【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0053】
1.各種物性測定および性能試験方法
【0054】
[剥離強度]
基材層−(カール抑制層)−キャリア層間の剥離強度は、積層体を、幅が1mm〜10mm、長さが10mm〜25mmの短冊状に加工し、東洋精機株式会社製引張試験機(ストログラフ−M1)を用いて、キャリア層を180°方向に引き剥がし、剥離強度を測定した。なお、剥離強度が強固であり、剥離が困難であるものは「剥離不可」とした。
【0055】
[透過率]
20μm厚の基材層を5cm角に切り出し、これを日本電色工業製のHAZE METER NDH−5000を用いて、380nmから780nmの透過率の測定を行った。
【0056】
[Ra]
基材層、キャリア層及びカール抑制層を、それぞれ単独で3cm角に切り出し、これをブルカー・エイエックスエス製のAFMを用いて、Raの測定を行った。
【0057】
[CTE]
基材層、キャリア層及びカール抑制層のCTEは、それぞれを3mm×15mm角に切り出し、これをセイコーインスツルメント製の熱機械分析(TMA)装置にて5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度(10℃/min)で30℃から260℃の温度範囲で引張り試験を行い、100℃〜250℃での温度に対するボリイミドフィルムの伸び量からCTE(×10
−6/K)を測定した。
【0058】
[反り]
積層フィルムから1辺が100mmの正方形サンプルをカッターナイフで切り出し、23℃50%で24時間調湿した後、定盤にのせ4角の浮き上がり高さをノギスで測定し、その平均値を反り(カール)とした。
【0059】
2.ポリアミド酸(ポリイミド前駆体)溶液の合成
以下の合成例や実施例等に用いた原料を以下に示す。
【0060】
〔芳香族ジアミノ化合物〕
・4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)
・2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(mTB)
・1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPER)
・2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)
・1,4−フェニレンジアミン(PPD)
〔芳香族テトラカルボン酸の酸無水物〕
・無水ピロメリット酸(PMDA)
・2,2−ビス(3,4−アンヒドロジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(6FDA)
・2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)
〔溶剤〕
・N,N―ジメチルアセトアミド(DMAc)
【0061】
合成例1
窒素気流下で、TFMB(9.4g、0.03mol)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc127.5g中に加え加温し、50℃で溶解させた。次いで、6FDA(13.09g、0.03mol)を加えた。ジアミンと酸無水物のモル比が実質的に1:1になるようにした。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡黄色の粘稠なポリアミド酸ワニスAを得た。なお、このポリアミド酸ワニスAを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Aが得られる。
【0062】
合成例2
窒素気流下で、m−TB10.2gとTPE−R1.6gをモル比90:10で、300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc170g中に加え加温し、50℃で溶解させた。次いで、PMDA9.2gとBPDA3.1gをモル比90:10で加えた。ジアミンと酸無水物のモル比が実質的に1:1になるようにした。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡白色の粘稠なポリアミド酸ワニスBを得た。なお、このポリアミド酸ワニスBを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Bが得られる。
【0063】
合成例3
窒素気流下で、TFMB(12.6g、0.04mol)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc127.5g中に加え加温し、50℃で溶解させた。次いで、6FDA(2.2g、0.005mol)とPMDA(7.7g、0.035mol)をモル比12.5:87.5で加えた。ジアミンと酸無水物のモル比が実質的に1:1になるようにした。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、150gの淡白色の粘稠なポリアミド酸ワニスCを得た。なお、このポリアミド酸ワニスCを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Cが得られる。
【0064】
合成例4
窒素気流下で、m−TB(14.4g、0.07mol)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc170g中に加え加温し、50℃で溶解させた。次いで、PMDA(13.6g 0.06mol)とBPDA(2g、0.007mol)をモル比90:10で加えた。ジアミンと酸無水物のモル比が実質的に1:1になるようにした。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡白色の粘稠なポリアミド酸ワニスDを得た。なお、このポリアミド酸ワニスDを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Dが得られる。
【0065】
合成例5
窒素気流下で、ジアミンとしてTPE−R(14.8g、0.05mol)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc170g中に加え加温し、50℃で溶解させた。次いで、酸無水物としてBPDA(15.2g,0.05mol)を加えた。ジアミンと酸無水物のモル比が実質的に1:1になるようにした。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡白色の粘稠なポリアミド酸ワニスEを得た。なお、このポリアミド酸ワニスEを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Eが得られる。
【0066】
合成例6
窒素気流下で、m−TB:TPE−Rがモル比で90:10になるように300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc170g中に加え加温し、50℃で溶解させた。次いで、PMDA:BPDAのモル比が80:20になるように加えた。ジアミンと酸無水物のモル比は実質的に1:1になるようにした。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡白色の粘稠なポリアミド酸Fワニスを得た。なお、このポリアミド酸Fワニスを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Fが得られる。
【0067】
合成例7
窒素気流下で、TFMB(16.93g)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc(170g)中に加え溶解させた。次いで、PMDA(10.12g)と6FDA(2.95g)を加えた。その後、溶液を室温で6時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡黄色の粘稠なポリアミド酸Hワニスを得た。なお、このポリアミド酸Hワニスを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Hが得られる。
【0068】
合成例8
窒素気流下で、BAPP(19.45g)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc(170g)中に加え溶解させた。次いで、PMDA(9.85g)とBPDA(0.70g)を加えた。その後、溶液を室温で6時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡黄色の粘稠なポリアミド酸Iワニスを得た。なお、このポリアミド酸Iワニスを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Iが得られる。
【0069】
合成例9
窒素気流下で、4,4‘−DAPE(8.97g)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc(170g)中に加え溶解させた。次いで、PMDA(8.95g)とBPDA(12.08g)を加えた。その後、溶液を室温で6時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの褐色の粘稠なポリアミド酸Jワニスを得た。なお、このポリアミド酸Jワニスを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Jが得られる。
【0070】
合成例10
窒素気流下で、4,4‘−DAPE(8.14g)とPPD(4.40g)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc(170g)中に加え溶解させた。次いで、PMDA(17.45g)を加えた。その後、溶液を室温で6時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの褐色の粘稠なポリアミド酸Kワニスを得た。なお、このポリアミド酸Kワニスを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Kが得られる。
【0071】
3.塗工によるポリイミド(PI)層の形成
キャリア層として、2種類のポリイミドフィルムを使用した。
1)ポリイミドフィルム1:中国寧波今山製、厚み=0.75mm、CTE=45ppm/K、Ra=3nm(以下、キャリアフィルム1ともいう。)
2)ポリイミドフィルム2:中国Rayitek製、厚み=0.75mm、CTE=45ppm/K、Ra=10nm(以下、キャリアフィルム2ともいう。)
【0072】
実施例1
キャリアフィルム1(幅520mm×長さ500m×厚さ75μm)を、巻出し部、リップコーター、連続乾燥炉、連続炉及び巻き取り部を備えた、例えば
図3に示すRTR方式の塗工乾燥硬化設備で2m/minの速度で巻出しながら、ポリアミド酸ワニスBをモーノポンプを用いて膜厚が45μmになるように塗布した。これを複数の炉から構成される連続乾燥炉を通過させて90℃で2分間、130℃で1分間乾燥して、さらに複数の炉から構成され、試料入口側の炉から出口側の炉にかけて段階的に温度が高くなる連続炉に通過させて、130℃から段階的に400℃まで、合計25分間段階的に加熱し、キャリアフィルム上に、カール抑制層としてのポリイミド樹脂Bが形成されたロールを作成した。次に、このロールを同じ塗工乾燥装置の巻出し部にセットし、ポリイミド樹脂Bの上に、ポリイミド酸ワニスAを100μm塗布し、複数の炉から構成される連続乾燥炉を通過させて90℃で2分間、130℃で1分間で乾燥して、さらに、複数の炉から構成され、試料入口側の炉から出口側の炉にかけて段階的に温度が高くなる連続炉に通過させて、130℃から段階的に400℃まで、合計20分間段階的に加熱し、基材層としての厚さ10μmのポリイミド樹脂Aを形成し、ロール状のポリイミド樹脂積層体(積層体1)を得た。
積層体1の各層の厚さは、キャリア層が75μm、カール抑制層が4.5μm、基材層が10μmであった。積層体1の層構造を、
図1に模式的に示す。キャリアフィルム4の一面側に、カール抑制層3を介在して基材層2が積層した構造となっている(形態1)。なお、積層体の基材層2上に、以下の方法によって、機能層1を形成する。
【0073】
次に、上記ロール状のポリイミド樹脂積層体について、巻出し部、搬送ロール、プロセス処理部及び巻き取り部を備えた、RTR方式の装置を用いて、2m/minの速度で、基材層が上になるように長手方向に巻出しながら、搬送ロールを経由して真空チャンバー内に設置されたプロセス処理部に導入させて、基材層に、スパッタリング法により厚さ50nmの機能層としてのITOを連続処理により成膜し、機能層付ポリイミド基板フィルムとして巻き取った。
さらに、機能層付ポリイミド基板フィルム370×450mmのシート状にカットし、製膜したITOについて、一方向(X方向)及び他方向(Y方向)のXY方向に透明回路加工を行った。その際、Y回路のX回路との交点は回路を形成しなかった。
続いて、XY回路の交点にオーバーコートを塗布して250℃で熱処理してオーバーコート層を硬化させ、銀ペーストを用いて、オーバーコート層をまたいでブリッジ加工を行ってXY回路を完成させ、さらに、ITO成膜側の全面にオーバーコートを塗布し、270℃でアニール処理を行い、オーバーコートの硬化及びITOの結晶化を行った。
最後に、カバーガラスにITO製膜側の表面にOCA(透明粘着シート)を貼りつけ、その後キャリアフィルム及びカール抑制層を機械的に剥離し、基材層上に機能層が形成されたタッチパネル基板を完成させた。
【0074】
比較例1
カール抑制層を形成することなく、実施例1と同様にキャリアフィルム1に基材層としてのポリイミド樹脂A(厚さ10μm)を形成して、ポリイミド樹脂積層体(積層体C1)を得た。
この積層体C1は、反り(カール)が大きくタッチパネルの製造工程でITO製膜をシート状にカットしたときに反りのためマスクとの位置合わせができず、XY方向の透明回路加工できず、タッチパネルは作成できなかった。
【0075】
実施例2
キャリアフィルム1(幅520mm×長さ500m×厚さ75μm)を、巻出し部、リップコーター、連続乾燥炉、連続炉及び巻き取り部を備えた、例えば
図3に示すRTR方式の塗工乾燥硬化設備で2m/minの速度で巻出しながら、ポリアミド酸ワニスEをモーノポンプを用いて膜厚が100μmになるように塗布した。これを複数の炉から構成される連続乾燥炉を通過させて90℃で2分間、130℃で1分間乾燥して、キャリアフィルム上に、カール抑制層としてのポリイミド樹脂Eが形成されたロールを作成した。次に、このロールを同じ塗工乾燥装置の巻出し部にセットし、ポリイミド樹脂Eの反対側に、ポリアミド酸ワニスAを100μm塗布し、複数の炉から構成される連続乾燥炉を通過させて90℃で2分間、130℃で1分間で乾燥して、さらに、複数の炉から構成され、試料入口側の炉から出口側の炉にかけて段階的に温度が高くなる連続炉に通過させて、130℃から段階的に400℃まで、合計20分間段階的に加熱し、基材層としての厚さ10μのポリイミド樹脂Aを形成し、ロール状のポリイミド樹脂積層体(積層体2)を得た。
積層体2の各層の厚さは、キャリアフィルムが75μm、カール抑制層が13μm、基材層が10μmであった。積層体2の層構造は、
図1において、カール抑制層3とキャリアフィルム4とを逆に積層した構造であり、キャリアフィルム4の一面側にカール抑制層3、反対面側に基材層2が積層されている(形態2)。
【0076】
次に、積層体2について、実施例1と同様の方法で、基材層上に機能層が形成されたタッチパネル基板を完成させた。
【0077】
実施例3
基材層として、ポリアミド酸ワニスAに替えてポリアミド酸ワニスCを、カール抑制層として、ポリアミド酸ワニスEに替えてポリアミド酸ワニスDを使用した以外は、実施例2と同様の方法で、ポリイミド樹脂積層体(積層体3)を得た。
積層体3の各層の厚さは、キャリア層が75μm、基材層が12μm、カール抑制層が13μmであった。
この積層体2の上に、実施例1と同様の方法で、ITO及びXY回路を製膜し、タッチパネルを得た。
【0078】
実施例4
キャリアとしてポリイミドフィルム2を用い、カール抑制層として、ポリアミド酸ワニスCに替えてポリアミド酸ワニスFを使用した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリイミド樹脂積層体(積層体4)を得た。
積層体4の各層の厚さは、キャリア層が75μm、基材層が10μm、カール抑制層が4μmであった。
【0079】
実施例5
基材層として、ポリアミド酸ワニスAに替えてポリアミド酸ワニスHを、カール抑制層として、ポリアミド酸ワニスBに替えてポリアミド酸ワニスEを使用した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリイミド樹脂積層体(積層体5)を得た。
積層体5の各層の厚さは、キャリア層が75μm、基材層が10μm、カール抑制層が50μmであった。
【0080】
実施例6
基材層及びカール抑制層の厚さ以外は、実施例2と同様の方法で、ポリイミド樹脂積層体(積層体6)を得た。
積層体6の各層の厚さは、キャリア層が75μm、基材層が10μm、カール抑制層が13μmであった。
【0081】
実施例7
基材層として、ポリアミド酸ワニスAに替えてポリアミド酸ワニスHを使用し、カール抑制層としてポリアミド酸ワニスEに替えてBを使用した以外は、実施例2と同様の方法で、ポリイミド樹脂積層体(積層体7)を得た。
積層体7の各層の厚さは、キャリア層が75μm、基材層が10μm、カール抑制層が15μmであった。
【0082】
比較例2
カール抑制層として、ポリアミド酸ワニスBに替えてポリアミド酸ワニスIを使用した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリイミド樹脂積層体(積層体C2)を得た。
積層体C2の各層の厚さは、キャリア層が75μm、基材層が10μm、カール抑制層が4μmであった。
【0083】
比較例3
カール抑制層として、ポリアミド酸ワニスEに替えてポリアミド酸ワニスJを使用した以外は、実施例2と同様の方法で、ポリイミド樹脂積層体(積層体C3)を得た。
積層体C3の各層の厚さは、キャリア層が75μm、基材層が10μm、カール抑制層が15μmであった。
【0084】
比較例4
カール抑制層として、ポリアミド酸ワニスBに替えてポリアミド酸ワニスIを使用した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリイミド樹脂積層体(積層体C4)を得た。
積層体C4の各層の厚さは、キャリア層が75μm、基材層が10μm、カール抑制層が13μmであった。
【0085】
比較例5
実施例4のポリアミック酸Aの代わりにポリアミック酸Hを用いポリアミック酸Eの代わりにポリアミック酸Kを用いた以外は実施例1と同様に行った。
基材層として、ポリアミド酸ワニスAに替えてポリアミド酸ワニスHを、カール抑制層として、ポリアミド酸ワニスBに替えてポリアミド酸ワニスKを使用した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリイミド樹脂積層体(積層体C5)を得た。
積層体C5の各層の厚さは、キャリア層が75μm、基材層が10μm、カール抑制層が13μmであった。
【0086】
これらの実施例及び比較例で得られたポリイミド樹脂積層体の物性を、表1に示す。
【0087】
【表1】