とを含み、前記軽焼生成物と前記硫酸アルミニウムとの質量比が、軽焼生成物の質量:硫酸アルミニウムの質量=60:40〜10:90の範囲であるフッ素溶出低減材等である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、上記のような従来の問題を鑑みて、処理土壌のpHの上昇を抑制しつつフッ素の溶出を低減させることができるフッ素溶出低減材およびフッ素溶出低減方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、フッ素溶出低減材において、特定の軽焼生成物と硫酸アルミニウムとの質量比を特定の範囲にすることで、処理対象物のpHの上昇を抑制しつつフッ素の溶出を低減させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係るフッ素溶出低減材は、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と炭酸カルシウム(CaCO
3)とを主成分として含有すると共にCaO/MgOで表わされる複塩のモル比が0.70〜1.63の範囲であり、且つ、CaCO
3をCaO換算で9〜40質量%、MgCO
3をMgO換算で10〜38質量%含有する鉱物が軽焼された軽焼生成物と、硫酸アルミニウムとを備え、
前記軽焼生成物は前記MgCO
3が脱炭酸されることで生成されたMgC
xO
y(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)とMgCO
3とCaCO
3とを含み、
前記軽焼生成物と前記硫酸アルミニウムとの質量比が、軽焼生成物の質量:硫酸アルミニウムの質量=60:40〜10:90の範囲である。
【0008】
本発明によれば、前記MgC
xO
yとMgCO
3とCaCO
3とを含有する軽焼生成物と、硫酸アルミニウムとを前記質量比で備えたフッ素溶出低減材であるため、かかるフッ素溶出低減材をフッ素を含む土壌に混合することで、土壌のpHの上昇を抑制しつつ、土壌中のフッ素の重金属類の溶出を低減させることができる。
【0009】
尚、本発明における軽焼とは、前記鉱物中の炭酸マグネシウム(MgCO
3)の一部を脱炭酸させるように前記鉱物を加熱することをいう。
【0010】
また、本発明に係るフッ素溶出低減方法は、
炭酸マグネシウム(MgCO
3)と炭酸カルシウム(CaCO
3)とを主成分として含有すると共にCaO/MgOで表わされる複塩のモル比が0.70〜1.63の範囲であり、且つ、CaCO
3をCaO換算で9〜40質量%、MgCO
3をMgO換算で10〜38質量%含有する鉱物が軽焼された軽焼生成物と、硫酸アルミニウムとを備え、
前記軽焼生成物は前記MgCO
3が脱炭酸されることで生成されたMgC
xO
y(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)とMgCO
3とCaCO
3とを含み、
前記軽焼生成物と前記硫酸アルミニウムとの質量比が、軽焼生成物の質量:硫酸アルミニウムの質量=60:40〜10:90の範囲であるフッ素溶出低減材を、フッ素含有土壌に混合して、フッ素の溶出を低減させる。
【0011】
本発明に係るフッ素溶出低減方法において、前記フッ素溶出低減材を混合した土壌の溶出液がpH8.0以下になるように前記フッ素溶出低減材をフッ素含有土壌に混合してもよい。
【0012】
前記pHになるように前記フッ素溶出低減材をフッ素含有土壌に混合した場合には、フッ素の溶出を低減できると共に、環境へ溶出する溶出液のpHが略中性以下であるため、環境への負荷を少なくすることができる。
【0013】
尚、本発明において「溶出液」とは、環境庁告示46号に準じて行なう溶出試験で得られた検液を指す。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被処理土壌のpHの上昇を抑制しつつフッ素の溶出を低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るフッ素溶出低減材およびフッ素溶出低減方法について具体的に説明する。
まず、本発明のフッ素溶出低減材の一実施形態について説明する。
本実施形態のフッ素溶出低減材は、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と炭酸カルシウム(CaCO
3)とを主成分として含有する鉱物が軽焼された軽焼生成物と、硫酸アルミニウムとを備え、
前記軽焼生成物は前記MgCO
3が脱炭酸されることで生成されたMgC
xO
y(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)とMgCO
3とCaCO
3とを含み、
前記軽焼生成物と前記硫酸アルミニウムとの質量比が、軽焼生成物の質量:硫酸アルミニウムの質量=60:40〜10:90の範囲であるものである。
【0017】
前記軽焼生成物は、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と炭酸カルシウム(CaCO
3)とを主成分として含有する鉱物が軽焼されたものである。
炭酸マグネシウムと炭酸カルシウムとを主成分として含有する前記鉱物とは、炭酸マグネシウムを20質量%以上、好ましくは40質量%以上、且つ炭酸カルシウムを15質量%以上、好ましくは、50質量%以上含有する鉱物を好適に用いることができる。
前記鉱物の具体例としては、ドロマイト等を挙げることができる。
【0018】
前記ドロマイトとしては、炭酸マグネシウムと炭酸カルシウムとを含有してなるものであれば特に限定されず、天然に産出するドロマイト(白雲石)の他、水酸化マグネシウムスラリーと石灰乳との混合物を焼成して得られた合成ドロマイト等を用いることもできる。
なお、天然に産出するドロマイトは、一般に、CaO/MgOで表わされる複塩のモル比が0.70〜1.63の範囲であり、CaCO
3をCaO換算で概ね9〜40質量%(CaCO
3として16.0質量%〜71.5質量%)、MgCO
3をMgO換算で概ね10〜38質量%(MgCO
3として20.9質量%〜79.5質量%)含有するものである。
尚、前記ドロマイト中のCaCO
3をCaO換算とし、MgCO
3をMgO換算とする計算方法は下記のとおりである。
ドロマイトはCaMg(CO
3)
2すなわち、CaCO
3+MgCO
3と表すことができる。ドロマイト中のCaCO
3とCaOの質量%の関係は下記式(1)のようになり、ドロマイト中のMgCO
3とMgOの質量%の関係は下記式(2)のようになり、式(1)または(2)から、CaCO
3をCaO換算し、MgCO
3をMgO換算することができる。
CaO(質量%)=CaCO
3(質量%)×CaO分子量÷CaCO
3分子量・・(1)
MgO(質量%)=MgCO
3(質量%)×MgO分子量÷MgCO
3分子量・・(2)
【0019】
本実施形態の前記鉱物の大きさは、例えば、数mm〜100mm程度、好ましくは、3mm〜10mm程度である。前記の大きさの鉱物にするために、例えば、前記鉱物を粉砕して大きさを調整してもよい。
さらに、前記鉱物はブレーン値が2000〜3000cm
2/gの範囲であることが好ましい。
尚、前記鉱物の大きさは、例えば、所定の目開きのふるいを用いて測定することができる。また、前記ブレーン値は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に規定する比表面積試験の方法に準拠した方法で測定した値をいう。
【0020】
本実施形態の前記鉱物は、前記MgC
xO
yと、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と、炭酸カルシウム(CaCO
3)とを含む生成物が生成されるように軽焼する。
かかる軽焼の際の温度条件としては、640〜990℃の範囲、好ましくは690〜890℃、さらに好ましくは760〜850℃である。
また、軽焼時間は温度条件によっても変動するが、通常、10〜60分である。
【0021】
前記鉱物を軽焼することで、前記鉱物中に含まれる炭酸マグネシウム(MgCO
3)の一部が脱炭酸されてMgC
xO
y(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)が生成される。すなわち、前記軽焼により、前記鉱物中の炭酸マグネシウム(MgCO
3)の一部はそのまま残存させると同時に、炭酸マグネシウムの一部を脱炭酸してMgC
xO
yとし、さらに前記鉱物中の炭酸カルシウム(CaCO
3)は実質的には脱炭酸させないことによって、前記MgC
xO
yと、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と、炭酸カルシウム(CaCO
3)とを含有する軽焼生成物を得ることができる。
前記鉱物を、高温長時間焼成して完全な焼成物とした場合、前記鉱物中の炭酸マグネシウム(MgCO
3)が脱炭酸されると同時に、炭酸カルシウム(CaCO
3)も脱炭酸されてしまい、前記のような3つの成分を実質的に含有する軽焼生成物を得ることができない。
前記のような3つの成分を実質的に含有する軽焼生成物であることで、フッ素の溶出を効果的に低減できる効果が得られる。
【0022】
前記軽焼生成物における前記MgC
xO
yは、例えば、MgCO
3の基本構造が脱炭酸によって変化し基本構造の規則性が崩れた不定形な形で存在していると考えられる。
【0023】
また、前記軽焼生成物における前記MgCO
3および前記MgC
xO
yはおそらく非晶質であると考えられる。
前記鉱物中の炭酸マグネシウム(MgCO
3)の一部はそのまま残存させると同時に、炭酸マグネシウムの一部を脱炭酸してMgC
xO
yとし、さらに前記鉱物中の炭酸カルシウム(CaCO
3)は実質的には脱炭酸させない状態で軽焼を停止することによって、残存するMgCO
3および生成されるMgC
xO
yは非晶質化するものと考えられる。
このことは、例えば、X線回析法(XRD)による同定結果およびX線光電子分光法(XPS)による検出スペクトル解析などから容易に推測しうる。
すなわち、前記軽焼生成物を、XPSによる成分分析を行うと、MgCO
3およびMgC
xO
yのピークが検出されるが、同時にXRDによる同定を行うと、MgCO
3およびMgC
xO
yは検出されない。これは、XRDでは結晶質のものしか検出できないため、前記軽焼生成物中に含まれる前記MgCO
3および前記MgC
xO
yは非晶質化しているものと推定される。
【0024】
前記軽焼生成物における、前記MgCO
3および前記MgC
xO
yの合計含有量は、例えば、32.1質量%〜40.3質量%、好ましくは34.5質量%〜39.6質量%である。
前記軽焼生成物中の各成分が前記範囲の含有量であることで、フッ素に対するより高い溶出低減効果が得られる。
【0025】
前記軽焼生成物における、前記CaCO
3の含有量は、例えば、40質量%〜65質量
%、好ましくは45質量%〜65質量%である。
かかる範囲の前記CaCO
3の含有量であることで、重金属溶出低減材とした場合に、長期間溶出低減効果を維持することができる。
前記MgCO
3および前記MgC
xO
yの合計含有量、並びに前記CaCO
3の含有量の各測定は、例えば、JIS R2212−4に規定するマグネシア及びドロマイト質耐火物の成分分析方法、X線回析法(XRD)による同定結果、X線光電子分光法(XPS)による成分分析方法等により測定することが可能である。
【0026】
前記軽焼生成物が前記のような3つの成分を実質的に含有する軽焼生成物であるか否かは、X線光電子分光法(XPS)によって検出されるスペクトルにおいて示される前記各ピーク値が現れるか否かによって明確に確認できる。
例えば、X線光電子分光装置 Sigma Probe(VGサイエンティフィック社製)を用いて、前記軽焼生成物を試料ペレットに埋めて表面をエッチング処理等適宜前処理した試料から検出されるXPSスペクトルのO1sに対応するスペクトルにおけるピークを調べると、前記軽焼生成物が前記のような3つの成分を含有する場合には、各成分のピークが現れる。
【0027】
尚、本実施形態の前記軽焼生成物は、CaOを実質的に含有しないことが好ましい。
前記鉱物を軽焼した場合には、前記鉱物中のMgCO
3の一部を脱炭酸させるが、CaCO
3を実質的には脱炭酸する温度での焼成ではないため、前記軽焼生成物中には、実質的にCaOは含まれていない。
尚、前記軽焼生成物がCaOを実質的に含有しない、とは、X線回析法(XRD)による同定結果および前記X線光電子分光法(XPS)によって検出されるO1sに対応するスペクトルにおいて、CaOのピークが現れないことを意味する。
【0028】
前記軽焼生成物は、前記鉱物を軽焼することで質量が減少するが、かかる軽焼による質量減少率は、例えば、9〜20%、好ましくは10〜17%、より好ましくは16〜17%である。
質量減少率をこのような数値範囲内とすることにより、炭酸マグネシウム等からの脱炭酸反応を適切に生じさせ、前記鉱物中の炭酸マグネシウムの一部を残存させると同時に、炭酸マグネシウムの一部を脱炭酸してMgC
xO
yとし、かかる脱炭酸によって生じる前記MgC
xO
yと、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と、炭酸カルシウム(CaCO
3)とを含有する軽焼生成物を適切に生成させることができるものと考えられる。
【0029】
前記軽焼生成物のBET比表面積は、例えば、5〜10m
2/g、好ましくは7〜10m
2/gであって、且つ、細孔径分布のピーク半径が10〜20nmの数値範囲内であることが好ましい。前記軽焼生成物中のBET比表面積および細孔径分布のピーク半径が前記範囲であることで、フッ素溶出低減材とした場合により高い溶出低減効果が得られる。
【0030】
本実施形態のフッ素溶出低減材は硫酸アルミニウムを含む。
本実施形態のフッ素溶出低減材において、前記軽焼生成物と前記硫酸アルミニウムの質量比は、軽焼生成物:硫酸アルミニウム=60:40〜10:90の範囲、好ましくは、50:50〜10:90の範囲、特に好ましくは、40:60〜20:80の範囲である。前記軽焼生成物と前記硫酸アルミニウムの質量比が前記範囲であることで、土壌に混合した際にpHの上昇を抑制しつつ、土壌に含まれるフッ素の溶出を効果的に低減することができる。
【0031】
本実施形態のフッ素溶出低減材は、必要に応じて、他の成分を含んでいてもよい。
【0032】
次に、前記フッ素溶出低減材を用いたフッ素溶出低減方法の一実施形態について説明する。本実施形態のフッ素溶出低減方法は、前記フッ素溶出低減材をフッ素含有土壌に混合して、フッ素の溶出を低減させる方法である。
【0033】
前記フッ素含有土壌としては、フッ素を含む土壌であれば特に制限されることはない。例えば、工場跡地の土壌、廃棄物が埋設された箇所の土壌、土砂災害や津波による堆積土壌等が挙げられる。
特に、津波による堆積土壌には海底土由来のフッ素が多く含まれている。よって、本実施形態のフッ素溶出低減方法の被処理対象土壌として適している。
【0034】
本実施形態のフッ素溶出低減方法において、前記フッ素溶出低減材を混合した土壌の溶出液がpH8.0以下になるように前記フッ素溶出低減材をフッ素含有土壌に混合することが好ましい。前記pHの範囲になるように、前記フッ素溶出低減材をフッ素含有土壌に混合することで、被処理土壌のpH上昇を抑制しつつ、フッ素の溶出を効果的に抑制できる。
【0035】
前記フッ素溶出低減材を、フッ素含有土壌に混合する量は、フッ素含有土壌に含まれるフッ素の濃度に応じて適宜設定できるが、例えば、フッ素含有土壌に対して、2質量%以上15質量%以下である。
前記範囲であれば、フッ素溶出低減材を過剰に混合することなく、フッ素の溶出の低減効果が得られる。
【0036】
本実施形態にかかるフッ素溶出低減材およびフッ素溶出低減方法は以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を示して、本発明にかかるフッ素溶出低減材および溶出低減方法についてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
(フッ素溶出低減材)
重金属溶出低減材の材料として、下記のものを準備した。
《軽焼生成物》
3mm〜7mmの粒子状のドロマイト(住友大阪セメント株式会社唐沢鉱業所産)を、800℃の電気炉で30分間軽焼し、粉砕してブレーン値4200±200cm
2/gの粉末とした軽焼生成物を準備した。
尚、前記ドロマイトは、目開き7mmのふるいを通過し、3mmのふるい上に残留したものを用いた。
《硫酸アルミニウム》
硫酸アルミニウムとして、Al
2(SO
4)
3・14〜18H
2O(関東化学社製)を準備した。
前記各材料を、表1の配合になるように混合して、実施例1〜6および比較例1〜6のフッ素溶出低減材を作製した。
【0039】
(溶出試験I)
フッ素含有土壌100gに対して、表1に示す各実施例及び比較例のフッ素溶出低減材を4gずつ混合した混合土壌を作製した。
尚、比較例1として、フッ素溶出低減材を混合しない土壌100gを準備した。
各混合土壌(あるいは土壌)に対して「平成3年環境庁告示第46号」に準拠した溶出試験を行い、溶出液中のフッ素濃度を以下の装置を用いて測定した。
フッ素濃度測定装置:ランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法(ビーエルテック社製 連続流れ分析装置 SWAAT)
【0040】
(pH測定試験)
前記溶出試験で用いた混合土壌の溶出液のpHを、下記装置を用いて測定した。
pH測定装置:pHメーター F51(堀場製作所社製)
結果を、表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1の結果から、各実施例は各比較例に比べてフッ素の溶出量が少なく、且つ表中に記載の基準値(環境庁告示第46号に記載の環境基準値)を下回った。また、各実施例の溶出液はpHが8.2以下であった。
【0043】
(溶出試験II)
硫酸アルミニウムに代えて硫酸第一鉄(硫酸第一鉄・1H
2O、堺化学社製)を前記軽焼生成物に表2に示す割合で混合した比較例7乃至9の溶出低減材を準備し、土壌に混合し、前記溶出試験Iと同様にフッ素の濃度および溶出液のpHを測定した。
pHの近い前記実施例1、5および6と比較した結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
表2の結果から、硫酸第一鉄で調整した比較例に比べて、各実施例ではフッ素の溶出をより低減できることがわかる。
【0046】
(溶出試験III)
次に、フッ素含有土壌に混合するフッ素溶出低減材の量を変化させ、前記溶出試験Iと同様にフッ素の濃度および溶出液のpHを測定した。
使用したフッ素溶出低減材は、前記実施例2と同じフッ素溶出低減材(軽焼生成物50質量部、硫酸アルミニウム50質量部)を用いて、前記フッ素含有土壌100gに対して、それぞれ表3の質量%になるようにフッ素溶出低減材を混合した。
結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
表3の結果から、フッ素溶出低減材をフッ素含有土壌に混合する量としては、軽焼生成物50質量部、硫酸アルミニウム50質量部のフッ素溶出低減材の場合には、2質量%〜15質量%程度の混合量であれば、フッ素の溶出を効果的に低減できることがわかる。
【0049】
(軽焼生成物等の分析)
前記軽焼生成物および、比較のために栃木県葛生地方産出のドロマイト(住友大阪セメント株式会社唐沢鉱業所産)を加熱処理しないもの(ドロマイト1)、120分間加熱したもの(ドロマイト2)及び、市販のMgO(泉工業株式会社製、商品名:酸化マグネシウム(純度19.99%)(酸化マグネシウム)をX線光電子分光装置:Sigma Probe(VGサイエンティフィック社製)を用いて分析した。
測定条件は以下の通りである。
《測定条件》
X線源: AlKα線(1486.6eV)
検出角度:約45°
ビーム径:100W/400μm
パスエネルギー(ワイドスキャン):100eV、Ar(30),C(20),O(30),Mg(10),Ca(10)、(カッコ内は積算回数)
パスエネルギー(元素ナロースキャン):20eV
測定元素:Ar,C,O,Mg,Ca
Ar+イオンスパッタ速度:約2nm/min(Ta
2O
5膜に換算)
前記試料はそれぞれInペレットに埋めて平らにし、カーボンテープで試料台に固定した。
測定は各試料とも300秒、Arイオンでスパッタによるエッチング処理後、測定した。
【0050】
図1乃至
図4に、軽焼生成物、ドロマイト1,2および酸化マグネシウムのXPSスペクトルのOs1のスペクトルを示す。
また、表4には分析結果を示す。
【0051】
【表4】
【0052】
図1は軽焼生成物のXPSスペクトルである。
図1および表4に示すように、軽焼生成物からは、MgCO
3およびCaCO
3のピークの間の領域に2種類のMgC
xO
yのピークが現れている。
すなわち、前記軽焼生成物は、ドロマイト中のMgCO
3の一部が脱炭酸されたMgC
xO
yを含み、且つ、MgCO
3およびCaCO
3も含むことを示している。
一方、CaOの位置にはピークが見られないことから、前記軽焼生成物は、ドロマイト中の成分であるCaCO
3が脱炭酸されたCaOを含んでいないことを示している。
図2に示すドロマイト1は、ドロマイト中の成分であるMgCO
3及びCaCO
3のピークのみを示している。
図3に示すドロマイト2は、MgC
xO
yのピークを示しており、MgCO
3のピークは示していない。これは、ドロマイト中のMgCO
3のほとんどが脱炭酸されてMgC
xO
yとなったためと考えられる。さらに、ドロマイト2はCaOのピークも示しており、これはCaCO
3の一部が脱炭酸されていると考えられる。
図4に示す酸化マグネシウムではMgOのピークのみを示している。
【0053】
さらに、前記軽焼生成物、ドロマイト1,2及び酸化マグネシウムを、X線回析装置:X’Pert PRO(PANalytical社製)を用いてXRD回析を行った。
測定条件は以下の通りである。
《測定条件》
手法:粉末X線回折、スピンなし
管球:Cu
出力設定:45kV,40mA
2θ:30〜85°
ステップサイズ:0.05°2Th.
スキャンステップ時間:0.5s
スキャン種類:連続
【0054】
図5にXRD回析スペクトルを示す。
前記XRD回析の結果、ドロマイト1からはCaMg(CO
3)
2が、軽焼生成物からはCaCO
3のみが、ドロイマイト2からはCaCO
3およびCaOが、酸化マグネシウムからはMgOのみが、同定された。
すなわち、軽焼生成物のXPSスペクトルにおいてはMgCO
3およびMgC
xO
yのピークを示しているにもかかわらず、XRD同定ではこれらのマグネシウム化合物は検出されなかったことから、軽焼生成物に含まれるMgCO
3およびMgC
xO
yはXRDで検出されない非晶質化したものであると推定される。