【解決手段】一主面が板状試料を載置する載置面である基体と、基体において、載置面とは反対側に設けられた静電吸着用電極と、を備え、基体は、周波数20Hzにおける比誘電率が15以上であり、かつ周波数1MHzにおける比誘電率が13以下であり、誘電損失が0.04以下であり、130℃における体積固有抵抗値が5×10
前記セラミックス材料は、酸化アルミニウムおよびβ−SiC型の炭化ケイ素を含む焼結体であり、アルミニウム及びケイ素以外の金属不純物含有量が200ppm以下である請求項1に記載の静電チャック装置。
前記導電性セラミックス材料は、アルミニウムおよび前記炭素材料を構成する金属元素以外の金属不純物含有量が1000ppm以下である請求項4から6のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<静電チャック装置>
以下、
図1を参照しながら、本実施形態に係る静電チャック装置1について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0025】
図1は、静電チャック装置1の断面図である。図に示すように、静電チャック装置1は、上面が半導体ウエハ等の板状試料Wを載置する載置面19とされた静電チャック部2と、静電チャック部2を所望の温度に調整する温度調節用ベース部3と、静電チャック部2と温度調節用ベース部3とを接着一体化する樹脂層8と、を有している。以下の説明においては、載置面19側を「上」、温度調節用ベース部3側を「下」として記載し、各構成の相対位置を表すことがある。
【0026】
[静電チャック部]
静電チャック部2は、上面が半導体ウエハ等の板状試料Wを載置する載置面19とされた載置板(基体)11と、載置板11の載置面19とは反対側に設けられた支持板12と、載置板11と支持板12とに挟持された静電吸着用電極13と、載置板11と支持板12とに挟持され静電吸着用電極13の周囲を囲む絶縁材層14と、を有している。
【0027】
[載置板]
載置板11は、載置面19に直径が板状試料Wの厚さより小さい突起部30が複数個形成されている。静電チャック装置1は、複数の突起部30が板状試料Wを支える構成になっている。
【0028】
また載置面19の周縁には、周縁壁17が形成されている。周縁壁17は、突起部30と同じ高さに形成されており、突起部30とともに板状試料Wを支持する。
【0029】
このような載置板11は、セラミックス材料を形成材料としている。詳しくは、載置板11は、周波数20Hzにおける比誘電率が15以上であり、かつ周波数1MHzにおける比誘電率が13以下であり、誘電損失が0.04以下であるセラミックス材料を形成材料としている。以下、載置板11の形成材料であるセラミックス材料を「第1セラミックス材料」と称することがある。
【0030】
載置板11は、周波数20Hzにおける比誘電率が15以上であることにより、静電吸着用電極13に電圧を印加した際に、載置面19において良好にウエハを保持することができる。載置板11は、周波数20Hzにおける比誘電率が17以上であることがより好ましい。
【0031】
また、載置板11は、周波数1MHzにおける比誘電率が13以下であることにより、良好な高周波透過窓としての機能を有する。
【0032】
載置板11の形成材料は、周波数20Hzにおける比誘電率が15以上であることが好ましく、17以上であることがより好ましく、20以上であることがさらに好ましい。
【0033】
また、載置板11の形成材料は、周波数20Hz以下のいずれの周波数においても比誘電率が15以上であることが好ましく、周波数20Hz以下のいずれの周波数においても比誘電率が17以上であることがより好ましい。
【0034】
また、載置板11の形成材料は、周波数1MHz以上のいずれの周波数においても比誘電率が13以下であることが好ましい。
【0035】
ここで、「周波数20Hz」は、静電吸着力に影響する直流に近い周波数である。周波数20Hz以下の電圧には、直流電圧を含む。
【0036】
また、「周波数1MHz」は、エッチング装置においてプラズマを発生させる周波帯域を含む周波数である。
【0037】
載置板11の形成材料は、−80℃以上130℃以下の温度範囲における体積固有抵抗値が5×10
13Ω・cm以上であることが好ましく、−80℃以上150℃以下の温度範囲における体積固有抵抗値が5×10
13Ω・cm以上であることがより好ましい。また、載置板11の形成材料は、−80℃以上130℃以下の温度範囲における体積固有抵抗値が1×10
14Ω・cm以上であることがより好ましい。
【0038】
載置板11の形成材料をこのような第1セラミックス材料とすることで、低温域から高温域までの広い温度範囲に対応し、吸着力が高く良好な高周波透過性を有する静電チャック装置とすることがきる。
【0039】
上述のような第1セラミックス材料としては、絶縁材料をマトリックスとし、マトリックス中に導電性材料を分散させた複合材料であることが好ましい。このような複合材料の比誘電率、誘電損失、体積固有抵抗値の各値については、以下のように考えることができる。
【0040】
複合材料の比誘電率は、内部の分極構造に依存する。分極は、大きく電子分極、イオン分極、配向分極、界面分極に分類される。複合材料の比誘電率は、これらの各分極に起因する比誘電率の和となる。このうち、静電チャック装置の形成材料として用いることを考えた場合、高周波に曝されるという使用環境から、電子分極と界面分極との影響が大きい。
【0041】
電子分極は、誘電体内の電荷の移動を伴わない。そのため、高周波数域まで分極が維持される。
【0042】
対して、界面分極は誘電体の電荷の移動を伴う。周波数が高くなると電荷の移動が極の変化(反転)に追随できなくなるため、高周波側では界面分極に起因する比誘電率が増加しない。一方で、周波数の低い領域では、界面分極に起因する比誘電率が増加する。
【0043】
界面分極は、電気抵抗の異なる材料の界面で生じる。そのため、上述した複合材料のように、マトリックスである絶縁材料に、導電性材料のような、絶縁材料より抵抗値の低い材料を分散させることにより、界面分極を生じさせることができる。
【0044】
界面分極は、界面の面積に依存する。複合材料において界面の面積が大きくなると、界面分極する箇所が増え、界面分極に起因する比誘電率が増加する。すなわち、導電性材料の粒子径が小さいと、界面の面積が大きくなり、複合材料の比誘電率が大きくなる。
【0045】
また、複合材料に含まれる導電性材料の量が多いと、複合材料の比誘電率が大きくなる、一方、導電性材料が多すぎると、導電性材料同士が接触し、導電性材料を介した導電性パスが形成されてしまう。そのため、複合材料に含まれる導電性材料の量は、導電性材料同士が接触しない範囲であることが好ましい。
【0046】
複合材料の誘電損失は、マトリクスである絶縁材料に含まれる金属不純物量が多いと大きくなる。また、複合材料に含まれる導電性材料の量が多いと、複合材料の誘電損失が大きくなる。
【0047】
複合材料の体積固有抵抗値は、複合材料に含まれる導電性材料の量が多いと低くなる。また、上述の複合材料の体積固有抵抗値は、マトリクスである絶縁材料中の金属不純物含有量が多いと低くなる。
【0048】
さらに、マトリックスである絶縁材料として、共有結合性が高く、格子欠陥が少なく、不純物量が少ない材料を用いると、高温温度領域における複合材料の体積固有抵抗値が低くなる。
【0049】
なお、導電性材料としては、導電性材料に含まれる不純物元素や絶縁材料と反応しにくく、または、反応したとしても絶縁材料より体積固有抵抗値の低い相を生成しにくい材料が好ましい。さらに、導電性材料として、マトリックスに拡散した際、マトリックスである絶縁材料の格子欠陥を生じない材質が好適である。
【0050】
(組成)
上述したような物性を有する第1セラミックス材料は、酸化アルミニウムおよびβ−SiC型の炭化ケイ素を含む焼結体であることが好ましい。以下、β−SiC型の炭化ケイ素のことを、単に「β−SiC」と称する。
【0051】
第1セラミックス材料は、β−SiCの結晶粒が、マトリックス材料である酸化アルミニウムに取り囲まれた状態で分散していることが好ましい。
【0052】
このような第1セラミックス材料を用いて載置板11を形成した場合、後述する静電吸着用電極13に静電吸着用の直流電圧を印加すると、絶縁材料である酸化アルミニウムの結晶粒と導電性材料であるβ−SiCの結晶粒との界面において界面分極を生じる。その結果、酸化アルミニウムのみで構成されたセラミックス材料と比べて比誘電率が増加する。
【0053】
一方、第1セラミックス材料を用いて形成した載置板11では、エッチング装置においてプラズマの発生およびプラズマ状態の制御のために印加する高周波に対しては、上述した結晶粒の界面分極は追随しにくい。そのため、第1セラミックス材料を用いて形成した載置板11は、酸化アルミニムのみで形成した載置板と比べ、高周波に対する比誘電率の増加はなく、高周波透過性が低下しにくい。
【0054】
(組成比)
第1セラミックス材料において、第1セラミックス材料全体(以下、単に「焼結体全体」と称することがある)に占めるβ−SiCの体積比は、4体積%以上であることが好ましく、6体積%以上であることがより好ましい。また、焼結体全体に占めるβ−SiCの体積比は、15体積%以下であることが好ましく、10体積%以下であることがより好ましい。β−SiCの体積比について、上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。
【0055】
第1セラミックス材料においては、β−SiCの体積比を焼結体全体の4体積%以上とすることで、焼結体の比誘電率を増加させることができる。また、第1セラミックス材料においては、β−SiCの体積比を焼結体全体の15体積%以下とすることでSiC粒子同士の接触を抑制し、SiC粒子を介した電荷移動を生じにくくすることができる。これにより、焼結体の抵抗値の低下を抑制することができる。
【0056】
(金属不純物量)
また、第1セラミックス材料においては、第1セラミックス材料に含まれる金属不純物の含有量が200ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましい。ここで、「金属不純物」には、第1セラミックス材料を構成する金属元素であるアルミニウムおよびケイ素は含まれない。すなわち、第1セラミックス材料における「金属不純物」とはアルミニウムおよびケイ素以外の金属のことである。
【0057】
酸化アルミニウムのような誘電体を含むセラミックス材料では、静電吸着用の直流の高電圧を印加することにより誘電体内で電荷の移動を生じる。誘電体の内部で電荷が移動すると、誘電体の内部では空間分極を生じる。そのため、誘電体を含むセラミックス材料を静電チャック装置の載置板の形成材料とした場合、静電吸着用電極へ電圧印加を行うと、載置板の内部で空間分極を生じ、クーロン力を生じる。静電チャック装置では、生じたクーロン力によりウエハを吸着し、保持することができる。
【0058】
このとき、載置板における電荷の移動量は、セラミックス材料に含まれる誘電体の格子欠陥の量、印加電圧の電位、電圧の印加時間、電圧を印加する際の誘電体の温度等、種々の要因に依存する。
【0059】
一方で、誘電体によっては、空間分極が生じた場合に、短時間のうちには分極が緩和しないことがある。このような誘電体を含むセラミックス材料を静電チャック装置の載置板の形成材料とした場合、静電吸着用電極への電圧印加を中止し静電吸着用電極を接地電位としても、除電に時間を要する。このような静電チャック装置においては、ウエハの離脱性が悪化するおそれがある。
【0060】
これに対し、本願発明の静電チャック装置においては、第1セラミックス材料に含まれる金属不純物量を200ppm以下とすることで、好適にウエハを離脱可能としている。これは、以下の理由による。
【0061】
まず、焼結体に含まれる金属不純物量が増加すると、焼結体に含まれる誘電体材料である酸化アルミニウムの共有結合性が低下し、焼結体における格子欠陥が増加する。そのため、金属不純物量が多い焼結体は、高温での電気抵抗値が減少する。
【0062】
これに対し、上述した第1セラミックス材料のように、焼結体に含まれる金属不純物量が200ppm以下であると、焼結体の共有結合性が維持され、格子欠陥による電荷の移動量が少なくなる。そのため、第1セラミックス材料を形成材料とする載置板に電圧を印加したとしても、空間分極が少なく、ウエハの離脱が容易となる。
【0063】
(結晶粒径)
また、第1セラミックス材料において、酸化アルミニウムの結晶粒の平均結晶粒径は2μm以下であり、β−SiCの結晶粒の平均結晶粒径は0.2μm以下であることが好ましい。
【0064】
第1セラミックス材料を構成する酸化アルミニウムおよびβ−SiCの平均結晶粒径が上記のような値であると、酸化アルミニウムとβ−SiCとの接触面積が大きくなる。界面分極は、酸化アルミニウムとβ−SiCとの界面で生じる。そのため、同量のSiC量の添加においては、β−SiCを細かくし、β−SiC比表面積を大きくすることにより酸化アルミニウムとβ−SiCとの接触面積が大きくなり、界面分極の効果を高めることができる。
【0065】
また、第1セラミックス材料を構成する酸化アルミニウムおよびβ−SiCの平均結晶粒径が上記のような値であると、載置板11がプラズマに暴露された場合に、次のような理由により載置板11の表面が粗化しにくくなる。
【0066】
まず、酸化アルミニウムは、六方晶系のため結晶方位によりプラズマによるエッチング速度に差異を生じる。このため、載置板11がプラズマに曝露された場合、載置板表面の酸化アルミニウム部分では、エッチング速度の差異に起因した凹凸を生じやすい。しかし、酸化アルミニウムの結晶粒径を2μm以下と小さくすることにより、結晶方位に起因したエッチング速度差による凹凸を軽減することができる。
【0067】
また、β−SiCは酸化アルミニウムと比べ、フロン系のプラズマに対する耐食性が劣る。しかし、β−SiCは、正方晶系のため結晶方位によるエッチング速度の差異が無い。このため、載置板11がプラズマに曝露された場合、載置板表面のβ−SiC部分では、エッチング速度の差異に起因した凹凸が生じにくい。
【0068】
加えて、上記第1セラミックス材料では、β−SiCの平均結晶粒径が酸化アルミニウムの平均結晶粒径と比べて十分に小さい。そのため、仮に載置板表面のβ−SiC部分が全てエッチングされたとしても、形成される凹部は酸化アルミニウムの結晶粒に対して充分に小さく、高低差を生じ難い。
【0069】
以上より、上記第1セラミックス材料を形成材料とする載置板表面においては、凹凸が生じ難くなる。
【0070】
(その他)
第1セラミックス材料中にβ−SiCが含まれると、載置板11の表面がプラズマに暴露された場合に、以下のようなメカニズムにより、載置板表面の異常放電による損傷を低減することができる。
【0071】
載置板11がプラズマに暴露された場合、プラズマ中の電子、イオンは載置板11の表面に衝突し、表面から2次電子が放出される。これにより、載置板11の表面は正に帯電する。また、帯電した載置板11の表面に、プラズマ中の電子がさらに衝突することで一層帯電する。さらに、載置板11の表面が正に帯電すると、電子を載置板11の表面に引き付けるため、加速された電子が載置板11に衝突することになる。その結果、載置板11の表面では雷放電を生じ、載置板11の表面の損傷および載置板11の絶縁破壊を誘発する。
【0072】
一方、載置板11を構成する第1セラミックス材料において、酸化アルミニウムのマトリクス中にβ−SiCの結晶粒が分散している場合、β−SiCから電子が供給されることにより、載置板11の表面の帯電が抑制される。これにより、載置板の損傷(雷放電による放電破壊)を抑制することができる。
【0073】
また、β−SiC粒子が酸化アルミニウム粒子に比較して小さいことより、β−SiC粒子へ電界が集中しにくく、β−SiCに電界が集中することによる放電を低減することができる。
【0074】
[支持板]
支持板12は、静電吸着用電極13を下側から支持している。支持板12は、絶縁性を有するセラミックス材料を形成材料としている。詳しくは、支持板12は、周波数1MHzにおける比誘電率が13以下であるセラミックス材料を形成材料としている。これにより、支持板12は、良好な高周波透過窓としての機能を有する。
【0075】
また、支持板12は、熱膨張係数が後述する静電吸着用電極13の熱膨張係数に近似していることが好ましい。これにより、使用時における支持板12と静電吸着用電極13との界面剥離を抑制することができる。
【0076】
支持板12は、機械的な強度と腐食性ガスおよびプラズマに対する耐久性を有する絶縁性のセラミックス焼結体からなるものが好ましい。このような支持板12の形成材料としては、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al
2O
3−SiC)複合焼結体、酸化アルミニウム(Al
2O
3)焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、酸化イットリウム(Y
2O
3)焼結体などを例示することができる。
【0077】
また、支持板12をポリイミドなどの絶縁性の樹脂とすることで、安価かつ加工が容易な構造を有することとしてもよい。
【0078】
[静電吸着用電極]
静電吸着用電極13では、電圧を印加することにより、載置面19に板状試料Wを保持する静電吸着力が生じる。
【0079】
静電吸着用電極13は、耐熱性に優れた導電性材料であれば特に制限されるものではないが、熱膨張係数が静電吸着用電極13および支持板12の熱膨張係数に近似したものが好ましい。
【0080】
中でも、静電吸着用電極13は、導電性を有するセラミックス材料であることが好ましい。以下、静電吸着用電極13の形成材料を「第2セラミックス材料」と称することがある。
【0081】
静電吸着用電極13の形成材料を、モリブデン、タングステン、ニオブ等の金属材料とした場合、高温に加熱される使用時に、これらの金属原子が載置板11の内部に拡散することがある。すると、載置板11に拡散したこれらの金属原子が載置板11に含まれる酸化アルミニウムの共有結合性を低下させ、載置板11の高温での体積固有抵抗値の低下および離脱特性の低下を生じさせるおそれがある。
【0082】
また、モリブデン、タングステン、ニオブなどの金属材料は、載置板11に含まれるβ−SiCと高温で反応し、各種の炭化物やケイ化物(シリサイド)を生成する。これらの反応生成物は、載置板11の耐電圧低下の原因となる。
【0083】
対して、静電吸着用電極13の形成材料として、導電性を有するセラミックス材料を用いた場合、上述したように静電吸着用電極13の形成材料が金属材料であった場合に予想される不具合を回避することができる。
【0084】
静電吸着用電極13は、載置板11と焼結または熱により接合していてもよい。また、支持板12の形成材料がセラミックス材料である場合、静電吸着用電極13は支持板12と焼結または熱により接合していてもよい。
【0085】
静電吸着用電極13は、載置板11と焼結または熱により接合している場合、第2セラミックス材料は、絶縁性セラミックス材料と導電性材料との複合材料であることが好ましい。
【0086】
絶縁性セラミックス材料としては、載置板11と焼結または熱による接合を生じやすいため、酸化アルミニウムが好ましい。
【0087】
炭素を含む導電性セラミックス材料としては、耐熱性に優れているため、炭化タンタル、炭化モリブデン、炭化チタン、炭化ケイ素が好ましい。
【0088】
炭素材料としては、針状カーボン、グラファイトを例示することができる。
【0089】
第2セラミックス材料は、第2セラミックス材料における導電性材料の含有率が、1体積%以上60体積%以下であることが好ましい。導電性材料の含有率が1体積%以上であると、静電吸着用電極13として必要な導電性を確保することができる。また、導電性材料の含有率が60体積%以下であると、載置板11と静電吸着用電極13との熱膨張率差による破損を低減することができる。
【0090】
また、第2セラミックス材料においては、第2セラミックス材料に含まれる金属不純物の含有量が1000ppm以下であることが好ましい。ここで、「金属不純物」には、第2セラミックス材料を構成する金属元素であるアルミニウムおよび導電性材料を構成する金属元素は含まれない。すなわち、第2セラミックス材料における「金属不純物」とはアルミニウムおよび導電性材料を構成する金属元素以外の金属のことである。
【0091】
第2セラミックス材料における金属不純物量を上記範囲とすることにより、静電吸着用電極13から載置板11に対する金属不純物の拡散を抑制することができる。これにより、載置板11の高温での体積固有抵抗値の低下および離脱特性の低下を抑制することができる。
【0092】
静電吸着用電極13は、高周波を良好に透過させるため、薄く形成されていることが好ましい。そのため静電吸着用電極13は、厚みが2μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0093】
また、静電吸着用電極13に電圧を印加した際、すぐさま静電吸着力が得られるため、静電吸着用電極13の形成材料の体積固有抵抗値が0.01Ω・cm以上10000Ω・cm以下であることが好ましく、0.1Ω・cm以上10000Ω・cm以下であることがより好ましい。
【0094】
[絶縁材層]
絶縁材層14は、静電吸着用電極13を囲繞して腐食性ガスおよびそのプラズマから静電吸着用電極13を保護する。加えて、絶縁材層14は、静電吸着用電極13を除いて載置板11と支持板12との境界部を接合一体化している。
【0095】
絶縁材層14は、載置板11および支持板12を構成する材料と同一組成、または主成分が同一の絶縁材料により構成されている。
【0096】
[ヒータエレメント]
静電チャック部2の下面側には、ヒータエレメント5が設けられている。ヒータエレメント5は、一例として、厚みが0.2mm以下、好ましくは0.1mm程度の一定の厚みを有する非磁性金属薄板、例えばチタン(Ti)薄板、タングステン(W)薄板、モリブデン(Mo)薄板等をフォトリソグラフィー法やレーザー加工により所望のヒータ形状、例えば帯状の導電薄板を蛇行させた形状の全体輪郭を円環状に加工することで得られる。
【0097】
このようなヒータエレメント5は、静電チャック部2に非磁性金属薄板を接着した後に、静電チャック部2の表面で加工成型することで設けてもよく、静電チャック部2とは異なる位置でヒータエレメント5を加工成形したものを、静電チャック部2の表面に転写印刷することで設けてもよい。
【0098】
接着層4は、ヒータエレメント5を静電チャック部2の下面側(支持板12の底面)に接着するために設けられている。接着層4は、ヒータエレメント5と同一の平面形状を有する。
【0099】
接着層4としては、厚みの均一な耐熱性および絶縁性を有するシート状またはフィルム状の接着性樹脂を用いることができる。接着層4の形成材料としては、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等を採用できる。
【0100】
[温度調整用ベース部]
温度調節用ベース部3は、静電チャック部2を所望の温度に調整するためのもので、厚みのある円板状のものである。この温度調節用ベース部3としては、例えば、その内部に冷媒を循環させる流路3Aが形成された液冷ベース等が好適である。
【0101】
温度調節用ベース部3を構成する材料としては、熱伝導性、導電性、加工性に優れた金属、またはこれらの金属を含む複合材であれば特に制限はない。例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)、銅合金、ステンレス鋼(SUS)等が好適に用いられる。この温度調節用ベース部3の少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理が施されているか、あるいは酸化アルミニウム等の絶縁材料の溶射膜が成膜されていることが好ましい。
【0102】
[樹脂層]
樹脂層8は、静電チャック部2と温度調節用ベース部3との間に設けられている。樹脂層8は、ヒータエレメント5が接着された静電チャック部2と温度調節用ベース部3とを接着一体化するとともに、使用時に静電チャック部2が加熱されて生じる熱応力を緩和する作用を有する。
【0103】
樹脂層8は、樹脂層8の内部や、樹脂層8と静電チャック部2、樹脂層8とヒータエレメント5、樹脂層8と温度調節用ベース部3との界面に空隙や欠陥が少ないことが好ましい。これらの位置に空隙や欠陥が形成されていると、熱伝達性が低下して板状試料Wの均熱性が阻害されるおそれがある。
【0104】
樹脂層8は、例えば、シリコーン系樹脂組成物を加熱硬化した硬化体またはアクリル樹脂で形成されている。樹脂層8は、例えば、流動性を有する樹脂組成物を静電チャック部2と温度調節用ベース部3の間に配置した後に、加熱硬化させることで形成することが好ましい。これにより、静電チャック部2と温度調節用ベース部3と間の凹凸が、樹脂層8により充填され、樹脂層8に空隙や欠陥が生じにくくなる。そのため、樹脂層8の熱伝導特性を面内に均一にすることができ、静電チャック部2の均熱性を高めることができる。
【0105】
[その他の構成]
静電チャック装置1は、静電チャック部2を厚み方向に貫通する不図示のガス供給孔、およびリフトピン挿通孔を有している。ガス供給孔およびリフトピン挿通孔は、載置面19に開口している。
ガス供給孔には、He等の冷却ガスが供給される。ガス導入孔から導入された冷却ガスは、載置面19と板状試料Wの下面と間の隙間や、複数の突起部30の間を流れ板状試料Wを冷却する。
【0106】
リフトピン挿通孔には、板状試料Wを支持し板状試料Wを上下動させる不図示のリフトピンが挿通されている。
【0107】
静電チャック装置1は、以上のような構成となっている。
【0108】
<静電チャック装置の製造方法>
次に、本実施形態の静電チャック装置の製造方法について説明する。以下の説明では、特に上述した載置板11の製造方法について詳述する。
【0109】
載置板11の出発原料としては、酸化アルミニウム粒子とβ−SiC粒子とを用いる。
【0110】
酸化アルミニウム粒子は、平均粒子径が0.05μm以上0.5μm以下であるものが好ましく、0.05μm以上0.2μm以下であるものがより好ましい。
【0111】
用いる酸化アルミニウム粒子は、酸化アルミニウムの含有量が99.99%以上であることが好ましい。このような高純度の酸化アルミニウム粒子は、ミョウバン法を用いることにより調整可能である。ミョウバン法を用いて調整した酸化アルミニウム粒子は、例えばバイヤー法を用いて調整した酸化アルミニウム粒子と比べると、金属不純物であるナトリウム原子の含有量を大幅に低減することが可能である。また、所望の純度の酸化アルミニウム粒子が得られるのであれば、種々の方法を採用可能である。
【0112】
β−SiC粒子は、平均粒子径が0.1μm以下であり、金属不純物量が200ppm以下であるものが好ましい。また、β−SiC粉末としては熱プラズマCVDにより合成された粉末が好ましい。
【0113】
熱プラズマCVDで合成されたβ−SiC粒子は、球形であり、粒子径のバラツキが少なく、粒子同士の固着が少ない。そのため、熱プラズマCVDで合成されたβ−SiC粒子は、溶媒への分散性に優れている。
【0114】
次いで、これらの出発原料を分散剤が入った溶液中に投入し、超音波分散装置を用いて予備分散させる。その後、2流粒子衝突型の粉砕混合装置を用い、分散媒に分散させた酸化アルミニウム粒子とβ−SiC粒子とをそれぞれ加圧することで高速で噴射してお互いに衝突させながら混合する。これにより、酸化アルミニウム粒子とβ−SiC粒子とが粉砕された粉砕粒子が得られる、また、これらの粉砕粒子が混合された混合粒子を含む分散液が得られる。
【0115】
酸化アルミニウム粒子とβ−SiC粒子とを衝突させる際、大きい粒子は、衝突時の運動エネルギーが大きく、粉砕されやすい。一方、小さい粒子は、衝突時の運動エネルギーが小さく、粉砕されにくい。そのため、上記粉砕混合装置を用いて得られる酸化アルミニウム粒子とβ−SiC粒子は、粗大粒子や過粉砕の粒子の少ない、粒度分布幅の狭い粒子となる。したがって、2流粒子衝突型の粉砕混合装置を用いて粉砕混合した混合粒子を用いると、焼結工程において、粗大粒子を核とする異常粒成長を抑制することができる。
【0116】
また、例えば、ボールミルやビーズミル等の粉砕媒体(メディア)を用いて粉砕混合する方法と比べると、上述したような粉砕混合装置を用いて粉砕混合する方法を採用すると、メディアの破損に起因した不純物の混入を抑制することが可能である。
【0117】
そのため、2流粒子衝突型の粉砕混合装置を用いて原料の粒子同士を混合すると、均一な焼結体を得ることができる。
【0118】
次いで、得られた分散液をスプレードライ装置にて乾燥させることにより、酸化アルミニウム粒子とβ−SiC粒子との混合粒子からなる顆粒を得る。
【0119】
次いで、目的とする焼結体の形状に応じて、得られた顆粒を一軸成形(一軸プレス成形)し、円盤状の成形体とする。
【0120】
次いで、得られた成形体を、不活性ガス雰囲気下1600℃以上1850℃以下で、焼結圧力10MPa以上50MPa以下の範囲で焼結する。不活性ガス雰囲気としては、アルゴン雰囲気が好ましい。
【0121】
なお、上記焼結に先立って、以下の前処理を行ってもよい。
まず、一軸成形した成形体を不活性ガス雰囲気下、常圧で(プレスすることなく)例えば500℃に加熱し、成形体に含まれる水分や分散媒等の夾雑物を除去する。不活性ガスとしては、窒素またはアルゴンを用いることができる。この操作においては、成形体を変性することなく成形体から夾雑物を除去できるならば、加熱温度は500℃に限られない。
【0122】
さらに、夾雑物を除去した成形体を、大気中、例えば400℃で加熱して成形体を構成する混合粒子を、酸化処理することが好ましい。このような操作によれば、酸化処理において混合粒子に含まれるβ−SiC粒子の表面には酸化膜が形成される。酸化膜には、混合粒子に含まれる金属不純物が溶け出しやすいため、混合粒子に含まれる金属不純物が粒子表面に偏って存在することになる。すると、上述した加圧焼結において、金属不純物を除去しやすいため好ましい。
【0123】
また、上記焼結においては、以下のような処理を行ってもよい。
成形体を加圧焼成する際には、まず、上述の成形体を、真空雰囲気において、1600℃よりも低い温度且つ常圧で(プレスすることなく)加熱(予備加熱)する。予備加熱の温度は、例えば400℃から1300℃の温度範囲である。また、加熱時間は、例えば2時間から8時間である。
【0124】
このような操作によれば、予備加熱時の温度を適宜設定することにより、混合粒子に含まれるアルカリ金属等の金属不純物が蒸発し、金属不純物を容易に除去できる。そのため、このような操作によれば、混合粒子の純度を向上しやすくなり、載置板11の周波数特性を制御しやすくなる。
【0125】
また、成形体を加圧焼成する際に、上述したように夾雑物を除去した成形体に対し酸化処理を施すと、真空雰囲気下で予備加熱することにより、粒子表面に形成された酸化膜が揮発する。同時に、酸化膜に含まれる金属不純物が蒸発する。そのため、成形体から金属不純物を容易に除去できる。
【0126】
また、β−SiC粒子の表面に形成された酸化膜(SiO
2膜)が揮発することにより、SiO
2膜と酸化アルミニウムとの反応によるムライト質の生成や、酸化アルミニウム粒子内へSiO
2が拡散することによる酸化アルミニウムの共有結合性の低下を抑制することができる。
【0127】
したがって、このような操作によれば、混合粒子の純度を向上しやすくなり、載置板11の周波数特性を制御しやすくなる。
【0128】
なお、本実施形態において「真空」とは、「大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間内の状態」のことであり、JIS規格において工業的に利用できる圧力として定義された状態のことを指す。本実施形態においては、真空雰囲気は、低真空(100Pa以上)であってもよいが、中真空(0.1Pa〜100Pa)であると好ましく、高真空(10
−5Pa〜0.1Pa)であるとより好ましい。
【0129】
本実施形態においては、例えば、真空雰囲気下、1200℃で4時間以上予備加熱した後、大気圧までアルゴンで気圧を戻す。その後、上述した条件で成形体を焼結することにより、載置板11の原料である焼結体が得られる。
【0130】
次いで、得られた焼結体を研削し円板とし、さらに加工を施して載置板11を作製する。
【0131】
また、載置板11と同じ焼結体を研削して円板とし、さらに円板の平面視中央部に貫通孔を形成する。貫通孔には、貫通孔に相補的に嵌合する導電性セラミックス製の円柱を挿入し、固定する。挿入した円柱の高さは、円板の厚みと同じであり、円柱の両端部が円板の表面と同一平面となっている。このように加工された円板は、上述した支持板12として用いられる。
載置板11と支持板12を同じ材質とすることで載置板11と支持板12の熱膨張の差を無くすることができる。
【0132】
得られた支持板12に、絶縁性セラミックス材料の粉末と導電性材料の粉末との混合粉末の分散液を、スクリーン印刷する。この混合粉末は、上記第2セラミックス材料の原料である。
【0133】
また、この支持板12の塗布面において、絶縁性を付与すべき位置には、絶縁性セラミックス粉末の分散液をスクリーン印刷する。「絶縁性を付与すべき位置」としては、載置面に冷却用ガスを供給するガス供給孔を形成する位置、リフトピンが挿通されるリフトピン挿通孔を形成する位置、支持板12の周縁部であって上記絶縁材層14に対応する位置、の近傍を挙げることができる。
【0134】
分散液を乾燥させた後、形成された塗膜の上に載置板11を載せ、載置板11、塗膜、支持板12がこの順に積層された積層体を得る。この積層体をアルゴン雰囲気下、積層体が焼結する温度の最高温度よりも低い温度で加圧接合する。このように加工された接合体は、上述した静電チャック部2として用いられる。
【0135】
得られた接合体の支持板12側の面に、厚みの均一な耐熱性および絶縁性を有するシート状またはフィルム状の接着性樹脂を用い、非磁性金属薄板を接着する。その後、非磁性金属薄板をエッチングしてヒータエレメント5を作製する。
【0136】
次いで、ヒータエレメント5を作製した接合体に対し、接合体を貫通するガス供給孔、およびリフトピン挿通孔を形成する。
【0137】
次いで、ヒータパターンに給電用電極を溶接する。
【0138】
次いで、耐熱性の高い接着剤を用いて静電チャック部2を温度調節用ベース部3に固定することで、静電チャック装置1を作製することができる。
【0139】
以上のような構成の静電チャック装置によれば、室温から高温領域まで高い吸着力と良好な離脱特性を有し、さらに良好な高周波透過性を有するものとなる。
【0140】
なお、本実施形態においては、ヒータエレメント5を有することとしたが、ヒータエレメント5を有さない静電チャック装置としてもよい。
【0141】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0142】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例においては、適宜上述の実施形態において用いた符号を使用して説明する。
【0143】
(実施例1)
出発原料として、平均粒子径が0.03μmであり熱プラズマCVDで合成されたβ−SiC型の炭化ケイ素(β−SiC)粒子と、平均粒子径が0.1μmである酸化アルミニウム(Al
2O
3)粒子とを用いた。β−SiC粒子の金属不純物量は、50ppmであった。また、Al
2O
3粒子の金属不純物量は、150ppmであった。
【0144】
β−SiC粒子とAl
2O
3粒子との全体量に対し、β−SiC粒子が8体積%となるように秤量し、分散剤が入った蒸留水に投入した。β−SiC粒子とAl
2O
3粒子とを投入した分散液について、超音波分散装置にて分散処理の後、2流粒子衝突型の粉砕混合装置を用いて粉砕混合した。
【0145】
得られた混合溶液をスプレードライ装置にて噴霧乾燥させ、β−SiCとAl
2O
3との混合粒子とした。
【0146】
混合粒子をプレス圧8MPaで一軸プレス成形し、直径320mm×15mm厚の成形体とした。
【0147】
次いで、成形体を窒素雰囲気下、プレス圧を加えることなく500℃まで昇温させ、水分および分散剤(夾雑物)を除去した。その後、夾雑物を除去した成形体を大気中400℃に加熱し、成形体に含まれるβ−SiC粒子の表面を酸化した。
【0148】
得られた成形体を黒鉛製のモールドにセットし、加圧焼結を行った。焼結条件は、1100℃までは、真空雰囲気下、プレス圧5MPaとした。その後、アルゴン雰囲気下、プレス圧40MPa、1800℃まで昇温させて焼結を行った。
【0149】
得られた焼結体を加工し、直径310mm×3mm厚の成形体を作製した。得られた成形体は、上記実施形態における「載置板」に該当する。
【0150】
また、得られた焼結体を加工して、直径310mm×3mm厚の成形体とし、さらに成形体の中央部に直径3mmの貫通孔を形成した。形成した貫通孔には、酸化アルミニウム−炭化タンタルの焼結体(炭化タンタル30体積%)を貫通孔の形状に合わせて加工した円柱を挿入して固定した。得られた成形体は、上記実施形態における「支持板」に該当する。
【0151】
酸化アルミニウム粒子と、針状カーボン(短手方向0.1μm、長手方向2μm)と、スクリーンオイル(テレピノール)と、を混合して導電性分散液を調整した。その際、酸化アルミニウム粒子と針状カーボンとの合計量に対し、針状カーボンが5体積%となるように混合した。
【0152】
また、酸化アルミニウムとスクリーンオイルとを混合して、絶縁性分散剤を調整した。
【0153】
スクリーン印刷装置を用い、支持板の表面に対し静電吸着用電極の形状に導電性分散液を印刷した。また、支持板の表面に対し、ガス供給孔、リフトピン挿通孔、絶縁材層の近傍に絶縁性分散剤を印刷した。
【0154】
支持板の上記印刷を施した側に載置板を重ね、ホットプレス装置を用いて加圧接合した。
【0155】
得られた接合体を、載置板の厚さ0.5mm、支持板の厚さ1.0mm、外径293mmとなるように加工した。さらに、接合体にガス供給孔およびリフトピン挿通孔を形成した。
【0156】
貫通孔を形成した接合体の載置板側の表面にブラスト加工を施し、周縁壁17を形成した。また、ブラスト加工により、載置板の表面に直径0.5mm高さ40μmの円柱形状の突起部30を形成し、静電チャック部2を得た。
【0157】
静電チャック部2とアルミニウム製の温度調節用ベース部3とを、シリコーン系接着剤を用いて接着した。温度調節用ベース部3としては、上面および側面に酸化アルミニウムの溶射膜が形成されているものをもちいた。以上により、実施例1の静電チャック装置を得た。
【0158】
(実施例2)
出発原料であるAl
2O
3粒子として、金属不純物量が50ppmであるものを用いたこと、および、室温から焼結温度までアルゴン雰囲気下で加圧焼結を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の静電チャック装置を得た。
【0159】
(実施例3)
出発原料であるAl
2O
3粒子として、金属不純物量が200ppmであるものを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、実施例3の静電チャック装置を得た。
【0160】
(比較例1)
出発原料であるAl
2O
3粒子として、金属不純物量が800ppmであり、平均粒子径が0.5μmであるものを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、比較例1の静電チャック装置を得た。
【0161】
(比較例2)
β−SiC粒子とAl
2O
3粒子との全体量に対し、β−SiC粒子が20体積%となるように秤量したこと以外は、実施例2と同様にして、比較例2の静電チャック装置を得た。
【0162】
(比較例3)
出発原料であるAl
2O
3粒子として、金属不純物量が800ppmであり、平均粒子径が0.5μmであるものを用いたこと、およびβ−SiC粒子として、金属不純物量が1000ppmである平均粒子径が1μmであるものを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、比較例3の静電チャック装置を得た。
【0163】
(比較例4)
出発原料であるβ−SiC粒子を用いないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4の静電チャック装置を得た。
【0164】
(評価)
得られた実施例1〜3、比較例1〜4の静電チャック装置について、次のような評価を行った。
【0165】
(載置板の組織観察)
加圧接合後に得られる接合体から一部を切り出して得られた試験片を用い、SEMを用いて載置板の組織観察を行った。
【0166】
(載置板の比誘電率)
静電チャック装置の載置面にアルミニウム製の電極を載置し、静電吸着用電極への給電部とアルミニウム製の電極との間の静電容量を、LCRメータを用い測定し、測定値を用いて比誘電率を算出した。
【0167】
(載置板の体積固有抵抗値)
静電チャック装置の載置面にシリコンウエハを設置した。シリコンウエハには、接地された導線を接続した。静電吸着用電極への給電部にDC電圧を加え、静電吸着用電極への給電部とシリコンウエハとの間の電圧および導線に流れる電流値より、体積固有抵抗値を算出した。
【0168】
(金属不純物量)
金属不純物量は、ICP−MS法にて測定した値を採用した。
【0169】
(離脱性)
直径300mmのシリコンウエハを静電チャック装置の載置面に載置し、ポリイミドテープで固定した。その際、ポリイミドテープに2mm程度の緩みを持たせた。
【0170】
静電チャック装置を下記条件で駆動し、シリコンウエハを1時間吸着した。このとき、ヘリウムガスの流出量は2sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute、0℃、1気圧基準)以下であった。
印加電圧:2500V
冷却ガス供給量:ヘリウムガス圧50Torr(1Torr=133.3Pa)
【0171】
その後、ヘリウムガス圧を3Torrに下げた状態で、静電吸着用電極の電位を接地電位とした。このとき、静電吸着用電極を接地電位としてから3秒後にヘリウムガスの流出量が5sccm以上である場合には、離脱性が良好であると判断した。
【0172】
(耐電圧)
静電チャック装置にシリコンウエハを載せない状態で、静電吸着用電極に2500Vの電位を印加した状態で、RF電力を印加し、静電チャック装置の吸着面にプラズマを発生させた状態を2時間保持した。
【0173】
プラズマ発生の雰囲気は、以下のようなものとした。
混合ガス:CF
4とH
2との1:1混合ガス
混合ガス供給量:流量30sccm、ガス圧5Pa
PF投入電力:5KW
【0174】
上記プラズマ雰囲気下で静電吸着用電極への印加電圧を3000Vとし、同条件で10分保持した。この状態で、静電チャック装置の載置面における放電の有無を確認した。
【0175】
その後、印加電圧を3500Vとし、同条件で10分間保持した。この状態で静電チャック装置の載置面における放電の有無を確認した。
【0176】
以後同様に、印加放電の上昇を500V間隔で行い、各印加電圧において10分間保持して、載置面での放電が生じるまで試験を実施した。なお、耐電圧の値は、放電が生じない印加電圧のうち最大値(最大電圧値)とした。
【0177】
なお、静電チャック装置の温度は、温度調節用ベース部を用いて、130℃となるように管理した。
【0178】
実施例1〜3、比較例1〜4の製造条件を表1に示す。また、実施例1〜3、比較例1〜4の製造条件を表2,3に示す。
【0179】
なお、表3の「離脱性」の欄において、離脱性が良好であるものは「○」、離脱性が不良であるものは「×」と示している。また、表3の「耐電圧」の欄において、未測定のものは「−」で示している。
【0180】
【表1】
【0181】
【表2】
【0182】
【表3】
【0183】
評価の結果、実施例1〜3の静電チャック装置では、低周波(20Hz)の比誘電率が15以上となり、静電吸着用電極に直流電位を印加した際に高い吸着力が得られることがわかった。
【0184】
また、実施例1〜3の静電チャック装置では、高周波(1MHz)の比誘電率が13以下、誘電損失が0.04以下となり、高い高周波透過性を有することがわかった。
【0185】
さらに、実施例1〜3の静電チャック装置では、高温での体積抵抗値が5×10
13Ω・cm以上であるため、離脱性が良好であった。
【0186】
一方、比較例3,4の静電チャック装置では、低周波(20Hz)の比誘電率が16を下回り、静電吸着用電極に直流電位を印加した際に高い吸着力が得られないことがわかった。
【0187】
また、比較例2の静電チャック装置では、高周波(1MHz)の比誘電率が13を上回り、また誘電損失が0.04を上回っていた。そのため、比較例2の静電チャック装置は、高周波透過性が不良であることがわかった。
【0188】
また、比較例1,3の静電チャック装置では、高温での体積抵抗値が5×10
13Ω・cmを下回り、離脱性が不良であった。
【0189】
以上の結果より、本発明が有用であることが確かめられた。