【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0022】
1.魚肉の前処理
スケトウダラ、マダラ、シロザケ、及びニジマスの背肉をミンチ処理(φ5mm)し、ミンチ肉を得た。スケトウダラ、マダラ、及びシロザケは冷凍フィレを解凍して使用した。ニジマスは鮮魚を使用した。各魚種について、ミンチ肉を8〜10倍量の冷蒸留水に懸濁および撹拌(1分間)した。撹拌後、遠心分離により沈殿を回収し、蒸留水に懸濁する操作を合計3回実施した。最終的に得られた沈殿中に含まれている夾雑物(骨、皮、鱗、及びスジなど)の除去を目的として、裏ごし機またはホモジナイザーで均質化した。これを遠心分離により脱水し、脱水肉を得た。この脱水肉を真空凍結乾燥により粉末の魚肉素材を得た。乾燥した魚肉素材は、試験に供するまで-30℃にて保管した。
【0023】
2.魚肉のキモトリプシン消化
-30℃で保管していた各魚種の魚肉素材をデシケータを用いて減圧下で室温に戻した。室温に戻した魚肉素材(500mg)を精秤し、20mM Tris-maleate(pH7.0)、50mM NaCl、1mM EDTA・2Naを含む溶液に添加して49.8mLの魚肉素材溶液を調製した。この溶液を40℃の恒温槽にて溶液温度を馴化(5分間)させ、5mg/mLに調製したαキモトリプシン溶液を0.2mL添加して消化を開始した。αキモトリプシン溶液は、室温に戻したキモトリプシン(≧40unit/mg protein, SIGMA-Aldrich)を秤量し、終濃度5mg/mLとなるように冷蒸留水に添加して調製した。消化2時間後に終濃度が1mMとなるように100mM Phenylmethanesulfonyl fluoride (SIGMA-Aldrich, PMSF)を添加後、100℃で5分間加熱して消化を停止して消化液を得た。消化液を遠心分離(2500×g, 10分, 20℃.遠心機:H-1500FR KOKUSAN、ローター:RM-151)し消化液上清を得た。上清を分注し、分析試料として-30℃で保管した。
【0024】
3.ラベリング
各魚種の分析試料をAmicon Ultra-0.5で濃縮し、下記の表1に従って、200 pmolのCy3(DMF溶液、1μl)又はCy5(DMF溶液、1μl)の蛍光色素を添加した。また、評価用試料を全て混合したものをプール試料とし、200 pmolのCy2(DMF溶液、1μl)を添加後に氷上にて30分静置してラベリング反応を実施した。反応液に過剰量のリジン溶液(10mM、2μlを添加し、10分間保持して反応を終了した。反応終了後に反応液総量と等量の2×サンプルバッファー(8Mウレア、4%(w/v)CHAPS,20mg/ml DTT、2%(v/v)LPG Buffer 3-11 NL)を添加して更に10分間氷上に保持したものを2D-DIGE解析用の試料とした。
【0025】
【表1】
【0026】
4.二次元電気泳動
二次元電気泳動を次の条件で行った。表1に示した各蛍光色素に対応した試料とCy2でラベルしたプール試料を混合した後に試料を展開した。
【0027】
一次元目電気泳動は、MultiphoreII (GEヘルスケアバイオサイエンス社)及びIPG(Immobilized pH Gradient)Strips(24cm,pI3-11NL, GEヘルスケア バイオサイエンス社)を用い、試料はカップローディングホルダーから添加した。フォーカシングは、トータルで36kVh(300V;5h, 300-3500 V; 1,5 hr, 3500 V; 10hr)で行った。泳動後、平衡化溶液(50mM Tris、pH8.8、6M尿素、30%グリセロール、2%SDS)に0.25%(w/v)DTTを添加したA液及び同様に4.5(w/v)ヨードアセトアミドを添加したB液に対して各々10分間ずつ平衡化を行った。
【0028】
二次元目電気泳動は、平衡化終了後、Ettan DALT IIシステム(GEヘルスケア バイオサイエンス社)及び15%均一ゲルを用いてSDS-PAGEゲル電気泳動を行った。泳動は3W(15℃)一定で泳動先端が完全に溶出するまで(約15時間)行った。
【0029】
5.解析
電気泳動後のゲルは、直ちにTyphoon 9400(GEヘルスケア バイオサイエンス社)を使用して下記表2の条件で画像の読み込みを行った。
【0030】
【表2】
【0031】
二次元電気泳動のゲルイメージは、Decyder Ver7.0(GEヘルスケア バイオサイエンス社)を用い、電気泳動ゲルの画像品質確認および定量比較解析を行った。
【0032】
6.二次元電気泳動結果
Typhoonで取得した各魚種に関する二次元電気泳動ゲルイメージの代表例を
図1〜
図4に示した。また、2種類の試料を併せたゲルNo.1〜3のゲルイメージを
図5〜
図7に示した。Decyder DIAソフトを使用して自動検出されたスポット数を表3に示した。
【0033】
【表3】
【0034】
7.2D-DIGE解析結果
Decyder BVAソフトを使用して統計解析を実施した結果、スケトウダラに特異的なスポットとして5スポットが検出された(表4)。
図8において、二次元電気泳動ゲルイメージ上にスポットの位置を示した。
【0035】
【表4】
*1:Student’s P-value
*2: スポット容積比(スケトウダラ/他の魚種)の平均値、−Xは1/Xを示す。
*3: :二次元電気泳動上のスポット位置から推定したpI及びMw
【0036】
8.ゲル内酵素消化及び質量分析
2D-DIGE解析で確認した5スポットのゲルイメージとRuby 画像をマッチングした後、スポットピッカー(GE ヘルスケアバイオサイエンス社)を用いて、MS解析用スポットとしてピッキングした。ピッキングしたゲルプラグを50%メタノール溶液で洗浄した後、トリプシン消化液 2μL及び50mM炭酸水素アンモニウム10μLを加え、30℃に設定したドライバス上で一晩インキュベートして消化した。消化後のゲルからペプチド抽出液(50%アセトニトリル、5%ぎ酸溶液)30μL を用いて消化ペプチド断片を回収した。回収液を含むチューブを遠心乾燥した後、LC-MS/MS 測定用の溶媒(1%ぎ酸)20μLを加えてVortexし、MS 解析に供した。nanoLC-MS/MS分析は、LC部分にUltiMate(登録商標)3000HPLC(ダイオネクス社)、質量分析装置にQ-Exactive Plus(サーモサイエンティフィック社)を用い、Xcalibur(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)でLC 及びMS を制御して測定した。LC、MS の分析条件を以下に示す。データベースは、Mascot(マトリックスサイエンス社)を使用しSwiss-Prot の最新版に対して検索を行った。
【0037】
NC_Pump.Flow = 0.300 [μl/min]
A 液: 0.1% Formic Acid, Water, B 液: 0.1% Formic Acid, Acetnitrile
【0038】
MS/MS の設定
Full MS / dd-MS
2 (TopN)
Runtime:0 to 150min
Polarity:Positive
In-source CID:0.0eV
Default charge state:2
【0039】
Full MS
Microscans:1
Resolution:70,000
AGC target:3.00E+06
Maximum IT :60ms
Number of scan ranges:1
Scan range:350 to 1800m/z
【0040】
Mascot 検索条件
1. Input Data:
Enzyme Name: Trypsin
Maximum Missed Cleavage Sites: 2
Instrument: Default
Taxonomy: Otophysa (bony fishes)
1.1 Peptide Scoring Options:
Peptide Cut Off Score: 10
Peptide Without Protein Cut Off Score: 5
1.2 Protein Scoring Options:
Use MudPIT Scoring: Automatic
Protein Relevance Threshold: 20
Protein Relevance Factor: 1
2. Tolerances:
Precursor Mass Tolerance: 10 ppm
Fragment Mass Tolerance: 0.8 Da
Use Average Precursor Mass: False
3. Dynamic Modifications:
Dynamic Modification: Oxidation (M)
4. Static Modifications:
Static Modification: Carbamidomethyl (C)
【0041】
9.検索結果
取得したMS/MS データをNCBInr データベース内で検索した結果を表5に示した。
【0042】
【表5】
*1: 登録されている全長配列のMw
*2: スコア値は、The Mowse scoring algorithmに基づいて計算した値である。スコアが高い方が間違いである可能性が低いことを示す。
*3: ヒットしたペプチド断片の数
【0043】
下記の表6に各スポットのペプチドについて同定されたアミノ酸配列を示す。
【0044】
【表6】