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特開2017-214746震動エネルギ吸収デバイス、及び震動エネルギ吸収フレーム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-214746(P2017-214746A)
(43)【公開日】2017年12月7日
(54)【発明の名称】震動エネルギ吸収デバイス、及び震動エネルギ吸収フレーム
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20171110BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20171110BHJP
【FI】
   E04H9/02 321B
   F16F15/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-108487(P2016-108487)
(22)【出願日】2016年5月31日
(11)【特許番号】特許第6112376号(P6112376)
(45)【特許公報発行日】2017年4月12日
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】510174509
【氏名又は名称】NSハイパーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130476
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 昭穂
(72)【発明者】
【氏名】小野 徹郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 篤司
(72)【発明者】
【氏名】橋本 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩史
(72)【発明者】
【氏名】近藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】西澤 穂浪
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC04
2E139AC19
2E139AC23
2E139BA06
2E139BD02
3J048AA01
3J048BC08
3J048EA38
(57)【要約】      (修正有)
【課題】柱材を損傷させずに構造耐力を保持しつつ梁材による変形性能を発揮させて震動エネルギを確実に吸収する震動エネルギ吸収デバイス、及び震動エネルギ吸収デバイスを備えた震動エネルギ吸収フレームを提供する。
【解決手段】震動エネルギ吸収デバイス1は、デバイス本体2の変形を吸収する変形吸収部6と、デバイス本体2の変形に抵抗する変形抵抗部7a,7bとを備え、変形抵抗部7a,7bは、変形吸収部6から柱材11への直接的な応力集中を回避させる位置に設けられ、震動エネルギ吸収フレームは、デバイス本体2が柱材11の柱面まで延長され、柱材11と着脱自在に接続される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱材同士を連結し、建物に入力される震動エネルギを吸収する震動エネルギ吸収デバイスであって、
発生する変形を吸収する変形吸収領域と、
発生する変形に抵抗する変形抵抗領域と、を備え、
前記変形抵抗領域は、前記変形吸収領域と前記柱材との間に設けられて前記柱材への応力集中を回避させることを特徴とする震動エネルギ吸収デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の震動エネルギ吸収デバイスであって、
前記変形吸収領域は、前記デバイス本体に設けられる変形吸収部を含み、
前記変形抵抗領域は、面外方向に突出したリブを有する変形抵抗部を含み、
前記変形抵抗部は、前記変形吸収部部から前記柱材に斜張力が集中するのを回避させる位置に設けられることを特徴とする震動エネルギ吸収デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載の震動エネルギ吸収デバイスであって、前記変形吸収部に設けられる開口部は、前記デバイス本体に設けられる開口部であり、前記変形抵抗部は、面外方向に突出したリブを有する開口部であることを特徴とする震動エネルギ吸収デバイス。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の震動エネルギ吸収デバイスであって、前記変形吸収部は、前記デバイス本体の中央部に設けられ、前記変形抵抗部は、前記変形吸収部と前記デバイス本体及び前記柱材の接合部との間に設けられることを特徴とする震動エネルギ吸収デバイス。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか1項に記載の震動エネルギ吸収デバイスであって、前記変形抵抗部は、バーリング加工により面外方向に突出したリブを設けることを特徴とする震動エネルギ吸収デバイス。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか1項に記載の震動エネルギ吸収デバイスであって、前記デバイス本体は、フランジ部とウェブ部とから構成され、前記フランジ部には、ハット型のリップ部が設けられることを特徴とする震動エネルギ吸収デバイス。
【請求項7】
(追加)
請求項6に記載の震動エネルギ吸収デバイスであって、前記リップ部は、前記フランジ部の隅部においてコーナアール部を有して設けられることを特徴とする震動エネルギ吸収デバイス。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の震動エネルギ吸収デバイスであって、
前記震動エネルギ吸収デバイスは、前記デバイス本体の前記ウェブ部が取り付く柱材の柱面まで延長された柱接合部を有し、前記柱接合部と前記柱材とは着脱自在に接合されることを特徴とする震動エネルギ吸収デバイス。
【請求項9】
請求項8に記載の震動エネルギ吸収デバイスであって、前記柱接合部は、前記柱材に沿った上下端に前記柱材とは着脱自在に接合される柱補強部を有することを特徴とする震動エネルギ吸収デバイス。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の震動エネルギ吸収デバイスを前記柱材に接続する震動エネルギ吸収フレームであって、前記震動エネルギ吸収デバイスは、隣接する柱材間において前記柱材の上端部又は下端部から所定の距離だけ中央部側に離れた位置に設けられることを特徴とする震動エネルギ吸収フレーム。
【請求項11】
請求項10に記載の震動エネルギ吸収フレームであって、前記震動エネルギ吸収デバイスは、建物の天井材及び床材とは取り合わず、室内側から前記柱材に取り付け又は取り外し自在であることを特徴とする震動エネルギ吸収フレーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、震動エネルギ吸収デバイス、及び震動エネルギ吸収フレームに係り、特に、建物に入力される地震等のエネルギを吸収する震動エネルギ吸収デバイス、及びこの震動エネルギ吸収デバイスを柱部材等のたて枠材に接続してフレームを構成する震動エネルギ吸収フレームに関する。これらの震動エネルギ吸収デバイス、及び震動エネルギ吸収フレームは、例えば木造建築物の耐震補強に適用されるが、それに限らず、一般的な建築物全般へ適用される。
【背景技術】
【0002】
建物等に入力される地震等のエネルギを特定の部位に集中させ、その部位のみを塑性化させることで地震等のエネルギを吸収し、建物の骨組自体を損傷させないという震動エネルギ吸収機構が各種提案されている。そして、これらの震動エネルギ吸収機構は、その塑性化した部位のみを交換することで骨組全体を容易に復旧できるという効果を有する。
【0003】
既存の震動エネルギ吸収機構は、その多くがエネルギ吸収効率の良い粘弾性材等を組み込んだ粘弾性ダンパ等のゴムを使用し、震動エネルギをこのダンパに集中的に吸収させる機構を採用している。
【0004】
また、建物の構造体において、地震時等にエネルギを効率よく吸収するには、地震時に発生する水平力に抵抗するせん断要素にエネルギ吸収機構を設けることが考えられる。このせん断要素には地震時等にせん断力のみが発生し、軸力は発生しないため簡素な機構によりエネルギ吸収することができる。
【0005】
例えば、特許文献1には、せん断パネル構造体において地震時に震動エネルギを吸収して降伏し、地震で破損した場合には容易に復旧できる部位である弾塑性エネルギ吸収体の構成が開示されている。ここでは、主枠体間に水平に設置される連結枠材と、連結枠材と左右の主枠体間に夫々斜めに設置される複数本の斜め枠体を備える架構体において、連結枠材が左右の連結枠体と中央のエネルギ吸収部とに分割され、地震時にエネルギ吸収部が所定の外力により降伏して塑性変形され、エネルギ吸収部は連結枠体に対して着脱可能に構成されることが記載されている。すなわち、せん断パネル構造の交点にエネルギ吸収部を設定し、せん断要素に作用するせん断力によりエネルギ吸収部を塑性化させ、そのエネルギ吸収部を交換可能とする技術である。
【0006】
一方、建物の構造体の柱梁接合部において地震時にエネルギを吸収する機構については、下記のような考案が開示されている。
【0007】
特許文献2には、鉄骨大梁の端部のウェブに断面欠損開口部を予め形成して断面係数を柱梁接合部のそれよりも小さくさせ、地震力等が生じた時は、断面欠損開口部の位置で確実に降伏させる震動エネルギ吸収デバイスが開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、梁の端部位置に、梁の一部として一体化するH形断面の梁部材のフランジを地震時の梁に生ずる曲げモーメント分布に対応させた形にし、その幅を梁の中央側から端部側へかけて拡大させることにより、地震時に梁部材のフランジを設定した領域全長に亘って同時に降伏させる地震エネルギ吸収梁部材が開示されている。
【0009】
本発明では、薄板の加工技術につき、下記に示す、バーリング加工を用いた耐力壁及び耐力壁用の壁面材、及びL字状形状を有する部品のプレス成型方法が活用されている。
【0010】
特許文献4には、地震等のエネルギを安定して吸収できる耐力壁及び耐力壁用の壁面材が開示されている。ここでは、鋼製の壁面材に設けられた開口部に面外方向に向けて突出した環状のリブが形成されることが記載されている。この環状のリブは、「バーリング加工」と称される加工法により形成されるとの記載がある。
【0011】
特許文献5には、L字状形状を有する部品に関し、通常の絞り成形では板厚減少による割れが発生しやすいフランジ部では、部材の過度な引張りが軽減されるために割れの発生が抑制される。また、通常の絞り成形では過剰な金属材料流入によるシワが発生しやすい天板部では、部材が引張られるためにシワの発生が抑制されるとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平9-273329号
【特許文献2】特開平10-159251号
【特許文献3】特開2000-17781号
【特許文献4】特許第5805893号
【特許文献5】特許第5168429号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
既存の震動エネルギ吸収機構は、その多くが粘弾性材ダンパ等のゴムを用いて地震等のエネルギを吸収している。そのため、地震等により発生した応力を建物の構造体から粘弾性材ダンパ等のゴムへ誘導させる必要があり、例えば木造住宅等の小規模の建物に適用する建物の構造体とは別に複雑な機構を付加しなければならないという問題がある。
【0014】
また、既存建物に耐震補強を行う場合には、粘弾性材ダンパ等のゴムの設置スペースの確保をしなければならず、取付けする際に既存建物の構造体も含めて取り換えなければならないという問題がある。
【0015】
また、例えば特許文献1に示すような、震動エネルギ吸収デバイスをせん断パネル構造の交点に設置してエネルギ吸収を行う機構は、壁面に交差する架構体が設けられるため、窓等の開口部を設ける際の設計の自由度が低いという問題がある。さらに、架構体が設けられない壁面には震動エネルギ吸収デバイスも設けられないという問題がある。
【0016】
本願の震動エネルギ吸収デバイスの目的は、かかる課題を解決し、地震時等において、柱材を損傷させずに構造耐力を保持しつつデバイス本体による変形性能を発揮させながら確実に震動エネルギを吸収する震動エネルギ吸収デバイスを提供することである。
【0017】
また、本願の震動エネルギ吸収フレームの目的は、上記目的に加え、耐震補強のため既存建物の柱材に対して取り付けが容易であり、地震等により塑性化した場合には、震動エネルギ吸収デバイスを容易に取り換えられる震動エネルギ吸収フレームを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、本発明に係る震動エネルギ吸収デバイスは、柱材同士を連結し、建物に入力される震動エネルギを吸収する震動エネルギ吸収デバイスであって、発生する変形を吸収する変形吸収領域と、発生する変形に抵抗する変形抵抗領域と、を備え、変形抵抗領域は、変形吸収領域と柱材との間に設けられて柱材への応力集中を回避させることを特徴とする。
【0019】
上記構成により、震動エネルギ吸収デバイスは、隣接する柱材同士を接続する。そして、この震動エネルギ吸収デバイスには、発生する変形を吸収する変形吸収領域と、発生する変形に抵抗する変形抵抗領域が設けられる。そして、変形抵抗領域が、変形吸収領域と柱材との間に設けられて柱材への直接的な応力集中を回避させる。これにより、地震時等において、それぞれの柱材と、震動エネルギ吸収デバイスのデバイス本体との接合部に発生する応力集中が容易に回避され、柱材を損傷させずに構造耐力を保持しつつ震動エネルギ吸収フレームの変形性能を発揮させることができる。そして、建物に入力される震動エネルギを確実に吸収することができる。
【0020】
また、震動エネルギ吸収デバイスは、変形吸収領域が、デバイス本体に設けられる変形吸収部を含み、変形抵抗領域が、面外方向に突出したリブを有する変形抵抗部を含み、変形抵抗部が、変形吸収部部から柱材に斜張力が集中するのを回避させる位置に設けられることが好ましい。これにより、地震時等において、デバイス本体の変形吸収部と柱材及びデバイス本体の接合部を結ぶ斜張力の応力伝達経路を変形抵抗部の存在により迂回させて柱材を損傷させない。そして、建物に入力される震動エネルギを確実に吸収することができる。
【0021】
また、震動エネルギ吸収デバイスは、変形吸収部が、デバイス本体に設けられる開口部であり、変形抵抗部は、面外方向に突出したリブを有する開口部であることが好ましい。これにより、変形吸収部は、開口部周りの低い拘束から容易に変形して震動エネルギを吸収し、変形抵抗部は、面外方向に突出したリブによる高い拘束から変形が阻止され、容易に斜張力の伝達経路を制御することができる。
【0022】
また、震動エネルギ吸収デバイスは、変形吸収部が、デバイス本体の中央部に設けられ、変形抵抗部が、変形吸収部とデバイス本体及び柱材の接合部との間に設けられることが好ましい。これにより、デバイス本体に発生する斜張力が柱材及びデバイス本体の接合部に至るのを回避させることができる。
【0023】
また、震動エネルギ吸収デバイスは、変形抵抗部が、バーリング加工により面外方向に突出したリブを設けることが好ましい。これにより、薄板であるデバイス本体に対して精度よくかつ簡易に開口部補強を行うことができる。
【0024】
また、震動エネルギ吸収デバイスは、デバイス本体が、フランジ部とウェブ部とから構成され、フランジ部には、ハット型のリップ部が設けられることが好ましい。このように、フランジ部の塑性化領域を拡大することによりデバイスの耐力を高めることができ、かつ安定した耐力を保持しながら変形する能力を確保することができる。そして、デバイス本体の両端部に剛域を形成させることで接合部の応力集中を回避することができる。
【0025】
また、震動エネルギ吸収デバイスは、リップ部が、フランジ部の隅部においてコーナーアール部を有して設けられることが好ましい。このように、フランジ部隅部のリップ部にコーナーアールを設けることで変形抵抗領域の剛性を向上させることができる。
【0026】
また、震動エネルギ吸収デバイスは、震動エネルギ吸収デバイスが、デバイス本体のウェブ部が取り付く柱材の柱面まで延長された柱接合部を有し、柱接合部と前記柱材とは着脱自在に接合されることが好ましい。この柱接合部の形成により、応力伝達をスムーズにするとともに、デバイスの製造コストを抑え、地震後において、震動エネルギ吸収デバイスを容易に柱材から取り外して交換することができる。
【0027】
また、震動エネルギ吸収フレームは、柱接合部が、柱材に沿った上下端に柱材とは着脱自在に接合される柱補強部を有することが好ましい。この柱補強部の形成により、柱接合部と柱材とを一体化して過度の応力集中を阻止し、地震後において、震動エネルギ吸収デバイスを容易に柱材から取り外して交換することができる。
【0028】
また、震動エネルギ吸収フレームは、震動エネルギ吸収デバイスが、隣接する柱材間において柱材の上端部又は下端部から所定の距離だけ中央部側に離れた位置に設けられることが好ましい。これにより、地震時において柱材に発生する曲げモーメントを低減させることができ、かつ、建物の壁面に設けられる窓等の設計の自由度を確保できる。
【0029】
また、震動エネルギ吸収フレームは、震動エネルギ吸収デバイスが、建物の天井材及び床材とは取り合わず、室内側から柱材に取り付け又は取り外し自在であることが好ましい。これにより、耐震補強の場合に、既存建物の天井材又は床材を剥がすことなく震動エネルギ吸収デバイスを容易に取付けることができ、また、地震発生後の震動エネルギ吸収デバイスの取り換えも容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明に係る震動エネルギ吸収デバイスによれば、柱材とデバイス本体との接合部に発生する応力集中を緩和することができ、柱材を損傷させずに構造耐力を保持しつつ梁材による変形性能を発揮させて震動エネルギを確実に吸収する震動エネルギ吸収デバイスを提供することができる。
【0031】
また、本発明に係る震動エネルギ吸収フレームによれば、耐震補強のため既存建物の柱材に対して取り付けが容易であり、地震等により塑性化した場合には、震動エネルギ吸収デバイスを容易に取り換えられる震動エネルギ吸収フレームを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明に係る震動エネルギ吸収デバイスの一つの実施形態の概略構成を示す正面図及び断面図である。
図2】震動エネルギ吸収デバイスが組み込まれた震動エネルギ吸収フレームの一つの実施形態の概略構成を示す正面図である。
図3】柱材に取り付けられる震動エネルギ吸収デバイスを示す斜視図である。
図4】震動エネルギ吸収フレームの窓取り付け位置、及び変形抵抗部の有無による地震時の柱梁の変形及びヒンジ発生位置を示す説明図である。
図5】震動エネルギ吸収デバイス1に地震力等が作用した場合に発生する応力の流れ及び部材の変形を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(震動エネルギ吸収デバイスの構成)
以下に、図面を用いて本発明に係る震動エネルギ吸収デバイス1の一つの実施形態の概略構成につき、詳細に説明する。図1(a)は震動エネルギ吸収デバイス1を示す正面図である。また、図1(b)は、図1(a)のA−A断面を示し、図1(c)は図1(a)のB−B断面を示す。震動エネルギ吸収デバイス1は、建物の壁面において構造材として設けられた隣接する2本の柱材11を連結して取り付けられる部材である。本実施形態では、柱材11は木造とするが、これに限らず、鋼製柱やプレキャストコンクリート柱等であっても良い。
【0034】
図1(a)に示すように、本発明に係る震動エネルギ吸収デバイス1は、隣接する柱材11同士を連結する板状の連結部材である。そして、地震時等において柱材11を介して入力される地震力により発生する変形を吸収する変形吸収領域と、発生する変形に抵抗する変形抵抗領域とを備える。この変形吸収領域は、後述するデバイス本体2の中央部であり、変形抵抗領域は、変形吸収領域とデバイス本体2の両端の柱材11との間に設けられる。そして、本発明に係る震動エネルギ吸収デバイス1は、地震時等にその連結部分に変形吸収領域と変形抵抗領域とが発生するように構成される。そして、変形抵抗領域は、変形吸収領域と柱材11との間に設けられ、地震時等に両端の柱材11への直接的な応力集中を回避させるように機能する。
【0035】
上述した変形吸収領域は、デバイス本体2に設けられる変形吸収部6を含む領域であり、変形抵抗領域は、面外方向に突出したリブを有する変形抵抗部7a,7bを含む領域である。そして、変形抵抗部7a,7bは、変形吸収部6から柱材11に斜張力が集中するのを回避させる位置に設けられる。すなわち、変形吸収領域とは、変形吸収部6を中心としたより広い変形する領域である。一方、変形抵抗領域とは、変形抵抗部7a,7bを中心としたより広い剛な領域である。
【0036】
本実施形態では、震動エネルギ吸収デバイス1は、フランジ部3及びウェブ部4からなる形鋼と、形鋼のフランジ部3に設けられるハット型のリップ部5と、形鋼のウェブ部4に設けられる変形吸収部6及び変形抵抗部7a,7bとから構成される。この震動エネルギ吸収デバイス1は、2本の柱材11を連結するデバイス本体2、及びデバイス本体2の両端部に設けられた柱接合部13からなる。ここで、「デバイス本体」とは、震動エネルギ吸収デバイス1のうち、地震時等に塑性変形等の変形が発生する部位であり、フランジ部3、ウェブ部4、コーナーアール20を含むリップ部5、変形抵抗部7a,7b、及び変形吸収部6が含まれる。この柱接合部13は、柱材11に沿った上下端に柱材11とは着脱自在に接合される柱補強部14を有する。そして、柱接合部13は、デバイス本体2と柱材11との接合部となる。また、柱接合部13はその上下端に延長された柱補強部14を有する。
【0037】
図1(a),(c)に示すように、震動エネルギ吸収デバイス1の柱接合部13及び柱補強部14には締結孔8が設けられる。そして、震動エネルギ吸収デバイス1は、締結具9により柱材11に固定される。このように柱接合部13及び柱補強部14により、震動エネルギ吸収デバイス1と柱材11とは、簡易な方法により応力が分散されて接続される。さらに、地震等により震動エネルギ吸収デバイス1が塑性化した場合には、簡易な方法により取り換えることができる。
【0038】
本実施形態では、震動エネルギ吸収デバイス1のウェブ部4に設けられた変形吸収部6は円形の開口部であり、デバイス本体2の左右及び上下のそれぞれの中央に設けられる。この変形吸収部6は、地震時等において地震エネルギを変形することで吸収する役目を担う。従って、地震エネルギを的確に吸収する形状や位置であれば、その形状は、円形の開口部に限らず、その位置は、デバイス本体2の左右及び上下のそれぞれの中央に限らない。また、変形吸収部6には、開口部を設けずに、地震エネルギを変形することで吸収する材料を用いて構成しても良い。
【0039】
変形抵抗部7a,7bは、バーリング加工による面外方向に突出したリブを有する円形の開口部である。すなわち、バーリング加工により開口端補強を施した部位である。このバーリング加工とは、板材に設けた孔の内端周りに立ち上がり加工をする加工方法であり、特に、薄板に対して精度よくかつ簡易に加工する場合に採用される。本発明では、このバーリング加工の技術を建築構造材の開口部補強に応用する。すなわち、本発明は、地震時において震動エネルギ吸収デバイス1に地震エネルギを吸収して変形させ、その一部を塑性化させることで構造体の耐力を保持する技術である。従って、震動エネルギ吸収デバイス1の変形吸収領域であるデバイス本体2に設けられる変形吸収部6周りは、地震力等により変形を起こし易い薄板からなることが好ましい。一方、変形抵抗部7a,7bは、地震力等による変形を最小限に抑えて柱接合部の応力集中を回避することを目的とする。従って、薄板に対して開口部補強をすることで地震力等による変形を最小限に抑えることができる。この変形抵抗部7a,7bは、バーリング加工等の開口部補強に限らず、例えば板厚を調整する等、地震力等による変形を最小限に抑える構成であっても良い。
【0040】
次に、図2を用いて震動エネルギ吸収デバイス1が組み込まれた震動エネルギ吸収フレーム10について説明する。図2は、震動エネルギ吸収フレーム10の一つの実施形態の概略構成を示す正面図である。震動エネルギ吸収デバイス1は、壁面に設けられた柱材11及び梁材12からなる震動エネルギ吸収フレーム10の柱材11に取り付けられる。このように、震動エネルギ吸収デバイス1は、柱材11が地震時等において傾くことを利用して震動エネルギを吸収する。従って、震動エネルギ吸収デバイス1は、地震時等において外力に抵抗する構造体であり、かつ地震動等のエネルギを吸収する機構でもある。そして、この震動エネルギ吸収フレーム10には、外側に枠材が取り付けられて窓等が設けられる。本実施形態では、震動エネルギ吸収デバイス1は、柱材11が上下で接続する梁材12の中間部に2か所接続されるが、この配置及び高さ位置には限定されない。
【0041】
図3に、柱材11に取り付けられる震動エネルギ吸収デバイス1の構成を示す。震動エネルギ吸収デバイス1は、形鋼を構成するフランジ部3及びウェブ部4、ハット型のリップ部5、柱接合部13、及び柱補強部14から構成され、両端部の柱材11に接続される。図3に示すように、ハット状のリップ部5は、デバイス本体2のフランジ部3だけではなく、柱補強部14のフランジ部3にも取り付けられる。これにより、震動エネルギ吸収デバイス1は、柱材11の2方向の表面に接続する。また、フランジ部3の隅部においてリップ部5を曲面(R)により連続的に接続する。これにより、震動エネルギ吸収デバイス1は、塑性化するフランジ部3を拘束し、その初期剛性を上げることができる。また、このリップ部5は、フランジ部3の隅部においてコーナアール部20を有して設けられる。このように、フランジ部3の隅部のリップ部5において、コーナーアール29を設けることで変形抵抗領域である柱接合部13の剛性を向上させ、地震時等において発生する変形を変形吸収領域に集中させることができる。なお、震動エネルギ吸収デバイス1は、形鋼であるフランジ部3に溶接等によりウェブ部4及びリップ部5を接続しても良く、フランジ部3、ウェブ部4、及びリップ部5をプレス加工により一体として成型しても良い。
【0042】
図4に、震動エネルギ吸収フレーム10の窓取り付け位置、及び変形抵抗の有無による地震時における柱梁の変形、及び塑性ヒンジの発生位置を示す。柱材11、つなぎ梁17、震動エネルギ吸収デバイス1は、それぞれ線材で示す。また、図4(b)及び図4(c)において、塑性ヒンジ(Pa,Pb)の発生位置を示す。
【0043】
図4(a)に、壁面において柱材11が上下の梁材12に接続する震動エネルギ吸収フレーム10に設けられる壁面開口部16の一つの実施例を示す。この実施例では、壁面開口部16は、柱材11の上端部及び下端部で接続する梁材12から所定の距離だけ離れた高さ位置に設けられる。ブレース材により壁面に震動エネルギ吸収機構を設けた場合には、部材が壁面にX字状に交差するため、壁面開口部16の設計の自由度が低下するが、本発明による震動エネルギ吸収デバイス1では、壁面開口部16の設計の自由度を確保できる。
【0044】
また、図4(b)に、従来のつなぎ梁17が組み込まれたフレームに地震力(F)が作用した場合のフレーム及びデバイスの挙動を示す。従来のつなぎ梁17には震動エネルギ吸収機構が組み込まれていないため、地震時等においてフレームに地震力(F)が作用すると柱接合部13に応力が集中し、図4(b)に示すように、塑性ヒンジ(Pa,Pb)が発生して柱材11が損傷する虞がある。そして、この柱材11の損傷によりフレーム自体が倒壊する虞がある。
【0045】
さらに、図4(c)に、地震時等における震動エネルギ吸収デバイス1に発生する塑性ヒンジ(Pa,Pb)を示す。後述するように、塑性ヒンジ(Pa,Pb)は、震動エネルギ吸収デバイス1の2か所(Pa,Pb)に発生する。そして、2か所(Pa,Pb)の塑性ヒンジ発生点から柱材11までの間は、部材の回転角がほとんど生じない剛域19となる。このように、従来のつなぎ梁17が震動エネルギ吸収デバイス1に置き換えられた場合には、地震時等においてフレームに地震力(F)が作用すると、震動エネルギ吸収デバイス1の内部に塑性ヒンジ(Pa,Pb)が発生することで震動エネルギが吸収される。そのため、柱接合部13には応力集中が発生せず柱材11が損傷する虞はない。そして、このフレーム自体は倒壊に繋がる虞はなくフレームの耐力は保持される。
【0046】
(エネルギ吸収メカニズム)
図5に、震動エネルギ吸収デバイス1に地震力(F)が作用した場合に発生する応力の流れ及び部材の変形を示す。図5(a)は、震動エネルギ吸収デバイス1に変形抵抗部7a,7bが設けられていない場合に発生する応力の流れ及び部材の変形を示す。図5(b)は、地震力等により一方の柱材11aに引張力(T)が作用し、他方の柱材11bに圧縮力(C)が作用した場合を示す。また、図5(c)は、地震力(F)等により双方の柱材11a,11bに引張力(T)及び圧縮力(C)が交番に繰り返して作用した場合を示す。これらの場合には、震動エネルギ吸収デバイス1は、両側の柱材11a,11bに逆向きの軸力である引張力(T)及び圧縮力(C)が作用するため、デバイス本体2には剪断力が発生し、その剪断力による斜張力(D)が生じる。なお、図5(a),(b),(c)に示す斜張力(D)の矢印と同方向に向かう細線は、デバイス本体2の面上に発生する折れ曲がり線を模式的に表した線である。
【0047】
図5(a)に示すように、震動エネルギ吸収デバイス1に変形抵抗部7a,7bがない場合には、斜張力(D)は、デバイス本体2の隅部18と最も断面積の小さな変形吸収部6とを結ぶ線に沿って発生する。そして、図4(b)に示すように柱接合部13の梁端部に塑性ヒンジ(Pa,Pb)が発生する。このため、柱材11a,11bに応力集中が発生し、建物の崩壊に繋がる損傷が発生する虞がある。
【0048】
図5(b)及び図5(c)に示すように、震動エネルギ吸収デバイス1に変形抵抗部7a,7bがある場合には、デバイス本体2の隅部18と最も断面積の小さな変形吸収部6とを結ぶ斜張力(D)は変形抵抗部7a,7bにブロックされ、変形吸収部6と変形抵抗部7a,7bの上下フランジ部3付近とを結ぶ。そして、そのフランジ部3に塑性ヒンジ(Pa,Pb,Qa,Qb)が発生する。このように、図5(c)に示すように、変形抵抗部7a,7bの上下付近のフランジ部3に塑性ヒンジ(Pa,Pb,Qa,Qb)が発生し、この塑性ヒンジ(Pa,Pb,Qa,Qb)が震動エネルギ吸収デバイス1に発生する変形を吸収するため、震動エネルギ吸収デバイス1の両端部に剛域19をもたらす効果を有する。
【0049】
このように、地震力(F)等が本発明に係る震動エネルギ吸収デバイス1に作用した場合、フランジ部3に塑性ヒンジ(Pa,Pb,Qa,Qb)が発生し、震動エネルギ吸収デバイス1の両端部に剛域19が発生する。すなわち、塑性ヒンジ(Pa,Pb)から変形吸収部6へと向かう斜張力(D)が作用する領域が変形吸収領域となり、変形抵抗部7a,7b周り及び剛域19(図4(c)参照)を含む柱接合部13が変形抵抗領域となる。そして、図5(b),(c)に示すように、この変形吸収領域及び変形抵抗領域は、変形吸収部6及び変形抵抗部7の配置で発生する斜張力(D)により設定される。
【0050】
本発明に係る震動エネルギ吸収デバイス1は、地震時において、変形吸収部6を備えることで振動エネルギによる斜張力の一端を変形吸収部6に集中させて変形させ、斜張力(D)の他端を柱接合部13から内部側にずらすことができる。これにより、柱の損傷を回避し、震動エネルギ吸収フレーム10の耐力を保持しながら変形性能を維持できる。
【符号の説明】
【0051】
1 震動エネルギ吸収デバイス、2 デバイス本体、3 フランジ部、4 ウェブ部、5 リップ部、6 変形吸収部、7a,7b 変形抵抗部(バーリング孔)、8 締結孔、9 締結具、10 震動エネルギ吸収フレーム、11,11a,11b 柱材、12 梁材、13 柱接合部、14 柱補強部、16 壁面開口部、17 (従来の)つなぎ梁、18 (デバイス本体及び柱材の)隅部、19 剛域、20 コーナーアール、C,C1,C2 圧縮力、D 斜張力、F 地震力、Pa,Pb,Qa,Qb 塑性ヒンジ、R 曲面T,T1,T2 引張力。
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2016年11月7日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0020】
また、震動エネルギ吸収デバイスは、変形吸収領域が、デバイス本体に設けられる変形吸収部を含み、変形抵抗領域が、面外方向に突出したリブを有する変形抵抗部を含み、変形抵抗部が、変形吸収部から柱材に斜張力が集中するのを回避させる位置に設けられることが好ましい。これにより、地震時等において、デバイス本体の変形吸収部と柱材及びデバイス本体の接合部を結ぶ斜張力の応力伝達経路を変形抵抗部の存在により迂回させて柱材を損傷させない。そして、建物に入力される震動エネルギを確実に吸収することができる。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱材同士を連結し、建物に入力される震動エネルギを吸収する震動エネルギ吸収デバイスであって、
発生する変形を吸収する変形吸収部は、デバイス本体に設けられる開口部を含み
発生する変形に抵抗する変形抵抗部は、面外方向に突出したリブを有する開口部を含み
前記変形抵抗部は、前記変形吸収部から前記柱材に斜張力が集中するのを回避させる位置に設けられることを特徴とする震動エネルギ吸収デバイス。
【請求項2】
請求項に記載の震動エネルギ吸収デバイスであって、前記変形吸収部は、前記デバイス本体の中央部に設けられ、前記変形抵抗部は、前記変形吸収部と前記デバイス本体及び前記柱材の接合部との間に設けられることを特徴とする震動エネルギ吸収デバイス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の震動エネルギ吸収デバイスであって、前記変形抵抗部は、バーリング加工により面外方向に突出したリブを設けることを特徴とする震動エネルギ吸収デバイス。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の震動エネルギ吸収デバイスであって、前記デバイス本体は、フランジ部とウェブ部とから構成され、前記フランジ部には、ハット型のリップ部が設けられることを特徴とする震動エネルギ吸収デバイス。
【請求項5】
請求項に記載の震動エネルギ吸収デバイスであって、前記リップ部は、前記フランジ部の隅部においてコーナアール部を有して設けられることを特徴とする震動エネルギ吸収デバイス。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の震動エネルギ吸収デバイスであって、
前記震動エネルギ吸収デバイスは、前記デバイス本体の前記ウェブ部が取り付く柱材の柱面まで延長された柱接合部を有し、前記柱接合部と前記柱材とは着脱自在に接合されることを特徴とする震動エネルギ吸収デバイス。
【請求項7】
請求項に記載の震動エネルギ吸収デバイスであって、前記柱接合部は、前記柱材に沿った上下端に前記柱材とは着脱自在に接合される柱補強部を有することを特徴とする震動エネルギ吸収デバイス。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の震動エネルギ吸収デバイスを前記柱材に接続する震動エネルギ吸収フレームであって、前記震動エネルギ吸収デバイスは、隣接する柱材間において前記柱材の上端部又は下端部から所定の距離だけ中央部側に離れた位置に設けられることを特徴とする震動エネルギ吸収フレーム。
【請求項9】
請求項に記載の震動エネルギ吸収フレームであって、前記震動エネルギ吸収デバイスは、建物の天井材及び床材とは取り合わず、室内側から前記柱材に取り付け又は取り外し自在であることを特徴とする震動エネルギ吸収フレーム。