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特開2017-186293L−アスコルビン酸製剤及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-186293(P2017-186293A)
(43)【公開日】2017年10月12日
(54)【発明の名称】L−アスコルビン酸製剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/375 20060101AFI20170919BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20170919BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20170919BHJP
   A23L 3/3544 20060101ALI20170919BHJP
   A21D 2/22 20060101ALN20170919BHJP
   A21D 13/00 20170101ALN20170919BHJP
【FI】
   A61K31/375
   A61K9/16
   A61K47/12
   A23L3/3544 501
   A21D2/22
   A21D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-78283(P2016-78283)
(22)【出願日】2016年4月8日
(71)【出願人】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(72)【発明者】
【氏名】荒井 努
(72)【発明者】
【氏名】乾 真也
【テーマコード(参考)】
4B021
4B032
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4B021LP01
4B021LW03
4B021LW09
4B021LW10
4B021MC03
4B021MK20
4B021MK26
4B021MP01
4B032DB02
4B032DK07
4B032DK08
4B032DL06
4C076AA42
4C076AA94
4C076CC24
4C076DD41
4C076FF22
4C076FF31
4C076GG12
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA03
4C086MA02
4C086MA05
4C086NA12
4C086ZC28
(57)【要約】
【課題】食品等の水の存在下や加熱条件下において徐放性の性能を示す新規なL−アスコルビン酸製剤及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種によりL−アスコルビン酸又はその塩が被覆されているL−アスコルビン酸製剤、及び粉末状又は顆粒状の融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、粉末状又は顆粒状のL−アスコルビン酸又はその塩とを、前記長鎖脂肪酸の金属塩の融点未満の温度で接触させ、前記L−アスコルビン酸又はその塩を前記長鎖脂肪酸の金属塩で被覆する工程を含むL−アスコルビン酸製剤の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種によりL−アスコルビン酸又はその塩が被覆されていることを特徴とするL−アスコルビン酸製剤。
【請求項2】
前記長鎖脂肪酸の金属塩が、ラウリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、及びステアリン酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上である請求項1に記載のL−アスコルビン酸製剤。
【請求項3】
前記L−アスコルビン酸又はその塩が顆粒状である請求項1又は2に記載のL−アスコルビン酸製剤。
【請求項4】
粉末状又は顆粒状の融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、粉末状又は顆粒状のL−アスコルビン酸又はその塩とを、前記長鎖脂肪酸の金属塩の融点未満の温度で接触させ、前記L−アスコルビン酸又はその塩を前記長鎖脂肪酸の金属塩で被覆する工程を含むことを特徴とするL−アスコルビン酸製剤の製造方法。
【請求項5】
撹拌しながら、前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、前記L−アスコルビン酸又はその塩とを20℃以上100℃未満の温度で接触させる請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、前記L−アスコルビン酸又はその塩との質量比が、1:100〜1:1の範囲である請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記長鎖脂肪酸の金属塩が、ラウリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、及びステアリン酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上である請求項4〜6のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なL−アスコルビン酸製剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L−アスコルビン酸又はその塩(以下、「アスコルビン酸類」と称することがある)は、ビタミンCとして栄養学的に非常に重要な物質であることが知られており、ビタミンC製剤及びこれを配合したサプリメントが多数市販されている。また、アスコルビン酸類は、食品において酸味剤としても使用されている。
一方、アルコルビン酸類は、その安全性や優れた還元性、入手の容易性等の理由から、酸化防止剤として、あるいはパン類の品質改良剤などとしても用いられている。
【0003】
アスコルビン酸類は非常に有用であるものの、水に易溶性であり、水の存在下では容易に酸化されてしまうという問題を有する。
【0004】
前記問題に対し、これまでに、例えば、微粉状のL−アスコルビン酸又はその塩と、微粉状のワックス類、油脂類などの疎水性物質とを所定の回転速度条件で衝突させて乾式混合し、アスコルビン酸を化学的に安定化させ且つ水中溶出速度のコントロールされた微粉状L−アスコルビン酸被覆物を効果的に製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、パン類の品質改良剤に用いるアスコルビン酸類として、例えば、アスコルビン酸類を油中水中油型(O/W/O)乳化油脂組成物の最内相油脂であるOに加えた乳化油脂組成物(例えば、特許文献2参照)、融点を52℃程度とした油脂で被覆されたアスコルビン酸や、融点を64℃程度としたモノグリセライド脂肪酸エステル及び油脂で被覆されたアスコルビン酸(例えば、特許文献3参照)なども提案されている。
【0006】
更に、L−アスコルビン酸被覆物に関する技術としては、例えば、アスコルビン酸を芯物質とし、壁物質がドデカン酸、テトラデカン酸などの高級脂肪酸で構成される機能性複合微粒子(例えば、特許文献4参照)なども提案されている。
【0007】
しかしながら、食品等において、水の存在下でも容易には酸化されず、例えば調理・製造工程のうち加熱工程において、特に加熱工程の後半に作用する徐放性の性能を示すL−アスコルビン酸製剤として十分満足できるものは未だ提供されておらず、新たなL−アスコルビン酸製剤の開発が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−258813号公報
【特許文献2】特開昭58−165732号公報
【特許文献3】特開平8−116857号公報
【特許文献4】特開2015−48334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような要望に応え、現状を打破し、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、食品等の水の存在下や加熱条件下において徐放性の性能を示す新規なL−アスコルビン酸製剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種によりL−アスコルビン酸又はその塩が被覆されることにより、食品等の水の存在下及び加熱条件下において徐放性の性能を示すことを知見した。
【0011】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種によりL−アスコルビン酸又はその塩が被覆されていることを特徴とするL−アスコルビン酸製剤である。
<2> 前記長鎖脂肪酸の金属塩が、ラウリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、及びステアリン酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上である前記<1>に記載のL−アスコルビン酸製剤である。
<3> 前記L−アスコルビン酸又はその塩が顆粒状である前記<1>又は<2>に記載のL−アスコルビン酸製剤である。
<4> 粉末状又は顆粒状の融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、粉末状又は顆粒状のL−アスコルビン酸又はその塩とを、前記長鎖脂肪酸の金属塩の融点未満の温度で接触させ、前記L−アスコルビン酸又はその塩を前記長鎖脂肪酸の金属塩で被覆する工程を含むことを特徴とするL−アスコルビン酸製剤の製造方法である。
<5> 撹拌しながら、前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、前記L−アスコルビン酸又はその塩とを20℃以上100℃未満の温度で接触させる前記<4>に記載の製造方法である。
<6> 前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、前記L−アスコルビン酸又はその塩との質量比が、1:100〜1:1の範囲である前記<4>又は<5>に記載の製造方法である。
<7> 前記長鎖脂肪酸の金属塩が、ラウリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、及びステアリン酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上である前記<4>〜<6>のいずれかに記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、食品等の水の存在下や加熱条件下において徐放性の性能を示す新規なL−アスコルビン酸製剤及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(L−アスコルビン酸製剤)
本発明のL−アスコルビン酸製剤は、融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩(以下、「長鎖脂肪酸の金属塩」と称することがある)の少なくとも1種によりL−アスコルビン酸又はその塩が被覆されている。
【0014】
<L−アスコルビン酸又はその塩>
前記L−アスコルビン酸類としては、食品用酸化防止剤やベーカリー製品などの食品に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、適宜選択することができる。
前記L−アスコルビン酸塩としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。
前記L−アスコルビン酸類は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記L−アスコルビン酸類は、市販品を使用することができる。また、前記L−アスコルビン酸類として、これらを高含有する素材(例えばアセロラやレモンの果汁を濃縮・固形化したもの)を使用することができる。
【0015】
前記L−アスコルビン酸類の形態としては、固形であれば特に制限はなく、適宜選択することができるが、長鎖脂肪酸の金属塩による被覆性や食品等の水の存在下や加熱条件下においてより優れた徐放性の性能を示す点で、微粉状乃至顆粒状であることが好ましく、主として顆粒状であるのがより好ましい。具体的には、平均粒径が約30〜800μmの範囲であることが好ましく、平均粒径が約100〜500μmの範囲であることがより好ましい。
本発明において、平均粒径とは、マイクロトラック粒径分布計を用いるマイクロトラック法により乾式で測定して得られた平均粒径をいう。マイクロトラック法は粒度の頻度からその分布を測定するが、粒径の頻度とは、粒径分布を解析し、計算した「検出頻度割合」である。
【0016】
<被覆>
前記L−アスコルビン酸類は、融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種により被覆されている。
【0017】
−融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩−
前記長鎖脂肪酸の金属塩としては、融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩であれば、特に制限はなく、適宜選択することができるが、食品等の水の存在下や加熱条件下において、より優れた徐放性の性能を示す点で、融点が120℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩が好ましく、具体的にはラウリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、及びステアリン酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上がさらに好ましく、ステアリン酸カルシウムが特に好ましい。
前記長鎖脂肪酸の金属塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記長鎖脂肪酸の金属塩は、市販品を使用することができる。
【0018】
−長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、L−アスコルビン酸類との質量比−
前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、前記L−アスコルビン酸類との質量比としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、通常1:100〜1:1であり、1:100〜1:2が好ましく、1:20〜1:2がより好ましい。前記質量比が、好ましい範囲内であると、食品等の水の存在下において、また加熱条件下において、より優れた徐放性の性能を示す点で、有利である。
【0019】
前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種による被覆は、前記L−アスコルビン酸類の表面の少なくとも一部が被覆されていればよく、全体が被覆されていてもよい。また、前記被覆には、前記L−アスコルビン酸類の表面に前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種が付着している態様も含まれる。
【0020】
前記L−アスコルビン酸製剤は、融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種により被覆されているL−アスコルビン酸類単独で使用してもよいし、その他の成分と併用してもよい。また、前記L−アスコルビン酸製剤は、前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種により被覆されているL−アスコルビン酸類からなるものであってもよいし、その他の成分を含んでいてもよい。
【0021】
−その他の成分−
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、澱粉、穀粉、セルロース等の賦形剤、その他の食品用酸化防止剤(例えばビタミンE、二酸化硫黄、コーヒー豆抽出物、クロロゲン酸、緑茶抽出物カテキン類、ローズマリー抽出物等)、アミラーゼ類(例えばαアミラーゼ、βアミラーゼ、グルコアミラーゼ等)、セルラーゼ・ヘミセルラーゼ、プロテアーゼ、グルコースオキシダーゼ、カタラーゼ、トランスグルタミナーゼ等の各種酵素類、乳化剤、セルロース類(カルボキシメチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース)、増粘多糖類(グアガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、グルコマンナン、アルギン酸塩、アルギン酸エステル、ペクチン又はこれらの部分分解物)などが挙げられる。また、未被覆のL−アスコルビン酸類を含んでいてもよい。
前記その他の成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記その他の成分は、市販品を使用することができる。
前記その他の成分の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0022】
前記L−アスコルビン酸製剤の製造方法としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、後述する本発明のL−アスコルビン酸製剤の製造方法により好適に製造することができる。
【0023】
本発明のL−アスコルビン酸製剤は、食品等の水の存在下や加熱条件下において徐放性の性能を示すL−アスコルビン酸製剤である。
【0024】
本発明のL−アスコルビン酸製剤の用途としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、様々な食品等の製造において使用することができる。
【0025】
前記食品等としては、特に制限はなく、そのまま摂食される食品であってもよいし、食品の製造に使用される食品素材であってもよく、酸化還元剤が使用され得るものの中から適宜選択することができ、例えば、パン類や菓子類等のベーカリー食品、惣菜、かまぼこ等の練製品などが挙げられる。また、食品以外では、化粧用クリーム、皮膚外用剤などが挙げられる。
【0026】
前記L−アスコルビン酸製剤の使用量としては、特に制限はなく、食品等に応じて適宜選択することができる。
【0027】
(L−アスコルビン酸製剤の製造方法)
本発明のL−アスコルビン酸製剤の製造方法は、被覆工程を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0028】
<被覆工程>
前記被覆工程は、粉末状又は顆粒状の融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、粉末状又は顆粒状のL−アスコルビン酸類とを、前記長鎖脂肪酸の金属塩の融点未満の温度で接触させ、前記L−アスコルビン酸類を前記長鎖脂肪酸の金属塩で被覆する工程である。
【0029】
−融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩−
前記融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩は、上記した本発明のL−アスコルビン酸製剤の融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩の項目に記載したものと同様である。
前記長鎖脂肪酸の金属塩の形状は、粉末状又は顆粒状である。
前記粉末状又は顆粒状の長鎖脂肪酸の金属塩の大きさとしては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0030】
−L−アスコルビン酸又はその塩−
前記L−アスコルビン酸類は、上記した本発明のL−アスコルビン酸製剤のL−アスコルビン酸類の項目に記載したものと同様である。
前記L−アスコルビン酸類の形状は、粉末状又は顆粒状である。
前記L−アスコルビン酸類の形態としては、固形であれば特に制限はなく、適宜選択することができるが、長鎖脂肪酸の金属塩による被覆性や食品等の水の存在下や加熱条件下において、より優れた徐放性の性能を示す点で、微粉状乃至顆粒状であることが好ましく、主として顆粒状であるのがより好ましい。具体的には、平均粒径が約30〜800μmの範囲であることが好ましく、平均粒径が約100〜500μmの範囲であることがより好ましい。
【0031】
−温度−
前記粉末状又は顆粒状の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、粉末状又は顆粒状のL−アスコルビン酸類とを接触させる温度(品温)としては、前記長鎖脂肪酸の金属塩の融点未満の温度であれば、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば20℃以上100℃未満の温度が挙げられるが、40〜90℃が好ましく、50〜80℃がより好ましい。
【0032】
−接触−
前記粉末状又は顆粒状の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、前記粉末状又は顆粒状のL−アスコルビン酸又はその塩とを接触させる方法としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、両者を撹拌し、接触させる方法などが挙げられる。
【0033】
前記被覆工程では、撹拌しながら、前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、前記L−アスコルビン酸類とを20℃以上100℃未満の温度で接触させるが、40〜90℃が好ましく、50〜80℃がより好ましい。
【0034】
−被覆−
前記被覆工程により、前記L−アスコルビン酸類は、前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種により被覆される。
なお、前記被覆は、本発明のL−アスコルビン酸製剤の項目に記載したように、前記L−アスコルビン酸類の表面の少なくとも一部が被覆されていればよく、全体が被覆されていてもよい。また、前記被覆には、前記L−アスコルビン酸類の表面に前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種が付着している態様も含まれる。
【0035】
前記被覆工程に用いる装置としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、撹拌ミキサー、ニーダー、流動層装置などが挙げられる。
前記装置の条件としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0036】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、その他の成分の添加・配合工程などが挙げられる。
【0037】
前記その他の成分の添加・配合工程は、本発明のL−アスコルビン酸製剤のその他の成分の項目で記載した成分を前記L−アスコルビン酸製剤に添加・配合する工程である。
前記その他の成分の添加・配合工程は、前記被覆工程の前であってもよいし、後であってもよいが、前記L−アスコルビン酸製剤の製造や、目的や用途に応じたL−アスコルビン酸製剤の設計の容易性のため、前記被覆工程の後に行うことが好ましい。
【0038】
本発明のL−アスコルビン酸製剤の製造方法によれば、本発明のL−アスコルビン酸製剤を効率良く製造することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例、比較例、及び試験例を示して本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例等に何ら限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
コーティング装置として温度調節機能付ユニバーサルミキサーを用い、これに、ステアリン酸カルシウム(融点:147℃〜149℃)と、L−アスコルビン酸粉末(平均粒径:約40μm)とを質量比が1:10となるように混合したものを投入し、アジテーター回転数 120rpm、チョッパー回転数 1,800rpmの条件下にて、品温が68℃に達するまで混合し、ステアリン酸カルシウムで被覆されたL−アスコルビン酸を得た。
【0041】
(実施例2)
実施例1において、L−アスコルビン酸粉末(平均粒径:約40μm)に代えて、L−アスコルビン酸顆粒(平均粒径:約300μm)を用いた点以外は、実施例1と同様にして、ステアリン酸カルシウムで被覆されたL−アスコルビン酸を得た。
【0042】
(実施例3)
実施例1において、L−アスコルビン酸粉末に代えて、L−アスコルビン酸ナトリウム顆粒(平均粒径:約350μm)を用いた点以外は、実施例1と同様にして、ステアリン酸カルシウムで被覆されたL−アスコルビン酸ナトリウムを得た。
【0043】
(比較例1)
実施例1において用いた未被覆のL−アスコルビン酸粉末を比較例1とした。
【0044】
(比較例2)
実施例3において用いた未被覆のL−アスコルビン酸ナトリウム粉末を比較例2とした。
【0045】
(比較例3)
実施例2において、ステアリン酸カルシウムに代えて、親油性ショ糖脂肪酸エステル(融点:60℃)を用いた点以外は、実施例2と同様にして、親油性ショ糖脂肪酸エステルで被覆されたL−アスコルビン酸を得た。
【0046】
(比較例4)
実施例2において、ステアリン酸カルシウムに代えて、親水性ショ糖脂肪酸エステル(融点:60℃)を用いた点以外は、実施例2と同様にして、親水性ショ糖脂肪酸エステルで被覆されたL−アスコルビン酸を得た。
【0047】
(比較例5)
実施例2において、ステアリン酸カルシウムに代えて、パーム硬化油(融点:60℃)を用い、L−アスコルビン酸とパーム硬化油との質量比が2:8となるように混合した点以外は、実施例2と同様にして、パーム硬化油で被覆されたL−アスコルビン酸を得た。
【0048】
(試験例1:食パンの製造)
実施例1〜3及び比較例1〜5で製造したL−アスコルビン酸類をパン類の品質改良剤として用い、中種法によりプルマン型食パンを製造した。配合及び工程は、以下のとおりである。
<配合>
中種 本捏
・ 小麦粉(強力粉) 70.0質量部 30.0質量部
・ 生イースト 3.0質量部 −
・ 品質改良剤 表1参照 −
・ 砂糖 − 5.0質量部
・ 食塩 − 2.0質量部
・ 脱脂粉乳 − 2.0質量部
・ 油脂(ショートニング) − 5.0質量部
・ 水 40.0質量部 28.0質量部
【0049】
<工程>
中種 本捏
・ ミキシング L2分M2分 L1分M3分↓M3分H2分
・ 捏上温度 24℃ 28℃
・ 発酵温度 28℃ 28℃
・ 発酵(フロア)時間 4時間 15分
・ 分割重量 − 220g×6
・ ベンチ時間 − 17分
・ 成型 − ロール成型
・ ホイロ条件 − 35℃、相対湿度85%
・ ホイロ時間 − 50分
・ 焼成条件 − 210℃、40分
なお、上記工程において、Lは低速、Mは中速、Hは高速を表し、↓は油脂の添加を表す。
【0050】
前記食パンの製造に用いたL−アスコルビン酸製剤とその小麦粉に対する添加量を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
<評価>
前記食パンの製造工程及び得られた食パンについて、以下の評価基準により、5名により評価した。その平均点を表2に示す。
【0053】
−製パン性−
[評価基準]
3点:生地の伸展性が良好である。
2点:生地にややしまりがあり、伸展性がやや劣る。
1点:生地にしまりがあり、伸展性が劣る。
【0054】
−パンの内相−
[評価基準]
3点 : タテ目で全体的に伸びがあり、目が細かい。
2点 : タテ目だがやや目が粗い。
1点 : タテ目ではなく、目が粗い。
【0055】
−食感−
[評価基準]
3点 : ソフトでしっとりとした食感である。
2点 : やや弾きがあるか、やや硬い食感である。
1点 : 弾きがあり硬い食感である。
【0056】
【表2】
【0057】
表2の結果から、融点が100℃以上の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種により被覆されているL−アスコルビン酸製剤を用いて食パンを製造した場合(試験例1−6〜8)には、パン生地は伸展性が良好か、やや良好であり、内相はタテ目で伸びがあり、目が細かく、食感もソフトでしっとりしていた。これに対して、未被覆のL−アスコルビン酸類や、融点が低い油脂や乳化剤で被覆したL−アスコルビン酸類を含む品質改良剤の場合(試験例1−1〜5)では、パン生地はしまりがあるか、ややしまりがあり、内相は目が粗いか、やや粗く、食感も弾きがあり硬いか、やや弾きがありやや硬いものであった。
したがって、本発明のL−アスコルビン酸製剤は、食品等の水の存在下及び加熱条件下において徐放性の性能を示すことが確認された。
【0058】
(実施例4)
実施例2において、ステアリン酸カルシウムと、L−アスコルビン酸顆粒との質量比が1:4となるように混合した点以外は、実施例2と同様にして、ステアリン酸カルシウムで被覆されたL−アスコルビン酸を得た。
【0059】
(実施例5)
実施例2において、ステアリン酸カルシウムと、L−アスコルビン酸顆粒との質量比が1:20となるように混合した点以外は、実施例2と同様にして、ステアリン酸カルシウムで被覆されたL−アスコルビン酸を得た。
【0060】
(試験例2:食パンの製造)
実施例4(試験例2−1)又は実施例5(試験例2−2)のステアリン酸カルシウムで被覆されたL−アスコルビン酸を小麦粉に対して50ppmで添加した点以外は、試験例1と同様にして、中種法によりプルマン型食パンを製造した。
次いで、試験例1と同じ評価基準により、製パン性、パンの内相、及び食感を評価した。その結果を下記の表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
表3の結果から、ステアリン酸カルシウムで被覆したL−アスコルビン酸製剤において、ステアリン酸カルシウムとL−アスコルビン酸との質量比が1:4(試験例2−1)、1:20(試験例2−2)のいずれの場合でも、製パン性が良好であり、パンの内相、食感ともに優れていた。