70のシート材を用いれば、パターンの間隙の全体積に対する無機充填剤組成物の充填率が100体積%未満である場合に、パターンの間隙をシート材で充填することができる。
静電チャック装置に絶縁材層を設けるときは、絶縁材の片面または両面に接着用溶液を塗布しておき、加熱部材付き静電チャック部とベース部とで、接着用溶液を塗布済みのシート材及び接着用溶液を塗布済みの絶縁材を任意の位置に配置して挟み、ホットプレス等により加圧することで、絶縁材層付きの静電チャック装置が得られる。
【0052】
接着用溶液の接着剤は、公知の接着剤を用いることができ、アクリル系、エポキシ系、シリコーン系等の種々の接着剤を用いることができる。接着剤は市販品でもよく、例えば、シリコーン接着剤(シリコーン粘着剤を含む)として、東レ・ダウコーニング社製、シリコーン粘着剤(例えば、SD 4580 PSA、SD 4584 PSA、SD 4585 PSA、SD 4587 L PSA、SD 4560 PSA等)、モメンティブ社製、シリコーン接着剤(例えば、XE13−B3208、TSE3221、TSE3212S、TSE3261−G、TSE3280−G、TSE3281−G、TSE3221、TSE326、TSE326M、TSE325等)、信越シリコーン社製、シリコーン接着剤(例えば、KE−1820、KE−1823、KE−1825、KE−1830、KE−1833等)等が挙げられる。
【0053】
接着用溶液は、接着剤を溶解する有機溶媒を含んでいてもよい。有機溶媒としては、接着剤を溶解し得るものであれば特に制限されず、例えば、アルコール及びケトンからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられ、ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0054】
接着用溶液は、薄膜での均一塗布の観点から、接着剤の濃度が、0.05質量%〜5質量%となる範囲で調製することが好ましい。接着用溶液中の接着剤の濃度は、0.1質量%〜1質量%であることがより好ましい。
更に、接着用溶液は、接着剤の加水分解を促進するために触媒を含でいてもよい。触媒としては、塩酸、硝酸、アンモニア等が挙げられ、中でも、塩酸、及びアンモニアが好ましい。
静電チャック装置内に触媒が残存することを抑制する観点から、接着用溶液は、触媒を含まないことが好ましく、接着剤として、反応性官能基がエポキシ基、イソシアネート基、アミノ基、又はメルカプト基である接着剤を含むことが好ましい。
【0055】
また、静電チャック部は次のように製造することが好ましい。
まず、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al
2O
3−SiC)複合焼結体により板状の載置板及び支持板を作製する。この場合、炭化ケイ素粉末及び酸化アルミニウム粉末を含む混合粉末を所望の形状に成形し、その後、例えば1600℃〜2000℃の温度、非酸化性雰囲気、好ましくは不活性雰囲気下にて所定時間、焼成することにより、載置板及び支持板を得ることができる。
【0056】
次いで、支持板に、給電用端子を嵌め込み保持するための固定孔を複数個形成する。
給電用端子を、支持板の固定孔に密着固定し得る大きさ、形状となるように作製する。この給電用端子の作製方法としては、例えば、給電用端子を導電性複合焼結体とした場合、導電性セラミックス粉末を、所望の形状に成形して加圧焼成する方法等が挙げられる。
【0057】
このとき、給電用端子に用いられる導電性セラミックス粉末としては、静電吸着用内部電極と同様の材質からなる導電性セラミックス粉末が好ましい。
また、給電用端子を金属とした場合、高融点金属を用い、研削法、粉末治金等の金属加工法等により形成する方法等が挙げられる。
【0058】
次いで、給電用端子が嵌め込まれた支持板の表面の所定領域に、給電用端子に接触するように、上記の導電性セラミックス粉末等の導電材料をテルピネオールとエチルセルロース等とを含む有機溶媒に分散した静電吸着用内部電極形成用塗布液を塗布し、乾燥して、静電吸着用内部電極形成層とする。
この塗布法としては、均一な厚さに塗布する必要があることから、スクリーン印刷法等を用いることが望ましい。また、他の方法としては、蒸着法あるいはスパッタリング法により上記の高融点金属の薄膜を成膜する方法、上記の導電性セラミックスあるいは高融点金属からなる薄板を配設して静電吸着用内部電極形成層とする方法等がある。
【0059】
また、支持板上の静電吸着用内部電極形成層を形成した領域以外の領域に、絶縁性、耐腐食性、耐プラズマ性を向上させるために、載置板及び支持板と同一組成または主成分が同一の粉末材料を含むチャック内絶縁材層を形成する。このチャック内絶縁材層は、例えば、載置板及び支持板と同一組成または主成分が同一の絶縁材料粉末をテレピノールとエチルセルロース等とを含む有機溶媒に分散した塗布液を、上記所定領域にスクリーン印刷等で塗布し、乾燥することにより形成することができる。
【0060】
次いで、支持板上の静電吸着用内部電極形成層及び絶縁材の上に載置板を重ね合わせ、次いで、これらを高温、高圧下にてホットプレスして一体化する。このホットプレスにおける雰囲気は、真空、あるいはAr、He、N
2等の不活性雰囲気が好ましい。また、圧力は5〜10MPaが好ましく、温度は1600℃〜1850℃が好ましい。
【0061】
このホットプレスにより、静電吸着用内部電極形成層は焼成されて導電性複合焼結体からなる静電吸着用内部電極となる。同時に、支持板及び載置板は、チャック内絶縁材層を介して接合一体化される。
また、給電用端子は、高温、高圧下でのホットプレスで再焼成され、支持板の固定孔に密着固定される。
そして、これら接合体の上下面、外周およびガス穴等を機械加工し、静電チャック部とする。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例においては、
図1に示す静電チャック装置の積層構成に類似する積層体を作成し、評価した。
【0063】
<1.実施例及び比較例の積層体の構成>
実施例及び比較例の積層体は、
図1における静電チャック部2、加熱部材50及び無機充填剤組成物30、シート材20、並びにベース部10をこの順に積層した構成をしている。ただし、比較例1の積層体は、
図1における無機充填剤組成物30は備えておらず、加熱部材50のパターンの間隙は、シート材20によって充填されている。
【0064】
<2.積層体の製造>
セラミックス板(Al
2O
3−SiC複合焼結体;静電チャック部2)上に、シリコーン樹脂接着剤でTi箔(加熱部材50)を固定してから、Ti箔をエッチングすることにより、セラミックス板の一部を露出させ、直径の異なる輪状のTi箔が同心円状に配置されたTiパターンを形成した。
Tiパターンによる凹凸面が形成されたセラミックス板上に、表1に示す無機充填剤及び接着剤を含み、かつ、表1に示す無機充填剤濃度の無機充填剤分散液を塗布し、乾燥させた。このとき、無機充填剤分散液は、無機充填剤分散液の乾燥後の塗膜(無機充填剤組成物)のパターン間隙の充填率が表1に示す充填率になるように塗布した。その後、Tiパターン上、かつ無機充填剤分散液の塗布面に、ショア硬度(A)が50のシリコーン系エラストマーのシート材を積層し、更にアルミ治具(直径40mm、厚さ2cm;ベース部10)を積層して、セラミックス板とアルミ治具を張り合わせ、100℃で3分間加熱(ヒートプレス)し、積層体を得た。
なお、比較例1においては、無機充填剤分散液を塗布せずに、Tiパターンによる凹凸面が形成されたセラミックス板上に直接シート材を積層した。
また、無機充填剤組成物の充填率が100体積%未満となる積層体において、無機充填剤組成物表面とシート材との間に生じる空間は、積層体を製造する際のヒートプレスにより、シート材が空間を埋設した。
【0065】
<3.評価方法>
実施例及び比較例の試験片及び積層体について、積層体の形状変化評価による面内温度均一性評価を行った。具体的には、次のように行った。
ミツトヨ社製の膜厚VL−50Aを用いて、実施例及び比較例の積層体の5ヶ所における全層厚を測定した。得られた測定結果のうち、層厚が最も大きい箇所の層厚と小さい箇所の層厚との差を膜厚ブレとし、下記基準により評価した。
膜厚ブレは、試験片の形状変化評価の指標となると共に、静電チャック装置に固定するウエハの面内温度均一性の指標となり、膜厚ブレが10μm未満である場合は、静電チャック部の面内温度均一性に優れる。
(評価基準)
A:膜厚ブレが、3μm未満であった。
B:膜厚ブレが、3μm以上10μm未満であった。
C:10μm以上の膜厚ブレがあった。
【0066】
【表1】
【0067】
表1からわかるように、加熱部材のパターンの間隙に、無機充填剤を含む無機充填剤組成物が充填されていることで、加熱部材間の横方向の加熱が進み、静電チャック部の面内温度均一性に優れた。