回転板23には複数の第一のローラ36が設けられており、スパッタリングターゲット34f、34rによる往送側成膜範囲F又は復送側成膜範囲Rの中に一部分が位置する成膜対象物に接触する第一のローラ36は、低速回転と高速回転とを切り替えられるようにされている。予備室が不要になるので設置面積が減少する。
前記往送ローラによって前記往送方向に移動する前記成膜対象物と対面する位置に配置され、薄膜材料の微粒子を放出し、前記微粒子を往送側成膜範囲内に位置する前記成膜対象物に到達させる往送側スパッタリングターゲットを有し、
複数の前記成膜対象物を、同じ前記低速度で前記往送側成膜範囲の中をそれぞれ移動させ、
先行する前記成膜対象物の最後尾が前記復送側成膜範囲の中に入る前に、先行する前記成膜対象物の直後に後行する前記成膜対象物の最先頭を接近させ、最後尾と最先頭が接近された二枚の前記成膜対象物を、同じ前記低速度で前記復送側成膜範囲の中を移動させる請求項1記載の成膜装置。
前記復送ローラによって前記復送方向に移動する前記成膜対象物と対面する位置に配置され、薄膜材料の微粒子を放出し、前記微粒子を復送側成膜範囲内に位置する前記成膜対象物に到達させる復送側スパッタリングターゲットを有し、
複数の前記成膜対象物を、同じ前記低速度で前記復送側成膜範囲の中をそれぞれ移動させ、
先行する前記成膜対象物の最後尾が前記往送側成膜範囲の中に入る前に、先行する前記成膜対象物の直後に後行する前記成膜対象物の最先頭を接近させ、最後尾と最先頭が接近された二枚の前記成膜対象物を、同じ前記低速度で前記往送側成膜範囲の中を移動させる請求項3記載の成膜装置。
前記復送側成膜範囲の中に先行する前記成膜対象物の先頭側の一部分が位置するときに、先行する前記成膜対象物の直後に後行する前記成膜対象物の後尾側の一部分が前記往送側成膜範囲の中に位置する請求項5記載の成膜装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<成膜装置の内部>
図1(a)〜(c)は、第一〜第三例の成膜装置1〜3の内部をそれぞれ上方から見た平面図である。
各成膜装置1〜3は、搬入室52fと、搬入室52fにゲートバルブ59を介して接続された前室53fと、前室53fにゲートバルブ59を介して接続された成膜室11〜13とを有しており、また、成膜室11〜13にゲートバルブ59を介して接続された後室53rと、後室53rにゲートバルブ59を介して接続された搬出室52rとを有している。
【0017】
符号51f、51rは、搬入室52fと搬出室52rとに設けられた扉であり、扉51f又は51rを開けると、搬入室52fの内部又は搬出室52rの内部が大気に接続されるようになっている。
各室52f、53f、11〜13、53r、52rには、それぞれ真空排気装置50が接続されており、各室52f、53f、11〜13、53r、52rの内部は真空排気装置50によって真空排気され、真空雰囲気にされている。
【0018】
第一例〜第三例の成膜室11〜13は、往送室21fと、回転室22と、復送室21rとをそれぞれ有している。
図2〜4には、第一例〜第三例の成膜装置1〜3の成膜室11〜13が示されている。
【0019】
往送室21fと復送室21rとは隣接しており、回転室22の同じ側に配置されている。
搬入室52fと搬出室52rとは隣接し、また、前室53fと後室53rとは隣接して配置され、往送室21fの内部と回転室22の内部とは接続されており、復送室21rと回転室22の内部とも接続され、前室53fは、ゲートバルブ59を介して往送室21fに接続され、後室53rは、ゲートバルブ59を介して復送室21rに接続されている。
【0020】
搬入室52fと前室53fとの内部の床面上には、複数個の搬送ローラ55が、一直線上に配置されており、後室53rと搬出室52rとの内部の床面上には、複数個の搬送ローラ55が一直線上に配置されている。
【0021】
また、往送室21fの床面上には、複数の往送ローラ31fが搬入室52fと前室53fとの内部の搬送ローラ55と同一の一直線上に配置され、復送室21rの床面上には、複数の復送ローラ31rが後室53rと搬出室52rとの内部の搬送ローラ55と同一の一直線上に配置されている。
【0022】
搬送ローラ55と、往送ローラ31fと、復送ローラ31rと、後述する第一、第二のローラ36,37とは、モータに接続され、モータによって回転できるようにされている。モータは制御装置によって制御され、回転速度を変更できるようにされている。
【0023】
ここで、搬入室52fの搬送ローラ55上には、鉛直な姿勢の四角板状の成膜対象物が配置されており、その状態で、搬入室52fと前室53fとに設けられた搬送ローラ55を回転させると、搬入室52f内の成膜対象物は、前室53f内に移動される。成膜対象物は、ガラス基板から成るものであってもよいし、ガラス基板とガラス基板が保持された保持装置とから成るものであってもよい。なお、各室52f、53f、11〜13、53r、52r間のゲートバルブ59は、成膜対象物が各室間を移動する際に、適宜開閉するものとする。
【0024】
前室53fは前処理や加熱等の成膜前の処理を行う室であり、加熱を行う場合は成膜対象物は前室53fの内部で所定温度に加熱される。往送室21f内では往送ローラ31fが回転されており、前室53f内の搬送ローラ55の回転と往送室21f内の往送ローラ31fの回転とにより、前室53fの内部で加熱された成膜対象物は、鉛直姿勢のまま、搬送ローラ55上から往送ローラ31f上に移載され、往送室21f内に搬入される。
【0025】
回転室22の内部の床面上には、回転板23が配置されている。往送室21f内に搬入された成膜対象物は、往送ローラ31fによって、回転室22内の回転板23が位置する方向に搬送される。
【0026】
成膜室11〜13の外部には、モータである回転装置35が配置されており、回転装置35が制御装置の制御によって動作すると、回転板23は、回転板23の中央に位置する中心点28を中心に水平面内で回転し、回転板23は、正位置と、正位置から180°回転した逆位置とのいずれかで静止するようにされている。
【0027】
回転板23には、複数個の第一のローラ36と、後述する複数の第二のローラ37とが設けられている。
第一のローラ36は、中心点28と交叉しない一直線上に配置されており、回転板23が正位置で静止しているときは、第一のローラ36は、往送ローラ31fが配置された一直線と同じ一直線上に位置している。
【0028】
図11の符号20は、搬送ローラ55と、往送ローラ31fと、復送ローラ31rと、第一、第二のローラ36,37とを代表するローラを示しており、回転板23が正位置又は逆位置で静止しているときは、搬送ローラ55と、往送ローラ31fと、復送ローラ31rと、第一、第二のローラ36,37との回転軸線42は平行であり、また、回転軸線42は成膜対象物10が移動する方向40に対して直角になっている。
【0029】
なお、搬送ローラ55と、往送ローラ31fと、復送ローラ31rと、第一、第二のローラ36,37の最上端の高さは等しくされており、成膜対象物10は、水平面上を搬送される。
【0030】
<成膜対象物の搬送手順>
図5(a)〜(c)と
図6(d)〜(f)は、第一例の成膜装置1内の成膜対象物の搬送手順を説明するための図面であり、
図7(a)〜(c)と
図8(d)〜(f)は第二例の成膜装置2内の成膜対象物の搬送手順を説明するための図面であり、また、
図9(a)〜(c)と
図10(d)〜(f)は、第三例の成膜装置3内の成膜対象物の搬送手順を説明するための図面である。
これらの図面に記載された成膜対象物10
1〜10
5を用いて搬送手順を説明する。
【0031】
先ず、
図5(a)、
図7(a)、
図9(a)を参照し、往送ローラ31fと第一のローラ36とは、同じ方向に回転しており、往送ローラ31fは、一枚の成膜対象物10
3に接触した部分が回転板23が位置する方向に進行するように回転し、往送ローラ31fに配置された成膜対象物10
3を、回転板23が位置する方向である往送方向に移動させると、
図5(b)、
図7(b)、
図9(b)に示すように、成膜対象物10
3の先頭側の部分が第一のローラ36に乗せられる。
【0032】
このとき、成膜対象物10
3の後尾側の部分は往送ローラ31fに乗せられており、第一のローラ36が往送ローラ31fと同方向に回転すると、
図5(c)、
図7(c)、
図9(c)に示すように、後尾側の部分が往送ローラ31fから離間され、成膜対象物10
3は往送ローラ31f上から第一のローラ36上に移載される。
【0033】
次に、第二のローラ37が他の成膜対象物10
2に接触しない状態になった後、すなわち、他の成膜対象物10
2が復送ローラ31rに移載された後、回転板23は中心点28を中心にした回転を開始する。
図6(d)、
図8(d)、
図10(d)には回転中の回転板23上の成膜対象物10
3が示されている。
回転板23は180°回転し、
図6(e)、
図8(e)、
図10(e)に示すように、回転板23は逆位置で静止する。
【0034】
復送室21rの内部の床面には、回転板23が逆位置で静止しているときに第一のローラ36が並ぶ一直線と同一直線上に、複数の復送ローラ31rが配置されており、後室53rと、搬出室52rの内部の床面上にも、同一の直線上に複数の搬送ローラ55がそれぞれ配置されている。
【0035】
復送ローラ31rと第一のローラ36とが配置された一直線と平行であって、往送方向とは逆方向を復送方向とすると、第一のローラ36の成膜対象物10
3に接触する部分が復送方向に進行するように回転すると、第一のローラ36に乗せられた成膜対象物10
3は、復送方向に移動され、先頭側が復送ローラ31rに乗せられる。
【0036】
このとき、後尾側の部分は第一のローラ36上に乗せられており、復送ローラ31rが第一のローラ36と同じ方向に回転すると、成膜対象物10
3は、第一のローラ36から離間し、復送ローラ31rに移載される。
【0037】
図8(f)の成膜対象物10
3は、第一のローラ36上から復送ローラ31r上に移載された状態であり、
図6(f)、
図10(f)の成膜対象物10
3は、移載前の先頭側の部分が復送ローラ31rに乗せられ、後尾側の部分が第一のローラ36に乗せられた状態である。
【0038】
次に、復送室21rの内部を復送方向に移動され、後室53r内に搬入される。ここでは後室53rは冷却室であり、後室53r内に搬入された成膜対象物10
3は、下記に説明するように、成膜室11〜13内で薄膜が形成されており、後室53r内では、薄膜が形成された成膜対象物10
3に対する冷却等の後処理をされる。往送される処理対象物と復送される処理対象物とは衝突しない。
【0039】
なお、往送室21f内の往送側成膜範囲Fと回転室22との間には、往送側コンダクタンス調整器58fが配置され、復送室21r内の復送側成膜範囲Rと回転室22との間には、復送側コンダクタンス調整器58rが配置されており、往送室21fと回転室22との間の気体流のコンダクタンスと、復送室21rと回転室22との間の気体流のコンダクタンスとを低下させる。このため、回転室22内で成膜対象物10
3の前処理や加熱等を行う場合などに、前処理や加熱に伴って成膜対象物10
3から回転室22内に放出されたガスや回転室22に導入されるガスが、往送側成膜範囲Fの中と復送側成膜範囲Rの中とに進入せずに、回転室22に接続された真空排気装置50によって真空排気される。また、往送室21fおよび復送室21rに導入される後述のスパッタリングガスが、回転室22を介してお互いに進入しあうことを防止することができる。
【0040】
第二、第三例の成膜装置2、3では、先頭側の部分が少なくとも一個の第一のローラ36に乗せられた成膜対象物10
3の後尾側の部分は往送ローラ31fに乗せられて往送側成膜範囲Fの中に位置することができ、従って、少なくとも一個の第一のローラ36は、後尾側の一部分が往送側成膜範囲Fの中に位置する成膜対象物10
3に接触できる位置に配置されていることになる。
【0041】
この位置を往送側近接位置とする。一方、回転板23が逆位置で静止しているときは、成膜対象物10
3の先頭側の部分が少なくとも一個の第二のローラ37に乗せられ、後尾側の部分は往送ローラ31fに乗せられる状態もあり、このとき、少なくとも一個の第二のローラ37が往送側近接位置に配置されている。
【0042】
更に、第一、第三例の成膜装置1、3では、成膜対象物10
3の先頭側の部分が復送ローラ31rに乗せられ、後尾側の部分が少なくとも一個の第一又は第二のローラ36,37に乗せられる状態もあり、このとき、その第一、第二のローラ36、37は、復送側近接位置に配置されているものとする。
【0043】
それらの結果、往送側近接位置又は復送側近接位置に配置された第一、第二のローラ36、37は、一部分が往送側成膜範囲F又は復送側成膜範囲Rの中に位置する成膜対象物10
3に接触し、成膜対象物10
3を高速度と低速度の両方で移動させるために、往送側近接位置又は復送側近接位置に配置された第一、第二のローラ36、37は、成膜対象物10
3を低速度で移動させる低速回転と、高速度で移動させる高速回転とを切り替えられるようになっている。
【0044】
また、後尾側の一部分が往送側成膜範囲Fの中に位置する成膜対象物10
3に接触し、且つ、最後尾が往送側成膜終了位置f
2を通過した成膜対象物10
3にも接触する往送ローラ31fについても、成膜対象物10
3を低速度で移動させる低速回転と、高速度で移動させる高速回転とを切り替えられるようになっている。
【0045】
同様に、先頭側の一部分が復送側成膜範囲Rの中に位置する成膜対象物10
3に接触し、且つ、最先頭が復送側成膜開始位置r
1に到達していない成膜対象物10
3にも接触する復送ローラ31rについても、成膜対象物10
3を低速度で移動させる低速回転と、高速度で移動させる高速回転とを切り替えられるようになっており、その結果、予備室は不要になっている。
【0046】
<成膜工程>
第一例の成膜装置1の成膜室11では、復送室21rの壁面にスパッタリングターゲット34rが配置され、第二例の成膜装置2の成膜室12では、往送室21fの壁面にスパッタリングターゲット34fが配置され、第三例の成膜装置3の成膜室13では、往送室21fと復送室21rの両方に、スパッタリングターゲット34f、34rが配置されている。
【0047】
成膜対象物10
3は、薄膜を形成させる成膜面を有しており、成膜対象物10
3が往送室21f内や復送室21r内で往送方向又は復送方向に移動するときには、成膜面は所定の経路を移動するようにされている。
【0048】
往送室21fと復送室21rとには、スパッタリングガスが導入されている。スパッタリングターゲット34f、34rには、カソード装置29f、29rが設けられており、スパッタリング電源25f、25rからカソード装置29f、29rにスパッタリング電圧が印加され、スパッタリングターゲット34f、34rはスパッタリングされている。
【0049】
第一例〜第三例の成膜装置1〜3では、成膜面が移動する経路のうち、往送室21f内でスパッタリングターゲット34fから放出されたスパッタリング粒子が到達できる範囲は、往送室21f内の経路の往送方向に沿った一定幅の往送側成膜範囲Fにされており、復送室21r内でスパッタリングターゲット34rから放出されたスパッタリング粒子が到達できる範囲も、復送室21r内の経路の復送方向に沿った一定幅の復送側成膜範囲Rにされている。
【0050】
往送側成膜範囲Fの手前に位置し、往送方向に移動して往送側成膜範囲Fに接近する処理対象物10
3については、成膜面の最先頭が、往送側成膜範囲Fの手前側の端である往送側成膜開始位置f
1に到達したときに成膜が開始される。次いで、成膜面のうち、往送側成膜範囲F内に位置する部分にスパッタリング粒子が到達し、薄膜が成長し、成膜面の最後尾が、往送側成膜範囲Fの往送側成膜開始位置f
1とは反対側(奥側)の端である往送側成膜終了位置f
2に到達したときに、処理対象物10
3の往送側成膜範囲F内での成膜が終了する。
【0051】
また、復送方向に移動して復送側成膜範囲Rに接近する処理対象物10
3についても、復送側成膜範囲Rの手前に位置し、復送方向に移動して復送側成膜範囲Rに接近する処理対象物10
3については、成膜面の最先頭が、復送側成膜範囲Rの手前側の端である復送側成膜開始位置r
1に到達したときに成膜が開始される。次いで、成膜面のうち、復送側成膜範囲R内に位置する部分にスパッタリング粒子が到達し、薄膜が成長し、成膜面の最後尾が、復送側成膜範囲Rの復送側成膜開始位置r
1とは反対側(奥側)の端である復送側成膜終了位置r
2に到達したときに、処理対象物10
3の復送側成膜範囲R内での成膜が終了する。
【0052】
このように、第一例〜第三例の成膜装置1〜3では、複数の成膜対象物10
1〜10
5を一列に並べて移動させることで、各成膜対象物10
1〜10
5は移動しながら薄膜が形成されるようになっている。
【0053】
第三例の成膜装置3については、往送側成膜範囲F内で形成された薄膜の表面上に復送側成膜範囲R内で薄膜が形成される。
【0054】
次に、成膜対象物10
3の移動速度について説明すると、往送ローラ31と第一、第2のローラ36,37のうち、成膜面の少なくとも一部が往送側成膜範囲Fの中に位置する成膜対象物10
3が載置される往送ローラ31fと第一、第二のローラ36,37とが、高速回転と低速回転とを切り替えられるようにされている。
【0055】
また、復送ローラ31rと第一、第二のローラ36,37のうち、成膜面の少なくとも一部が復送側成膜範囲Rの中に位置する成膜対象物10
3が載置される復送ローラ31rと第一、第二のローラ36,37とが、高速回転と低速回転とを切り替えられるようにされている。
【0056】
従って、成膜面の少なくとも一部が往送側成膜範囲Fの中に位置するとき、又は、成膜面の少なくとも一部が復送側成膜範囲Rの中に位置するときには、成膜対象物10
3は、低速回転によって低速度で移動することができる。往送側成膜範囲Fを通過する低速度と、復送側成膜範囲Rを通過する低速度とは、それぞれ加速度がゼロの等速度である。第三例の成膜装置3では、成膜対象物10
3が往送側成膜範囲Fを通過するときの時間と復送側成膜範囲Rを通過するときの時間とが等しくなる低速度であると、往送側と復送側とでそれぞれ低速度と高速度の切り替えの際の加減速を変更する必要がなく好ましいが、これには限られない。
【0057】
往送室21fに接続されたゲートバルブ59と往送側成膜範囲Fとの間には、複数の往送ローラ31fが配置され、同様に、復送室21rに接続されたゲートバルブ59と復送側成膜範囲Rとの間には、複数の復送ローラ31rが配置されている。
【0058】
前室53fから往送室21f内に移動され、最先頭が往送側成膜開始位置f
1に未到達の成膜対象物10
3は、その成膜対象物10
3が載置された往送ローラ31fが高速回転することで高速度で移動するが、少なくとも一部が往送側成膜範囲Fの中に入ると低速移動になる。
【0059】
他方、復送側成膜範囲R中で成膜された後、最後尾が復送側成膜終了位置r
2から離間した成膜対象物10
3は、その成膜対象物10
3が載置された復送ローラ31rの高速回転によって高速度で移動し、また、先頭側の部分が第一のローラ36上に乗り、後尾側の部分が往送側成膜範囲F中に位置し、低速度で移動する成膜対象物10
3は、最後尾が往送側成膜終了位置f
2から離間すると、その成膜対象物10
3が載置される往送ローラ31fと第一のローラ36とは、低速回転から高速回転に切り替わり、成膜対象物10
3は高速度で移動する。
【0060】
逆位置で静止する回転板23の第一のローラ36に接触する成膜対象物10
3と、第一のローラ36と復送ローラ31rとに接触し最先頭が復送側成膜開始位置r
1に未到達の成膜対象物10
3とは、高速度で移動するが、少なくとも一部が復送側成膜範囲R内に位置するようになると低速度で移動する。
【0061】
なお、成膜対象物10
3の最先頭が往送側成膜開始位置f
1に近接し、その間が所定の距離になると、その成膜対象物10
3が載置された往送ローラ21fの回転速度は減速し、また、成膜対象物10
3の最先頭が復送側成膜開始位置r
1に近接し、その間が所定の距離になると、その成膜対象物10
3が載置された第一のローラ36も減速し、成膜対象物10
3の高速度の移動を低速度の移動に変化させる。
【0062】
先行する成膜対象物10
3が成膜中の場合は低速度で移動しており、後行する成膜対象物10
4は高速度で移動することができるので、後行の成膜対象物10
4は先行する成膜対象物10
3に追いつき、追いついた成膜対象物10
4の最先頭は、先行の成膜対象物10
3の最後尾に所定の距離まで近づき、その距離を離間しながら移動することができる。その場合、後行の成膜対象物10
4は、全部が往送側成膜範囲F又は復送側成膜範囲Rの外部に位置するが、低速度で移動するようになる。
【0063】
このように、先行する成膜対象物の最後尾と後行の成膜対象物の先頭との間の距離は、数mm〜数十mmに成るようにされており、後行する成膜対象物の先頭が先行する成膜対象物の最後尾に接触するまで近づく場合に加え、後行する成膜対象物の先頭が先行する成膜対象物の最後尾に所定の離間距離dだけ離間するまで近づく場合も、後行する成膜対象物が先行する成膜対象物に接近することに含まれるものとする。ここでは、成膜対象物同士が近づいたときに離間する距離は等しくされているものとする。(dは短いため、成膜対象物間には符号dは付さない。)
【0064】
そして、離間距離dは短いから、先行する成膜対象物10
3の最後尾と後行する成膜対象物10
4の最先頭とが接近した状態で往送側成膜開始位置f
1又は復送側成膜開始位置r
1を通過し、二枚の成膜対象物10
3,10
4の最後尾と最先頭とが接近した状態で往送側成膜範囲Fの中又は復送側成膜範囲Rの中を移動すると、往送側成膜範囲F又は復送側成膜範囲Rの中では二枚の成膜対象物10
3,10
4の間に隙間がほぼできず、スパッタリングターゲット34f、34rから放出されたスパッタリング粒子が、二枚の成膜対象物10
3,10
4の隙間を通過しないから、スパッタリング粒子が無駄にならない。
【0065】
また、後行する成膜対象物10
4の最後尾が往送側成膜開始位置f
1又は復送側成膜開始位置r
1を通過するときも、その成膜対象物10
4の最後尾には、更に後行する成膜対象物10
5の最先頭が接近した状態になり、二枚の成膜対象物10
4、10
5が移動するようになっているので、スパッタリング粒子が無駄になることはない。
【0066】
<第三例の成膜装置の搬送方法>
次に、第三例の成膜装置3では、往送側成膜範囲Fと復送側成膜範囲Rとの両方で、隙間が生じないようにするための手順について説明する。
【0067】
第三例の成膜装置3で薄膜が形成される成膜対象物10
1〜10
5の、往送ローラ31fと復送ローラ31rと第一のローラ36と接触する辺は、等しい長さにされているものとし、成膜対象物10
1〜10
5が少なくとも一部が、往送側成膜範囲F内の中に位置する時と復送側成膜範囲R内に位置するときとでは、同じ値の低速度で移動するものとする。
【0068】
先ず、
図9(a)に示すように、復送室21rの内部では、一枚目の成膜対象物10
1の最後尾の部分と二枚目の成膜対象物10
2の最先頭の部分とが接近して復送側成膜範囲Rの中で移動すると共に、往送室21fの内部では、三枚目の成膜対象物10
3の最後尾の部分と四枚目の成膜対象物10
4の最先頭の部分とが接近して往送側成膜範囲Fの中を移動する。
【0069】
次に、
図9(b)は、三枚目の成膜対象物10
3の最後尾が往送側成膜終了位置f
2に到達し、高速度の移動が可能になった状態であり、そのとき、四枚目の成膜対象物10
4の最先頭は往送側成膜終了位置f
2から離間距離dだけ手前の位置にある。
【0070】
最後尾の部分が往送側成膜終了位置f
2上に位置する成膜対象物10
3は、全部が往送側成膜範囲Fの外に位置しているものとすると、その三枚目の成膜対象物10
3の先頭側の部分は、第一のローラ36上に乗せられており、このとき、第一のローラ36が低速回転から高速回転に切り替わり、その成膜対象物10
3は高速度の移動を開始する。
【0071】
そして、高速度移動を開始した成膜対象物10
3の最後尾は、低速度移動中で成膜中の後行する四枚目の成膜対象物10
4の最先頭から遠ざかり、
図9(c)に示すように、高速度移動の成膜対象物10
3は、第一のローラ36上に全部が乗って回転板23上で停止される。
【0072】
次に、
図10(d)に示すように回転板23は回転を開始し、次に、同図(e)に示すように、180°回転すると回転板23は逆位置で静止する。
このとき、復送室21r内で移動中の、先行する成膜対象物10
2は、最後尾が復送側成膜開始位置r
1に到達しないようにされており、180°逆位置の回転板23の第一のローラ36上の成膜対象物10
3は高速度の移動を開始し、その成膜対象物10
3は、
図10(f)に示されたように、最先頭が、復送側成膜開始位置r
1の手前で、先行する成膜対象物10
2の最後尾に、離間距離dだけ離れた位置まで接近すると共に、低速度での移動を開始する。
【0073】
ところで、後行する成膜対象物10
3の最後尾が往送側成膜終了位置f
2上に位置する
図9(b)の状態から、復送側成膜開始位置r
1の手前位置で、その成膜対象物10
3の最先頭が先行する成膜対象物10
2の最後尾に離間距離dだけ離れた位置まで接近する
図10(f)の状態までの間に、少なくとも一部分が成膜中の他の成膜対象物10
2、10
4は、低速度で移動長さbだけ移動したものとすると、後々行する四枚目の成膜対象物10
4は、最先頭が往送側成膜終了位置f
2から離間距離dだけ手前に位置する
図9(b)の状態から移動長さbだけ進み、
図10(f)の状態では、先頭側の移動長さbから離間距離dを差し引いた長さb−dの部分が往送側成膜終了位置f
2を通過している。
【0074】
また、
図10(f)の状態では、先行する成膜対象物10
2の最後尾は、余裕長さaだけ復送側成膜開始位置r
1の手前に位置しているものとすると、
図9(b)の状態は、
図10(f)の状態よりも、移動長さb移動する前の状態であるから、
図9(b)の状態では、先行する成膜対象物10
2の最後尾は余裕長さaに移動長さbを加算した長さ(=a+b)だけ復送側成膜開始位置r
1よりも手前に位置することになる。このとき、先行する成膜対象物10
2のうち、復送側成膜開始位置r
1を通過した部分の長さを、残部長さcとすると、ここで、各成膜対象物10
1〜10
5の、往送ローラ31f等に接触する辺の長さは、余裕長さaと移動長さbと残部長さcとを加算した長さ(=a+b+c)になる。
【0075】
そして、
図9(b)の状態では、最先頭が往送側成膜終了位置f
2から離間距離dだけ手前に位置した後々行の成膜対象物10
4は、
図10(f)の状態では、先頭側の長さ(b−d)の部分だけ往送側成膜終了位置f
2を通過している。
【0076】
そして更に、
図10(f)の状態で低速移動している成膜対象物10
2〜10
5が、余裕長さaと残部長さcと離間距離dとを加算した長さ(=a+c+d)だけ進むと、後行の成膜対象物10
3は、進む前は先頭が復送側成膜開始位置r
1から(a+d)の長さだけ手前に位置していたから(図中符号aは先行の成膜対象物10
2の最後尾の位置を示す)、残部長さcの部分だけ復送側成膜開始位置r
1を通過し、他方、後々行の成膜対象物10
4は、往送側成膜終了位置f
2よりも手前に長さ(a+c+d)の部分が位置していたから、最後尾の部分が往送側成膜終了位置f
2上に位置することになる。
【0077】
その状態の、後行の成膜対象物10
3と復送側成膜範囲Rとの位置関係及び後々行の成膜対象物10
4と往送側成膜範囲Fとの位置関係は、
図9(b)の状態の、先行する成膜対象物10
2と復送側成膜範囲Rとの位置関係及び後行の成膜対象物10
3と往送側成膜範囲Fとの位置関係と等しいから、最後尾と最先頭とを接近させて成膜するときは、
図9(a)〜
図10(f)の状態が繰り返されことが明らかである。したがって、少なくとも一部が成膜中の複数の成膜対象物10
1〜10
5の間に隙間をほぼ開けずに成膜できる。
【0078】
そのためには、成膜対象物が往送側成膜範囲Fを通過する時間と、復送側成膜範囲Rを通過する時間を同じ値にし、また、往送側成膜範囲Fでの成膜が終了した成膜対象物が、高速度の移動と回転移動とによって復送室21rに移動して、最先頭の部分が先行する成膜対象物の最後尾の部分に接近するまでに移動する間に、復送側成膜範囲Rで成膜中の成膜対象物が移動する移動長さbに、余裕長さaを加算して求める最低長さ(a+b)の距離だけ、復送側成膜開始位置r
1と回転板23の縁との間が離間しているとよいことになる。より詳細には、回転板23が静止している状態で、回転板23に設けられた第一もしくは第二のローラに載置される成膜対象物の、復送室21r側の端部と、復送側成膜開始位置r
1との間が、最低長さ(a+b)の距離だけ離間しているとよいことになる。
【0079】
なお、第二のローラ37は、回転板23の中心点28を中央にして、第一のローラ36とは反対側に複数個が、第一のローラ36が一列に並んで配置された一直線と平行な一直線上に一列に並んで配置されており、第一のローラ36が配置された一直線と中心点28との間の距離と、第二のローラ37が配置された一直線と中心点28との間の距離は等しくされており、回転板23が逆位置で静止しているときには、第二のローラ37は、往送ローラ31fが並ぶ直線上に並んでおり、回転板23が正位置で静止しているときには、第二のローラ37は、復送ローラ31rが並ぶ直線上に並ぶようになっている。
【0080】
第二のローラ37も第一のローラ36と同様に、低速回転と高速回転とを切り替えられるようにされており、
図10(f)の状態で往送側成膜範囲F中で成膜中であった成膜対象物10
4は、往送方向に移動すると、逆位置に静止している回転板23の第二のローラ37の上に乗り、次いで、回転板23が180°回転し、正位置で静止すると、第二のローラ37上に乗った成膜対象物10
4は、復送方向に移動して先頭側の部分が復送ローラ31r上に乗る。
このように、第一のローラ36と第二のローラ37とは、成膜対象物を交互に往送側から復送側に移動させている。
【0081】
以上は、往送側成膜範囲Fの長さと復送側成膜範囲Rの長さとが、一枚の成膜対象物10
1〜10
5のローラ31f、31r、36、37、55に接触する辺の長さよりも短い場合を例にしたが、成膜対象物10
1〜10
5のローラ31f、31r、36、37、55に接触する辺の長さよりも長くてもよい。その場合には、先行する成膜対象物の最後尾に後行する成膜対象物の最先頭の部分が接近しながら、三枚以上の成膜対象物が、一緒に薄膜を形成されるようになる。
【0082】
<搬出入>
なお、搬入室52fと前室53fとの間のゲートバルブ59を閉じ、搬入室52fに接続された扉51fを開け、大気雰囲気中から搬入室52fの内部に成膜対象物10
3を搬入した後、扉51fを閉じ、搬入室52f内を真空排気した後、搬入室52fと前室53fとの間のゲートバルブ59を開けると、前室53fと成膜室11〜13と後室53rの真空雰囲気を維持しながら搬入室52f内の成膜対象物10
3を前室53f内に搬入することができる。
【0083】
また、後室53rから搬出室52r内に成膜対象物10
3を移動させた後、搬出室52rと後室53rとの間のゲートバルブ59を閉じ、搬出室52rに接続された扉51rを開けると、前室53fと成膜室11〜13と後室53rの真空雰囲気を維持しながら、成膜が終了した処理対象物10
3を大気雰囲気中に取り出すことができる。