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特開2017-201981細胞内α−メチルグルコシド(AMG)の定量方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-201981(P2017-201981A)
(43)【公開日】2017年11月16日
(54)【発明の名称】細胞内α−メチルグルコシド(AMG)の定量方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20171020BHJP
【FI】
   C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-93141(P2017-93141)
(22)【出願日】2017年5月9日
(31)【優先権主張番号】特願2016-94724(P2016-94724)
(32)【優先日】2016年5月10日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)刊行物名:合同開催 第39回 生理学技術研究会 第28回 生物学技術研究会 予稿集、発行者:大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生理学研究所 技術課 技術研究会委員会、及び基礎生物学研究所 技術課 技術研究会実行委員会、発行日:平成29年2月6日 (2)発明を掲載したウェブサイトのアドレス:http://www.nips.ac.jp/giken/2017/doc/yoko2017.pdf http://techdiv.nibb.ac.jp/giken/assets/files/giken_yokou_20170206.pdf、掲載日:平成29年2月6日 (3)発明を掲載したウェブサイトのアドレス:http://techdiv.nibb.ac.jp/giken/program/243.html、掲載日:平成29年2月7日 (4)発明を掲載したウェブサイトのアドレス:http://www.nips.ac.jp/giken/2017/doc/yoko2017.pdf http://techdiv.nibb.ac.jp/giken/assets/files/giken_yokou_20170206.pdf、掲載日:平成29年2月10日 (5)研究集会名:合同開催 第39回 生理学技術研究会 第28回 生物学技術研究会、主催者:大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生理学研究所 技術課 基礎生物学研究所 技術課、公開場所:自然科学研究機構 岡崎コンファレンスセンター(愛知県岡崎市明大寺町字西郷中38番地)、公開日:平成29年2月17日
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】箕越 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 久美子
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ67
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS28
(57)【要約】
【課題】新規な細胞内α−メチルグルコシド(AMG)の定量方法を提供すること。
【解決手段】α−メチルグルコシド(AMG)が添加された培養細胞、又はAMGが投与された非ヒト動物から採取した組織にα−グルコシダーゼを添加して、前記処理された前記培養細胞又は組織中の細胞内のAMGをグルコースに変換する変換工程、及び前記変換工程の後に、前記細胞内のグルコースを定量する定量工程、を少なくとも行う、前記培養細胞又は組織中の細胞内α−メチルグルコシド(AMG)の定量方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−メチルグルコシド(AMG)が添加された培養細胞、又はAMGが投与された非ヒト動物から採取した組織にα−グルコシダーゼを添加して、前記処理された前記培養細胞又は組織中の細胞内のAMGをグルコースに変換する変換工程、及び
前記変換工程の後に、前記細胞内のグルコースを定量する定量工程、
を少なくとも行う、前記培養細胞又は組織中の細胞内α−メチルグルコシド(AMG)の定量方法。
【請求項2】
前記変換工程の前に、α−メチルグルコシド(AMG)が添加された培養細胞、又はAMGが投与された非ヒト動物から採取した組織をアルカリで熱処理するアルカリ熱処理工程、
を更に行う、請求項1に記載の細胞内α−メチルグルコシド(AMG)の定量方法。
【請求項3】
前記変換工程の前に、α−メチルグルコシド(AMG)が添加された培養細胞、又はAMGが投与された非ヒト動物から採取した組織を洗浄する洗浄工程、
を更に行う、請求項1又は2に記載の細胞内α−メチルグルコシド(AMG)の定量方法。
【請求項4】
前記定量工程において、
ヘキソキナーゼ、ATP、及びMgCl2を添加する工程、
G6DPH及びNADPを添加し、更にアルカリで処理する工程、
グルコース−6−リン酸(G-6-P)、グルタチオン還元酵素(GR)、G6PDH、グルタチオン(GSSG)、及び5,5−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)を加える工程、及び
DTNBの反応量を測定する工程、
を更に行う、請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞内α−メチルグルコシド(AMG)の定量方法。
【請求項5】
ナトリウム・グルコース共役輸送体型トランスポーター(SGLT)の活性測定に用いられる、請求項1から4のいずれか一項に記載の細胞内α−メチルグルコシド(AMG)の定量方法。
【請求項6】
α−メチルグルコシド(AMG)が添加された培養細胞、又はAMGが投与された非ヒト動物から採取した組織にα−グルコシダーゼを添加して、前記処理された前記培養細胞又は組織中の細胞内のAMGをグルコースに変換する変換工程、及び
前記変換工程の後に、前記細胞内のグルコースを定量する定量工程、
を少なくとも行う、ナトリウム・グルコース共役輸送体型トランスポーター(SGLT)の活性測定方法。
【請求項7】
α−グルコシダーゼ、
を少なくとも含む、細胞内α−メチルグルコシド(AMG)の定量用キット。
【請求項8】
ヘキソキナーゼ、ATP、及びMgCl2
G6DPH及びNADP、
グルコース−6−リン酸(G-6-P)、グルタチオン還元酵素(GR)、G6PDH、及びグルタチオン(GSSG)、及び
5,5−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)、
を更に含む、請求項7に記載の細胞内α−メチルグルコシド(AMG)の定量用キット。
【請求項9】
ナトリウム・グルコース共役輸送体型トランスポーター(SGLT)の活性測定に用いられる、請求項7又は8に記載の細胞内α−メチルグルコシド(AMG)の定量用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内α−メチルグルコシド(AMG)の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Sodium-dependent glucose cotransporter(以下、「SGLT」という)は、「ナトリウム・グルコース共役輸送体」と呼ばれるタンパク質の一種である。SGLTは、体内でグルコース(Glucose:ブドウ糖)を細胞内に取り込む役割を担っており、主に消化管と腎臓に発現している。SGLTは、食物からのグルコースの取り込み(主として、SGLT1が担う)、腎臓からのグルコースの再吸収(主として、SGLT2が担う)に関与する。
【0003】
近年、SGLT2の阻害剤が各種開発され(例えば、特許文献1及び2等)、2型糖尿病の治療薬として販売されている。更に、近年では、SGLT1の阻害剤等の開発も進められている。このような治療薬の開発において、従来、SGLTの活性測定には、代謝不可能なグルコースアナログであるα−メチルグルコシド(α−methyl glucoside:以下、「AMG」ともいう)が指標の一つとして用いられてきた。
【0004】
より具体的には、細胞内に取り込まれたAMGを定量することにより、SGLTの活性の指標とする方法が採用されており、例えば、非特許文献1には、放射性化合物(Radioisotope:以下、「RI」ともいう)である14Cで標識したAMGを定量し、SGLTの活性を測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/025943号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2008/049923号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bormans et al. (2003) The Journal of Nuclear Medicine 44(7):1075-1081
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、RIで標識する方法は、特別な施設や設備が必要であるため、多くの制約があり、また、その測定には、非常に高価な機器が必要となる。このため、RIでの標識を要しない技術の提供が求められているのが実情である。
【0008】
そこで、斯かる実情に鑑み、本発明では、新規な細胞内α−メチルグルコシド(AMG)の定量方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明では、まず、α−メチルグルコシド(AMG)が添加された培養細胞、又はAMGが投与された非ヒト動物から採取した組織にα−グルコシダーゼを添加して、前記処理された前記培養細胞又は組織中の細胞内のAMGをグルコースに変換する変換工程、及び
前記変換工程の後に、前記細胞内のグルコースを定量する定量工程、
を少なくとも行う、前記培養細胞又は組織中の細胞内α−メチルグルコシド(AMG)の定量方法を提供する。
本発明に係る定量方法では、前記変換工程の前に、α−メチルグルコシド(AMG)が添加された培養細胞、又はAMGが投与された非ヒト動物から採取した組織をアルカリで熱処理するアルカリ熱処理工程、
を更に行ってもよい。
また、本発明に係る定量方法では、前記変換工程の前に、α−メチルグルコシド(AMG)が添加された培養細胞、又はAMGが投与された非ヒト動物から採取した組織を洗浄する洗浄工程、
を更に行ってもよい。
更に、本発明に係る定量方法では、前記定量工程において、
ヘキソキナーゼ、ATP、及びMgCl2を添加する工程、
G6DPH及びNADPを添加し、更にアルカリで処理する工程、
グルコース−6−リン酸(G-6-P)、グルタチオン還元酵素(GR)、G6PDH、グルタチオン(GSSG)、及び5,5−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)を加える工程、及び
DTNBの反応量を測定する工程、
を更に行ってもよい。
加えて、本発明に係る定量方法は、ナトリウム・グルコース共役輸送体型トランスポーター(SGLT)の活性測定に用いられてもよい。
【0010】
また、本発明では、α−メチルグルコシド(AMG)が添加された培養細胞、又はAMGが投与された非ヒト動物から採取した組織にα−グルコシダーゼを添加して、前記処理された前記培養細胞又は組織中の細胞内のAMGをグルコースに変換する変換工程、及び
前記変換工程の後に、前記細胞内のグルコースを定量する定量工程、
を少なくとも行う、ナトリウム・グルコース共役輸送体型トランスポーター(SGLT)の活性測定方法も提供する。
【0011】
更に、本発明では、α−グルコシダーゼ、
を少なくとも含む、細胞内α−メチルグルコシド(AMG)の定量用キットも提供する。
本発明に係る定量用キットは、ヘキソキナーゼ、ATP、及びMgCl2
G6DPH及びNADP、
グルコース−6−リン酸(G-6-P)、グルタチオン還元酵素(GR)、G6PDH、及びグルタチオン(GSSG)、及び
5,5−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)、
を更に含んでいてもよい。
また、本発明に係る定量用キットは、ナトリウム・グルコース共役輸送体型トランスポーター(SGLT)の活性測定に用いられてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、放射性化合物(RI)による標識を要することなく、細胞内のAMGを定量することが可能である。なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る定量方法の一例を示すフロー図である。
図2】AMGの他に、グリコーゲン、二糖類、グルコース、及びグルコース−6−リン酸(G-6-P)が反応溶液中に存在し、且つアルカリ熱処理を行わなかった場合の、測定結果の一例を示す図面代用グラフである。
図3】Aは、本発明に係る定量方法を用いて測定したAMGの標準直線を示す図面代用グラフであり、Bは、グルコースの標準直線を示す図面代用グラフである。
図4】Aは、アルカリ熱処理を行った場合(with NaOH)とアルカリ熱処理を行わなかった場合(without NaOH)との検量線を比較した図面代用グラフであり、Bは、アルカリ熱処理を行った場合(with NaOH)とアルカリ熱処理を行わなかった場合(without NaOH)のそれぞれにおいて、AMG、グルコース、及びG-6-Pを定量した結果を示す図面代用グラフである。
図5】HEK細胞溶解液を添加し、アルカリ熱処理を行った場合(with NaOH)とアルカリ熱処理を行わなかった場合(without NaOH)のそれぞれにおいて、AMG、グルコース、及びG-6-Pを定量した結果を示す図面代用グラフである。
図6】実施例1で用いたAMGの検量線を示す図面代用グラフである。
図7】Aは、AMGを培養液に添加して30分後に細胞内に取り込まれたAMGを定量した結果を示す図面代用グラフであり、Bは、吸光度測定開始から20分経過後の様子を示す図面代用グラフである。また、Aは、吸光度測定開始から14分経過後のBの結果を用いて計算されたものである。
図8】Aは、SGLT1に関して、0〜20mMの範囲でAMGを添加し、AMGの取り込み量を測定した図面代用グラフであり、Bは、Aの結果に基づき作成したLineweaver-Burk plotである。また、Cは、SGLT2に関して、0〜20mMの範囲でAMGを添加し、AMGの取り込み量を測定した図面代用グラフであり、Dは、Cの結果に基づき作成したLineweaver-Burk plotである。
図9】Salineを投与したマウスとAMGを投与したマウスとで、小腸粘膜に取り込まれたAMGの量をそれぞれの部位(小腸上部又は小腸下部)に分けて示した図面代用グラフである。
図10】Aは、Salineを添加した群とSucroseを添加した群とで、小腸粘膜におけるAMGの取り込み量をそれぞれの場合(非熱処理群又は熱処理群)に分けて示した図面代用グラフであり、Bは、Salineを添加した群とAMGを添加した群とで、小腸粘膜におけるAMGの取り込み量をそれぞれの場合(非熱処理群又は熱処理群)に分けて示した図面代用グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が限定解釈されるものではない。
【0015】
<細胞内α−メチルグルコシド(AMG)の定量方法>
本発明に係る定量方法は、変換工程(I)、及び定量工程(II)、を少なくとも行うことを特徴とする。また、本発明に係る定量方法では、必要に応じて、アルカリ熱処理工程、洗浄工程等を更に行うこともできる。
【0016】
グルコースアナログは、グルコース輸送関連の研究に幅広く長く使用されている。中でも下記化学式1で示されるα−メチルグルコシド(AMG)は、SGLT1及び/又はSGLT2の活性を研究するために設計されたグルコースアナログである。
【0017】
【化1】
【0018】
前述の通り、AMGは代謝不可能なグルコースアナログであり、且つグルコースに類似のKm値をもつSGLT1及びSGLT2双方の基質である。このため、AMGは、SGLTによるグルコースの輸送関連の研究をするための、理想的な指標であると言える。
【0019】
なお、グルコースのKm値は、SGLT1及びSGLT2について、それぞれ、0.8mM及び1.6mMである。また、AMGのKm値は、SGLT1及びSGLT2について、それぞれ、0.4mM及び1.6mMである(例えば、Kanai et al. (1994) J Clin Invest 93:397-404参照)。
【0020】
細胞又は生体にAMGを添加(投与)すると、グルコースと同じナトリウム・グルコース共役輸送体型トランスポーター(SGLT)によってAMGが細胞内に取り込まれる。本発明に係る定量方法では、SGLTによって細胞内に取り込まれたAMGを、α−グルコシダーゼを用いて、グルコースに変換し、このグルコースの量を定量する。このグルコースの量は、細胞内に取り込まれたAMGの量に対応するため、結果的に細胞内に取り込まれたAMGの量も定量できることとなる。
【0021】
図1は、本発明に係る定量方法の一例を示すフロー図である。また、図1で示した各溶液の組成の詳細の一例を、下記表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
本発明に係る定量方法によれば、放射性化合物(RI)による標識を要することなく、細胞内のAMGを定量することが可能である。このため、本発明を用いることで、従来のRIを用いた方法と比較して、SGLTの活性をより簡略化された方法で測定することができ、測定精度の向上や、操作の煩雑化防止、活性測定時に要するコスト・時間の削減等を図ることができる。また、通常の設備の実験室において、大量のSGLT阻害剤等を効率良くスクリーニングできる。
【0024】
特に、本発明に係る定量方法では、吸光度測定ができる機器さえあれば、その他の高価な機器を必要としない。そのため、測定時に要するコストの大幅な削減を図ることができる。
【0025】
また、放射性化合物(RI)による汚染が無いため、使用したサンプルを他の実験にも用いることができ、使用した機器の洗浄も容易である。
【0026】
更に、本発明に係る定量方法は、ナトリウム・グルコース共役輸送体型トランスポーター(SGLT)の活性測定に有用である。
【0027】
加えて、本発明に係る定量方法は、糖の吸収を抑える薬物や天然化合物のスクリーニング、或いはそのメカニズム解明にも用いることができる。
【0028】
以下、本発明に係る定量方法における各工程について、詳細に説明する。
【0029】
1.変換工程(I)
変換工程(I)は、α−メチルグルコシド(AMG)が添加された培養細胞、又はAMGが投与された非ヒト動物から採取した組織にα−グルコシダーゼを添加して、前記処理された前記培養細胞又は組織中の細胞内のAMGをグルコースに変換する工程である。
【0030】
従来、α−グルコシダーゼを用いて、AMGをグルコースに変換する方法は知られていなかった。しかし、本願発明者らが、鋭意実験検討を行った結果、α−グルコシダーゼを用いることにより、後述する試験例1でも示すように、細胞内のAMGを効率良くグルコースに変換できることが初めて明らかとなった。
【0031】
本発明では、前記培養細胞とは特に限定されず、培養細胞として株化された細胞、生物組織から得られる株化されていない正常細胞、遺伝子工学的手法により得られた形質転換細胞等、いずれの形式のものであってもよい。
また、前記培養細胞の由来も特に限定されないが、哺乳動物由来(ヒトも含む)であることが好ましい。より具体的には、例えば、HEK細胞、BHK細胞、HepG2細胞、MG63細胞、遺伝子工学的手法によりSGLTを発現させた細胞等が挙げられる。
前記培養細胞へのAMGの投与量も特に限定されない。
【0032】
また、前記非ヒト動物とは特に限定されず、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル等であり、通常、マウスやラットが用いられる。これらの非ヒト動物へのAMGの投与形態も特に限定されず、通常、AMGを静脈或いは動脈に注入する方法、胃に直接投与する方法が用いられる。また、前記組織とは、例えば、胃、小腸、大腸等の消化管、腎臓等から採取された組織片等挙げられる。
【0033】
前記非ヒト動物へのAMGの投与量は特に限定されず、本発明に係る定量方法に十分な量であればよい。通常、マウスでは2〜10μmol、体重300gのラットで10〜50μmolである。
【0034】
本発明において、前記α−グルコシダーゼの添加量は特に限定されないが、通常、最終濃度(すなわち、反応時の濃度)は5〜20units/mlである。
【0035】
本発明において、変換工程(I)に要する時間は、例えば、1時間以上とすることができ、好ましくは5時間以上である。また、特に好ましくは、overnight(8時間以上)である。これにより、細胞内のAMGを十分にグルコースに変換できる。
【0036】
2.定量工程(II)
定量工程(II)は、変換工程(I)の後に、前記細胞内のグルコースを定量する工程である。
【0037】
前記細胞内のグルコースを定量する方法は特に限定されないが、例えば、従来公知の、下記化学式2で示した方法により定量する方法等が挙げられる。
【0038】
【化2】
【0039】
上記化学式2において、グルコースは、最初に、グルコースオキシダーゼによって酸化され、D-グルコン酸と過酸化水素(H2O2)となる。そして、この過酸化水素の量を、例えば、(a)特異性の高い蛍光プローブを用いて蛍光プレートリーダー等の測定機器により検出する、(b)ペルオキシダーゼとオルトジアニシジン等の呈色試薬を用いて呈色する、(c)過酸化水素電極により電流を検出するなどして測定することにより、細胞内のグルコースの量を定量する。
【0040】
なお、この方法は、例えば、市販のCell Biolabs社製のグルコースアッセイキット等を用いて行ってもよい。
【0041】
また、本発明では、前記細胞内のグルコースを定量する他の方法として、ヘキソキナーゼ、ATP、及びMgCl2を含む緩衝液を添加する工程(i)、
G6DPH及びNADPを含む緩衝液を添加し、更にアルカリで処理する工程(ii)、
グルコース−6−リン酸(G-6-P)、グルタチオン還元酵素(GR)、G6PDH、グルタチオン(GSSG)、及び5,5−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)を含む混合液を加える工程(iii)、及び
DTNBの反応量を測定する工程(iv)、
を採用してもよい。この方法を用いた場合の本発明に係る定量方法の一例について、下記化学式3に示す。
【0042】
【化3】
【0043】
工程(i)では、グルコースを、ヘキソキナーゼ(Hexokinase)により、グルコース代謝物(G-6-P)に変換する。
【0044】
工程(i)で用いられるヘキソキナーゼ(Hexokinase)の量は特に限定されないが、3〜10units/mlとすることが好ましい。
ATP及びMgCl2の濃度も特に限定されないが、0.1〜1mMとすることが好ましい。
反応時間も特に限定されないが、1時間以上であることが好ましい。
【0045】
また、工程(i)では、ヘキソキナーゼで処理後、ヘキソキナーゼによる酵素反応を止めることが好ましい。酵素反応を止める方法は特に限定されないが、通常、熱処理を行う。この熱処理の条件は、蛋白質を変性させる条件であればよく、通常、70℃、10分で行う。
【0046】
工程(ii)では、グルコース−6−リン酸(G-6-P:グルコース代謝物)を、G6DPH(Glucose-6-phosphate dehydrogenase)及びNADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)により、分解する。
【0047】
工程(ii)で用いられるG6PDHは、通常、NADPだけでなくNADにも反応し、活性が長時間安定であるLeuconostoc mesenteroides由来の酵素を用いるが、NADに反応し、活性が長時間安定である他のG6PDHを用いてもよい。
【0048】
工程(ii)において、NADPは、最終濃度(すなわち、反応時の濃度)が5〜20μM、好ましくは5〜10μMとなるように添加する。
G6PDHは、最終濃度が0.8units/ml以上となるように添加する。上限は、特に限定されないが、1unit/mlであれば十分である。
【0049】
工程(ii)では、アルカリを添加することで、残存するNADPを分解する。
例えば、pHを12以上として、70℃以上で1時間以上処理することが好ましい。
工程(ii)で用いられるアルカリは特に限定されず、例えば、NaOHとすることができる。工程(ii)におけるアルカリの濃度も特に限定されないが、最終濃度を0.05〜0.1Nとすることが好ましい。
【0050】
工程(ii)では、更に、pHが7.0〜8.5となるように中和する。酸としては、例えば、HClを用いることができ、好ましくは5〜15mMの緩衝液、例えば、Tris-HCl緩衝液を加えることが好ましい。
【0051】
この操作により、上記化学式3で示したように、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)が生成する。このNADPHの量は、G-6-Pの量及び出発物質であるグルコースの量に対応する。
【0052】
また、本発明では、NADPの代わりにNADを用いることも可能である。しかし、NADHの生成速度は遅いので、反応時間を長くする必要がある。また、少量のNADH量を測定するためには、後述する(c)の酵素サイクリング別法などを用いる必要がある。
【0053】
工程(ii)で生成するNADPHはそのまま測定してもよいが、通常、生成されるNADPHの量が少ないので、本発明では、これを増幅してから測定することが好ましい。
このNADPHの増幅方法としては、公知のいかなる方法を用いてもよいが、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0054】
(a)酵素サイクリング法(Anal Biochem 99: 297-303, 1979.):
グルコース−6−リン酸(G-6-P)、グルタチオン還元酵素(GR)、G6PDH、グルタチオン(GSSG)、及び5,5−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)を含む混合液を加える工程(iii)、及びDTNBの反応量を測定する工程(iv)を経る方法である(上記化学式3も参照)。
【0055】
より具体的には、例えば、NADPHを含む溶液を、グルコース−6−リン酸(G-6-P)(反応時の濃度5mM以上)、グルタチオン還元酵素(GR)(反応時の濃度0.1〜1units/ml)、G6PDH(反応時の濃度2〜10units/ml)、グルタチオン(GSSG)(反応時の濃度5〜20μM)、5,5−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)(反応時の濃度1〜5mM)を含む反応液により室温から37℃の温度で処理することにより、反応の増幅と発色を同時に行うことができる。この場合、5,5−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)のみ、使用直前に混合する。また、混合比率は特に限定されないが、反応時の濃度が1〜5mMとなるようにすることが好ましい。G6PDHは特に限定されないが、通常、活性が長時間安定に保たれ、陰イオンなどの阻害を受けにくいLeuconostoc mesenteroides由来の酵素が用いられる。
【0056】
この反応を上記化学式3で示したが、DTNBの反応量は生成する5−メルカプト−2−ニトロ安息香酸の420nmにおける吸光度により測定することができる。このDTNBの反応量(すなわち、この吸光度)を測定することにより、G-6-Pの量を知ることができ、結果として、グルコースの量、及びグルコースに変換される前の細胞内AMGの量を知ることができる。
【0057】
なお、本発明では、工程(iii)及び工程(iv)を経る方法の他に、下記の(b)〜(d)の方法を採用することもできる。
【0058】
(b)酵素サイクリング別法(Anal Biochem 128: 186-190, 1983.):
下記化学式4で示すように、NADPHを含む溶液にG6PDH、GDH(グルタミン酸脱水素酵素)、NH4+(アンモニウムイオン)、α-ケトグルタル酸(α-keto-glutarate)、G-6-Pを加え、下式の反応に基づいて、NADPHの量に応じて6-P-グルコナート(6-P-gluconate)が多量に生成する反応を利用する方法である。
【0059】
【化4】
【0060】
生成した6-P-グルコナート量は、6-P-グルコナート脱水素酵素によって再びNADPHに変換し、340nmの吸光度を測定して、その生成量を知ることができる。
【0061】
(c)酵素サイクリング別法(Anal Biochem 53: 86-97, 1973.):
上記化学式3の反応において、NADPの代わりにNADを用いて、生成される微量なNADHを測定する場合に用いる方法である。より具体的には、下記化学式5で示すように、NADHを含む溶液にADH(アルコール脱水素酵素)、エタノール、オキザロ酢酸(oxaloacetate)、MDH(リンゴ酸脱水素酵素)を加え、下式の反応に基づいて、NADの量に応じてリンゴ酸(malate)が多量に生成される反応を利用する方法である。
【0062】
【化5】
【0063】
生成したリンゴ酸は、MDHによってNADHに再び変換し、340nmの吸光度を測定して、その生成量を知ることができる。この方法では、NADHに再変換する反応を促進するため、GOT(グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ)、グルタミン酸を加えている。
【0064】
(d)酵素サイクリング別法(Nature 193: 454-456, 1962.):
下記化学式6で示すように、NADPHを含む溶液にG6PDH、ADH(アルコール脱水素酵素)、G-6-P、PMS(酸化型メチルフェナゼニウムメチル硫酸)、DCPIP(ジクロロフェノールインドフェノール)を加え、NADPHの量に応じてleuco DCPIPが多量に生成される反応を利用する方法である。
【0065】
【化6】
【0066】
DCPIPは600nmで吸光度をもつので、600nmの吸光度の低下からleuco DCPIPの産生量を知ることができる。また、PMSの代わりにエチルフェナジニウムエチル硫酸を用いる変法、DCPIPの代わりにチアゾリルブルーを用いる変法もある。
【0067】
これら(a)〜(d)の方法の中で、(b)の方法が、微量のNADPHの定量法として最も一般的な方法ではあるが、(b)及び(c)の方法は、酵素サイクリングによる増幅反応と発色反応を別々に行わねばならず、しかも、少量のNADPH、NADHを測定するためには長時間の反応を必要とする。また、(d)の方法は、増殖反応と発色反応を同時に行うことが出来るが、反応速度が時間によって変化するなど、安定していない。
【0068】
その一方で、(a)の方法は、酵素サイクリングとDTNBによる発色反応が同時にできるので、反応時間が大幅に短縮され、全ての反応を一枚の96wellプレートで行うことができ、反応も安定している。このため、本発明では、(a)の増幅方法を用いることが特に好ましい。
【0069】
3.アルカリ熱処理工程
アルカリ熱処理工程は、変換工程(I)の前に、α−メチルグルコシド(AMG)が添加された培養細胞、又はAMGが投与された非ヒト動物から採取した組織をアルカリで熱処理し、細胞内に存在する、グルコース及びグルコース−6−リン酸(G-6-P)を分解する工程である。これにより、細胞内に存在するグルコース及びG-6-Pを除去でき、例えば、前述した工程(i)〜(iii)を経て測定しようとした場合に、試薬がこれらの物質にも反応して正確なAMGの量が測定できなくなることを防ぐことができる。そのため、細胞内に存在するグルコース及びG-6-Pの影響を排除し、精度高く細胞内のAMGを定量することができる。
【0070】
また、本発明に係る定量方法においては、後述する試験例2でも示すように、このアルカリ熱処理工程を経ても、細胞内のAMGの測定には影響がないことが既に実証されている。
【0071】
アルカリ熱処理の方法は、例えば、前記培養細胞を用いる場合は、細胞を緩衝液にてホモゲナイズした後、アルカリ熱処理して遠心分離し、その上清(抽出液)を回収する。前記非ヒト動物から採取した組織を用いる場合は、例えば、緩衝液を加えてホモジナイズし、アルカリ熱処理を行い、遠心分離により抽出液を回収する。この処理の条件は蛋白質を変性させる条件であればよく、通常、80℃、20分で行う。また、非ヒト動物から採取した組織を用いる場合は、アルカリ溶液に直接組織を入れて、アルカリ熱処理を行うこともできる。この熱処理の条件は組織を溶解できる条件であればよく、通常、80℃、20分で行う。
【0072】
アルカリ熱処理工程で用いられるアルカリは特に限定されず、例えば、NaOHとすることができる。
アルカリ熱処理工程におけるアルカリの濃度も特に限定されないが、最終濃度を100〜200mMとすることが好ましい。
【0073】
また、アルカリ熱処理工程では、更に、pHが7〜8となるように中和する。酸としては、例えば、HClを用いることができ、好ましくは50〜100mMの緩衝液を加えることが好ましい。ここで用いられる緩衝液としては、Phosphate buffer pH7.0が好ましい。
【0074】
更に、アルカリ熱処理工程では、中和後、細胞溶解液を希釈する。ここでは、例えば、150-600ng protein/40μlとなるように希釈する。細胞溶解液を希釈することにより、AMGの濃度を測定レンジに載せ、且つ細胞内に元々存在するNADPHを測定限界以下とすることができる。
【0075】
4.洗浄工程
洗浄工程は、前記変換工程(I)の前に、α−メチルグルコシド(AMG)が添加された培養細胞、又はAMGが投与された非ヒト動物から採取した組織(測定に用いる培養細胞又は組織)を洗浄し、細胞の外に存在するAMG、二糖類、及びグルコースを除く工程である。
【0076】
α−グルコシダーゼは、スクロース等の二糖類を単糖に分解する酵素である。そのため、AMGの他に、二糖類が測定対象とする細胞の外に存在していた場合、上記の工程(i)〜(iii)を経て測定すると、これらの物質にも反応してしまう。図2は、AMGの他に、グリコーゲン、二糖類、グルコース、及びグルコース−6−リン酸(G-6-P)が反応溶液中に存在し、且つアルカリ熱処理工程を行わなかった場合の、測定結果の一例を示す図面代用グラフである。グリコーゲンは本発明に係る定量方法にほとんど影響を与えないが、二糖類はα−グルコシダーゼによってグルコースを産生するため、測定結果に影響を与える。
【0077】
しかし、細胞外に二糖類が存在していても、二糖類が細胞内に取り込まれることはないため、測定対象とする細胞を洗浄することにより、細胞外に残るAMGと共に、二糖類を除去できる。例えば、消化管を用いて、消化管上皮細胞へのAMGの取り込み量を測定する場合には、AMGを実験動物の胃に投与し、又は採取した消化管にAMGを作用させて適当な時間に消化管を洗浄することによって、細胞外に残るAMGと共に、二糖類を除去できる。そのため、本発明では、洗浄工程を行うことにより、細胞外の二糖類を除去でき、より精度高く細胞内のAMGを定量することが可能となる。
【0078】
この洗浄は、例えば、KRPH(Krebs Ringer Phosphate Hepes) buffer、Phosphate buffer(PB)等の緩衝液を用いて行うことができる。
【0079】
<ナトリウム・グルコース共役輸送体型トランスポーター(SGLT)の活性測定方法>
本発明に係る活性測定方法は、変換工程(I)、及び定量工程(II)、を少なくとも行うことを特徴とする。また、本発明に係る活性測定方法では、必要に応じて、アルカリ熱処理工程、洗浄工程等を更に行うこともできる。これらの各工程については、本発明に係る定量方法で記載したものと同様であるため、ここでは説明を割愛する。
【0080】
<細胞内α−メチルグルコシド(AMG)の定量用キット>
本発明に係る定量用キットは、α−グルコシダーゼ、を少なくとも含むことを特徴とする。α−グルコシダーゼは、例えば、α−グルコシダーゼを含む緩衝液等の形態で提供できる。ここで用いられる緩衝液としては、Phosphate buffer pH7.0が好ましい。
【0081】
また、本発明に係る定量用キットは、ヘキソキナーゼ、ATP、及びMgCl2、G6DPH及びNADP、グルコース−6−リン酸(G-6-P)、グルタチオン還元酵素(GR)、G6PDH、及びグルタチオン(GSSG)、及び5,5−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)、を更に含んでいてもよい。これらは、前述した定量工程(II)の方法(a)で用いられる。
【0082】
ヘキソキナーゼ、ATP、及びMgCl2は、例えば、ヘキソキナーゼ、ATP、及びMgCl2を含む緩衝液等の形態で提供できる。ここで用いられる緩衝液としては、pH7〜9の緩衝液が好ましく、例えば、Tris-HCl緩衝液である。
【0083】
また、G6DPH及びNADPは、例えば、G6DPH及びNADPを含む緩衝液の形態等で提供できる。ここで用いられる緩衝液としては、pH7〜9の緩衝液が好ましく、例えば、Tris-HCl緩衝液である。
【0084】
更に、グルコース−6−リン酸(G-6-P)、グルタチオン還元酵素(GR)、G6PDH、及びグルタチオン(GSSG)は、例えば、グルコース−6−リン酸(G-6-P)、グルタチオン還元酵素(GR)、G6PDH、及びグルタチオン(GSSG)を含む緩衝液の形態等で提供できる。ここで用いられる緩衝液としては、pH7〜9の緩衝液が好ましく、例えば、Tris-HCl緩衝液である。
【0085】
また、グルコース−6−リン酸(G-6-P)、グルタチオン還元酵素(GR)、G6PDH、及びグルタチオン(GSSG)を含む緩衝液とDTNB(例えば、粉末状のもの)は、通常、使用直前に混合して用いる。
【0086】
本発明に係る定量用キットは、ナトリウム・グルコース共役輸送体型トランスポーター(SGLT)の活性測定に有用である。
【実施例】
【0087】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0088】
試験例1
本試験例1では、各wellにAMG及びグルコースを、それぞれ一定濃度で添加し、増幅・発色液を作用させた後、420nmにおける吸光度を測定し、AMGとグルコースについて、各々検量線を作成した。図3のAは、本発明に係る定量方法を用いて測定したAMGの標準直線を示す図面代用グラフであり、図3のBは、グルコースの標準直線を示す図面代用グラフである。
【0089】
図3に示す通り、AMGの標準直線はグルコースの標準直線とほぼ同様であることから、AMGが、α−グルコシダーゼにより効率良くグルコースに変換されていることが分かった。このため、本発明に係る定量方法を用いることで、グルコースと同じ感度で細胞内のAMGを定量できることが分かった。
【0090】
試験例2
本試験例2では、AMG標準溶液に対し、アルカリ熱処理が与える影響について検討した。
【0091】
試験方法は、以下の手順に従った。
1. AMG 36μl+1N NaOH 4μl(final concentration 0.1N NaOH)
2. 80℃ 20min
3. 中和 1N HCl/100mM Phosphate buffer pH7.0
4. 測定 10μl/well使用(AMG;0-80pmol/well)
【0092】
図4のAは、アルカリ熱処理を行った場合(with NaOH)とアルカリ熱処理を行わなかった場合(without NaOH)との検量線を比較した図面代用グラフであり、図4のBは、アルカリ熱処理を行った場合(with NaOH)とアルカリ熱処理を行わなかった場合(without NaOH)のそれぞれにおいて、AMG、グルコース及びG-6-Pを定量した結果を示す図面代用グラフである。図4で示すように、本発明において、アルカリ熱処理を行っても、AMGの測定結果には影響がないことが分かった。また、これに対して、グルコース及びG-6-Pは、アルカリ熱処理により分解されることも分かった。
【0093】
試験例3
本試験例3では、HEK細胞溶解液を添加した時の、アルカリ熱処理が与える影響について検討した。
【0094】
試験方法は、以下の手順に従った。
1. AMG 10μl+HEK lysate 10μl+1N NaOH 2μl(final concentration 0.1N NaOH)
2. 95℃ 10min
3. 中和 1N HCl/100mM Phosphate buffer pH7.0
4. 測定 10μl/well使用
【0095】
図5は、HEK細胞溶解液を添加し、アルカリ熱処理を行った場合(with NaOH)とアルカリ熱処理を行わなかった場合(without NaOH)のそれぞれにおいて、AMG、グルコース及びG-6-Pを定量した結果を示す図面代用グラフである。図5で示すように、細胞溶解液を添加した場合であっても、試験例2と同様に、AMGの測定結果には影響がないことが分かった。また、これに対して、グルコース及びG-6-Pはアルカリ熱処理により分解されることも分かった。
【0096】
実施例1
本実施例1では、SGLT1発現HEK細胞を用いたAMGの取り込み実験を行った。
【0097】
試験方法は、12well culture dishを用い、以下の手順に従った。
1. KRPH buffer pH7.4で洗浄 3回(1ml/well)
2. 0.1% BSA(ウシ血清アルブミン)/KRPH buffer pH7.4で培養(1ml/well)
3. 0分 10mM Phloridzin(SGLT天然阻害剤) 10μl添加(又はEtOH 10μl添加)
4. 10分後 AMG 100mM 10μl添加
5. 40分後 KRPH buffer pH7.4又はPhosphate buffer(PB) pH7.0で3回洗浄して、細胞外に残るAMGを除去
6. 1% Triton/50mM PBによって細胞を回収
7. ピペッティング、ボルテックスによって細胞を破砕
8. 95℃ 10分間処理
9. 遠心 14,000rpm 10min 4℃
10. 上清を採取、希釈(150-600ng protein/40μl)
11. AMGを定量(40μl/well)
【0098】
なお、図6は、実施例1で用いたAMGの検量線を示す図面代用グラフである。
また、本実施例1では、SGLT1が発現していることを予め実験にて確認したHEK細胞を用いている。
【0099】
図7のAは、AMGを培養液に添加して30分後に細胞内に取り込まれたAMGを定量した結果を示す図面代用グラフであり、図7のBは、吸光度測定開始から20分経過後の様子を示す図面代用グラフである。また、図7のAは、吸光度測定開始から14分経過後のBの結果を用いて計算されたものである。本実施例1の結果から、本発明に係る定量方法を用いることにより、細胞内に取り込まれたAMGを定量できることが分かった。また、Phloridzin(SGLT天然阻害剤)により、AMGの細胞内への取り込みが阻害されていることが分かった。
【0100】
実施例2
本実施例2では、SGLT発現HEK細胞を用いたAMGの取り込み実験を更に行った。具体的には、SGLT発現HEK細胞に0〜20mMの範囲でAMGを添加し、AMGの取り込み量を測定し、Lineweaver-Burkの方法でプロットし、Km値及びVmax値を算出した(n=6-8)。
【0101】
試験方法は、6well culture dishを用い、以下の手順に従った。
1. 無血清培地(DMEM)で3時間培養
2. KRPH buffer pH7.4で洗浄 3回(2ml/well)
3. 0.1% BSA(ウシ血清アルブミン)/KRPH buffer pH7.4で培養(2ml/well)
4. 0〜20mMの範囲でAMGを添加
5. 30分又は90分後 KRPH buffer pH7.4又はPhosphate buffer(PB) pH7.0で3回洗浄して、細胞外に残るAMGを除去
6. 1% Triton/50mM PBによって細胞を回収
7. ピペッティング、ボルテックスによって細胞を破砕
8. 95℃ 10分間処理
9. 遠心 14,000rpm 10min 4℃
10. 上清を採取、希釈(150-600ng protein/40μl)
11. AMGを定量(40μl/well)
【0102】
なお、本実施例2では、SGLT1及びSGLT2が発現していることを予め実験にて確認したHEK細胞を用いている。
【0103】
図8のAは、SGLT1に関して、0〜20mMの範囲でAMGを添加し、AMGの取り込み量を測定した図面代用グラフであり、図8のBは、Aの結果に基づき作成したLineweaver-Burk plotである。また、図8のCは、SGLT2に関して、0〜20mMの範囲でAMGを添加し、AMGの取り込み量を測定した図面代用グラフであり、図8のDは、Cの結果に基づき作成したLineweaver-Burk plotである。図8で示すように、本実地例2において、SGLT1は、Km=2.2mM、Vmax=1667pmol μg protein-1 h-1であり、SGLT2は、Km=7.0mM、Vmax=116pmol μg protein-1 h-1であった。したがって、本実施例2の結果から、本発明に係る定量方法を用いることにより、細胞内に取り込まれたAMGを定量でき、更には、そこから、SGLT1及びSGLT2のKm値及び/又はVmax値を算出することができることが分かった。
【0104】
実施例3
本実施例3では、マウスの小腸粘膜に取り込まれたAMGの量を測定した(in vivo実験)。
【0105】
試験方法は、以下の手順に従った。
[試料採取]
1. マウスに生理食塩水(Saline)又はAMG(1.8g/Kg 生理食塩水に溶解させたもの)を経口投与した。なお、餌は、投与1時間前に取り除いた。
2. AMGを投与してから、1時間後にマウスを屠殺し、腸管を採取した。
3. 腸は、十二指腸直後から5cmを上部とし、その下10cmを下部とした。
4. 採取した腸は、管腔を切り開き、氷冷したPBSでよく洗った。
5. スパテル等を用いて粘膜(小腸絨毛)を取り、液体窒素にて凍結保存した。
【0106】
[AMGの量の測定]
1. 試料を溶かし、50 mMのPhosphate buffer(PB) pH7.0 0.4mlにてホモジナイズした。
2. 酵素を死活させるため、95℃で15分間熱処理を行った。
3. 14,000rpm 4℃ 10分の条件で遠心した。
4. 上清を採取して測定試料とし、タンパク量を測定した。
5. 試料をアルカリ熱処理した。具体的には、例えば、希釈した試料5μlに、PB 35μl、1N NaOH 5μlを加え、80℃で20分間熱処理した。その後、1N HCl/100mM PB 5μlを加え中和した(総量を50μlとした)。
6. アルカリ熱処理した試料(10μl/well)を用いて、実施例1と同様の方法により、AMGの量を測定した。
【0107】
図9は、Salineを投与したマウスとAMGを投与したマウスとで、小腸粘膜に取り込まれたAMGの量をそれぞれの部位(小腸上部又は小腸下部)に分けて示した図面代用グラフである。なお、図9では、n=3である。本実施例3の結果から、マウス個体にAMGを投与した際においても、本発明に係る定量方法を用いることにより、消化管(特に、小腸上部及び小腸下部)でのグルコースの取り込みを測定できることが分かった。
【0108】
実施例4
本実施例4では、マウスの小腸粘膜におけるAMGの取り込み量を測定した(in vitro試験)。
【0109】
試験方法は、以下の手順に従った。
[試料採取]
1. マウスを屠殺し、腸管を採取した。なお、屠殺したマウスは、一晩絶食させた。
2. 採取した腸は、管腔を切り開き、氷冷したPBSでよく洗った。
3. スパテル等を用いて粘膜細胞(小腸絨毛)を回収した。
4. KRPH buffer pH7.4を加え、細胞が均等になるようにチューブに分注した。なお、KRPH buffer pH7.4は、充分にバブリングしておいたものを用いた。
5. Sucrose、AMG、Salineを添加、又は添加しない細胞溶液を準備した(添加溶液の最終濃度 1mM)。
6. 37℃で1時間インキュベートした。
7. 熱処理した(95℃、15分)。(5.〜7.の処理を行ったものを「熱処理群」とした。)
8. 5.で、未添加細胞溶液にSucrose、AMG、Salineを添加した(添加溶液の最終濃度 1mM)。(5.及び8.の処理を行ったものを「非熱処理群」とした。)
9. 細胞溶液をホモジナイズした。
10. 14,000rpm 4℃ 10分の条件で遠心した。
11. 上清を採取して測定試料とし、タンパク量を測定した。
【0110】
[AMGの量の測定]
1. 試料をアルカリ熱処理した。具体的には、例えば、希釈した試料5μlに、PB 35μl、1N NaOH 5μlを加え、80℃で20分間熱処理した。その後、1N HCl/100mM PB 5μlを加え中和した(総量を50μlとした)。
2. アルカリ熱処理した試料(10μl/well)を用いて、実施例1と同様の方法により、AMGの量を測定した。
【0111】
図10のAは、Salineを添加した群とSucroseを添加した群とで、小腸粘膜におけるAMGの取り込み量をそれぞれの場合(非熱処理群又は熱処理群)に分けて示した図面代用グラフであり、図10のBは、Salineを添加した群とAMGを添加した群とで、小腸粘膜におけるAMGの取り込み量をそれぞれの場合(非熱処理群又は熱処理群)に分けて示した図面代用グラフである。なお、図10のA及びBでは、いずれもn=4である。消化管には二糖類を分解する酵素が存在しているため、AMGも消化管に取り込まれる前に分解される可能性があったが、本実施例4の結果から、Sucroseなどの二糖類に比べてAMGは消化管では分解されにくいことが分かった。したがって、本発明に係る定量方法は、糖の吸収を抑える薬物や天然化合物のスクリーニング、或いはそのメカニズム解明に用いることができることが示唆された。
【0112】
また、本実施例4の結果から、in vitro試験において、熱処理を行っても、AMGの測定結果には影響がないことが分かった。また、これに対して、Sucroseの測定結果は熱処理により影響が出ることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明によれば、放射性化合物(RI)による標識を要することなく、細胞内のAMGを定量することが可能である。このため、本発明を用いることで、従来の方法と比較して、SGLTの活性をより簡略化された方法で測定することができ、測定精度の向上や、煩雑化防止、活性測定時に要するコスト・時間の削減等を図ることができる。また、通常の設備の実験室において、大量のSGLT阻害剤等を効率良くスクリーニングできる。
【0114】
また、本発明は、糖の吸収を抑える薬物や天然化合物のスクリーニング、或いはそのメカニズム解明にも応用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10