【解決手段】キャパシタ10は、陽極30と、酸化層40と、誘電体層50と、陰極60とを備えている。酸化層40は、陽極30と誘電体層50との間に位置している。陽極は、Zr合金(ZrM:但し、Mは電解液中で酸化皮膜を形成できる金属元素)からなる。酸化層40は、六方最密充填構造を有するZrMの複合酸化物((ZrM)O
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ニオブのアノード酸化皮膜(誘電体層)は、結晶化に起因して使用時に特性が劣化し易い。こうした理由により、ニオブキャパシタは、未だ普及していない。即ち、タンタルキャパシタに代わるキャパシタは未だ提供されていない。
【0007】
そこで、本発明は、タンタルキャパシタに代わる新たなキャパシタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、第1のキャパシタとして、
陽極と、酸化層と、誘電体層と、陰極とを備えるキャパシタであって、
前記酸化層は、前記陽極と前記誘電体層との間に位置しており、
前記陽極は、Zr合金(ZrM:但し、Mは電解液中で酸化皮膜を形成できる金属元素)からなり、
前記酸化層は、六方最密充填構造を有するZrMの複合酸化物((ZrM)O
Y:但し、Y<2)を含んでおり、
前記誘電体層は、ZrMの複合酸化物((ZrM)O
2)を含んでいる
キャパシタが得られる。
【0009】
また、本発明によれば、第2のキャパシタとして、第1のキャパシタであって、
前記金属元素Mは、Ti,Al,Siからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である
キャパシタが得られる。
【0010】
また、本発明によれば、第3のキャパシタとして、第1又は第2のキャパシタであって、
前記誘電体層に含まれるZrMの前記複合酸化物の結晶は、正方晶構造を主体としている
キャパシタが得られる。
【0011】
また、本発明によれば、第4のキャパシタとして、第1から第3までのいずれかのキャパシタであって、
前記陽極、前記酸化層及び前記誘電体層の夫々において、Zrの含有率(質量%)は、前記金属元素Mの含有率(質量%)よりも大きい
キャパシタが得られる。
【0012】
また、本発明によれば、第5のキャパシタとして、第1から第4までのいずれかのキャパシタであって、
前記酸化層は、ZrMの低次複合酸化物((ZrM)O
X:但し、X<2)を更に含んでいる
キャパシタが得られる。
【0013】
また、本発明によれば、第1の製造方法として、
Zr合金(ZrM:但し、Mは金属元素)からなる出発材料を準備する準備ステップと、
前記出発材料に一次酸化層を形成し、これにより、前記Zr合金からなる合金層と前記一次酸化層とを含む第1中間体を作製する予備酸化ステップと、
前記第1中間体を熱処理して前記一次酸化層に含まれる酸素を前記合金層の内部に拡散させ、これにより、二次酸化層と前記陽極とを含む第2中間体を作製する拡散ステップであって、前記二次酸化層は、前記一次酸化層と、前記合金層のうちの酸素が拡散された部位とからなり、前記陽極は、前記合金層のうちの酸素が拡散されなかった部位からなる、拡散ステップと、
電解液中で前記第2中間体に電圧をかけることにより前記二次酸化層の一部をアノード酸化させ、これにより、前記二次酸化層のうちのアノード酸化された部位からなる前記誘電体層と、前記二次酸化層のうちのアノード酸化されなかった部位からなる前記酸化層とを形成する酸化ステップと、
前記陽極、前記酸化層及び前記誘電体層を、前記陰極と組み合わせる組立ステップと
を備えるキャパシタの製造方法が得られる。
【0014】
また、本発明によれば、第2の製造方法として、第1の製造方法であって、
前記酸化ステップに続く結晶化ステップを備えており、
前記酸化ステップにおいて形成された前記誘電体層は、アモルファス構造を有するZrMの複合酸化物と、正方晶構造を有するZrMの複合酸化物とを含んでおり、
前記結晶化ステップにおいて、熱処理によってアモルファス構造を有するZrMの前記複合酸化物から正方晶構造を有するZrMの前記複合酸化物を更に形成する
キャパシタの製造方法が得られる。
【0015】
また、本発明によれば、第3の製造方法として、第1又は第2の製造方法であって、
前記予備酸化ステップは、電解液中で前記出発材料に電圧をかけることにより行われる
キャパシタの製造方法が得られる。
【0016】
また、本発明によれば、第4の製造方法として、第1から第3までのいずれかの製造方法であって、
前記予備酸化ステップにおいて形成される前記一次酸化層の厚さは、前記酸化ステップにおいて形成される前記誘電体層の厚さよりも厚い
キャパシタの製造方法が得られる。
【0017】
また、本発明によれば、第5の製造方法として、第1から第4までのいずれかの製造方法であって、
前記拡散ステップにおける前記熱処理は、真空中又は不活性ガス雰囲気中で、500℃以上かつ1000℃以下の温度範囲内で行われる
キャパシタの製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0018】
一般的に、Zr合金には酸素が固溶し易い。このため、Zr合金からなる陽極にアノード酸化皮膜(誘電体層)を形成した場合、誘電体層中の酸素が陽極に拡散され、これによって使用時に誘電体層の特性が劣化し易い。一方、本発明によれば、Zr合金からなる陽極と、Zr合金の酸化物を含む誘電体層との間に、Zr合金の低次酸化物を含む酸化層が設けられている。この構造により、誘電体層に含まれる酸素の拡散が防止され、誘電体層の特性の劣化が防止できる。本発明によるキャパシタは、タンタルキャパシタに代わる新たなキャパシタとして使用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1を参照すると、本発明の実施の形態によるキャパシタ10は、Zr合金から形成された陽極構造体20を備える固体電解キャパシタである。本実施の形態におけるZr合金は、主成分であるZr(ジルコニウム)にTi(チタン)を加えた二元系合金(ZrTi)である。但し、本発明は、これに限られない。本発明によるZr合金は、Zrと、電解液中で酸化皮膜を形成できる金属元素Mとを含んでいればよい。金属元素Mは、例えばTi,Al(アルミニウム),Si(シリコン)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましい。
【0021】
キャパシタ10は、陽極構造体20に加えて、陰極60と、リード線70とを備えている。陽極構造体20は、陽極30と、酸化層40と、誘電体層50とから構成されており、陰極60は、銀ペースト層62と、カーボン層64と、導電性高分子層66とから構成されている。即ち、キャパシタ10は、陽極30と、酸化層40と、誘電体層50と、銀ペースト層62と、カーボン層64と、導電性高分子層66と、リード線70とを備えている。
【0022】
本実施の形態において、陰極60は、誘電体層50の側面全体及び下面全体に亘って形成されている。詳しくは、ポリチオフェン等の導電性ポリマーからなる導電性高分子層66が、誘電体層50を外側から覆っている。更に、カーボン層64が導電性高分子層66を外側から覆っており、銀ペースト層62がカーボン層64を外側から覆っている。リード線70は、ジルコニウム等の導電体からなる。リード線70は、陽極30に埋設されており、所定方向(
図1において上下方向)に沿って延びている。但し、本発明はこれに限定されない。陰極60は、キャパシタ10の陰極として機能する限り、どのような構造を有していてもよい。同様に、リード線70は、キャパシタ10の陽極リード線として機能する限り、どのような構造を有していてもよい。
【0023】
図1及び
図2を参照すると、陽極構造体20において、酸化層40が陽極30を外側から覆っており、誘電体層50が酸化層40を外側から覆っている。即ち、酸化層40は、陽極30と誘電体層50との間に位置している。陽極30は、Zr合金(ZrM)からなる。前述したように、Mは電解液中で酸化皮膜を形成できる金属元素であり、本実施の形態においてTiである。また、後述するように、酸化層40及び誘電体層50の夫々は、Zr合金(ZrM)を出発材料として形成されている。従って、陽極30、酸化層40及び誘電体層50の夫々は、Zrと、金属元素Mとを含んでいる。陽極30、酸化層40及び誘電体層50の夫々において、Zrの含有率(質量%)は、金属元素Mの含有率(質量%)よりも大きい。
【0024】
以下、キャパシタ10の製造方法について説明しつつ、キャパシタ10の陽極構造体20の構造について説明する。以降の説明において、金属元素MはTiであり、Zr合金は、二元系合金(ZrTi)である。但し、以降の説明は、少なくとも1種の金属元素Mを含むZr合金(ZrM)についても同様に成り立つ。換言すれば、以降の説明において、Tiを金属元素Mに読み替えることができる。
【0025】
図6を参照すると、キャパシタ10は、step1(準備ステップ)、step2(予備酸化ステップ)、step3(拡散ステップ)、step4(酸化ステップ)及びstep6(組立ステップ)を経て製造される。換言すれば、キャパシタ10の製造方法は、準備ステップと、予備酸化ステップと、拡散ステップと、酸化ステップと、組立ステップとを備えている。但し、本発明は、これに限られない。例えば、キャパシタ10の製造方法は、酸化ステップに続く結晶化ステップ(step5)を備えていてもよい。換言すれば、酸化ステップに続く結晶化ステップを行った後で、組立ステップを行ってもよい。
【0026】
図6及び
図7を参照すると、準備ステップにおいて、Zr合金(ZrTi)からなる出発材料22を準備する。出発材料22におけるZrの含有率(質量%)は、Tiの含有率(質量%)よりも大きい。例えば、出発材料22において、Zrは67質量%含まれており、Tiは33質量%含まれている。また、出発材料22は、Zr及びTiが一様に分布した合金層32のみから構成されている。出発材料22において、ZrTiは、六方最密充填構造を有している。出発材料22は、六方最密充填構造の格子間にO(酸素)を固溶させることができる。このような出発材料22は、Zr及びTiを溶かして混ぜる等の一般的に知られている様々な方法によって作製できる。
【0027】
図6から
図8までを参照すると、予備酸化ステップにおいて、出発材料22(合金層32)に一次酸化層44を形成し、これにより、第1中間体24を作製する。第1中間体24は、合金層34と、合金層34の表面を覆う一次酸化層44とを含んでいる。
【0028】
合金層34は、Zr合金(ZrTi)からなる。一次酸化層44は、ZrTiの複合酸化物からなる。この複合酸化物は、アモルファス構造を有する(ZrTi)O
2を主体としている。また、上述のように出発材料22が50質量%未満のTiを含んでいる場合、正方晶構造を有する(ZrTi)O
2も形成される。即ち、この複合酸化物は、正方晶構造を有する(ZrTi)O
2を含んでいる。
【0029】
予備酸化ステップは、例えば、電解液中で出発材料22に所定電圧をかけることにより行われる。例えば、まず、出発材料22と、白金板等からなる対極とを、ホウ酸アンモニウム等の水溶液からなる電解液中に浸漬する。次に、出発材料22に対して所定時間だけ25〜150Vの所定電圧をかけ、出発材料22の表層をアノード酸化させて一次酸化層44を形成する。このとき、所定電圧が高いほど、一次酸化層44の厚さ(T1)は厚くなる。また、所定時間が長いほど、厚さ(T1)は厚くなる。所定電圧及び所定時間を調整することで、
図8に示すように、例えば厚さ(T1)160nmの一次酸化層44が得られる。
【0030】
図8及び
図9を参照すると、予備酸化ステップによって形成された一次酸化層44は、多量の酸素を含んでいる。一方、合金層34は、酸素を殆ど含んでいない。詳しくは、一次酸化層44の酸素濃度(at%)は、一次酸化層44の表面からの深さによらず殆ど一定である。より具体的には、一次酸化層44の酸素濃度は、酸素の固溶限界値(例えば、20at%)まで高めることができる。一方、合金層34の酸素濃度は、深さに応じてゼロまで急減に低下する。
【0031】
上述したように、本実施の形態における予備酸化ステップは、出発材料22の表層をアノード酸化させるステップである。但し、本発明は、これに限られない。上述した構造を有する一次酸化層44及び合金層32が得られる限り、予備酸化ステップは、どのような方法で行ってもよい。
【0032】
図6、
図8及び
図10を参照すると、拡散ステップにおいて、第1中間体24を熱処理して一次酸化層44に含まれる酸素を合金層34の内部に拡散させ、これにより、第2中間体26を作製する。第2中間体26は、二次酸化層46と、陽極30とを含んでいる。二次酸化層46は、第1中間体24の一次酸化層44と、第1中間体24の合金層32のうちの酸素が拡散された部位とからなる。従って、二次酸化層46の厚さは、一次酸化層44の厚さ(T1)よりも厚い。
【0033】
陽極30は、合金層32のうちの酸素が拡散されなかった部位からなる。従って、陽極30は、Zr合金(ZrTi)のみからなる。一方、二次酸化層46は、ZrTiに酸素が固溶したZrTiの複合酸化物である。詳しくは、二次酸化層46は、第1層46Xと、第2層46Yとを含んでいる。第1層46Xは、第1中間体24の一次酸化層44から酸素の一部が引き抜かれることによって形成されている。これにより、第1層46Xは、基本的に、ZrTiの低次複合酸化物(ZrTi)O
X:但し、X<2)から構成されている。但し、第1層46Xは、ZrTiの複合酸化物(ZrTi)O
2)を含んでいてもよい。一方、第2層46Yは、第1中間体24の合金層32の六方最密充填構造の格子間に、一次酸化層44から拡散された酸素が固溶されることによって形成されている。これにより、第2層46Yは、第1層46Xに比べて少量の酸素を含むZrTiの複合酸化物((ZrTi)O
Y:但し、Y<X<2)から構成されている。特に、第2層46Yのうちの陽極30(ZrTi合金)との境界近傍に位置する部位は、ゼロに極めて近い酸素濃度を有する複合酸化物((ZrTi)O
Y:但し、Y≒0)から構成されている。
【0034】
拡散ステップにおける熱処理は、酸素を含まない環境中(例えば、真空中又は不活性ガス雰囲気中)で、500℃以上かつ1000℃以下の温度範囲内で行うことができる。例えば、1×10
−3Pa以下の真空中において、第1中間体24に対して550℃の熱処理を1時間施せばよい。このときの昇温速度は、例えば、10℃/minとすればよい。このとき、熱処理温度が高いほど、二次酸化層46の厚さは厚くなる。また、熱処理時間が長いほど、二次酸化層46の厚さは厚くなる。熱処理温度及び熱処理時間を調整することで、
図10に示すように、例えば160nmよりも厚い二次酸化層46が得られる。
【0035】
図8から
図11までを参照すると、上述したように、拡散ステップにおける熱処理によって、ZrTiの複合酸化物((ZrTi)O
2)に含まれていた酸素が、合金層34の内部に向かって拡散される。
図10及び
図11を参照すると、この結果、二次酸化層46の酸素濃度は不均一になる。詳しくは、二次酸化層46の表面近傍の酸素濃度は、殆どゼロになる。また、二次酸化層46の酸素濃度は、例えば酸素の固溶限界値をピークとして、所定の深さ(
図11の例において130nm)を超えると徐々に低下する。
【0036】
図6、
図10及び
図12を参照すると、酸化ステップにおいて、予備酸化ステップにおけるアノード酸化と同様な方法によって二次酸化層46の一部をアノード酸化させ、これにより、誘電体層50と、酸化層40とを形成する。誘電体層50は、二次酸化層46のうちのアノード酸化された部位からなり、酸化層40は、二次酸化層46のうちのアノード酸化されなかった部位からなる。従って、酸化層40の厚さ+誘電体層50の厚さ(T2)=二次酸化層46の厚さである。
【0037】
誘電体層50は、ZrTiの複合酸化物である。この複合酸化物は、アモルファス構造の(ZrTi)O
2を主体としており、正方晶構造の(ZrTi)O
2を含んでいる。一方、酸化層40は、二次酸化層46と同様に、ZrおよびTiに酸素が固溶したZrTiの複合酸化物である。詳しくは、酸化層40は、第1層40Xと、第2層40Yとを含んでいる。第1層40Xは、第2中間体26の二次酸化層46の第1層46Xのうちのアノード酸化されなかった部位からなる。従って、第1層40Xは、第1層46Xと同様に、ZrTiの低次複合酸化物(ZrTi)O
X:但し、X<2)から構成されている。一方、第2層40Yは、第2中間体26の二次酸化層46の第2層46Yからなる。従って、第2層40Yは、第2層46Yと同様に、ZrTiの複合酸化物((ZrTi)O
Y:但し、Y<X<2)から構成されている。特に、第2層40Yのうちの陽極30(ZrTi合金)との境界近傍に位置する部位は、ゼロに極めて近い酸素濃度を有する複合酸化物((ZrTi)O
Y:但し、Y≒0)から構成されている。
【0038】
酸化ステップにおけるアノード酸化は、電解液中で第2中間体26に所定電圧をかけることにより行われる。例えば、まず、第2中間体26と、白金板等からなる対極とを、ホウ酸アンモニウム等の水溶液からなる電解液中に浸漬する。次に、第2中間体26に対して所定時間だけ25〜150Vの所定電圧をかけ、二次酸化層46の表層をアノード酸化させて誘電体層50を形成する。このとき、所定電圧が高いほど、誘電体層50の厚さ(T2)は厚くなる。また、所定時間が長いほど、厚さ(T2)は厚くなる。所定電圧及び所定時間を調整することで(例えば、30分間だけ50Vの電圧をかけることで)、
図12に示すように、例えば厚さ(T2)100nmの誘電体層50が得られる。
【0039】
図10から
図13までを参照すると、酸化ステップにおけるアノード酸化によって、二次酸化層46の表層に酸素が固溶されて誘電体層50が形成される。
図12及び
図13を参照すると、この結果、誘電体層50は、多量の酸素を含んでいる。詳しくは、誘電体層50の酸素濃度は、誘電体層50の表面からの深さによらず殆ど一定である。より具体的には、誘電体層50の酸素濃度は、固溶限界値(例えば、20at%)まで高めることができる。一方、酸化層40の酸素濃度は、深さに応じて低下し、陽極30との境界近傍において殆どゼロになる。
【0040】
図1及び
図6を参照すると、組立ステップにおいて、陽極30、酸化層40及び誘電体層50からなる陽極構造体20を、陰極60と組み合わせる。より具体的には、誘電体層50を覆うように陰極60を形成する。更に、リード線70を取り付ける。これによって、キャパシタ10が製造される。
【0041】
図12を参照すると、以上の説明から理解されるように、酸化層40の第1層40Xは、ZrMの低次複合酸化物((ZrTi)O
X:但し、MはTi等の金属元素であり、且つ、X<2)を含んでおり、酸化層40の第2層40Yは、六方最密充填構造を有するZrMの複合酸化物((ZrM)O
Y:但し、MはTi等の金属元素であり、且つ、Y<X<2)を含んでいる。特に、本実施の形態において、酸化層40は、ZrTiの低次複合酸化物及び六方最密充填構造を有するZrTiの複合酸化物のみから構成されている。但し、本発明は、これに限られない。例えば、酸化層40の大部分がZrTiの低次複合酸化物及び六方最密充填構造を有するZrTiの複合酸化物である限り、酸化層40は、他の元素や、他の構造のZrの酸化物を僅かに含んでいてもよい。
【0042】
図2を参照すると、キャパシタ10の陽極構造体20において、酸化層40は、上述したようにZrTiの低次複合酸化物((ZrTi)O
X:但し、X<2)及び六方最密充填構造を有するZrTiの複合酸化物((ZrTi)O
Y:但し、Y<X<2)を含んでいる。一方、誘電体層50は、ZrTiの複合酸化物((ZrTi)O
2)を含んでいる。この組成式から理解されるように、誘電体層50に含まれるZrTiの複合酸化物は、酸化層40に含まれるZrTiの複合酸化物(低次複合酸化物を含む)に比べて、ZrTiに対する酸素の原子%が大きい。
【0043】
図2及び
図3を参照すると、誘電体層50に含まれるZrTiの複合酸化物の結晶は、正方晶構造を主体としており、単斜晶構造は見当たらない。換言すれば、誘電体層50に含まれるZrTiの複合酸化物の結晶の殆どは、キャパシタ10の静電容量を規定する正方晶結晶510であり、比誘電率の低い単斜晶結晶は、殆ど又は全く含まれていない。また、誘電体層50は、上述した正方晶構造を有するZrTiの複合酸化物((ZrTi)O
2)に加えて、アモルファス構造を有するZrTiの複合酸化物((ZrTi)O
2)を含んでいる。
【0044】
特に、本実施の形態において、誘電体層50は、正方晶構造を有するZrTiの複合酸化物及びアモルファス構造を有するZrTiの複合酸化物のみから構成されている。但し、本発明は、これに限られない。例えば、誘電体層50の大部分が上述した正方晶構造を有するZrTiの複合酸化物及びアモルファス構造を有するZrTiの複合酸化物である限り、誘電体層50は、他の元素や、他の構造のZrの低次酸化物を僅かに含んでいてもよい。
【0045】
図2、
図12及び
図13を参照すると、一般的に、Zr合金には酸素が固溶し易い。このため、仮に、Zr合金からなる陽極30の表面にアノード酸化皮膜(誘電体層50)を直接形成した場合、誘電体層50中の酸素が陽極30に拡散され、これによって使用時に誘電体層50の特性が劣化し易い。
【0046】
一方、本実施の形態によれば、Zr合金からなる陽極30と、Zr合金の酸化物を含む誘電体層50との間に、Zr合金の低次複合酸化物を含む酸化層40が設けられている。換言すれば、陽極30と誘電体層50との間に、酸素を含む酸化層40(中間層)が形成されている。また、誘電体層50と酸化層40との間の境界近傍の酸素濃度は、固溶限界値まで高めることができる。この構造により、キャパシタ10の使用時において、誘電体層50の酸素は、酸化層40に殆ど拡散しない。本実施の形態によれば、酸素を中間層(酸化層40)に予め十分に固溶させておくという新たな方法によって、誘電体層50に含まれる酸素の拡散が防止でき、誘電体層50の特性の劣化が防止できる。即ち、キャパシタ10は、タンタルキャパシタに代わる新たなキャパシタとして使用可能である。
【0047】
図2を参照すると、上述した酸化ステップ(
図6参照)によって形成された誘電体層50は、正方晶構造を有するZrTiの複合酸化物((ZrTi)O
2)を25体積%以上含んでいる。この誘電体層50を備えるキャパシタ10は、実用的に使用可能な静電容量を有する。但し、以下に説明するように、酸化ステップに続いて前述した結晶化ステップ(
図6参照)を行うことで、キャパシタ10の静電容量を大きく向上できる。
【0048】
図6及び
図12を参照すると、前述したように、酸化ステップにおいて形成された誘電体層50は、アモルファス構造を有するZrTiの複合酸化物と、正方晶構造を有するZrTiの複合酸化物とを含んでいる。結晶化ステップにおいては、陽極構造体20を大気下において200℃以上の温度で、例えば24時間にわたって、熱処理する。酸素を十分に固溶した酸化層40が設けられているため、この熱処理において、酸素は誘電体層50から拡散しない。この結果、誘電体層50に含まれるアモルファス構造を有するZrTiの複合酸化物から正方晶構造を有するZrTiの複合酸化物が更に形成される。結晶化ステップを行った後の誘電体層50は、正方晶構造を有するZrTiの複合酸化物を90体積%以上含んでいる。
【0049】
図4及び
図5は、誘電体層50の薄切りした試料に電子線を透過させた際の、電子線のTEM回折像である。
図4及び
図5のいずれも、本実施の形態の製造方法によって製造した誘電体層50のTEM回折像である。但し、
図4における誘電体層50は結晶化ステップ(
図6参照)を行っていない一方、
図5における誘電体層50は結晶化ステップを行っている。
図4及び
図5を参照すると、誘電体層50のうち正方晶結晶510(配向性のある結晶)からなる部位が明瞭な白点状に映っており(特に、
図5参照)、誘電体層50のうちアモルファス状態の部位がぼやけて映っている(特に、
図4参照)。
【0050】
図4及び
図5から理解されるように、結晶化ステップを行うことにより、誘電体層50に含まれる正方晶結晶510の体積比率が、例えば25%程度から90%程度まで大きくなる。誘電率が高い正方晶結晶510の割合が増加することにより、誘電体層50の誘電率が向上する。
図1及び
図2を参照すると、キャパシタ10の静電容量を大きくするという観点からは、このように誘電体層50の誘電率を向上させつつ、誘電体層50の厚さ(T2)を薄くすることが好ましい。本実施の形態の誘電体層50は、厚さ(T2)を所定の厚さ(例えば、100nm)以下にできる。これによりタンタルキャパシタを上回る静電容量を有するキャパシタ10が得られる。
【0051】
図6、
図8、
図12及び
図13を参照すると、上述した実施の形態において、予備酸化ステップにおいて形成される一次酸化層44の厚さ(T1)は、酸化ステップにおいて形成される誘電体層50の厚さ(T2)よりも厚い。このように厚さ(T1)を大きくすることにより、厚さ(T2)を所定の厚さ(例えば、100nm)としたときに、誘電体層50と酸化層40との間の境界近傍の酸素濃度を高くすることができる。但し、本発明は、これに限られない。以下に説明するように、厚さ(T1)は、厚さ(T2)よりも薄くてもよい。
【0052】
図6、
図7及び
図14を参照すると、変形例の予備酸化ステップにおいて、出発材料22から第1中間体24Aを作製する。第1中間体24Aは、一次酸化層44(
図8参照)よりも厚さ(T1)が薄い一次酸化層44Aを含んでいることを除き、第1中間体24(
図8参照)と同一構造を有している。
図14に例示した厚さ(T1)は、80nmである。第1中間体24Aは、例えば、予備酸化ステップにおける所定電圧の値を調整することで作製できる。
図8、
図9及び
図14を参照すると、一次酸化層44Aは、一次酸化層44と同様に多量の酸素を含んでいる。
【0053】
図6、
図14及び
図15を参照すると、変形例の拡散ステップにおいて、第1中間体24Aから第2中間体26Aを作製する。第2中間体26Aは、二次酸化層46(
図10参照)と厚さが異なる二次酸化層46Aを含んでいることを除き、第2中間体26(
図10参照)と同一構造を有している。第2中間体26Aは、例えば、拡散ステップにおける熱処理条件を調整することで作製できる。
図10、
図11及び
図15を参照すると、二次酸化層46Aの酸素濃度は、二次酸化層46に比べて更に不均一である。
【0054】
図6及び
図15から
図17までを参照すると、変形例の酸化ステップにおいて、二次酸化層46Aから酸化層40A及び誘電体層50を形成する。これにより、変形例による陽極構造体20Aが作製される。陽極構造体20Aは、例えば、酸化ステップにおける所定電圧の値を調整することで作製できる。陽極構造体20Aは、陽極30と、酸化層40Aと、誘電体層50とを備えている。陽極構造体20Aの陽極30及び誘電体層50は、陽極構造体20の陽極30及び誘電体層50(
図12参照)と同一構造を有している。一方、酸化層40Aは、陽極構造体20の誘電体層50(
図12参照)と異なり、第1層40Xを含んでいない。換言すれば、酸化層40Aは、第2層40Yのみを含んでいる。
【0055】
図16及び
図17を参照すると、酸化層40Aに含まれる酸素の濃度分布は、酸化層40(
図12及び
図13参照)と少し異なっている。より具体的には、誘電体層50と酸化層40Aとの間の境界近傍の酸素濃度は、固溶限界値から急激に低下している。但し、本変形例による陽極構造体20Aは、陽極構造体20(
図2参照)と同様な特性を有し、且つ、陽極構造体20と同様に使用時に特性が劣化し難い。更に、陽極構造体20Aは、陽極構造体20と同様に、更に結晶化ステップ(
図6参照)を行うことで、特性を向上できる。