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特開2017-177039セレン吸着剤、その製造方法及び当該吸着剤を用いたセレンの処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-177039(P2017-177039A)
(43)【公開日】2017年10月5日
(54)【発明の名称】セレン吸着剤、その製造方法及び当該吸着剤を用いたセレンの処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/06 20060101AFI20170908BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20170908BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20170908BHJP
   B09C 1/02 20060101ALI20170908BHJP
   B09C 1/08 20060101ALI20170908BHJP
【FI】
   B01J20/06 CZAB
   B01J20/30
   C02F1/28 A
   B09B3/00 304K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-70669(P2016-70669)
(22)【出願日】2016年3月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(72)【発明者】
【氏名】板谷 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】國西 健史
(72)【発明者】
【氏名】林 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】下川 吉信
【テーマコード(参考)】
4D004
4D624
4G066
【Fターム(参考)】
4D004AA36
4D004AA41
4D004AB05
4D004CA15
4D004CA47
4D004CC11
4D624AA04
4D624AB14
4D624BA12
4D624BA14
4D624BC01
4D624BC04
4D624CA01
4D624DB21
4G066AA27B
4G066AA36A
4G066AA39A
4G066BA31
4G066BA33
4G066CA21
4G066DA08
4G066DA20
4G066FA05
4G066FA21
4G066FA36
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】
本発明は、従来のセレン吸着剤と比べて、6価のセレンを還元することなく6価のままで吸着できる優れたセレン処理能力を有する、セレン吸着剤及びその製造方法、並びに前記セレン吸着剤を用いたセレン吸着方法を提供することである。
【解決手段】
本発明のセレン吸着剤は、pH9.5〜10.5の鉄(Fe)及びマグネシウム(Mg)含有溶液由来の鉄(Fe)、及びマグネシウム(Mg)を必須構成元素として含み、Mg/Feのモル比が0.2を超えて59以下、好ましくは0.5〜59である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH9.5〜10.5の鉄(Fe)及びマグネシウム(Mg)含有溶液由来の鉄(Fe)及びマグネシウム(Mg)を必須構成元素として含み、Mg/Feのモル比が0.2を超えて59以下であることを特徴とする、セレン吸着剤。
【請求項2】
請求項1記載のセレン吸着剤において、Mg/Feのモル比が0.5〜59であることを特徴とする、セレン吸着剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載のセレン吸着剤を製造するにあたり、第2鉄イオンを含む溶液に、マグネシウムイオンを含む溶液をMg/Feのモル比が所定のモル比となるように滴下し、得られる溶液のpHが中性からアルカリ性となるようにアルカリ溶液を添加し、次いで、0〜60℃の条件下で放置して沈殿物を形成させ、固液分離し、得られた固体残渣物を乾燥することにより製造することを特徴とする、セレン吸着剤の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載のセレン吸着剤の製造方法において、アルカリ溶液添加後の第2鉄イオン及びマグネシウムイオンを含有する溶液のpHを9.5〜10.5となるようにアルカリ溶液を添加することを特徴とする、セレン吸着剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載のセレン吸着剤を、6価のセレン含有廃水又は6価のセレン含有汚染土壌と混合して、6価セレンの状態で、前記セレン吸着剤に吸着させて処理することを特徴とする、セレン処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレン吸着剤、その製造方法及びセレンの処理方法に関し、特に、石炭灰や土壌から溶出するセレン及びセレン含有廃水を処理することができるセレン吸着剤、その製造方法及びセレンの処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セレンは、人体へ悪影響を及ぼし、皮膚障害、嘔吐、全身ケイレン、神経過敏症、貧血、胃腸障害等を引き起こすことがあることから、水質汚濁防止法により排水中の濃度が規制されている。
一方、セレンは、ガラスの着色、脱色剤や光伝導性を利用し複写機感光体などの電気材料、触媒等の製造に広く利用されているため、ガラス工場、半導体工場等からの排水に含有されており、これらの工場跡地の土壌から溶出することがある。
【0003】
さらに、「石炭灰中の砒素・セレンに関する溶出特性の検討」(井野場誠治、下垣久、電力中央研究所 研究報告書(2004))によれば、従前より炭種によっては一般土壌より高濃度のセレンを含有する石炭灰が火力発電所等から排出されている。
また、「全国実態調査報告書 (2013)」(一般財団法人石炭エネルギーセンター)によれば、福島第一原発事故後、日本の総発電量に占める石炭火力発電の割合が増加し、それに伴い石炭灰排出量の増加が見られている報告がなされており、セレンを高濃度で含有する石炭灰の排出量は増加していく傾向がある。
【0004】
かかる事情に鑑み、石炭灰や土壌から溶出するセレン及びセレン含有廃水を処理することができる方法やセレン吸着剤が期待されている。
【0005】
セレンは、通常の環境中において、主に4価の亜セレン酸イオンと、6価のセレン酸イオンの2つの化学形態が存在している。
ここで、4価の亜セレン酸イオンは、平面的な構造であり、種々の化合物と反応が進行し易い構造となっている一方、6価のセレン酸イオンは、正四面体構造の安定な構造となっており種々の化合物との反応性が悪い。
【0006】
また、セレンの処理方法として現状で多く用いられている処理方法は、鉄塩、アルミニウム塩による共沈処理であるが、かかる方法は4価セレンに対しては十分な効果が得られるが、6価セレンに対する効果は低いという問題がある。
【0007】
そこで6価セレンに対する有効な処理法として、特許第3956978号公報(特許文献1)には、6価のセレン酸イオンを、2価鉄塩や金属塩等により還元処理して亜セレン酸イオンとしたのちに共沈法による方法が開示されており、具体的には、セレン含有水に還元性鉄化合物を添加する工程〔鉄化合物添加工程〕、還元性鉄化合物を添加したセレン含有水を反応槽に導いて沈澱を生成させる工程〔沈澱化工程〕、生成した沈澱(汚泥)を固液分離する工程〔固液分離工程〕、分離した汚泥の全部または一部をアルカリ性にして反応槽に返送する工程〔汚泥返送工程〕を有し、セレン含有水に還元性鉄化合物を添加してセレンを沈澱化し、この沈澱を固液分離してセレンを除去する処理方法であって、還元性鉄化合物として第一鉄化合物を用い、沈澱化工程において密閉反応槽を用い、該反応槽に返送する汚泥をpH11〜13に調整し、さらにこのアルカリ性汚泥を混合した反応槽内をpH8.5〜11のアルカリ性に調整し、非酸化性雰囲気下で反応させ、グリーンラストと鉄フェライトの混合物からなり2価鉄イオンと全鉄イオンの比〔Fe2+/Fe(T)〕が0.4〜0.8である還元性の鉄化合物沈澱を生成させることによって、該沈澱にセレン類を取り込ませて系外に除去することを特徴とするセレン等含有水の処理方法が記載されている。
【0008】
また、特開2004−89924号公報(特許文献2)には、水溶性セレンにより汚染された物質から水溶性セレンを除去するための水溶性セレン除去剤において、非晶質水酸化鉄(III)、あるいは、硝酸鉄(III)水溶液をアルカリ金属水酸化物で中和することにより沈殿として得られる物質を含有させ、水溶性セレン除去剤を水溶性セレンにより汚染された物質と接触させ、上記水溶性セレン除去剤に水溶性セレンを吸着させて不溶化させる、非晶質水酸化鉄(III)を用いるセレン排水処理方法が開示されている。
【0009】
しかし、上記特許文献1に記載の処理方法は、還元処理工程が必要なことから処理プロセスが複雑となることや、還元処理の効率が悪く多量の還元剤を必要とする問題を有し、また上記特許文献2に記載の処理方法は、高濃度セレン排水の処理が不十分であり、さらなる改良が望まれていた。
【0010】
また、特開2015−80774号公報(特許文献3)には、構成元素として、鉄(Fe)、珪素(Si)、及び酸素(O)を含み、Fe/Siのモル比が5以上300以下であるセレン吸着剤を、6価のセレン酸イオンを含有するセレン含有溶液と接触させる処理方法が開示されているが、かかる吸着剤の推奨される反応系の条件としてはpH5以下とされている。
かかる特許文献3に記載の処理方法においては、Se(VI)溶液を用いているが、Seの還元反応は酸性条件下において進行しやすいため、Fe等が触媒として作用し、Se(IV)に還元され吸着されている技術と推測できる。
【0011】
Se(IV)はSe(VI)と比較して金属水酸化物等に吸着されやすく、大気環境中においては酸化状態となるため、Se(IV)の形態で吸着剤に吸着されている場合、大気に曝されSe(IV)からSe(VI)となった際に吸着剤から脱着する可能性がある。
従って、真にSe(VI)の形態でセレンを吸着することができるセレン吸着剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3956978号公報
【特許文献2】特開2004−89924号公報
【特許文献3】特開2015−80774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上記課題を解決し、従来のセレン吸着剤と比べて、6価のセレンを還元することなく6価のままで吸着できる優れたセレン処理能力を有する、セレン吸着剤及びその製造方法を提供することである。
また、本発明の他の目的は、セレンを含む土壌や排水からセレンを6価の状態で有効に吸着する処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、特定の成分を特定のモル比とする吸着剤が、6価のセレンを6価の状態で効率的に吸着することができることを見出し、本発明に到ったものである。
【0015】
(1)セレン吸着剤は、pH9.5〜10.5の鉄(Fe)及びマグネシウム(Mg)含有溶液由来の鉄(Fe)及びマグネシウム(Mg)を必須構成元素として含み、Mg/Feのモル比が0.2を超えて59以下であることを特徴とする、セレン吸着剤である。
(2)上記(1)のセレン吸着剤において、Mg/Feのモル比が0.5〜59であることを特徴とする。
【0016】
(3)(1)又は(2)のセレン吸着剤の製造方法は、第2鉄イオンを含む溶液に、マグネシウムイオンを含む溶液をMg/Feのモル比が所定のモル比となるように滴下し、得られる溶液のpHが中性からアルカリ性となるようにアルカリ溶液を添加し、次いで、0〜60℃の条件下で放置して沈殿物を形成させ、固液分離し、得られた固体残渣物を乾燥することにより製造することを特徴とする、セレン吸着剤の製造方法である。
【0017】
(4)(3)のセレン吸着剤の製造方法において、アルカリ溶液添加後の第2鉄イオン及びマグネシウムイオンを含有する溶液のpHを9.5〜10.5となるようにアルカリ溶液を添加することを特徴とする。
【0018】
(4)セレン処理方法は、上記(1)又は(2)のセレン吸着剤を、6価のセレン含有廃水又は6価のセレン含有汚染土壌と混合して、6価のセレンの状態で、前記セレン吸着剤に吸着させて処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
従来は6価のセレンイオンを吸着処理することは困難であり4価の亜セレン酸イオンへ還元処理をした上で吸着処理していたが、本発明のセレン吸着剤により、4価の亜セレン酸イオンへの還元処理を必要とすることなく、6価のセレンを6価のままで吸着処理することが可能となる。
従って、大気環境中においては酸化状態となるため、Se(IV)の形態で吸着剤に吸着されている場合、大気に曝されSe(IV)からSe(VI)となった際に吸着剤から脱着する可能性があったが、本発明によれば、6価の状態でセレンを吸着できるため、吸着剤より脱着することがなく、吸着性能に優れる。
また、本発明のセレン吸着剤の製造方法は、6価のセレンを有効に6価のままで吸着処理することができるセレン吸着剤を効率良く調製することができる。
更に、本発明のセレン吸着剤を用いたセレン処理方法は、6価のセレンを含む排水や汚染土壌と混合することで、6価のセレンを6価の状態で吸着することができ、セレンを有効に簡便に除去処理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一例のセレン吸着剤のXRDチャート図である。
図2】本発明の一例のセレン吸着剤を用いた6価のセレンの吸着等温線を示す図である。
図3】本発明の一例の吸着剤を用いて、6価セレン含有溶液及び4価セレン含有溶液からセレンを吸着させた吸着剤、及び亜セレン酸ナトリウム溶液(Se:IV)及びセレン酸ナトリウム溶液(Se:VI)のXANESスペクトル線図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を以下の実施態様により説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明のセレン吸着剤は、pH9.5〜10.5の鉄(Fe)及びマグネシウム(Mg)含有溶液由来の鉄(Fe)及びマグネシウム(Mg)を必須構成元素として含み、Mg/Feのモル比が0.2を超えて59以下、好ましくは0.5〜59である、セレン吸着剤である。
かかる構成を有することにより、6価のセレンを6価の状態で吸着除去することが可能となる。
本発明のセレン吸着材中のMg/Feモル比が0.2以下である場合や、Mg/Feのモル比が59を超える場合には、セレンの吸着能が低下する。
【0022】
本発明のセレン吸着剤は、鉄(Fe)及びマグネシウム(Mg)化合物を含有する溶液がpH9.5〜10.5とすれば鉄(Fe)及びマグネシウム(Mg)を必須構成元素として含む任意の化合物等を用いることができ、鉄を含有する化合物としては、例えば、酸化鉄、オキシ水酸化鉄、塩化第二鉄、硫酸第二鉄等が例示され、また、マグネシウムを含有する化合物としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等が例示される。
【0023】
なお、本発明のセレン吸着剤の必須構成元素である鉄(Fe)及びマグネシウム(Mg)は、pH9.5〜10.5の鉄(Fe)及びマグネシウム(Mg)含有溶液由来の(Fe)及びマグネシウム(Mg)である。
かかる鉄(Fe)及びマグネシウム(Mg)を必須構成元素として用いることにより、セレンに対する優れた吸着性能を発揮することが可能となる。
【0024】
本発明のセレン吸着剤は、結晶質物質であっても非結晶質物質であっても、これらの混合物であっても特に限定されないが、特に、非晶質鉄水酸化物のほうが高いセレン吸着能を示すことより、結晶質物質が少なく、非結晶質物質であることが好ましい。
【0025】
本発明のセレン吸着剤には、上記本発明の効果を妨げない範囲で他の成分を含んでいてもよく、例えばpH調製剤や凝集剤等を必要に応じて含有することができる。
【0026】
本発明のセレン吸着剤を製造するにあたり、その製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、第2鉄イオンを含む溶液に、マグネシウムイオンを含む溶液を、Mg/Feのモル比が0.2を超えて59以下、好ましくは0.5〜59となるように滴下し、得られる溶液のpHが好ましくは中性からアルカリ性となるようにアルカリ溶液を添加し、好ましくは0〜60℃の条件下で静置熟成して沈殿物を生成させることで、本発明の吸着剤を調製することが可能である。
【0027】
アルカリ溶液の添加は、アルカリ溶液添加後の第2鉄イオン及びマグネシウムイオンを含有する溶液のpHが9.5〜10.5となるように添加することが望ましく、これにより得られたセレン吸着剤が優れた吸着性能を有することが可能となる。
【0028】
次いで、得られた沈殿生成物を、固液分離した後、好ましくは遠心分離等の手段で固液分離した後に乾燥して、望ましくは60〜120℃で乾燥して、得られた乾燥物を適宜粉砕して、本発明のセレン吸着剤することが好ましい。
【0029】
本発明のセレン吸着剤を製造するのに用いる第2鉄イオン源としては、水に溶解して第2鉄イオンを形成する化合物であれば特に制限されることなく各種化合物を使用することができ、硫酸第2鉄、硝酸第2鉄、塩化第2鉄等を例示することができる。
【0030】
また、本発明のセレン吸着剤を製造するのに用いるマグネシウムイオン源としては、水に溶解してマグネシウムイオンを形成する化合物であれば特に制限されることなく各種化合物を使用することができる。
例えば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等を例示することができ、特に塩化マグネシウムを好適に用いることができる。
【0031】
また、鉄及びマグネシウムを含む溶液のpHは吸着剤の収量の観点から、好ましくは中性からアルカリ性とすることが望ましく、必要に応じて、アルカリ溶液を鉄及びマグネシウムを含む溶液に添加する。
かかるアルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等を例示することができる。
【0032】
また、本発明の上記効果を妨げない範囲で、必要に応じて、凝集剤を配合することも可能である。
【0033】
次いで、鉄及びマグネシウムを含む溶液を、0〜60℃の条件下で静置熟成して沈殿物を生成させ、得られた沈殿物を固液分離等することで、本発明の吸着剤を調製することが可能である。
具体的には、固液分離した後に得られた固体残渣物を乾燥し、得られた乾燥物を適宜粉砕して、本発明のセレン吸着剤を粉末形態とすることが好ましい。
乾燥手段としては、例えば、凍結乾燥や遠心分離等の任意の固液分離手段を用いることができ、好ましくは60〜120℃で乾燥することである。
【0034】
本発明のセレン吸着剤は、6価のセレン酸イオンが溶出する石炭灰、土壌及び6価のセレン酸イオンを含有する廃液と接触させることにより、6価のセレン酸イオンをそのままの6価の状態で吸着させて、不溶化させることにより、セレンを処理することができる。
【0035】
上記本発明のセレン吸着剤を、汚染土壌や、汚染排水と接触させて除去することにより、汚染土壌や汚染排水中に含まれるセレンを吸着除去することができる。
接触方法としては、任意の公知の方法を適用することができ、例えば、本発明のセレン吸着剤と土壌との混合や、排水中への投入攪拌方法を例示することができる。
また、例えば、汚染排水中へ投入した場合には、その後、凝集剤等を配合して、固液分離方法により回収することも可能である。
更に、本発明の吸着剤を例えばカラム等に充填し、該カラム等内にセレン含有廃液を通液する方法等も用いることができる。
【0036】
本発明のセレン吸着剤と、6価のセレン酸イオンが溶出する石炭灰や土壌、6価のセレン酸イオンを含有する廃液とを接触させる温度としては、特に限定されるものではないが、例えば、0〜50℃の範囲、好ましくは室温等で接触させることで十分であり、接触させる際のpHも特に限定されず、例えばpH5から11程度が好ましい。
【0037】
また、例えば、公知の重金属処理剤とともに本発明のセレン吸着剤を組み合わせて、セレンのみならず他の重金属類を除去する処理方法とすることも可能である。
例えば、半焼成ドロマイト、軽焼ドロマイト、酸化マグネシウム等による重金属処理剤等とともに使用することで、セレン及び他の有害物質を高度に除去することが可能となる。
【実施例】
【0038】
本発明を次の実施例及び比較例により説明する。
(実施例1〜4・比較例1〜8)
(吸着剤の調製)
1000mlのポリビーカーに、塩化マグネシウム六水和物及び塩化鉄六水和物が表1に示す所定のモル比(合計1.5M)となるようにして塩化マグネシウム六水和物及び塩化鉄六水和物とをそれぞれ添加し、更に700mlの超純水を注いで混合して、塩化マグネシウム、塩化鉄混合溶液を調製した。
【0039】
得られた塩化マグネシウム及び塩化鉄混合溶液のpHが9.5〜10.5となるように、8N水酸化ナトリウム水溶液を適宜添加した。その後、12時間静置し、生成した沈殿物を遠心分離により固液分離した(3000rpm、10分間)。
【0040】
上澄み液を除去して、350mlの超純水を加えて沈殿物を分散させたのち、遠心分離で固液分離した。かかる操作を4回繰返し、沈殿物中の塩類を除去した。
次いで、沈殿物を乾燥機(85℃)で12時間乾燥させたのち、得られた固体を乳鉢で75μm以下に粉砕し、セレン吸着剤とした。
【0041】
なお、実施例3のセレン吸着剤に対して、下記条件の粉末X線回折リートベルト法(XRD)をおこない、得られたXRDチャート図を図1に示す。
測定条件
使用装置:PANalytical X’Pert Pro MPD
測定条件:管球 Cu−Kα
管電圧:45 kV
電流:40 mA
発散スリット:可変 (12 mm)
アンチスキャッタースリット(入射側):無し
ソーラースリット(入射側):0.04 rad.
受光スリット:無し
アンチスキャッタースリット(受光側):可変 (12 mm)
ソーラースリット (受光側):0.04 rad
走査範囲:2θ=5〜50°
走査ステップ:0.008°
計数時間:0.0004°/sec.
【0042】
図1より、24.5〜30.5°にハローピークが確認されること、また、その他のピークについてもブロードであるため非晶質であるかあるいは結晶性が低いことがわかる。
【0043】
(試験例1:6価セレンの吸着試験)
セレン酸ナトリウム(特級試薬:関東化学(株))を水に溶解させて、1mg/l及び5mg/lの濃度のSe(VI)溶液を調製した。
上記実施例1〜6で得られた各セレン吸着剤0.3gを50mlのコニカルチューブに秤量して、前記1mg/l(Ci)のSe(VI)溶液又は5mg/l(Ci)の濃度のSe(VI)溶液をそれぞれ30ml添加して、24時間振とうして、均一に混合した。
24時間経過後、0.45μmメンブランフィルターを用いて吸引濾過を実施して固液分離を行い、ろ液中のセレン濃度を「水素化合物発生ICP発光分光分析法」(JIS K 0102:2013)により測定して定量し(Cf)、下記式より吸着除去率を算出した。
吸着除去率(%)=(Ci−Cf)/Ci×100
上記式中、Ci=吸着試験における初期濃度(mg/l)、Cf=吸着試験における最終濃度(mg/l)を示す。
【0044】
また、ろ液のpH及び酸化―還元電位(ORP)を、(株)堀場製作所製の卓上型pHメーター:F−73(pH電極:9615S−10D、ORP電極:9300−10D)にて測定し、その結果も表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
(6価セレン吸着等温線)
実施例1(Mg/Feモル比:2)の吸着剤についての6価セレン吸着等温線を図2に示す。
【0047】
具体的には、上記試験例1の6価セレンの吸着試験においてCi(吸着試験における初期濃度)を1〜1000 mg/lの間で変化させて、同様の吸着試験を実施した。その際、Cf(吸着試験における最終濃度)をSe(VI)平衡濃度とし、以下に示す式からSe(VI)吸着量を算出した。
なお、吸着試験に使用したLDPE製容器へのSe(VI)吸着をゼロと仮定して、吸着剤のSe(VI)吸着量を算出した。
【0048】
得られた結果から縦軸にSe(VI)吸着量を、横軸にSe(VI)平衡濃度をプロットして、吸着等温線を得た。
吸着量(mg/g)=(Ci−Cf)/Ad Ad=吸着剤添加量(g/l)
図2より、実施例1の吸着剤は、高い6価セレン吸着容量を示し、高濃度の6価セレンに対してもすぐれた吸着性能を有することがわかる。
【0049】
(XANESによる吸着剤残渣中のセレンの価数分析)
本発明の吸着剤に吸着されているセレンは6価セレンの状態で吸着されていることを確認するために、以下のようにして調製した測定試料A及びBを用いて、XANESによる吸着剤残渣中のセレンの価数分析を実施した。
具体的には、6価セレン溶液又は4価セレン溶液を用い、実施例1の吸着剤にセレンをそれぞれ吸着させ、当該吸着剤中に含有するセレンの価数分析をSe−K−edge XANESにより測定した。
その結果を図3に示す。
【0050】
測定条件:
実施施設:あいちSRセンター, 使用ビームライン:BL5S1
分光器:Si(111) の結晶を2つ利用したカム式二結晶分光器
エネルギー較正:銅箔のプレエッジピークが8980.3eVとなるように分光器エンコーダの値を補正
測定法:透過法(QXAFS), 検出器:透過測定用イオンチェンバー
対象:Se−k−edge, 測定範囲:12351−13749 eV, データ解析使用ソフト:Athena
【0051】
測定試料の調製:
6価セレンの100mg/l溶液を調製し、該6価セレン溶液に、実施例1の吸着剤を固液質量比1:100で加え、次いで24時間振とうして、該吸着剤にセレンを吸着させた。
【0052】
その後0.45μmメンブランフィルターを用いてろ過し、得られた残渣を凍結乾燥し、該凍結乾燥した残渣を、ペレット化して、XANESによる吸着剤残渣中のセレンの価数分析に課する測定試料Aとして調製した。
なお、残渣粉末のペレット化は、以下のようにし実施した。
粉末試料のペレット化:Se−K吸収端でのエッジジャンプが1程度になるように、試料量を調整し手動加圧の錠剤成型器を用い直径7mmのペレットに成型。
【0053】
なお、比較のために、4価セレン100mg/l溶液を用い、上記と同様に、当該4価セレン溶液中のセレンを実施例1の吸着剤に吸着させて凍結乾燥してペレット化した測定試料Bを調製し、6価セレンの測定試料Aと同様にして、XANESによる吸着剤残渣中のセレンの価数分析測定を実施した。
その結果を図3に示す。
【0054】
なお、測定試料A及びBに対して、XANESによる吸着剤残渣中のセレンの価数分析を測定する前に、測定試料A及びBに対して予備測定を実施することにより、前記測定試料A及びBの乾燥がセレンの酸化還元及びXANESスペクトルに影響を及ぼさないことを確認した。
【0055】
更に、標準試料として、標準試料(STD)A:亜セレン酸ナトリウム(Se(IV))溶液(濃度0.1M)及び標準試料(STD)B:セレン酸ナトリウム(Se(VI)溶液(濃度0.1M)を用いて、XANESによるセレンの価数分析を実施し、その結果も図2に示す。
【0056】
実施例1の吸着剤に6価セレン溶液を用いてセレンを吸着させた測定試料Aと、上記標準試料A(セレン酸ナトリウム溶液)とのSe−K−edge XANESスペクトルが一致していた。
また、実施例1の吸着剤に4価セレン溶液を用いてセレンを吸着させた測定試料Bと、標準試料B(亜セレン酸ナトリウム溶液)とのSe−K−edge XANESスペクトルが一致していた。
これらの結果より、本発明の吸着剤は、セレンの価数を変えずにセレンを吸着していることがわかる。
【0057】
(比較例1及び比較例7)
セレン吸着剤として、塩化第二鉄六水和物(比較例1)のみ、塩化マグネシウム六水和物(比較例7)のみを用いて上記実施例1と同様にして、セレン吸着剤を調製し、上記セレン吸着試験を実施した。
その結果を表2に示す。
【0058】
(比較例2〜6)
塩化マグネシウム六水和物及び塩化第二鉄六水和物が表2に示す各モル比となるようにして塩化マグネシウム六水和物及び塩化第二鉄六水和物とをそれぞれ添加し、700mlの超純水を注いで混合して、塩化マグネシウム、塩化鉄混合溶液を調製した以外は、実施例1と同様にして、セレン吸着剤を調製し、上記セレン吸着試験を実施した。
その結果を表2に示す。
【0059】
(比較例8)
塩化マグネシウム六水和物及び塩化第二鉄六水和物が表2に示す各モル比となるようにして塩化マグネシウム六水和物及び塩化第二鉄六水和物とをそれぞれ添加し、700mlの超純水を注いで混合して、塩化マグネシウム及び塩化鉄混合溶液のpHを13となるように8N水酸化ナトリウム水溶液を添加した以外は、実施例1と同様にして、セレン吸着剤を調製し、上記セレン吸着試験を実施した。
その結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
上記表1及び表2より、本発明のセレン吸着剤は、還元等の前処理を必要とせずに優れたセレンの吸着除去能を有し、少量の吸着剤の添加でセレンの再溶出や脱着の懸念なく、6価セレンを処理することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の吸着剤は、6価のセレンを4価に還元することなく吸着処理することができるため、排水中や土壌中に含まれる有害な6価のセレンを効率良く、吸着除去することに適用でき、例えば、トンネルやダム等の掘削工事や建設工事等によって大量に発生するセレン汚染土壌の処理や、セレンを原料として用いて製品を製造する工場の排水の処理に有効に適用することができる。

図1
図2
図3