特開2017-176960(P2017-176960A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2017176960-廃硫酸の処理方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-176960(P2017-176960A)
(43)【公開日】2017年10月5日
(54)【発明の名称】廃硫酸の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/02 20060101AFI20170908BHJP
   C04B 7/44 20060101ALI20170908BHJP
【FI】
   C02F1/02 E
   C04B7/44
   C02F1/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-65600(P2016-65600)
(22)【出願日】2016年3月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(72)【発明者】
【氏名】小西 正芳
(72)【発明者】
【氏名】森川 卓子
(72)【発明者】
【氏名】門野 壮
【テーマコード(参考)】
4D034
4G112
【Fターム(参考)】
4D034AA14
4D034AA26
4D034CA04
4D034CA21
4G112KA08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】有機物含有廃硫酸を有効に処理して無害化しながら、有機物含有廃硫酸の処理を利用してセメントクリンカ中の遊離石灰の低減を図る、廃硫酸の処理方法の提供。
【解決手段】有機物含有廃硫酸をセメントクリンカ焼成時のセメントキルンの窯前から、該セメントキルンの高温雰囲気部に導入し、セメントキルン内で廃硫酸が熱分解されて生成する三酸化硫黄を、セメントクリンカ中に取り込んでセメントクリンカを製造するとともに、廃硫酸中に含まれる有機物を熱分解して無害化する廃硫酸の処理方法。セメントキルンの高温部が1250℃以上であって、セメントキルンに導入する有機物含有硫酸中の硫酸濃度が80%以上となるように予め調整したものである廃硫酸の処理方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物含有廃硫酸を、セメント焼成設備を用いて無害化処理する方法であって、有機物含有廃硫酸をセメント製造設備のセメントキルンの窯前から、該セメントキルンの高温雰囲気部に導入し、セメントキルン内で廃硫酸が熱分解されて生成する三酸化硫黄を、セメントクリンカ中に取り込んでセメントクリンカを製造するとともに、廃硫酸中に含まれる有機物を熱分解して無害化することを特徴とする、廃硫酸の処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の廃硫酸の処理方法において、セメントキルンの高温部は1250℃以上であって、該セメントキルンに導入する有機物含有廃硫酸中の硫酸濃度が80%以上となるように有機物含有廃硫酸を予め加熱して調整することを特徴とする、廃硫酸の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の廃硫酸の処理方法において、セメントクリンカ1tを製造するにあたり、廃硫酸中の三酸化硫黄量が0.1〜30kgとなる量で廃硫酸をセメントキルンに導入して、得られるセメントクリンカ中の三酸化硫黄濃度を0.7〜3.5質量%とすることを特徴とする、廃硫酸の処理方法。
【請求項4】
請求項3記載の廃硫酸の処理方法において、更に、セメントクリンカ中の遊離石灰を1.0質量%以下に制御することを特徴とする、廃硫酸の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃硫酸の処理方法に関し、特に、有機物を含有する廃硫酸の無害化をセメントクリンカの製造と同時に処理することができる廃硫酸の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカは、原料(石灰石、粘土、珪石、酸化鉄等)を焼成窯(セメントキルン等)に導入して、焼成し、その後、クリンカークーラー(エアクェンチングクーラ等)を用いて冷却することで得られるものであり、石膏等と混合されて細かく粉砕されることでセメントとして用いられている。
【0003】
セメントクリンカ中の三酸化硫黄の量を制御するために、例えば特許第5531525号(特許文献1)及び特許第563742号(特許文献2)には、石膏、特に無水石膏を添加して制御することが記載されている。
具体的には、例えば、窯前に設けられた主バーナからの火炎によって内部が高温雰囲気下に保持されたセメントキルン内に、当該セメントキルンの窯尻から内部に投入されたセメント原料を上記窯前側へ送りつつ焼成してセメントクリンカを製造するセメント製造方法において、上記セメントキルンの上記窯前側から、当該セメントキルン内の1400℃以上の高温雰囲気中に、少なくとも上記主バーナの燃料中の硫黄分の変動量または製造された上記セメントクリンカに含まれる三酸化硫黄(SO3)の量の変動量を補償する量の石膏を計量して投入することにより、上記セメントクリンカに含まれる三酸化硫黄(SO3)の量を1〜3重量%の範囲内に制御することを特徴とするセメントの製造方法等が開示されている。
【0004】
しかし、石膏を、セメントキルンの高温部に投入した場合には、石膏を熱分解させる必要がある。また、細かくないと十分に分解しない恐れがあり、更に高温部に投入できない場合には分解しない可能性が生じる。かかる場合、コーチングの形成が起こり、セメントクリンカの操業トラブルが発生してしまうこととなる。
【0005】
また、石膏は三酸化硫黄含有量が56%程度で、セメントクリンカを製造するための制御に必要な三酸化硫黄含有量を得るためには、石膏の投入が多くなってしまい、投入する石膏の粒径が大きい場合には、分解したのちのCaOが未反応のまま残ってしまい、クリンカ中の遊離石灰が高くなる恐れがある。またかかる事態を回避するためには粉砕をおこなう必要がある。
【0006】
一方、廃硫酸を中和・水処理により処理をすることが可能であるが、含有する有機物の種類により、水処理が困難な場合がある。そのような場合には、焼却処理されることとなるが、燃焼温度・時間が不十分で有機物の分解が完全でなくなる恐れがあり無害化が完全に実施できない。
また硫酸の分解により生成する三酸化硫黄は、排ガスにより硫酸あるいは石膏として回収されリサイクルされている。
【0007】
特に、硫酸ピッチのような油混じりの硫酸については,アルカリ剤(消石灰、セメント等)で中和した後、造粒されて焼却炉やセメントキルンに投入されることが一般的であり(特許第3659642号(特許文献3)、特許第4777025号(特許文献4))、混合するための設備や、混合時に発熱し発生する油臭の除去設備などが必要となり、設備が大掛かりになる等の問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5531525号
【特許文献2】特許第5673742号
【特許文献3】特許第3659642号
【特許文献4】特許第4777025号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記問題を解決し、有機物含有廃硫酸を有効に処理して無害化するとともに、有機物含有廃硫酸の処理を利用してセメントクリンカ中の遊離石灰の低減を図ることができる、廃硫酸の処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の廃硫酸の処理方法は、以下のような技術的特徴を備えている。
【0011】
(1) 本発明の廃硫酸の処理方法は、有機物含有廃硫酸を、セメント焼成設備を用いて無害化処理する方法であって、有機物含有廃硫酸をセメントクリンカ焼成時のセメントキルンの窯前から、該キルンの高温部に導入し、セメントキルン内で廃硫酸が熱分解されて生成する三酸化硫黄を、セメントクリンカ中に取り込んでセメントクリンカを製造するとともに、廃硫酸中に含まれる有機物を熱分解して無害化することを特徴とする。
【0012】
(2) 上記(1)に記載の廃硫酸の処理方法において、セメントキルンの高温部は1250℃以上であって、該セメントキルンに導入する有機物含有廃硫酸中の硫酸濃度が80%以上となるように有機物含有廃硫酸を予め加熱等して調整することを特徴とする。
【0013】
(3) 上記(1)又は(2)記載の廃硫酸の処理方法において、セメントクリンカ1tを製造するにあたり、廃硫酸から生成する三酸化硫黄量が0.1〜30kgとなる量で廃硫酸をセメントキルンに導入して、得られるセメントクリンカ中の三酸化硫黄濃度を0.7〜3.5質量%とすることを特徴とする。
【0014】
(4) 上記(3)記載の廃硫酸の処理方法において、更にセメントクリンカ中の遊離石灰は1.0質量%以下に制御されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の廃硫酸の処理方法によると、有機物含有廃硫酸を有効に分解して無害化できるとともに、発生する三酸化硫黄をセメントクリンカ製造に有効に利用することができる。
更に、従来は、セメントクリンカの焼成の操業としてはセメントクリンカ中の遊離石灰の含量を低下させる必要があり、そのために、高温やその保持時間を長くすること等が必要であったが、本発明においては、廃硫酸の分解に伴い発生する三酸化硫黄がセメントクリンカ中の遊離石灰と反応するため、従来必要であった遊離石灰を低下させるための工程や条件等を設ける必要がないことからセメントクリンカ焼成時の燃料の使用量(燃料原単位)を低減することが可能となり、セメントクリンカの生産効率を向上させることが可能となる。
更に、製造したセメントクリンカ中の遊離石灰量を減少させることができるため、強度の増進が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の廃硫酸の処理方法を利用して、セメントクリンカ焼成時に廃硫酸をセメントキルンに導入した場合のセメントクリンカ製造焼成経過時間と製造されたセメントクリンカ中のSO及び遊離石灰の含有量との関係の一例を示す図である。
図2】廃硫酸をセメントキルンに導入しない以外は、図1のセメントクリンカ焼成と同様の条件下でセメントクリンカを製造した場合のセメントクリンカ製造焼成時間と製造されたセメントクリンカ中のSO及び遊離石灰の含有量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を、以下の実施形態により説明する。
本発明の廃硫酸の処理方法は、有機物含有廃硫酸を、セメント焼成設備を用いて無害化処理する方法であって、有機物含有廃硫酸をセメントクリンカ焼成時のセメントキルンの窯前から、該キルンの高温部に導入し、セメントキルン内で廃硫酸が熱分解されて生成する三酸化硫黄を、セメントクリンカ中に取り込んでセメントクリンカを製造するとともに、廃硫酸中に含まれる有機物を熱分解して無害化する処理方法である。
【0018】
かかる処理方法により、産業廃棄物であった廃硫酸を有効に無害化できるとともに、同時に、廃硫酸をセメントクリンカの原料として有効に活用することが可能となる。
【0019】
本発明の処理方法は、有機物を含有する廃硫酸であって、例えばフッ素樹脂等の製造過程において排出される有機物含有廃硫酸、石油精製やガソリン精製の過程等で排出される硫酸ピッチ等の有機物含有廃硫酸等、有機物を含有する廃硫酸であれば特に限定されず、市場で入手しうる任意の有機物を含有する廃硫酸の処理に適用することができる。
【0020】
本発明の廃硫酸の処理方法は、セメント焼成設備を用いたセメントクリンカの製造とともに実施されるものであり、セメント焼成設備のセメントキルンを用いて廃硫酸の処理を実施する。
セメント焼成設備のセメントキルンには、通常、セメントクリンカを製造する原料がセメントキルンの窯尻から導入されて焼成されることにより、セメントクリンカを調製している。
【0021】
本発明においては、セメントキルンを用いてセメントクリンカを焼成する際に、セメントキルンの窯前から、有機物含有廃硫酸を投入する。
有機物含有廃硫酸は、例えば、セメントキルンの窯前に直接導入する搬送装置をもって投入しても、セメント焼成設備とは別個に廃硫酸を貯蔵する貯留設備を設けてかかる設備からセメント焼成設備のセメントキルンの窯前に廃硫酸を必要量投入できる搬送装置を設けて投入しても、廃硫酸を必要量、セメントキルンの窯前に投入できればいずれの手段によっても投入してもかまわない。
【0022】
セメントキルンの窯前から廃硫酸を投入することにより、廃硫酸をセメントキルンの高温部に直接投入することが可能となり、廃硫酸に含有される有機物を有効に短時間で熱分解することが可能となる。
廃硫酸をセメントキルンの窯尻から投入すると、硫酸アルカリ等の低融点物質を生成してしまい、PH(プレヒータ)や仮焼成炉内にコーチングを形成しやすくなり、操業上のトラブルが発生するおそれがあり、好ましくない。
【0023】
廃硫酸を投入するセメントキルンの高温部の温度は、1250℃以上の範囲の温度が例示でき、好適には1450℃の温度が一般的である。
かかる1250℃以上、好適には1450℃の温度においては、ピッチ等の廃硫酸に含まれる有機物は完全に熱分解され、排ガス中に有害物質を含むことはなく、無害化されることができる。
【0024】
また、廃硫酸には水が含有される場合も多く、水分などにより硫酸濃度が低下していることが考えられるが、かかる場合には加熱することで、水分の除去をすることが容易に可能である。
好適には、セメントキルンに投入する廃硫酸の必要量を確保するとともに、セメントキルンの焼成温度の低下を招かない等のセメント製造設備の操業に影響を与えることがないためにも、予め廃硫酸を加熱して廃硫酸中の硫酸濃度を例えば80%以上に予め上げてから、セメントキルンに投入するようにすることも可能である。
【0025】
硫酸は300℃で下記のように熱分解するので、セメントキルンの高温部に導入された廃硫酸は完全に分解され、三酸化硫黄が生成される。
SO→HO+SO
このように熱分解により生成した三酸化硫黄は、セメントクリンカと接触することによりセメントクリンカ中に取り込まれる。
【0026】
セメントクリンカ中に取り込まれた三酸化硫黄は、セメントクリンカ鉱物中に固溶したり、又は遊離石灰と結合してCaSOを生成する。
特に、製造されるセメントクリンカ1tあたり、廃硫酸から生成する三酸化硫黄量が0.1〜30kgとなる量で廃硫酸を導入することで、得られるセメントクリンカ中の三酸化硫黄濃度を0.7〜3.5質量%とし、更に、セメントクリンカ中の遊離石灰の含量を1.0質量%以下に低減する制御が可能となる。
【0027】
本発明の廃硫酸の処理方法を適用した具体的な一例を以下に示す。
本発明を適用する廃硫酸は下記の性状を有するものを用いた。
廃硫酸A:硫酸濃度90%
TOC(有機物含有)濃度 10,000ppm
【0028】
セメントキルンにセメントクリンカ原料を投入してセメントキルンにて焼成する際に、温度が1450℃のセメントキルンの窯前より、上記廃硫酸Aを投入した。
投入方法は、キルンバーナーノズルの上側近傍より、セメントキルン内へ廃硫酸Aを直接噴射して投入する方法とした。
なお、投入量は、製造されるセメントクリンカ1tあたり、廃硫酸Aを1.5kgの量とした。
【0029】
廃硫酸を投入しながらセメントクリンカをセメントキルン内で1450℃で焼成した経過時間と得られたセメントクリンカ中の三酸化硫黄濃度及び遊離石灰濃度を図1に示す。
なお、セメントクリンカ中の三酸化硫黄濃度及び遊離石灰(f−CaO)濃度は、JIS R 5205に準じて測定した値を示す。
【0030】
また、比較のために、廃硫酸を投入しない以外は、上記と同様にして、セメントクリンカを製造し、セメントクリンカをセメントキルン内で1450℃で焼成した経過時間と得られたセメントクリンカ中の三酸化硫黄濃度及び遊離石灰濃度を図2に示す。
【0031】
図1及び図2の結果より、得られるセメントクリンカ中の三酸化硫黄量を増加させ、また含有される遊離石灰の含有量を低減させることができ、所望する含有量となるように制御することができることがわかる。
また、セメント焼成設備やセメントクリンカの品質への影響は特に認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、産業廃棄物である廃硫酸を無害化できるとともに、セメントクリンカの製造原料として同時に利用することが可能となる。
図1
図2