【解決手段】フィルム面上の測定点をA1、A1からフィルム面に垂直に引いた直線をZ、A1からフィルム面上に引いた直線をX、Z及びXと垂直になるようにA1からフィルム面上に引いた直線をYとしたときに、偏光ビームとZの成す角が異なる大きさとなるようにXZ平面上の複数の点から、A1に偏光ビームを照射し、その反射光よりフィルムの物性を測定するエリプソメトリーによる分析方法。
フィルム面上の測定点をA1、A1からフィルム面に垂直に引いた直線をZ、A1からフィルム面上に引いた直線をX、Z及びXと垂直になるようにA1からフィルム面上に引いた直線をYとしたときに、XZ平面上の複数の点から、A1に偏光ビームを照射し、その反射光よりフィルムの物性を測定するエリプソメトリーによる分析方法であって、以下の(1)〜(6)の特徴をすべて備えることを特徴とする、エリプソメトリーによる分析方法。
(1)各点からの偏光ビームとZの成す角が0°より大きく90°未満である。
(2)偏光ビームとZの成す角が異なる大きさとなる点をXZ平面上に複数有する。
(3)X、Y、及びZに平行な方向をそれぞれX方向、Y方向、及びZ方向とし、X方向のモデルをモデルX、Y方向のモデルをモデルY、及びZ方向のモデルをモデルZとしたときに、モデルX、モデルY、モデルZがそれぞれ異なるモデルである。
(4)モデルX、モデルY、及びモデルZそれぞれのモデル内について、振動子のエネルギー位置が互いに独立している。
(5)モデルX、モデルY、及びモデルZのそれぞれのモデル間について、振動子のエネルギー位置が互いに従属している。
(6)反射光より得られた位相差Δと振幅強度比Ψを、モデル間で比較することにより振動子のパラメーターを決定する。
振動子のパラメーターが、半値幅、エネルギー位置、及びピーク強度のうち少なくとも一つ以上であることを特徴とする、請求項1に記載のエリプソメトリーによる分析方法。
振動子にガウス分布を用い、モデルX、モデルY、及びモデルZ間で半値幅が互いに従属していることを特徴とする、請求項1または2に記載のエリプソメトリーによる分析方法。
振動子のエネルギー位置が以下の(7)〜(10)のいずれかであるピークが、少なくとも1つ存在することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のエリプソメトリーによる分析方法。
(7)7.00eV以上の領域
(8)6.00eV以上6.60eV以下の領域
(9)4.70eV以上5.20eV以下の領域
(10)4.70eV未満の領域
モデルX、モデルY、モデルZそれぞれの4.70eV以上5.20eV以下の振動子を用いてフィルムの構造を推定することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のエリプソメトリーによる分析方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法ではモデルが簡便であるために測定前後で単純変化するパラメーターしか推定できず、光学特性の情報を得るには至らない。また、特許文献2の方法は、光学異方性のない無機物質の測定には有用であるものの、光学異方性を有する高分子フィルムについては、観察角度によりその特性が大きく変化するため正確な情報を得ることが困難である。
【0007】
また、特許文献3、4の方法は、モデルによる測定値と分子構造との帰属がなされておらず、光学特性、LCDの製造工程におけるフィルムの機械強度、及び熱によるフィルムの収縮などに関する分子結合の強さや方向についての情報を得ることが困難である。さらに、特許文献3、4の方法において測定対象が、異なる2種類の樹脂層を30層以上積層して特定の波長域の光を反射させる多層フィルムである場合は、積層界面で照射した光線が多重反射するため、その光学特性を推定することが困難である。
【0008】
本発明は、かかる従来技術の問題点を改良し、非接触、高速、高精度、簡便にフィルムの光学特性を測定でき、かつ積層界面で多重反射が起こるフィルムにも適用できるエリプソメトリーによる分析方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を達成するため、本発明のエリプソメトリーによる分析方法は、下記の構成からなる。
[1]フィルム面上の測定点をA1、A1からフィルム面に垂直に引いた直線をZ、A1からフィルム面上に引いた直線をX、Z及びXと垂直になるようにA1からフィルム面上に引いた直線をYとしたときに、XZ平面上の複数の点から、A1に偏光ビームを照射し、その反射光よりフィルムの物性を測定するエリプソメトリーによる分析方法であって、以下の(1)〜(6)の特徴をすべて備えることを特徴とする、エリプソメトリーによる分析方法。
(1)各点からの偏光ビームとZの成す角が0°より大きく90°未満である。
(2)偏光ビームとZの成す角が異なる大きさとなる点をXZ平面上に複数有する。
(3)X、Y、及びZに平行な方向をそれぞれX方向、Y方向、及びZ方向とし、X方向のモデルをモデルX、Y方向のモデルをモデルY、及びZ方向のモデルをモデルZとしたときに、モデルX、モデルY、モデルZがそれぞれ異なるモデルである。
(4)モデルX、モデルY、及びモデルZそれぞれのモデル内について、振動子のエネルギー位置が互いに独立している。
(5)モデルX、モデルY、及びモデルZのそれぞれのモデル間について、振動子のエネルギー位置が互いに従属している。
(6)反射光より得られた位相差Δと振幅強度比Ψを、モデル間で比較することにより振動子のパラメーターを決定する。
[2]振動子のパラメーターが、半値幅、エネルギー位置、及びピーク強度のうち少なくとも一つ以上であることを特徴とする、[1]に記載のエリプソメトリーによる分析方法。
[3]振動子にガウス分布を用い、モデルX、モデルY、及びモデルZ間で半値幅が互いに従属していることを特徴とする、[1]または[2]に記載のエリプソメトリーによる分析方法。
[4]偏光ビームのエネルギーが、0.07eV以上7.00eV以下であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載のエリプソメトリーによる分析方法。
[5]前記フィルムが、ポリエステル樹脂を主成分とするフィルムであることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかに記載のエリプソメトリーによる分析方法。
[6]前記ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする、[5]に記載のエリプソメトリーによる分析方法。
[7]振動子のエネルギー位置が以下の(7)〜(10)のいずれかであるピークが、少なくとも1つ存在することを特徴とする、[1]〜[6]のいずれかに記載のエリプソメトリーによる分析方法。
(7)7.00eV以上の領域
(8)6.00eV以上6.60eV以下の領域
(9)4.70eV以上5.20eV以下の領域
(10)4.70eV未満の領域
[8]モデルX、モデルY、モデルZそれぞれの4.70eV以上5.20eV以下の振動子を用いてフィルムの構造を推定することを特徴とする、[1]〜[7]のいずれかに記載のエリプソメトリーによる分析方法。
[9]前記フィルムが、走行しているフィルムであることを特徴とする、[1]〜[8]のいずれかに記載のエリプソメトリーによる分析方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、非接触、高速、高精度、簡便にフィルムの光学特性を測定でき、かつ積層界面で多重反射が起こるフィルムにも適用できるエリプソメトリーによる分析方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明について、実施の形態とともに詳細に説明する。
本発明のエリプソメトリーによる分析方法は、フィルム面上の測定点をA1、A1からフィルム面に垂直に引いた直線をZ、A1からフィルム面上に引いた直線をX、Z及びXと垂直になるようにA1からフィルム面上に引いた直線をYとしたときに、XZ平面上の複数の点から、A1に偏光ビームを照射し、その反射光よりフィルムの物性を測定するエリプソメトリーによる分析方法であって、以下の(1)〜(6)の特徴をすべて備えることを特徴とする。
(1)各点からの偏光ビームとZの成す角が0°より大きく90°未満である。
(2)偏光ビームとZの成す角が異なる大きさとなる点をXZ平面上に複数有する。
(3)X、Y、及びZに平行な方向をそれぞれX方向、Y方向、及びZ方向とし、X方向のモデルをモデルX、Y方向のモデルをモデルY、及びZ方向のモデルをモデルZとしたときに、モデルX、モデルY、モデルZがそれぞれ異なるモデルである。
(4)モデルX、モデルY、及びモデルZそれぞれのモデル内について、振動子のエネルギー位置が互いに独立している。
(5)モデルX、モデルY、及びモデルZのそれぞれのモデル間について、振動子のエネルギー位置が互いに従属している。
(6)反射光より得られた位相差Δと振幅強度比Ψを、モデル間で比較することにより振動子のパラメーターを決定する。
【0013】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に本発明の一実施態様に係るエリプソメトリーによる分析方法を表す模式図を示す。
【0014】
図1に示すように、本発明の一実施態様に係るエリプソメトリーによる分析方法においては、フィルム面[a]上の測定点A1[b]、A1[b]からフィルム面[a]に垂直に引いた直線をZ[c]、A1[b]からフィルム面[a]上に引いた直線をX[d]、Z[c]及びX[d]と垂直になるようにA1[b]からフィルム面上に引いた直線をY[e]としたときに、XZ平面上の2つの点(光源)[f1,f2]から、A1[b]に偏光ビーム[g1,g2]を照射し、その反射光[h1,h2]を検出部[i1,i2]で検出することにより、フィルムの物性を測定する。
【0015】
なお、本発明の一実施態様に係るエリプソメトリーによる分析方法は、以下の(1)〜(6)の特徴をすべて備える。
(1)XZ平面上の2つの点(光源)[f1,f2]からの偏光ビーム[g1,g2]とZ[c]の成す角[j1,j2]がいずれも0°より大きく90°未満である。
(2)XZ平面上の2つの点(光源)[f1,f2]からの偏光ビーム[g1,g2]とZ[c]の成す角が[j1,j2]が互いに異なる。
(3)X[d]、Y[e]、及びZ[c]に平行な方向をそれぞれX方向、Y方向、及びZ方向とし、X方向のモデルをモデルX、Y方向のモデルをモデルY、及びZ方向のモデルをモデルZとしたときに、モデルX、モデルY、モデルZがそれぞれ異なるモデルである。
(4)モデルX、モデルY、及びモデルZそれぞれのモデル内について、振動子のエネルギー位置が互いに独立している。
(5)モデルX、モデルY、及びモデルZのそれぞれのモデル間について、振動子のエネルギー位置が互いに従属している。
(6)反射光[h1,h2]より得られた位相差Δと振幅強度比Ψを、モデル間で比較することにより振動子のパラメーターを決定する。
【0016】
本発明のエリプソメトリーによる分析方法においては、フィルム面上の測定点をA1、A1からフィルム面に垂直に引いた直線をZ、A1からフィルム面上に引いた直線をX、Z及びXと垂直になるようにA1からフィルム面上に引いた直線をYとする。なお、以下、フィルム面上の測定点をA1又は測定点A1、A1からフィルム面に垂直に引いた直線をZ又は直線Z、A1からフィルム面上に引いた直線をX又は直線X、Z及びXと垂直になるようにA1からフィルム面上に引いた直線をY又は直線Yということがある。
【0017】
本発明のエリプソメトリーによる分析方法においては、測定点A1はフィルム面上から任意に選択することができ、直線Xは測定点A1を起点とするフィルム面上の直線である限り任意に引くことができる。
【0018】
本発明のエリプソメトリーによる分析方法は、エリプソメトリーによる分析自体を可能にし、かつフィルムの光学異方性を検出する観点から、XZ平面上の複数の点から、A1に偏光ビームを照射し、その反射光よりフィルムの物性を測定すること、(1)各点からの偏光ビームとZの成す角が0°より大きく90°未満であること、(2)偏光ビームとZの成す角が異なる大きさとなる点をXZ平面上に複数有することが重要である。
【0019】
ここで、XZ平面とは、直線X及び直線Zを含む平面を意味する。また、偏光ビームとZの成す角が異なる大きさとなる点をXZ平面上に複数有するとは、偏光ビームとZの成す角が全て等しくならないように、XZ平面上に少なくとも2つ以上の光源を有することを意味する。
【0020】
XZ平面上の点(光源)の個数は、2個以上であれば本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、測定精度及び測定効率の観点から、2個以上4個以下が好ましく、3個以上4個以下がより好ましい。XZ平面上の点の個数を5個以上としても、測定効率の更なる向上は認められないことがある。
【0021】
各点からの偏光ビームと直線Zの成す角が90°であると、光源が発する偏光ビームがフィルム平面に平行となるため反射光を得ることができず、0°であると入射光と反射光の光路が同じになり反射光の検出部を設置することができない。すなわち、各点からの偏光ビームと直線Zの成す角が0°又は90°であると、エリプソメトリーによる分析自体が不可能となる。また、各点からの偏光ビームと直線Zの成す角がすべて同じであると、一方向から複数回偏光ビームを照射することとなり、フィルム光学異方性を検出することができない。
【0022】
また、エリプソメトリーではブリュースター角で最も測定感度が高くなることが知られているが、例えば、代表的なポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレートでは、偏光ビームと直線Zの成す角が約60°にブリュースター角を有する。そのため、ポリエチレンテレフタレートフィルムにおいては、少なくとも一つの偏光ビームとZの成す角が60°±20°となる条件で測定することによりフィルムの微小な構造変化を捉えることができ、偏光ビームとZの成す角は、40°以上80°以下であることが好ましく、50°以上70°以下であることがより好ましい。また、各点からの偏光ビームとZの成す角の差は、測定精度の観点から、3°以上30°以下であること好ましく、5°以上15°以下であることがより好ましい。ここで、各点からの偏光ビームとZの成す角の差とは、偏光ビームを照射するXZ平面上の点が2個である場合は、偏光ビームとZの成す角のうち大きいものから小さいものを差し引いた値をいい、3個以上の場合は隣り合う数値の差の平均をいう。
【0023】
本発明のエリプソメトリーによる分析方法においては、フィルムの光学特性や分子構造を分析する観点から、X、Y、及びZに平行な方向をそれぞれX方向、Y方向、及びZ方向とし、X方向のモデルをモデルX、Y方向のモデルをモデルY、及びZ方向のモデルをモデルZとしたときに、モデルX、モデルY、モデルZがそれぞれ異なるモデルであることが重要である。モデルX、モデルY、モデルZがそれぞれ異なるモデルであることにより、X方向、Y方向、及びZ方向からフィルムを観察したときの誘電関数を推定し、光学異方性を有するフィルムのそれぞれの方向からの屈折率を初めとする光学特性や分子構造を分析することが可能となる。
【0024】
ここで、モデルとはフィルムを観察したときの分子の振動もしくは電子励起などによる光の吸収及び放出を示す1つ以上の振動子から構成される誘電関数をいう。また振動子とは特に限定されないが、例えば、セルマイヤー分布、コーシー分布、ドルーデ分布、ローレンツ分布、タウス・ローレンツ分布、ガウス分布などの誘電関数モデルをいう。またモデルが異なるとは、X方向、Y方向、及びZ方向間において振動子を構成するパラメーターの値が一つ以上異なることをいう。ここで振動子を構成するパラメーターとは、例えばガウス分布においてはエネルギー位置、半値幅、ピーク強度などである。
【0025】
また、振動子は特定波長での分子の振動もしくは電子励起などによる光の吸収及び放出を示すため、モデルX、モデルY、及びモデルZそれぞれのモデル内について、振動子のエネルギー位置が互いに独立していることが重要である。振動子のエネルギー位置が互いに独立しているとは、例えば、互いの振動子が異なる固有の分子振動や電子遷移形態を示していることを表している。
【0026】
また、振動子は特定の分子の構造における分子の振動や電子励起などを示し、その吸収波長はフィルムを観察する方向に依存しないため、モデルX、モデルY、及びモデルZのそれぞれのモデル間について、振動子のエネルギー位置が互いに従属していることが重要である。振動子のエネルギー位置が互いに従属しているとは、モデル間でエネルギー位置が等しい振動子は、それぞれ同一の分子振動や電子遷移形態を示していることを表していることをいう。
【0027】
また、モデルのパラメーターは、反射光より得られた位相差Δと振幅強度比Ψとの誤差を最小となるようにパラメーターフィッティングによって実施されるため、反射光より得られた位相差Δと振幅強度比Ψを、モデル間で比較することにより振動子のパラメーターを決定することが重要である。ここで、位相差Δと振幅強度比Ψとは、それぞれ反射された偏光の位相と強度の状態を示すパラメーターであり、反射光が有するp偏光とs偏光のそれぞれの性質を表すフレネルの反射係数RpとRsを用いて、下記式(I)で示されるものである。ここで、p偏光とはXZ面上において振動する光の成分ことをいい、s偏光とはXZ面に垂直に振動する光の成分のことをいう。また、パラメーターフィッティングとは位相差Δと振幅強度比Ψの実測データとモデルX、モデルY、及びモデルZより計算される位相差Δと振幅強度比Ψの差の平均二乗誤差を最小にするように各モデル内振動子のパラメーターを決定することをいう。
式(I):tan(Ψ)exp(iΔ)=Rp/Rs
【0028】
本発明のエリプソメトリーによる分析方法は、振動子のパラメーターが、半値幅、エネルギー位置、及びピーク強度のうち少なくとも一つ以上であることが好ましい。このような態様とすることにより、振動子のパラメーターから、その振動子がフィルムのどの分子構造に起因するものか推定することができる。ここで、半値幅とは振動子のピーク強度が半分になる時のエネルギーの大きい方から小さい方を差し引いた差をいい、エネルギー位置とは振動子のピーク強度が最大になるときのエネルギー値をいい、及びピーク強度とは振動子のピーク値の最大値をいう。
【0029】
本発明のエリプソメトリーによる分析方法は、振動子にガウス分布を用い、モデルX、モデルY、及びモデルZ間で半値幅が互いに従属していることが好ましい。ここで、ガウス分布とは、平均値の付近に集積するようなデータの分布を表した連続的な変数に関する確率分布をいう。ガウス分布を用いることにより、ピーク面積の算出、及び該当振動子が及ぼすエネルギーの範囲やその強度、及びそれらのXモデル、Yモデル、及びZモデル間での比較が容易となるためフィルムの構造解析が可能となる。また、特定の振動子の吸収波長帯域は分子構造固有となり、観察方向に依存しないため、モデルX、モデルY、及びモデルZ間で半値幅が互いに従属していることが好ましい。
【0030】
本発明のエリプソメトリーによる分析方法は、偏光ビームのエネルギーが、0.07eV以上7.00eV以下であることが好ましい。偏光ビームのエネルギーが7.00eVより大きいとフィルムの変性を引き起こす恐れがある。また0.07eVより小さいと一般的に分子振動による吸収が見られないため、測定が困難となることがある。偏光ビームのエネルギーは、より好ましくは0.70eV以上6.70eV以下である。
【0031】
本発明のエリプソメトリーによる分析方法に用いるフィルムは、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレン酢酸ビニル共重合体のケン化物、ポリアクリロニトリル、及びポリアセタール等の各種樹脂を主成分とするフィルム等が挙げられる。中でも、機械特性、熱特性、耐薬品性などに優れ、様々な機能を付与でき、光学用途にも好適に用いることができることから、フィルムが、ポリエステル樹脂を主成分とするフィルムであることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETということがある。)を主成分とするフィルムであることがより好ましい。
【0032】
ここで、ポリエステル樹脂を主成分とするとは、フィルムを構成する全成分を100質量%としたときに、ポリエステル樹脂を50質量%より多く100質量%以下含むことをいう。ポリエチレンテレフタレートを主成分とするについても同様に解釈することができる。なお、ポリエステル樹脂は本発明の効果を損なわない限り、一種類のみを単独で用いても、複数種類を混合して用いてもよい。後者の場合、その含有量はすべてのポリエステル樹脂を合算して算出するものとする。
【0033】
本発明のエリプソメトリーによる分析方法は、フィルムの光学異方性を測定する観点から、振動子のエネルギー位置が以下の(7)〜(10)のいずれかであるピークが、少なくとも1つ存在することを特徴とすることが好ましい。
(7)7.00eV以上の領域
(8)6.00eV以上6.60eV以下の領域
(9)4.70eV以上5.20eV以下の領域
(10)4.70eV未満の領域
【0034】
特にポリエチレンテレフタレートにおいては、(7)の領域にσ→π*の励起バンドを有している(I.Ouchi et al./ Nucl.Instr.and Meth.in Phys.Res.B 199(2003)270−274、以下、参考文献1という。)。本分析方法においては測定領域とσ→π*励起バンドのピークエネルギー領域が一致せず低エネルギー側に影響を与えることから、1本の振動子によって表現することが可能である。
【0035】
また、ポリエチレンテレフタレートにおいては、同様に(8)〜(10)の領域にそれぞれπ→π*の励起バンドをそれぞれ有することが知られている(参考文献1、及びI.Ouchi et al./ Jpn.J.Appl.Phys.,Vol.43、 No.12(2004)8107−8114)。
【0036】
以上の(7)〜(10)の励起バンドを振動子としてモデルに組み込むことによって、フィルムの光学異方性をエリプソメトリーにより測定することが可能となる。
【0037】
また、本発明のエリプソメトリーによる分析方法は、モデルX、モデルY、モデルZそれぞれの4.70eV以上5.20eV以下の振動子を用いてフィルムの構造を推定すること好ましい。ここで4.70eV以上5.20eV以下の振動子は、参考文献1に記載されているように配向方向に平行な方向に分極を有するπ−π*励起バンドであり、本振動子の面積から該当方向に存在するPETを構成するテレフタル酸由来のベンゼン環同士によるπ−π*結合量を推定することが可能となる。モデルX、モデルY、モデルZの4.70eV以上5.20eV以下の振動子の面積について比較することでπ−π*結合の強さや方向を推定することができる。また、以上の通り推定を行うことで非接触、かつ高速にフィルムの構造を推定することが可能となる。
【0038】
また、本発明のエリプソメトリーによる分析方法は前記フィルムが、走行しているフィルムであることにより、連続してフィルムの特性を分析することが可能となり、また、フィルムを製造しながらフィルムの分析を実施することが可能となる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づき、具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0040】
[一軸配向フィルムサンプルの作成]
まず、ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.65)をベント式二軸押出機に供給し溶融押出した。この際、押出機内を流通窒素雰囲気下で、酸素濃度を0.5体積%とし、樹脂温度は285℃に制御した。ついで、フィルターやギヤポンプを通じて、異物の除去、押出量の均整化を行い、Tダイより温度25℃の冷却ドラム上にシート状に吐出した。その際、高電圧を掛けた電極を使用して静電気で冷却ドラムと樹脂を密着させる静電印加により、シート状ポリマーをキャスティングドラムに密着させ、冷却固化し、無配向フィルムを得た。その後、この無配向フィルムを100℃に加熱したロール群で長手方向に3.0倍に延伸して未熱処理一軸配向PETフィルムを得た。次に得られた未熱処理一軸配向PETフィルムを長手方向に30cm、幅方向に20cmの大きさに切り出し、四辺を厚さ1mmの鉄板に固定して180℃に加熱した熱風オーブン内にて60秒加熱し、3.0倍一軸配向PETフィルム(以下、UO3.0倍サンプル)を得た。同様に長手方向に4.0倍延伸した後、切り出して熱処理することにより4.0倍一軸配向PETフィルム(以下、UO4.0倍サンプル)を、長手方向に4.5倍延伸した後、切り出して熱処理することにより4.5倍一軸配向PETフィルム(以下、UO4.5倍サンプル)を、それぞれ得た。なお、長手方向とは、フィルムの搬送面に平行であり、フィルム製造時にフィルムが進行する方向をいい、幅方向とは、フィルムの搬送面に平行であり、長手方向と直交する方向をいう。
【0041】
[多層フィルムサンプルの作成]
特開2015−27746号公報の実施例1で示される方法で400〜450nmの波長の光線透過率の平均が30%、450〜460nmの波長光線透過率の平均が36%、500〜780nmの波長光線透過率の平均が89%である、異なるポリエステル樹脂を549層積層した40μmの2軸延伸多層ポリエステルフィルムを作製し、多層フィルムサンプルを得た。
【0042】
[フィルムの破断強度]
フィルムを長手方向に長さ15cm×幅1cmの矩形に切り出したサンプルとした。引張試験機(オリエンテック製“TENSILON”(登録商標)UCT−100)を用いて、初期張力チャック間距離を5cmとし、温度25℃、湿度65%RHの条件下で、引張速度を300mm/分で引っ張ったときの破断強度を測定した。なお、測定はASTM・D−882−67(1997)に準じて行い、サンプル数はn=5とし、得られた値の平均値をフィルムの破断強度(kg/mm
2)とした。
【0043】
[エリプソメーターにおける測定方法]
フィルムサンプルを4cm(長手方向)×3cm(幅方向)に切り出し、フィルムの片面を紙やすり(240番)を用いて圧力0.2MPaで、フィルムサンプル上を長手方向に20回、幅方向に20回往復させた。その後、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製M−2000U、解析ソフト:“CompleteEASE”(登録商標))のサンプル台上にセットしStandard measureモードで50°、60°、70°のなかから選ばれる複数の角度で測定を実施した。なお、反射光の強度は直線Zと偏光ビームの成す角を70°にセットしたときに0.200以上であった。
【0044】
[エリプソメーターにおける解析方法]
AnalsysモードでModelのウィンドウ内にBlankモデルを選択して立ち上げ、モデルの層構成、誘電関数を表現するモデル、モデルの光学異方性を示すTypeを設定し、パラメーターフィッティングを行うパラメーターを設定後、50°、60°、70°で測定した指定される波長領域のΨ、Δの値に対してパラメーターフィッティングを実施した。
【0045】
[モデリング成否の判定方法]
実測データとモデルから計算されたデータの差を数量化するのに平均二乗誤差(以下、MESということがある。)を用い、フィッティングにて作成されたモデルを評価した。MESが小さいほど良いフィットであることを意味する。モデルの成否は以下の通り行い、◎及び○を合格、×を不合格とした。
◎:0.0≦MES≦10.0
○:10.0<MES≦30.0
×:MES>30.0
【0046】
[4.70eV以上5.20eV以下の振動子によるπ−π*結合の推定]
モデルフィッティングによって得られた4.70eV以上5.20eVの振動子のXモデルの面積πAx、Yモデルの面積πAy、Zモデルの面積πAzを式(II)〜(IV)により求めた。下記にガウス分布の面積の求め方を示す。なおAmpx、Brx、EnxはそれぞれモデルXの振動子のピーク強度、半値幅、エネルギー位置、Ampy、Bry、EnyはそれぞれモデルYの振動子のピーク強度、半値幅、エネルギー位置、Ampz、Brz、EnzはそれぞれモデルZの振動子のピーク強度、半値幅、エネルギー位置を示す。
式(II):πAx=Ampx×Brx×1.06
式(III):πAy=Ampy×Bry×1.06
式(IV):πAz=Ampz×Brz×1.06
また、π−π*結合の強さπSを下記式(V)により算出した。
式(V):(πS)
2=πAx
2+πAy
2+πAz
2 (但し、πSは正の値である。)
【0047】
(実施例1)
UO3.0倍サンプルについて、前記のエリプソメーターにおける測定方法に従い、以下の6つの特徴を満たす条件で測定した。具体的な条件や手順については、以下に述べる。
特徴1:各点からの偏光ビームとZの成す角が0°より大きく90°未満である。
特徴2:偏光ビームとZの成す角が異なる大きさとなる点をXZ平面上に複数有する。
特徴3:X、Y、及びZに平行な方向をそれぞれX方向、Y方向、及びZ方向とし、X方向のモデルをモデルX、Y方向のモデルをモデルY、及びZ方向のモデルをモデルZとしたときに、モデルX、モデルY、モデルZがそれぞれ異なるモデルである。
特徴4:モデルX、モデルY、及びモデルZそれぞれのモデル内について、振動子のエネルギー位置が互いに独立している。
特徴5:モデルX、モデルY、及びモデルZのそれぞれのモデル間について、振動子のエネルギー位置が互いに従属している。
特徴6:反射光より得られた位相差Δと振幅強度比Ψを、モデル間で比較することにより振動子のパラメーターを決定する。
【0048】
1.20〜6.40eVの領域で、偏光ビームと直線Zの成す角度がそれぞれ50°、60°、70°となるように、UO3.0倍サンプルに3方向から偏光ビームを照射して測定を実施した。すなわち、偏光ビームの照射条件は特徴1及び2を満たす。
【0049】
エリプソメーターにおける解析はAnalsysモードでModelのウィンドウ内にBlankモデルを選択して立ち上げ、モデルの層構成を、単層を示すSubstrateとし、初期モデルを複数の振動子から誘電関数を表現するGen−Oscモデルとし、モデルの光学異方性を示すTypeを3方向での光学異方性を表現することの可能なBiaxialとした。すなわち、Biaxialとすることでパラメーターフィッティング後に特徴3を満たすようにすることが可能となる。
【0050】
そして、表1の通り計4つの振動子の追加とパラメーター設定を行った。表1中のGaussianはガウス分布を、Ampはピーク強度、Brは半値幅(単位:eV)、Enは振動子のエネルギー位置(単位:eV)を示す。X方向のモデルにおいて、Enは互いに他の数値に従属しておらず、独立した値とした(振動子番号1〜4に対し、Enは順に6.200、4.900、4.200、18.000)。すなわち、それぞれのモデル内について、振動子のエネルギー位置が互いに独立しており、測定条件は特徴4を満たす。
【0051】
さらに、BrとEnはParameter Couplingを使用し、モデルY及びモデルZの値をそれぞれ表1中の通りにモデルXの値に従属させた(例えば、表1中の「=x1Br」はx方向の振動子1のBrとパラメーター値が等しいことを示す。)。すなわち、BrとEnについては、それぞれのモデル間で互いに従属しているため、測定条件は特徴5を満たす。また、BrとEnに関しては分子結合形態固有であるため、表1中の通り範囲指定を行い、Ampについては結合量、および強さが0より小さい値をとることはないため0以上とした。また、UV pole Amp、UV pole En および IR pole Ampは0で固定とした。
【0052】
次にパラメーターフィッティングを行うパラメーターを表2の通り設定し、請求項1(6)を満たすよう偏光ビームと直線Zの成す角度がそれぞれ50°、60°、70°となるように3方向から偏光ビームを照射して測定した1.20〜6.40eVにおける振幅強度比Ψ、位相差Δの値に対してパラメーターフィッティングを実施した。すなわち、反射光より得られた位相差Δと振幅強度比Ψをモデル間で比較しており、測定条件は特徴6を満たす。
【0053】
なお、表2中の「○」で示すパラメーターについてフィッティングを実施し、「−」で示すパラメーターについてはParameter Couplingを実施しているため個別にフィッティングを実施していないことを示す。また前述の通り、UV pole Amp、UV pole En および IR pole Ampは0で固定とした。
表3にフィッティング結果を、表4にxAπと破断強度をそれぞれ示す。表3の通り得られた振動子より表現される誘電関数は、モデルX、モデルY、モデルZ間の振動子においてAmpの値がすべて異なり確かに特徴3を満たしており、実測値と良好なフィッティングを示した。
【0054】
(実施例2)
UO4.0倍サンプルを用いた以外は実施例1と同様にして実施した(すなわち、測定条件は特徴1〜6を全て満たすものである。)。結果を表3と表4に示す。
【0055】
(実施例3)
UO4.5倍サンプルを用いた以外は実施例1と同様にして実施した(すなわち、測定条件は特徴1〜6を全て満たすものである。)。結果を表3と表4に示す。
【0056】
(実施例4)
厚み188μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)U35)について易接着面をやすりにて処理したサンプルを用い、前記のエリプソメーターにおける測定方法に従って1.20〜6.40eVの領域で、偏光ビームと直線Zの成す角度が50°、70°となるように2方向から偏光ビームを照射した以外は、実施例1と同様にして実施した。結果を表3と表4に示す。なお、実施例4では偏光ビームの照射条件を変更したが、偏光ビームと直線Zの成す角度は0°又は90°でなく、かつ互いに異なっており、偏光ビームの照射条件は特徴1及び2を満たす。他の条件は実施例1と同じであることから、実施例4の測定条件は特徴1〜6を全て満たすものである。
【0057】
(実施例5)
多層フィルムサンプルについて4.00eV未満の領域にて積層界面での多重反射がみられたため、4.00〜6.40eVにおける振幅強度比Ψ、位相差Δの値に対してパラメーターフィッティングを実施した以外は実施例1と同様にして測定を実施した。結果を表3と表4に示す。なお、サンプルの変更に伴いパラメーターフィッティングの条件を変更したが、振幅強度比Ψ、位相差Δをモデル間で比較していることに変わりはないので、測定条件は特徴6を満たす。他の条件は実施例1と同じであることから、実施例5の測定条件は特徴1〜6を全て満たすものである。
【0058】
(比較例1)
モデルTypeを、等方性モデルを示すisotropic(モデルが3方向で全て共通であるタイプ)とし、表5の通りの振動子の追加とパラメーター設定を行った。このような条件設定とすることで、モデルは全ての方向で同じとなり、特徴3〜5を満たさないこととなった。Br、En、Ampに関しては実施例1と同様に表5の通り範囲指定を行った。また、UV pole Amp、UV pole En および IR pole Ampは実施例1と同様に0で固定とした。次にパラメーターフィッティングを行うパラメーターを表6の通り設定し、偏光ビームと直線Zの成す角度が50°、60°、70°となるように3方向から偏光ビームを照射して実施例1と同様に測定したUO3.0倍サンプルの1.20〜6.40eVのΨ、Δの値に対してパラメーターフィッティングを実施した。なお、表6中の「○」で示すパラメーターについてフィッティングを実施した。結果を表3に示す。実測値とモデルとの誤差が大きく使用不可であった。
【0059】
(比較例2)
実施例4で使用したサンプルについて、偏光ビームと直線Zの成す角度が50°、70°となるように2方向から偏光ビームを照射した以外は比較例1と同様に特徴3〜5を満たさない条件で測定した。結果を表3に示す。実測値とモデルとの誤差が大きく使用不可であった。
【0060】
実施例1〜5、と比較例1、2を比較すると、実施例1〜5はX方向、Y方向、Z方向それぞれに別々のモデルを立てることでポリエステルフィルムの光学異方性を表現し吸収振動子のパラメーターを決定することができた。また、比較例1、2は、光学異方性を有するポリエステルフィルムについてX方向、Y方向、Z方向それぞれの特性が等しいと仮定した等方性モデルによるフィッティングを試みたためにフィルムの振動子を決定することができなかった。また、実施例5における多層フィルムの解析においては振動子それぞれのパラメーターを決定されており、モデルX、モデルY、モデルZそれぞれの誘電関数モデルから多重反射領域の屈折率をはじめとする光学特性の決定が可能である。さらに、表5に4.70eV以上5.20eV以下の振動子面積πAxと機械強度の一例として破断強度との関係を示しているが、πAxはフィルムの破断強度と変化傾向とよく一致しており、本測定方法においてフィルムの機械強度が推定できることが分かる。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
【表6】