【課題】パン生地としては伸展性が良好で安定性に優れ、焼成時のかま伸びが良好でボリュームも大きく、パン類として内相は細かく、食感も非常にソフトでしっとりしたものとなる、新規なパン類の品質改良剤及びその製造方法、並びにパン類の製造方法を提供すること。
【解決手段】融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種により被覆されているL−アスコルビン酸又はその塩を含むパン類の品質改良剤、粉末状又は顆粒状の融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、粉末状又は顆粒状のL−アスコルビン酸又はその塩とを、前記長鎖脂肪酸の金属塩の融点未満の温度で接触させ、前記L−アスコルビン酸又はその塩を前記長鎖脂肪酸の金属塩で被覆する工程を含むパン類の品質改良剤の製造方法、並びに前記パン類の品質改良剤を用いるパン類の製造方法である。
前記長鎖脂肪酸の金属塩が、ラウリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、及びステアリン酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上である請求項1に記載の品質改良剤。
粉末状又は顆粒状の融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、粉末状又は顆粒状のL−アスコルビン酸又はその塩とを、前記長鎖脂肪酸の金属塩の融点未満の温度で接触させ、前記L−アスコルビン酸又はその塩を前記長鎖脂肪酸の金属塩で被覆する工程を含むことを特徴とするパン類の品質改良剤の製造方法。
撹拌しながら、前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、前記L−アスコルビン酸又はその塩とを20℃以上100℃未満の温度で接触させる請求項4に記載の製造方法。
前記長鎖脂肪酸の金属塩が、ラウリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、及びステアリン酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上である請求項4〜6のいずれかに記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、パン類の製造において用いられる品質改良剤として、例えば、アミラーゼやプロテアーゼ、グルコースオキシダーゼ、セルラーゼなどの各種酵素類、各種乳化剤、小麦蛋白、アルギン酸類やグアーガムなどの増粘多糖類、アスコルビン酸類、シスチン、グルタチオン等の酸化還元剤などが単独で、あるいは様々な組合せで用いられている。これらのうち一部は、以前に品質改良剤として使用されていた臭素酸カリウムの代替品としての使用が検討されてきたが、いまだ同等の効果は得られていないのが現状である。
【0003】
前記品質改良剤に関する技術としては、例えば、アスコルビン酸類を油中水中油型(O
1/W/O
2)乳化油脂組成物の最内相油脂であるO
1に加えた乳化油脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、完成品であるパン中に臭素酸カリウムを残存させないか、あるいは残存量を減少させる方法として、例えば、融点を52℃程度とした油脂で被覆されたアスコルビン酸や、融点を64℃程度としたモノグリセライド脂肪酸エステル及び油脂で被覆されたアスコルビン酸を添加する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、従来の提案の技術では、パン類の品質や製パン性の点で十分とは言えず、更なる改良が求められている。
【0006】
なお、L−アスコルビン酸被覆物に関する技術としては、微粉状のL−アスコルビン酸又はその塩と、微粉状のワックス類、油脂類などの疎水性物質とを所定の回転速度条件で衝突させて乾式混合し、アスコルビン酸を化学的に安定化させ且つ水中溶出速度のコントロールされた微粉状L−アスコルビン酸被覆剤を効果的に製造する方法(例えば、特許文献3参照)、アスコルビン酸を芯物質とし、壁物質がドデカン酸、テトラデカン酸などの高級脂肪酸で構成される機能性複合微粒子(例えば、特許文献4参照)なども提案されている。
【0007】
しかしながら、パン類の品質や製パン性の点で十分な性能を有するパン類の品質改良剤は未だ提供されておらず、新たなパン類の品質改良剤の開発が強く求められているのが現状である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(パン類の品質改良剤)
本発明のパン類の品質改良剤(以下、「品質改良剤」と称することがある)は、融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩(以下、「長鎖脂肪酸の金属塩」と称することがある)の少なくとも1種により被覆されているL−アスコルビン酸又はその塩(以下、「L−アスコルビン酸類」と称することがある)を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0014】
<融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種により被覆されているL−アスコルビン酸又はその塩>
−L−アスコルビン酸又はその塩−
前記L−アスコルビン酸類としては、ベーカリー製品などの食品に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、適宜選択することができる。
前記L−アスコルビン酸塩としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。
前記L−アスコルビン酸類は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記L−アスコルビン酸類は、市販品を使用することができる。また、前記L−アスコルビン酸類として、これらを高含有する素材(例えばアセロラやレモンの果汁を濃縮・固形化したもの)を使用することができる。
【0015】
前記L−アスコルビン酸類の形態としては、固形であれば特に制限はなく、適宜選択することができるが、長鎖脂肪酸の金属塩による被覆性や製パン工程、主として焼成・加熱工程において作用を奏する製剤としてより優れた性能を示す点で、微粉状乃至顆粒状であることが好ましく、主として顆粒状であるのがより好ましい。具体的には、平均粒径が約30〜800μmの範囲であることが好ましく、平均粒径が約100〜500μmの範囲であることがより好ましい。
本発明において、平均粒径とは、マイクロトラック粒径分布計を用いるマイクロトラック法により乾式で測定して得られた平均粒径をいう。マイクロトラック法は粒度の頻度からその分布を測定するが、粒径の頻度とは、粒径分布を解析し、計算した「検出頻度割合」である。
【0016】
−被覆−
前記L−アスコルビン酸類は、融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種により被覆されている。
【0017】
−−融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩−−
前記長鎖脂肪酸の金属塩としては、融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩であれば、特に制限はなく、適宜選択することができるが、製パン工程、主として焼成・加熱工程において作用を奏する製剤としてより優れた性能を示す点で、融点が120℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩が好ましく、具体的にはラウリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、及びステアリン酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上がさらに好ましく、ステアリン酸カルシウムが特に好ましい。
前記長鎖脂肪酸の金属塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記長鎖脂肪酸の金属塩は、市販品を使用することができる。
【0018】
−−長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、L−アスコルビン酸類との質量比−−
前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、前記L−アスコルビン酸類との質量比としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、通常1:100〜1:1であり、1:100〜1:2が好ましく、1:20〜1:2がより好ましい。前記質量比が、好ましい範囲内であると、製パン工程のうち、主として焼成・加熱工程において作用を奏する製剤としてより優れた性能を示す点で、有利である。
【0019】
前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種による被覆は、前記L−アスコルビン酸類の表面の少なくとも一部が被覆されていればよく、全体が被覆されていてもよい。また、前記被覆には、前記L−アスコルビン酸類の表面に前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種が付着している態様も含まれる。
【0020】
前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種により被覆されているL−アスコルビン酸類の前記品質改良剤における含有量としては、特に制限はなく、製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対する添加量などに応じて適宜選択することができる。前記品質改良剤は、前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種により被覆されているL−アスコルビン酸類からなるものであってもよい。
【0021】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、パン類の製造や従来のパン品質改良剤の成分・素材の中から適宜選択することができ、例えば、アミラーゼ類(αアミラーゼ、βアミラーゼ、グルコアミラーゼ等)、セルラーゼ・ヘミセルラーゼ、プロテアーゼ、グルコースオキシダーゼ、カタラーゼ、トランスグルタミナーゼ等の各種酵素類、イーストフード又はその成分(塩化アンモニウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム等)、乳化剤、グルタチオン、小麦蛋白、アルギン酸類(アルギン酸塩、アルギン酸エステル)、セルロース類(カルボキシメチルセルロース)、増粘多糖類(グアーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、グルコマンナン、ペクチン又はこれらの部分分解物)、イーストパウダーなどが挙げられる。また、前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種により被覆されているL−アスコルビン酸類以外のL−アスコルビン酸類、例えば未被覆のL−アスコルビン酸類を含んでもよい。前記その他の成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記その他の成分は、市販品を使用することができる。
前記その他の成分の前記品質改良剤における含有量としては、特に制限はなく、目的・各成分の通常の使用量及び所望の効果に応じて適宜選択することができる。
【0022】
<態様>
前記品質改良剤は、前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種により被覆されているL−アスコルビン酸類と、必要に応じて前記その他の成分とを同一の包材に含む態様であってもよいし、前記各成分を別々の包材に入れ、使用時に混合する態様であってもよい。
【0023】
前記品質改良剤の製造方法としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、後述する本発明の品質改良剤の製造方法により好適に製造することができる。
【0024】
本発明の品質改良剤は、様々なパン類の製造において使用することができる。
前記パン類としては、特に制限はなく、そのまま摂食されるパン類でも、またパン類の製造に使用される食品素材のいずれでもよく、酸化還元剤が使用され得るものから適宜選択することができ、例えば、食パン、ロールパン、菓子パン、惣菜パン、クロワッサン、デニッシュ、ブリオッシュ、フランスパン、ドイツパン(カイザーゼンメル、ライ麦パン等)、中華まん、蒸しパン、カレーパン等の揚げパン、イーストドーナッツ、フォカッチャ、パネトーネなどが挙げられる。
【0025】
<使用量>
前記品質改良剤の使用量(以下、「配合量」と称することがある)としては、特に制限はなく、パン類の各種製造方法やパン類の種類などに応じて適宜選択することができるが、L−アスコルビン酸又はその塩の量として、製パン類に用いる小麦粉を主体とする穀粉類に対して通常は0.1〜1,000ppmであり、1〜300ppmが好ましい。
【0026】
本発明の品質改良剤における前長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種により被覆されているL−アスコルビン酸類は、パン類の製造工程の主に焼成・加熱時において作用する良好な徐放性素材・製剤であるため、これを本発明の品質改良剤に主として含有させることで主に焼成・加熱時に作用する品質改良剤とすることができるが、従来のパン品質改良剤の各種成分・素材と組み合わせることで、各種成分・素材が有する作用・効果を付加した品質改良剤とするだけでなく、パン類の製造工程において、例えば混捏・発酵初期〜焼成・加熱時に作用する品質改良剤や発酵工程の後半〜焼成・加熱時に作用する品質改良剤とするなど、パン品質改良剤として様々な設計が可能である。
【0027】
(パン類の品質改良剤の製造方法)
本発明のパン類の品質改良剤の製造方法は、被覆工程を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0028】
<被覆工程>
前記被覆工程は、粉末状又は顆粒状の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、粉末状又は顆粒状のL−アスコルビン酸類とを、前記長鎖脂肪酸の金属塩の融点未満の温度で接触させ、前記L−アスコルビン酸又はその塩を前記長鎖脂肪酸の金属塩で被覆する工程である。
【0029】
−融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩−
前記長鎖脂肪酸の金属塩は、上記した本発明の品質改良剤の融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩の項目に記載したものと同様である。
前記長鎖脂肪酸の金属塩の形状は、粉末状又は顆粒状である。
前記粉末状又は顆粒状の長鎖脂肪酸の金属塩の大きさとしては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0030】
−L−アスコルビン酸又はその塩−
前記L−アスコルビン酸類は、上記した本発明の品質改良剤のL−アスコルビン酸類の項目に記載したものと同様である。
前記L−アスコルビン酸類の形状は、粉末状又は顆粒状である。
前記粉末状又は顆粒状のL−アスコルビン酸類の大きさとしては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、長鎖脂肪酸の金属塩による被覆性や製パン工程、主として焼成・加熱工程において作用を奏する製剤としてより優れた性能を示す点で、微粉状乃至顆粒状であることが好ましく、主として顆粒状であるのがより好ましい。具体的には、平均粒径が約30〜800μmの範囲であることが好ましく、平均粒径が約100〜500μmの範囲であることがより好ましい。
【0031】
−温度−
前記粉末状又は顆粒状の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、粉末状又は顆粒状のL−アスコルビン酸類とを接触させる温度(品温)としては、前記長鎖脂肪酸の金属塩の融点未満の温度であれば、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば20℃以上100℃未満の温度が挙げられるが、40〜90℃が好ましく、50〜80℃がより好ましい。
【0032】
−接触−
前記粉末状又は顆粒状の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、前記粉末状又は顆粒状のL−アスコルビン酸類とを接触させる方法としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、両者を撹拌し、接触させる方法などが挙げられる。
【0033】
前記被覆工程では、撹拌しながら、前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、前記L−アスコルビン酸類とを20℃以上100℃未満の温度で接触させるが、40〜90℃が好ましく、50〜80℃がより好ましい。
【0034】
−被覆−
前記被覆工程により、前記L−アスコルビン酸類は、前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種により被覆される。
なお、前記被覆は、本発明のパン類の品質改良剤の項目に記載したように、前記L−アスコルビン酸類の表面の少なくとも一部が被覆されていればよく、全体が被覆されていてもよい。また、前記被覆には、前記L−アスコルビン酸類の表面に前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種が付着している態様も含まれる。
【0035】
前記被覆工程に用いる装置としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、撹拌ミキサー、ニーダー、流動層装置などが挙げられる。
前記装置の条件としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0036】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、その他の成分の添加・配合工程などが挙げられる。
【0037】
前記その他の成分の添加・配合工程は、本発明のパン類の品質改良剤のその他の成分の項目で記載した成分を前記品質改良剤に添加・配合する工程である。
前記その他の成分の添加・配合工程は、前記被覆工程の前であってもよいし、後であってもよいが、前記品質改良剤の製造や、目的や用途に応じた品質改良剤の設計の容易性のため、前記被覆工程の後に行うことが好ましい。
【0038】
本発明のパン類の品質改良剤の製造方法によれば、本発明のパン類の品質改良剤を効率良く製造することができる。
【0039】
(パン類の製造方法)
本発明のパン類の製造方法は、本発明の品質改良剤を用いる限り、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、小麦粉を主体とする穀粉類を主原料とし、これに水分、イースト、乳、卵、油脂、塩、糖類などの他の原料、及び本発明の品質改良剤、必要に応じ従来のパン品質改良剤を添加して混捏し、得られた生地を、通常の手順で発酵、成型、焼成する方法などが挙げられる。
製パン方法の種類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、中種製法、ストレート製法、湯種製法、冷蔵若しくは冷凍生地製法などが挙げられる。
【0040】
<小麦粉を主体とする穀粉類>
前記小麦粉を主体とする穀粉類とは、小麦粉を含む穀粉、澱粉類及びその加工澱粉をいう。前記小麦粉を主体とする穀粉類は、小麦粉を単独で使用してもよいし、小麦粉と他の穀粉や澱粉類などを併用してもよい。
【0041】
前記穀粉としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、小麦粉、ライ麦粉、ライ小麦粉、そば粉、米粉、大麦粉、大豆粉、コーンフラワーなどが挙げられる。前記穀粉は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記小麦粉やライ麦粉は、通常、パン類の製造に用いられるものであれば特に限定はされず、例えば全粒粉でもよい。
【0042】
前記澱粉類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ、甘藷澱粉などが挙げられる。前記澱粉類は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
前記加工澱粉としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、熱処理澱粉、α化澱粉、酸処理澱粉、架橋澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉などが挙げられる。前記加工澱粉は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
<使用量>
前記品質改良剤の使用量は、上記した本発明の品質改良剤の使用量の項目に記載したものと同様である。
【0045】
本発明のパン類の製造方法によれば、製パン性が良好で優れた品質のパン類を製造することができる。具体的にはパン生地の伸展性が良好であり、パン生地、例えばフロアタイム後のパン生地の安定性に優れており、焼成時のかま伸びが良好でパンのボリュームが大きいパン類となる。パン類の内相はその気泡が非常に細かく、また、食パン等では気泡が縦方向(タテ目)の傾向になり、その内相は非常に優れたものとなる。さらに、パン類の食感はソフトで、且つしっとりしたものとなる。このように、本発明のパン類の製造方法によれば、製パン性が良好で優れた品質のパン類を製造することができる。
【0046】
また、本発明のパン類の品質改良剤によれば、上述のように、パン類の品質を優れたものとすることができる。したがって、本発明は、前記パン類の品質改良剤を用いるパン類の品質改良方法にも関する。
【実施例】
【0047】
以下、調製例、比較調製例、及び試験例を示して本発明を説明するが、本発明はこれらの調製例等に何ら限定されるものではない。
【0048】
(調製例1)
コーティング装置として温度調節機能付ユニバーサルミキサーを用い、これに、ステアリン酸カルシウム(融点:147℃〜149℃)と、L−アスコルビン酸粉末(平均粒径:約40μm)とを質量比が1:10となるように混合したものを投入し、アジテーター回転数 120rpm、チョッパー回転数 1,800rpmの条件下にて、品温が68℃に達するまで混合し、ステアリン酸カルシウムで被覆されたL−アスコルビン酸を得た。
【0049】
(調製例2)
調製例1において、L−アスコルビン酸粉末(平均粒径:約40μm)に代えて、L−アスコルビン酸顆粒(平均粒径:約300μm)を用いた点以外は、調製例1と同様にして、ステアリン酸カルシウムで被覆されたL−アスコルビン酸を得た。
【0050】
(調製例3)
調製例1において、L−アスコルビン酸粉末に代えて、L−アスコルビン酸ナトリウム顆粒(平均粒径:約350μm)を用いた点以外は、調製例1と同様にして、ステアリン酸カルシウムで被覆されたL−アスコルビン酸ナトリウムを得た。
【0051】
(比較調製例1)
調製例2において、ステアリン酸カルシウムに代えて、親油性ショ糖脂肪酸エステル(融点:60℃)を用いた点以外は、調製例2と同様にして、親油性ショ糖脂肪酸エステルで被覆されたL−アスコルビン酸を得た。
【0052】
(比較調製例2)
調製例2において、ステアリン酸カルシウムに代えて、親水性ショ糖脂肪酸エステル(融点:60℃)を用いた点以外は、調製例2と同様にして、親水性ショ糖脂肪酸エステルで被覆されたL−アスコルビン酸を得た。
【0053】
(比較調製例3)
調製例2において、ステアリン酸カルシウムに代えて、パーム硬化油(融点:60℃)を用い、L−アスコルビン酸とパーム硬化油との質量比が2:8となるように混合した点以外は、調製例2と同様にして、パーム硬化油で被覆されたL−アスコルビン酸を得た。
【0054】
(試験例1:食パンの製造)
下記表1に記載の品質改良剤を用い、中種法によりプルマン型食パンを製造した。配合及び工程は、以下のとおりである。
<配合>
中種 本捏
・ 小麦粉(強力粉) 70.0質量部 30.0質量部
・ 生イースト 3.0質量部 −
・ 品質改良剤 表1参照 −
・ 砂糖 − 5.0質量部
・ 食塩 − 2.0質量部
・ 脱脂粉乳 − 2.0質量部
・ 油脂(ショートニング) − 5.0質量部
・ 水 40.0質量部 28.0質量部
【0055】
<工程>
中種 本捏
・ ミキシング L2分M2分 L1分M3分↓M3分H2分
・ 捏上温度 24℃ 28℃
・ 発酵温度 28℃ 28℃
・ 発酵(フロア)時間 4時間 15分
・ 分割重量 − 220g×6
・ ベンチ時間 − 17分
・ 成型 − ロール成型
・ ホイロ条件 − 35℃、相対湿度85%
・ ホイロ時間 − 50分
・ 焼成条件 − 210℃、40分
なお、上記工程において、Lは低速、Mは中速、Hは高速を表し、↓は油脂の添加を表す。
【0056】
<パン類の品質改良剤>
前記食パンの製造に用いた品質改良剤とその小麦粉に対する添加量を表1に、また、製造した食パンの評価を表2に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
<評価>
前記食パンの製造工程及び得られた食パンについて、以下の評価基準により、5名により評価した。その平均点を表2に示す。
【0059】
−製パン性−
[評価基準]
3点:生地の伸展性が良好である。
2点:生地にややしまりがあり、伸展性がやや劣る。
1点:生地にしまりがあり、伸展性が劣る。
【0060】
−パンの内相−
[評価基準]
3点 : タテ目で全体的に伸びがあり、目が細かい。
2点 : タテ目だがやや目が粗い。
1点 : タテ目ではなく、目が粗い。
【0061】
−食感−
[評価基準]
3点 : ソフトでしっとりとした食感である。
2点 : やや弾きがあるか、やや硬い食感である。
1点 : 弾きがあり硬い食感である。
【0062】
【表2】
【0063】
表2の結果から、融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種により被覆されているL−アスコルビン酸又はその塩を含む品質改良剤を用いて食パンを製造した場合(試験例1−8〜10)には、パン生地は伸展性が良好か、やや良好であり、内相はタテ目で伸びがあり、目が細かく、食感もソフトでしっとりしていた。これに対して、未被覆のL−アスコルビン酸類や、融点が低い油脂や乳化剤で被覆したL−アスコルビン酸類を含む品質改良剤の場合(試験例1−3〜7)では、パン生地はしまりがあるか、ややしまりがあり、内相は目が粗いか、やや粗く、食感も弾きがあり硬いか、やや弾きがありやや硬いものであった。また、L−シスチンを用いた場合(試験例1−2)は、試験例1−3〜7と同等かそれよりも劣っていた。
したがって、本発明のパン類の品質改良剤は、優れた性能を有することが示された。
【0064】
(調製例4)
調製例2において、ステアリン酸カルシウムと、L−アスコルビン酸顆粒との質量比が1:4となるように混合した点以外は、調製例2と同様にして、ステアリン酸カルシウムで被覆されたL−アスコルビン酸を得た。
【0065】
(調製例5)
調製例2において、ステアリン酸カルシウムと、L−アスコルビン酸顆粒との質量比が1:20となるように混合した点以外は、調製例2と同様にして、ステアリン酸カルシウムで被覆されたL−アスコルビン酸を得た。
【0066】
(試験例2:食パンの製造)
品質改良剤として、調製例4(試験例2−1)又は調製例5(試験例2−2)のステアリン酸カルシウムで被覆されたL−アスコルビン酸を小麦粉に対して50ppmで添加した点以外は、試験例1と同様にして、中種法によりプルマン型食パンを製造した。
次いで、試験例1と同じ評価基準により、製パン性、パンの内相、及び食感を評価した。その結果を下記の表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
表3の結果から、ステアリン酸カルシウムで被覆したL−アスコルビン酸を含むパン品質改良剤において、ステアリン酸カルシウムとL−アスコルビン酸との質量比が1:4(試験例2−1)、1:20(試験例2−2)のいずれの場合でも、製パン性が良好であり、パンの内相、食感ともに優れていた。
【0069】
(試験例3:食パンの製造)
品質改良剤として、小麦粉に対して調製例2のステアリン酸カルシウムで被覆されたL−アスコルビン酸を小麦粉に対して100ppmと、アミラーゼ300単位(ビオザイムA、天野エンザイム製)(試験例3−1)、粉末麦芽100ppm(試験例3−2)、グルタチオン含有酵母粉末1,000ppm(イーストパウダーHG、オリエンタル酵母工業製)(試験例3−3)、又はL−アスコルビン酸粉末(被覆なし)10ppm(試験例3−4)とを添加した点以外は、試験例1と同様にして、中種法によりプルマン型食パンを製造した。
次いで、試験例1と同じ評価基準により、製パン性、パンの内相、及び食感を評価した。その結果を下記の表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
表4の結果から、ステアリン酸カルシウムで被覆したL−アスコルビン酸と、アミラーゼ、粉末麦芽、グルタチオン含有酵母粉末、又は未被覆のL−アスコルビン酸粉末とを併用したパン品質改良剤を用いることにより、ステアリン酸カルシウムで被覆したL−アスコルビン酸とそれぞれの素材との組合せで、優れた品質のパン類が得られることが示された。