【課題】焼成後の腰折れ防止効果が高く、焼成直後のソフトでしとり感がある食感を経日的に維持でき、老化しやすい冷蔵温度での老化が防止されたチルドパンを製造できる、ベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物を提供すること。
ヨウ素価52〜75のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂を、油相中に50〜95質量%含有する請求項1記載のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物。
【背景技術】
【0002】
冷蔵温度(−5〜15℃)で流通、保管及び摂取するパンとしてサンドイッチが広く知られている。サンドイッチは、食パン等を用い、組み合わせる具材が要冷蔵のものを使用した場合は、衛生面から冷蔵温度で流通、保管及び摂取することが必要である。
一方、嗜好の変化により菓子パンに要冷蔵のクリームを組み合わせたパンがヒット商品として登場してきており、このようなパンも衛生面から冷蔵温度で流通、保管及び摂取することが必要である。
【0003】
また、老化した澱粉食品は再加熱すると老化前の状態に戻ることが知られている。そのため、食パン等、フィリングのないパンの場合は、美味しく摂取するために、トーストしてから摂取するということが通常行われている。ところが、最近は、消費者の嗜好の変化や生活パターンの変化等により、トーストする時間がなかったり、冷蔵で長時間保管することが増えてきている。
【0004】
このように、冷蔵温度で流通、保管及び摂取するためのパンはチルドパンと呼ばれ、広く知られるようになってきている。しかし、上記の冷蔵温度は、澱粉の老化が最も進む温度帯であり、そのためパンがぱさついたり、硬くなったりしてしまうという問題があり、その解決はチルドパンにおける大きな課題となっている。
【0005】
この冷蔵温度におけるパンの老化防止に関する先行技術として、乳化剤、糖類、多糖類、澱粉、酵素等を用いる方法が検討されている。
特許文献1には、SFIが特定値であり、発酵乳と特定の乳化剤を組み合わせた油中水型乳化物を用いたパンの製造法が記載されている。しかし、特許文献1に記載の製造法で得られたパンは、冷蔵温度での老化を防止する効果が満足できるものではなく、そのためソフトさやしとり感を維持することができなかった。また、特許文献1に記載の製造法で得られたパンは、乳化剤の使用により風味が悪く、くちゃつき感があり、口どけの良い食感が得られないという問題点もあった。
【0006】
特許文献2には、トレハロースを含有する油中水型乳化油脂組成物を用いたパン類が記載されている。しかし、特許文献2に記載のパン類は、冷蔵温度での老化を防止する効果が不十分であった。
特許文献3には、麹粉末、デンプン糖を含むパン類製造用油脂組成物を用いたパン類が記載されている。しかし、特許文献3に記載のパン類は、冷蔵温度での老化を防止する効果が不十分であった。また、特許文献3に記載のパン類は、くちゃつき感があり、口どけの良い食感が得られず、麹粉末由来のリパーゼにより、油脂が分解され、風味が悪化するという欠点があった。
【0007】
特許文献4には、化工澱粉、アミラーゼ類、増粘剤を含有し、且つ乳化剤を含まない油脂組成物を用いたパン類が記載されている。しかし、特許文献4に記載のパン類は、冷蔵温度での老化を防止する効果が不十分であった。
特許文献5には、特定の糊料を使用する方法が記載されている。しかし、特許文献5に記載の方法は、特定の糊料を含有する可塑性油脂組成物を使用するものであり、糊料の含有量が高いため、得られるパン類の焼成初期の食感がやや硬く、さらにはプルマンブレッド等の腰高のパンであった場合に焼成後に腰折れしやすいという問題があった。
特許文献6には、特定の糊化澱粉を使用する方法が記載されている。しかし、特許文献6に記載の方法は、焼減率が高いパン限定であるため、プルマンブレッド等の型焼きのパンへの適用が困難であり、また、得られるパン類は、食感が硬く、焼成後に腰折れしやすいという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物について詳述する。
【0013】
<(1)及び(2)について>
本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物は、増粘安定剤を0.01〜5質量%、好ましくは0.05〜1.0質量%、さらに好ましくは0.1〜0.5質量%含有する。
増粘安定剤の含有量が0.01質量%未満であると本発明の効果が見られず、5質量%を超えると食感の硬いパンとなってしまう。
【0014】
本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物は、上記増粘安定剤として、少なくともキサンタンガム及び/又はグルコマンナンを含有し、好ましくはキサンタンガム及びグルコマンナンを含有する。キサンタンガム及び/又はグルコマンナンに加えて、その他の増粘安定剤をさらに用いることもできる。その他の増粘安定剤としては、例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
本発明において、増粘安定剤中に占めるキサンタンガムとグルコマンナンの合計量の割合は、好ましくは30〜100質量%、より好ましくは50〜100質量%である。
【0015】
ここで、キサンタンガム及びグルコマンナンを併用する場合、それらの含有量の質量比率(キサンタンガム:グルコマンナン)が、10:90〜95:5、特に20:80〜95:5となるように両者を含有させることが好ましい。
本発明において、キサンタンガムとグルコマンナンの質量比率が10:90よりもグルコマンナンの質量が多いとボリュームの無いパン類となりやすく、95:5よりもキサンタンガムの質量が多いと食感の硬いパン類となりやすい。
【0016】
上記キサンタンガムとしては、B型粘度計で、25℃、60rpmの条件下で測定したときのキサンタンガム1質量%水溶液の粘度が1000mPa・s以上、特に1200〜2500mPa・sである、高粘度キサンタンガムを使用することが好ましい。
本発明において、上記の測定条件で測定したときのキサンタンガム1質量%水溶液の粘度が1000mPa・sよりも低いキサンタンガムを用いると、口どけが悪いパン類となってしまいやすい。
尚、通常のキサンタンガムは、B型粘度計で、25℃、60rpmの条件下で測定したときの1質量%水溶液の粘度が100〜800mPa・s程度である。
【0017】
上記高粘度キサンタンガム及びグルコマンナンを併用する場合、それらの含有量の質量比率(高粘度キサンタンガム:グルコマンナン)が、10:90〜90:10、特に50:50〜90:10となるように両者を含有させることが好ましい。
【0018】
上記高粘度キサンタンガムは、通常のキサンタンガムを不溶性溶媒へ分散させて加熱したり、又は粉末状態のまま加熱する等の、無水条件下で加熱するという物理的加工を施すことによって得ることができる。
【0019】
上記高粘度キサンタンガムとしては、市販品を用いることもでき、該市販品としては、商品名ウルトラキサンタンV−T、ウルトラキサンタンV−7T(以上、伊那食品工業(株)製)、商品名GRINSTED Xanthan MAS−SH(ダニスコ社製)等が挙げられる。
【0020】
<(3)及び(4)について>
本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物はグリセリンモノ脂肪酸エステルを1.0〜12質量%、好ましくは2.0〜10.0質量%、より好ましくは4.0〜10.0質量%含有する。
グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量が1.0質量%未満であると本発明の効果が見られず、12質量%を超えると、ねちゃついた食感のパンになってしまうことに加え、風味が悪いパンとなってしまう。
【0021】
上記グリセリンモノ脂肪酸エステルとは、グリセリンと脂肪酸とのエステル化生成物であり、その構成脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数6〜24の飽和又は不飽和の脂肪酸が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。具体的には、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルモトイル酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、パクセン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、エルカ酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0022】
本発明では、ソフト性及び口溶けが良好なパン類を得るために、上記グリセリンモノ脂肪酸エステルとして少なくともグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルを使用することが必要である。
上記グリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの具体的な構成脂肪酸は、オレイン酸及び/又はリノール酸であることが好ましい。
本発明において、グリセリンモノ脂肪酸エステル中のグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの割合は、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%である。
【0023】
<(5)及び(6)について>
本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物は、アミラーゼを50〜6000ppm(ppmは質量基準、以下同様)、好ましくは50〜2000ppm含有する。
アミラーゼの含有量が50ppm未満であると本発明の効果が見られず、6000ppmを超えると、ねちゃつきが激しく、腰折れしやすいパンになってしまう。
【0024】
上記アミラーゼとしては、α−アミラーゼ、マルトース生成α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、イソアミラーゼの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができるが、本発明では少なくともマルトース生成αアミラーゼを使用する。
本発明において、マルトース生成αアミラーゼを使用しないと、ねちゃついた食感になったり、腰折れしやすい等の弊害が生じる。
本発明において、アミラーゼ中のマルトース生成α−アミラーゼの割合は、好ましくは20〜100質量%、より好ましくは50〜100質量%である。
【0025】
マルトース生成α−アミラーゼ製剤としては、例えば、コクラーゼ(登録商標)(三菱化学フーズ社製)、Novamyl10000BG、NovamylL(登録商標)、マルトゲナーゼ(登録商標)(以上、ノボザイムズジャパン社製)、グリンドアミル(登録商標)MAX−LIFE100(ダニスコジャパン社製)等が挙げられる。
【0026】
<油脂について>
本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物で使用する油脂としては、特に制限はなく、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、ハイエルシン菜種油、キャノーラ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、落花生油、ゴマ油、オリーブ油、カカオ脂、サル脂、牛脂、豚脂、乳脂、魚油、鯨油等の各種の植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに完全水素添加、分別及びエステル交換から選択された一又は二以上の処理を施した加工油脂や、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)等が挙げられる。本発明では、これらの食用油脂の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0027】
なかでも、本発明では、ヨウ素価52〜75のパーム分別軟部油を70質量%以上、特に90質量%以上、とりわけ100質量%含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂を、油相中に50〜95質量%、特に81〜95質量%含有させることが、しとりのある食感のパンが得られる点で好ましい。
【0028】
上記油脂配合物における上記パーム分別軟部油以外の油脂は、適宜選択することができる。例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油等の常温で液体の油脂が挙げられるが、その他に、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂、乳脂、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の常温で固体の油脂も用いることができ、更に、これらの食用油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を使用することもできる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0029】
また、本発明では、上記エステル交換油脂1質量部に対しパームステアリンを0.03〜0.3質量部、特に0.03〜0.1質量部含有させることが、体積が大きく且つソフトなパンが得られる点で好ましい。
【0030】
本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物中、油脂の含有量は、組成物基準で好ましくは51〜94質量%、より好ましくは55〜90質量%、更に好ましくは60〜85質量%である。油脂の含有量が51質量%未満では、パン生地に添加した際のパン生地への練りこまれやすさ(混合性)が悪化することに加え、得られるパン生地の伸展性が悪化することがあり、その場合、得られるパンの体積が減少し、また内相、食感、更には老化耐性も悪化してしまうおそれがある。一方、94質量%超では、上記グルコマンナン及びグリセリンモノ脂肪酸エステルを安定的に配合することが困難になってしまうおそれがある。尚、本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物に、後述のその他の成分として、油脂を含有する成分を使用した場合は、上記油脂の含有量には、それらの成分に含まれる油脂分も含めるものとする。
【0031】
<その他の点について>
本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物における水分含有量は、組成物基準で好ましくは5〜48質量%、より好ましくは9〜44質量%、更に好ましくは14〜39質量%である。ここで、水分含有量が、組成物基準で5質量%未満であると、上記増粘安定剤を安定的に配合することが困難になってしまうおそれがある。また、得られるパン生地の伸展性が悪化するおそれがあることに加え、パン生地が乾きやすいため、得られるパンの体積が減少し、食感や老化耐性が悪化してしまうおそれもある。一方、48質量%超では、得られるパン生地が、べとつきやすく、油脂分が分離しやすくなる。尚、本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物に、後述のその他の成分として、水分を含有する成分を使用した場合は、上記水分含有量には、それらの成分に含まれる水分も含めるものとする。
尚、本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物でいう油中水型には、油中水中油型を含むものとする。
【0032】
本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物には、必要に応じ、一般のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物に使用することのできる上記以外のその他の成分を使用することができる。該その他の成分としては、例えば、アミラーゼ以外の酵素、酸化剤、アミノ酸類、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、牛乳・練乳・脱脂粉乳・乳清ミネラル・カゼイン・ホエーパウダー・乳脂肪球皮膜蛋白質・バター・クリーム・ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・発酵乳等の乳や乳製品、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β−カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白卵及び各種卵加工品、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
上記その他の成分は、本発明の効果を損なわない限り、任意に使用することができるが、本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物中、合計で好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下となる範囲で使用する。
【0033】
次に、本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物の好ましい製造方法について説明する。
例えば、まず、食用油脂を加温し、これにグリセリンモノ脂肪酸エステル、増粘安定剤、必要によりその他の成分を添加し、油相とする。また、水に必要によりその他の成分を添加し、水相とする。上記の油相を加熱溶解し、水相を加え、混合し、油中水型の乳化油脂組成物とする。
そして、次に殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。
次に、冷却し、可塑化する。本発明において、上記の冷却は好ましくは−0.5℃/分以上、より好ましくは−5℃/分以上とする。この際、徐冷却より急速冷却の方が好ましい。冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えばボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。
【0034】
ここで、アミラーゼは上記の油相及び/又は水相に含有させることができ、あるいは可塑化後に添加混合することもできるが、熱安定性に欠けるアミラーゼは、可塑化後に添加混合することが好ましい。
尚、増粘安定剤、グリセリンモノ脂肪酸エステル、アミラーゼの添加量は上述のとおりである。
また、上記のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物を製造する際の何れかの製造工程で、窒素、空気等を含気させても、含気させなくても構わない。
【0035】
以上のようにして得られた本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物は、山形食パン、角型食パン、コッペパン、バラエティブレッド、ロールパン、菓子パン、スイートロール、デニッシュ・ペストリー、バンズ、ブリオッシュ、マフィン、ベイグル、スコーン、イングリッシュマフィン、ドーナツ、ピザ、蒸しパン、ワッフル等の各種パン生地に用いることができるが、本発明では、優れた改良効果が顕著に奏される点で、型焼きである山形食パン、角型食パン用のパン生地に用いることが好ましい。
【0036】
上記パン生地における本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物の使用量は、従来のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物と同様であり、パンの種類によっても異なるが、パン生地に含まれる穀粉類100質量部に対し、好ましくは2〜30質量部、より好ましくは4〜20質量部である。
【0037】
上記穀粉類としては、小麦粉(薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉)をはじめ、小麦胚芽、全粒粉、小麦ふすま、デュラム粉、大麦粉、米粉、ライ麦粉、ライ麦全粒粉、大豆粉、ハトムギ粉、粟粉等の穀粉や、アーモンド粉、へーゼルナッツ粉、カシュ―ナッツ粉、オーナッツ粉、松実粉等の堅果粉、小麦澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉等の澱粉、これらに対し糊化、リン酸架橋等の処理を施した加工穀粉や加工澱粉等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。本発明では、これらの中でも、小麦粉を、穀粉類中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは100質量%使用する。
【0038】
上記パン生地には、穀粉類及び本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物以外に、通常のパン生地に使用可能な原料(以下、その他の原料という)を特に限定せず使用することができる。
該その他の原料としては、例えば、水、本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物以外の油脂、イースト、糖類や甘味料、増粘多糖類、着色料、酸化防止剤、デキストリン、乳や乳製品、チーズ類、蒸留酒、醸造酒、各種リキュール、乳化剤、膨張剤、無機塩類、食塩、ベーキングパウダー、イーストフード、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、ハーブ、豆類、蛋白質、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、各種食品素材や食品添加物等を挙げることができる。
【0039】
上記その他の原料は、本発明の効果を損なわない限り、任意に使用することができるが、増粘多糖類、乳化剤、アミラーゼについては、本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物に含まれるため、別途使用しないことが好ましい。また、水については、好ましくは、上記穀粉類100質量部に対して合計で30〜100質量部、より好ましくは30〜80質量部となる範囲で使用する。また、水以外のその他の原料については、好ましくは、上記穀粉類100質量部に対して合計で100質量部以下、より好ましくは50質量部以下となる範囲で使用する。
【0040】
上記パン生地は、本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物を生地製造の際に練り込むことにより、製造することができる。
上記パン生地を得る際には、中種法、直捏法、液種法、中麺法、湯種法等、従来から製パン法として使用されているあらゆる製パン法を採ることができる。尚、中種法で製造する場合は、本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物を中種生地及び/又は本捏生地に練り込むことにより製造することができる。
また、得られたパン生地は、冷蔵、冷凍保存することが可能である。
【0041】
そして、上記パン生地を、適宜、分割、成形し、必要に応じホイロ、リタード、レストをとった後、加熱処理することによりパンを得ることができる。
上記成形の際には、任意の形状に成形することができ、型詰めを行うこともできる。これらの成形は、手作業で行うことができ、あるいは連続ラインを用いて全自動で行うこともできる。
上記加熱処理としては、焼成、蒸し、フライ等を挙げることができ、これらのうちの2種以上の加熱処理を併用することもできる。
【0042】
上記のようにして得られたパンは、焼成後の腰折れが防止され、焼成直後のソフトでしとり感がある食感を経日的に維持でき、老化しやすい冷蔵温度での老化が防止されたものである。
そのため、本発明においては、上記パンは、冷蔵温度で流通、保管及び摂取するためのパン、すなわちチルドパンであることが好ましい。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例、比較例等によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等によって制限されるものではない。
【0044】
<ベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物の製造>
〔実施例1〕
パームオレイン(ヨウ素価65)のランダムエステル交換油95質量%、及びパームステアリン5質量%からなる混合油脂80質量部を60℃前後に加温し、グリセリンモノステアリン酸エステル5質量部、グリセリンモノオレイン酸エステル1質量部、高粘度キサンタンガム0.2質量部、グルコマンナン0.03質量部、香料0.03質量部、及び酸化防止剤(ミックストコフェロール)0.01質量部を添加し混合した油相と、水13.43質量部に乳清ミネラル(固形分38質量%)0.3質量部を添加溶解した水相を混合攪拌し油中水型の乳化物とした。得られた乳化物を殺菌し、急冷可塑化工程(冷却速度−20℃/分以上)にかけて急冷可塑化し、ここにマルトース生成α−アミラーゼ(細菌由来、至適温度60〜85℃)200ppmを添加し、均一に混合し、さらに冷却し、本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物Aを得た。
尚、用いた高粘度キサンタンガムは、GRINSTED Xanthan MAS−SH(ダニスコ社製)であり、この高粘度キサンタンガムは、B型粘度計で、25℃、60rpmの条件下で測定したとき、キサンタンガム1質量%水溶液の粘度が1800mPa・sであった。
【0045】
〔実施例2〕
グルコマンナンを無添加とし、水13.43質量部を13.46質量部とした以外は実施例1と同様の配合・製法で、本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物Bを得た。
【0046】
〔実施例3〕
パームステアリン5質量%をパーム油5質量%に変更した以外は実施例1と同様の配合・製法で、本発明のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物Cを得た。
【0047】
〔比較例1〕
高粘度キサンタンガム及びグルコマンナンを無添加とし、水13.43質量部を13.66質量部に変更した以外は実施例1と同様の配合・製法で、比較例のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物Dを得た。
【0048】
〔比較例2〕
グリセリンモノステアリン酸エステル5質量部を6質量部に変更し、グリセリンモノオレイン酸エステルを無添加とした以外は実施例1と同様の配合・製法で、比較例のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物Eを得た。
【0049】
〔比較例3〕
グリセリンモノステアリン酸エステル5質量部を0.5質量部に変更し、グリセリンモノオレイン酸エステル1質量部を0.1質量部に変更した以外は実施例1と同様の配合・製法で、比較例のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物Fを得た。
【0050】
〔比較例4〕
マルトース生成α−アミラーゼを無添加とした以外は実施例1と同様の配合・製法で、比較例のベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物Gを得た。
【0051】
<プルマンブレッド(角型食パン)の製造>
実施例1〜3及び比較例1〜4で得られたベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物A〜Gを練り込み用油脂として用い、以下の配合と製法にてプルマンブレッドをそれぞれ製造した。
【0052】
(配合・製法)
強力粉70質量部、イーストフード0.1質量部、イースト2.2質量部、及び水40質量部をミキサーボールに投入し、たて型ミキサーにてフックを使用して、低速で3分、中速で2分ミキシングし、中種生地(捏ね上げ温度26℃)を得た。得られた中種生地は28℃、相対湿度80%にて4時間の中種発酵を取った。
中種発酵を終えた中種生地に、強力粉30質量部、上白糖6質量部、食塩1.8質量部、脱脂粉乳2質量部、及び水24質量部を添加し、たて型ミキサーにてフックを使用して、低速で3分、中速で3分ミキシング後、ベーカリー用可塑性油中水型乳化油脂組成物6質量部を添加し、低速で3分、中速で4分ミキシングし、プルマンブレッド生地(捏ね上げ温度27℃)を得た。得られたプルマンブレッド生地は、30分のフロアタイムをとり、分割(230g)し、20分のベンチタイムをとった後、モルダーで成型し3斤型のプルマン型に6個入れた。38℃、相対湿度80%、60分のホイロを取った後、ふたをして、200℃のオーブンで40分焼成し、プルマンブレッドを得た。
【0053】
<評価方法及び評価基準>
上記のようにして得られたプルマンブレッドについて、下記の評価基準に従って外観(腰折れ)の評価を行い、さらに、チルドパンとした場合の食感(しとり、ソフトさ、口溶け)の評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
・外観(腰折れ)
焼成したプルマンブレッドを室温で1時間置き、腰折れの程度を目視により下記の評価基準にしたがって評価した。
◎:腰折れは全く見られなかった。
○:若干の焼き細りはあるが、腰折れは見られなかった。
△:若干の腰折れが見られた。
×:激しい腰折れが見られた。
【0055】
・食感(しとり、ソフトさ、口溶け)
焼成したプルマンブレッドを室温で1時間置き、熱が取れた後、ポリエチレン袋に密封し、25℃で24時間保管し、冷蔵庫(5℃)で24時間保管後の食感を食感1とした。
焼成したプルマンブレッドを室温で1時間置き、熱が取れた後、ポリエチレン袋に密封し、25℃で24時間保管し、冷蔵庫(5℃)で48時間保管後の食感を食感2とした。
食感の評価は、パネラー10人にて、プルマンブレッドのしとり、ソフトさ及び口溶けそれぞれに関し、良好な順に3点、2点、1点の3段階で行った。表1には、その合計点数が25点以上の場合を◎、24〜20点の場合を○、19〜15点の場合を△、14点以下の場合を×として示した。
【0056】
【表1】