【解決手段】予め用意したマーカー29を表すテンプレート画像を用いて二つの透視画像上でテンプレートマッチングを実施し、マッチングスコアが高い位置をマーカー29位置の候補としてリスト化する。マーカー29位置の2つの候補リストから全組み合わせに対して共通垂線の長さを計算する。その上で、マッチングスコアと共通垂線とに基づいてマーカー29の位置を検出する。そして検出したマーカー29の位置に基づいて標的に照射する陽子線の出射の制御を行う。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の放射線照射システムおよび動体追跡装置の実施形態を、
図1乃至
図8を用いて説明する。
【0017】
本発明は、X線照射システムや陽子線照射システム、例えば炭素等の重粒子を標的に照射する重粒子線照射システムなどの放射線照射システムであり、本実施形態では、照射する放射線として陽子を用いる陽子線照射システムを例にして説明する。
【0018】
図1は本実施形態の陽子線照射システムの全体構成を示す図である。
【0019】
図1において、陽子線照射システムは、陽子線発生装置(放射線発生装置)10、ビーム輸送系20、照射ノズル22、動体追跡装置38、カウチ27、制御装置40等を備えている。
【0020】
陽子線発生装置10は、イオン源12、ライナック13、シンクロトロン11を備える。シンクロトロン11は、偏向電磁石14、四極電磁石(図示せず)、高周波加速装置18、高周波出射装置19、出射用デフレクタ17等を備える。イオン源12はライナック13に接続されており、ライナック13はシンクロトロン11に接続されている。陽子線発生装置10では、イオン源12より発生した陽子線はライナック13により前段加速され、シンクロトロン11に入射する。シンクロトロン11でさらに加速された陽子線はビーム輸送系20に出射される。
【0021】
ビーム輸送系20は、複数の偏向電磁石21と四極電磁石(図示せず)を備えており、シンクロトロン11と照射ノズル22に接続されている。また、ビーム輸送系20の一部と照射ノズル22は筒状のガントリー25に設置されており、ガントリー25と共に回転することができる。シンクロトロン11から出射された陽子線は、ビーム輸送系20内を通過しながら四極電磁石によって収束し、偏向電磁石21によって方向を変えて照射ノズル22に入射する。
【0022】
照射ノズル22は2対の走査電磁石と、線量モニタと、位置モニタ(いずれも不図示)とを備えている。2対の走査電磁石は、互いに直交する方向に設置されており、標的の位置においてビーム軸に垂直な面内の所望の位置に陽子線が到達するように陽子線を偏向することができる。線量モニタは照射された陽子線の量を計測する。位置モニタは陽子線が通過した位置を検出することができる。照射ノズル22を通過した陽子線は照射対象26内の標的に到達する。なお、癌などの患者を治療する場合、照射対象26は患者を表し、標的は腫瘍などを表す。
【0023】
照射対象26を載せるベッドをカウチ27と呼ぶ。カウチ27は制御装置40からの指示に基づき、直交する3軸の方向へ移動することができ、さらにそれぞれの軸を中心として回転することができる。これらの移動と回転により、照射対象26の位置を所望の位置に移動することができる。
【0024】
制御装置40は、陽子線発生装置10、ビーム輸送系20、照射ノズル22、動体追跡制御装置41、カウチ27、データベース42、コンソール43などと接続されており、これらの機器を制御する。
【0025】
動体追跡装置38は、2つの透視用X線発生装置23A,23Bと2つのX線測定器24A,24BからなるX線透視装置と、動体追跡制御装置41とを備える。
【0026】
透視用X線発生装置23AおよびX線測定器24Aと透視用X線発生装置23BおよびX線測定器24Bとの2組は、それぞれのX線の経路が交差するように設置されている。なお、2対の透視用X線発生装置23A,23BとX線測定器24A,24Bは、互いに直交する方向に設置されることが好ましいが、直交していなくてもよい。また、透視用X線発生装置23A,23BおよびX線測定器24A,24Bは、必ずしもガントリー25の内部に配置されている必要はなく、天井や床などの固定された場所に配置されていても良い。
【0027】
動体追跡制御装置41は、X線透視装置から入力される信号に基づいて、マーカー29の位置を演算し、その上で、マーカー29の位置に基づいて陽子線の出射を許可するか否かを判定し、陽子線の照射の可否の信号を制御装置40に対して送信する。この動体追跡制御装置41と上述した制御装置40とで制御部39は構成される。
【0028】
より具体的には、動体追跡制御装置41は、
図2に示すように、ふたつの透視用X線発生装置23A,23Bから発生させたX線によりマーカー29を撮像すると、それぞれのX線測定器24A,24Bにマーカー29が投影される。動体追跡制御装置41は、取得した2つの透視画像から照射対象26内に埋め込まれたマーカー29の3次元位置を演算し、その結果に基づいてマーカー29の位置に基づいて陽子線の出射を許可するか否かを判定する。例えば、マーカー29の位置から求めた標的の位置が予め指定したゲート範囲(照射許可範囲)に入っているか否かを判定し、標的の位置がゲート範囲に入っていると判定された場合はゲートオン信号を制御装置40に対して送信する。これに対し標的の位置がゲート範囲に入っていないと判定された場合は、ゲートオフ信号を送信して出射を許可しない。
【0029】
X線透視装置による透視画像の取得は、例えば30Hzの一定間隔で実施される。取得した透視画像には体内に埋め込まれたマーカー29が写っており、予め用意したマーカー29のテンプレート画像とのテンプレートマッチングによりマーカー29の照射対象26内における位置を特定する。透視画像の全範囲を探索すると探索に時間を要するため、ひとつ前の透視画像におけるマーカー29の位置を中心として予め定められた大きさの範囲内でのみマーカー29の位置を探索する。
【0030】
図3にテンプレートマッチングにより検出したマーカー29のX線測定器24A,24B上における位置と透視用X線発生装置23A,23Bを結ぶ2本の線を示す。この2本の線は、理想的には1点で交わりその交点がマーカー29の存在する位置である。
【0031】
しかし、実際には、テンプレートマッチングの精度やX線透視装置の設置誤差などから、通常2本の線は交わらずにねじれの関係にある。このねじれの関係にある2本の線が最も接近する位置には共通の垂線を引くことができる。この共通の垂線を共通垂線30と呼ぶ。そして、共通垂線30の中点をマーカー29の位置としている。
【0032】
ここで、少なくとも片方の透視画像上でマーカー29を正しく検出していない場合、共通垂線は長くなる。これを利用して、共通垂線30の長さが予め設定した閾値を超えた場合、マーカー29を正確に検出できていない可能性が高いとして、動体追跡制御装置41はマーカー29の位置がゲート範囲内にある場合でもゲートオフ信号を制御装置40に送信して陽子線の照射を停止させている。
【0033】
本実施形態の動体追跡制御装置41の特徴は、このマーカー29を検出する方法にある。テンプレートマッチングでは、予め用意したマーカー29のテンプレート画像と透視画像を比較してマッチングスコアと呼ばれるテンプレート画像との一致度を計算する。このマッチングスコアが高いほど探索中の透視画像とテンプレート画像が一致していることを表す。
【0034】
マーカーの位置の検出方法としては、例えば、探索範囲内におけるマッチングスコアが最も高い位置をマーカー29の位置として検出する方法がある。
【0035】
これに対し、本実施形態の動体追跡制御装置41では、X線測定器24A,24Bのそれぞれで得られた透視画像からマーカー29の位置の候補を1つ以上検出し、この候補の検出の確かさを表す値を求める。またX線測定器24A,24Bのそれぞれで検出したマーカー29の候補の位置の相関を表す値を求める。その後、この検出の確かさを表す値および相関を表す値に基づいてマーカー29の位置を検出する。そして、この検出したマーカー29の位置に基づいて、信号を制御装置40に対して出力することで、照射対象26内の標的に照射する陽子線を制御する。
【0036】
ここで、検出の確かさを表す値を、X線測定器24Aで得られた透視画像におけるテンプレートマッチングにおけるマッチングスコアとX線測定器24Bで得られた透視画像におけるテンプレートマッチングにおけるマッチングスコアとする。また、マーカー29の候補の位置の相関を表す値を、X線測定器24Aで得られた透視画像におけるマーカー29の候補の位置に対応するX線測定器24A上の位置とX線発生装置23Aとを結ぶ線、およびX線測定器24Bで得られた透視画像におけるマーカー29の候補の位置に対応するX線測定器24B上の位置とX線発生装置23Bとを結ぶ線の2つの線の間を最短で結ぶ共通垂線の長さとする。
【0037】
また、動体追跡制御装置41は、検出の確かさを表す値であるマッチングスコアまたは相関を表す値である共通垂線に重み付けを行い、この重み付けの結果に基づいてマーカー29の位置を検出するようになっている。
【0038】
より具体的には、マッチングスコアの最低値として透視画像A61の最低マッチングスコアT
Aと透視画像B62の最低マッチングスコアT
Bを、コンソール43から予め値を設定しておく。この仕様については詳しくは後述する。
図4にX線測定器24Aで得られた透視画像A61とX線測定器24Bで得られた透視画像B62を示す。それぞれの透視画像内に探索範囲A63と探索範囲B64がある。
図4では、それぞれの探索範囲内におけるマッチングスコアが予め定めた最低マッチングスコアT
A,T
Bを上回った位置が3か所ずつある場合を示している。
図4では、黒丸で塗りつぶされたものを実際のマーカー29の投影像とする。
【0039】
次いで、動体追跡制御装置41は、透視画像A61と透視画像B62のそれぞれに対してそれぞれ最低マッチングスコアT
A,T
Bを上回るマーカー29の候補の位置をリスト化する。
【0040】
ここで、透視画像A61や透視画像B62のそれぞれで作成したリストの中で、マーカー29の候補として選ばれたものの中で同じ候補を選択していると判断される一群が存在するときは、マッチングスコアが最も高い候補をその一群におけるマーカー29の候補の位置として扱い、その一群における他の候補はリストから削除する。例えば、マーカー29の大きさ程度より近接したものがある場合は、近接したもののうち最もスコアが高いものを残して他の候補はリストから削除する。このように近接候補を削除するための同じ候補を選択していると判断するための基準となる範囲は、予めコンソール43上から設定する。
図5に削除後のマーカー29の候補のリストを示す。
【0041】
次いで、動体追跡制御装置41は、透視画像A61と透視画像B62のリストに挙げられた候補の全ての組み合わせに対して共通垂線の長さを計算する。
図6に組み合わせリストを示す。ひとつの組み合わせに対して2つのマッチングスコアと共通垂線の長さが求められ、この3つのパラメータに基づいてマーカー29を検出する。透視画像Aに対するスコアをS
A、透視画像Bに対するスコアをS
B、共通垂線の長さをLとしたときに、評価関数F=w
A×S
A+w
B×S
B+w
L×(1/L)を計算する。ここで、w
A、w
B、w
Lは、それぞれの項の重みである。これらの重みは、後述する
図7Bに示すような画面からコンソール43を見ながら設定することができる。
【0042】
次いで、動体追跡制御装置41は、全ての組み合わせの中でFが最大となるものを選び、その共通垂線の中点をマーカー29の位置として検出する。その上で、検出した位置が予め指定されたゲート範囲の中であれば、動体追跡制御装置41はゲートオン信号を制御装置40に送信して陽子線の照射を許可し、ゲート範囲の外であれば、動体追跡制御装置41はゲートオフ信号を制御装置40に送信して陽子線の照射を許可しない。
【0043】
また、動体追跡制御装置41は、マーカー29の位置として選択された組み合わせにおける透視画像A61におけるテンプレートマッチングでのマッチングスコアや透視画像B62におけるテンプレートマッチングでのマッチングスコアと予め定めた第1所定値との大小を比較し、その結果をコンソール43に対して出力する。なお、マーカー29の位置の候補の数を比較対象としてもよいし、候補の数自体を所定の値と比較し、その結果をコンソール43に対して出力するようにしてもよい。
【0044】
図4から
図6の例では、マッチングスコアのみを判断基準とした場合であれば、透視画像A61と透視画像B62で共にマッチングスコアが最も高い1番の候補(各々1番と1番)を選択していた。この場合、透視画像A61では誤検出していることになる。
【0045】
しかし、本実施形態であれば、
図6の表のFの値が最も大きい透視画像Aの2番と透視画像Bの1番の組み合わせがマーカー29として検出される。
【0046】
なお、Fが最大となる組み合わせの透視画像A61と透視画像B62でのマッチングスコアの少なくとも一方が、それぞれのリストの中で最高のものではなかった場合は、マーカー29の検出精度が低下していることが考えられるため、測定したマーカー29の位置がゲート範囲の中にある場合でもゲートオフ信号を送信するように設定したり、後述するコンソール43上に共通垂線に関する情報と共に、マッチングスコアに関するアラートを表示することも可能である。
【0047】
上述の本実施形態の陽子線照射システムは、スポットスキャニング法と呼ばれる照射方法を採用したものである。スポットスキャニング法は、細い陽子線が形成する線量分布を並べて標的の形状に合わせた線量分布を形成する方法である。陽子線は、体内でエネルギーを損失しながら進み、停止直前にエネルギー損失が最大になる特徴がある。このエネルギー損失による線量分布の形状は、ブラッグカーブと呼ばれ、飛程終端にピークを有する。陽子線がピークを形成する深さは、陽子線のエネルギーを変更することにより調整することができる。また、陽子線が形成するビーム軸に垂直な方向の線量分布形状は、概ね正規分布である。ビーム軸に垂直な方向の線量分布を形成する位置は、走査電磁石により陽子線を走査することにより調整することができる。エネルギーの変更と走査電磁石による走査を組み合わることで標的全体に一様な線量分布を形成することができる。
【0048】
図1に戻り、データベース42には治療計画装置などにより作成された照射のためのパラメータが保存されており、制御装置40は、照射前にデータベース42から必要な情報を受信する。
【0049】
コンソール43は、制御装置40や動体追跡制御装置41と接続されており、制御装置40と動体追跡制御装置41から取得した信号に基づいて画面上に情報を表示する。また、コンソール43は、陽子線照射システムを操作するオペレータからの入力を受け取り、制御装置40と動体追跡制御装置41に様々な制御信号を送信する。例えば、コンソール43は、X線透視装置によって得られた透視画像やマーカー29の追跡状況を表示する。また、コンソール43から、マーカー29の追跡に必要なパラメータを設定することができる。
【0050】
図7Aおよび
図7Bに、コンソール43に表示される動体追跡制御装置41に関係する動体追跡用の画面を示す。
【0051】
図7Aの画面上には、X線測定器24Aで得られた透視画像A61とX線測定器24Bで得られた透視画像B62とが表示されている。また、透視画像A61の左側には、透視開始ボタン50、ゲートスタートボタン51、設定ボタン52、追跡ロックボタン53が表示されている。更に、透視画像B62の下側には、X線測定器24Aで得られた透視画像A61におけるテンプレートマッチングで得られたマッチングスコアと予め定めた第1所定値との大小を比較した結果を色分けで表示する結果表示部54a、X線測定器24Bで得られた透視画像A61におけるテンプレートマッチングで得られたマッチングスコアと予め定めた第1所定値との大小を比較した結果を色分けで表示する結果表示部54bも表示されている。なお、結果表示部54a,54bは色分け表示に限られず、数値そのものを表示するようにしてもよい。
【0052】
図7Aに示す設定ボタン52が押下されると、
図7Bの画面が表示される。
図7Bの画面には、上述した評価関数の重みとなるw
Aの入力部55、w
Bの入力部56、w
Lの入力部57や、X線測定器24Aで得られた透視画像A61における最低マッチングスコアT
Aの入力部58、X線測定器24Bで得られた透視画像B62における最低マッチングスコアT
Bの入力部59がある。
【0053】
追跡ロックボタン53が押下されると、動体追跡制御装置41は、検出の確かさを表す値および相関を表す値に基づいて追跡対象の位置を検出する第1モードと、検出の確かさを表す値のみに基づいて追跡対象の位置を検出する第2モードと、を切り替える。
【0054】
次に、陽子線を照射する場合の手順について説明する。
【0055】
最初に、カウチ27の上に照射対象26を固定する。その後、カウチ27を動かして照射対象26を予め計画した位置に移動する。この際、X線透視装置を用いて透視画像を撮像することにより、照射対象26が予め計画した位置に移動したことを確認する。
【0056】
オペレータによりコンソール43上の照射準備ボタンが押下されると、制御装置40は、データベース42からガントリー角度とエネルギーとスポットの情報を読み込む。読み込んだガントリー角度に合わせて、オペレータは、コンソール43からガントリー回転ボタンを押下しガントリー25を回転させる。
【0057】
ガントリー25の回転後、オペレータはコンソール43から透視開始ボタン50を押下して動体追跡制御装置41にX線透視を開始させる。
【0058】
X線透視開始後、オペレータは追跡したいマーカー29を画面上で選択することにより、それぞれの透視画像上でマーカー29の追跡を開始する。マーカー29の追跡にはテンプレートマッチングを用いる。テンプレートマッチングでは、予めテンプレート画像として登録されたマーカー29画像のパターンに最も合う位置を透視画像上で探索する。それぞれの透視画像上でマッチングスコアが最大の位置をマーカー29として検出し追跡する。
【0059】
ふたつのX線透視装置に対応するふたつの透視画像上でマーカー29の追跡の開始を確認した後、追跡ロックボタン53を押下する。追跡ロックボタン53の押下後のマーカー29の追跡方法は、上述したそれぞれのマッチングスコアと共通垂線の長さを考慮した評価関数を用いたマーカー29の検出である第1モードを実施する。ゲート範囲を設定し、マーカー29の追跡ができていることを確認した後、ゲートスタートボタン51を押下する。ゲートスタートボタン51の押下により、マーカー29の位置がゲート範囲内にあれば動体追跡制御装置41から制御装置40に向けてゲートオン信号が送信される。なお、追跡ロックボタン53を設けずに、ふたつの透視画像でマーカー29の追跡が開始されると自動的にそれぞれのマッチングスコアと共通垂線の長さを考慮したマーカー29の検出方法に移行することもできる。
【0060】
オペレータがコンソール43上の照射開始ボタンを押下すると、制御装置40は、データベース42から読み込んだエネルギーとスポットの情報に基づき、最初に照射するエネルギーまで陽子線を加速する。
【0061】
具体的には、制御装置40は、イオン源12とライナック13を制御して、イオン源12で発生させた陽子線をライナック13により前段加速し、シンクロトロン11へ入射させる。
【0062】
次いで、制御装置40は、シンクロトロン11を制御して、入射した陽子線を最初に照射するエネルギーまで加速する。シンクロトロン11を周回する陽子線は、高周波加速装置18からの高周波により加速される。制御装置40は、最初に照射するエネルギーの陽子線がシンクロトロン11から照射ノズル22へ到達できるようにビーム輸送系20の偏向電磁石21と四極電磁石の励磁量を制御する。また、データベース42からのスポット情報にある最初に照射するスポット位置に陽子線が到達するように照射ノズル22内の2台の走査電磁石の励磁量を設定する。
【0063】
これらの設定が完了した後、動体追跡制御装置41から制御装置40がゲートオン信号を受信していれば陽子線の照射を開始する。また、ゲートオフ信号を受信していれば、ゲートオン信号を受信するまで待機する。
【0064】
ゲートオン信号を受信した後、制御装置40は高周波出射装置19に高周波を印加して陽子線の出射を開始する。高周波出射装置19に高周波が印加されるとシンクロトロン11内を周回する陽子線の一部が出射用デフレクタ17を通過してビーム輸送系20を通過し照射ノズル22に到達する。照射ノズル22に到達した陽子線は2台の走査電磁石により走査され、線量モニタと位置モニタを通過して照射対象26の標的に到達し線量分布を形成する。スポット毎の照射量はデータベース42からのスポット情報に登録されており、線量モニタが測定した照射量がスポット情報に登録された値に到達すると制御装置40は出射用高周波を制御して陽子線の出射を停止する。陽子線の出射後、制御装置40は位置モニタが測定した陽子線の位置情報から標的位置での陽子線の到達位置を計算し、スポット情報に登録された位置と一致することを確認する。
【0065】
制御装置40は次のスポットを照射するため、スポット情報に登録されている位置に陽子線が到達するように走査電磁石の励磁量を設定する。設定完了後、ゲートオン信号を受信し続けていれば制御装置40は出射用高周波を制御して陽子線の出射を開始する。ゲートオフ信号を受信していれば、ゲートオン信号を受信するまで待機する。あるスポットの照射の途中でゲートオフ信号を受信した場合には、照射中のスポットの照射が完了するまでは陽子線の出射を継続する。
【0066】
スポットの照射を繰り返し、最初のエネルギーで照射するスポットの照射を全て完了すると、制御装置40はシンクロトロン11を制御して陽子線を減速させ、次のエネルギーの陽子線の照射準備を開始する。制御装置40は、最初のエネルギーの場合と同様に、イオン源12とライナック13を制御して陽子線をシンクロトロン11に入射させ、シンクロトロン11を制御して2番目のエネルギーまで陽子線を加速する。制御装置40は、ビーム輸送系20と走査電磁石を制御してスポットの照射を継続する。
【0067】
以上の動作を繰り返し、データベース42から読み込んだ全てのスポットを照射する。照射が完了すると、制御装置40から動体追跡制御装置41に照射完了信号が送信される。照射完了信号を受信した動体追跡制御装置41は透視用X線発生装置23A,23Bを制御してX線の透視を停止する。
【0068】
標的を複数の方向から照射する場合、ガントリー25の角度とカウチ27の位置を変更した後、オペレータが照射準備ボタンを押下して陽子線の照射を同様に繰り返す。
【0069】
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0070】
上述した本発明の放射線照射システムおよび動体追跡装置の実施形態では、予め用意したマーカー29を表すテンプレート画像を用いて二つの透視画像上でテンプレートマッチングを実施し、マッチングスコアが高い位置をマーカー29位置の候補としてリスト化する。マーカー29位置の2つの候補リストから全組み合わせに対して共通垂線の長さを計算する。その上で、マッチングスコアと共通垂線とに基づいてマーカー29の位置を検出する。そして検出したマーカー29の位置に基づいて標的に照射する陽子線の出射の制御を行う。
【0071】
よって、照射対象26が厚いなどの事情によりX線撮影条件が厳しい場合であっても動体追跡装置38はマーカー29を追跡することができる。従って、マーカー29を見失う頻度が低減することにより、マーカー29を見失った場合にオペレータが動体追跡装置にマーカー29を高い精度で再検出させる手間を省略することができ、照射時間を短縮することが可能である。また、照射時間が短くなることにより、X線の透視回数を削減することができ、照射対象26の被ばく線量の低減も図ることができる。更に、透視画像の質が低下した場合にもマーカー29を追跡できるため、X線透視装置におけるX線の強度を低下させてもマーカー29の追跡を行うことができ、同様に照射対象26の被ばく線量の低減を図ることができる。
【0072】
また、相関を表す値は、透視画像A61,透視画像B62上における候補の位置に対応するX線測定器24A,24B上の位置とX線発生装置23A,23Bとを結ぶ2以上の線の間を最短で結ぶ共通垂線の長さである。上述のように、追跡対象の誤検出は共通垂線の長さが長くなることにより検出されることから、相関を表す値として共通垂線の長さを用いることによって、マーカー29の検出精度を高くすることができ、誤検出の頻度を低減することができる。
【0073】
更に、動体追跡制御装置41および制御装置40は、マーカー29の位置が予め指定した範囲内にあるときに陽子線を照射することで、標的に対する陽子線の照射精度の向上を図ることができる。
【0074】
また、動体追跡制御装置41は、検出の確かさを表す値および相関を表す値に基づいてマーカー29の位置を検出する第1モードと、検出の確かさを表す値のみに基づいてマーカー29の位置を検出する第2モードと、が切り替え可能であることにより、照射対象26の状態等の照射の条件に応じたマーカー29の追跡が可能となる。
【0075】
更に、動体追跡制御装置41は、マッチングスコアと第1所定値との大小を比較し、この比較結果をコンソール43へ出力することで、マッチングスコアが低下している場合、すなわちマーカー29をロストしている状態をコンソール43上で速やかに確認することができ、速やかなマーカー29の再検出が可能となる。よって照射時間が長くなることをより確実に抑制することができ、照射時間の更なる短縮を図ることができる。
【0076】
また、動体追跡制御装置41は、マッチングスコアおよび共通垂線に重み付けを行い、この重み付けの結果に基づいてマーカー29の位置を検出することにより、X線撮影条件が厳しい場合でもより正確なマーカー29位置の検出が可能となり、照射時間の短縮により寄与することができる。
【0077】
更に動体追跡制御装置41は、検出の確かさを表す値を求める際に、同一の候補を選択していると判断されるときは、検出の確かさを表す値が最も良好となる位置をマーカー29の候補の位置と判断することで、必要以上にマーカー29の候補位置が選ばれることを抑制することができ、マーカー29位置の検出にかかる時間を短縮することができる。よって照射時間の短縮により寄与するものとなる。
【0078】
更に、動体追跡制御装置41は、Fが最大となる組み合わせの透視画像A61と透視画像B62でのマッチングスコアの少なくとも一方が、それぞれのリストの中で最高のものではなかった場合は、測定したマーカー29の位置がゲート範囲の中にある場合でもゲートオフ信号を送信するように設定することによって、標的に対する陽子線の照射精度の向上を図ることができる。
【0079】
更に、動体追跡制御装置41は、Fが最大となる組み合わせの透視画像A61と透視画像B62でのマッチングスコアの少なくとも一方が、それぞれのリストの中で最高のものではなかった場合にコンソール43上にマッチングスコアに関するアラートを表示することによって、例えばマーカー29をロストしている可能性があることをコンソール43上で速やかに確認することができ、速やかなマーカー29の再検出につなげることができる。
【0080】
また、コンソール43上に位置の相関を表す情報として共通垂線の長さを表示することによって追跡対象の誤検出に密接に関係する情報をオペレータが確認することができるため、被写体が厚い等のX線による透視条件が厳しい場合でも正確に追跡対象を検出できているか否かをオペレータは容易に判断することができる。そのため、例えばマーカー29をロストしている状態をコンソール43上で速やかに確認することができ、速やかなマーカー29の再検出が可能となる。よって照射時間が長くなることを抑制することができ、照射時間の短縮を図ることができる。
【0081】
なお、本発明は上記の実施形態に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【0082】
例えば、マッチングスコアおよび共通垂線に重み付けを行い、この重み付けの結果に基づいてマーカー29の位置を検出する場合について説明したが、透視画像A61や透視画像B62においてマッチングスコアが所定の値より高い候補の位置が複数得られるときには共通垂線が複数得られるが、複数得られる共通垂線のうち最も短いときのマッチングスコアが得られる候補位置をマーカー29の位置として検出するよう動体追跡制御装置41を構成することができる。このような構成でも、マーカー29を見失う頻度が低減し、照射時間を短縮することが可能である。この場合、例えば数秒間の追跡の間の共通垂線長の最大長が短いものをマーカー29として選択することができる。更には、このような場合に、共通垂線が短く、且つマッチングスコアが高いものをマーカー29として選択することも可能である。更に、オペレータが画面上で確認して意図したマーカー29を追跡していない場合には、オペレータが修正することもできる。
【0083】
また、マーカー29追跡の開始方法は、それぞれの画像でそれぞれテンプレートマッチングをして開始する方法を例に説明したが、この他に、片方の画像上でオペレータがマーカー29の位置を指定すると、自動でもう一方の画像上でのマーカー29の位置を認識し、その後、自動でそれぞれのマッチングスコアと共通垂線の長さを考慮したマーカー29の検出方法を開始することも可能である。
【0084】
この場合、片方の透視画像A61上でマーカー29の位置が指定されると、X線発生装置23BとX線測定器24B上におけるオペレータがクリックした位置を結ぶ線を透視画像B62上に投影した線上でテンプレートマッチングを実施する。テンプレートマッチングを実施する範囲は、投影された線を中心とした帯状の領域である。帯状領域でのテンプレートマッチングにより複数の候補を抽出し、複数の候補を数秒間追跡して継続的に評価関数Fを用いたマーカー29の位置の検出を行う。
【0085】
更に、相関を表す値として共通垂線の長さを用いたが、共通垂線の代わりに、他の長さを用いてもよい。
【0086】
例えば、
図8に示すように、透視画像Aと透視画像Bが互いに直交する軸の画像とするとき、画像Aがxy平面を投影し、画像Bがxz平面を投影する場合を考える。
図8において、点線28Aは透視用X線発生装置23Aからアイソセンタ31を通過する直線を表し、点線28Bは透視用X線発生装置23Bからアイソセンタ31を通過する直線を表す。この時、X線測定器24Aの位置と透視用X線発生装置23Aとを結ぶ点線28AとX線測定器24Bにおける位置と透視用X線発生装置23Bとを結ぶ点線28Bとは直交する。また、このときのx軸は共通である。従って、テンプレートマッチングの結果得られるマーカー29のx座標は理想的には一致し、実際はズレが生じることがある。この画像Aと画像Bから得られるx座標の差を共通垂線の長さの代わりに用いることもできる。このときのx軸を共通軸と呼び、このx軸の差分を共通軸の長さと呼ぶ。このような共通軸の長さを相関を表す値として用いることによっても、マーカー29を見失う頻度を低減させることができる。
【0087】
更には、二つの透視画像が垂直な関係ではない場合にも、二つの画像に対して平行な直線を求めることができる。この場合、その直線を共通軸として共通軸における差を共通垂線の長さの代わりとして用いることができる。
【0088】
また、上述の実施形態では球形のマーカー29の位置に基づいてゲート照射を実施する場合を例に説明したが、マーカー29の形状はコイル状であってもよい。また、追跡対象をマーカー29とした場合について説明したが、追跡対象はマーカー29に限られず、マーカー29を使用することなく標的を直接検出してもよい。または、追跡対象は照射対象26内の高密度領域、例えば肋骨等の骨などとすることができる。
【0089】
また、照射方法は、ゲート照射の代わりにマーカー29などの位置に基づいて照射位置を追尾する追尾照射であってもよい。例えばX線の追尾照射では、標的の動きに合わせて分布形成用X線発生装置の向きを変更し、標的の動きに合わせてX線の照射位置を変更する。粒子線の場合にも走査電磁石の励磁量を標的の位置に合わせて調整することにより追尾照射をすることができる。
【0090】
更に、上述の実施形態ではひとつのマーカー29を追跡する場合について説明したが、追跡するマーカー29の数は複数でもよい。複数のマーカー29を追跡することで、標的の位置情報に加えて回転や変形の情報を取得することができる。これらの回転や変形の情報に基づいてゲート照射や追尾照射を実施することができる。
【0091】
従来、複数のマーカー29を追跡する場合、一時的に複数のマーカー29が重なって透視画像に写ると、互いに離れるときに二つのマーカー29を判別することができなかった。しかしマーカー29が重なっていない他方の透視画像ではふたつのマーカー29の距離は離れているため、本発明の追跡制御を適用することにより二つのマーカー29を正しく判別して追跡することが可能である。
【0092】
また、ふたつの透視画像のうち、片方の透視画像のみマーカー29の検出が困難な場合がある。そのような場合、マーカー29の検出が容易な方の透視画像では、従来通り最もマッチングスコアの高いもののみを追跡し、マーカー29の検出が困難な透視画像のみマーカー29の候補をリスト化してそれぞれのマッチングスコアと共通垂線の長さからマーカー29を検出することも可能である。片方の透視画像のマーカー29の候補をひとつにすることで短い計算時間でより誤検出を軽減することができる。
【0093】
透視用X線も放射線の一種ではあるが、線量分布を形成する目的での使用はしないため、本明細書では、透視用X線以外の放射線の総称として分布形成用放射線を用いている。
【0094】
更に、上述の実施形態では陽子線照射システムを例に説明したが、本発明の放射線照射システムは、炭素線などの陽子線以外の粒子線、X線、電子線などを照射するシステムに対しても同様に適用することができる。
【0095】
また、粒子線照射装置の場合、上述の実施形態で説明したスポットスキャニング法の他、粒子線を停止することなく細い粒子線を照射するラスタースキャニング法やラインスキャニング法にも同様に適用することができる。また、スキャニング法の他、ワブラー法や二重散乱体法など粒子線の分布を広げた後、コリメータやボーラスを用いて標的の形状に合わせた線量分布を形成する照射方法にも本発明を適用することができる。
【0096】
また、粒子線照射システムの場合、粒子線発生装置には上述の実施形態で説明したシンクロトロン11のほかにサイクロトロンであってもよい。