【解決手段】塗料を含む湿式塗装ブース循環水に、フェノール系樹脂のアルカリ溶液を添加して該循環水中の塗料を処理するにあたり、該循環水のpHを6.5〜8.0に調整する方法であって、該循環水のpHが8.0以下の所定の値になった場合に、該フェノール系樹脂のアルカリ溶液の添加量を増加させる湿式塗装ブース循環水の処理方法。更に酸性アルミニウム塩を添加する方法であって、循環水のpHが6.5以上の所定の値にあった場合に酸性アルミニウム塩の添加量を増加させる。
塗料を含む湿式塗装ブース循環水に、フェノール系樹脂のアルカリ溶液を添加して該循環水中の塗料を処理するにあたり、該循環水のpHを6.5〜8.0に調整する方法であって、
該循環水のpHが8.0以下の所定の値になった場合に、該フェノール系樹脂のアルカリ溶液の添加量を増加させることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
請求項1において、前記フェノール系樹脂のアルカリ溶液をアルカリ剤として用い、他のアルカリ剤を添加せずに、前記循環水のpHを6.5〜8.0に調整することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
請求項1又は2において、前記循環水に、更に酸性アルミニウム塩を添加する方法であって、該循環水のpHが6.5以上の所定の値になった場合に、該酸性アルミニウム塩の添加量を増加させることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
請求項3において、前記酸性アルミニウム塩を酸剤として用い、他の酸剤を添加せずに前記循環水のpHを6.5〜8.0に調整することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
請求項3又は4において、前記酸性アルミニウム塩が、硫酸バンド、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、及び硝酸アルミニウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
塗料を含む湿式塗装ブース循環水に、フェノール系樹脂のアルカリ溶液と酸性アルミニウム塩を添加して処理するにあたり、該循環水のpHを6.5〜8.0に調整する方法であって、
該循環水のpHが6.8以上8.0以下のときに、該フェノール系樹脂のアルカリ溶液の添加量を増加させ、該循環水のpHが6.5以上7.2以下のときに該酸性アルミニウム塩の添加量を増加させることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
湿式塗装ブースとの間で塗料を含む湿式塗装ブース循環水が循環する循環水ピットと、該循環水のpHを測定するpH測定手段と、該pHの測定値に基づいて、該循環水に処理薬剤を添加する薬剤添加手段とを有する湿式塗装ブース循環水の処理装置において、
pH計を備えた計測槽と、
該計測槽に該循環水の一部を導入する循環水導入手段と、
該計測槽に清澄水を導入する清澄水導入手段と、
該循環水導入手段及び清澄水導入手段並びに前記薬剤添加手段を制御する制御手段と
を備え、
該制御手段は、該循環水導入手段による計測槽への循環水の導入と、該清澄水導入手段による計測槽への清澄水の導入とを交互に行い、該循環水導入手段による循環水導入期間中に、前記pH計によるpH測定を行うことを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理装置。
請求項7又は8において、前記制御手段は、前記循環水導入手段による循環水の導入開始後、所定時間経過後のpH計による測定値に基づいて薬注を制御することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理装置。
請求項7ないし9のいずれか1項において、前記清澄水導入手段により前記計測槽に導入された清澄水により、前記pH計を洗浄する手段を有することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理装置。
請求項7ないし10のいずれか1項において、前記制御手段は、前記清澄水導入手段により、前記計測槽に清澄水を導入した後、清澄水の導入を停止し、その後所定時間経過後に、前記循環水導入手段による循環水の導入を開始することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理装置。
請求項1ないし6のいずれか1項において、請求項7ないし11のいずれか1項に記載の湿式塗装ブース循環水の処理装置を用いて、前記処理薬剤として前記フェノール系樹脂のアルカリ溶液、或いは前記フェノール系樹脂のアルカリ溶液と酸性アルミニウム塩を添加することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【背景技術】
【0002】
自動車、電気機器、金属製品などの塗装工程ではスプレー塗装が行なわれており、被塗物に塗着しないオーバースプレーペイント(余剰塗料)が多量に発生する。その発生量は、塗着効率の高い静電塗装を除けば使用塗料の50%から60%程度にも達する。したがって、塗装工程の環境から余剰塗料を除去、回収する必要がある。余剰塗料の捕集には、通常、水洗による湿式塗装ブースが採用されており、水洗水は循環使用されるが、その際、循環水中に塗料が残留して蓄積することを防止するため、循環水中の余剰塗料を凝集分離することが行われている。
【0003】
塗装工程で用いられる塗料は大別して、溶剤としてシンナーなどの有機溶剤のみを用いた溶剤系塗料と、水を用いた水性塗料とがある。溶剤系塗料は、水性塗料に比べ、耐候性や耐チッピング性などに優れており、特に自動車用の上塗りクリアー塗装においては多く使われている。水性塗料は、水を溶媒とするため(一部溶剤を併用する場合もある)、引火性がなく、安全かつ衛生的であり、有機溶剤による公害発生の恐れがないなどの利点を有することから、近年はその応用範囲が拡大されつつある。
【0004】
溶剤系塗料、水性塗料には、それぞれ、次のような課題がある。
溶剤系塗料:循環水中に取り込まれた余剰塗料の粒子の粘着性が高いため、諸設備に付着して激しい汚れを生じたり、凝集して大きな固まりになって目詰まりを生じやすい。
水性塗料:水性塗料は本来、水に溶解あるいは均一に分散する性質のものであるため、塗料成分が使用量に比例してブース循環水に蓄積濃縮する。塗料成分が濃縮する結果、塗料中の界面活性剤などの発泡性物質が濃縮されて泡が発生する。さらに循環水中の懸濁物濃度や粘性の上昇によって、発生した泡が安定化し、激しい発泡に至り、安定な塗装ブースの運転ができなくなることがある。
【0005】
このようなことから、湿式塗装ブース循環水の凝集処理に際しては、溶剤系塗料に対する不粘着化効果と、水性塗料に対する泡立ち抑制効果との双方に優れることが望まれるが、いずれの塗料の凝集処理においても、添加した凝集剤の効果を十分に発揮させるためには、循環水のpHが重要となる。
【0006】
従来、湿式塗装ブース循環水のpH調整のための酸、アルカリとしては、安価であることから、硫酸や苛性ソーダが一般的に用いられている。
特許文献1〜3には、フェノール系樹脂のアルカリ溶液又は酸性アルミニウム塩を湿式塗装ブース循環水に添加して凝集処理する方法が提案されているが、特許文献1,2では、別途硫酸又は塩酸や苛性ソーダといったpH調整剤を必要とし、また、特許文献3では、pH条件について全く考慮されていない。
【0007】
特許文献4には、塗装ブースの循環水に酸性又は中性の主処理剤とアルカリ性のpH調整剤とを、主処理剤の添加量とpH調整剤の添加量との比を所定範囲に維持しつつ、循環水のpH値が所定値以下のときにpH調整剤を添加し、循環水のpH値が所定値を超えたときにpH調整剤の添加を停止するように添加制御する方法において、pH調整剤の連続添加時間が所定値を超えたときに異常表示することで、塗料粕や生成塩がpH計に付着してpH計の測定精度が低下したことを知らせる方法が提案されているが、この方法は、pH計の汚染による測定精度の低下を防止するものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
湿式塗装ブース循環水の凝集処理に、フェノール系樹脂のアルカリ溶液と酸性アルミニウム塩を併用する場合、これらの剤は、塗料の不粘着、凝集、泡成分の吸着による発泡防止、スラッジを浮上させるなどの効果を得るための必要量が添加されるが、その際、pH7付近にpH調整することで最も優れた凝集効果が得られる。このため、従来においては、これらの剤を効果的に使用するために、別途酸やアルカリを用いて手動または自動で循環水のpH調整を行っている。このpH調整には、一般に安価であることから硫酸や苛性ソーダが用いられるが、酸やアルカリは危険物であり、また、凝集剤としてのフェノール系樹脂のアルカリ溶液や酸性アルミニウム塩とは別にこれらの酸やアルカリを用いると、循環水の処理に使用する薬剤の種類が増え、薬剤管理、薬注制御が煩雑になるといった問題がある。
【0010】
また、pH制御は、通常、循環水ピットに設けたpH計の測定値に基づいて、循環水に酸又はアルカリを添加することで行われるが、湿式塗装ブース循環水系では、以下の理由によりpHを所望の一定の範囲に自動的に制御して維持することが困難であった。
(1)塗料や塗料スラッジにより、循環水ピット内のpH計のセンサーが汚染され、測定精度が低下してしまう。
(2)循環水は大型のピットを介して循環されるため、このような大型のピットに酸、アルカリを添加しても直ちにはpH計の測定値に反映されない。また、ピット内に堆積したスラッジから酸、アルカリ分などが少しずつ溶出することでも、pH計の測定値に誤差が生じ易い。このため、酸、アルカリ添加によるpH変化が、pH計の測定値に遅れて現れるタイムラグが大きい。
【0011】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、塗料を含む湿式塗装ブース循環水中の塗料の凝集処理に当たり、該循環水を的確にpH調整して効率的に凝集処理する湿式塗装ブース循環水の処理方法及び処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アルカリ性のフェノール系樹脂のアルカリ溶液をアルカリ剤を兼ねる凝集処理剤として、更には、酸性の酸性アルミニウム塩を酸剤を兼ねる凝集処理剤として用いてpH調整することにより、的確にかつ工業的に有利にpH制御を行うことができること、また、循環水のpH測定を、循環水ピットとは別に設けた計測槽で間欠的に行い、pHの非測定時にはpH計を清澄水で洗浄することにより、pH計の測定精度を上げ、的確なpH制御を行えることを見出した。
【0013】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0014】
[1] 塗料を含む湿式塗装ブース循環水に、フェノール系樹脂のアルカリ溶液を添加して該循環水中の塗料を処理するにあたり、該循環水のpHを6.5〜8.0に調整する方法であって、該循環水のpHが8.0以下の所定の値になった場合に、該フェノール系樹脂のアルカリ溶液の添加量を増加させることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【0015】
[2] [1]において、前記フェノール系樹脂のアルカリ溶液をアルカリ剤として用い、他のアルカリ剤を添加せずに、前記循環水のpHを6.5〜8.0に調整することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【0016】
[3] [1]又は[2]において、前記循環水に、更に酸性アルミニウム塩を添加する方法であって、該循環水のpHが6.5以上の所定の値になった場合に、該酸性アルミニウム塩の添加量を増加させることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【0017】
[4] [3]において、前記酸性アルミニウム塩を酸剤として用い、他の酸剤を添加せずに前記循環水のpHを6.5〜8.0に調整することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【0018】
[5] [3]又は[4]において、前記酸性アルミニウム塩が、硫酸バンド、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、及び硝酸アルミニウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【0019】
[6] 塗料を含む湿式塗装ブース循環水に、フェノール系樹脂のアルカリ溶液と酸性アルミニウム塩を添加して処理するにあたり、該循環水のpHを6.5〜8.0に調整する方法であって、該循環水のpHが6.8以上8.0以下のときに、該フェノール系樹脂のアルカリ溶液の添加量を増加させ、該循環水のpHが6.5以上7.2以下のときに該酸性アルミニウム塩の添加量を増加させることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【0020】
[7] 湿式塗装ブースとの間で塗料を含む湿式塗装ブース循環水が循環する循環水ピットと、該循環水のpHを測定するpH測定手段と、該pHの測定値に基づいて、該循環水に処理薬剤を添加する薬剤添加手段とを有する湿式塗装ブース循環水の処理装置において、pH計を備えた計測槽と、該計測槽に該循環水の一部を導入する循環水導入手段と、該計測槽に清澄水を導入する清澄水導入手段と、該循環水導入手段及び清澄水導入手段並びに前記薬剤添加手段を制御する制御手段とを備え、該制御手段は、該循環水導入手段による計測槽への循環水の導入と、該清澄水導入手段による計測槽への清澄水の導入とを交互に行い、該循環水導入手段による循環水導入期間中に、前記pH計によるpH測定を行うことを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理装置。
【0021】
[8] [7]において、前記計測槽は、導入水が貯留される貯留部と、該貯留部から貯留水を溢流させる溢流部とを有しており、前記pH計は、該貯留部に設けられており、前記循環水導入手段及び清澄水導入手段はそれぞれ循環水又は清澄水を該貯留部に導入するように設けられていることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理装置。
【0022】
[9] [7]又は[8]において、前記制御手段は、前記循環水導入手段による循環水の導入開始後、所定時間経過後のpH計による測定値に基づいて薬注を制御することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理装置。
【0023】
[10] [7]ないし[9]のいずれかにおいて、前記清澄水導入手段により前記計測槽に導入された清澄水により、前記pH計を洗浄する手段を有することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理装置。
【0024】
[11] [7]ないし[10]のいずれかにおいて、前記制御手段は、前記清澄水導入手段により、前記計測槽に清澄水を導入した後、清澄水の導入を停止し、その後所定時間経過後に、前記循環水導入手段による循環水の導入を開始することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理装置。
【0025】
[12] [1]ないし[6]のいずれか1項において、[7]ないし[11]のいずれかに記載の湿式塗装ブース循環水の処理装置を用いて、前記処理薬剤として前記フェノール系樹脂のアルカリ溶液、或いは前記フェノール系樹脂のアルカリ溶液と酸性アルミニウム塩を添加することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、塗料を含む湿式塗装ブース循環水中の塗料の凝集処理に当たり、該循環水を的確にpH調整して効率的な凝集処理を行える。
【0027】
即ち、本発明の湿式塗装ブース循環水の処理方法では、アルカリ性のフェノール系樹脂のアルカリ溶液をアルカリ剤を兼ねる凝集処理剤として、更には、酸性の酸性アルミニウム塩を酸剤を兼ねる凝集処理剤として用い、これらを循環水のpH変動に応じて添加制御する。
これらの剤は安全なアルカリ又は酸であり、また、最低必要量以上添加しても、処理効果は悪化しないことから、従来、pH調整に使用されている危険な酸やアルカリを用いず、これらの剤が効果を発揮するための最低必要量に加え、これらの剤をpH調整のためにも使用することで、的確かつ工業的に有利にpH調整を行える。
【0028】
また、本発明の湿式塗装ブース循環水の処理装置によれば、循環水のpH測定を、循環水ピットとは別に設けた計測槽で間欠的に行い、pHの非測定時にはpH計を清澄水で洗浄することによりpH計の測定精度を上げることができる。また、間欠的なpH測定の間に所定の待機時間を設けることで、pH測定のタイムラグを抑え、的確なpH制御を行える。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0031】
[湿式塗装ブース循環水の処理方法]
本発明の湿式塗装ブース循環水の処理方法は、塗料を含む湿式塗装ブース循環水に、フェノール系樹脂のアルカリ溶液を添加して該循環水中の塗料を処理するにあたり、該循環水のpHを6.5〜8.0に調整する方法であって、該循環水のpHが8.0以下の所定の値になった場合に、該フェノール系樹脂のアルカリ溶液の添加量を増加させることを特徴とする。好ましくは、本発明の湿式塗装ブース循環水の処理方法は、更に酸性アルミニウム塩を湿式塗装ブース循環水に添加し、該循環水のpHが6.5以上の所定の値になった場合に、該酸性アルミニウム塩の添加量を増加させる。
【0032】
<作用機構>
水性塗料はアニオンであり、pHを下げることで、アニオン度が下がり、凝集しやすく、また、アニオン界面活性剤の活性が落ち、泡が立ちにくくなる。
フェノール系樹脂のアルカリ溶液のアルカリ溶液は、アニオン性であるが、荷電中和すると、主に疎水性(非イオン性)の物質との親和性が高くなり、ノニオン界面活性剤や塗料樹脂との親和性が高くなる。このフェノール系樹脂のアルカリ溶液も酸性でアニオン性が弱くなり、荷電中和のためのカチオン性ポリマーの必要量を低減できる。
酸性アルミニウム塩は、中性〜酸性側領域ではカチオンであるため、アニオンである塗料や、塗料が加水分解、酸化分解、生分解されることで生じた親水性の濁度やSS分(主としてアニオン)を荷電中和して凝集させると共に、フェノール系樹脂のアルカリ溶液の荷電中和も行うことができる。
以上より、フェノール系樹脂のアルカリ溶液を用いて凝集処理する場合、特にフェノール系樹脂のアルカリ溶液と酸性アルミニウム塩を組み合わせて凝集処理する場合、中性〜酸性領域で凝集処理することが好ましいが、フェノール系樹脂のアルカリ溶液はアルカリ性であり、酸性アルミニウム塩は酸性であることから、これらを用いてpH調整することが可能である。
【0033】
本発明では、アルカリ性のフェノール系樹脂のアルカリ溶液をアルカリ剤を兼ねる凝集処理剤として、更には、酸性の酸性アルミニウム塩を酸剤を兼ねる凝集処理剤として用い、これらを、凝集効果を得ることができる添加量の範囲で、循環水のpH変動に応じて、各々添加量を調整して循環水のpHを6.5〜8.0、好ましくは6.8〜7.2に調整することで、pH調整剤を不要とした上で、最適pHにpH調整することを可能とする。
なお、pH調整剤として用いるフェノール系樹脂のアルカリ溶液及び酸性アルミニウム塩にあっては、予め混合して一剤化することなく、それぞれ別々に湿式塗装ブース循環水に添加される。
【0034】
以下においては、フェノール系樹脂のアルカリ溶液と酸性アルミニウム塩とを併用し、フェノール系樹脂のアルカリ溶液をアルカリ剤として用い、他のアルカリ剤を添加せずに、また、酸性アルミニウム塩を酸剤として用い、他の酸剤を添加せずに、これらの添加量を制御して、循環水のpHを6.5〜8.0に調整する場合を例示して本発明の湿式塗装ブース循環水の処理方法を説明するが、本発明は、他のアルカリ剤や酸剤を併用することを排除するものではない。
しかしながら、フェノール系樹脂のアルカリ溶液をアルカリ剤として用いて他のアルカリ剤を使用せずに、また、酸性アルミニウム塩を酸剤として用いて他の酸剤を使用せずに処理を行うことにより、pH調整剤が不要となり、薬剤の種類、薬剤使用量を低減して薬剤管理や薬注制御の手間を軽減すると共に、処理コストの低減が可能となり、更には、酸、アルカリといった危険な薬剤を不使用とすることで、作業性も改善されるため、工業的に非常に有利である。
【0035】
<フェノール系樹脂のアルカリ溶液>
フェノール系樹脂のアルカリ溶液のフェノール系樹脂としては、フェノール、クレゾール、キシレノール等の一価フェノール等のフェノール類とホルムアルデヒド等のアルデヒドとの縮合物或いはその変性物であって、架橋硬化する前のフェノール系樹脂が挙げられる。具体的には次のものが挙げられる。フェノール系樹脂は、ノボラック型又はレゾール型のいずれでもよい。また、フェノール系樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
[1]フェノールとホルムアルデヒドとの縮合物
[2]クレゾールとホルムアルデヒドとの縮合物
[3]キシレノールとホルムアルデヒドとの縮合物
[4]上記[1]〜[3]のフェノール系樹脂をアルキル化して得られるアルキル変性フェノール系樹脂
[5]ポリビニルフェノール
【0036】
フェノール系樹脂のアルカリ溶液のアルカリとしては、通常、水酸化ナトリウム(NaOH)及び/又は水酸化カリウム(NaH)が用いられ、好ましくはアルカリ濃度1〜25重量%、フェノール系樹脂濃度1〜50重量%である。フェノール系樹脂濃度が高い場合、70〜80℃程度に加温してフェノール系樹脂を溶解させてもよい。
このようなフェノール系樹脂のアルカリ溶液は、通常pH10〜13程度のアルカリ性である。
【0037】
<酸性アルミニウム塩>
酸性アルミニウム塩としては、塩基性塩化アルミニウム、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどを用いることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
<各薬剤の添加量>
本発明において、フェノール系樹脂のアルカリ溶液及び酸性アルミニウム塩の添加量は、以下の範囲において、湿式塗装ブース循環水のpH変動に応じて各々添加量を調整する。
即ち、本発明における凝集処理においては、フェノール系樹脂のアルカリ溶液及び酸性アルミニウム塩による凝集効果が最も高いpH領域として、湿式塗装ブース循環水のpHを6.5〜8.0、好ましくは6.8〜7.2に調整することとし、その際に、好ましくは硫酸、塩酸等の無機酸や有機酸等の酸剤、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等のアルカリ剤といったpH調整剤を用いることなく、フェノール系樹脂のアルカリ溶液と酸性アルミニウム塩の添加量の制御によりpH調整する。
【0039】
具体的には、凝集処理のためのフェノール系樹脂のアルカリ溶液及び酸性アルミニウム塩の添加量を予め設定しておき、循環水のpHが変動し、pH8.0以下の所定の値になった場合には、以下の添加量範囲内でアルカリ性のフェノール系樹脂のアルカリ溶液の添加量を設定値より増やしてpHを6.5以上、好ましくは6.8以上とする。また、循環水のpHが変動し、pH6.5以上の所定の値となった場合には、以下の添加量範囲内で酸性の酸性アルミニウム塩の添加量を設定値より増やしてpHを8.0以下、好ましくは7.2以下とする。このように、循環水のpHの変動に対応して、フェノール系樹脂のアルカリ溶液及び酸性アルミニウム塩の添加量を調整することにより、別途硫酸等の酸剤や水酸化ナトリウム等のアルカリ剤といったpH調整剤の添加を必要とすることなく、最適pHにpH調整することができる。
フェノール系樹脂のアルカリ溶液又は酸性アルミニウム塩の添加量の増加でpHが上記好適範囲となった場合には、フェノール系樹脂のアルカリ溶液又は酸性アルミニウム塩の添加量を設定値に戻す。
【0040】
なお、湿式塗装ブース循環水のpHを6.5〜8.0、好ましくは6.8〜7.2に調整する観点からは、循環水のpHが6.5未満、好ましくは6.8未満の場合にフェノール系樹脂のアルカリ溶液の添加量を増やすことが考えられるが、よりpH変動を小さく抑えるために、循環水のpHが6.8以上8.0以下のときにフェノール系樹脂のアルカリ溶液の添加量を増加させてもよい。
同様に、酸性アルミニウム塩の添加量についても、循環水のpHが8.0を超える場合、好ましくは7.2を超える場合に、酸性アルミニウム塩の添加量を増やすことが考えられるが、よりpH変動を小さく抑えるために、循環水のpHが6.5以上7.2以下のときに酸性アルミニウム塩の添加量を増加させてもよい。
【0041】
(フェノール系樹脂のアルカリ溶液の添加量)
フェノール系樹脂のアルカリ溶液の添加量は、湿式塗装ブース循環水の性状、即ち、湿式塗装ブース循環水中の塗料の種類や塗料含有量などによっても異なるが、湿式塗装ブース循環水に対して、有効成分量(樹脂固形分量)として1mg/L以上、特に5mg/L以上であり、かつ循環水中の塗料(固形分)に対して有効成分量として0.1重量%以上、特に0.5重量%以上とすることが好ましい。フェノール系樹脂のアルカリ溶液の添加量がこの割合よりも少ないと十分な凝集効果、不粘着化効果、発泡抑制効果を得ることができない。しかし、フェノール系樹脂のアルカリ溶液の添加量が過度に多くても、添加量に見合う効果の向上は得られず、薬剤コスト、凝集汚泥発生量の増加等の面で好ましくないことから、湿式塗装ブース循環水に対するフェノール系樹脂のアルカリ溶液の添加量は有効成分量として1000mg/L以下、特に1〜200mg/L、とりわけ5〜200mg/Lとし、循環水中の塗料に対して有効成分量として100重量%以下、特に0.5〜10重量%とすることが好ましい。
ただし、前述の通り、pH調整のためにフェノール系樹脂のアルカリ溶液の添加量を増加させる場合、フェノール系樹脂の添加量が一時的に上記上限を超えてもよい。
【0042】
(酸性アルミニウム塩の添加量)
酸性アルミニウム塩の添加量は、湿式塗装ブース循環水の性状、用いるフェノール系樹脂のアルカリ溶液の種類や添加量、カチオン系ポリマーの併用の有無等によっても異なるが、湿式塗装ブース循環水に対して有効成分量として1〜1000mg/L、特に1〜200mg/L、とりわけ5〜200mg/L程度、循環水中の塗料に対して有効成分量として0.1〜100重量%、特に0.5〜50重量%、とりわけ2.0〜20重量%程度とすることが好ましい。
酸性アルミニウム塩の添加量が上記下限未満では、酸性アルミニウム塩を添加することによる凝集、不粘着化、発泡抑制効果の向上効果を十分に得ることができず、上記上限を超えても、添加量に見合う効果の向上は得られず、薬剤コスト、凝集汚泥発生量の増加等の面で好ましくない。
ただし、前述の通り、pH調整のために、酸性アルミニウム塩の添加量を増加させる場合、酸性アルミニウム塩の添加量が一時的に上記上限を超えてもよい。
【0043】
<カチオン系ポリマー>
本発明においては、フェノール系樹脂のアルカリ溶液と酸性アルミニウム塩とに加えて、更にカチオン系ポリマーを用いてもよく、カチオン系ポリマーを併用することにより、より一層良好な凝集、不粘着化、発泡抑制効果を得ることができる。
【0044】
カチオン系ポリマーとしては、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、アルキルアミン・エピクロルヒドリン縮合物、ポリエチレンイミン、アルキレンジクロライド・ポリアルキレンポリアミン縮合物、ジシアンジクロライド・ポリアルキレンポリアミン縮合物、DMA(ジメチルアミノエチルメタクリレート)、DADMAC(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)等の重量平均分子量が1000〜100万、好ましくは5000〜30万の一般に有機凝結剤と言われるものが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
これらのカチオン系ポリマーは、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0045】
カチオン系ポリマーを併用する場合、カチオン系ポリマーの添加量は、湿式塗装ブース循環水の性状、用いるフェノール系樹脂のアルカリ溶液の種類や添加量、酸性アルミニウム塩の添加量等によっても異なるが、湿式塗装ブース循環水に対して有効成分量として5〜100mg/L、特に5〜50mg/L、とりわけ10〜30mg/L程度、循環水中の塗料に対して有効成分量として0.01〜10重量%、特に0.05〜5重量%、とりわけ0.5〜2重量%程度とすることが好ましい。
カチオン系ポリマー添加量が上記下限未満では、カチオン系ポリマーを添加することによる凝集、不粘着化、発泡抑制効果の向上効果を十分に得ることができず、上記上限を超えても、添加量に見合う効果の向上は得られない上に、カチオン系ポリマー添加量が過度に多いと、過剰カチオンによる粒子同士の電気的反撥が起き、凝集不良を引き起こし、また、薬剤コスト、凝集汚泥発生量の増加等の面でも好ましくない。
【0046】
<薬剤添加による凝集処理>
湿式塗装ブース循環水に、フェノール系樹脂のアルカリ溶液及び酸性アルミニウム塩、更に必要に応じて用いられるカチオン系ポリマーを添加する方法は特に制限はなく、循環水系に1日に1〜2回程度の頻度で間欠的に添加しても良く、連続添加であっても良い。望ましくは、凝集処理のためのフェノール系樹脂のアルカリ溶液及び酸性アルミニウム塩やカチオン系ポリマーについては、ポンプにより連続的に定量注入とし、pH調整剤を兼ねるフェノール系樹脂のアルカリ溶液及び酸性アルミニウム塩については、湿式塗装ブース循環水のpHの測定値に基づいて、薬注制御することが好ましい。
【0047】
また、その添加箇所としても特に制限はなく、循環水のどのような箇所に添加しても良いが、通常の場合、凝集剤としてのフェノール系樹脂のアルカリ溶液及び酸性アルミニウム塩については、循環水ピットと湿式塗装ブースとの循環水の循環配管に添加することが好ましく、pH調整剤としてのフェノール系樹脂のアルカリ溶液及び酸性アルミニウム塩は、循環水ピットに添加することが好ましい。
【0048】
また、フェノール系樹脂と酸性アルミニウム塩、必要に応じて用いられるカチオン系ポリマーとの添加順序にも特に制限はなく、フェノール系樹脂のアルカリ溶液、酸性アルミニウム塩、必要に応じて用いられるカチオン系ポリマーは同時に同じ場所に添加して良いし、別々の場所に別々に添加してもよい。
【0049】
本発明において、少なくともpH調整のために添加されるフェノール系樹脂のアルカリ溶液及び酸性アルミニウム塩は、混合して一剤化することなく別々に添加される。
カチオン系ポリマーについては、フェノール系樹脂のアルカリ溶液及び酸性アルミニウム塩とは別々に添加しても、酸性アルミニウム塩に予め混合して添加してもよい。
【0050】
本発明において、フェノール系樹脂のアルカリ溶液及び酸性アルミニウム塩は、pH調整剤としての機能を担うため、フェノール系樹脂のアルカリ溶液及び酸性アルミニウム塩の薬注手段は、湿式塗装ブース循環水のpHを測定するpH計と連動するものであることが好ましい。この場合、pH計による循環水のpH測定は、いずれの箇所で行ってもよく、例えば、循環水ピットないし循環ポンプ出口における循環水のpHを測定してもよいが、好ましくは、後述の本発明の湿式塗装ブース循環水の処理装置により、循環水ピットとは別に設けられた計測槽で測定する。
【0051】
フェノール系樹脂のアルカリ溶液と酸性アルミニウム塩、或いはフェノール系樹脂のアルカリ溶液と酸性アルミニウム塩とカチオン系ポリマーの添加により、循環水中の塗料は速やかに不溶化、凝集してフロックを生成する。凝集により生成したフロックの分離回収には、浮上分離、ウェッジワイヤ、ロータリースクリーン、バースクリーン、サイクロン、遠心分離機、濾過装置などによる方法を採用することができる。
【0052】
このような方法で分離回収された凝集汚泥は、重力脱水後、或いは通常の方法で脱水後、焼却、埋立処理されるが、本発明によれば、フェノール系樹脂のアルカリ溶液と酸性アルミニウム塩とをそれぞれpH調整剤を兼ねる用途で用い、最適なpHに調整することによる薬剤の必要添加量の低減で、発生汚泥量を低減して、汚泥処分費を低減することができる。
【0053】
なお、本発明における凝集処理では、フェノール系樹脂のアルカリ溶液と酸性アルミニウム塩或いはフェノール系樹脂のアルカリ溶液と酸性アルミニウム塩とカチオン系ポリマーとを添加する凝集処理後に、更に、重量平均分子量が、通常、100万超、好ましくは500万以上の水溶性高分子よりなる高分子凝集剤を添加してフロックの粗大化を図ることもできる。
この場合、高分子凝集剤としては、公知のアニオン系高分子凝集剤、カチオン系高分子凝集剤、両性高分子凝集剤などの1種又は2種以上を用いることができる。
【0054】
高分子凝集剤を用いる場合、その添加量は、余剰塗料に対して0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜2重量%の範囲で、良好な凝集効果が得られるように適宜決定すればよい。
【0055】
本発明の湿式塗装ブース循環水の処理方法は、水性塗料を含む湿式塗装ブース循環水、溶剤系塗料を含む湿式塗装ブース循環水、水性塗料及び溶剤系塗料を含む湿式塗装ブース循環水の処理に効果的に適用することができ、好ましくは、以下に説明する本発明の湿式塗装ブース循環水の処理装置により実施される。
【0056】
[湿式塗装ブース循環水の処理装置]
次に
図1を参照して本発明の湿式塗装ブース循環水の処理装置について説明する。
図1は本発明の湿式塗装ブース循環水の処理装置の実施の形態の一例を示す模式的な構成図であり、
図1中、1は湿式塗装ブース、2は循環水ピット、3は計測槽、4はスラッジ回収装置、5は回収スラッジ貯槽、6は制御装置である。制御装置6の制御方式は、例えばフィードバック方式のON/OFF制御又はPID制御である。
【0057】
循環水ピット2内の循環水は循環ポンプPにより抜き出され、配管10を経て湿式塗装ブース1に送給される。配管10から、循環水ピット1内の循環水を均一撹拌するための循環配管12が分岐しており、循環ポンプPで抜き出された循環水の一部は、この配管12を経て循環水ピット2の液面上方から散水される。配管10には、循環水に凝集剤としてのフェノール系樹脂のアルカリ溶液と酸性アルミニウム塩を定量注入するための配管13,14が接続されている。
【0058】
配管10より湿式塗装ブース1に送給され、湿式塗装ブース1内で余剰塗料を捕集した湿式塗装ブース循環水は、配管11、配管12を経て循環水ピット2に循環される。
【0059】
循環水ピット2には、ピット内の循環水にpH調整のためのフェノール系樹脂のアルカリ溶液、酸性アルミニウム塩をそれぞれ添加するためのフェノール系樹脂のアルカリ溶液添加手段21と酸性アルミニウム塩添加手段22が設けられている。これらの薬剤添加手段は、図示しない薬剤貯槽と薬注ポンプ、薬注配管等から構成され、制御装置6により添加量が制御される。薬注制御は、薬注ポンプの作動制御であってもよく、薬注バルブの開閉又は開度制御であってもよい。
【0060】
計測槽3内は、溢流壁31により貯留部32と溢流部33とに仕切られている。貯留部32には、pH計34と、pH計34の誤作動(計測槽3内に循環水が存在しないときに計測が行われる。)防止のための水位計(レベルスイッチ)35が設けられている。pH計34の測定値と水位計35の検知信号は制御装置6に入力される。
【0061】
溢流壁31にはその上端辺縁部の中央付近に、V字型の切り込みが設けられており、この切り込み部から貯留部32内の貯留水が溢流し、溢流部33を経て、計測槽3の溢流部33側の側面に設けられた排水口36から排水され、配管16より循環水ピット2に送給される。
【0062】
計測槽3の貯留部32には、配管12から分岐する循環水導入配管14より循環水の一部が導入されると共に、清澄水導入配管15より工水等の清澄水が導入される。各導入配管14,15には開閉バルブ14A,15Aが設けられている。これらのバルブ14A,15Aは制御装置6でその開閉が制御される。
【0063】
清澄水導入配管15の先端にはpH計34のpHセンサ洗浄手段37が設けられている。この洗浄手段37としては、例えば、清澄水導入配管15からの清澄水を高圧で噴出させる洗浄ノズルを複数本取り付けたものなどを用いることができる。また、空気の噴き付けを行うエアノズルを設け、清澄水の噴き付けと共に、空気によるバブリングで洗浄を行うこともできる。
【0064】
計測槽3の貯留部32は、pH計34と水位計35を適度な間隔で設置することができ、また、洗浄手段37によりpH計34を洗浄することができる程度の容量であればよく、また、溢流部33についても溢流水が排水口36から円滑に排水される程度の大きさであればよい。例えば、貯留部32は貯水量として5〜10L程度であればよく、このような小容量の貯留部32であれば、例えば、循環水導入配管14から5〜50L/min、好ましくは10〜20L/min程度の高流速で循環水を導入させることにより、貯留部32内に貯留されている水を短時間で押し出し、貯留部32内を新たに導入された循環水で満たすことができる。清澄水導入配管15から工水等の清澄水を導入する場合も同様である。
【0065】
循環水ピット2内の循環水は、配管17より抜き出され、配管18より高分子凝集剤が添加された後スラッジ回収装置4にて凝集分離処理される。スラッジ回収装置4の凝集分離水は配管19より循環水ピット2に返送され、凝集スラッジは、配管20より回収スラッジ貯槽5に送給される。
【0066】
本発明の湿式塗装ブース循環水の処理装置では、制御装置6からの信号による開閉バルブ14A,15Aの開閉制御で、計測槽3への循環水導入配管14からの循環水の導入と、清澄水導入配管15からの工水等の清澄水の導入とが交互に行われ、以下の手順で循環水のpH測定及びpH調整工程と、pH計の洗浄及び待機工程とが繰り返し行われる。
【0067】
<pH測定及びpH調整工程>
制御装置6からの出力信号で開閉バルブ14Aを開とし(開閉バルブ15Aは閉)、循環水を循環水導入配管14を経て計測槽3に導入する。前述の通り、計測槽3の貯留部32は小容量であるため、循環水導入配管14からの循環水を高流速で導入することで、貯留部32内の水を短時間で循環水に置き換え、貯留部32内を循環水で満たすことができる。この際、貯留部32から押し出された水は溢流壁31、溢流部33、排水口36、配管16を経て循環水ピット2に返送される。
【0068】
循環水の導入で貯留部32内が循環水で満たされ、水位計35が循環水の水位が上ったことを検知すると、その検知信号が制御装置6に入力され、この信号を受けて、制御装置6からpH計34に計測信号が出力され、pH計34でpH測定が行われる。循環水の導入開始から、pH計34による計測開始までの時間は通常1〜5分程度である。
【0069】
pH計34の測定値は、制御装置6に入力され、この測定値に基づいて、フェノール系樹脂のアルカリ溶液添加手段21又は酸性アルミニウム塩添加手段22に薬注信号が出力され、循環水のpH調整が行われる。即ち、測定値が、設定値よりも低い場合にはフェノール系樹脂のアルカリ溶液添加手段21に薬注信号が出力され、設定値よりも高い場合には酸性アルミニウム塩添加手段22に薬注信号が出力される。
【0070】
pH計34によるpH測定は、連続的に行ってもよく間欠的に行ってもよい。
【0071】
このpH測定及びpH調整工程を行う時間については特に制限はないが、過度に短いと的確なpH調整を行うことができず、過度に長いと、pH計34の汚染で、測定精度が低下してくる。この観点から、1回のpH測定及びpH調整工程の時間は、上記の循環水の導入開始からpH計34による計測開始までの時間も含めて5〜60分、特に10〜30分程度とすることが好ましい。
なお、pH計34の誤作動によるフェノール系樹脂のアルカリ溶液及び酸性アルミニウム塩の過剰添加を防止するために、フェノール系樹脂のアルカリ溶液添加手段21及び酸性アルミニウム塩添加手段22の薬注ポンプの最大稼動時間を制御装置6に設定し、最大稼動時間を超えてこれらの薬剤が添加されないようにタイマー制御することが好ましい。
【0072】
<pH計の洗浄及び待機工程>
上記のpH測定及びpH調整工程後は、制御装置6からの出力信号で開閉バルブ14Aを閉、開閉バルブ15Aを開とし、循環水の導入を停止すると共に、工水等の清澄水を清澄水導入配管15を経て計測槽3に導入する。このとき、清澄水導入配管15からの清澄水は、洗浄手段37の噴出ノズルからpH計34のpHセンサに向けて噴出され、pHセンサの洗浄が行われる。
【0073】
この清澄水の導入による洗浄時も、貯留部32が小容量であるため、清澄水を5〜50L/min、好ましくは10〜20L/min程度の高流速で導入することにより、貯留部32内の循環水を比較的短時間で清澄水に置き換え、貯留部32内を清澄水で満たすことができる。この際、貯留部32から押し出された循環水は溢流壁31、溢流部33、排水口36、配管16を経て循環水ピット2に送給される。
清澄水の導入で貯留部32内が清澄水で満たされた後は、開閉バルブ15Aを閉として清澄水の導入を停止し、次の測定待機工程に移行する。
【0074】
この清澄水の導入によるpH計34のpHセンサの洗浄時間は、通常1〜5分程度である。
【0075】
上記の清澄水の導入及びpH計34の洗浄後は、貯留部32に清澄水を満たした状態で所定時間待機する。この待機工程を行うことにより、次のpH測定及びpH調整工程におけるpH測定のタイムラグを防止することができる。
【0076】
即ち、循環水のpH調整のためにフェノール系樹脂のアルカリ溶液添加手段21又は酸性アルミニウム塩添加手段22から循環水ピット2に添加されたフェノール系樹脂のアルカリ溶液又は酸性アルミニウム塩は、循環水ピットの容量が大きいために、直ちにはピット2内全体には行きわたらず、ピット内の循環水のpHは必ずしも均一ではない場合がある。また、循環水ピット2内に堆積したスラッジから、添加した薬剤のアルカリ成分や酸成分が徐々に溶出することで、循環水ピット2内の循環水のpHが局部的に変動する場合もある。
【0077】
清澄水によるpH計34の洗浄後、待機工程を設けずに、次のpH測定とpH調整工程に移行すると、このような循環水ピット2内でのpHの不均一性や変動が測定pH値に影響し、正しい測定値を得ることができない。
これに対して、上記の待機工程を行うことにより、この待機工程中に、循環水ピット2内の循環水が循環ポンプP及び循環配管12で循環されて均一化されることで、pHの不均一性や局部的な変動が解消され、次のpH測定及びpH調整工程において、系内の循環水のpH値を十分に反映した測定値を得ることができ、この測定値に基づいて的確なpH調整を行える。
【0078】
この待機工程に要する時間は、過度に短いと待機工程を設けることによる上記効果を十分に得ることができず、過度に長いと、相対的にpH測定及びpH調整工程の時間が短くなるため好ましくない。このため、上記のpH計の洗浄工程後の待機工程は、10〜50分、特に20〜30分程度とすることが好ましい。
【0079】
この待機工程後は、前述のpH測定及びpH調整工程に移行し、以降、pH測定及びpH調整工程とpH計の洗浄及び待機工程とを繰り返し行う。
【0080】
図1は本発明の湿式塗装ブース循環水の処理装置の実施の形態の一例を示すものであって、本発明の湿式塗装ブース循環水の処理装置は何ら
図1に示されるものに限定されない。
図1では、pH調整剤としてフェノール系樹脂のアルカリ溶液及び酸性アルミニウム塩を用いてpH調整を行っているが、フェノール系樹脂のアルカリ溶液の代りに汎用のアルカリ剤を用いてもよく、酸性アルミニウム塩の代りに汎用の酸剤を用いてもよい。また各薬剤の添加箇所についても特に制限はない。
【実施例】
【0081】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0082】
[使用薬剤]
以下の実施例、及び比較例では、処理薬剤として以下のものを用いた。
フェノール系樹脂のアルカリ溶液:栗田工業(株)製「クリスタックB−310」(フェノール系樹脂(ノボラック型フェノール・ホルムアルデヒド重縮合物)のNaOH水溶液、フェノール系樹脂濃度:32重量%、NaOH濃度:5重量%、pH:12)(以下、「B−310」と記載する。)
酸性アルミニウム塩:硫酸バンド水溶液(Al
2(SO
4)
3濃度:27重量%)(以下「Al
2(SO
4)
3」と記載する。)
なお、以下において、処理薬剤の「原液」とは上記薬液(水溶液)そのものをさす。
【0083】
[実施例1]
図1に示す湿式塗装ブース循環水の処理装置により、以下の条件で湿式塗装ブース循環水の処理を行った。
湿式塗装ブース循環水による塗料の捕集は以下の条件で行った。
塗料(自動車ボデー水性ベース)供給量:4g/min
循環水:自動車組立工場循環水と水道水の混合水
循環水ピット2の保有水量:800L
循環水量(配管11の流量):100L/min
配管14からのAl
2(SO
4)
3定量添加量:0.12g/min(原液換算)
配管13からのB−310定量添加量:0.16g/min(原液換算)
【0084】
計測槽3における条件は次の通りである。なお、以下において、フェノール系樹脂のアルカリ溶液添加手段21の薬注ポンプを「B−310ポンプ」と称し、酸性アルミニウム塩添加手段22の薬注ポンプを「Al
2(SO
4)
3ポンプ」と称す。
計測槽3の貯留部32の容量:5L
計測槽3への工水の導入流量:10L/min
工水導入時間(pH計の洗浄時間):2分
待機時間:28分
計測槽3への循環水の導入流量:10L/min
循環水導入時間:30分
循環水導入開始後pH測定を行うまでの時間:2分
pH設定値:6.8〜7.2
薬注制御条件:pH6.8を下回った場合にB−310ポンプON、pH7.0でOFF。pH7.2を超える場合にAl
2(SO
4)
3ポンプON、pH7.0でOFF。
B−310ポンプ流量:0.1g/min(原液換算)
Al
2(SO
4)
3ポンプ流量:0.1g/min(原液換算)
B−310ポンプ最大稼動時間:100分
Al
2(SO
4)
3ポンプ最大稼動時間:100分
【0085】
即ち、計測槽3に循環水を導入し、導入開始から2分後に、pH計34によるpH測定とpH調整を行った。このpH測定とpH調整の時間は28分であり、計測槽3への循環水導入時間は合計で30分である。
このpH測定及びpH調整工程では、上記の薬注制御条件の通り、必要に応じてB−310又はAl
2(SO
4)
3を添加した。
このpH測定及びpH調整工程後は、計測槽3に工水を2分間導入してpH計34の洗浄を行い、その後工水を満たしたまま28分待機した。このpH計の洗浄及び待機工程後は、再びpH測定及びpH調整工程を行い、pH測定及びpH調整工程とpH計の洗浄及び待機工程とを交互に繰り返した。
【0086】
このときのpH計34の測定値の経時変化を表1及び
図2に示す。
また、12時間の運転中に、pH調整に要したB−310及びAl
2(SO
4)
3使用量(B−310ポンプ及びAl
2(SO
4)
3ポンプからの薬注量)を表2に示す。
【0087】
[比較例1]
実施例1において、工水の導入を行わず、循環水を常時10L/minで計測槽3に導入してpH測定及びpH調整を行ったこと以外は同様にして運転を行ったところ、pH測定値の経時変化は表1及び
図2に示す通りであり、また、pH調整に要したB−310及びAl
2(SO
4)
3使用量は表2に示す通りであった。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
表1,2より、本発明によれば、pH変動を抑えて、少ない薬注量で安定かつ確実なpH調整を行えることが分かる。
【0091】
なお、実施例1及び比較例1において、12時間の運転の前後で、pH計34によるpH標準液(pH6.81)のpH測定を行ったところ、表3に示す通りであり、比較例1では、pH計の汚染で測定精度が低下したのに対して、実施例1ではpH計の洗浄でpH計の測定精度が十分に維持されていることが確認された。
【0092】
【表3】
【0093】
[実施例2]
実施例1において、薬注制御条件を以下の通りとしたこと以外は同様にして処理を行ったところ、同様に安定かつ確実なpH調整を行うことができた。
薬注制御条件:pH6.9を下回った場合にB−310ポンプON、pH7.0でOFF。pH7.1を超える場合にAl
2(SO
4)
3ポンプON、pH7.0でOFF。
湿式塗装ブースとの間で塗料を含む湿式塗装ブース循環水が循環する循環水ピットと、該循環水のpHを測定するpH測定手段と、該pHの測定値に基づいて、該循環水に処理薬剤を添加する薬剤添加手段とを有する湿式塗装ブース循環水の処理装置において、
pH計を備えた計測槽と、
該計測槽に該循環水の一部を導入する循環水導入手段と、
該計測槽に清澄水を導入する清澄水導入手段と、
該循環水導入手段及び清澄水導入手段並びに前記薬剤添加手段を制御する制御手段と
を備え、
該制御手段は、該循環水導入手段による計測槽への循環水の導入と、該清澄水導入手段による計測槽への清澄水の導入とを交互に行い、該循環水導入手段による循環水導入期間中に、前記pH計によるpH測定を行うことを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理装置。
] 湿式塗装ブースとの間で塗料を含む湿式塗装ブース循環水が循環する循環水ピットと、該循環水のpHを測定するpH測定手段と、該pHの測定値に基づいて、該循環水に処理薬剤を添加する薬剤添加手段とを有する湿式塗装ブース循環水の処理装置において、pH計を備えた計測槽と、該計測槽に該循環水の一部を導入する循環水導入手段と、該計測槽に清澄水を導入する清澄水導入手段と、該循環水導入手段及び清澄水導入手段並びに前記薬剤添加手段を制御する制御手段とを備え、該制御手段は、該循環水導入手段による計測槽への循環水の導入と、該清澄水導入手段による計測槽への清澄水の導入とを交互に行い、該循環水導入手段による循環水導入期間中に、前記pH計によるpH測定を行うことを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理装置。
]において、前記計測槽は、導入水が貯留される貯留部と、該貯留部から貯留水を溢流させる溢流部とを有しており、前記pH計は、該貯留部に設けられており、前記循環水導入手段及び清澄水導入手段はそれぞれ循環水又は清澄水を該貯留部に導入するように設けられていることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理装置。
]において、前記制御手段は、前記循環水導入手段による循環水の導入開始後、所定時間経過後のpH計による測定値に基づいて薬注を制御することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理装置。
]のいずれかにおいて、前記清澄水導入手段により前記計測槽に導入された清澄水により、前記pH計を洗浄する手段を有することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理装置。
]のいずれかにおいて、前記制御手段は、前記清澄水導入手段により、前記計測槽に清澄水を導入した後、清澄水の導入を停止し、その後所定時間経過後に、前記循環水導入手段による循環水の導入を開始することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理装置。