【実施例】
【0038】
本発明を次の実施例及び比較例により説明する。
(実施例1〜4・比較例1〜8)
(吸着剤の調製)
1000mlのポリビーカーに、塩化マグネシウム六水和物及び塩化鉄六水和物が表1に示す所定のモル比(合計1.5M)となるようにして塩化マグネシウム六水和物及び塩化鉄六水和物とをそれぞれ添加し、更に700mlの超純水を注いで混合して、塩化マグネシウム、塩化鉄混合溶液を調製した。
【0039】
得られた塩化マグネシウム及び塩化鉄混合溶液のpHが9.5〜10.5となるように、8N水酸化ナトリウム水溶液を適宜添加した。その後、12時間静置し、生成した沈殿物を遠心分離により固液分離した(3000rpm、10分間)。
【0040】
上澄み液を除去して、350mlの超純水を加えて沈殿物を分散させたのち、遠心分離で固液分離した。かかる操作を4回繰返し、沈殿物中の塩類を除去した。
次いで、沈殿物を乾燥機(85℃)で12時間乾燥させたのち、得られた固体を乳鉢で75μm以下に粉砕し、セレン吸着剤とした。
【0041】
なお、実施例3のセレン吸着剤に対して、下記条件の粉末X線回折リートベルト法(XRD)をおこない、得られたXRDチャート図を
図1に示す。
測定条件
使用装置:PANalytical X’Pert Pro MPD
測定条件:管球 Cu−Kα
管電圧:45 kV
電流:40 mA
発散スリット:可変 (12 mm)
アンチスキャッタースリット(入射側):無し
ソーラースリット(入射側):0.04 rad.
受光スリット:無し
アンチスキャッタースリット(受光側):可変 (12 mm)
ソーラースリット (受光側):0.04 rad
走査範囲:2θ=5〜50°
走査ステップ:0.008°
計数時間:0.0004°/sec.
【0042】
図1より、24.5〜30.5°にハローピークが確認されること、また、その他のピークについてもブロードであるため非晶質であるかあるいは結晶性が低いことがわかる。
【0043】
(試験例1:6価セレンの吸着試験)
セレン酸ナトリウム(特級試薬:関東化学(株))を水に溶解させて、1mg/l及び5mg/lの濃度のSe(VI)溶液を調製した。
上記実施例1〜6で得られた各セレン吸着剤0.3gを50mlのコニカルチューブに秤量して、前記1mg/l(Ci)のSe(VI)溶液又は5mg/l(Ci)の濃度のSe(VI)溶液をそれぞれ30ml添加して、24時間振とうして、均一に混合した。
24時間経過後、0.45μmメンブランフィルターを用いて吸引濾過を実施して固液分離を行い、ろ液中のセレン濃度を「水素化合物発生ICP発光分光分析法」(JIS K 0102:2013)により測定して定量し(Cf)、下記式より吸着除去率を算出した。
吸着除去率(%)=(Ci−Cf)/Ci×100
上記式中、Ci=吸着試験における初期濃度(mg/l)、Cf=吸着試験における最終濃度(mg/l)を示す。
【0044】
また、ろ液のpH及び酸化―還元電位(ORP)を、(株)堀場製作所製の卓上型pHメーター:F−73(pH電極:9615S−10D、ORP電極:9300−10D)にて測定し、その結果も表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
(6価セレン吸着等温線)
実施例1(Mg/Feモル比:2)の吸着剤についての6価セレン吸着等温線を
図2に示す。
【0047】
具体的には、上記試験例1の6価セレンの吸着試験においてCi(吸着試験における初期濃度)を1〜1000 mg/lの間で変化させて、同様の吸着試験を実施した。その際、Cf(吸着試験における最終濃度)をSe(VI)平衡濃度とし、以下に示す式からSe(VI)吸着量を算出した。
なお、吸着試験に使用したLDPE製容器へのSe(VI)吸着をゼロと仮定して、吸着剤のSe(VI)吸着量を算出した。
【0048】
得られた結果から縦軸にSe(VI)吸着量を、横軸にSe(VI)平衡濃度をプロットして、吸着等温線を得た。
吸着量(mg/g)=(Ci−Cf)/Ad Ad=吸着剤添加量(g/l)
図2より、実施例1の吸着剤は、高い6価セレン吸着容量を示し、高濃度の6価セレンに対してもすぐれた吸着性能を有することがわかる。
【0049】
(XANESによる吸着剤残渣中のセレンの価数分析)
本発明の吸着剤に吸着されているセレンは6価セレンの状態で吸着されていることを確認するために、以下のようにして調製した測定試料A及びBを用いて、XANESによる吸着剤残渣中のセレンの価数分析を実施した。
具体的には、6価セレン溶液又は4価セレン溶液を用い、実施例1の吸着剤にセレンをそれぞれ吸着させ、当該吸着剤中に含有するセレンの価数分析をSe−K−edge XANESにより測定した。
その結果を
図3に示す。
【0050】
測定条件:
実施施設:あいちSRセンター, 使用ビームライン:BL5S1
分光器:Si(111) の結晶を2つ利用したカム式二結晶分光器
エネルギー較正:銅箔のプレエッジピークが8980.3eVとなるように分光器エンコーダの値を補正
測定法:透過法(QXAFS), 検出器:透過測定用イオンチェンバー
対象:Se−k−edge, 測定範囲:12351−13749 eV, データ解析使用ソフト:Athena
【0051】
測定試料の調製:
6価セレンの100mg/l溶液を調製し、該6価セレン溶液に、実施例1の吸着剤を固液質量比1:100で加え、次いで24時間振とうして、該吸着剤にセレンを吸着させた。
【0052】
その後0.45μmメンブランフィルターを用いてろ過し、得られた残渣を凍結乾燥し、該凍結乾燥した残渣を、ペレット化して、XANESによる吸着剤残渣中のセレンの価数分析に課する測定試料Aとして調製した。
なお、残渣粉末のペレット化は、以下のようにし実施した。
粉末試料のペレット化:Se−K吸収端でのエッジジャンプが1程度になるように、試料量を調整し手動加圧の錠剤成型器を用い直径7mmのペレットに成型。
【0053】
なお、比較のために、4価セレン100mg/l溶液を用い、上記と同様に、当該4価セレン溶液中のセレンを実施例1の吸着剤に吸着させて凍結乾燥してペレット化した測定試料Bを調製し、6価セレンの測定試料Aと同様にして、XANESによる吸着剤残渣中のセレンの価数分析測定を実施した。
その結果を
図3に示す。
【0054】
なお、測定試料A及びBに対して、XANESによる吸着剤残渣中のセレンの価数分析を測定する前に、測定試料A及びBに対して予備測定を実施することにより、前記測定試料A及びBの乾燥がセレンの酸化還元及びXANESスペクトルに影響を及ぼさないことを確認した。
【0055】
更に、標準試料として、標準試料(STD)A:亜セレン酸ナトリウム(Se(IV))溶液(濃度0.1M)及び標準試料(STD)B:セレン酸ナトリウム(Se(VI)溶液(濃度0.1M)を用いて、XANESによるセレンの価数分析を実施し、その結果も
図2に示す。
【0056】
実施例1の吸着剤に6価セレン溶液を用いてセレンを吸着させた測定試料Aと、上記標準試料A(セレン酸ナトリウム溶液)とのSe−K−edge XANESスペクトルが一致していた。
また、実施例1の吸着剤に4価セレン溶液を用いてセレンを吸着させた測定試料Bと、標準試料B(亜セレン酸ナトリウム溶液)とのSe−K−edge XANESスペクトルが一致していた。
これらの結果より、本発明の吸着剤は、セレンの価数を変えずにセレンを吸着していることがわかる。
【0057】
(比較例1及び比較例7)
セレン吸着剤として、塩化第二鉄六水和物(比較例1)のみ、塩化マグネシウム六水和物(比較例7)のみを用いて上記実施例1と同様にして、セレン吸着剤を調製し、上記セレン吸着試験を実施した。
その結果を表2に示す。
【0058】
(比較例2〜6)
塩化マグネシウム六水和物及び塩化第二鉄六水和物が表2に示す各モル比となるようにして塩化マグネシウム六水和物及び塩化第二鉄六水和物とをそれぞれ添加し、700mlの超純水を注いで混合して、塩化マグネシウム、塩化鉄混合溶液を調製した以外は、実施例1と同様にして、セレン吸着剤を調製し、上記セレン吸着試験を実施した。
その結果を表2に示す。
【0059】
(比較例8)
塩化マグネシウム六水和物及び塩化第二鉄六水和物が表2に示す各モル比となるようにして塩化マグネシウム六水和物及び塩化第二鉄六水和物とをそれぞれ添加し、700mlの超純水を注いで混合して、塩化マグネシウム及び塩化鉄混合溶液のpHを13となるように8N水酸化ナトリウム水溶液を添加した以外は、実施例1と同様にして、セレン吸着剤を調製し、上記セレン吸着試験を実施した。
その結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
上記表1及び表2より、本発明のセレン吸着剤は、還元等の前処理を必要とせずに優れたセレンの吸着除去能を有し、少量の吸着剤の添加でセレンの再溶出や脱着の懸念なく、6価セレンを処理することが可能である。